著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
ナゴルノ・カラバフの戦場に散乱している破壊された地対空ミサイル(SAM)システムの残骸がくすぶっている中で、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でドローンの手にによる破壊から逃れた思われる注目すべき不在者:9K37M1-2「ブークM1-2」がいました。
実際、「ブークM1-2(NATO呼称:SA-11"ガドフライ”)」はアルメニア軍が保有する最も現代的で有能なSAMの1つですが、激しかったあの44日間戦争で何の役割も果たしていないように見えました。
これらについて、当初はアルメニア軍のほとんどがアルメニア国内の基地からナゴルノ・カラバフに入るまで、新たに導入した「トールM2KM」の大半と共に出撃を差し控えていたものと信じられていましたが、戦争の初期の時点ですでに「トール」が初めて目撃されていたことは「ブーク」が戦闘に投入されていないことを強く示唆しました。
「バイラクタルTB2」や「ヘロン」のようなUAVが飛行する高度に到達できる数少ないSAMの1つとして、戦場における「ブーク」の不在は戦争の全期間にわたって確かに感じられました。
アルメニアにおける「ブーク」の運用歴については全く知られていません。実際、2016年にアルメニアが独立25周年記念の軍事パレードを実施していなければ、同国による「ブークM1-2」の導入は完全に不明のままだったでしょう。
2010年代前半から半ばのどこかで、アルメニアは「ブーク」を当時はまだ運用中だった老朽化した2K11「クルーグ(NATO呼称:SA-4)」や2K12「クーブ (NATO呼称:SA-6)」を補完・後に置き換えるために入手したと考えられています。
しかし、数多く存在したアルメニアの防衛プロジェクトと同様に資金不足がシステムの追加購入を妨げ、最終的にアルメニアは各3基の発射機を装備した2個中隊分の「ブーク」しか導入できませんでした。
2016年のエレバンにおけるパレードに登場した「ブーク-M1-2」の輸送車兼用起立式レーダ装備発射機(TELAR)。 これらのシステムがアルメニアで目撃された例はこれが唯一です。 |
アルメニアが限られた資金で数少ない「ブーク」システムを戦闘可能な状態に維持することに専念していたと現実的に予想することはできたものの、真実は全くの正反対だったようです。
2020年9月27日に武力衝突が勃発した後のアルメニアにあった稼働状態にある「ブークM1-2」発射機は1基のみで、残りの5基はアルメニアの乗員が修復不可能なレベルの技術的な不具合を抱えていたという特異な状態下にあったようです。[1]
これらの不具合がアルメニアでの運用期間の全体を通してシステムを苦しめ続けていたというのはもっともらく思われるものであり、存在自体を疑いたくなるほど「ブーク」が国内での軍事演習で一度も目撃されたことはありませんでした。
アルメニア軍は即座に急いで5基の不稼動状態にある「ブーク」を運用に戻すため、10月10日までにロシアの修理チームと修復作業に関する契約をしました。[1]
これまでにナゴルノ・カラバフ戦争での「ブーク」の目撃例はなく(対照的に「トール」SAMが戦争中に運用されている映像は多数存在しています)このSAMが使用する「9М38(M1)」ミサイルの残骸も今まで地上で発見された事例がないことから、ロシアチームの努力は結果的に無駄に終わったという結論を出すことができます。
少なくともアゼルバイジャンのTB2に(僅かにでも)勝つ見込みのある数少ない最新のSAM6基が戦争の全期間を倉庫での保管に費やされていたという事実は、自身がアゼルバイジャンの無人機戦を受ける側であることに気づいたアルメニアの兵士たちを失望させたに違いありません。
アルメニア軍はナゴルノ・カラバフ戦争を特徴づけた無人機戦に不意を突かれてしまったと、しきりに非難されてきました。
しかし、多くの人が思っていることとは逆に、これは事実ではありません。なぜならば、「ブーク」や「トール」といった最新のSAMシステム、ロシアの「レペレント-1」、「アフトバザ-M」、そして「ボリソグレブスク-2」電子戦システムや電子光学装備をさまざまなサプライヤーから購入したことで、アルメニアには市場で最も現代的なロシアのシステムがもたらされていたからです。
これらのシステムを組み合わせた戦力が戦闘という状況下で期待に応えることに失敗した事実についてアルメニアのせいにすることはできませんが、その代わり、無人機とそれに対抗するために設計されたシステムの間に能力のギャップが広がっていることを示しています。
アルメニアのIADS(統合防空システム)は(75台の9K33「オーサ」を含む)あらゆる射程の旧式及び現代的なSAMシステムを多重に取り入れており、最新のMANPADS、SPAAG(自走対空砲)、対空砲、そしてデコイによってバックアップされていました。
9K33のようなシステムに依存し続けたことについては戦中も戦後も厳しく批判されましたが、この国は21世紀に妥当な旧式化したシステムを維持するための絶え間ない投資を行っていました。
2020年1月、アルメニアはヨルダンから2700万ドル(約30億円)で購入した35台の9K33「オーサ-AK」システムの一部を披露しました。[2] [3]
これらはアルメニアでも運用されている「オーサ-AKM」よりも古いバージョンですが(したがって、ごく僅かしか戦力の向上に寄与しませんが)、これらのシステムは独自にアップグレードされることになりました。この偉業は、その調達価格が非常に低かったおかげで実現可能となったのです。
9K33「オーサ」の運用と保守を数十年にわたって行経験してきたため、アルメニアはその間にこれらのシステムを自身でオーバーホールやアップグレードする能力を得ていました。それに比べると、「ブークM1-2」は技術的により複雑で維持するための費用も多くかかり、限られた数しか導入されませんでした。
アルメニア軍にとって、9K33に依存し続けることについては少しも選択の余地があるような事柄ではありませんでした。彼らは単にアルメニアの限られた技術的能力と財政事情によって必要とされたにすぎなかったわけです。
短期間の戦争中におけるアルメニアの乏しい戦いぶりを批判的に分析することは理にかなったことであり、実際に現代の紛争を理解するためには必要不可欠なことですが、限られた予算と向かい合って問題を解決しようとした試みを無意味なものとして簡単に 片付けるべきではありません(彼らにとってはそうではなかったからです)。
もちろん、だからといってアルメニア政府が軍事的な大惨事とその大半が10代後半から20代前半である約4,000人の兵士の痛ましい死の責任から免れるという意味ではありません。
自国の軍部が慢性的な資金不足に陥っていた時期に、アルメニア政府はアゼルバイジャンに対する抑止力として、ロシアから6機のSu-30SM多用途戦闘機を購入するのに数億ドル(数百億円)も費やしました。これらの極めて重要なアセットがただの一度も実戦に投入されなかったため、パシニャン首相はSu-30SMがこの戦争で戦闘に加わらなかった理由について何度も嘘をつくことを余儀なくされました。
(少なくともアルメニアのような小国にとって)最大で12機のSu-30SMの導入・運用とそれに関連する法外なコストについては、偵察用無人機や徘徊兵器のような実際にアルメニア軍に利益をもたらすであろう装備に向けた方がまだ賢明だったかもしれません。
アルメニア軍は即座に急いで5基の不稼動状態にある「ブーク」を運用に戻すため、10月10日までにロシアの修理チームと修復作業に関する契約をしました。[1]
これまでにナゴルノ・カラバフ戦争での「ブーク」の目撃例はなく(対照的に「トール」SAMが戦争中に運用されている映像は多数存在しています)このSAMが使用する「9М38(M1)」ミサイルの残骸も今まで地上で発見された事例がないことから、ロシアチームの努力は結果的に無駄に終わったという結論を出すことができます。
少なくともアゼルバイジャンのTB2に(僅かにでも)勝つ見込みのある数少ない最新のSAM6基が戦争の全期間を倉庫での保管に費やされていたという事実は、自身がアゼルバイジャンの無人機戦を受ける側であることに気づいたアルメニアの兵士たちを失望させたに違いありません。
アルメニア軍はナゴルノ・カラバフ戦争を特徴づけた無人機戦に不意を突かれてしまったと、しきりに非難されてきました。
しかし、多くの人が思っていることとは逆に、これは事実ではありません。なぜならば、「ブーク」や「トール」といった最新のSAMシステム、ロシアの「レペレント-1」、「アフトバザ-M」、そして「ボリソグレブスク-2」電子戦システムや電子光学装備をさまざまなサプライヤーから購入したことで、アルメニアには市場で最も現代的なロシアのシステムがもたらされていたからです。
これらのシステムを組み合わせた戦力が戦闘という状況下で期待に応えることに失敗した事実についてアルメニアのせいにすることはできませんが、その代わり、無人機とそれに対抗するために設計されたシステムの間に能力のギャップが広がっていることを示しています。
韓国と共同開発した「Shumits」のような電子光学システム(画像)は、結果として2020年のナゴルノ・カルバフ戦争では無人機に影響を与えることができませんでした。 |
アルメニアのIADS(統合防空システム)は(75台の9K33「オーサ」を含む)あらゆる射程の旧式及び現代的なSAMシステムを多重に取り入れており、最新のMANPADS、SPAAG(自走対空砲)、対空砲、そしてデコイによってバックアップされていました。
9K33のようなシステムに依存し続けたことについては戦中も戦後も厳しく批判されましたが、この国は21世紀に妥当な旧式化したシステムを維持するための絶え間ない投資を行っていました。
2020年1月、アルメニアはヨルダンから2700万ドル(約30億円)で購入した35台の9K33「オーサ-AK」システムの一部を披露しました。[2] [3]
これらはアルメニアでも運用されている「オーサ-AKM」よりも古いバージョンですが(したがって、ごく僅かしか戦力の向上に寄与しませんが)、これらのシステムは独自にアップグレードされることになりました。この偉業は、その調達価格が非常に低かったおかげで実現可能となったのです。
9K33「オーサ」の運用と保守を数十年にわたって行経験してきたため、アルメニアはその間にこれらのシステムを自身でオーバーホールやアップグレードする能力を得ていました。それに比べると、「ブークM1-2」は技術的により複雑で維持するための費用も多くかかり、限られた数しか導入されませんでした。
アルメニア軍にとって、9K33に依存し続けることについては少しも選択の余地があるような事柄ではありませんでした。彼らは単にアルメニアの限られた技術的能力と財政事情によって必要とされたにすぎなかったわけです。
短期間の戦争中におけるアルメニアの乏しい戦いぶりを批判的に分析することは理にかなったことであり、実際に現代の紛争を理解するためには必要不可欠なことですが、限られた予算と向かい合って問題を解決しようとした試みを無意味なものとして簡単に 片付けるべきではありません(彼らにとってはそうではなかったからです)。
ヨルダンから2700万ドルの安売り価格で購入した9K33「オーサ」システム35基のうちの4基。これらと比較すると、同じ金額では「トール」システムを2基しか購入できません。 |
もちろん、だからといってアルメニア政府が軍事的な大惨事とその大半が10代後半から20代前半である約4,000人の兵士の痛ましい死の責任から免れるという意味ではありません。
自国の軍部が慢性的な資金不足に陥っていた時期に、アルメニア政府はアゼルバイジャンに対する抑止力として、ロシアから6機のSu-30SM多用途戦闘機を購入するのに数億ドル(数百億円)も費やしました。これらの極めて重要なアセットがただの一度も実戦に投入されなかったため、パシニャン首相はSu-30SMがこの戦争で戦闘に加わらなかった理由について何度も嘘をつくことを余儀なくされました。
(少なくともアルメニアのような小国にとって)最大で12機のSu-30SMの導入・運用とそれに関連する法外なコストについては、偵察用無人機や徘徊兵器のような実際にアルメニア軍に利益をもたらすであろう装備に向けた方がまだ賢明だったかもしれません。
仮に「ブーク-M1」があの戦争に投入されたとしても、ナゴルノ・カラバフ上空におけるアゼルバイジャンによるUAVの運用を僅かに困難にさせるだけで、少しもその目的(撃墜)を達成できなかった可能性があります。実際、「ブーク」自体の少なさを考慮すると、(最低でも1基の「トール」SAMで起こったように)彼らはすぐに自身を発見・破壊するために送り出された徘徊兵器や「バイラクタルTB2」の犠牲になっていたでしょう。
実際のところ、TB2はシリアで「ブーク-M2(NATO呼称:SA-17 "グリズリー")」として知られている最新バージョンとの戦闘とミサイルからの回避に成功しているため、「ブーク」はTB2にとって新手の脅威ではありません。
それにもかかわらず、「ブーク」はアルメニアで最も現代的なSAMシステムの1つである(44日間戦争での過酷な戦力の消耗後に最も数の多いシステムの1つにもなっている)ことから、軍はこのシステムの稼働状態を維持するための投資するしか選択の余地がなく、今後何年も使用される可能性があります。
とにかく 、彼らは技術的に高度な武装が戦場での高度な能力を保証するものではないということを、強烈に思い出させてくれるものとして役立つはずです:効果的に展開できない抑止力は、宣戦布告されると即座にその価値を喪失してしまうのです。
実際のところ、TB2はシリアで「ブーク-M2(NATO呼称:SA-17 "グリズリー")」として知られている最新バージョンとの戦闘とミサイルからの回避に成功しているため、「ブーク」はTB2にとって新手の脅威ではありません。
それにもかかわらず、「ブーク」はアルメニアで最も現代的なSAMシステムの1つである(44日間戦争での過酷な戦力の消耗後に最も数の多いシステムの1つにもなっている)ことから、軍はこのシステムの稼働状態を維持するための投資するしか選択の余地がなく、今後何年も使用される可能性があります。
とにかく 、彼らは技術的に高度な武装が戦場での高度な能力を保証するものではないということを、強烈に思い出させてくれるものとして役立つはずです:効果的に展開できない抑止力は、宣戦布告されると即座にその価値を喪失してしまうのです。
[1] Армения потеряла четыре из шести размещенных в Карабахе зенитных ракетных комплексов Тор-М2КМ https://diana-mihailova.livejournal.com/5844055.html
[2] Jordan to sell Osa SAMs https://web.archive.org/web/20171104074342/http://www.janes.com/article/75246/jordan-to-sell-osa-sams
[3] Armenia Shows Off New Osa-AK Air Defense Missiles https://militaryleak.com/2020/01/06/armenia-shows-off-new-osa-ak-air-defense-missiles/
※ 当記事は、2021年10月2日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
あります。
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