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2022年1月11日火曜日

草原の守護者:カザフスタンのUAV飛行隊(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 2021年11月、カザフスタンはトルコ航空宇宙産業(TAI)との間で3機の「アンカ」無人戦闘航空機(UCAV)を導入する契約を結んだことが公表されました。[1]

 これらの新規調達は、カザフスタン空軍が中国から4機の「翼竜Ⅰ」を導入した初の無人機戦力を獲得して以来、 約6年後の出来事となります。[2]

 カザフスタンは自国の武装ドローン計画を押し進めるために中国製UCAVをさらに購入するのではなく、2021年にトルコに目を向けたという結果になりました。カザフスタンにUAVを供給しているもう1つのサプライヤーはイスラエルですが、同国は(徘徊兵器以外の)UCAVを海外に輸出していないため、必然的にその候補から外れたようです。

 トルコ製TAI「アンカ」の導入は、カザフスタンがこのUCAVの調達を検討しているという長年続く憶測にようやく終止符を打ちました。すでに2018年には、カザフスタン航空産業(KAI)がTAIとカザフタンで「アンカ」UAVとTAI「ヒュルクシュ」高等練習機を生産する契約を結んだと報じられていました。[2]

 ところが、この合意は実現しなかったようであり、しばらくの間、最終的にはイスラエルがカザフスタンへ「翼竜Ⅰ」以外の中高度・長時間滞空(MALE)UAVを納入する契約を得るだろうと考えられていました[3] [4]。

 たった4機の「翼竜Ⅰ」の発注は、カザフスタンが無人機戦のドクトリン構築と訓練や、後でさらに多数導入する機種を決定するために調達されたことを示す可能性があります。
           
 カザフスタンはミャンマーに続いて、中国の隣国としては2番目に中国製UCAVを導入した国となりました。[5]
          
 中国が自国との国境付近でUCAVの運用に何らかの制限を課しているかどうかは不明ですが、納入された「翼竜Ⅰ」は中国との国境から約800km離れた、最近「バイラクタルTB2」の運用国になったキルギスに近いタラズに配備されています。[6]

 カザフスタンの「翼竜Ⅰ」は2017年の「祖国防衛の日」の軍事パレードで初公開され、この時には2機がアスタナ(現ヌルスルタン)の通りを行進しましたが、アゼルバイジャンやトルクメニスタン、そしてウクライナといった国で見られるようなパレード会場上空でのフライパスやトレーラーに搭載されて登場するのではなく、皮肉にもアメリカ製HMMWVに牽引される形で初披露されてしまいました。

 後に1機の「翼竜Ⅰ」が軍事・技術展示会「KADEX-2018」にも登場し、ここでは会場で展示されました。[7]

2017年にヌルスルタンで実施された軍事パレードに登場した2機の「翼竜Ⅰ」

 「翼竜Ⅰ」と共に、少なくとも2種類のイスラエル製偵察用UAVと少数のロシア製「オルラン-10E」ドローンが運用されています。

 エルビット・システムズ社製「スカイラークⅠ-LEX」は、2014年にカザフスタン軍が初めて運用を開始した無人偵察機です。この機種は、カザフスタンとエルビット・システムズ社の合弁事業を通じてカザフスタン国内でも生産されています。[8]

 しかし、この国の無人兵器に対する熱意は単に外国製の機体を組み立てるだけに終わらず、今やそれを超えて拡大しつつあります。すでにカザフスタンには新興のUAV研究開発機関が存在しており、これまでにいくつかのドローンが生み出されてきました。

 それらの中で最も見込みがある国産UAVが「シャガラ」であり、同機は2021年初頭に国家試験に合格しました。[9] [10]


無人偵察機 - 現役


無人戦闘航空機 - 現役

無人航空機 - 試作


 「翼竜Ⅰ」と一緒に「ブルーアロー7」空対地ミサイル(AGM)と「YZ-100」誘導爆弾もカザフスタンに導入されました。「翼竜Ⅰ」用の高度な兵装は調達されていないと考えられており、同機は機体の下にある前方監視型赤外線装置(FLIR)のみで各種任務を遂行します。

 カザフスタンの「翼竜Ⅰ」が「ブルーアロー7」を用いて模擬標的を攻撃した映像はここで視聴することができます。 [11]

 また、同国で運用される「翼竜Ⅰ」と「スカイラークⅠ-LEX」に関するドキュメンタリー番組ここで視聴することができます。[12]

 2017年にカザフスタンに納入された後の「翼竜Ⅰ」は、先述のとおりキルギスとの国境に近いタラズ空港を拠点にしています。

 かつてタラズ空港は約40機の「Mi-17」と18機の「Mi-26」を有する第157ヘリコプター連隊の本拠地でしたが、1990年代には同連隊の動きが縮小され始め、「翼竜Ⅰ」が配備される以前の時点でこの基地は民間用の空港にされてしまいました。

 現在、かつて「Mi-26」が使用していた場所には4つの格納庫が設けられています。このうちの1棟だけが「翼竜Ⅰ」の格納庫であり、残りの3棟は地上管制ステーション(GCS)や運用に必要な装備資機材や車両用として使われているようです。

2機の「翼竜Ⅰ」がタラズ空港にある格納庫の前で駐機している(2019年6月20日)

 もうすぐカザフスタンは、中国、イスラエル、そしてトルコから入手した数多くのUAVを運用する国となる予定です。

 これらの外国製を導入することに加えて、この国はイスラエル製UAVの国内での組み立てや国産無人UAVの設計・製造を通じて、自国の防衛産業を(UAV関連の事業に)関わらせる意図も持っています。

 2020年11月には、カザフスタンもトルコの「バイラクタルTB2」の導入に関心を寄せていると報じられています。[13]

 TB2の導入が本当に実現するかは不明ですが、カザフスタンが既存のUAV戦力をさらに拡大するための新たな方法を模索することは間違いないでしょう。

カザフスタン空軍向けのTAI「アンカ」初号機

[1] Kazakhstan buys 3 Turkish Aerospace-made Anka UCAVs: Report https://www.dailysabah.com/business/defense/kazakhstan-buys-3-turkish-aerospace-made-anka-ucavs-report
[2] Turkey to Develop UAVs with Kazakhstan https://www.uasvision.com/2018/05/29/turkey-to-develop-uavs-with-kazakhstan/
[3] Israeli UAVs Will Soon Be Manufactured In Kazakhstan https://caspiannews.com/news-detail/israeli-uavs-will-soon-be-manufactured-in-kazakhstan-2019-8-8-40/
[4] Israeli IAI Sold Two Heron MKII UAV To Kazakhstan https://www.globaldefensecorp.com/2021/01/29/israeli-iai-sold-two-heron-mkii-uav-to-kazakhstan/
[5] Chinese drones a killer eye in the sky in Myanmar https://asiatimes.com/2021/05/chinese-drones-a-killer-eye-in-the-sky-in-myanmar/
[6] Turkish Drones Are Conquering Central Asia: The Bayraktar TB2 Arrives To Kyrgyzstan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkish-drones-are-conquering-central.html
[7] KADEX 2018: Kazakh Air and Air Defence Forces draw Wing Loong I MALE UAV https://www.armyrecognition.com/kadex_2018_news_official_show_daily/kadex_2018_kazakh_air_and_air_defence_forces_draw_wing_loong_i_male_uav.html
[8] Factory for production of SkyLark-1LEX UAVs opens in Kazakhstan https://www.israeldefense.co.il/en/node/49945
[9] Ұшу аппараттары І Ғылым https://youtu.be/bVN4SHRUgak
[10] Kazakhstan’s ‘Shagala’ Drone Completes Test Flights https://www.uasvision.com/2021/02/12/kazakhstans-shagala-drone-completes-test-flights/
[11] Қазақстандық армия ҰҰА қарқынды дамытуда / БПЛА: казахстанская армия развивает оружие будущего https://youtu.be/-Ji7SKRjwnM
[12] «AQSAÝYT». Қарулы Күштеріміздің қолданысындағы ұшқышсыз ұшу аппараттарының мүмкіндігі қандай? https://youtu.be/W9fEC7cjSOY
[13] Kazakhstan may ditch Chinese UAVs for Turkish Bayraktar TB2s, Russian media claims https://www.dailysabah.com/business/defense/kazakhstan-may-ditch-chinese-uavs-for-turkish-bayraktar-tb2s-russian-media-claims

  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した      箇所があります。 


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2022年1月5日水曜日

定評のある機体: カザフスタンが導入した「Y-8」輸送機



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 中国の「Y-8」輸送機は、その設計の独創性で決していかなる賞を受けることはないでしょう。なぜならば、同機は1970年代にソ連の「An-12」をリバースエンジニアリングして中国の要求に合うように僅かな変更を加えた事実上の派生型だからです。

 1970年代以降、陝西飛機工業公司は「Y-8」の量産で得た経験のみならず「ロッキード マーチン」社「An-12」の開発メーカーである「アントノフ」社など海外の助言を活用することによって、実績ある機体の改良に着手しました。

 結果として完成した「Y-8F-600」と「Y-9」について、その外見は依然として既存の「Y-8」シリーズに似ていますが、引き伸ばされて再設計された胴体、グラスコックピットやプラット&ホイットニーのターボプロップ式エンジンを備えていることが特徴です(注:Y-9は国産エンジンを搭載)。

 2006年に初めて導入されて以降、「Y-8F-600」は中国人民解放軍空軍と海軍航空隊で現在も使用されている特殊作戦機のベース機となり、その1つであるAWACS型(ZDK-03)もパキスタンに輸出されています。

 このことを踏まえると、海外諸国が「Y-8」の新しい派生型や「Y-9」を購入する代わりに、わざわざ新造された旧バージョンの「Y-8」を調達し続けていることは、いっそう驚くべきことだと言えます。

 冷戦初期を彷彿とさせる外観が特徴であるこれらの旧世代機は、未舗装の滑走路での運用を可能にしている頑丈さと整備のしやすさなどで高く評価されています。

 また、「Y-8」は「C-130」や「Il-76」のような類似機と比べた場合、比較的シンプルな構造であることと、中国の資金拠出の柔軟性と融資のおかげで価格もかなり低いものとなっています。ベネズエラ空軍が長年にわたってロシアから「IL-76」と「IL-78」の導入を検討した後の2012年に8機の「Y-8」を調達した背景には、このような納得のいく理由があったと思われます。

 その数年後、カザフスタンはベネズエラに続いて8機の「Y-8F-200W」を発注しましたが、これらは空軍用ではなく国家警備隊用の機体でした。2018年9月に最初の「Y-8」が到着し、国家警備隊初の航空兵力が就役となりました。
                              
        

 国家警備隊(及びその前身である国内軍)は2014年の創設以来、「Y-8」の導入までは空軍の輸送能力に全面的に依存していました。

 世界第9位の国土を持つ国として、「Y-8」の長い航続距離と多くの兵員を運ぶことができる能力は、きっと高く評価されるに違いありません。カザフスタン国境警備隊も同様の理由で「An-74」と新たに導入したCASA「C295W」の飛行隊を運用しています。

 国家警備隊が中国機を選んだ別の理由としては、「Y-8」の納入に要する時間に関係している可能性があります。なぜならば、2018年4月21日に契約を結んだ後、すでに同年の9月には最初の機体がカザフスタンに到着し、2019年の第1四半期には発注した全8機の納入が完了したからです。[1]



 確かにカザフスタンは「Y-8」の設計とレイアウトを全く知らないわけではありません。なぜならば、同国は過去10年の終わり頃に最後の機体が退役するまでに多くの「An-12」を運用していたからです。

 この頑丈な輸送機はその積載量や耐久性、そして航続距離の長さのおかげでカザフスタンのニーズに非常に最適なものとなっていました。このことを踏まえると、カザフスタンを「An-12」に酷似した「Y-8」の導入に導いたのは、(すでに慣れ親しんだ機体と共通性が多いという利点を除けば)まさにこれらのメリットが決定打となった可能性があります。

 「An-12」がカザフスタンで運用されていた際は、アルマトイ国際空港(IAP)、ヌルスルタンIAP、ジェティゲン空軍基地を拠点としていたほか、国内各地にある別の空軍基地にも頻繁に配置されました。これを考慮すると、「Y-8」もこれらの基地や空港を拠点とする可能性が高いと思われます。

離陸滑走中の「An-12」(空軍機)
カザフスタンの「Y-8」:垂直尾翼にある国家警備隊のマークに注目。

 カザフスタンが導入した8機の「Y-8」は、国内各地にいる国家警備隊の輸送能力を著しく向上させています。導入した「翼竜Ⅰ」UCAVの運用があまりうまくいかなかったと思われている一方で、「Y-8」はこの国で確固たる地位を築いた数少ない中国製兵器の1つと言えます。

 「Y-8」の導入が中国の関与をさらに強める前兆であるかどうかはまだわかりません。しかし、カザフスタンが自国産業の発展とそれに伴う軍の近代化を目指す傾向を継続していることから、トルコ、南アフリカ、イスラエルといった中国以外の国々も潜在力を秘めた興味深いサプライヤーとなるでしょう。

 その一方で、信頼できる「Y-8」はカザフスタンにとって安全面で良好な実績を持つ頑丈な航空機となり、運用者への貢献を実証してくれるに違いありません。



[1] Kazakhstan’s first Y-8 transport aircraft makes maiden flight in China https://defence-blog.com/kazakhstans-first-y-8-transport-aircraft-makes-maiden-flight-china/
[2] China hands over Y-8F200W transport aircraft to Kazakhstan https://archive.ph/20181006143401/https://www.janes.com/article/83301/china-hands-over-y-8f200w-transport-aircraft-to-kazakhstan#selection-900.0-900.1

ヘッダー画像:Maxim Morozov(敬称略)

※  当記事は、2021年8月21日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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