2022年4月9日土曜日

芽生えたばかりの戦力: ウクライナに投入されるロシアの無人攻撃機


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 アメリカや中国、トルコの最新鋭無人戦闘航空機(UCAV)がすでに世界中で多数の国や紛争で投入されているの一方で、ロシアはその開発と生産で著しく遅れをとっています。

 それどころか、戦場の上空を飛び回りながら攻撃任務をこなす「Ka-52」「Mi-28(N)」のような(有人)攻撃ヘリコプターを好む彼らは、UCAVによって念入りに実施される偵察・攻撃任務を軽視し、より攻撃的な捜索・急襲任務を行うドクトリンに忠実に守っているのです。

 しかしながら、現代における新たな紛争が起きるたびにUCAVのメリットがより詳細に示されているように思われていることから、ロシアでもUCAVへの投資を選択することが次第に増えてきています。
 
 ロシアが他国に追いつくための試みには、IAI社の「サーチャー」をライセンス生産したイスラエル起源の「フォルポスト」無人偵察機を武装化が含まれています。その結果として誕生した「フォルポスト-R」は当初からUCAVとして設計されたわけではないものの、ほぼ全てがロシア製で、軽攻撃任務の遂行が可能な無人機となりました。

 同様に、ロシアの「クロンシュタット」社によって生産されている国産の偵察・監視用無人機「クロンシュタット・オリオン」も複数の武装型が開発されており、徐々に運用が始められています。

 また、「スホーイ」の野心的な「オホートニク-B」、「クロンシュタット」社の「ヘリオス」こと「オリオン-2」、 ​「シリウス」「グロム」プロジェクトを含む、より高度なUCAVの開発も進行の途上にあります。

 こうしたシステムの将来性については、慢性的な資金不足と特定の重要技術へのアクセス不足のためにすでにいくつかの疑問が生じていますが、ロシアが経済制裁を受け、西側諸国との全面的な経済戦争になりつつある今、その疑問はさらに高まっていくでしょう。

 このまま国産UAVの開発が進むのかはさておき、ロシアが自国に利益を与えてくれる世界的なドローン革命の流れに乗り遅れたことは確かなことであり、見込みのある輸出顧客の大部分は、すでに中国やアメリカ、トルコ、イスラエルの競争相手によって需要が急速に満たされてしまいました。

 一般的には、新世代のUCAVの開発に伴い、その効果を最大限に発揮させるための新世代の兵装が必要とされます。(武器展示会などで)「オリオン」はさまざまな誘導爆弾や対戦車ミサイル(ATGM)の豊富な兵装と一緒に展示されているものの、その多くはまだ開発段階にあることのに加えて、いくつかの国産化できない重要なコンポーネントが制裁対象に該当する可能性があるため、それらが本当に導入されるか不透明な状況にあります。

 2018年に「オリオン」がシリアに送られて運用試験を実施した際には、武装型UAVとしては極めて型破りで、明らかに有効性に欠けたミッションプロファイルである「OFAB-100-120」無誘導爆弾を投下した状況さえ確認されました[1]。

 その後、同機用の暫定的な搭載兵装は、(起こりそうにもないシナリオを想定した演習でヘリコプター型UAVに対して使用されたことで悪名高い)「コルネット」ATGMの空中発射型や「KAB-20」誘導爆弾を含むいくつかの誘導兵器で拡張されています。[2] 

 これらの兵装は、「オリオン」が持つ3つのハードポイントだけでなく、2つのハードポイントを備える「フォルポスト-R」にも搭載することが可能です。

 「KAB-20」は前述の無人機にとってより現実的な兵装の1つではあるものの、今のところトルコの「MAM-L」のような誘導爆弾の精度には程遠いことが映像で示されています。

 具体的な事例を挙げると、対ウクライナ戦争で「フォルポスト-R」が投下した「KAB-20」が静止状態にあったウクライナ軍の「BMP-2」から外れてしまい、結果として同車の「撃破」ではなく「損傷」を与えるだけで終わったということがありました。[3]

「クロンシュタット」製「オリオン」が投下した「KAB-20」誘導爆弾がウクライナ軍の牽引砲に命中した瞬間

 おそらく、利用できる数が限られていることや、ウクライナの防空網による損失や効果的な運用の拒絶(注:4月9日までに少なくとも1機の「オリオン」UCAVの損失が目視で確認されています)、単純にロシアが持つUCAVの使用経験が乏しいことから、これまでの戦争や武力衝突における「フォルポストR」と「オリオン」が与えた影響は無視できる程度にとどまっているようです。[4] 

 しかし、「オルラン-10」のような小型の非武装型の無人機は、UCAVより大きな成功を収めており、ロシア軍で大量に使用されています。

 UCAVの開発が遅れすぎて国際的な無人機市場に大きなインパクトを与えなかったとしても、その運用で得られた有意義な経験は、今後のロシアに高価な有人機の代わりにUCAVを大量に導入させるように促すかもしれません。

 2022年のロシアによるウクライナ侵攻において双方の軍がUCAVを実戦投入したことは、これらのシステムが単に高強度紛争での運用が可能になっただけでなく、実際には今やどの側でも投入できる最も高性能なアセットの1つであるという事実を改めて強調しています。

 確かに、UCAVは「Mi-28」や「Ka-52」のような攻撃ヘリコプターよりも脆弱ではありません。ヘリの場合は、撃墜されれば2人のパイロットを死に至らせる可能性があることに加え、一般にATGMを発射するためには所定の位置でホバリングしなければならず、簡単に標的にされてしまうからです。[5]


 結局のところ、UCAVは攻撃ヘリコプターと同じ能力を低コストで提供したり、危険に晒されるリスクを低減するだけでなく、その運用上における任務を拡大するという大きな可能性も秘めているのです。

 その具体的な一例として、ウクライナは「バイラクタルTB2」UCAVを敵防空網破壊(DEAD)任務もに投入して多大な成果を上げていることが挙げられます。それによってTB2は地上戦力やほかの航空戦力の存続に貢献しています。[6] 

 DEADのような任務はロシアの新興UCAV部隊の手の届かない高さにとどまっているように見えますが、彼らの運用経験が増えるにつれて、最終的にはロシア空軍のアセットが担当している別の任務もUCAVが引き受けることになるかもしれません。

  1. ウクライナ上空でロシアのUCAVによって攻撃されたことが視覚的に確認された車両や装備類の一覧は、下で見ることができます。
  2. この一覧は、攻撃の追加映像が入手可能になり次第、更新されます。
  3. 人員や建物への攻撃については、この一覧には含まれていません。
  4. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、ロシアのUCAVによって攻撃された当該兵器類の画像を見ることができます。

戦車(1)


装甲戦闘車両 (3)


歩兵戦闘車 (1)


牽引砲 (2)


トラック、ジープ、各種車両 (8)

「KAB-20」誘導爆弾を投下する「フォルポスト-R」(2021年9月に実施された演習「ザーパト2021」にて)

[1] Russia Provides A Glimpse Of Its Orion Drone Executing Combat Trials In Syria https://www.thedrive.com/the-war-zone/39381/russia-provides-a-glimpse-of-its-orion-drone-executing-combat-trials-in-syria
[2] https://twitter.com/RALee85/status/1472242280199249923
[3] https://twitter.com/Kyruer/status/1505509964189769733
[4] https://twitter.com/UAWeapons/status/1512566406050631684
[5] https://twitter.com/kemal_115/status/1511294420171304964
[6] Defending Ukraine - Listing Russian Army Equipment Destroyed By Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/defending-ukraine-listing-russian-army.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



おすすめの記事

0 件のコメント:

コメントを投稿