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2024年6月2日日曜日

コーカサスの覇者:アゼルバイジャンのU(C)AV戦力(一覧)


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2021年12月29日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で、トルコ製の無人戦闘航空機(UCAV)とイスラエルが設計した徘徊兵器がアゼルバイジャンの圧倒的な勝利を可能にしたことは、世界中で十分に知られています。

 あまり知られていませんが、「バイラクタルTB2」とイスラエルの徘徊兵器に加えて、アゼルバイジャンは、その性能のおかげで世界で最も高度な部類に位置づけられているイスラエル製の無人偵察機の大規模な飛行隊も運用しています。

 無人機(UAV)、徘徊兵器、そしてUCAVから成るアゼルバイジャンの大規模な無人機戦力間の相乗効果が、同国を無人機の戦力において世界のトップクラスに押し上げたのです。

 アゼルバイジャンのドローン戦力の進歩がナゴルノ・カラバフ上空にもたらした戦いの急変は、それに巻き込まれた人々にとっては衝撃的なものだったに違いありません。

 「トール-M2KM」のような最新型のロシア製地対空ミサイル(SAM)システムや「レペレント-1」「アフトバザ-M」といった電子戦(EW)システムなどは、(特に味方のEWや電子支援手段と併用した際における)無人機の運用を妨げることが全くできなかったことが証明されました。アゼルバイジャンはその非効率性をフル活用し、「44日間戦争」において「バイラクルTB2」が567の地上目標を撃破し、さらに74の地上目標も徘徊兵器によって撃破されことが視覚的に確認されています。[1] [2]

 アゼルバイジャンは単にUAVの実機を調達するだけではなく、(搭載する)高度な監視装置やドローンの効果的な運用に必要なインフラにも投資しています。
 
 2010年代半ばには、アゼルバイジャンはドローン運用に特化した初の飛行場を首都バクーの近郊に設けました。

 アゼルバイジャンの軍隊は、敵の防空システムの位置を把握するためにUAVを囮として使用した先駆者でもあります。この目的のために、かなりの数の「An-2」がUAVに改修されましたが、全てがUAVになったわけでなく、4発の無誘導爆弾を装備したUCAVに改修された機体もありました。[3][4]

 TB2は空軍によって運用されているものの、無人型「An-2」やほかにアゼルバイジャンが保有しているUAVの大部分は国境警備隊に配備されています。


 UAVを生産するための野心はAn-2の改修だけにとどまっていません。

 2009年にアゼルバイジャンとイスラエルのUAV製造企業である「エアロノーティクス」社が設立した合弁会社:「アザド・システムズ」社は、これまでに「エアロスター」「オービター2」「オービター3」無人偵察機と「オービター1K」徘徊兵器をアゼルバイジャン国内で組立と生産を行うまでに至っています。[5]

 「アザド・システム」社はこれらのドローンの製造において、国産化率が30%程度に達したと伝えられています。[6]

 その一方でUAVの設計に関する国内の技術基盤も軌道に乗りつつあり、この分野におけるアゼルバイジャンの取り組みは、2022年5月にアゼルバイジャンで開催されるトルコの航空宇宙技術の祭典「テクノフェスト」の際に大きな恩恵を享受する可能性があります。[7] [8]

 今やナゴルノ・カラバフがアゼルバイジャンの支配下に戻っても、同国のドローン兵器に対するさらなる投資が鈍ることは起こりそうにありません。

 この国は、現在の自国軍が保有している兵器には無い多くの新しい能力をもたらす「バイラクタル・アクンジュ」UCAVの将来の運用国として好都合な位置にいます。その新しい能力には、多数の空対地誘導兵器のみならず、3種類の空対空ミサイルの運用能力も含まれています [9]

 すでにアゼルバイジャン空軍は「アクンジュ」の能力を構成する中で最も重要な要素である、250km以上の射程を持つ「SOM-B1」巡航ミサイルを運用しています。

 これらを踏まえると、アゼルバイジャンにおけるU(C)AVに関する今後数年の展望は明るいものになると思われます。

アゼルバイジャンのドローン戦力の大部分を有する国境警備隊で使用されているUAV群

(各機体の名前をクリックするとアゼルバイジャンで運用されている当該UAVの画像を見ることができます)

無人偵察機

無人戦闘航空機

垂直離着陸型無人戦闘航空機


徘徊兵器


囮用ドローン

輸送ドローン

[1] The Conqueror of Karabakh: The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-conqueror-of-karabakh-bayraktar-tb2.html
[2] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[3] https://twitter.com/RALee85/status/1458054095781122050
[4] https://postimg.cc/p9Z11H61
[5] Azad Systems starts UAV production https://www.flightglobal.com/azad-systems-starts-uav-production/98747.article
[6] Леонид Спаткай. Беспилотники в боевых действиях в Нагорном Карабахе
[7] Azerbaijan tests locally-made UAVs [PHOTO/VIDEO] https://menafn.com/1102387258/Azerbaijan-tests-locally-made-UAVs-PHOTOVIDEO
[8] TEKNOFEST festival to be organized in friendly, fraternal Azerbaijan - Turkish president https://en.trend.az/azerbaijan/politics/3489500.html
[9] Arsenal of the Future: The Akıncı And Its Loadout https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/arsenal-of-future-aknc-and-its-loadout.html



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2024年5月25日土曜日

空のように高い野望:アルメニアの無人機計画(一覧)


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事は、2023年1月4日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 アゼルバイジャンが無人航空機(UAV)の導入に大規模な投資を行っていたことを考えると、アルメニアが初歩的な無人機による偵察能力しか持たず、ほぼ無人攻撃能力なしで2020年のナゴルノ・カラバフ戦争に挑んだことは意外だったかもしれません。[1]

 2020年7月に起こったアゼルバイジャンとの武力衝突の際に、アルメニア国防省は国産の徘徊兵器を使用してアゼルバイジャンの戦車3台を撃破したと自慢していましたが、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争は(こうした熱心な主張があるにもかかわらず)当時のアルメニア軍にそのような戦力が本当に存在しないことを示してしまいました。[2]

 しかし、これは国内で入手可能なものが不足していたことが原因ではないと確実に言えるでしょう。なぜなら、アルメニアの防衛企業は過去4年間だけで23種類もの徘徊兵器を設計していたからです!同様に多数の無人偵察機も日の目を見ており、数多くの設計案が試作段階まで到達することに成功していました。

 ところが、アルメニア国防省はこうした無人兵器やその他の有望な国産兵器には投資するどころか、ロシアから4機の「Su-30SM」多目的戦闘機を調達するために僅かしか使えない予算を投じることを選んでしまったのです。[3] このことは、2020年の戦争でUAVが不足し、専用の兵装を購入する予算が無いために4機の「Su-30SM」を実戦に投入できなかったという悲惨な結果だけを残しました。

 アルメニアで実際に運用されたUAVの大部分が初歩的な性能しか備えていなかったようです。それらの中で最も多かったのはロシアのAFM製「プテロ-E5」をコピーした「X-55」であり、この機体は搭載されたGPS受信機を用いてウェイポイントを基準にあらかじめプログラミングされたルートを飛行し、一定の間隔で写真を撮影するという機能を有しています。これで撮影された画像は飛行後に人力で回収され、商業衛星の画像に匹敵する品質の最新情報を提供しますが、限界があることは言うまでもありません。

 「クルンク」のような高性能な機種は、2020年の戦争に影響を及ぼすには数があまりにも少なすぎました。このようなアルメニアの深刻な偵察能力の不足を補完するため、ロシアは2020年の戦争中に多数の「オルラン-10」を引き渡しました。[4] また、ロシア製のUAV「グリフォン-12」も軍で運用されています。

 さらに、ロシアはアルメニアの無人偵察機「UL-300 (ザラ"421-16E")」 と「UL-350 (スーパーカム"S350")」 の背後にある技術の供給源でもあり、後者はアルメニア陸軍で運用されていることが確認されています。[5]

 2020年後半に引き渡された「オルラン-10」は、「ダヴァロ・ディフェンス・システムズ」によって開発された新しい無人偵察機のベースとしても活用されています。[6]

 ロシアからのUAVの納入とそれに伴う技術移転は、アルメニアが比較的短期間で無人機による偵察能力を向上させることに役立ったものの、アルメニアの無人機メーカーと彼らが手掛けた国産機は再び隅に追いやられてしまいました。

 イスラエルの無人機が切れ目なく続いてアルメニア領内に不時着したおかげで、アルメニアの無人機メーカーはそれらの機能を模倣しようと試みたため、この国独自の無人機はますますイスラエル起源の技術をベースに設計されるようになっています。アルメニアのUAVメーカーである「ダヴァロ」社の取締役は、2020年にイスラエル製のUAVが研究のために自社に移管されていることを認めました。[6]

 そして、「UAVLAB」社の工場を撮影した画像はイスラエル製の「スカイストライカー」が分解されていることを明らかにしたほか、同社の「UL-450」「オービター3」をベースに設計されていることは見抜くには僅かな分析能力も必要としないでしょう。「ダヴァロ」社は次に「ハロップ」「DEV-3」徘徊兵器(LM)のベースとして活用し、同時にトルコの「STM」社の「カルグ」LMもコピーしています
 
「DEV-3」はイスラエルのIAI製「ハロップ」をベースに開発されたか、少なくともインスパイアを得ている徘徊兵器である:左下はより小型の「DEV-1」

「フレーシュ-7」 徘徊兵器:イスラエルの「ヒーロ-30」にインスパイアを受けたと思われるが、直にベースにして開発されたわけではないようだ

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で無人戦闘航空機(UCAV)が主導的な役割を果たした姿を痛いほど直に目にしたアルメニアが、それ以降に同様のアセットを導入しようと試みたのは理にかなっているとしか言いようがありません。

 アルメニアが隣国のイランから武装ドローンの導入を模索しているという報道がなされましたが、アルメニア国防省はそれどころか国産システムの導入を検討しているようです。[7]

 最近、「ダヴァロ」社は最大で4発の「SMA A5」または「AGB-003」誘導爆弾を搭載できるUCAV「アラレズ」を開発しています。この「アラレズ」計画はまだ開発の初期段階にあることから、運用可能なシステムが誕生するのは数年先になるでしょう。
 
2022年3月に初披露された「アラレズ」UCAV(試作機):主翼下の「SMA A5」誘導爆弾に注目

 アルメニアで開発された無人機は見応えはありますが、それをさらに発展させ、いつか大量生産に入るための国防省からの(財政的な)支援がないことを考えると、なおさらそう思います(注:国防省の支援を受けないメーカーは国からの制約を受けない独創的な開発が可能である一方、資金難に苦しむことに変わりがない現状を皮肉ったもの)。

 2020年夏にはLMの量産が開始されるとの報道があったにもかかわらず、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争ではアルメニアのLMによる攻撃はたった2回しか記録されていません。[8] [9] [10]

 とはいえ、アルメニアが軍事的な優位性を向上しつつあるアゼルバイジャンに対抗するために活用するべく、自国で開発された無人機に大きな期待をかけていることは極めて明白です。

 アルメニアの主要な無人機メーカーである「ダヴァロ」社は、ロシアの「STC:特別技術センター("オルラン-10"の製造者)」と「クロンシュタット("オリオン" UCAVの製造者)」社、そして2022年にはUAEの「エッジ」グループと協力協定を締結しました。同協定は、アルメニアの無人機分野におけるイノベーション率をさらに高めることに役立つ可能性を秘めているため、今後の展開にも目を離すことはできません。  

  1. 以下の一覧の目的は、アルメニアの無人航空機(UAV)及び無人戦闘航空機(UCAV)及びその兵装、徘徊兵器を包括的に網羅することにあります。
  2. アポストロフィー内の部分は、他の呼称や非公式な呼称です。
  3. 一覧の合理化と不必要な混乱を避けるため、ここには軍用レベルの無人機のみを掲載しています。
  4. 各機種及び兵装に続く角括弧内の年は、当該装備が最初に目撃または報じられた年を意味しています。
  5. 各機種及び兵装の名前をクリックすると、アルメニアにおける当該装備の画像を見ることができます。

無人偵察機 - 運用中

無人偵察機 - 試作/ 未採用

無人戦闘航空機 - 試作 / 未採用


徘徊兵器 - 運用中


徘徊兵器 - 試作 / 未採用


訓練用無人機など - 試作


[1] Death From Above - Azerbaijan’s Killer Drone Arsenal https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/death-from-above-azerbaijans-killer.html
[2] https://twitter.com/ShStepanyan/status/1284549170892877831
[3] Knights Of Yerevan - Armenia’s Su-30 Flankers https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/knights-of-yerevan-armenias-su-30sm.html
[4] https://twitter.com/Zinvor/status/1324073095490142209
[5] https://twitter.com/wwwmodgovaz/status/1574760539758202880
[6] https://twitter.com/ralee85/status/1284954167795159040
[7] Armenia Wants Iranian Drones, Says Top Iranian Military Official https://hetq.am/en/article/149460
[8] Artsakh to mass produce combat drones, trials successfully completed https://en.armradio.am/2020/05/20/artsakh-to-mass-produce-combat-drones-trials-successfully-completed/
[9] https://twitter.com/Karabakh_MoD/status/1320408314807812100
[10] https://twitter.com/Danspiun/status/1470844958085197832
[11] Davaro News https://davaro.am/News