著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ
ロシアによってイランが開発した徘徊兵器(注:自爆ドローンこと事実上の巡行ミサイル)が使用されたことは、世界中のメディアで大きく取り上げられています。この徘徊兵器はウクライナの民間インフラ施設に脅威を与えているものの、今までにロシアはウクライナの軍事目標に対する使用をほとんど控えてきました。
ウクライナ軍にとってより深刻な展開は、ロシアの地上管制ステーションから届かないところにあるウクライナの火砲やレーダー、そして地対空ミサイル(SAM)システムを攻撃するためにロシアが配備を進めている、国産開発の「ザラ・アエロ」社製「クーブ」と「ランセット-3(M)」徘徊兵器という形で登場したことでしょう。
ロシアの攻撃ヘリコプター部隊が甚大な損失を被ったためか、こうした戦術徘徊兵器の使用が増加してきています。[1]
ロシアにおけるUCAVのストックについては状況が全く改善されていません。そもそもUCAV自体が欠乏していることがこの新型兵器の大きな損失を防いでいる唯一の要因という有様です。[2]
ロシアは、上記の理由などによる航空支援の不足を補うためにイランの徘徊兵器を追加調達するのではなく、2020年にシリアですでに投入した「ランセット-3」の改良型(注:当記事では「ランセット3-M」と呼称する)の生産を大幅に拡大しようと試みているのです。[3]
2022年10月以降に「ランセット-3M」の使用が増加していることが確認されている一方で、効果の低い「クーブ」も引き続き使用されていることも判明しています。
これらの徘徊兵器は「オルラン-10」などの無人偵察機で適切な目標を発見した後、徘徊兵器が目標のいる場所に向けて射出されます。ただし、「ランセット」も「クーブ」も移動目標への攻撃を想定して開発されていないため、目標が当初の場所から移動した場合、その命中率の大幅にな低下が避けられません(注:移動目標に対する攻撃事例も確認されているため、全く命中できる可能性が無いというわけではありません)。[4]
この2種類の徘徊兵器は非移動目標に対しても攻撃に失敗した事例が確認されています。 [5] [6]
また、目標の前に太い木の枝がある場合は徘徊兵器の早期爆発に繋がる可能性もあるようです。[7]
その上、双方とも弾頭重量が軽いため(「ランセット-3(M)」は3~5kg程度)、仮に目標に直撃しても必ずしも撃破が保証されるとは限りません。
敵の破壊をもたらすツールとして機能し、ウクライナの砲兵部隊員の恐怖心を煽ることに成功したことに加えて、ロシアは命中映像をアップロードすることで徘徊兵器によるプロパガンダ効果をフル活用することも忘れてはいません。皮肉なことに、アップロードされた映像にはウクライナの目標に対する命中弾だけでなく、失敗例や明らかにデコイの「ブーク-M1」地対空ミサイルシステムへの攻撃さえも含まれていました。[8]
「クーブ」と異なって、「ランセット-3(M)」には終末期の命中精度を高めるために電子光学誘導装置が搭載されているため、常に目標への戦果を撮影できる利点があります。その結果として、アナリストはこの徘徊兵器による攻撃の成功回数を把握することが可能となっていることは大きな恩恵と言っても過言ではないでしょう。
- 日本語版記事での最終更新日:2023年3月18日(本国版は3月中旬)
- 当一覧の更新は上記をもって終了しました(損失リストの集計などに集中するため)
- ロシアの「クーブ」及び「ランセット-3(M)」によって撃破・無力化されたウクライナの兵器類の詳細について、以下の一覧を見ることができます。
- これらの損失の大部分は、ロシアの「ランセット-3M」部隊が居住していたドネツク州ヴフレダール付近で生じたものが占めています。
- この一覧には、写真や映像によって証明可能な撃破または鹵獲された兵器類だけを掲載しています。したがって、実際に喪失した兵器類はここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。
- 建物や兵士に対する攻撃については、この一覧に掲載されていません。
- この一覧については、資料として使用可能な映像や動画等が追加され次第、更新されます。
命中したウクライナの重火器・軍用車両など (98)
戦車 (11)
- 1 T-62M: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (ウクライナが鹵獲運用されていたものがロシア軍に撃破されたもの)
- 4 T-64BV: (1, 「クーブ」によって撃破) (1, 「ランセット-3M」によって損傷) (2, 「ランセット-3M」によって損傷) (3, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 1 T-72M/M1(R): (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 1 T-80BV: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 4 形式不明の戦車 (1, 「ランセット-3M」によって損傷) (2, 「ランセット-3M」によって損傷) (3, 「ランセット-3M」によって損傷) (4, 「ランセット-3M」によって損傷)
装甲戦闘車両(9)
- 1 MT-LB 汎用軽装甲牽引車: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 BMP-1K 歩兵戦闘車: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 BMP-2 歩兵戦闘車: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 BTR-4: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 コザック-2 歩兵機動車: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 M1151「ハンヴィー」歩兵機動車: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 MT-T 装軌式重輸送車: (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 1 形式不明のAFV: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 形式不明のBTR: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 D-20 152mm榴弾砲: (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 2 2A65「ムスタ-B」152mm榴弾砲: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 2 FH-70 155mm榴弾砲: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 15 M777A2 155mm榴弾砲: (1 と 2, 「ランセット-3M」によって撃破) (3, 「ランセット-3M」によって撃破) (4, 「ランセット-3M」によって撃破) (5, 「ランセット-3M」によって撃破) (6, 「ランセット-3M」によって撃破) (7, 「ランセット-3M」によって撃破) (8, 「ランセット-3M」によって撃破) (9, 「ランセット-3M」によって撃破) (10, 「ランセット-3M」によって撃破) (1, 「ランセット-3M」によって損傷) (2, 「ランセット-3M」によって損傷) (3, 「ランセット-3M」によって損傷) (4, 「ランセット-3M」によって損傷) (5, 「ランセット-3M」によって損傷) (6, 「ランセット-3M」によって損傷)
自走砲(20)
- 3 2S1「グヴォジカ」122mm自走榴弾砲: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (2, 「ランセット-3M」によって撃破) (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 4 2S3「アカツィヤ」152mm自走榴弾砲: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (2, 「ランセット-3M」によって撃破) (3, 「ランセット-3M」によって撃破) (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 2 2S19「ムスタ-S」152mm自走榴弾砲: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (2, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 7 M109A3GN「パラディン」155mm自走榴弾砲: (1 と 2, 「ランセット-3M」によって撃破) (3, 「ランセット-3M」によって撃破) (4, 「ランセット-3M」によって撃破) (1, 「ランセット-3M」によって損傷) (2, 「ランセット-3M」によって損傷) (3, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 3 AHS「クラブ」155mm自走榴弾砲: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (2, 「ランセット-3M」によって撃破) (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 1 「カエサル」155mm自走榴弾砲: (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
多連装ロケット砲 (4)
- 3 BM-21「グラート」122mm MRL: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (2, 「ランセット-3M」によって損傷) (3, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 RM-70 122mm MRL : (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 1 9K35「ストレラ-10」: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 9K33「オーサ」: (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 3 9A310M1 TELAR (「ブーク-M1」用レーダー付き発射車両): (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (2, 「ランセット-3M」によって撃破) (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 2 5P85S (「S-300PS」の発射機): (1 と 2, 「ランセット-3M」によって撃破)
レーダー(11)
- 3 P-18「スプーン・レストD」対空レーダー: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (2, 「ランセット-3M」によって撃破) (3, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 6 36D6「ティン・シールド」多機能レーダー: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (2, 「ランセット-3M」によって撃破) (3, 「ランセット-3M」によって撃破) (4, 「ランセット-3M」によって撃破) (1, 「ランセット-3M」によって損傷) (2, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 1 P-18ML VHF直距離対空レーダー: (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 1 PRV-16ML「ティン・スキンB」高度測定レーダー: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
指揮通信車両など(2)
- 1 移動指揮無線中継局[「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機用] : (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 P-18「スプーン・レストD」レーダー用指揮管制車: (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
艦艇(3)
- 1 「ギュルザ-M」級警備艇: (2, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 1 「ズーク」級哨戒艇: (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 1 形式不明の艦艇: (1, 「クーブ」によって損傷)
トラック・各種車両 (8)
- 1 オシュコシュ「M1083A1P2 "FMTV"」: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 1 ラーダ: (1, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 2 形式不明のSUV: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (2, 「ランセット-3M」によって撃破)
- 4 形式不明のトラック: (1, 「ランセット-3M」によって撃破) (2, 「ランセット-3M」によって撃破) (3, 「クーブ」によって撃破) (1, 「ランセット-3M」によって損傷)
- 1 形式不明の車両: (1,「ランセット-3M」によって損傷)
命中を免れたウクライナの重火器・軍用車両など(39)
ウクライナ側の兵器類 (39)
ウクライナ側の兵器類 (39)
- 2 T-64BV 戦車: (1, 「ランセット-3M」が命中せず) (2, 形式不明の徘徊兵器が命中せず)
- 2 T-72 戦車: (1 と 2, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 MT-LB 汎用軽装甲牽引車(「ZU-23」対空機関砲搭載型): (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 MT-LB 汎用軽装甲牽引車: (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 3 形式不明のAFV: (1, 「ランセット-3M」が命中せず) (2,「ランセット-3M」が命中せず) (3, 「クーブ」が命中せず)
- 2 BMP-2 歩兵戦闘車: (1, 「ランセット-3M」が命中せず) (2, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 IMR-2 戦闘工兵車: (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 2 D-20 152mm榴弾砲: (1, 「ランセット-3M」が命中せず) (1,「ランセット-3M」が命中せず)
- 7 M777A2 155mm榴弾砲: (1,「クーブ」が命中せず) (2,「クーブ」が命中せず) (3, 「ランセット-3M」が命中せず) (4, 「ランセット-3M」が命中せず)) (5, 「ランセット-3M」が命中せず)) (6, 「ランセット-3M」が命中せず) (7, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 M240 240mm重迫撃砲: (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 2S1「グヴォジカ」122mm自走榴弾砲 (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 2 M109A3GN「パラディン」155mm自走榴弾砲: (1, 「ランセット-3M」が命中せず)) (2, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 AHS「クラブ」155mm自走榴弾砲: (1, 「ランセット-3M」が命中せず))
- 3 BM-21「グラート」122mm多連装ロケット砲: (1, 「ランセット-3M」が命中せず) (2, 「ランセット-3M」が命中せず) (2, 「クーブ」が命中せず))
- 1 9K33「オーサ」地対空ミサイルシステム: (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 5P85D (「S-300PS」用発射機): (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 5N63S「フラップ・リッドB(「S-300PS」用)多機能レーダー: (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 P-35/37「バー・ロック」対空レーダー: (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 36D6「ティン・シールド」対空レーダー: (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 2 AN/TPQ-36 対砲レーダー: (1 と 2, 「クーブ」が命中せず)
- 1 形式不明の指揮通信車両: (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 テクニカル: (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
- 1 詳細不明の物体: (1, 「ランセット-3M」が命中せず)
命中したデコイ(6)
ウクライナ側のデコイ (4)
- 2 デコイの牽引砲: (1, 「ランセット-3M」が命中) (2, 「ランセット-3M」が命中)
- 1 デコイの9K33「オーサ」: (1, 「ランセット-3M」が命中)
- 1 デコイの9A310M1 TELAR (「ブーク-M1」用レーダー付き発射車両): (1, 「ランセット-3M」が命中)
ロシア側のデコイ(2)
- 1 5P85D (「S-300PS」用発射機): (1, 「ランセット-3M」が命中)
- 1 5N63S「フラップ・リッドB」(「S-300」用): (1,「ランセット-3M」が命中)
特別協力:Tuffy氏
[1] List Of Aircraft Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/03/list-of-aircraft-losses-during-2022.html
[2] Too Little, Too Late - A Guide To Russia’s Armed Drones https://www.oryxspioenkop.com/2022/10/too-little-too-late-guide-to-russias.html
[3] https://twitter.com/Archer83Able/status/1472606400052449292
[4] https://twitter.com/imp_navigator/status/1591732624095150083
[5] https://twitter.com/imp_navigator/status/1526851460956311552
[6] https://twitter.com/RALee85/status/1588514816888475648
[7] https://twitter.com/imp_navigator/status/1580546070605893632
[8] https://twitter.com/UAWeapons/status/1580853706807193607
※ 当記事は、2022年11月25日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
[1] List Of Aircraft Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/03/list-of-aircraft-losses-during-2022.html
[2] Too Little, Too Late - A Guide To Russia’s Armed Drones https://www.oryxspioenkop.com/2022/10/too-little-too-late-guide-to-russias.html
[3] https://twitter.com/Archer83Able/status/1472606400052449292
[4] https://twitter.com/imp_navigator/status/1591732624095150083
[5] https://twitter.com/imp_navigator/status/1526851460956311552
[6] https://twitter.com/RALee85/status/1588514816888475648
[7] https://twitter.com/imp_navigator/status/1580546070605893632
[8] https://twitter.com/UAWeapons/status/1580853706807193607
※ 当記事は、2022年11月25日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所