2022年2月8日火曜日

意外な国の東側製AFV:サウジアラビアにおけるウクライナ製「BTR-3」装甲兵員輸送車




著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 サウジアラビアは、アメリカから購入した「M1A2S」主力戦車(MBT)や「F-15SA」戦闘攻撃機を含む、現時点で売りに出されている最新鋭の軍事装備を運用していることでよく知られています。

 しかし、世界中の多くの軍隊と同様に、この国でも老朽化した、時には予想外の兵器が、第2防衛戦や危険がより少ないと見なされた戦線で運用されています。サウジアラビア王国の場合では、「M60 "パットン"」戦車や「M113」装甲兵員輸送車(APC)といった旧式装備の一式だけでなく、ウクライナから緊急救助車として使用するためにに購入した、かなり風変わりな見た目をしたBTR-3 APCも含まれています。

 すでにシャルトルーズ(実際の色名)のカラーリングが施されているとおり、サウジアラビアの「BTR-3」が危険を冒して最前線まで近づくことは絶対にないでしょう。その代わり、このAPCが持つ水陸両用及びオフロード走行能力は、洪水や土砂崩れなどの自然災害時に災害救助活動を行うのに最適であることを意味しています。この役割で、「BTR-3」はロシアのGAZ-59037 – ベトナムでの運用で洪水被害者を救助する際にその価値が証明された「BTR-80」APCの民生版 – と非常に似た働きをします。

 サウジアラビアでは緊急救助車両として装備されていますが、「BTR-3」はAPCや歩兵戦闘車(IFV)型と同じ装甲を維持しているため、7.62mm弾や砲弾の破片(さらに言うと「ひょう」による被害)に対する全方位の脅威からの防護力を備えています。

 (正確な時期は不明ですが)サウジアラビアに納入された後、この車両は平時、災害時、そして紛争時に人命や財産を保護するための機関:民間防衛総局に就役しました。


 サウジアラビアといえば、西から東にかけて広がっている広大な砂漠地帯でよく知られていますが、おそらく一般的なイメージとは異なって、この国では、大雨や洪水、そして(全く驚くことではありませんが)砂嵐などの大規模な自然災害に定期的に対応する必要があります。

 このような災害によりうまく対処するため、最初に消防総局が1960年に設立されました。内務省(MOI)の傘下に置かれた同機関は、後に民間防衛総局(GDCD)に改称され、現在に至っています。自然災害への対応に加えて、GDCDは、毎年行われるメッカへのハッジ(大巡礼)の際に巡礼者の安全を確保するという極めて重要な役割を担っています。[1]



 緊急救助車両としての用途にふさわしいものとするため、「BTR-3」は砲塔の撤去、手すりや車体上部へのハッチの追加を含むいくつかの改修を受けました。

 民間防衛総局のエンブレムは、通常は各車両の側面、ときには正面にも施されています。



 また、装輪式の回収車両、大型トラック、ブルドーザーやショベルカーなどの装備といった、さまざまな種類の支援車両も民間防衛総局で運用されています。

 数年前まで、この組織は日本の「川崎重工」製「KV-107」タンデム式輸送ヘリコプターでさえも独自の航空隊で運用していましたことは注目に値するでしょう。[2]

 「KV-107」が00年代後半に退役した後、この種の航空任務はGDCDに代わってMOIが運用するシコルシキー「S-92」汎用ヘリコプターに引き継がれました。




 鮮やかな黄緑色の塗装にもかかわらず、サウジアラビアの「BTR-3」は、現在におけるこの王国で就役している最も目立たない装備の1つであり続けています。

 彼らの様子については、通常はそれらの展開を必要とする厳しい状況下のおかげで影が薄くなっているのかもしれませんが、詳しくないウォッチャーからすると、この「BTR-3」は驚くべき装備が最も予期しない場所に思いがけなく姿を現す可能性があることを気づかせてくれます。

 今回のケースでは無難な緊急救助車両が関係していますが、サウジアラビアのウクライナとの次の取引は、この王国により強力な能力の獲得をもたらすでしょう:「フリム-2」移動式短距離弾道ミサイル(SRBM)は、サウジアラビアからの資金提供をうけてウクライナで設計されたものであり、この10年間の早い時期にサウジアラビアで就役する予定となっています。



[1] The General Directorate of Saudi Civil Defense https://www.eyeofriyadh.com/directory/details/77_the-general-directorate-of-saudi-civil-defense
[2] kawasaki KV-107/IIA-SM https://www.dstorm.eu/pages/en/saudi/kv-107.html

※  この翻訳元の記事は、2021年5月5日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事
  を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇    
  所があります。




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