当記事は、2016年8月16日に本国版「Oryxブログ」(英語)に投稿されたものを翻訳した記事です。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
シリア・アラブ防空軍はかつてはシリア軍の誇り高い独立軍種でしたが、5年にわたる長い内戦で甚大な被害に遭ってしまいました。
シリア防空軍が保有する多くの地対空ミサイル及びレーダー基地が(シリアを支配すべく戦うさまざまな勢力のために)失われたおかげで防空軍はすでに深刻な打撃を受けていたものの、貧しい財政状況と陸軍及び国防軍(NDF:政権の民兵組織)への人員の転換は致命傷を与えたのです。
今回紹介する画像は、シリア全軍が参加した2012年の大規模演習の際に撮影されたものです。この演習は治安情勢の悪化がますます深刻化している最中に実施されました。この時期は国際社会からリビアに対するような介入の呼びかけにまで至っていたわけですが、シリアはこれに反応して軍に数日間の演習を実施させ、「外の世界」に自国軍の強さを見せつけて牽制したのでした。
「パーンツィリ-S1」と共に運用されている「9K317E "ブーク-M2E"」は、かつてはシリア防空軍の誇りそのものでした。下の画像に見える「9A317」輸送車兼用起立式レーダ装備発射機(TELAR)は、「9S36」目標追跡・ミサイル誘導レーダーを装備しているおけげで独立した運用が可能となっています。
これらの防空システムのいくつかは、ダマスカス周辺及びシリアの沿岸地域に配備されています。
2007年にデリゾールにある原子炉と疑われる建造物へのイスラエルによる爆撃後、ロシアから最新の防空装備が到着したことは大いに期待されたものの、新しく到着した「ブーク-M2E」や「パーンツィリ-S1」、そして「ペチョーラ-2M」はイスラエル機を撃墜できないとして置き換えられた旧式の防空システムと大差ないと思われているようです(注:新装備の割には戦果がゼロということ)。
下の画像では、「9M317」ミサイルが「9A316」輸送起立発射機(TEL)から射出され、勢いよく飛行を開始された状況が映し出されています。
「9A316」にはレーダーの代わりに4発の再装填用ミサイルが搭載されているため、独立して運用することができません。
通常の状況下では「ブーク」大隊は6両のTELARと3両のTEL、つまり3個中隊(各中隊に2両のTELARと1両のTEL)で構成されています。各大隊には標的獲得レーダー、指揮車両及びより多くの再装填用ミサイルを運ぶトラックも含まれています。
下の画像は、「パーンツィリ-S1」が12発も搭載する「57E6」地対空ミサイルの1発を発射した瞬間です(写真)。
2012年の演習では、シリアが「9K35 "ストレラ-10"」を運用していることが初めて確認されました。
同システムの発射機については4装の派生型が一般的で、シリアの至る所で見つけることができます。2連装発射機は主にダマスカス周辺に集中して配置され、このうち1基のミサイル陣地が2012年にイスラーム軍によって制圧されました。
このシステムはベラルーシの「MZKT-8022」に2連装の「S-125」発射機ランチャーを組み合わたものであり、敵の航空機や巡航ミサイルに対して大幅に生存性を向上させたものです。「ペチョーラ」-2Mを配備しているいくつかの陣地はダマスカス周辺及びシリアの沿岸地域で確認されていますが、敵に与える心理的効果(抑止)を維持するために異なる場所へ頻繁に転換しています。
下の画像では、「9K33 "オーサ"」SAMシステムから2発の「9M33」ミサイルが煙を上げて発射されています(写真)。
シリアはすでに80年代にレバノンで「9K33」を運用していたが、注目を浴びたのは2012年にイスラーム軍が東グータで数台を鹵獲した後のことでした。敵の手に落ちた「9K33」については、後にイスラーム軍の支配領域の上空を飛行するシリア空軍ヘリコプターと交戦するために使用されており、未だに運用が続いています(注:2018年4月の時点で全てを喪失したことが確認されました)。
実際、このシステムはすぐに「死の三本指」というニックネームを得て非常に恐れられたのです。ただし、シリア軍での運用では成功例は極めて限られています。それよりも、1982年のレバノンのベッカー高原における「モール・クリケット19」作戦と過去数年間のシリアへのイスラエル空軍の襲撃の際に、(防空軍と空軍と一緒に)イスラエル軍機に完全に敗北してしまったことの方が知られています。
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