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2024年3月24日日曜日

大空の巨人:リビアにおける「An-124」:輸送機


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2021年1月21日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 リビア内戦は同国の民間航空にも壊滅的な打撃を与えており、2機の巨大な「An-124」輸送機も例外なく苦難を免れることはできませんでした。

 リビアの航空産業は2011年の革命時にほぼ休止状態となってしまい、武力衝突の停止後はリビアの航空会社が運航を再開するのに数か月から1年も要しました。中には二度と飛行機を飛ばさなかった会社もあったほどです。

 運行を再開することでリビアの民間航空は将来への新たな自信を得たものの、内戦の余波と政治的混乱は最終的にあらゆる楽観主義に終止符を打ち、やがてリビアの航空産業は存亡をかけて戦うことになりました。

 相対的な安定の見通しが立たないリビアを荒廃させる内戦が続く中、「An-124」には滅亡の危機が大きく迫っていました。当時のリビア国内にとどまっていた1機の「An-124」はどうにかして砲撃の被害を免れており、もう1機については、リビア政府が2009年からキーウのアントノフ社の施設での保管と定期整備の代金として同社に支払うべき120万ドル(約1.7億円)の支払いが不履行のままだった場合、2017年にウクライナによって競売にかけられる可能性に直面していたのです。

 その後、2019年にアントノフ社がサプライズの公表をし、国際的に承認されたリビア政府(GNA:国民合意政府)との間で「An-124」の1機を飛行可能な状態に戻す交渉が行われたことが明らかとなりました。[1]

 両者の合意に従って同機は近代化改修を受けると共に耐用年数が延長されることになっていました。しかし、それ以降の続報が全くないことから実際に合意に達したかさえも不明の状態となっています(編訳者補足:2023年5月の時点でリビアの駐ウクライナ臨時代理大使であるアデル・イッサ氏がアントノフ社に確認したところ、キーウで保管されている「An-124」の状態はロシア・ウクライナ戦争の影響を受けていおらず良好であるという回答を得たとのこと)。

 しかしながら、どんなことがあろうとリビアはまだ「An-124」を運用する意向を認めました。

 リビア政府はウクライナに保管されたままの「An-124」の運命をの掌握と最高入札者への競売を阻止することに成功したようですが、リビアの民間航空が衰えを知らない戦争の影響によって徐々に疲弊していく中で、地上での戦闘はすでに新たな犠牲者を生み出しています。

リビアでの運用

 もともと、リビアは2001年にリビア・アラブ・エア・カーゴ(LIBAC)のために2機の「An-124(5A-DKN "サブラタ" と 5A-DKL "スーサ")」を導入し、大型機を必要とする貨物の国際チャーター便にこれらの巨人機を投入し始めました。

 リビアはこれまで(特に)ロッカビー上空で発生したパンナム103便爆破事件を画策したことで国際的な制裁を受けた結果として外界からほぼ完全に孤立していたことに苦しんでいましたが、後にかつての宿敵との関係を正常化し始めたことで「An-124」は世界中に重量級の貨物を輸送するようになったわけです。

 2011年の革命勃発時の「サブラタ」はトリポリ国際空港(IAP)で反乱部隊に無傷で鹵獲され、「スーサ」はアントノフの施設で整備中でした。ちなみに、1992年に製造された「スーサ」は2001年12月にLIBACに引き渡される前にはウクライナ航空で使用されていました(1992年~1999年)。

 1994年に製造された "サブラタ" は2001年3月にリビアに引き渡される前に、タイタン・カーゴに代わって同機を運行していたトランス・チャーター航空(1996年~1999年)とヴォルガ・ドニエプル航空(1999年~2001年)によってロシアで運行されていました。[2] [3]



 「An-124」の(短い)運行期間中、リビアはフランスに拠点を置くリビア系企業FLATAM(Franco-Lybienne D'Affretement Et De Transport Arien Et Maritime:フランス-リビア海上・航空輸送用航空チャーター)を通じて、2機を貸し出していたことが知られています。

 FLATAMはリビア空軍の元ミラージュ・パイロットである実業家にして駐仏武官のジャラル・ディラが所有していました。彼は後にフランスの航空機グループ:ダッソー社の調達担当のロビイストとなりましたが、カダフィ政権崩壊前のリビアに「ラファール」戦闘機の売却を試みて失敗しました。[4]


 「An-124」のチャーター便は、リビア革命とそれに続く内戦がこの国の民間航空に大きな打撃を与える2011年2月まで続きました。

 2機とも2011年に破壊から免れることができましたが、LIBACには事業を再開するための構想と資金が欠けていたため、"サブラタ"はトリポリIAPに放置されたままとなり、"スーサ"は2009年から保管されていたウクライナ(キーウ)にあるアントノフ社の施設から回収されることはありませんでした。

 そして、リビアの航空会社による通常の運航が終焉を迎え、国内各地で戦闘が続いた結果、民間機の破壊がありふれた光景となったため、この国で就航していた「An-124」の将来は、ますます厳しいものになり始めたのです。

 それでも、LIBACの職員は緑色のジャマーヒリーヤ・グリーンの国旗を新しいリビア国旗に交換することを躊躇しなかったように見受けられます。


巨人の死

 2014年初頭からトリポリIAPの一角にある整備用エリアに移動せずに駐機していた "サブラタ" は、同年夏に空港の支配権をめぐって争っていた紛争当事者が近隣の施設を標的にして「An-124」の近くにあった複数の航空機を破壊した後も、本拠地に対する攻撃から奇跡的に生き残りました。破壊された航空機の中には、たった300mほどしか離れていない隣接するエリアに駐機していた4機以上の「Il-76」輸送機も含まれていたにもかかわらずです。

 「An-124」は破片による軽微な損傷で済んだものの、激しい衝突で旅客ターミナルは完全に破壊された結果、空港は閉鎖され、残っていた数便はトリポリ近郊のミティガ空港に振り向けられました。


 しかし、リビア全土を襲う見境のない無慈悲な猛攻撃から約8年間もなんとか逃れることに成功してきた「5A-DKN:サブラタ」ですが、その幸運は最終的に2019年6月22日に尽きてしまいました。トリポリIAPで砲弾の直撃を受け、その後の火災で破壊されたのです。

 くすぶっている巨人の残骸は、2011年のリビア革命の勃発とそれに続く巨人機の運航再開の困難さによって潰えた経歴の悲惨な結末の産物としか言いようがありません。



 「An-124」の破壊は、2機目がまだキーウにある国営のアントノフ社の施設に保管されたままで2018年と2019年にリビアに戻す計画が明らかに停止状態にある中で発生しました。[5] [6]

 興味深いことに、2018年と2019年の交渉はLIBACではなくリビア・ブルーバード航空と行われましたが、この事実はこの国で最古の貨物航空会社の運航がついに終焉を迎えたことを示しているかもしれません。

 キーウにあるリビアの「An-124」に関する問題の打開策は一見して見通しが立っておらず、保管料や整備費用が膨らみ続けているため、リビア側の自主的な売却か強制力のある裁判所からの命令によって所有権が放棄された場合の「5A-DKL」は、アントノフ社自身が保有する貨物航空会社や他の「An-124」を運航する会社にとって魅力的な機体となる可能性があるでしょう。


残る希望

 リビア政府が生き残った「An-124」を維持して活用するべき資産と判断するかどうかは、間違いなく財政状況と「An-124」のような大型貨物機に対する現実的な必要性に左右されるでしょう。

 ただ、トリポリとその周辺地域の治安がますます安定する状況下の今、リビア政府は少なくとも現存する「An-124」の運航を復活させ、国際貨物便への再投入を試みることが可能になっています。

 さらに、リビアは、現時点で自身を支援する意思を持つ数少ない国の一つ:トルコと手を組む可能性もあります。トルコはすでにウクライナと非常に親密な関係に恵まれており、最近ではいくつかのアントノフ社関連のプロジェクトについて、協力の可能性を協議しています。これらには「An-178」と「An-188」の生産だけでなく、1994年以来製造途中で放置されていた2機目の「An-225」の完成も含まれています(編訳者注:ご存じのとおり、ロシア・ウクライナ戦争でこれらのプロジェクトが前身する見通しは立っていません。ただし、ロシア軍によって「An-225」1号機が破壊されたため、未完の2号機を用いて再建する事業が進行中です。ただし、これにトルコが関与しているかは不明です)。[7] [8] [9]

 トルコの関与は、「An-124」の運命を最終的に確定させるだけでなく、同機を運航へ戻すための刺激と資金を実際にもたらす突破口となるのかもしれません。リビアに科された制裁措置が当面解除される可能性は依然として低いものの、 短期的には、かつてないほど親密な関係を享受している両国(リビアとトルコ)の間で物資や設備を空輸する可能性はあるでしょう。

 それゆえに、長続きしてしまった戦争の不幸な犠牲者である謎めいた巨人には、まだ希望が残されているのです。


[1] ANTONOV Company will begin works on renewal of Libyan Ruslan https://antonov.com/en/article/dp-antonov-rozpochne-roboti-z-vidnovlennya-liviyskogo-ruslana
[2] https://www.planespotters.net/airframe/antonov-an-124-5a-dkl-libyan-air-cargo/e01w96
[3] https://www.planespotters.net/airframe/antonov-an-124-5a-dkn-libyan-air-cargo/ekdg16
[4] https://www.facebook.com/LibyanPosts/posts/libya-the-real-negotiators-of-the-haftar-sarraj-paris-agreementthe-key-part-of-t/1492605287449867/
[5] Libya's giant Antonov could soon fly home to Tripoli https://www.africaintelligence.com/north-africa_business/2018/11/08/libya-s-giant-antonov-could-soon-fly-home-to-tripoli,108331371-art
[6] Libya tracks file of Antonov under 7-year maintenance in Ukraine https://www.libyaobserver.ly/inbrief/libya-tracks-file-antonov-under-7-year-maintenance-ukraine
[7] Ukraine: Aviation firm Antonov aims to work with Turkey https://www.aa.com.tr/en/economy/ukraine-aviation-firm-antonov-aims-to-work-with-turkey/1965437
[8] ANTONOV Presents its Advanced Programs in Turkey https://www.defenceturkey.com/en/content/antonov-presents-its-advanced-programs-in-turkey-3002
[9] Turkey interested in completing An-225 Mriya – Dpty PM https://en.interfax.com.ua/news/general/698799.html


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2023年6月23日金曜日

大きさが全てじゃない:ルクセンブルク軍の航空隊


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ルクセンブルク大公国は小規模ながら十分に装備された軍隊を有しており、2020年からはその中に航空部隊も含まれることになりました。ルクセンブルク軍の独立した軍種ではないにもかかわらず、この部隊は2020年に納入された唯一の現用機(1機の「A400M」)のおかげで世界で最も現代的な航空戦力を構成しています。

 この地味な偉業についてはともかく、近年のルクセンブルクはエアバス「H145M」ヘリコプター2機、エアバス「A330」空中給油・輸送機(MRTT)1機、エアロバイロメント「RQ-11 "レイブン" 」、「RQ-20 "プーマ"」、「RQ-21 "インテグレーター"」無人偵察機(UAV)を入手することを通じて航空戦力をさらに増強しています。また、救急搬送、戦術空輸、洋上監視用の航空機やヘリコプターの追加導入も近い将来に予定されているようです。[1]

 2001年に「A400M」軍用輸送機1機を調達したことで、ルクセンブルクは1968年に空中観測や連絡業務に使用していたパイパー「PA-18 "スーパーカブ" 」3機を退役させて以来、再び航空機を運用するようになりました。[2]

 「A400M」プログラムにおける開発遅延により、最終的にルクセンブルク軍がこの輸送機を受領できるようになるまでは、最後の航空機を退役させてから52年後の2020年10月までかかることになったのです!

 ルクセンブルクに引き渡された「A400M」は、ブリュッセル近郊のメルスブローク空軍基地を拠点とするベルギー空軍第15航空輸送団で共同運用されています。現在、ルクセンブルクのフィンデル国際空港に政府の(航空)拠点を設けることが検討されていますが、現時点のルクセンブルク軍には空港に専用のスペースがありません。[2]

 ルクセンブルクの「A400M」はベルギーに駐機しており、(2024年に納入予定の)「A330 MRTT」はオランダのアイントホーフェン空軍基地かドイツのケルン空港に駐機予定であるほか、ルクセンブルクの無人機は手や空気圧で射出されるため、(少なくとも救急搬送機や海上監視機を導入するまでは)空港に専用のスペースはほぼ必要ないと言って差し支えないでしょう。

 ルクセンブルクの航空部隊は自身の基地を持っていないにもかかわらず、国の紋章をモチーフにした独自のラウンデルを用いています。このカラフルなラウンデルは、ルクセンブルク機として登録されているNATO諸国の「E-3A "セントリー"」AWACS17機にも施されています。

当然ながら、ルクセンブルクの「A400M」には同国のラウンデルが施されている
 
 2020年の納入以降、「A400M(CT-01)」はルクセンブルクによる欧州連合マリ訓練ミッション(EUTM)の支援で兵士と彼らの装備をマリへ輸送すために投入されたほか、ルクセンブルク軍がウクライナに寄贈した軍用品をポーランドへ移送するためにも使用されています。[3]

 内陸国であるルクセンブルクは長年にわたって軍の展開や人道援助を支援するための人員や物資の輸送手段を求めており、かつてはベルギーと共同でドック型輸送揚陸艦(LPD)を導入することすら検討されていたことはあまり知られていません。この計画については、相次ぐコストの増加とベルギーの国防費が削減されたことにより、結果として2003年に頓挫してしまいました。[4]

 海上輸送能力に対する関心が再び高まる可能性は低いと思われる一方で、ルクセンブルク軍は2016年にNATOの多国籍「A330 MRTT」飛行隊の創設メンバーとなり、毎年200時間の飛行を割り当てられています(この飛行隊の「A330 MRTT」はNATOの所有となっており、各機が年間の飛行時間を割り当てられた 6つの加盟国によって資金提供されています)。2020年、ルクセンブルクは既存の契約オプションを行使して9機目を導入するための資金を提供することによって、飛行時間をさらに1,000まで引き上げることを確実にしました。[5]

 空中給油が可能な高速ジェット機を所有していないにもかかわらず(ただし、同国の「A400M」は取り外し可能な給油プローブを備えていますが)、ルクセンブルクはNATOのMRTT飛行隊には3番目の規模で参加している国であり、自身に割り当てられた飛行時間を他の加盟国に提供することによって、NATOの活動に大きく貢献することを可能としています。

 ルクセンブルクは人口が65万人未満であり、明らかに大規模な常備軍を増強する見込みがないことことを考慮すれば、この国によるNATO共同プロジェクトへの資金援助の強化も可能と言えるでしょう。例えば、NATOの「E-3A "セントリー"」AWACS飛行隊の更新に伴う多額の資金を提供することが考えられます。これによって、NATO加盟国間のより公平な負担の分担が可能となり、この目的を達成するために自国の軍隊を増強する必要がなくなるというわけです。

 これまでのルクセンブルクは防衛費をGDPの2%に引き上げることに消極的でしたが、その代わりに2028年までに年間の防衛費をGDPの1%、つまり10億ユーロ(約1,440億円)近くに引き上げることを目標に設定しました。[6]

オランダのアイントホーフェン空軍基地にタッチダウンする「A330 MRTT」:ルクセンブルクはNATOの多国籍「330 MRTT」飛行隊の一部となる9機目の資金を提供した

 2020年までルクセンブルク軍には欠けていた戦力がありました...それは高度なヘリコプター部隊です。

 以前は警察に就役した「MD902 "エクスプローラー"」1機とルクセンブルク航空救難隊で使用されている「MD900」2機に依存していましたが、2018年にルクセンブルク国防省は監視任務や対テロ作戦用に、軍で使用する「H145M」2機を発注しました。ちなみに納入された2機は警察のマークを施されて運用されていることからも分かるとおり、警察が「H145M」を用いて執行活動を行うことも可能です。[7]

 戦術的空輸能力を獲得するため、将来的に大型ヘリコプターの導入の検討も想定されています。[1]


 ルクセンブルク軍で驚くほど優れているのは無人航空戦力であり、彼らは より大きないくつかの欧州諸国を上回る能力と数を誇る無人機部隊を運用しています。近年におけるこの部隊の戦力については、12機の「RQ-11 "レイブン"」、数量不明の「RQ-20 "ピューマ"」、4機の「RQ-21 "インテグレーター"」、そして「アトラス・プロ」手投げ式UAVで構成されています。[8] [9] [10]

 ルクセンブルクは、合成開口レーダー(SAR)及びEO/IRセンサーを搭載した「RQ-4D "フェニックス"」 高高度長時間滞空(HALE)型無人偵察機5機を飛行させているNATOの同盟地上監視プログラム(AGS)のメンバーでもあります。

 現在、ルクセンブルク軍はパートナー国と協力してさらなる航空監視プログラムに参加するか、その代わりに必要な航空機やUAV、そしてデータ解析能力を自身で導入するかを検討しているところです。[1]

 (ベルギーも調達した)アメリカの「MQ-9B "スカイガーディアン" 」やイスラエルのエルビット「ヘルメス 900」といった、多岐にわたる高度なペイロードを備えた(より大型の)無人偵察機の導入は、比較的少ない人的資源の投資で済むことに加えてNATOの能力向上に著しい貢献をすることも可能となるでしょう。

 ルクセンブルクのような小さな国では必然的に空域が狭いため、大型UAVを使った日常の運用や訓練は不可能ではないにしても、大きな支障となることが不可避です。この点の対応は、ベルギーなどのパートナー国と提携する可能性はルクセンブルクにとって特に魅力的な選択肢となるかもしれません。

 洋上監視機を導入した場合は入手した機体を内陸国以外の空軍基地に配置させることも必要となりるものの、アデン湾のような不安定な海域でルクセンブルクの旗を守り、地中海では欧州対外国境管理協力機関(Frontex)を支援することに導きます。



 より大型のUAVまたは洋上監視機を調達することで空中偵察能力を万全にできる一方で、ルクセンブルクは2018年に官民連携(PPP)で政府所有の通信衛星「GovSat-1」を打ち上げることによって宇宙にも進出しました。

 「GovSat-1」は、複数の政府特有のミッションのために高出力かつ操作可能なスポットビーム照射能力を備えた軍用の周波数(Xバンドおよび軍用Kaバンド)を用いる多目的衛星であり、ヨーロッパのみならず中東やアフリカもカバーしています。

 ルクセンブルク政府はこの新しい人工衛星で割り当てられるデータ容量の大半を事前に押さえており、残りの容量はほかの政府機関や団体といった顧客に提供されることになっています。

 ルクセンブルク国防省は、需要に応じて今後10年間で衛星コンステレーションを徐々に拡大させていく場合の利点を検証する予定です。[1]


 場所が空でも宇宙でも、種類も有人・無人だろうと、ルクセンブルク軍の航空部隊には最初に目にした以上の価値があることは間違いありません。

 この部隊は半世紀わたる休養状態から復活したばかりですが、今後10年間に計画されている目覚ましい規模の調達で急速に能力を拡大することになっています。 ルクセンブルクは空中監視/偵察、空中給油、輸送などの重要な分野に投資することで、さらなるNATOの支援を可能にするわけです。

 今後もこの投資が継続されるならば、この国は貴重なNATO加盟国として未来に羽ばたいていくでしょうし、真の能力の尺度として、献身は自身の規模に勝ることを実証することになるのです。


[1] Luxembourg Defence Guidelines for 2025 and Beyond https://defense.gouvernement.lu/dam-assets/la-defense/luxembourg-defence-guidelines-for-2025-and-beyond.pdf
[2] Luxembourg Army Aviation http://www.aeroflight.co.uk/waf/lux/army/lux-army-home.htm
[3] https://twitter.com/Francois_Bausch/status/1590708549407342598
[4] Navire de transport stratégique belgo-luxembourgeois (NTBL) [belgian-luxembourg strategic transport vessel Command, Logistic Support & Transport (CLST) https://www.globalsecurity.org/military/world/europe/clst-h.htm
[5] Multi Role Tanker Transport Capability https://english.defensie.nl/topics/international-cooperation/other-countries/multi-role-tanker-transport-capability
[6] Luxembourg to double defence spending by 2028 https://www.luxtimes.lu/en/luxembourg/luxembourg-to-increase-defence-spending-by-2028-62b5739cde135b9236c55bc6
[7] Polizeihubschrauber offiziell vorgestellt https://www.wort.lu/de/lokales/polizeihubschrauber-offiziell-vorgestellt
[8] Matériel - UAV https://www.armee.lu/materiel/uav
[9] https://twitter.com/ArmyLuxembourg/status/1576878178286850049
[10] SIPRI - Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php

※  この記事は、2022年12月2日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した 
  ものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がありま
    す。

2022年4月15日金曜日

眠ったままの将来性が目を覚ます日は来るか?:ウクライナとトルコが提携してアントノフ機を開発する



著:ステイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

 航空宇宙分野におけるパイオニアとして、トルコは数多くの高度な有人・無人機を設計してきました。これらの大部分は、トルコ空軍や世界中の航空部隊のために開発されたものです。

 ただし、トルコはかつて国産旅客機「TRジェット」で民間航空市場に参入するという野心的な計画を進めていたものの、2017年にお蔵入りとなったことがありました。これによって、民間航空機の設計と生産に関する具体的な計画に終止符が打たれたように思われましたが、この分野におけるトルコの野心が裏で温存され続けてきたことは間違ないでしょう。

 トルコが世界最大の貨物機である「An-225 "ムリヤ"」2号機の完成に関心を示したことについて、私たちはすでに当ブログで紹介しました。[1]

 当記事では、トルコがほかにも数多く存在するウクライナの航空プロジェクトに関与し、緊密な協力を行っている動機を考察・解説していきます。

 これらのプロジェクトには「An-132」ターボプロップ輸送機、「An-178」中型輸送機、そして「An-188」戦略輸送機が含まれています。トルコはすでに2018年以降、「An-178」と「An-188」の共同生産に関心があることを頻繁に公言しており、ごく最近では2021年10月にその意思を表明しました。[2] [3] [4]

 今のトルコ空軍には、すでに運用されている「CN-235」や「C-130」、「A400M」以外の輸送機を加える必要性が全く無いと異論を唱える人もいるかもしれませんが、「アントノフ」社の設計機はトルコ軍の将来的な需要に応えるだけでなく、世界中への輸出も相当な成功を享受する可能性を秘めています。

 トルコの部品、技術、搭載機器を統合することによって良好な市場シェアを得たり、同国の世界的な影響力を利用して、アフリカ、ヨーロッパ、アジア、南アメリカで素晴らしい販売実績を達成するという利益を得ることができるかもしれません。

 トルコの関与は、「An-132」、「An-178」、「An-188」の設計を改良するだけでなく、この国の現代的な技術支援によって実際にこれらが量産に入るための刺激を与えるなどのブレークスルーをもたらすことができるでしょう。

 これらの航空機(の一部)をトルコで生産することについては、自国を(数多くある国家プロジェクトの中でも特に)電気自動車、無人航空機、高速鉄道といった先端革新技術の製造拠点に変えるというトルコ政府の長年にわたって目指している目標にうまく調和しているように見えます。[5] [6]

 最近のトルコの航空宇宙企業は、「トルコ航空宇宙産業(TAI)」の新型ジェット練習機「ヒュルジェット」やステルス戦闘機「TF-X」、そして「バイカル・テクノロジー」社の無人戦闘機「MIUS:バイラクタル・クズルエルマ」の開発の仕上げで多忙のため、どの国内企業も現時点で真の国産旅客機や輸送機の設計・開発を実施できそうにはありません。

 これは、そのようなプロジェクトが将来的にトルコ企業によって始動されないということを意味しません。「バイカル」社の空飛ぶ自動車「セゼリ」は、同社の将来における開発の方向性を見せているかも明らかでしょう。[7]

 「TAI」の場合、(国産機開発の一環として)すでに「「N-219」及び「N-245」ターボプロップ旅客機のプロジェクトで「PTディアガンタラ・ インドネシア(PTDI)」社に協力しています。[8]

  ジェット旅客機よりも競争の少ない市場セグメントに位置するこれらの機体は、トルコの影響力が高まっているアフリカで商業面での大成功を収める可能性がありますし、「PTDI」と「アントノフ」社とのプロジェクトの背後にある強力で政治的な後ろ盾も機体の輸出販売を推し進める大きな要因となるかもしれません。

 トルコによる「N-219」及び「N-245」のプロジェクトの関与で生じるだろう潜在的な恩恵については、当ブログで取り上げる予定です(注:本国版Oryxで公開済みですが、当日本語版での公開は未定です)。

 2015年に立ちあげられた「TRジェット」プロジェクトもそれらと同様に、既存の機体を最大限に活用することでプロジェクトのスピードアップとこの規模のプロジェクトに特有のリスクを抑え込もうとしました。

 「TRジェット」プロジェクトが頓挫したのは前述のとおりですが、最終段階では、短距離飛行用の32の乗客席を備えた「TRJ328」とそのターボプロップ型「TR328」、中距離飛行用の60〜70席の乗客席を備えた「TRJ628」とそのターボプロップ型「TR628」の4機種を製造することになっていました。[9]

 4機種のうち「TRJ628 」と「TR628」だけが新規設計で、「TRJ328」と「TR328」は既存のドイツ製「ドルニエ328ジェット」と「ドルニエ328」を高度に発展させたものでした。

 「TRジェット」と同様の名称変更がアントノフ機にも適用される可能性があり、その場合、「An-132」は「TR-132」、「An-178」は「TRJ-178」、「An-188」は「TRJ-188」と呼称されることになります。

 (必ずしも好ましいものではありませんが)「アントノフ」社とその飛行機は世界の大部分でそのブランド認知力を誇っていますが、トルコが国際政治において地域大国に台頭したは、今後のさらなる商業的成功に重要な役割を果たす可能性があると言えます。

 その意味では、飛行機の原産国(トルコ)にちなんだ呼称は確かに有益なものとなるかもしれません。それでは、「TR-132」、「TR-J-178」、「TRJ-188」について詳しくチェックしていきましょう。


 「An-178」と「An-188」は主に軍事市場向けの機体ですが、「An-132」ターボプロップ輸送機は民間市場でも成功する可能性があります。

 「An-32」の改良型として設計された「An-132」は潜在的な顧客にとってより魅力的な機体にするべく、「An-24/26/32」ファミリーを商業的に成功させた頑丈さと飛行能力を維持しながら西側諸国の部品や技術を取り入れた機体です。

 また、同機は「プラット&ホイットニー」社製「PW150」ターボプロップエンジン2基を搭載しており、ロシア製の部品に代えて西側諸国製のコンポーネントを備えています。

 「An-132」プロジェクトは、生産ラインを国内に置くことで自国の航空産業を促進させるため、2015年にサウジアラビアに採用されたことで知られています。しかし、当初は80機の発注を公約し、後にサウジアラビア空軍で使用する6機の「An-132D」を実際に発注したにもかかわらず、成功が約束されたはずのプロジェクトは最終的に2019年にサウジアラビア自身によって棚上げされてしまいました。[10] 

 特にサウジアラビア空軍は、「An-132」プロジェクトが国軍の実際に必要とする条件を満たすものではなく、単に産業的な理由だけで進められているものと感じて反対していたのです。

 「アントノフ」社は以前にも、航空機の製造に関心を示す別のいくつかの国々に、同じ「航空機製造計画」を売り込んでいたことがあります。[10] 

 この計画の下では、同社が自社製航空機の改良型を開発・試験して、後でその機体に関する知的財産権をパートナー国に譲渡し、その国で生産ラインを立ち上げるということになっていました。イランはこのプランを採用した(サウジ以外で)唯一の国で「An-140」と「An-148」旅客機の国内生産しようとしましたが、制裁のおかげでプロジェクトは中止に追い込まれてしまったため、組み立てられた「IrAn-140」はごく少数に終わってしまいました。[11] 

 2019年にサウジアラビアとの契約が破綻した後、「An-132プロジェクト」は今や実質的に暗礁に乗り上げた状態となっています。「An-132」の試作機は2019年に最後の飛行を行い、耐空証明が失効した後にウクライナ当局によって登録されている航空機のリスト上から抹消されました。[10] 

 したがって、今の状況はトルコが介入して「An-132」プロジェクトを蘇らせるめったにない機会をもたらしています。トルコ製の部品や技術、ペイロードの統合とトルコの関与する度合いが強まることが予想されるにもかかわらず、おそらく「アントノフ」社によって以前に売り込まれたプランのいくつかの側面が取り入れられたものになるでしょう。



 「An-132」を旧世代機の単なる改良型として簡単に片付けるのは間違いです。なぜならば、この一連の推論は、現在の航空機市場で販売されているほぼ全ての輸送機に該当するからです。

 非常に人気のある「C-130J "スーパーハーキュリーズ "」は1950年代の設計を全面的に一新したものであり、「C-27J」と「C-295」はそれぞれ1970年代と1980年代の機体の高度な派生型です。「C-27J」と「C-295」は「An-132」のダイレクトな競争相手で、1990年代後半に発表されて以来、輸出市場で大きな成功を収めてきました。

 彼らの継続的な商業的な成功は、「An-132」のような航空機に大きな市場が実際にあることを証明していますが、このことは、「An-132」の見こみ客の多くが、すでに「C-27J」や「C-295」を運用していることも意味しています。

 そのため、「An-132」は進化したペイロードといった斬新な特徴を提示し、そして何よりも競合機よりも導入と運用コストを安くするなどして、その限界を改善しなければいけません。ただし、トルコによる強い政治的な後ろ盾が、友好国が航空機を調達に寄与する強力な要因となる可能性があります。

 「An-132」の設計はすでに「C-27J」や「C-295」の多くの特性を上回っており(以下の画像)、ほかの輸送機が運用できない未整備の滑走路から運用する能力を有しています。

 この強みは、「An-132」をジャングル奥地にある人里離れた仮設滑走路への運航を継続させることが多い南アメリカやアフリカの民間貨物業者にとっても魅力的な選択肢にさせます。これらの大陸にあるいくつかの航空貨物運送事業者は、特に未舗装の滑走路での離着陸があることから「An-26」と「An-32」を使用し続けており、現時点でこれらを真の意味で代替する航空機は存在しません。

 「An-132」は民間市場で成功を収めるだけでなく、「C-27J/C-295」を調達する資金が不足していたり、あるいは「An-26/32」のより高度なタイプに置き換えたいという軍事方面の顧客を引きつける可能性があります。

  アフリカの場合、そのような国にモザンビーク、コンゴ民主共和国、スーダン、リビア、エチオピア、アンゴラ、赤道ギニア、ナイジェリアが含まれていますが、ペルー、エルサルバドル、コロンビアといった南アメリカの諸国も将来の運用者として見込まれます。

 より身近なところでは、ウクライナとイラクが「An-26/32」の後継機に「An-132」を選定するかもしれません。

 これらの国の大部分については1国につき僅か数機ずつの契約となると思われますが、航空貨物運送事業者に対する売却の可能性を合算すると、販売機数は早い段階で積み重なっていくでしょう。


「C-27J」及び「C-925」と比較した「An-132」 の各オプション時におけるペイロード図

 「An-132」は軍用貨物機や商業貨物機としての用途に加えて、かつて想定されたことがある空中消火、電子戦(EW)、医療後送(MEDEVAC)、さらにはガンシップや海上哨戒(MPA)を含む、広範な分野にわたる特殊任務を遂行することも可能です。

 EW機や(ジェット機ベースの)将来型MPAプロジェクトがすでに進行中であるトルコにとっては、前述の特殊任務の全てに必ずしも興味を示すわけではありませんが、それらのような派生型は一定の輸出先にとって依然として関心を引くかもしれません。

 2017年、ウクライナの「ウクルオボロンプロム」社とトルコの「ハヴェルサン」社は、サウジアラビアによって見込まれた要求を満たすために「An-132」のMPA及びISR型の開発に関する協定を既に締結していましたが、その後すぐにサウジアラビアが「An-132」プロジェクトを放棄したため、最終的には実現に至りませんでした。[12]



 トルコにとって最も興味を引くと思われる「An-132」の派生型は、間違いなく空中消火型の「An-132FF」でしょう。

 かつてトルコは約9機の「CL-215」と11機のPZL「M18」消防機から成る空中消火飛行隊を保有していましたが、その全機が過去数年間で退役しており、現在ではチャータされたロシアの「Be-200」水陸両用機や「Mi-17」、そして「Ka-32」ヘリコプターの飛行隊がその重要な任務を引き継いでいます。[13] 

 2021年にトルコで発生した大規模な山火事は、リースの航空機やヘリコプターに依存せずに独自の空中消火機を運用することの利点をこの国に再び認識させ、同年10月には、4機の空中消火機を調達することが公表されました。[14]

 トルコとウクライナで森林火災が増加しているため、「An-132FF」は、より多くの空中消火機の需要に応えることが可能です。

  もし、そのような調達が実現した場合 トルコ空軍による「An-132」の採用にもいっそう関心が高まるでしょう。というのも、同空軍は1990年代前半~後半から運用している約50機の「CN-235」飛行隊が今後の10年で更新が予定されているからです。

 ターボプロップ機である「An-132」の(商業的な)可能性があるにもかかわらず、トルコはこれまで「An-178」と「An-188」ジェット輸送機にだけ関心を公に示してきました。

 アントノフ「An-178」中型輸送機は「An-158」旅客機の貨物機版として設計されたものであり、飛行甲板、翼板、尾部、そして機内のシステムの多くが同一となっています。ただし、胴体は最大で16トンの貨物を搭載できるように新たに設計され、1,620km(5トンの貨物を搭載した場合は4,700km)を飛行する能力を有しています。

 両機は共にウクライナの「モトールシーチ」社が生産する「イウチェンコ・プロフレス」設計の「D-436」または「AI-28」エンジンを搭載しています。「モトールシーチ」社は2017年に中国にほぼ乗っ取られかけた結果、アメリカ政府がウクライナ政府に介入させ、安全保障上の理由からこの買収劇を頓挫させた過去があったことは以前に紹介しました。[15]

 ウクライナは、民間旅客機を生産するというトルコの計画を復活させるためのパートナーとしても言及されています。このことは、「An-178」との共通性からトルコが「An-158」にも興味を示す可能性を示唆しています。[3]

 「アントノフ」社は主に軍用機市場の分野で活躍していますが、数種類の旅客機も設計・開発したことについて見落とされがちです。これにはターボプロップ式の「An-140」や「An-148/158」ジェット旅客機も含まれていますが、いずれも国際市場でほとんど成功を収めることができませんでした。

  1990年代にはかつてないほど高まった野心が「アントノフ」社は、民間旅客機である「An-180」「An-218」や、エアバス「A380」に対抗するために戦略輸送機「An-124」の旅客機版である「An-418」の開発を開始しましたが、残念ながら頓挫して無駄に終わりました。[16]

 その全てを費やした努力に対して、「An-148」とその胴体を延長した「An-158」は商業的に期待外れで終わりました。ウクライナとロシアにある僅か2つの航空会社だけが、今でも合計7機の「An-148」を運航し続けています。

 ウクライナとロシア以外の国に対する販売実績には、北朝鮮の「高麗航空」への「An-148」2機、キューバのフラッグキャリアである「クバーナ航空」への「An-158」6機が含まれていますが、後者の場合は多数の技術的問題で悩まされたため、2018年に全機が運用停止に追い込まれてしまいました。

 「An-178」に類似していることから、「An-158」はトルコの旅客機に対する野心を満たす理にかなった候補のように思えますが、同機は結局のところ、経済的に不可能と見なされて開発が中止された「TRジェット」プロジェクトの「TRJ628」と酷似しているものとなります。[17]

 「An-158」旅客機への投資は純利益でプラスをもたらす可能性は極めて低いですが、「An-178」はリスクと利益のバランスがやや魅力的です。

  既存の競合機に追いつく必要がある「An-132」とは対照的に、「An-178」はライバルの多くが登場する以前に中型輸送機市場への早期参入が可能となっています。ライバル機として、ブラジルの「エンブラル」製「KC-390」、将来に登場する予定であるロシアの「Il-276」とエアバス「A400M」の小型版(仮称「A200M」または「A410M」)が挙げられます。[18] 

 「An-178」の見こみ客には、イラク、アンゴラ、エチオピア、ナイジェリア、エジプト、インドネシア、パキスタン、ペルーが含まれています。

 新しいエンジンオプションを通じて最大離陸重量と燃料効率を向上させることができるため、「An-178」には将来的に成長する可能性も秘めていますが、実際のところ、航空機が商業的な成功を得るためには取得・運用コストが決定的な要因となります。

 機体をさらに「西側化」するためにトルコ製のコンポーネントをインテグレートすることで、輸出販売の見こみも高まるかもしれません。

 それにもかかわらず、「An-178」が輸出される可能性は「An-132」よりも低く、航空貨物運送事業者から広範な関心を持たれることは起こりえないと言えます。これは「An-178」の設計とは全く関係がなく、より小型か大型で、積載可能な量が増加した長距離飛行機に対する市場の需要によるものです。

 「An-178」を国際的な顧客にとってより魅力的なものにするため、「アントノフ」社は同機のさまざまな派生型を提案しています。[19] 

 これには空中給油型、MEDEVAC型、捜索救助型が含まれていますが、「An-148-301MP」MPA、「An-148-301ISR」、さらには「An-148-301AEW」空中早期警戒機がある同社の「An-148」発展計画を考慮すると、「An-178」にも他の派生型が提案されることも考えられないことではないようです。[20] 

 多岐にわたる派生型の具現化については、最終的にそのような特殊な派生型の対する関心の高さに左右されるでしょう。

 「An-178」に対する各国の関心の程度を予測することは、現時点で困難です。同機は「An-132/C-295/C-27J」と「C-130/IL-76」の間の微妙なギャップを埋める存在であることから、大部分の国は「An-178」で可能な任務を遂行するために、単にこれらの機種のどれかを選択するだけでしょう(注:中途半端な存在ということ)。

 ただし、現在「C-130」クラスの輸送機が不足している国や企業は、「An-178」を選定する可能性がもっとも高いと思われます。これまでにウクライナとペルーがそれぞれ3機と1機の「An-178」を発注していますが、現時点におけるペルーとの契約状況は定かではありません。[21]

 (「An-225」以外で)ほぼ間違いなくトルコが最も関心を示している航空機は、間違いなく「An-188」戦略輸送機のコンセプトでしょう。

 この「An-188」は、ソ連の「An-12」の後継機として1980年代後半に開発された「An-70」 プロップファン式中距離輸送機を発展・進化させたものです。

 1990年代初頭のソ連崩壊後、「An-70」はウクライナとロシアの共同所有の下でゆっくりと開発が継続されました。2014年のロシア・ウクライナ戦争が勃発した後、ロシアはウクライナから正式に「An-70」計画から追放されましたのは言うまでもないでしょう。

 しかし、この動きはほとんど表面的なものでしかありませんでした。というのも、ロシアはすでに2013年の時点で国産機の開発に集中するため、このプロジェクトから手を引いていたからです。[22]

 1994年の初飛行から約20年が経過しても依然として当局から認証を受けていなかったため、「An-70」計画は2014年まで決して安泰なものではありませんでした。

 この20年間、同計画は資金不足とロシアとウクライナの内部対立に悩まされ続けていました。(後に「Y-20」の開発に進んだ)中国との短い仕事の後、ドイツとフランスが「C-160」を置き換える将来の大型機計画で「An-70」を評価し始めたため、1990年代後半にこの計画に突破口が切り開かれる可能性が浮上しました。[23]

 ドイツ国防省の評価によると、西側化された「An-70」は「エアバス」社が売り込んでいた「A400M」より技術的に優れており、価格も推定で30%も安いことが判明しました。[23]

 しかし、結局は実用的な理由から「A400M」が選定されて終わりました。

 それ以来、「An-70」を海外に売り込もうと試みた「アントノフ」社は、見こみ客を獲得するための多岐にわたる提案を行ってきました。

 これらには「An-70」を西側化した「An-77」、より強力なプロップファン・エンジンを搭載した「An-170」、4基のプロップファン・エンジンを2基のジェットエンジンに置き換えたアメリカ空軍向けの空中給油機「An-112KC」、2~4基の「イウチェンコ・プロフレス」製「D-18T」か米仏共同開発の「CFM56-5C4」ジェットエンジンを搭載した「An-70-118」・「An-70T-300」・「An-70T-400」、そして4基のジェットエンジン、西側製のコンポーネント、空中給油装置が装備された「An-70」の最新改良型である「An-188」が含まれていました。[24] [25]

 「An-70」の最も見こみのある派生型ということを別にしても、「An-188」は「An-70」計画を復活させるための唯一の現実的な選択肢でもあります。

 「An-77」プロジェクトでは「An-70」のロシア製コンポーネントを西側諸国のもので置き換えようとしたものの、西側には特定の部品を置き換える類似品が存在しなかったことから、これがすぐに実現不可能と判明しました。[26] 

 「An-70/77」の強力な「イウチェンコ・プロフレス」製「D-27」プロップファン・エンジンは同機特有のものであり、他国では簡単に製造できないロシアの部品をいくつか用いています(注:「ベリエフ」製「A-42」水陸両用機にも搭載されることになっていますが、現時点では「An-70」にしか搭載されていません)。

 2020年のインタビューでウクライナのオレグ・ウルスキー戦略産業大臣がこのプロジェクトを「袋路」と述べたことは、「An-77」が商業的な面で実現できないことををはっきりと示しています。[26]

 ウクライナ空軍は、今でも2015年に正式に就役した1機の「An-70」を運用し続けています。[27] 

おそらく最も実現が高いもの:「An/TR-188」

 「An-188」計画は、空中給油機能やウィングレット付き巨大な主翼、西側諸国製のコンポーネントを備え、4基のジェットエンジンを搭載した重量級の中型輸送機として、2015年のパリ航空ショーで初めて公表されました。[28] 

 「An-188」は、4基の「イウチェンコ・プロフレス」製「D-436」か(「An-178」にも搭載される)「AI-28」エンジン、もしくは西側向けのオプションとして4基の「CFMインターナショナル」製「LEAP」を搭載することができます。[28] 

 見落としてはいけないのは、この「An-188」が「C-130J-30」と「C-17」のギャップを埋めることを目的とした輸送機ということです。つまり、「エアバス」製「A400M」の直接的な競合機という立場にあるというわけです。

 「An-188」の広々とした貨物室には、装甲戦闘車(AFV)や無人航空機(UAV)、ヘリコプター、さらにはトルコが近く配備する無人水上艇(USV)を含む最大で40トンの貨物を搭載することができます(注:ただし、積載量は搭載するエンジンの種類に左右されます)。

 また、MEDEVAC仕様で展開した場合は2つのデッキに最大で300人または200人以上の負傷者を収容でき、兵員輸送仕様では130人以上の完全装備の空挺隊員を収容することも可能となっています。[29] 

 左右の主翼下に各1基ずつの空中給油ポッドを搭載した場合、同機は空中給油機としても活用できます。

 2018年5月、トルコとウクライナが「An-188」の共同生産について交渉中であることが公表されました。[28]

 この交渉は、両国が担当する作業の割り当てやライセンス契約、技術移転、他国への輸出の可能性を中心に展開されました。共同生産に関する契約を進めるために、トルコの当局者は、航空機をNATO加盟国の機体と互換性のあるものにする必要があると発言したと伝えられています。[28] 

 これはトルコ空軍が求める必要条件であることに加え、輸出市場における同機の競争力を大幅に向上させることにもなります。

 現在、トルコ空軍は10機の「A400M」と16機の「C-130B/E」輸送機の飛行隊を運用しています。同国の「C-130」はもともと1960年代に製造された機体であることから、この10年先の終わり頃には後継機が必要と見込まれています。

 同時に、トルコの航空路線はここ数年で劇的に拡大しており、今ではリビアやほかのアフリカ各地へ頻繁にフライトを行っています。「A400M」のさらなる導入が実現するか不透明であるため、「An-188」はトルコの「C-130」の後継機としてますます魅力的な選択肢となっています。

 同様に、ウクライナ空軍も老朽化した「Il-76」の後継機として「An-188」を採用し、少なくとも6機以上の機体を導入する契約を結ぶ可能性があります。

 「An-188」の見こみがある輸出先には、インドネシア、アンゴラ、リビア、ナイジェリア、フィリピン、ルーマニア、サウジアラビア、カザフスタン、ウズベキスタン、パキスタン、ペルーなどの諸国が含まれています。

 また、この大型輸送機は、世界中の多くの航空貨物運送事業者で用いられている「Il-76」の後継機として、商用機市場からの需要にも応えることもできるかもしれません。しかし、「An-188」に対する商用機市場からの関心は不確かなものであり、空軍が主要な顧客となる可能性が高いと思われます。




 トルコは国際政治における新興国であり、困難なプロジェクトを実現させてきた確かな実績があります。

 全世界的な製造業の拠点化を目指して、トルコの企業は進歩的な技術をもたらすための革新的な計画に着手しており、2022年には初の国産電車「TOGG」製の「国家電気自動車」シリーズ、さらには電気トラクターの量産を開始する予定となっています。[30] [31] [32]

 これらの成果に続いて旅客機や貨物機の設計・生産も行うというトルコの願望は、自らを全世界的な製造拠点へと移行していく上での論理的な次のステップと言えるでしょう。

 トルコとウクライナの技術協力は、相互利益と手付かずの機会を活用する可能性に基づいています。互いに必要とする技術や専門知識・ノウハウを有していることが、両国を公平な立場に立たせているのです。

 トルコは、「ウクライナとトルコのドローン」としてまもなくウクライナで生産が開始される「バイラクタルTB2」UCAVといった高度な兵器の信頼できる供給源です。[33]

 そして、トルコは「バイラクタル・アクンジュ」UCAVや将来型無人戦闘機「ミウス(無人航空戦闘システム)」の動力源に用いるため、ウクライナのエンジン製造会社から恩恵を受けています。

 両国の軍の将来的な需要に応え、願わくは世界中に輸出できるようにするため、トルコとウクライナは「An-132」、「An-178」、「An-188」の共同開発・生産・販売を通じて科学技術分野における協力をさらに拡大・深化させていくかもしれません。

 トルコの技術・ノウハウ・世界的な影響力と「アントノフ」社が有する既存の機体と経験を合わせることは、どちらの国も単独では成し得なかったことを達成する最高の組み合わせと成就する可能性を秘めています。

トルコ政府が今後の国産航空機事業において現実的なアプローチで実現を試みることは確実です。この事実は2017年に「TRジェット」計画が中止されたことで浮き彫りとなりました。

 「アントノフ」社の既存の機体を利用することで、設計作業の大半を省略できることは、トルコにそれらの生産ラインを設置する可能性があることと同様に高く評価されることは間違いないでしょう。

 「バイラクタルTB2」が技術的側面において、まもなく「ウクライナ・トルコのもの」になるように、「An-132」、「An-178」、「An-188」も同様の道を辿ることになるかもしれません(注:ウクライナで生産されるTB2には同国産のエンジンが搭載される予定です)。[33]

今でも残存する未完成の「An-225」2番機。トルコのエルドアン大統領は2020年10月にこれを完成させるアイデアを提起しています。[1]

[1] Sky Giant: Turkey Mulls To Complete The Second Antonov An-225 Mriya https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/sky-giant-turkey-mulls-to-complete.html
[2] Turkey, Ukraine advance An-188 co-production talks https://www.defensenews.com/global/europe/2018/07/27/turkey-ukraine-advance-an-188-co-production-talks/
[3] Ukraine: Aviation firm Antonov aims to work with Turkey https://www.aa.com.tr/en/economy/ukraine-aviation-firm-antonov-aims-to-work-with-turkey/1965437
[4] Ukraine, Turkey develop plans to join forces in Antonov aircraft production, - Kuleba https://112.international/society/ukraine-turkey-develop-plans-to-join-forces-in-antonov-aircraft-production-kuleba-66301.html
[5] The Market Leader: Turkey’s Indigenous Unmanned Surface Vessels (USVs) https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/the-market-leader-turkeys-indigenous.html
[6] Turkey to start manufacturing 1st indigenous electric train locomotive in 2022 https://www.aa.com.tr/en/economy/turkey-to-start-manufacturing-1st-indigenous-electric-train-locomotive-in-2022/2386599
[7] Cezeri Flying Car https://www.baykartech.com/en/fighting-car/
[8] https://twitter.com/officialptdi/status/1440521718888497159
[9] Turkey terminates local jet program worth billions https://www.defensenews.com/air/2017/10/27/turkey-terminates-local-jet-program-worth-billions/
[10] Taqnia An-132: the curious tale of Saudi Antonovs https://www.aerotime.aero/28590-Taqnia-An-132-the-curious-tale-of-Saudi-Antonovs
[11] ANALYSIS: How Iran's aerospace dream began and ended with the licence-built IrAn-140 https://www.flightglobal.com/analysis-how-irans-aerospace-dream-began-and-ended-with-the-licence-built-iran-140/115133.article
[12] Antonov An-132 Advances with First Flight and New Partner https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2017-05-23/antonov-132-advances-first-flight-and-new-partner
[13] An Unmanned Firefighter: The Bayraktar TB2 Joins The Call https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/an-unmanned-firefighter-bayraktar-tb2.html
[14] Turkey to buy 4 firefighting planes following summer wildfires https://www.hurriyetdailynews.com/turkey-to-buy-4-firefighting-planes-following-summer-wildfires-168605
[15] Pandora Papers: How A U.S. Law Firm Attemped To Sell A Defence Giant To China https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/pandora-papers-how-us-law-firm-attemped.html
[16] Post-Soviet wide-body Neverland. Part 2: Superjumbos https://www.aerotime.aero/26412-post-soviet-wide-body-neverland-part-2-superjumbos
[17] https://twitter.com/AlexLuck9/status/1469338085242519552
[18] Turkey terminates local jet program worth billions https://www.defensenews.com/air/2017/10/27/turkey-terminates-local-jet-program-worth-billions/
[19] AN-178 Medium transport aircraft https://www.antonov.com/en/file/hADqQn7lEwEJs?inline=1
[20] Innovations https://www.antonov.com/en/innovations
[21] Spetstechnoexport gives its version on Peruvian An-178 delays https://www.aviacionline.com/2021/12/spetstechnoexport-gives-its-version-on-peruvian-an-178-delays/
[22] Самолетостроение как разменная монета https://zn.ua/internal/samoletostroenie-kak-razmennaya-moneta-_.html
[23] An-70's uncertain future http://www.aeronautics.ru/news/news002/news094.htm
[24] Ан-70: строить нельзя закрыть программу http://www.kr-media.ru/upload/iblock/af8/af8695008c15e9482af9f980e150f60f.pdf
[25] Paris Air Show 2015: Antonov reveals An-188 strategic transport aircraft http://www.janes.com/article/52287/paris-air-show-2015-antonov-reveals-an-188-strategic-transport-aircraft
[26] Вице-премьер Уруский: "Воздушный старт" может стать для Украины национальной идеей https://interfax.com.ua/news/interview/675352.html
[27] An-70 military transport aircraft enters Ukrainian Armed Forces service https://www.kyivpost.com/article/content/war-against-ukraine/an-70-military-transport-aircraft-enters-ukrainian-armed-forces-service-377854.html
[28] Turkey, Ukraine negotiate industry participation in An-188 co-production https://www.defensenews.com/global/europe/2018/05/11/turkey-ukraine-negotiate-industry-participation-in-an-188-co-production/
[29] Antonov An-188 Military Transport Aircraft https://www.airforce-technology.com/projects/antonov-188-military-transport-aircraft/
[30] Turkey to start manufacturing 1st indigenous electric train locomotive in 2022 https://www.aa.com.tr/en/economy/turkey-to-start-manufacturing-1st-indigenous-electric-train-locomotive-in-2022/2386599
[31] Minister Varank: TOGG will start mass production at the end of 2022 https://www.bazaartimes.com/minister-varank-togg-will-start-mass-production-at-the-end-of-2022/
[32] Elektrikli traktör için ön siparişler alındı https://www.trthaber.com/haber/ekonomi/elektrikli-traktor-icin-on-siparisler-alindi-562507.html
[33] Ukraine deepens defence ties with Turkey amid standoff with Russia https://www.middleeasteye.net/news/turkey-deepens-defense-ties-ukraine-drone-trade

  ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
  があります。



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2022年2月11日金曜日

「大空の巨神」の復活なるか?:トルコが「An-225 "ムリヤ"」2番機の完成を提起した



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 近年にウクライナとトルコの間で協議されている航空宇宙関連の協力の中でも間違いなく最も興味を引くものは、世界最大の貨物機「An-225 "ムリヤ"」の2番機を完成させる可能性が含まれていることでしょう。

 「An-225」に対するトルコの関心については、2020年10月にウクライナのゼレンスキー大統領がアンカラを訪問した際、エルドアン大統領が同機を完成させるというアイデアを提起したことで初めて報じられました。[1]

 それ以降にこのプランに関する続報を全く聞きませんが、トルコの関与が最終的に2機目の「An-225」を完成・就役させるための刺激と資金をもたらす突破口となることを意味する可能性があります。

 外国のパートナーの協力を得て2機目の「An-225」を 完成させるというアイデアが最初に持ち上がったのは、中国が同機を商業衛星を軌道に乗せるために用いるプラットフォーム用に開発することに関心を示した2011年のことでした。[2] [3]

 このプロジェクトの第1段階ではウクライナのキエフ郊外にある「アントノフ」社の施設に保管されている2機目の機体を完成させ、第2段階では中国で「An-225」の生産を再開させることになっていました。しかし、高額なコストがこの野心的なアイデアの運命を決定づけて、最終的には密かに放棄されたようです。[4] [5]

 2021年、「オボロンプロム(アントノフ社の親会社)」社が、2番機の製造プロジェクトの始動を手助けしてくれる外国人投資家を依然として探し求めていることが公表されました。その際に「ウクルオボロンプロム」社のユーリー・フシェウCEOは、「現時点におけるウクライナの航空機開発については、いくつかの国と活発な協議を行っているところです」と述べています。

 多数あるウクライナ機のさらなる開発に関心を持つ国の1つがトルコであることは周知の事実であり、同国はこれまでに2種類の「アントノフ」製航空機:「An-178」「An-188」軍用輸送機に公然と興味を示してきました。[6] [7]

 最初に生産された「An-225(UR-82060)」は、1988年12月に「ブラン」宇宙往還機用の超重量級輸送機として初飛行しました(この際には「ブラン」を背部に搭載して飛行に挑みました)。「An-225」は2機が発注されたものの、ソ連崩壊前に1機しか完成しませんでした。

 今日、「An-225」は250トン近い貨物を輸送することができる、世界で最重量かつ(幅以外では)最大の航空機の座にとどまっています。

 完成した唯一の「ムリヤ」は、「An-124」を含む大型貨物機を運航するアントノフ航空によって運航されています。

「ブラン」を背負い式で搭載した「An-225」

 唯一完成した「An-225」は1991年のソ連崩壊時にウクライナ・ソビエト社会主義共和国内にあったため、新たに共和国として独立したウクライナの管轄下に入りましたが、1993年に(現在のロシアによる)「ブラン計画」が中止されたため、同機が「ブラン」を搭載するいう本来の用途をすぐに失ってしまったことは周知のとおりです。

 1994年、「An-225」1番機はキエフの「アントノフ航空機工場」に長期保管という事実上の放置状態に置かれ、2番機も機体の70%が完成した後に製造作業が突如として中断されてしまいました。[8]

 1990年代後半になると、「An-225」のような大型貨物機の需要が再び生じたことから、保管機は2001年に現役復帰に返り咲きました(注:残念ながら、2022年2月にロシア軍の攻撃で破壊されてしまいました)。[8]

 同時期に2機目を完成させる計画が浮上し始めて2006年に製造の再開が決定されましたが、2009年末になっても機体の製造は依然として再開しておらず、計画は放棄されたように思われました。[9]

 しかし、その後の2011年5月、「アントノフ」社のCEOは、「利害関係者が少なくとも3億ドル(約345億円)を用意したならば、2機目の『An-225』を3年以内に完成させることができる」旨を述べ、構想がいまだに生きていることを示しました。[9]

 2016年の時点で、中国航空工業公司はこれらの費用を負担する用意があったと言われていますが、その後に関心を失ったようです。[5]

 中国は長い間にわたってウクライナの航空産業が生み出した成果を享受してきました。

 1990年代にウクライナは2機の「Su-33」と1機の「Su-25UTG」艦載機を中国に売却し、中国の前者に対する詳細に及ぶ研究は結果的に「J-15」艦載機の誕生に至らせたことはよく知られています。[10]

 より最近の事例ですと、中国が巧妙な手口で世界最大の航空機・ヘリコプター用エンジン製造企業である「モトールシーチ」社の企業支配権の獲得を試みましたが、この買収劇は最終的にアメリカによる圧力を受けたウクライナ政府によって阻止されたことがありました。[11]



 2機目の「An-225」が完成した場合、同機が大型貨物の国際輸送で利益をもたらすことは確実でしょうが、完成させるために要する3億ドルの費用は決して事業面で真の利益を出させないことを意味する可能性があります。

 このリスクはアントノフの現CEOであるオレクサンドル・ドネツ氏によって認められ、2019年に「これは非常に高価なプロジェクトです。設計やエンジニアリング作業、新しい資機材の調達、そして機体の認証にかかる費用は数百億ドルにのぼるでしょう。このようなプロジェクトは航空宇宙プログラムでは有効かもしれませんが、民間航空輸送は別です。
」と述べています。 [12]

 このことは、なぜトルコが2機目の「An-225」の完成に関心を示したのかという疑問をもたらします。

トルコは同機を単に相当な利益を上げることを目的とした商業資産として運用するのではなく、(おそらくアントノフとの共同事業によって)国内外にトルコの力と威信を示すことを意図したステータスのシンボルとしての役目を務めることもあり得まると思われます。

 トルコは国際政治においてますます重要な当事者として浮上しており、積極的な国際的役割の請負とそれに伴う政治的な影響力を強めています。「An-225」は特大型の積載物や人道支援物資などを地球上のどこにでも届けることができるため、将来的には新興する大国としてのトルコの地位を再確認させる飛行機になるかもしれません。




 「An-225」級の大型機に関連する高いコストのおかげで、ウクライナは2機目の「ムリヤ」を完成させることを断念していました。

 「モトールシーチ事件」後に中国からの資本投資がなされる可能性が起こりえないものとなったため、「アントノフ」社は2番機の「ムリヤ」を完成させるために別のパートナーを探す必要があるでしょう。

 ここでトルコが登場するかもしれません。トルコは国際政治における急成長している新興国であり、困難なプロジェクトを実現させた確かな実績があります。

 「An-225」を運用することのメリットが最終的に完成に要するコストを上回るかどうかは、トルコ政府の判断次第です。ひょっとすると、「An-225」がトルコの大統領専用機と同じカラーリングを施され、世界中の各地で権力と影響力を誇示する使節、ステータスシンボルとしてその役割を果たす日がやってくるかもしれません。



[1] Turkey interested in completing An-225 Mriya – Dpty PM https://en.interfax.com.ua/news/general/698799.html
[2] Antonov Sells Dormant An-225 Heavylifter Program to China https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2016-09-06/antonov-sells-dormant-225-heavylifter-program-china
[3] Chinese aero group eyes world’s largest plane https://asiatimes.com/2019/07/chinese-aero-group-eyes-worlds-largest-plane/
[4] Ukraine mulling to complete the second Antonov An-225 Mriya https://www.aerotime.aero/27146-second-an225-potential
[5] UkrOboronProm seeks investments to complete second Mriya aircraft https://www.kyivpost.com/ukraine-politics/ukroboronprom-seeks-investments-to-complete-second-mriya-aircraft.html
[6] Ukraine: Aviation firm Antonov aims to work with Turkey https://www.aa.com.tr/en/economy/ukraine-aviation-firm-antonov-aims-to-work-with-turkey/1965437
[7] ANTONOV Presents its Advanced Programs in Turkey https://www.defenceturkey.com/en/content/antonov-presents-its-advanced-programs-in-turkey-3002
[8] UR-82060 https://avia-dejavu.net/UR-82060.htm
[9] Why Wasn’t The Second Antonov An-225 Finished? https://simpleflying.com/second-antonov-an-225-finished/
[10] Black Sea Hunters: Bayraktar TB2s Join The Ukrainian Navy https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/black-sea-hunters-bayraktar-tb2s-in.html
[11] Pandora Papers: How A U.S. Law Firm Attemped To Sell A Defence Giant To China https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/pandora-papers-how-us-law-firm-attemped.html
[12] Президент ГП "Антонов" Александр Донец: Мы должны вернуться к тому, что умеем делать очень хорошо – к грузовым, военным самолетам. Это у нас всегда получалось https://www.unian.net/economics/transport/10531239-prezident-gp-antonov-aleksandr-donec-my-dolzhny-vernutsya-k-tomu-chto-umeem-delat-ochen-horosho-k-gruzovym-voennym-samoletam-eto-u-nas-vsegda-poluchalos.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2022年1月5日水曜日

定評のある機体: カザフスタンが導入した「Y-8」輸送機



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 中国の「Y-8」輸送機は、その設計の独創性で決していかなる賞を受けることはないでしょう。なぜならば、同機は1970年代にソ連の「An-12」をリバースエンジニアリングして中国の要求に合うように僅かな変更を加えた事実上の派生型だからです。

 1970年代以降、陝西飛機工業公司は「Y-8」の量産で得た経験のみならず「ロッキード マーチン」社「An-12」の開発メーカーである「アントノフ」社など海外の助言を活用することによって、実績ある機体の改良に着手しました。

 結果として完成した「Y-8F-600」と「Y-9」について、その外見は依然として既存の「Y-8」シリーズに似ていますが、引き伸ばされて再設計された胴体、グラスコックピットやプラット&ホイットニーのターボプロップ式エンジンを備えていることが特徴です(注:Y-9は国産エンジンを搭載)。

 2006年に初めて導入されて以降、「Y-8F-600」は中国人民解放軍空軍と海軍航空隊で現在も使用されている特殊作戦機のベース機となり、その1つであるAWACS型(ZDK-03)もパキスタンに輸出されています。

 このことを踏まえると、海外諸国が「Y-8」の新しい派生型や「Y-9」を購入する代わりに、わざわざ新造された旧バージョンの「Y-8」を調達し続けていることは、いっそう驚くべきことだと言えます。

 冷戦初期を彷彿とさせる外観が特徴であるこれらの旧世代機は、未舗装の滑走路での運用を可能にしている頑丈さと整備のしやすさなどで高く評価されています。

 また、「Y-8」は「C-130」や「Il-76」のような類似機と比べた場合、比較的シンプルな構造であることと、中国の資金拠出の柔軟性と融資のおかげで価格もかなり低いものとなっています。ベネズエラ空軍が長年にわたってロシアから「IL-76」と「IL-78」の導入を検討した後の2012年に8機の「Y-8」を調達した背景には、このような納得のいく理由があったと思われます。

 その数年後、カザフスタンはベネズエラに続いて8機の「Y-8F-200W」を発注しましたが、これらは空軍用ではなく国家警備隊用の機体でした。2018年9月に最初の「Y-8」が到着し、国家警備隊初の航空兵力が就役となりました。
                              
        

 国家警備隊(及びその前身である国内軍)は2014年の創設以来、「Y-8」の導入までは空軍の輸送能力に全面的に依存していました。

 世界第9位の国土を持つ国として、「Y-8」の長い航続距離と多くの兵員を運ぶことができる能力は、きっと高く評価されるに違いありません。カザフスタン国境警備隊も同様の理由で「An-74」と新たに導入したCASA「C295W」の飛行隊を運用しています。

 国家警備隊が中国機を選んだ別の理由としては、「Y-8」の納入に要する時間に関係している可能性があります。なぜならば、2018年4月21日に契約を結んだ後、すでに同年の9月には最初の機体がカザフスタンに到着し、2019年の第1四半期には発注した全8機の納入が完了したからです。[1]



 確かにカザフスタンは「Y-8」の設計とレイアウトを全く知らないわけではありません。なぜならば、同国は過去10年の終わり頃に最後の機体が退役するまでに多くの「An-12」を運用していたからです。

 この頑丈な輸送機はその積載量や耐久性、そして航続距離の長さのおかげでカザフスタンのニーズに非常に最適なものとなっていました。このことを踏まえると、カザフスタンを「An-12」に酷似した「Y-8」の導入に導いたのは、(すでに慣れ親しんだ機体と共通性が多いという利点を除けば)まさにこれらのメリットが決定打となった可能性があります。

 「An-12」がカザフスタンで運用されていた際は、アルマトイ国際空港(IAP)、ヌルスルタンIAP、ジェティゲン空軍基地を拠点としていたほか、国内各地にある別の空軍基地にも頻繁に配置されました。これを考慮すると、「Y-8」もこれらの基地や空港を拠点とする可能性が高いと思われます。

離陸滑走中の「An-12」(空軍機)
カザフスタンの「Y-8」:垂直尾翼にある国家警備隊のマークに注目。

 カザフスタンが導入した8機の「Y-8」は、国内各地にいる国家警備隊の輸送能力を著しく向上させています。導入した「翼竜Ⅰ」UCAVの運用があまりうまくいかなかったと思われている一方で、「Y-8」はこの国で確固たる地位を築いた数少ない中国製兵器の1つと言えます。

 「Y-8」の導入が中国の関与をさらに強める前兆であるかどうかはまだわかりません。しかし、カザフスタンが自国産業の発展とそれに伴う軍の近代化を目指す傾向を継続していることから、トルコ、南アフリカ、イスラエルといった中国以外の国々も潜在力を秘めた興味深いサプライヤーとなるでしょう。

 その一方で、信頼できる「Y-8」はカザフスタンにとって安全面で良好な実績を持つ頑丈な航空機となり、運用者への貢献を実証してくれるに違いありません。



[1] Kazakhstan’s first Y-8 transport aircraft makes maiden flight in China https://defence-blog.com/kazakhstans-first-y-8-transport-aircraft-makes-maiden-flight-china/
[2] China hands over Y-8F200W transport aircraft to Kazakhstan https://archive.ph/20181006143401/https://www.janes.com/article/83301/china-hands-over-y-8f200w-transport-aircraft-to-kazakhstan#selection-900.0-900.1

ヘッダー画像:Maxim Morozov(敬称略)

※  当記事は、2021年8月21日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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