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2023年7月9日日曜日

フォトレポート:リビア国民軍・ハフタル将軍最後の閲兵式


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事で紹介する画像は、2021年5月29日にベンガジのベニナ空軍基地で行われたリビア国民軍(LNA)の「尊厳作戦」開始7周年記念の閲兵式で撮影されたものです。

 ハリーファ・ハフタル将軍が率いる軍閥であるLNAは新たに樹立された国民統一政府(GNU)の一員として国民合意政府(GNA)の勢力と合流することになっていたにもかかわらず、トブルクに拠点を置く代表議会(HoR)は2021年9月に統一政府に対する不信任案を可決してしまいました。

 その後、ハフタル将軍は2021年12月のリビア大統領選挙への出馬を表明しましたが、情勢の悪化などで延期され2022年8月時点でも実施の見通しは立っていません

 昨年5月の閲兵式は、LNA(すなわちハフタル将軍)の強大さを国内外にアピールすることを目的に行われたものであることは言うまでもないでしょう。この閲兵式で、LNAはカダフィ時代のリビア軍から受け継いだり、革命後にロシア・UAE・ヨルダン・エジプトから供与された多種多様な装備を披露しました。[1]


パレード中の兵士や車両の画像はこちらで、パレード全体の映像はこちらで視聴可能です

9K31「ストレラ-1」 (NATOコード: SA-9「ガスキン」)地対空ミサイル(SAM)システム



1S91 "SURN" レーダーと2K12 "クーブ"  (NATOコード: SA-6 "ゲインフル") SAMシステム


ロシアから供与された「P-18 "スプーン・レストD」」レーダー。 同システムは当初アル・ジュフラ空軍基地に置かれてPMC「ワグネル」によって運用されていたものです。



「LRSVM "モラヴァ"」 多連装ロケット砲は 107mmと122mmのロケット弾ポッドを同時に装備可能なシステムです。 「モラヴァ」はUAEがセルビアから購入して、2020年にLNAに引き渡されました。


BM-21「グラード」122mm多連装砲はウラル-375D (旧型) と ウラル-4320 (新型) トラックに搭載された2種類が登場しました。


2S1「グヴォジカ」122mm自走榴弾砲


南アフリカ製「G5」榴弾砲は2020年にUAEがLNAに供与したものです。





1段目:「M-30」122mm榴弾砲 (2017年にロシアから引き渡し)。2段目:北朝鮮の122mm野砲。4段目: 「M-46」130mmカノン砲。これらはいずれもロシアから供与されたカマズ製「6x6」トラックに牽引されて登場しました。


「D-30」122mm榴弾砲


 2台のT-72M1戦車:前から2台目は2011年の革命前に「ゼネラルダイナミクスUK」社によって無線システムのアップグレードが図られた数少ないT-72のうちの1台です。


T-72 "ウラル"


ロシアから引き渡されたT-62MV: 少数のT-62MとT-62MVが2020年にLNAへ供与されました。


T-55A (前) とエジプトから供与されたT-55E (後ろ)


T-55A(左) とT-62 "1972年型" (右)


ZSU-23 "シルカ" 23mm自走対空砲


KMT-5M地雷原処理ローラー装備型のT-55とVT-55KS装甲回収車


MT-LBu汎用装軌装甲車(指揮通信車型)



ヨルダンから供与された「アル・マレード」装甲兵員輸送車と「アル・ワフェイシュ」歩兵機動車(IMV)


4台のGAZ「ティーグル-M」:PMC「ワグネル」が用いるためにリビアへ持ち込まれましたが、後にLNAに寄贈されました。 いずれもSGMB重機関銃で武装しています。


手前はUAEから供与されたMSPV「パンテーラT6」 IMV。その後に同国から得た数種類のIMVが続きました。UAEは2014年から2020年までの期間に少なくとも12種類のIMVをLNAに供与しています。


ジープ「ラングラー」 と形式不明のATV(全地形対応車)






 LNAのR-17「スカッドB」は支援車両と共に登場しましたが、メインステージの前でクレーン車が故障するという残念な事態が発生してしまいました。ちなみに、「スカッドB」は2022年3月の演習で実際に試射され、LNAの弾道ミサイル運用能力が誇示されました。


これらの複合艇 (RHIB) は2013年にフランスの軍用ボート企業「スィリンジャー」社へ発注したものです。


ミラージュF1AD戦闘爆撃機 (左)とミラージュF1ED戦闘機 (右):スペアパーツが欠乏しているため、これらのミラージュは軍事パレードなどの特別な日にしか飛ぶことができません。


墜落する直前に撮影されたMiG-21bis「698番機」:名パイロットであるジャマル・ビン・アメル准将はこの事故で殉職しました。



閲兵式で展示飛行中のAS332L「スーパープーマ」(上段):これらは後に軍用の迷彩塗装が施されました(下段)。このヘリコプターはいずれも南アフリカからPMC「ランカスター6」によって入手されたものです。



会場をフライパスする3機のSu-24M戦闘爆撃機:もともとリビアでPMC「ワグネル」が使用するため、2020年に数機のMiG-29戦闘機と共にロシアから供与されたものです。

[1] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html

※  当記事は、2022年8月27日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



2017年3月8日水曜日

フォトレポート:シリア・アラブ陸軍(2)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2017年2月28日に本国版「Oryxブログ」(英語)に投稿されたものを翻訳した記事です。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 シリア国防省がついに21世紀のメディア技術を取り入れたため、今ではHD画像が公式サイトとツイッターアカウントに定期的にアップロードされています。

 この「大いなる」躍進にもかかわらず、シリア国防省が依然として外の世界にアラビア語のみでしか情報を発信しないため、(もしそうでなければシリアの戦場で継続中の戦闘に関する声明を読んだり観たりすることに興味があるだろう)多くの視聴者や読者をシャットアウトしているのが実情です。

 それでもなお、公開された画像は私たちに別の「フォトレポート」のための絶好のチャンスを与えています。今回の記事では、こうした画像を紹介していきます。

 下の画像は、シリア・アラブ防空軍(SyAADF)の「パーンツィリ-S1」です。過去10年間に相当数の現代的な地対空ミサイル(SAM) がシリアに届けられましたが、内戦中にも引き渡しが続けられています。

 「S-300PMU-2」、「ブーク-M2」、「ペチョーラ-2M」と「パーンツィリ-S1」の導入によるSyAADFの完全なリニューアルが本来は2000年代の間に計画されていたものの、最初の引渡しが延期され、結局はキャンセルされたと考えられています(注:リニューアルとは言えませんが、最終的には先に紹介したSAMは全種類が納入されました)。

 2014年からイラクに引き渡されているタイプに似た、より高度なバージョンの「パーンツィリ-S1」が最近になってSyAADFにも導入されたことが確認されています。


 下の画像は、シリア軍の「T-72AV "TURMS-T (Tank Universal Reconfiguration Modular System T-series)"」で、FCSを強化するため、2000年代にイタリアのガリレオ・アヴィオニカによって改修された型です。

 興味深いことに、 単に「T-72AV」や「T-72M1」をTURMS-T規格に改修するだけではなく、シリア軍はこの改修計画に「T-72  "ウラル"」も含めることを決定したようです。事実、「T-72  "ウラル"」と「T-72M1」はTURMS-T規格のパノラミックサイトが搭載された「T-72」の大部分を占めています。

 全車をパノラミックサイト付きのTURMS-Tを装備した「T-72」へ改修することは高価すぎると見なされていたせいか、限られた量の「T-72」しかこの改修を受けることができなかったようです。あまり高度ではない「T-72」のタイプがこのパノラミックサイトを装備できた理由については、今でも分かっていません。


 下の画像は、発射機から撃ち出された「ボルケーノ」ロケットです。これらのロケットは、直撃によって居住区画を完全に破壊できる火力を有することでよく知られるようになり、2013年のアル=クサイルでの戦いで大きな決め手となりました。

 「ボルケーノ」は標準的なロケット弾と口径より一段と太い弾頭を一組にして大幅に致死性を高めたことと引き換えに、射程距離と精度が低下していることが特徴です。2013年頃から「ボルケーノ」の量産ペースが向上し、現在では同種のロケット弾がシリアの戦場のほぼ全ての戦線で使用されています。

 シリアでは「ボルケーノ」が3回の開発サイクルを経て生産されていると考えられており、さらにそれぞれいくつかの派生型に分かれています。107mmと122mmベースの「ボルケーノ」が最も普及したタイプですが、220mmベースのタイプも存在します。

 シリアでは107mmと122mmロケット弾が極めて一般的なものであることから、これらのロケットを「ボルケーノ」へ転換することは比較的容易です。ちなみに、220mmロケット弾はシリア国内で生産されていることが知られています



 下の画像の「BMP-1」は依然としてシリア軍における歩兵戦闘車(IFV)の保有リストの大部分を占めていますが、最近のロシアによるさらなる「BMP-1」と「BMP-1P」の供与があったことを踏まえると、この優位が変わる可能性は低いでしょう。

 「BMP-1」のパッとしない武装や薄い装甲防護力の問題はシリア内戦の間に痛いほど明らかとなっているものの、これらの能力を向上させる目的でアサド政権側が実施した改修はほとんど確認されていません。

 いくつかの部隊は「コンタークト1」爆発反応装甲(ERA)を車体と砲塔に追加することによって「BMP-1」の装甲を補強しようと試みたことが確認されています。砲塔の装甲は「コンタークト1」との適合に十分なほど強力ではありますが、紙のように薄い車体の装甲はERAの爆発に耐えられずに装甲の薄い層を粉砕し、結果敵に内部の人員に大きな怪我を負わせる可能性が高いというリスクがあります(注:砲塔はERAの爆発に耐えることができるが、車体は装甲が薄すぎてERAの爆発に耐えることができないということ)。


 下の画像の「T-72 "ウラル"」は、シリア軍で運用されている「T-72」の中で最も古いタイプです。かつて、ハーフィズ・アル=アサド前大統領によって「世界最高の戦車」と言われていましたが、今日ではその大きな弱点で有名です。実際、多くの動画では、敵弾の命中後に激しい爆燃が発生して砲塔が壮大に吹き飛ばされる様子が映されています。


 シリア内戦では、シリアを支配すべく戦う多くの勢力が使用する大量の「AK」タイプのライフルを目にする一方で、「PK」タイプの機関銃の拡散は見落とされがちでした。

 「PK」及び「PKM」は未だにシリアにおける汎用機銃の大半を占めていますが、過去数年間にいくつかの派生型がシリアの戦場に登場したことが確認されました。この派生型にはロシアの「PKP ペチェネグ」北朝鮮の「73式軽機関銃」が含まれます。

 後者についてはイラン由来のもので、イラン・イラク戦争中に北朝鮮から購入したものです。イランが独自のPK・PKMタイプの機関銃を生産し始めた後に73式はすぐに保管され、最終的にはイラク、シリア、イエメンのシーア派民兵組織の手に渡ったのでした。


 下の画像では、まだ綺麗な状態の3両の「T-72AV」がシリアの荒廃した街中を通り抜けています。

 「T-72AV」は装甲防御力が大幅に改善されているものの、装着されている「コンタークト1」では、より強力なロケット推進擲弾(RPG)と対戦車ミサイル(ATGM)に対しては完全に防護できないことが判明しています。それに加えて、サイドスカートにおけるERAの支え自身が命中するRPGの爆発に耐えるにはあまりにも脆弱であることが確認されています。ときには1回の命中でサイドスカート全体の落下を引き起こすことがあったほどでした。



 下の画像は、「コンタークト1」ERAをすべて取り除かれたシリアの「T-72AV」という非常に稀なものです。この画像は上に見られるようなERAを完全に装着した「T-72AV」との素晴らしい比較を可能にさせてくれます。

 この戦車は訓練部隊によって運用されている可能性が高く、そのERAは前線での実戦部隊で使用されるT-72AVのために取り外されたのでしょう。確かにその方がERAを有効活用できていると言えます。


 下の画像は、演習中におけるシリアのコマンドー部隊です。

 シリア内戦がまさに6年目に入ろうとしているにもかかわらず、これらの部隊によって行われた特殊作戦については全く知られていません。その代わり、ほとんどのシリアの「コマンドー」はシリア軍とNDF(国防軍:政権側の民兵組織)と一緒に通常の歩兵として投入されていると考えられています。

 彼らはコマンドー専用のパッチによって他の部隊と容易に識別することが可能ですが、赤色のベレー帽を着用している姿をめったに見ることはできません。



 シリア内戦でのATGMの拡散は、ロシア製「T-90」や米国製「M1 "エイブラムス"」、さらにはドイツ製「レオパルト2」の装甲防御力を試すのに十分な機会をもたらしました。

 トルコがシリアの戦場に「M60T」と「レオパルト2A4」を配備して北シリアへの介入を強化したことで、シリア内戦は(世界で最も新しい)戦車と装甲の改修のための完璧なテストの場と化したのです。
 
 かつて、「M1 "エイブラムス"」はほとんど貫通が不可能と考えられていたが、イスラミック・ステートによる「9M133 "コルネット"」ATGMによって撃破される状況が散見されました。同様に、トルコの「レオパルト2A4も」シリア北部への短期間の展開中に(主に採用されていた貧弱な戦術のおかげで)ATGMの犠牲になっています。

 「T-90A」の装甲防御力はシリアでの戦闘中にもテストされている一方で、壊滅的な弾薬の爆燃はまだ見られていません。


 シリア内戦では「T-72」が最も注目を集めていますが、下の画像の(依然として運用されている)「T-62」と「T-55」戦車シリーズはシリアの機甲部隊の大半を占め続けています。実際、シリア軍に新しく設立された第5軍団は、最近になってロシアからT-62Mを受領し始めました。

 最近のロシアからの機甲戦力の流入については、既に過去2年間で「T-90A」、「T-90」、「T-72B(1989年型)」、「T-72B」、「BMP-2」、「BMP-1(P)」が確認されています。


 下の画像では、シリア軍兵士が守備位置で小火器の照準を合わせています。

 内戦直前に大量の中国製ヘルメットとボディアーマーが中国から調達されたものの、シリア軍はこの新しく支給された装備をすぐに使い果たしてしまいました。
 
 いくつかの部隊は倉庫に備蓄されていたものを見つけ次第何でも再装備していたようですが、他の部隊はより装備に乏しかったり、またはスクーア・アル=サハラ(駐:政権側の民兵組織)のように自身の制服と装備自体が自己負担になったと思われるケースもあります。その結果として、今日の戦場では豊富な種類の制服と装備が見られるようになりました。





 下の画像は、アレッポの下町を通り抜ける「T-72M1」です。2012年以来大激戦が繰り広げられたこの都市へのアサド政権の影響力は、かつてはもうあまり長くはないと思われていました。

 包囲され、あらゆる側面から攻撃されたシリア軍は、最初は残った領域を強固にしようと試み、その後の攻勢は政権のために局面を変える重要な鍵となったのでした。あらゆる見込みに反して、アレッポはその4年後にシリア軍によって完全に奪還され、反体制派へ致命的な打撃を与えたのです。

 下の画像は、ダマスカスにある無名戦士の墓:戦死した兵士の碑です。モニュメントのドームは宇宙を象徴し、その上のアーチは勝利を象徴しています。

 ドームの両側には2つの節(クルアーン:169,170)が書かれている。
وَلَا تَحْسَبَنَّ الَّذِينَ قُتِلُوا فِي سَبِيلِ اللَّـهِ أَمْوَاتًا بَلْ أَحْيَاءٌ عِندَ رَبِّهِمْ يُرْزَقُونَ﴿١٦٩﴾ فَرِحِينَ بِمَا آتَاهُمُ اللَّـهُ مِن فَضْلِهِ وَيَسْتَبْشِرُونَ بِالَّذِينَ لَمْ يَلْحَقُوا بِهِم مِّنْ خَلْفِهِمْ أَلَّا خَوْفٌ عَلَيْهِمْ وَلَا هُمْ يَحْزَنُونَ ﴿١٧٠﴾ (آل عمران: 169، 170) アッラーの御為に殺された人たちを決して死んだものと思ってはならないぞ。彼らは立派に神様のお傍で生きておる、何でも充分に戴いて。
あの人たちはアッラーが授けて下さったお恵みに感激し、またいまだ彼らのところまでは来ていないが、後からついて来ている人たちのためにも大いに喜んでおる。もうそういう人たちには何も恐ろしいことはないのだし、悲しむこともないのだから。(クルアーン:169,170)

 
2025年前半に改訂・分冊版が発売予定です

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