2022年1月27日木曜日

ジャングルにようこそ!:コンゴ民主共和国におけるウクライナの「T-64B1M」戦車



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ウクライナが販売した兵器は世界中の多くの軍隊の保有リストの中で広く行き渡っており、予算内で軍隊を活性化させようとする国家にとって、この国は兵器の供給源として頼りになる存在であり続けています。

 ソ連から引き継いだ膨大な数の余分な装甲戦闘車(AFV)や航空機、艦艇だけでなく、兵器と同様に重要な、これらの装備をオーバーホールやアップグレードでサポートする軍需産業を保有しているため、ウクライナの兵器はアフリカやアジアの国々に特に人気があります。これらの理由から、この国の軍産複合体は特にこの輸出市場に応じるために努力の大半を集中してきました。

 しかし、ウクライナがすぐに気付いたように、外国の関心の大部分は新たに生産された兵器や戦車といった装備の複雑な改修プロジェクトではなく、オーバーホールされた中古装備に向けられていました。どうやらウクライナ側はそれらの製品の市場が依然として十分に存在すると判断していたよらしく、輸出先を見つけるという僅かな希望の中で多数のAFV改修プロジェクトが立ちあげられましたが、そのほとんどが無駄に終わったことはよく知られています。

 極めて稀な成功例としては、2013年にコンゴ民主共和国(旧ザイール:コンゴ共和国との混同を避けるため、以下はDRコンゴと表記)との間で50台の「T-64」戦車を引き渡すという契約を締結したことがあります。納入される前に、これらの戦車は大規模なオーバーホールを受けて「T-64B1M」規格にアップグレードされました。

 「T-64B1M」は、砲塔への「ニージュ」爆発反応装甲(ERA)の装着と追加のERAタイルをサイドスカートと(トップアタック型対戦車ミサイルの脅威から戦車を守るため)砲塔上部へ装着することによって、戦車の防御力の向上に重点を置いた「T-64B1」の改良型です。さらに、砲塔の後部に追加されたバスルは弾薬などの収納スペースを大幅に拡張させます。

 しかし、それ以外の点ではほとんど改善が図られていないことが明らかであり、1970年代の射撃統制システムには変更が加えられていません。

 結果としてもたらされた「T-64B1M」のスペックはウクライナ陸軍で使用されているT-64BM「ブラート」とほぼ同じですが、より初歩的な射撃統制システムのままのおかげで砲発射型対戦車ミサイル(GLATGM)の発射能力を備えていません。



 DRコンゴがすでに自国軍で運用されている「T-72(AV)」の追加よりも機械的に複雑な「T-64」の導入を決定した理由は不明であり、技術力で知られているかは定かではない軍隊を持つ国にとって、これは完全に奇妙な選択です。

 異なる設計のエンジンや互換性のない部品を使用した全く新しいタイプのMBTを導入することは、特に(消耗が激しく、十分なスペアパーツがいつも入手できるとは限らない可能性がある)過酷なジャングルでの状況下では、この国と軍隊が持つ、ただでさえ脆弱な物流システムをさらに複雑なものにしてしまいます。

 しかし、彼らの兵站面での欠点はあまりにも信じがたい購入価格によって相殺される予定でした。実際、DRコンゴが支払った定価はアップグレードされた戦車1台につき、たった20万ドル(約2,200万円)でした:50台のT-64を発注したので、合計で1,000万ドル(約11億円)を支払ったことになります。[1] 

 これを日本の自衛隊が2010年に13台の「10式戦車(新品)」を発注した際と比較してみると、その価格は1台あたり870万ドル(約9.5億円)という桁外れのものでしたので、DRコンゴが支払ったT-64がいかに安価だったのかが一目瞭然です。[2]

 DRコンゴにとって不幸なことに、ウクライナ東部における武力紛争の勃発が軍によるアップグレードされた戦車の第一陣(25台)の接収とウクライナ国家親衛軍への譲渡を引き起こしました。結果として0台の戦車が1,000万ドル(約11億円)という価格になったことは、(DRコンゴ側からすると)ウクライナとの取引が急に全く安い買い物ではなくなったと感じたに違いありません。[1]


 2016年に最初の25台の「T-64B1M」がようやくDRコンゴに出荷する用意ができた時点で、その供給には論争がなかったわけではありません。なぜならば、この出荷を担当したエストニア企業「トランスロジスティック・グループ OÜ」が違法にそれを行っていたことが判明したからです。[3]

 ウクライナ国内での問題もそれに負けず劣らずで、すでに同年の10月には、余剰軍需品としてウクライナ国防省の保管場所から持ち出された「T-64」戦車のコストが過小見積もりされていたことに関して、ウクライナ検察庁が捜査を開始しています。捜査当局によると、DRコンゴへの売却は270万ドル(約3億円)を超える予算の損害をもたらしたとのことです。[3]

 このような複雑な状況のため、最終的に戦車50台の完全な売却が履行されたのか、それともウクライナが残りの25台を出荷していないままなのか、ある程度の不確実性があるのは驚くことではありません(注:結論としてDRコンゴに引き渡された「T-64」の数は依然として不透明です)。

2台のT-64B1Mを背景にDRコンゴ共和国防衛隊の兵士が63式107mm多連装ロケット砲の横でポーズをとっています。 よく見るとT-72AVと旧ユーゴ製のM-56A1 105mm榴弾砲も写り込んでいます。

 一方のDRコンゴでは、発注してから3年後にようやく戦車が届いたため、軍は造作なく安堵したことでしょう。

 到着した後、これらの「T-64B1M」はこの国が入手した大部分の現代的な兵器群と同様に、共和国防衛隊(Garde Républicaine)に配備されました。その現代的な兵器には、「T-72AV」や「EE-9」だけでなく「2S1」自走榴弾砲と「RM-70」多連装ロケット砲(MRL) といった兵器も含まれています。

 (これもウクライナから入手したと思われる)「T-55M」や中国の「62式軽戦車」といった旧式装備は一般の陸軍部隊で使用されています。サハラ以南に存在する大部分の軍隊と同様に、DRコンゴの軍隊にはあらゆる種類の誘導兵器が大いに欠けており、大量のMRLと対空砲がそのギャップを埋めています。

キンシャサで行進する共和国防衛隊のT-72AV。サイドスカートの欠落と非標準装備であるDShK 12.7mm重機関銃の存在に注目してください。

 「T-64B1M」のコンゴ人乗員は2014年にウクライナで訓練を受けたものの、(後になってから判明したことですが)彼らは訓練を受けた戦車を持たずに祖国に戻っていきました。

 2016年にようやく到着した後、これらの「T-64B1M」は本稿執筆時点でも継続中のカムウィナ・ンサプ(伝統的首長の名称で本名はジャンピエール・ムパンディ)の反乱を鎮圧するためにコンゴ中央部のカサイ地方に迅速に配備されました。このケースは、(これまでに確認された沿ドニエストル、アンゴラ内戦とウクライナ東部での使用以降に)T-64が戦闘で使用された4度目の例となりました



 DRコンゴは現時点で世界で11番目に大きな国ですが、広大なジャングルや航空機以外の手段ではアクセスできない地域が多いおかげで、この国における実際に居住可能な地域はかなり狭いものとなります。当然ながら、この事情はAFVの使用にも問題を引き起こしており、この国の大部分の地域は重火器の配備には全く適していません。

 少なくとも戦車戦に適した僅かな場所に機甲戦力を展開できるようにするため、共和国防衛隊はウクライナのKrAZ戦車運搬車の部隊を運用しており、この国の鉄道網はそれに繋がっている数少ない場所にAFVを輸送することが可能です。





 DRコンゴの「T-64B1M」は、ウクライナがアフリカやアジアの顧客へ通例的に提供している装備で興味深い例外的な存在です。

 それにもかかわらず、ウクライナの武器輸出品目は多様ではないにしても、どんなものでも揃っています。オーバーホールされた「T-55」からアップグレードされた「T-64」や「T-72」だけでなく、T-84「オプロート」 のような新設計の車両までの幅広い種類の戦車が売り出されていることから、新しい戦車を購入したいと考えている国にとっては豊富な選択肢があることは間違いありません。

 身近なところでは、ウクライナ軍に仲間入りするオーバーホールされた戦車が増加しており、「ストラーシュ」BMPTといったほかのプロジェクトもおそらくはいつかは就役にたどり着くことになるかもしれません。



[1] Экспорт танков Т-64: Конголезский контракт. https://andrei-bt.livejournal.com/470361.html
[2] https://web.archive.org/web/20140209112406/http://www.mod.go.jp/j/yosan/2010/yosan.pdf
[3] Некоторые финансовые аспекты несостоявшейся продажи украинских Т-64 в ДРК https://diana-mihailova.livejournal.com/24476.html

※  当記事は、2021年6月14日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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