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2022年1月27日木曜日

ジャングルにようこそ!:コンゴ民主共和国におけるウクライナの「T-64B1M」戦車



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ウクライナが販売した兵器は世界中の多くの軍隊の保有リストの中で広く行き渡っており、予算内で軍隊を活性化させようとする国家にとって、この国は兵器の供給源として頼りになる存在であり続けています。

 ソ連から引き継いだ膨大な数の余分な装甲戦闘車(AFV)や航空機、艦艇だけでなく、兵器と同様に重要な、これらの装備をオーバーホールやアップグレードでサポートする軍需産業を保有しているため、ウクライナの兵器はアフリカやアジアの国々に特に人気があります。これらの理由から、この国の軍産複合体は特にこの輸出市場に応じるために努力の大半を集中してきました。

 しかし、ウクライナがすぐに気付いたように、外国の関心の大部分は新たに生産された兵器や戦車といった装備の複雑な改修プロジェクトではなく、オーバーホールされた中古装備に向けられていました。どうやらウクライナ側はそれらの製品の市場が依然として十分に存在すると判断していたよらしく、輸出先を見つけるという僅かな希望の中で多数のAFV改修プロジェクトが立ちあげられましたが、そのほとんどが無駄に終わったことはよく知られています。

 極めて稀な成功例としては、2013年にコンゴ民主共和国(旧ザイール:コンゴ共和国との混同を避けるため、以下はDRコンゴと表記)との間で50台の「T-64」戦車を引き渡すという契約を締結したことがあります。納入される前に、これらの戦車は大規模なオーバーホールを受けて「T-64B1M」規格にアップグレードされました。

 「T-64B1M」は、砲塔への「ニージュ」爆発反応装甲(ERA)の装着と追加のERAタイルをサイドスカートと(トップアタック型対戦車ミサイルの脅威から戦車を守るため)砲塔上部へ装着することによって、戦車の防御力の向上に重点を置いた「T-64B1」の改良型です。さらに、砲塔の後部に追加されたバスルは弾薬などの収納スペースを大幅に拡張させます。

 しかし、それ以外の点ではほとんど改善が図られていないことが明らかであり、1970年代の射撃統制システムには変更が加えられていません。

 結果としてもたらされた「T-64B1M」のスペックはウクライナ陸軍で使用されているT-64BM「ブラート」とほぼ同じですが、より初歩的な射撃統制システムのままのおかげで砲発射型対戦車ミサイル(GLATGM)の発射能力を備えていません。



 DRコンゴがすでに自国軍で運用されている「T-72(AV)」の追加よりも機械的に複雑な「T-64」の導入を決定した理由は不明であり、技術力で知られているかは定かではない軍隊を持つ国にとって、これは完全に奇妙な選択です。

 異なる設計のエンジンや互換性のない部品を使用した全く新しいタイプのMBTを導入することは、特に(消耗が激しく、十分なスペアパーツがいつも入手できるとは限らない可能性がある)過酷なジャングルでの状況下では、この国と軍隊が持つ、ただでさえ脆弱な物流システムをさらに複雑なものにしてしまいます。

 しかし、彼らの兵站面での欠点はあまりにも信じがたい購入価格によって相殺される予定でした。実際、DRコンゴが支払った定価はアップグレードされた戦車1台につき、たった20万ドル(約2,200万円)でした:50台のT-64を発注したので、合計で1,000万ドル(約11億円)を支払ったことになります。[1] 

 これを日本の自衛隊が2010年に13台の「10式戦車(新品)」を発注した際と比較してみると、その価格は1台あたり870万ドル(約9.5億円)という桁外れのものでしたので、DRコンゴが支払ったT-64がいかに安価だったのかが一目瞭然です。[2]

 DRコンゴにとって不幸なことに、ウクライナ東部における武力紛争の勃発が軍によるアップグレードされた戦車の第一陣(25台)の接収とウクライナ国家親衛軍への譲渡を引き起こしました。結果として0台の戦車が1,000万ドル(約11億円)という価格になったことは、(DRコンゴ側からすると)ウクライナとの取引が急に全く安い買い物ではなくなったと感じたに違いありません。[1]


 2016年に最初の25台の「T-64B1M」がようやくDRコンゴに出荷する用意ができた時点で、その供給には論争がなかったわけではありません。なぜならば、この出荷を担当したエストニア企業「トランスロジスティック・グループ OÜ」が違法にそれを行っていたことが判明したからです。[3]

 ウクライナ国内での問題もそれに負けず劣らずで、すでに同年の10月には、余剰軍需品としてウクライナ国防省の保管場所から持ち出された「T-64」戦車のコストが過小見積もりされていたことに関して、ウクライナ検察庁が捜査を開始しています。捜査当局によると、DRコンゴへの売却は270万ドル(約3億円)を超える予算の損害をもたらしたとのことです。[3]

 このような複雑な状況のため、最終的に戦車50台の完全な売却が履行されたのか、それともウクライナが残りの25台を出荷していないままなのか、ある程度の不確実性があるのは驚くことではありません(注:結論としてDRコンゴに引き渡された「T-64」の数は依然として不透明です)。

2台のT-64B1Mを背景にDRコンゴ共和国防衛隊の兵士が63式107mm多連装ロケット砲の横でポーズをとっています。 よく見るとT-72AVと旧ユーゴ製のM-56A1 105mm榴弾砲も写り込んでいます。

 一方のDRコンゴでは、発注してから3年後にようやく戦車が届いたため、軍は造作なく安堵したことでしょう。

 到着した後、これらの「T-64B1M」はこの国が入手した大部分の現代的な兵器群と同様に、共和国防衛隊(Garde Républicaine)に配備されました。その現代的な兵器には、「T-72AV」や「EE-9」だけでなく「2S1」自走榴弾砲と「RM-70」多連装ロケット砲(MRL) といった兵器も含まれています。

 (これもウクライナから入手したと思われる)「T-55M」や中国の「62式軽戦車」といった旧式装備は一般の陸軍部隊で使用されています。サハラ以南に存在する大部分の軍隊と同様に、DRコンゴの軍隊にはあらゆる種類の誘導兵器が大いに欠けており、大量のMRLと対空砲がそのギャップを埋めています。

キンシャサで行進する共和国防衛隊のT-72AV。サイドスカートの欠落と非標準装備であるDShK 12.7mm重機関銃の存在に注目してください。

 「T-64B1M」のコンゴ人乗員は2014年にウクライナで訓練を受けたものの、(後になってから判明したことですが)彼らは訓練を受けた戦車を持たずに祖国に戻っていきました。

 2016年にようやく到着した後、これらの「T-64B1M」は本稿執筆時点でも継続中のカムウィナ・ンサプ(伝統的首長の名称で本名はジャンピエール・ムパンディ)の反乱を鎮圧するためにコンゴ中央部のカサイ地方に迅速に配備されました。このケースは、(これまでに確認された沿ドニエストル、アンゴラ内戦とウクライナ東部での使用以降に)T-64が戦闘で使用された4度目の例となりました



 DRコンゴは現時点で世界で11番目に大きな国ですが、広大なジャングルや航空機以外の手段ではアクセスできない地域が多いおかげで、この国における実際に居住可能な地域はかなり狭いものとなります。当然ながら、この事情はAFVの使用にも問題を引き起こしており、この国の大部分の地域は重火器の配備には全く適していません。

 少なくとも戦車戦に適した僅かな場所に機甲戦力を展開できるようにするため、共和国防衛隊はウクライナのKrAZ戦車運搬車の部隊を運用しており、この国の鉄道網はそれに繋がっている数少ない場所にAFVを輸送することが可能です。





 DRコンゴの「T-64B1M」は、ウクライナがアフリカやアジアの顧客へ通例的に提供している装備で興味深い例外的な存在です。

 それにもかかわらず、ウクライナの武器輸出品目は多様ではないにしても、どんなものでも揃っています。オーバーホールされた「T-55」からアップグレードされた「T-64」や「T-72」だけでなく、T-84「オプロート」 のような新設計の車両までの幅広い種類の戦車が売り出されていることから、新しい戦車を購入したいと考えている国にとっては豊富な選択肢があることは間違いありません。

 身近なところでは、ウクライナ軍に仲間入りするオーバーホールされた戦車が増加しており、「ストラーシュ」BMPTといったほかのプロジェクトもおそらくはいつかは就役にたどり着くことになるかもしれません。



[1] Экспорт танков Т-64: Конголезский контракт. https://andrei-bt.livejournal.com/470361.html
[2] https://web.archive.org/web/20140209112406/http://www.mod.go.jp/j/yosan/2010/yosan.pdf
[3] Некоторые финансовые аспекты несостоявшейся продажи украинских Т-64 в ДРК https://diana-mihailova.livejournal.com/24476.html

※  当記事は、2021年6月14日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




2021年12月28日火曜日

ウクライナ版ターミネーター:「ストラーシュ」BMPT



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 21世紀の変わり目はウクライナ軍の衰退期の始まりを際立たせました。大量の装備が早期退役に直面し、生き残った旧式装備の後継を導入する見通しが立たなかったのです。

 2014年のロシアによるクリミア併合とドンバスでの戦争はこの流れを劇的に逆転させ、それ以前に余剰の戦車で埋め尽くされていた工場のヤードは、疲弊したウクライナ軍を強化するために空になり始めました。その結果として、これまでに数百台のT-64T-72T-80主力戦車(MBT)やBMPシリーズの歩兵戦闘車(IFV)が復活させられました。

 少し前までは、これらの同じヤードは設計者らの創造力の範囲内で独創性があった装甲戦闘車両(AFV)のコンセプトの舞台でした。「BMT-72」歩兵戦闘戦車「BMPT-K-64」として知られるT-64をベースにした装輪式APCやさらには英国のセンチュリオン戦車をIFV化した「AB-13」といったコンセプトを含む、これらのプロジェクトのいくつかの風変わりさはとても誇張できるものではありません。

 当然のことながらこれらの設計案はどれもが輸出用の発注に成功したことはなく、その代わりとして大部分の顧客は単にオーバーホールされた戦車やBMPに興味を持っていましたようです。機甲戦でより従来型のアプローチを図った設計案でさえT-72AVやT-72Bといった安価な代替品に太刀打ちできず、結果としてそのうちの500台以上がアフリカとアジアのさまざまな国に渡りました。

 この事実はAFV市場での厳しい競争と同じくらいに、これらのプロジェクトの多くがT-64をベースにしていたことが大いに関係していると思われます。この戦車はソ連以外に輸出されたことがなかったことから、多くの国が望んで手に入れたくない運用と維持面でのリスクを抱えていたためでしょう(結局はアンゴラとコンゴ民主共和国だけがT-64を購入した唯一の非ソビエト系国家となるはずです)。

洗練されたデザインでしたが、BMPV-64(左)やT-64E(右)のようなコンセプトは本質的に最初から成功の見込みがありませんでした。

優先順位の調整

 2014年に勃発したウクライナ東部での戦闘が通常の戦争レベルにまでエスカレートしたことから、ウクライナの軍需産業は自国軍からの需要に対応するため、輸出用プロジェクトの開発への関心を別に向けるようになりました。

 もはや貴重な資源をどこの国も購入する可能性がないT-64の改修プロジェクトに投入することはなくなり、その代わりとして、熱画像装置や新型無線機などの追加で戦車の元の能力に改良を加えたT-64BV(2017年型)のような、よりシンプルなプロジェクトに重点的に取り組んでいます。手頃な価格で効果的なものであるため、おそらくウクライナが保有する全てのT-64BVがいずれはこの規格に近代化改修されるでしょう。[1]

 比較的控え目な改修範囲に収まっている別のプロジェクトが、今回紹介する「ストラーシュ」BMPTです。T-64BVの車体に本来IFV用に設計された既存の砲塔を組み合わせることによって、「ストラーシュ」は全く新しいコンポーネントを開発することなく新しい戦闘能力を導入するシンプルかつ効果的な方法を実現しています。重装甲で2門の機関砲砲、4発の対戦車ミサイル(ATGM)、自動擲弾銃を装備した「ストラーシュ(センチネル)」は、戦場で交戦する全ての人にとっては手強く見えるに違いありません。
    
       

 ウクライナはロシアと中国に次いで世界で3番目にBMPT(戦車支援戦闘車)を開発した国ですが、現時点でこのような車両を運用しているのは、ロシア、アルジェリア、カザフスタンだけです。

 ロシアや中国の設計と同様に、「ストラーシュ」BMPTは既存の戦車(T-64)の車体をベースにしています。

 ソ連時代のアフガニスタン戦争や第一次チェチェン戦争で得た経験から誕生したBMPTは、機械化部隊に追従して市街戦で部隊に防御力をもたらすだけでなく、開けた地形にて速射性のある連装式機関砲や長距離ATGMを用いて歩兵やAFVと交戦することを目的に開発されました。



 「2A46」125mm戦車砲を搭載した砲塔の代わりに、「ストラーシュ」BMPTはジトーミル装甲工場によって開発された「デュプレット」戦闘モジュール(砲塔)を装備しています。

 「デュプレット」最大の特徴は、おそらく砲塔から突き出た2門の 「ZTM-2」30mm機関砲(BMP-2に搭載されている「2A42」のウクライナ版)でしょう。これらの機関砲は互いに独立して射撃することができるため、「ストラーシュ」は1門のみを装備した砲塔よりも射撃時間を持続させることや、各砲から異なる種類の砲弾を発射することが可能となっています(注:装備された二門の機関砲を同時射撃以外にも独立した射撃が可能であることから、BMP-2よりも多くの射撃時間を稼げるということ)。

 「ストラーシュ」が持つ真の重武装にして必殺パンチとなる可能性を秘めているのが、砲塔の両側に搭載された4発(左右に各2発)のATGMです。この砲塔が披露された時点では9M113/AT-5「コンクールス」系ATGMが搭載されていましたが、これらを最大射程5kmのR-2「BARYER」ATGMに置き換えることができます。このATGMは、30mm機関砲の基部上に設置されている、(赤外線)画像装置とレーザー測遠機を内蔵した射撃統制システム(FCS)によって誘導されます。[2]

 小火器による攻撃でも無力化することができる可能性があるため、大型で繊細な光学機器を内蔵したこのFCSが「ストラーシュ」の最大の弱点かもしれません。

 砲塔上部には対人用に「KBA-117」30mm自動擲弾銃が、30mm機関砲の間には(同軸機銃として)2丁の7.62mm軽機関銃が装備されており、砲塔の武装はこれらと合計で6基の発煙弾発射機で構成されています。

 前述のFCSの脆弱性に加えて、小火器からの射撃や砲弾の破片しか防げない可能性がある砲塔の軽装甲とむき出しのまま装備されているATGMは、戦闘に入る前の段階でも「ストラーシュ」の重要な機能を停止させるおそれのある深刻な弱点であると考えられます。ロシアのBMPTも同様の弱点がいくつかありましたが、後のバージョンでは改善されています。

 「ストラーシュ」の場合では、FCSやATGM、30mm機関砲の基部を保護シールドで覆うことが小火器や砲弾の破片に対する脆弱性の軽減に貢献するでしょう。




 「デュプレット」戦闘モジュールは、もともとIFVであるBMPシリーズ用に設計されたウクライナ産のモジュール式砲塔システムの最新モデルです。(BMP-1と2の砲塔がたった1名用だったことに比べると)この新型砲塔は、ZTM-2機関砲の真下にある2つの大きなハッチから出入りする2名の乗員によって操作されます。砲塔の後部には、ZTM-2用30mm機関砲弾を再装填するための小さな二つのハッチが設けられています。

 この重武装のおかげで「デュプレット」を装備したあらゆるIFVはほとんどの(装甲化された)脅威に対処できるようになりますが、IFVの任務と複雑さを増大させるものであり、多くの軍隊はこのような武装が彼らのニーズ以上の過度なものと簡単に判断するかもしれません。



 「ストラーシュ」の試作型はまだT-64BVの車体をベースにしていますが、量産型では試作とは異なって「コンタークト1」爆発反応装甲(ERA)が標準装備となっておらず、T-64BVよりも高度な能力を持たない、より簡単に入手しやすいT-64B(1)をその代わりに使用する可能性があります。

 とは言うものの、何百台ものT-64BVが依然として保管状態にあるため、その供給はこれから先の10年間でウクライナ軍が必要とする量よりもほぼ確実に長持ちします(注:「ストラーシュ」用に使用されるT-64BVが枯渇する可能性が皆無ということ)。

 

 その機能と実用的な設計の両方に関して有望に見えますが、このAFVが実際に軍に就役したり輸出注文を受けることになるかどうかは、現時点ではよく分かっていません。

 「ストラーシュ」BMPTは現代の軍隊のニーズを満たすための(おそらく)より現実的なアプローチの1つであるという事実にもかかわらず、2017年に発表されたことを考えると、そのどちらも実現する可能性が徐々に低くなってきています。

 西側諸国の大部分が少数の戦車でさえ運用するのに苦労している中で、BMPTのコンセプトは今のところ非常に限られた国のグループに独占されたままであり、まだ実戦における正確な検証を受けていません。

 ウクライナがこのグループに加わることになるかどうかは、BMPTのコンセプトに対する評価と当面の運用上の要求次第です – しかしながら、財源が最終的な制限要素であることは言うまでもないでしょう(注:2021年の軍事パレードで「ストラーシュ」が登場することはありませんでした)。



[1] ЛБТЗ налагодив серійну модернізацію Т-64 до зразка 2017р. https://www.ukrmilitary.com/2019/08/t64-mod2017.html
[2] COMBAT MODULE "DUPLET": PUBLIC PREMIERE AT “ARMS AND SECURITY” https://ukroboronprom.com.ua/en/media/bojovyj-modul-duplet-publichna-prem-yera-na-vystavtsi-zbroya-ta-bezpeka.html※リンク切れ
         
※  当記事は、2021年5月16日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります



2020年12月15日火曜日

忘れられた軍隊:誰もが忘れた沿ドニエストルの戦勝記念パレード

著:ステイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo

 公式には沿ドニエストル・モルドバ共和国(PMR)と呼ばれる沿ドニエストル(トランスニストリア)はモルドバとウクライナの間に位置する分断国家であり、1990年にソビエト社会主義共和国として独立を宣言した後の1992年にモルドバから流血を伴った離脱をして以来、世界からの注目を避け続けています。

 1992 年に武力紛争が終結したにもかかわらず、沿ドニエストルの状況は 1990年代と同様に複雑なままです。同国はロシア連邦への加盟を希望する儚い国でありながら、経済産出量としてモルドバへのわずかな農産物の輸出に大きく依存し続けているのです。

 現在のところ、いずれも自身が未承認国家であるアブハジア共和国、南オセチア共和国と(何とか残った)アルツァフ共和国(ナゴルノ・カラバフ)のみから承認されていますが、沿ドニエストルは自らの陸軍と航空兵力、そして独自の軍需産業を持つ事実上の国家として機能しています。

 沿ドニエストルは本質的には依然としてハンマーと鎌をその国旗の中で使用している – KGBでさえも主要な治安機関として保持し続けているソビエト社会主義共和国です。

 ロシアは現在でも沿ドニエストルに限られた軍事的プレゼンスを維持しており、ロシア兵は公式に国内で平和維持活動を行っています。

 2020年にはCOVID-19の世界的大流行により、第二次世界大戦終結75周年の戦勝記念日に関する行事が延期され、4月21日にはクラスノセリスキー大統領が戦勝記念日パレードの中止を正式に発表しました。

 しかし、その後の6月24日にパレードをモスクワでの戦勝記念日パレードの当日にして、この未承認国家「独立」30周年の日でもある9月2日の共和国記念日に開催することが発表されたのでした。


 どのような装備が紹介されるかという点において、沿ドニエストルの軍事パレードはそのほとんどが過去の繰り返し(注:参加する装備に変化が見られないということ)ですが、まさにそれがパレードを面白いものにしています。

 世界で開催されている殆どの軍事パレードは、通例ならばその国が開発・入手した最新型の兵器が含まれる壮大なショーですが、沿ドニエストルの場合は従来の方法では旧式装備を更新することができないため、その代わりとして、様々なDIY装備とソ連製の覚えにくいAFVを混ぜ合わせた独特のブレンド品を紹介しています。

 沿ドニエストルのエキゾチックな装備と車両の構成がなされるようになったのは長く複雑なプロセスを経た結果であり、それはソ連崩壊の直後まで遡ります。

 ソ連が崩壊したとき、かつてソ連軍を構成していた人員や関連する兵器類の多くは、それらが所在する地で新しく誕生した国に所属することになりました。このプロセスは旧ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国の外に駐留していた多くの民族的ロシア人の離脱(注・分離独立や脱走)によってしばしば問題となりましたが、沿ドニエストルに駐留していたソ連地上軍第14軍が遭遇した問題はこれだけではありませんでした。

 第14軍は実際にはウクライナ、モルドバ、そして分離独立国家である沿ドニエストル(トランスニストリア)に配置されており、同軍の様々な部隊は、ウクライナ、モルドバ、ロシアや新たに形成された沿ドニエストル共和国に所属しました。

 モルドバ政府よれば依然として同国領土だった地域への1992年の侵攻(トランスニストリア戦争)の間、 第 14 軍の大量の武器と弾薬は(沿ドニエストルを自らの支配下に戻そうとするモルドバの試みを撃退するために)沿ドニエストルの現地住民(部隊)に引き継がれ、結果として4 ヶ月後に停戦が宣言されるまで短期間ながらも激しい紛争に至りました。

 沿ドニエストルが領土内の武器保管庫の大部分を掌握した際には大量の高度な特殊車両を受け継ぎましたが、(自走)砲や歩兵戦闘車両(IFV)は僅かな数しか残されていませんでした。 

 沿ドニエストルに存在していた限られた量のIFVなどは戦争終結後にロシアに返還されたため、PMRには世界の数カ国でしか使用されていない工兵車両の豊富なストックが残され、その一方で大砲やIFVのような装備はほとんど完全に取り上げられてしまいました。

 東ヨーロッパの未承認国家、希少な工兵車両、様々なDIY装備...非常に興味深い軍事パレードには必要とされるすべてのネタがあります!



 2020年のパレードは、(1945年5月2日のベルリン攻防戦でソ連の赤旗を帝国議会議事堂の上に掲げた兵士が所属していた)クトゥーゾフ勲章2級授与第150親衛狙撃兵師団(名誉称号「イドリツァ」・「ベルリン」)の旗のコピーを掲げた儀仗兵の入場から始まりました。

 (未だにロシアとの統一を望んでいる)沿ドニエストルとロシアの国旗も掲げられていたことがこの「国」の微妙な立場を暗示しています。



 パレードに参加した1200人以上の軍部隊と法執行部隊を観閲したのは、ワジム・クラスノセルスキー大統領、オレグ・オブルチコフ国防相とイーゴリ・スミルノフ初代大統領(1991年~2011年)を含むPMRの指導者たちでした。

 下の写真からPMRがソビエトに起源があることを特定するのにロケット科学者は必要ありません(注:国章で一目瞭然ということ)。それ故にクラスノセルスキー大統領の個人的な見解には驚くべきものがあります。大統領は「古き良き時代のソ連」に憧れる人々とは全く対照的であり、10月革命を「大惨事」と呼び、ボリシェビキを「裏切り者」と言及し、ソ連の指導者よりもロシア帝国の指導者を称えることを提案しているからです。

 また、彼は君主制主義者としての姿も現しており、ソ連時代のシンボルはこの国と無関係であるとし、トランスニストリアをソ連の断片と見なすべきではないと主張しました。この時点でご想像いただけるかと思いますが、この「国」は分析してみると非常に面白いものがあります。


左: オレグ・オブルチコフ国防相(少将)、中央:ワジム・クラスノセルスキー大統領、右:イーゴリ・スミルノフ初代大統領

 パレードの参加者や観衆に向けて演説したクラスノセルスキー大統領は次のように述べました。

 「それ(COVID-19)が我が国の発展を遅らせたものの、ストップさせることはなかったと強調したいと思います。私たちは社会インフラの構築と近代化、投資家の誘致、そして私たちのトランスニストリアの近代化を続けています。時間はいかなる困難も一緒にならば乗り越えられることを示しています。
 軍司令官は、この国の人々の「団結・連帯・勇気」が、大祖国戦争での抵抗と勝利と1990年代初頭のトランスニストリアの建国と防衛に寄与したと語りました。
 私たち沿ドニエストル人は、大切な記憶がいかに重要であるか、世代の継続性を知っている賢明な人々です。過去を記憶し、現在を創造し、私たちは、私たちの大地で、私たちの法律に従って、未来を共に構築していきます。今までそうであったように、これからも同様にです。
 この日、私はロシア連邦に最も温かい感謝の言葉を表明します。友愛的関係と支援と平和に感謝します。」

 第二次世界大戦と1992年のトランスニストリア戦争の犠牲者に敬意を表して、パレードの出席者は1分間の黙祷を捧げました。



 今年の8月初頭には、沿ドニエストルの小規模な陸軍航空隊の本拠地でもあるティラスポリ空軍基地の誘導路でパレードの練習が行われ始めました(航空隊については今後の記事で紹介する予定です)。 パレードの訓練をしている兵士や車両の映像はで視聴することができます。パレード本番の模様はで視聴することができます。




 UAZ-469の上から閲兵部隊に敬礼するオレグ・オブリュチコフ国防相(下の画像)。
 このオフロード車は新しいホイールで「アップグレード」されていますが、UAZ-469のノスタルジックな外観と完全にマッチしていません。



 多くのソ連後継国家で軍事行進の標準となっているように、歩兵分野では2つの女性部隊も行進に参加しました(下の画像)。





 ソ連のSKSカービンとAK-74を手にした儀仗隊の兵士たちがスヴォロフ広場を行進する部隊に注目の姿勢をとっています(下の画像)。
 
 沿ドニエストルの軍隊はAK-74(74Mを含む)とAKS-74をほぼ全般的に装備しており、SKSは主に式典における儀仗兵によって使用されています。





 下の画像はパレードに参加する部隊の概要を示しています。閲兵部隊には、機械化歩兵、空挺部隊(VDV)の降下兵、特殊部隊、ドニエストル即応部隊、国境警備隊と内務省の部隊が含まれています。


 すでに気づいているかもしれませんが、沿ドニエストル軍の制服はロシア軍のものと区別がつきません。同軍では、デジタルフローラ迷彩とゴルカ(防寒服)の制服はどちらも現用です。下の画像では、小さな沿ドニエストル国旗のベルクロ式パッチにも注意する必要があります。




 他の多くのソ連後継諸国と同様に、沿ドニエストルにも依然として(一般的にVDVとして知られている)空挺部隊が編成されており、下の画像ではAKS-74を携行しています。

 VDVは航空隊の An-2やMi-8を用いた訓練を受けていますが、モルドバとの間で紛争が発生した場合はその大半が地上部隊として活用されることでしょう。



 緊急対応特殊部隊(SOBR)に所属する兵士たち(下の画像)。SOBRは非常時には通常の警察で使用可能な即応部隊として機能します。 これもソ連時代の遺産です。



 十分に装備が行き渡った平和維持部隊(MC=миротворческих сил )がAK-74Mを手にしながら行進しています(下の画像)。

 沿ドニエストルは未承認国家のままなので、 この部隊をどこに展開させるのかという疑問が(おそらく)解消されることはないでしょう。



 下の画像では、国防省の将校やティラスポリ司法学院(注:内務省が管轄する教育機関)の士官候補生たちが派手な制服と典型的なソ連式の制帽を披露しています。




 ケバブ店を背景に、パレードの車両部門を先導する式典用のT-34/85戦車がガタゴトと音を立てて通り過ぎます(下の画像)。

 これらの戦車をパレードで展示する目的は単に第二次世界大戦の従軍兵士たちに敬意を表することだけにありますが、T-34/85がイエメンや北朝鮮などの国では現役であることに言及しなければなりません。北朝鮮におけるT-34の運用と施された改修に関する詳細は、私たちの本で読むことができます



 T-34/85の乗員が第79親衛狙撃師団の旗を掲げています(下の画像)。この師団は1943年に沿ドニエストルでのドニエプル川の戦いに参加して戦後もドイツ駐留ソ連軍部隊の一員として活躍し、1992年にウズベキスタンのサマルカンドで解隊されました。

 戦車の砲身に描かれた5つのキルマークにも注目です。



 T-34/85に続いて、132mmロケット弾を搭載したBM-13「カチューシャ」多連装ロケット砲、ZIS-3 76mm野砲を牽引するYaG-6トラックやGAZ-67オフロード車といった、より式典用らしい記念車両が登場しました(下の画像)。 

 第二次世界大戦当時からのものということになっている多くの旧ソ連時代の車両がそうであるように、実際にはこれらが当時の車両に似せて改造されたより近代的なトラックであることに注意してください。BM-13の場合は戦後製のZIL-157トラックをベースにしたレプリカです。





 トラックに乗車している第二次世界大戦時の制服を着用した部隊がPPSh-41を手にしていますが、下の画像からは一丁だけPPD-34/38短機関銃と思しき銃も見えます。よく見ると実際にはこれらが偽物であることがわかりますが、そのようなことを一体誰が気にするでしょうか?



 また、このパレードにはアメリカ「陸軍」のウィリスMB「ジープ」と第二次世界大戦中のナチスドイツで使用されたものに似た、模造品のMG42機関銃を装備したサイドカーも登場しました(下の画像)。




 サイドカーは世界の多くの軍隊からその存在を史料からも追いやられていますが、沿ドニエストル軍では現在でも活躍しており、たまに演習にも登場しているため、その運用状況を確認することができます。サイドカーの機関銃手はRPK-74M 5.45mm 軽機関銃を構えています(下の画像)。



 次にパレードに登場したのは、装甲車から転用した1丁のPKT 7.62mm軽機関銃で武装した数台の独自型バギーでした(下の画像)。

 これらの非装甲バギーは被弾を避けるためにその小さなシルエットとスピードを頼りにしています。パレードでは沿ドニエストルの特殊部隊と一緒に登場しました。



 このバギーには派生型があり、そのほとんどが軽機関銃(通常は7.62 PK/PKM、下の車両の場合はRPK-74 5.45mm)を1丁装備しています。派生型には水陸両用型も存在します!



 軽偵察車のための独自の解決策を考え出すという、より深刻な試みはラーダ・ニーヴァ4x4で見られました。同車はランドローバー・ディフェンダーに類似した軽偵察車として容易に改造することができ、市場で容易に入手可能な民生車です。



 話題をパレードに戻します。バギーの後には2種類のBTRがパレード会場に入ってきました。
 
 まずは、BTR-60の車体をベースにした指揮車両であるR-145BMです。同車は1基の折りたたみ式フレームアンテナ、1基の高伸縮式マスト、5台の無線機などの特殊装備を搭載しています(下の画像)。



 続いて、沿ドニエストル軍の主力APCであるBTR-70が登場しました(下の画像)。ただし、より旧式のBTR-60も現役で運用され続けています。




 このパレードに目を光らせている人は、(縦二列で行進している)BTRの列の片方には6台、もう一列の列には5台しかいないことに気づいたかもしれません。 映像をよく観察してみると、1台のBTR-70がメイン会場に到着する直前に煙を上げて隊列から離れていく様子が分かりますが、幸いにもほとんどの観衆の視界には入っていませんでした。



 堂々とした姿のT-64BVは沿ドニエストル軍で唯一使用されている戦車です(下の画像)。
 
 T-64は1992 年のトランスニストリア戦争に投入され、数台がモルドバ軍によって破壊されました。現在のモルドバは戦車を運用していないため、今後の紛争で戦車戦が発生することは基本的にありません。




 これらの後にはパレードの中で最も興味深い部分であるIRM、UR-77、BMP-2、9P148 「コンクールス」の列が続きます(下の画像)。



 少数しか生産されなかったIRM「ジューク」は、ソ連軍で使用されたAFVの中で最も見つけにくい車両の1つです(下の画像)。

 地上と河川偵察用の戦闘工兵車両として設計されたIRMは、ソナー送受信器付き音響測深機、地雷探知機と専用の2本のアーム、アイスドリル、水中で航行・方向転換するための2つの格納式プロペラ、泥から脱出するための16基の9M39ロケットエンジンを搭載した2つのケースなどの多数の専用装置を装備しています。武装は近距離での自衛用として、IRMは小型砲塔にPKT 7.62mm機関銃を装備しています。
 
 IRMと沿ドニエストルの関係で面白いところは、同国はほとんどの国が持つ一般的な装備が不足しているにもかかわらず、渡河用の特殊車両をヨーロッパで最も多く保有していることです。




 IRMの直後には UR-77地雷原処理車が続いています(下の画像)。

 この車両は味方の部隊が前進するための安全な通路を開くために地雷除去用導爆索を使用しますが、おそらく最もよく知られているのはシリア内戦における破壊的な用途でしょう。シリアでは建物に陣取る敵を追い出すために、対象とする建物自体が存在する区画全体の一掃に使用されました(注:2022年現在はロシア軍がウクライナの市街地に向けて使用しています)。

 沿ドニエストルでは、UR-77の現代的な使用法を見つけることは想像以上に難しいでしょう。 




 UR-77 の後ろから9P148「コンクールス」対戦車ミサイル(ATGM)搭載車が迫ってきています(下の画像)。

 同車は(搭載されているのが見える)旧式の 9M111と、より高性能な 9M113の両方を使用することが可能です。9P148は最近では2020年のナゴルノ・カラバフ戦争においてアルメニア側で使用されており、適切な状況下で使用されるのであれば強力な兵器システムであり続けるでしょう。



 次の装備は沿ドニエストルのパレードでは初登場でしたが、全く予想外というわけではありませんでした。ごく僅かな数のBMP-2歩兵戦闘車(IFV)が沿ドニエストル軍で運用されていると考えられています。興味深いことに、BMP-2はパレードの訓練に登場しませんでした。実際のパレードに土壇場で追加されたものと思われます(下の画像)。




 今年の軍事パレードではBTRG-127「バンブルビー」の未登場が注目に値します(下の画像)。

 2016年に初めて就役した、このユニークな装甲兵員輸送車(APC)はソ連製のGMZ-3地雷敷設車をベースにしており、現地で改造されて地雷敷設装置の代わりに大型の兵員区画が設けられました。また、 Afanasev A-12.7機関銃が1門装備され、その機関銃手用のスペースも設けられました。

 BTRG-127「バンブルビー」についての記事はこちらで読むことができます



 BTRG-127とは対照的に、過去のパレードには登場していたにもかかわらず今回は未登場だったもう一つの注目すべき装備はBMP-1の派生型であるBMP-1KSh指揮通信車です(下の画像)。

 2A28「グロム」73mm低圧砲は、10mの長さの伸縮式マストとTNA-3ジャイロ式航法装置、追加の無線機のみならず電信や電話装置、発電機やアンテナに置き換えられました。

 これらを装備した結果として、砲塔は定位置に固定されています。



 沿ドニエストルが保有している別の珍しいタイプの車両には、GT-MU多目的装甲車が含まれています。(下の画像)。

 現代の世界ではGT-MUが登場する機会が皆無に近いことから、その存在を知っている人はごく僅かしかいません。それでもなお、GT-MUはSPR-1移動式電波妨害システムを含むいくつかの高度に特化された派生型のベース車両として活用されました。

 当初から多目的プラットフォームとして設計されていたため、沿ドニエストルは必要以上に保有しているGT-MUのいくつかを指揮観測車や即席の対戦車車両に改造しました。その詳細はこちらで読むことができます


 

 GAZ-66トラックとUAZ-452 オフロード・バンが120-PM-38/43 120mm迫撃砲を牽引しています(下の画像)。



 下の画像のZiL-131トラックに牽引されたZU-23 23mm対空機関砲(下の画像)のように、さまざまな種類の牽引式の対空砲や対戦車砲がパレードの最後尾を形成していました。 




 沿ドニエストルは、ヨーロッパで最後のZPU-4 14.5mm対空機関砲の運用国になる可能性が大いにあります(下の画像)。




 D-44 85mm野砲をUral-375Dトラックが牽引しています(下の画像)。
 
 この砲のパッとしない装甲貫徹能力は、モルドバがそもそも機甲戦力を全く運用していないことで緩和されています。



 MT-LB装甲牽引車は、上記のD-44に比べて確実に能力が向上しているMT-12「ラピーラ」100mm対戦車砲を牽引しています(下の画像)。

 この砲から発射されるHEAT弾は厚さ400mmの装甲を貫通することが可能です。それと比べてみると、モルドバが運用しているBMD-1は車体の大部分が厚さ15mm以下の装甲板で覆われており、最厚部でも33mmしかありません。





 沿ドニエストルとモルドバの両軍で運用されているAZP S-60 57mm対空機関砲も登場しました(下の画像)。

 対地攻撃用途における機関砲の機動性を向上させるために、後者はかつてBM-27 220mm多連装ロケット砲システム(MRL)を構成していた(今ではロケット砲が撤去された)ZiL-135トラックにまで搭載しています




 KS-19 100mm高射砲は沿ドニエストル軍が保有するもので最も強力な対空砲ですが、同軍の保有リストには牽引砲と自走砲の両方が欠けていることから、1992年の戦争以降はそのほとんどが普通の砲兵戦力として用いられています(下の画像)。

 対地攻撃のためにこの旧式砲を再利用している国は沿ドニエストルだけが唯一ではないことは確実であり、シリアとアルメニアもそれを踏襲しています。興味深いことに、イランは別目的に転用せずにレーダーや電子光学装置と組み合わせたり、自動装填装置を装着することで、本来の用途での有効性を向上させることに力を入れています。




 今年のパレードの車両部門を締めくくったのは「プリボール-1」MRLでした(下の画像)。

 このMRL(生産工場では「プリボール」と呼ばれていますが、正式には「S1T」や「1ST」として知られています)は、ZiL-131トラックと、(BM-21と同様の働きをする)独自の起立式122mmロケット弾発射システムを組み合わせたものです。
 
 しかし、BM-21との最大の違いは1回の斉射で発射できるロケット弾の総数にあります。なぜならば、BM-21では40発であるのに対してプリボール-1では僅か20発と50%も低下したからです。





 現在では、プリボール-1はより優れている(正式には「S2T」や「2ST」として知られている)プリボール-2に取って代わられています(下の画像)。この新MRLは今回のパレードに未登場だった注目すべき装備の一つです。

 プリボール-1の20本のロケット弾発射器チューブとは対照的に、プリボール-2は1回の斉射で48発という目を見張るような数の122mmロケット弾を発射することができます。民生用のカマズ-4310トラックをベースにしたプリボール-2は、(ほかのMRLのデザインと比較すると)12連装の122mmロケット弾発射器チューブの束を4基という面白い配列と、発射器を後ろ向きに搭載している点で際立っています。

 プリボール-2に関する私たちの記事はこちらで読むことができます



 記念式典は、ティラスポリの上空に大きな音を響かせながら火花を散らす8門のD-44 85mm 対戦車砲による祝砲で締めくくられました





 沿ドニエストルにおける戦勝記念日のパレードは、ほかの場所で行われている現代的なパレードよりも確かに華やかさが少なめですが、その不足分のすべてがパレードに登場する軍用装備の多彩な構成で補われています。

 モルドバと沿ドニエストルが現状(分断状態)を打開できるかどうかは不明ですが、筆者の見解では、この見応えのある伝統(パレード)は今後も確実に生き残るはずです。



[1] В столице состоялся парад в честь 30-летия республики и 75-летия Победы gov-pmr.org/item/18429

 ※  この記事は、2020年11月30日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり 
       ます。  


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