著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
3度の戦闘でその実力を証明した「バイラクタルTB2」UCAV(無人戦闘航空機)は、急速に国際的な輸出の成功を収めています。
このUCAVは単に世界中の多くの国で採用されているというだけではなく、これらの国のいくつかの異なる軍種でも導入されています。トルコでは、陸軍、海軍、ジャンダルマ総司令部(国家憲兵隊)、警察総局、国家情報機構で採用されています。この配分は、軍やその他の国家機関の各部門が、それぞれに必要な任務にTB2を使用することを保証します。任務の例としては、エーゲ海での監視やトルコ南部での山火事の監視などがあります。
アセットの配分について慎重にバランスを取っているのはトルコだけではありません。複数の軍種でTB2を導入したもう1つの運用国はウクライナです。同国は、2019年に空軍用に「バイラクタルTB2」を(全54機を発注したうちの)最初の6機を調達した後、2021年には海軍用に6機のTB2を導入しました。
2021年7月に海軍最初のTB2が到着したことで、1992年の海軍航空隊の創設以来、初めて斬新な戦力の導入が記録されたのです。実際、約30年間で得た唯一の「新しい」アセットは、2018年に就役した中古の「Ka-226」多用途ヘリコプターでした。[1]
したがって、海軍用TB2の導入に関する重要性をいくら強調しても誇張しすぎることにはなりません。同機の導入自体が2014年のロシア・ウクライナ戦争勃発後にウクライナが始動した再軍備計画のハイライトの一つとなっています。
「バイラクタルTB2」のようなUCAVのコストは、有人戦闘機のたった数分の一であることから、資金不足で苦しんでいるウクライナが近代化への取り組みを押し進めるためにTB2に大きく依存していることは驚くに当たりません。
一部の人々は、ロシアを抑止するためにウクライナはF-15戦闘機、E-2「ホークアイ」早期警戒(AEW)機、KC-135空中給油機やそれらに関連する兵装や照準装置に投資することが賢明だと提唱していますが、TB2のようなプラットホーム、徘徊兵器そして「バイラクタル・アクンジュ」への継続的な投資は、実際の戦時能力とともに、より経済的で現実的な抑止力をウクライナにもたらすことはほぼ確実と言うことができます(注:「アクンジュ」にはウクライナ産のエンジンが使用されています)。[2]
海軍で運用されるTB2が戦力増強装備としてに役立つことができる具体的な例としては、黒海にいる敵艦の位置を把握し、その位置を沿岸防衛ミサイルシステム(CDS)などの地上配備型アセットに中継することが挙げられます。
CDSはウクライナ軍にとって比較的新しい戦力であり、同国は射程距離280kmの対艦巡航ミサイルRK-360MT「ネプチューン」の導入を通じてその戦力の構築に重点的に取り組んできました。
小型のミサイル艇を建造する代わりに、このような陸上配備型の対艦ミサイルシステムを大量に生産することでウクライナのCDSアセットの生存性を高め、戦争が勃発した際にはこの新たに作り上げた抑止力をより長く維持することが可能となります。
この目標の達成に向けた動きは順調に進んでいるようであり、ウクライナは2025年までに「ネプチューン」CDSを装備した3個師団の運用をしたいと望んでいるようです。[3]
「バイラクタルTB2」は自身が搭載する4発の「MAM-L」誘導爆弾を用いて、敵艦などの精密打撃を必要とする標的を攻撃することもできます。
この誘導爆弾が誇る7kmの最大射程は、ロシア海軍の黒海艦隊の(「モスクワ」などの4隻を除く)全艦艇に搭載されている防空システムの有効射程をすでに上回っています(注:ここでの防空システムは4K-33M/SA-N-4「オーサ」を指すと思われるますが、通常の場合であれば有効射程が10km程度であるため、TB2には十分に対抗できることに留意する必要があります)。
「MAM-L」にINS/GPS誘導能力が導入されたことで射程距離はさらに14km以上に伸びたものの、優良な防空システムを装備している4隻の艦艇をアウトレンジするには不十分なままです。
海軍のTB2には、WESCAM「MX-15D」FLIRシステムや「MAM」シリーズ誘導爆弾といった多数の実績のあるシステムが装備されているほか、2019年にウクライナ空軍が導入したものよりも多くの改良が加えられています。
最も注目すべき点は、改良型の通信距離が従来型の150kmから最大で300kmに延長されたことでしょう。また、専用の地上管制ステーションにも若干の改良が施されたようであり、この新しいコンテナベースのシステムは(移動面で)より高い機動性をもたらします。
海軍のTB2は、空軍と共同で運用しているムィコラーイウ-クルバキノ空軍基地に駐留する第10海軍航空旅団で使用される予定となっています。同基地は、2014年初頭のロシアによる占領後に、クリミア半島からの待避を余儀なくされたウクライナ海軍航空隊が運用可能な唯一の飛行場です。[4]
ソ連崩壊後、ウクライナは空母1隻、誘導ロケット巡洋艦1隻、フリゲート5隻、「ズーブル」級揚陸ホバークラフト数隻、潜水艦1隻という膨大な海軍を受け継ぎましたが、同国は1990年代と2000年代における財政上の混乱によって大きな打撃を受けました。
ウクライナ海軍は、空母や巡洋艦などの大型艦の運用について現実的に期待することはできませんでしたが(そもそもそのような巨艦を必要としていませんでした)、フリゲートやコルベット、そしてミサイル艇の運用でさえも財政的に不可能となってしまったのです。
結果として、海軍はほんの数年のうちにほぼ全ての大型船を退役させ、現在まで同海軍の中核を形成し続けている、旧式化した艦艇から成る小さな「艦隊」だけを残しました。
海軍航空隊も同様の苦難に直面しました。彼らもソ連からSu-17、Su-27やMiG-29を含む見応えのある兵器を受け継いでおり、ソ連海軍航空隊のTu-22やTu-22Mといった爆撃機は空軍の長距離航空集団に引き継がれましたが、海軍と同様にこれらも僅か数年のうちに失う結果となってしまいました。
その代わり、かつてのウクライナ海軍が保有していた兵器が中国の空母機動部隊の設立に極めて重要なものとなりました。(2012年に改装されて「遼寧」号として就役した)「アドミラル・クズネツォフ」級空母を中国に売却したことを別として、ウクライナは空母艦載機であるSu-33を2機とSu-25UTGを1機も中国に売却しました。それらを広範囲に研究した結果として、最終的にJ-15の誕生に至ったのです。
中国が無関心でなければ、ウクライナが引き継いだTu-142対潜哨戒機やYak-38M VTOL戦闘機といったほかの海軍機も間違いなく中国にたどり着いていたことでしょう。
TB2の(トルコとウクライナ)2つの海軍航空隊への商業的な成功は、海洋プラットフォームとして設計されていないシステムとしては注目に値します。
ほかの「バイラクタルTB2」運用国も同様の用途としての運用に関心を向けるかもしれません。例えば、TB2の購入を契約済みであるポーランドは、バルト海で洋上監視活動を行うためのプラットフォームを使用する潜在性があります。
他方で、カタールは有事にイランによって運用されている高速攻撃艇の群れに直面する可能性がありますが、機動性の高い「MAM」誘導爆弾が非常に適したその対抗手段となるでしょう。
ウクライナ海軍航空隊にとって、現時点で専用のTB2を運用するという事実は、同隊の創設以来で初の攻撃能力を手に入れたことを意味します。
これらを用いた攻勢的な運用は、地対空ミサイルシステムだらけで激しい電子戦が予想される地域における敵対的な環境下で行わなければならないでしょうが、この無人プラットフォームがリビアやシリア、そしてナゴルノ・カラバフ上空で得た過去の経験は、TBがこのような環境下でも非常によく機能することを証明しています。
黒海におけるウクライナの戦力は、今後も急速に成長し続けることになっています。この途上でさらに多くのTB2が導入されることになり、トルコの「アダ」級コルベットも2隻発注されているため、ウクライナ海軍の最高の年が訪れるのはまだ将来のことになりそうです。
したがって、海軍用TB2の導入に関する重要性をいくら強調しても誇張しすぎることにはなりません。同機の導入自体が2014年のロシア・ウクライナ戦争勃発後にウクライナが始動した再軍備計画のハイライトの一つとなっています。
「バイラクタルTB2」のようなUCAVのコストは、有人戦闘機のたった数分の一であることから、資金不足で苦しんでいるウクライナが近代化への取り組みを押し進めるためにTB2に大きく依存していることは驚くに当たりません。
一部の人々は、ロシアを抑止するためにウクライナはF-15戦闘機、E-2「ホークアイ」早期警戒(AEW)機、KC-135空中給油機やそれらに関連する兵装や照準装置に投資することが賢明だと提唱していますが、TB2のようなプラットホーム、徘徊兵器そして「バイラクタル・アクンジュ」への継続的な投資は、実際の戦時能力とともに、より経済的で現実的な抑止力をウクライナにもたらすことはほぼ確実と言うことができます(注:「アクンジュ」にはウクライナ産のエンジンが使用されています)。[2]
海軍で運用されるTB2が戦力増強装備としてに役立つことができる具体的な例としては、黒海にいる敵艦の位置を把握し、その位置を沿岸防衛ミサイルシステム(CDS)などの地上配備型アセットに中継することが挙げられます。
CDSはウクライナ軍にとって比較的新しい戦力であり、同国は射程距離280kmの対艦巡航ミサイルRK-360MT「ネプチューン」の導入を通じてその戦力の構築に重点的に取り組んできました。
小型のミサイル艇を建造する代わりに、このような陸上配備型の対艦ミサイルシステムを大量に生産することでウクライナのCDSアセットの生存性を高め、戦争が勃発した際にはこの新たに作り上げた抑止力をより長く維持することが可能となります。
この目標の達成に向けた動きは順調に進んでいるようであり、ウクライナは2025年までに「ネプチューン」CDSを装備した3個師団の運用をしたいと望んでいるようです。[3]
「バイラクタルTB2」は自身が搭載する4発の「MAM-L」誘導爆弾を用いて、敵艦などの精密打撃を必要とする標的を攻撃することもできます。
この誘導爆弾が誇る7kmの最大射程は、ロシア海軍の黒海艦隊の(「モスクワ」などの4隻を除く)全艦艇に搭載されている防空システムの有効射程をすでに上回っています(注:ここでの防空システムは4K-33M/SA-N-4「オーサ」を指すと思われるますが、通常の場合であれば有効射程が10km程度であるため、TB2には十分に対抗できることに留意する必要があります)。
「MAM-L」にINS/GPS誘導能力が導入されたことで射程距離はさらに14km以上に伸びたものの、優良な防空システムを装備している4隻の艦艇をアウトレンジするには不十分なままです。
海軍のTB2には、WESCAM「MX-15D」FLIRシステムや「MAM」シリーズ誘導爆弾といった多数の実績のあるシステムが装備されているほか、2019年にウクライナ空軍が導入したものよりも多くの改良が加えられています。
最も注目すべき点は、改良型の通信距離が従来型の150kmから最大で300kmに延長されたことでしょう。また、専用の地上管制ステーションにも若干の改良が施されたようであり、この新しいコンテナベースのシステムは(移動面で)より高い機動性をもたらします。
海軍のTB2は、空軍と共同で運用しているムィコラーイウ-クルバキノ空軍基地に駐留する第10海軍航空旅団で使用される予定となっています。同基地は、2014年初頭のロシアによる占領後に、クリミア半島からの待避を余儀なくされたウクライナ海軍航空隊が運用可能な唯一の飛行場です。[4]
ソ連崩壊後、ウクライナは空母1隻、誘導ロケット巡洋艦1隻、フリゲート5隻、「ズーブル」級揚陸ホバークラフト数隻、潜水艦1隻という膨大な海軍を受け継ぎましたが、同国は1990年代と2000年代における財政上の混乱によって大きな打撃を受けました。
ウクライナ海軍は、空母や巡洋艦などの大型艦の運用について現実的に期待することはできませんでしたが(そもそもそのような巨艦を必要としていませんでした)、フリゲートやコルベット、そしてミサイル艇の運用でさえも財政的に不可能となってしまったのです。
結果として、海軍はほんの数年のうちにほぼ全ての大型船を退役させ、現在まで同海軍の中核を形成し続けている、旧式化した艦艇から成る小さな「艦隊」だけを残しました。
海軍航空隊も同様の苦難に直面しました。彼らもソ連からSu-17、Su-27やMiG-29を含む見応えのある兵器を受け継いでおり、ソ連海軍航空隊のTu-22やTu-22Mといった爆撃機は空軍の長距離航空集団に引き継がれましたが、海軍と同様にこれらも僅か数年のうちに失う結果となってしまいました。
その代わり、かつてのウクライナ海軍が保有していた兵器が中国の空母機動部隊の設立に極めて重要なものとなりました。(2012年に改装されて「遼寧」号として就役した)「アドミラル・クズネツォフ」級空母を中国に売却したことを別として、ウクライナは空母艦載機であるSu-33を2機とSu-25UTGを1機も中国に売却しました。それらを広範囲に研究した結果として、最終的にJ-15の誕生に至ったのです。
中国が無関心でなければ、ウクライナが引き継いだTu-142対潜哨戒機やYak-38M VTOL戦闘機といったほかの海軍機も間違いなく中国にたどり着いていたことでしょう。
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ほかの「バイラクタルTB2」運用国も同様の用途としての運用に関心を向けるかもしれません。例えば、TB2の購入を契約済みであるポーランドは、バルト海で洋上監視活動を行うためのプラットフォームを使用する潜在性があります。
他方で、カタールは有事にイランによって運用されている高速攻撃艇の群れに直面する可能性がありますが、機動性の高い「MAM」誘導爆弾が非常に適したその対抗手段となるでしょう。
ウクライナ海軍航空隊にとって、現時点で専用のTB2を運用するという事実は、同隊の創設以来で初の攻撃能力を手に入れたことを意味します。
これらを用いた攻勢的な運用は、地対空ミサイルシステムだらけで激しい電子戦が予想される地域における敵対的な環境下で行わなければならないでしょうが、この無人プラットフォームがリビアやシリア、そしてナゴルノ・カラバフ上空で得た過去の経験は、TBがこのような環境下でも非常によく機能することを証明しています。
黒海におけるウクライナの戦力は、今後も急速に成長し続けることになっています。この途上でさらに多くのTB2が導入されることになり、トルコの「アダ」級コルベットも2隻発注されているため、ウクライナ海軍の最高の年が訪れるのはまだ将来のことになりそうです。
[1] Ukrainian Naval Aviation returns Ka-226 helicopter to service https://defence-blog.com/ukrainian-naval-aviation-returns-ka-226-helicopter-to-service/
[2] Upgrading Ukraine’s Air Force could deter Russia https://www.atlanticcouncil.org/blogs/ukrainealert/upgrading-ukraines-air-force-could-deter-russia/
[3] Ukraine will form three divisions of Neptune missiles by 2025 https://en.ukrmilitary.com/2020/09/neptun-2025.html
[4] Ukrainian Navy has Received First Unit of Turkish-Produced Bayraktar TB2 UCAV system https://en.defence-ua.com/news/ukrainian_navy_has_received_first_unit_of_turkish_produced_bayraktar_tb2_ucav_system-1942.html
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[4] Ukrainian Navy has Received First Unit of Turkish-Produced Bayraktar TB2 UCAV system https://en.defence-ua.com/news/ukrainian_navy_has_received_first_unit_of_turkish_produced_bayraktar_tb2_ucav_system-1942.html
※ この記事は、2021年8月24日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳し
たものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇
所があります。
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