2022年1月5日水曜日

定評のある機体: カザフスタンが導入した「Y-8」輸送機



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 中国の「Y-8」輸送機は、その設計の独創性で決していかなる賞を受けることはないでしょう。なぜならば、同機は1970年代にソ連の「An-12」をリバースエンジニアリングして中国の要求に合うように僅かな変更を加えた事実上の派生型だからです。

 1970年代以降、陝西飛機工業公司は「Y-8」の量産で得た経験のみならず「ロッキード マーチン」社「An-12」の開発メーカーである「アントノフ」社など海外の助言を活用することによって、実績ある機体の改良に着手しました。

 結果として完成した「Y-8F-600」と「Y-9」について、その外見は依然として既存の「Y-8」シリーズに似ていますが、引き伸ばされて再設計された胴体、グラスコックピットやプラット&ホイットニーのターボプロップ式エンジンを備えていることが特徴です(注:Y-9は国産エンジンを搭載)。

 2006年に初めて導入されて以降、「Y-8F-600」は中国人民解放軍空軍と海軍航空隊で現在も使用されている特殊作戦機のベース機となり、その1つであるAWACS型(ZDK-03)もパキスタンに輸出されています。

 このことを踏まえると、海外諸国が「Y-8」の新しい派生型や「Y-9」を購入する代わりに、わざわざ新造された旧バージョンの「Y-8」を調達し続けていることは、いっそう驚くべきことだと言えます。

 冷戦初期を彷彿とさせる外観が特徴であるこれらの旧世代機は、未舗装の滑走路での運用を可能にしている頑丈さと整備のしやすさなどで高く評価されています。

 また、「Y-8」は「C-130」や「Il-76」のような類似機と比べた場合、比較的シンプルな構造であることと、中国の資金拠出の柔軟性と融資のおかげで価格もかなり低いものとなっています。ベネズエラ空軍が長年にわたってロシアから「IL-76」と「IL-78」の導入を検討した後の2012年に8機の「Y-8」を調達した背景には、このような納得のいく理由があったと思われます。

 その数年後、カザフスタンはベネズエラに続いて8機の「Y-8F-200W」を発注しましたが、これらは空軍用ではなく国家警備隊用の機体でした。2018年9月に最初の「Y-8」が到着し、国家警備隊初の航空兵力が就役となりました。
                              
        

 国家警備隊(及びその前身である国内軍)は2014年の創設以来、「Y-8」の導入までは空軍の輸送能力に全面的に依存していました。

 世界第9位の国土を持つ国として、「Y-8」の長い航続距離と多くの兵員を運ぶことができる能力は、きっと高く評価されるに違いありません。カザフスタン国境警備隊も同様の理由で「An-74」と新たに導入したCASA「C295W」の飛行隊を運用しています。

 国家警備隊が中国機を選んだ別の理由としては、「Y-8」の納入に要する時間に関係している可能性があります。なぜならば、2018年4月21日に契約を結んだ後、すでに同年の9月には最初の機体がカザフスタンに到着し、2019年の第1四半期には発注した全8機の納入が完了したからです。[1]



 確かにカザフスタンは「Y-8」の設計とレイアウトを全く知らないわけではありません。なぜならば、同国は過去10年の終わり頃に最後の機体が退役するまでに多くの「An-12」を運用していたからです。

 この頑丈な輸送機はその積載量や耐久性、そして航続距離の長さのおかげでカザフスタンのニーズに非常に最適なものとなっていました。このことを踏まえると、カザフスタンを「An-12」に酷似した「Y-8」の導入に導いたのは、(すでに慣れ親しんだ機体と共通性が多いという利点を除けば)まさにこれらのメリットが決定打となった可能性があります。

 「An-12」がカザフスタンで運用されていた際は、アルマトイ国際空港(IAP)、ヌルスルタンIAP、ジェティゲン空軍基地を拠点としていたほか、国内各地にある別の空軍基地にも頻繁に配置されました。これを考慮すると、「Y-8」もこれらの基地や空港を拠点とする可能性が高いと思われます。

離陸滑走中の「An-12」(空軍機)
カザフスタンの「Y-8」:垂直尾翼にある国家警備隊のマークに注目。

 カザフスタンが導入した8機の「Y-8」は、国内各地にいる国家警備隊の輸送能力を著しく向上させています。導入した「翼竜Ⅰ」UCAVの運用があまりうまくいかなかったと思われている一方で、「Y-8」はこの国で確固たる地位を築いた数少ない中国製兵器の1つと言えます。

 「Y-8」の導入が中国の関与をさらに強める前兆であるかどうかはまだわかりません。しかし、カザフスタンが自国産業の発展とそれに伴う軍の近代化を目指す傾向を継続していることから、トルコ、南アフリカ、イスラエルといった中国以外の国々も潜在力を秘めた興味深いサプライヤーとなるでしょう。

 その一方で、信頼できる「Y-8」はカザフスタンにとって安全面で良好な実績を持つ頑丈な航空機となり、運用者への貢献を実証してくれるに違いありません。



[1] Kazakhstan’s first Y-8 transport aircraft makes maiden flight in China https://defence-blog.com/kazakhstans-first-y-8-transport-aircraft-makes-maiden-flight-china/
[2] China hands over Y-8F200W transport aircraft to Kazakhstan https://archive.ph/20181006143401/https://www.janes.com/article/83301/china-hands-over-y-8f200w-transport-aircraft-to-kazakhstan#selection-900.0-900.1

ヘッダー画像:Maxim Morozov(敬称略)

※  当記事は、2021年8月21日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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