2021年10月16日土曜日

ブルガリアの空に注目: 「MiG-25」から「バイラクタルTB2」まで



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 最近、軍事アナリストの間では、ブルガリアがトルコから少なくとも6機の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)の導入を視野に入れているとの推測で沸き上がっています。

 この調達が成立すれば、ブルガリアで長い間失われていた戦力が復活すると同時に、同国は急速に増加しつつあるTB2の導入に関心を持つ国々や現在導入の途上にある国のリストに追加されることになります。しかし、ブルガリアは2020年にTB2を購入する試みを開始したものの、COVID-19のパンデミックで決定を延期したと言われています。[1]

 TB2が結果的にブルガリアに納入されれば、同国は2021年5月にポーランドが24機のTB2を導入したのに続いてEU諸国で2番目(ラトビアが導入した場合は3番目)のTB2調達国となるでしょう。

 中・東欧諸国がTB2に関心を寄せているという事実は、リビアやシリア、そして最近ではナゴルノ・カラバフでの度重なる成功の結果であることは間違いありません。もう一つの明らかな要因はシステムの初期費用と運用コストが低いことであり、これはMQ-9Bのような同種のシステムが単に高価すぎるブルガリアのような国では、最新のU(C)AVを運用することの費用対効果の分析が実際に有利に働いたようです。
 
 また、仲間のNATO加盟国からTB2を購入できるという点も間違いなく評価されることでしょう(さらなるセキュリティ面だけでなく、ほかのサプライヤーには欠けている品質の保障も提供します)。

 ブルガリアが過去に一時期はMiG-25RBT「フォックスバット」でさえも装備していた相当規模の偵察飛行隊を運用したことは全く知られていません。

 ブルガリアは強力なフォックスバットを運用していたワルシャワ条約機構唯一の加盟国でした。その高度に専門化された特性と法外な運用コストは、ほかの全加盟国にこの機体の導入を思いとどまらせるには十分だったと思われます。ブルガリア自体は4機のMiG-25を調達しただけですが、運用中における1機あたりの運用・保守コストは少しも改善されなかったようです。

 おそらくはこの理由のみならず冷戦後の安全保障環境が激変したこともあり、残ったMiG-25は就役から10年以内に退役し、1991年にはロシアとの間で5機のMiG-23MLDと交換されてしまいました。

 これでブルガリアにおける「フォックスバット」の運用が終了したわけですが、ウクライナは1996年までMiG-25PD(S)迎撃機とMiG-25RBTを運用し続け、ロシアは就役から約50年後の2013年11月に最後のMiG-25RB(T)を退役させました。

         

 約30年前である1982年11月、3機のMiG-25RBT(シリアルナンバー:「731、「736」、「754」)と1機のMiG-25RU複座練習機型(シリアルナンバー:「51」)がブルガリア北東部にあるドブリッチ空軍基地に到着しました。

 その後、これらの機は写真偵察と電子情報収集(ELINT)任務のため、第26偵察航空連隊に就役しました。

 1984年4月12日、1機のMiG-25RBTが悪天候の中で燃料切れを起こし、パイロットが脱出を余儀なくされた結果として機体が失われるという悲劇が発生しましたが、幸運なことにパイロットは無傷であり、これがブルガリアにおけるMiG-25唯一の損失となりました。

 1991年5月、残った3機は崩壊しつつあるソ連での不確かな未来へと旅立ったため、これがブルガリア領空における最後の飛行となりました。

 ソ連崩壊後、これらの機体はロシア空軍に引き継がれ、リペツク基地や後にシャタロヴォ基地から飛ばされ、さらにその後にはチェチェン紛争にも投入されました。[2]



 1950年代、第26偵察航空連隊は当初、偵察用途に全く適していない機体の寄せ集めを装備しており、そのほとんどはオリジナルの状態の(未改修の)爆撃機で構成されていました。しかし、その後の数十年間で、この飛行隊は最終的にワルシャワ条約機構加盟国の中でも最も装備が整えられた航空偵察部隊へと成長していきました。

 1950年代の間に、この飛行隊に14機のIL-28R(及び1機のIL-28U練習機)が導入され、1960年代の初頭には約12機のMiG-15bisRが追加されました。ブルガリアでの運用は特に長続きしませんでしたが、このような航空機がほかの場所で時代を乗り越えて現在でも使用されている様子が見られることは特筆に値します。なぜならば、北朝鮮は未だにこれらの機体を稼働状態で維持しているからです。[3]

 IL-28RとMiG-15bisRは、後にMiG-21R戦術偵察機と偵察任務用に改修されたMiG-21MFによって補完・更新されました。

 1980年代にはMiG-25RBTだけでなくSu-22M-4も配備されたことで、この飛行隊の10年に及ぶ黄金期が到来しました。[4] [5]

 最後に残ったMiG-21RとMiG-21MF-Rが運用から退いたためにドブリッチ空軍基地は2002年に閉鎖され、その2年後にはSu-22M-4も退役してしまいました。それ以来、ブルガリア空軍によって運用される偵察専用機はありません。

2機のMiG-21に挟まれて飛行するブルガリアのMiG-25の姿は、その巨大なサイズをはっきりと示しています。

 マルチプル・エジェクター・ラック(MER)を装備した場合、偵察用に開発されたMiG-25RBTは、最大で8発の「FAB-500T」500kg爆弾を搭載した高速爆撃機に変えることが可能です。しかし、ブルガリアがMiG-25用のMERを入手したことや、そもそも爆撃機としてこの機体を配備することに関心を持っていたことを示唆する証拠もありません。[6]

 これは、MiG-25を爆撃機として使用することに関連する酷い命中精度のためだったと思われます。本来は核爆弾を投下することのみを目的としていたため、その精度はあまり重要ではなかったのです。



 ブルガリアが偵察専用機を運用していた時代はとうの昔に過ぎ去り、空軍はMiG-29やSu-25といった別のソ連時代の機体を維持し、最終的にはより現代的な西側の機体に完全に置き換えようと奮闘しています。この点で、TB2のようなUCAVは貴重な偵察アセットをもたらすだけではなく、現在でも運用されているSu-25やMi-24の役割の少なくとも一部を引き継ぐ費用対効果の高いオプション(対地攻撃能力)も構成しているため、より現在の財政支出と両立し得る価格でブルガリアを無人機主導の戦争の時代に推し進めることが可能です。

 この購入が最終的に実現するか否かであろうと、バイカル社のTB2がEU諸国を相手にした最後の販売を終える可能性は極めて低いでしょう。実際、最近のこのタイプの無人機に関心が寄せられている現象は、ヨーロッパ亜大陸だけにとどまらない実質的な輸出の波が手元にあることを示しているようです。

 現在、ブルガリアはこの波に乗る最初のEU加盟国の1つであり、(TB2の導入は)偵察機を運用してきた豊かな歴史の存続を確かなものとするでしょう(注:2021年10月現在でポーランドやアルバニアがTB2の購入を表明しています)。



[1] Avrupa sıraya girdi! Yunanistan'dan Türkiye itirafı https://ekonomi.haber7.com/ekonomi/haber/3057811-avrupa-siraya-girdi-yunanistandan-turkiye-itirafi
[2] МиГ-25 в България https://www.pan.bg/view_article-30-8605-MiG-25-v-Bylgariq.html
[3] North Korea's Armed Forces: On the Path of Songun https://www.helion.co.uk/military-history-books/the-armed-forces-of-north-korea-on-the-path-of-songun.php
[4] Bulgarian Air Defence and Air Force’s Tactical Air Units in January 1, 1983 http://www.easternorbat.com/html/bulgarian_tactical_air_force_8.html
[5] Bulgarian Air Defence and Air Force’s Tactical Air Units in January 1, 1988 http://www.easternorbat.com/html/bulgarian_tactical_air_force_81.html
[6] http://airgroup2000.com/forum/viewtopic.php?t=4985

※  当記事は、2021年8月16日にOryx本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所

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