2023年2月20日月曜日

新たなる脅威:ロシア製徘徊兵器による戦果(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 ロシアによってイランが開発した徘徊兵器(注:自爆ドローンこと事実上の巡行ミサイル)が使用されたことは、世界中のメディアで大きく取り上げられています。この徘徊兵器はウクライナの民間インフラ施設に脅威を与えているものの、今までにロシアはウクライナの軍事目標に対する使用をほとんど控えてきました。

 ウクライナ軍にとってより深刻な展開は、ロシアの地上管制ステーションから届かないところにあるウクライナの火砲やレーダー、そして地対空ミサイル(SAM)システムを攻撃するためにロシアが配備を進めている、国産開発の「ザラ・アエロ」社製「クーブ」「ランセット-3(M)」徘徊兵器という形で登場したことでしょう。

 ロシアの攻撃ヘリコプター部隊が甚大な損失を被ったためか、こうした戦術徘徊兵器の使用が増加してきています。[1]

 ロシアにおけるUCAVのストックについては状況が全く改善されていません。そもそもUCAV自体が欠乏していることがこの新型兵器の大きな損失を防いでいる唯一の要因という有様です。[2]

 ロシアは、上記の理由などによる航空支援の不足を補うためにイランの徘徊兵器を追加調達するのではなく、2020年にシリアですでに投入した「ランセット-3」の改良型(注:当記事では「ランセット3-M」と呼称する)の生産を大幅に拡大しようと試みているのです。[3]

 2022年10月以降に「ランセット-3M」の使用が増加していることが確認されている一方で、効果の低い「クーブ」も引き続き使用されていることも判明しています。

 これらの徘徊兵器は「オルラン-10」などの無人偵察機で適切な目標を発見した後、徘徊兵器が目標のいる場所に向けて射出されます。ただし、「ランセット」も「クーブ」も移動目標への攻撃を想定して開発されていないため、目標が当初の場所から移動した場合、その命中率の大幅にな低下が避けられません(注:移動目標に対する攻撃事例も確認されているため、全く命中できる可能性が無いというわけではありません)。[4]

 この2種類の徘徊兵器は非移動目標に対しても攻撃に失敗した事例が確認されています。 [5] [6]

 また、目標の前に太い木の枝がある場合は徘徊兵器の早期爆発に繋がる可能性もあるようです。[7]

 その上、双方とも弾頭重量が軽いため(「ランセット-3(M)」は3~5kg程度)、仮に目標に直撃しても必ずしも撃破が保証されるとは限りません。

 敵の破壊をもたらすツールとして機能し、ウクライナの砲兵部隊員の恐怖心を煽ることに成功したことに加えて、ロシアは命中映像をアップロードすることで徘徊兵器によるプロパガンダ効果をフル活用することも忘れてはいません。皮肉なことに、アップロードされた映像にはウクライナの目標に対する命中弾だけでなく、失敗例や明らかにデコイの「ブーク-M1」地対空ミサイルシステムへの攻撃さえも含まれていました。[8]

 「クーブ」と異なって、「ランセット-3(M)」には終末期の命中精度を高めるために電子光学誘導装置が搭載されているため、常に目標への戦果を撮影できる利点があります。その結果として、アナリストはこの徘徊兵器による攻撃の成功回数を把握することが可能となっていることは大きな恩恵と言っても過言ではないでしょう。

  1. 日本語版記事での最終更新日:2023年3月18日(本国版は3月中旬)
  2. 当一覧の更新は上記をもって終了しました(損失リストの集計などに集中するため)
  3. ロシアの「クーブ」及び「ランセット-3(M)」によって撃破・無力化されたウクライナの兵器類の詳細について、以下の一覧を見ることができます。
  4. これらの損失の大部分は、ロシアの「ランセット-3M」部隊が居住していたドネツク州ヴフレダール付近で生じたものが占めています。
  5. この一覧には、写真や映像によって証明可能な撃破または鹵獲された兵器類だけを掲載しています。したがって、実際に喪失した兵器類はここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。
  6. 建物兵士に対する攻撃については、この一覧に掲載されていません。
  7. この一覧については、資料として使用可能な映像や動画等が追加され次第、更新されます。

命中したウクライナの重火器・軍用車両など (98)

戦車 (11)

工兵・支援車両等 (2)

牽引砲(21)

自走砲(20)

多連装ロケット砲 (4)

指揮通信車両など(2)

艦艇(3)

トラック・各種車両 (8)
命中を免れたウクライナの重火器・軍用車両など(39)

ウクライナ側の兵器類 (39)


命中したデコイ(6)

ウクライナ側のデコイ (4)

ロシア側のデコイ(2)

特別協力:Tuffy

[1] List Of Aircraft Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/03/list-of-aircraft-losses-during-2022.html
[2] Too Little, Too Late - A Guide To Russia’s Armed Drones https://www.oryxspioenkop.com/2022/10/too-little-too-late-guide-to-russias.html
[3] https://twitter.com/Archer83Able/status/1472606400052449292
[4] https://twitter.com/imp_navigator/status/1591732624095150083
[5] https://twitter.com/imp_navigator/status/1526851460956311552
[6] https://twitter.com/RALee85/status/1588514816888475648
[7] https://twitter.com/imp_navigator/status/1580546070605893632
[8] https://twitter.com/UAWeapons/status/1580853706807193607

※  当記事は、2022年11月25日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 

2023年2月17日金曜日

ベラルーシの野獣:「ボラット-V2」歩兵戦闘車


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 1992年の創設当初から一貫して、ベラルーシ陸軍は装備の新規調達を欠く状態を過ごしてきました。僅かしか使えない予算の大部分は戦闘機や防空システムの調達に充てられており、その大部分もロシアから友好価格で導入されています。

 陸軍はロシアから25台の「T-72B3 "2016年型"」戦車と約65台の「BTR-82A(M)」歩兵戦闘車(IFV)を受領したほか、2012年以降に中国から22台の「EQ2058」と数量不明の「CS/VN3」歩兵機動車(IMV)の寄贈を受けました。また、中国は2015年にベラルーシ陸軍で運用を開始した「ポロネズ」誘導式多連装ロケット砲/短距離弾道ミサイルシステムの技術をもたらした出所でもあります。

 定評あるベラルーシの防衛産業の製品についても、限られた数だけが陸軍の配備まで行き着くことができました。「ボラット-1」IMVと(現代版「BRDM-2」とも称される)「ケイマン」偵察車は共に軍への就役が認められ、ロシアの「ティーグル-M」IMVは「Lis-PM」としてベラルーシで生産が始められて少数が軍での運用に入りました。

 「BTR-70」装甲兵員輸送車(APC)の多くも新しいエンジンと「BTR-80」式の折りたたみ式側面ハッチが備わった「BTR-70MB1」規格にアップグレードされています。

 ただし、こうした新規装備の導入は、ベラルーシが保有する装甲戦闘車両(AFV)のストックが直面する全体的な陳腐化にほとんど対処することができません。なぜならば、陸軍の主要装備である戦車とIFVは未だに「T-72B」と「BMP-2」が占めていますが、これらは一度もアップグレードされていないからです。

 最近にポーランドが「K2PL」戦車1000台と「M1A2」戦車366台を購入したことを考慮すると、ベラルーシは近いうちに量だけでなく質でも著しく不利な立場に追い込まれることになることは避けられないでしょう。

 ベラルーシ陸軍が保有する兵器にまん延している陳腐化に対処するため、同国の防衛企業はいくつかの近代化プログラムを提案しています。これらのうち、「T-72BM2」戦車、「ウラガン-M」多連装ロケット砲(MRL)、「9A33-2B "オーサ"」 地対空ミサイルシステムが、軍に採用される可能性が最も高い改修プログラムとなっています。

 将来的にベラルーシ陸軍の近代化に貢献する可能性がある開発プロジェクトに「MZKT-690003 "ボラット-V2"」装輪式IFVがあります。これは「ミンスク・ホイール・トラクター・工場(MZKT)」傘下のブランドである「ボラット」で設計され、2021年の「ミンスク武器・軍用機器展示会(MILEX)」で初公開された「ボラット-V2」は、ベラルーシの「BTR-70/80」APCや「BMP-2」IFVさえも補完・置換する存在として位置づけられたIFVです。

 (大規模な導入に成功するために)「ボラット-V2」は2021年にすでに65台が導入された「BTR-82」と競わなければなりませんが、ロシアのAFV産業が今やウクライナで既に300台以上の「BTR-82A」を喪失したロシア軍のニーズを満たすことで多忙を極め続けている事実は、「ボラット-V2」が成功する見込みを大幅に高めるかもしれません。[1]

改修型「BMP-2」用砲塔を搭載した「ボラット-V2」

 「BTR-70」や「BTR-80」と比べて「ボラット-V2」の最も特筆すべき改良点は、その火力にあります。「ボラット-V2」は多岐にわたる種類の砲塔を搭載することが可能であり、BTRの「KPV」14.5mm重機関銃とは異なって、搭載可能な砲塔は「2A42」30mm機関砲を備えているのです。

 「ボラット-V2」の試作型が最初に公開された際には、新型の砲手用サイトとレーザー測距計、新型のパノラマサイトがインテグレートされた改修型「BMP-2」の砲塔が搭載されていました。この砲塔も「9M113 "コンクールス"」対戦車ミサイル(ATGM)の発射能力を維持していますが、「RK-2S(タンデム-HEAT弾)」と「RK-2OS(HE-FRAG弾)」ATGMを発射可能なベラルーシの「シェルシェン-Q」システムにアップグレードするオプションもあります。


 このIFVは、ベラルーシ国産の「BM-30 "エイドゥノック"」 無人砲塔も搭載可能です。この無人砲塔は、改修型「BMP-2」砲塔と同じ2A42」 30mm機関砲と「PKT」7.62mm軽機関銃、そしてパノラマサイトを備えているものの、ATGM発射機はありません。

「BMP-2」用砲塔搭載型、リトアニアの「スパイク」ATGM搭載型「ボクサー」及びポーランドの「ロソマク」などの装輪式IFVと比較するとATGM発射機能の未実装は大きな弱点ですが、それでも「BTR-70/80」よりは大幅に火力の向上がみられます。
 
 

ベラルーシ陸軍の「BTR-82A」(上)と「BM-30」無人砲塔を搭載した「ボラット-V2」(下):両者は過去数十年にわたる装輪式IFVの進歩をはっきりと示している

 22トンの重量を誇る「ボラット-V2」は、2人または3人の乗員に加え、最大8人の兵士を搭乗させることが可能です(選択した砲塔によって人数に変化が生じます)。兵士たちは(ガンポートが装備された)後部ドアから内部に乗り込みますが、これは「BTR-70」や「BTR-80」の小さな側面ドアと比べると非常に大きな改良点と言えるでしょう。

 ベラルーシの「MAZ-潍柴」工場で組み立てられた中国の「潍柴」製「WP13.550」ディーゼルエンジン(550馬力)は「ボラット-2」に舗装路での110km/hもの最高速度をもたらしており、2つのウォータージェット推進機によって時速10km/hで水上の障害物を乗り越えることも可能となっています。

 「ボラット-V2」の装甲は全周囲が7.62mm徹甲弾と砲弾の破片に対する防御能力を持つほか、車体前面は12.7mm弾に耐える能力を備えています。特にリトアニアの「ボクサー」IFVが全周囲で14.5mm 徹甲弾に対する防護能力があることに比べれば、「ボラット-V2」は現代の基準からすると多少見劣りするものの、すでにベラルーシの「BTR-70MB1」の一部に装備されているスラットアーマーを装着することで、さらに防護力を強化することが可能です。
 

「ボラット-V2」は最大8人の兵員を輸送可能:「BMP-2」用砲塔をルーフマウント式の「BM-30」無人砲塔と交換することで、内部空間をさらに拡張することができる

 ベラルーシ国産の装輪式IFVを開発する計画は、決して斬新なものではありません。

 2008年、「MZKT」は「MZKT-590100 “ウムカ”」と名付けた装輪式IFVの開発計画を立ち上げました。(「BMP-2」の砲塔がこのIFVに不向きだったほかに)当時のベラルーシには砲塔を製造する防衛企業が存在しなかったため、「MZKT」はベース車両のみの開発に専念し、砲塔は海外から調達することにしました。

 満足な投資がなされた結果として、国内外の顧客向けに数百台もの「BTR-3」及び「BTR-4」装輪式IFVを生産したウクライナとは正反対に、「MZKT」は国防省や国家軍需産業委員会から「ウムカ」のための資金を確保することができなかったため、試作車両を製作する前の2010年代初頭にこのプロジェクトはひっそりと放棄されてしまいました。[2]

 結局、ベラルーシ陸軍は2021年にロシアから65台の「BTR-82A」を導入するに至っています。 [3]

不運な結末を迎えた「MZKT-590100 "ウムカ"」

 装軌式IFVの置き換えや一緒に運用するという装輪式IFVの概念が世界中の軍隊でますます普及している流れの中で、「ボラット-V2」は増え続ける装輪式IFVの仲間入りをしました。

 隣国のウクライナにとって、 装輪式IFVの開発と生産は2022年に勃発した戦争で最大限に活用されるという有益なアセットのみならず、輸出面での大成功をもたらしてくれました。ベラルーシが同様の成功を再現できるかどうかはまだわかりませんが、「ボラット-2V」がこの国に導入されるならば、その後の輸出市場における成功の可能性は大きく広がるでしょう。

 ATGMを「BM-30」型砲塔へ装備することは「ボラット-V2」がベラルーシ陸軍にとってさらに魅力的な選択肢になることに貢献するほか、近隣諸国が急速に戦力を拡大しつつある中、これまで「BTR-70/80」を運用していた部隊の火力を大幅に向上させることが可能となるかもしれません。


ヘッダーおよび一番下の画像の撮影者:Lex Kitaev(敬称略)

[1] Attack On Europe: Documenting Ukrainian Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/attack-on-europe-documenting-ukrainian.html
[2] The development of Umka MZKT-590100 armored personnel carrier will be launched in Belarus https://en.topwar.ru/38059-v-belorussii-vvedetsya-razrabotka-bronetransportera-umka-mzkt-590100.html
[3] Belarusian military received a batch of Russian armored personnel carriers BTR-82A https://en.topwar.ru/187656-belorusskie-voennye-poluchili-partiju-rossijskih-bronetransporterov-btr-82a.html

※  当記事は、2022年11月1日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。
   当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があ
  ります。



おすすめの記事