2022年7月17日日曜日

東側の怪鳥:ブルガリアの「MiG-25 "フォックスバット"」

 

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ブルガリアが過去の一時期に「MiG-25RBT "フォックスバット"」さえも装備していた相当な規模の偵察飛行隊を運用したことは全く知られていません。

 ブルガリアは強力なフォックスバットを運用していたワルシャワ条約機構唯一の加盟国でした。その高度に専門化された特性と法外な運用コストは、ほかの全加盟国にこの機体の導入を思いとどまらせるには十分だったと思われます。ブルガリア自体は4機の「MiG-25」を調達しただけですが、運用中における1機あたりの運用・保守コストは少しも改善されなかったようです。

 おそらくはこの理由のみならず冷戦後の安全保障環境が激変したこともあり、残った「MiG-25」は就役から10年以内に退役し、1991年にはロシアとの間で5機の「MiG-23MLD」と交換されてしまいました。

 これでブルガリアにおける「フォックスバット」の運用が終了したわけですが、ウクライナは1996年まで「MiG-25PD(S)」迎撃機と「MiG-25RBT」を運用し続け、ロシアは就役から約50年後の2013年11月に最後の「MiG-25RB(T)」を退役させました。

         

 約30年前の1982年11月、「MiG-25RBT(シリアルナンバー:「731、「736」、「754」)」3機と複座練習機型である「MiG-25RU」(シリアルナンバー:「51」)1機がブルガリア北東部にあるドブリッチ空軍基地に到着し、後にこれらの機は写真偵察と電子情報収集(ELINT)任務を遂行するため第26偵察航空連隊に就役しました。

 1984年4月12日、1機の「MiG-25RBT」が悪天候の中で燃料切れを起こしてパイロットが脱出を余儀なくされた結果として機体が失われるという悲劇が発生しましたが、幸運なことにパイロットは無傷であり、これがブルガリアにおける「MiG-25」唯一の損失となりました。

 1991年5月、残った3機は崩壊しつつあるソ連での不確かな未来へと旅立ったため、これがブルガリア領空における最後の飛行となりました。ソ連崩壊後、これらの機体はロシア空軍に引き継がれ、リペツク基地や後にシャタロヴォ基地から飛ばされ、さらにその後にはチェチェン紛争にも投入されたとのことです。[1]



 1950年代、創設されたばかりの第26偵察航空連隊は偵察用途に全く適していない機体の寄せ集めを装備しており、そのほとんどはオリジナルの状態の(未改修の)爆撃機で構成されていました。しかし、その後の数十年間で、この飛行隊は最終的にワルシャワ条約機構加盟国の中でも最も装備が整えられた航空偵察部隊へと成長していきました。

 1950年代の間に、この飛行隊に14機の「IL-28R」(及び1機の「IL-28U」練習機)が導入され、1960年代の初頭には約12機の「MiG-15bisR」が追加されました。ブルガリアでの運用は特に長続きしませんでしたが、このような航空機がほかの場所で時代を乗り越えて現在でも使用されている様子が見られることは特筆に値します。なぜならば、北朝鮮は未だにこれらの機体を稼働状態で維持しているからです。[2]

 「IL-28R」と「MiG-15bisR」は、後に「MiG-21R」戦術偵察機と偵察任務用に改修された「MiG-21MF」によって補完・更新されました。

 1980年代には「MiG-25RBT」だけでなく「Su-22M-4」も配備されたことで、この飛行隊の10年に及ぶ黄金期が到来しました。[3] [4]

 最後に残った「MiG-21R」と「MiG-21MF-R」が運用から退いたためにドブリッチ空軍基地は2002年に閉鎖され、その2年後には「Su-22M-4」も退役してしまいました。それ以来、ブルガリア空軍によって運用される偵察専用機はありません。

2機の「MiG-21」に挟まれて飛行するブルガリアの「MiG-25」の姿は、その巨大なサイズをはっきりと示しています。

 マルチプル・エジェクター・ラック(MER)を装備した場合、偵察用に開発された「MiG-25RBT」を最大で8発の「FAB-500T」500kg爆弾を搭載した高速爆撃機に変えることが可能です。しかし、ブルガリアが「MiG-25」用のMERを入手したことや、そもそも爆撃機としてこの機体を配備することに関心を持っていたことを示唆する証拠もありません。[5]

 これは、「MiG-25」を爆撃機として使用することに関連する酷い命中精度のためだったと思われます。本来は核爆弾を投下することのみを目的としていたため、その精度はあまり重要ではなかったのです。



 ブルガリアが偵察専用機を運用していた時代はとうの昔に過ぎ去り、空軍は「MiG-29」や「Su-25」といった別のソ連時代の機体を維持し、今や現代的な西側製の機体に完全に置き換えようと奮闘しています。


[1] МиГ-25 в България https://www.pan.bg/view_article-30-8605-MiG-25-v-Bylgariq.html
[2] North Korea's Armed Forces: On the Path of Songun https://www.helion.co.uk/military-history-books/the-armed-forces-of-north-korea-on-the-path-of-songun.php
[3] Bulgarian Air Defence and Air Force’s Tactical Air Units in January 1, 1983 http://www.easternorbat.com/html/bulgarian_tactical_air_force_8.html
[4] Bulgarian Air Defence and Air Force’s Tactical Air Units in January 1, 1988 http://www.easternorbat.com/html/bulgarian_tactical_air_force_81.html
[5] http://airgroup2000.com/forum/viewtopic.php?t=4985
 です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
 ります。

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