2022年5月3日火曜日

無人機による航空阻止:リビアにおける「バイラクタルTB2」UCAV



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争において、アゼルバイジャンがアルメニアに勝利するために極めて重要な役割を果たしたことでよく知られています。

  歴史上、1つの兵器システムだけで勝利した戦争はありませんでしたが、TB2なしでアゼルバイジャンがめざましい勝利を得ることができなかっただろうことに疑う余地はないでしょう。

 あまり知られていないのは、2019年から2020年にかけて国際的に承認されたリビア政府(GNA)を救い、UAEやエジプト、そしてロシアから多大なる支援を受けた「リビア国民軍(LNA)」のハリーファ・ハフタル将軍による敵対的な乗っ取りを阻止したTB2の功績です。[1]

 リビアにおけるTB2の取り組みが認知に欠けているのは、特にシリアやナゴルノ・カラバフでの空爆の映像が公開された数と比べた場合に、少しもTB2による空爆の模様が公開されていないことに原因があると思われます。

 もう1つの要因としては、メディアが6年以上続いたこの内戦にほとんど注目しなかったことも挙げられるでしょう。

 とはいえ、「バイラクタルTB2」は、UAEとロシアがリビアに配備したロシア製防空システム「パーンツィリS-1」のかなりの数を撃破したことで知名度を上げました。伝えられるところによれば、「パーンツィリS-1」は少なくとも15台がTB2によって撃破され、そのうち9台は72時間以内に喪失したとのことです。現時点で、報じられている15台の損失のうち9台は視覚的な証拠によって確認できています。[2] 

 LNAの作戦機もTB2の空爆を受ける側となり、リビア西部と中部の空軍基地に駐機していた貨物機と戦闘爆撃機がそれぞれ3機ずつ破壊されました。その結果として、前述の空軍基地から実施されるLNAの継続的な航空作戦は著しく危険なものとなり、主要なアル・ワティーヤ空軍基地での活動さえも停止に追い込まれてしまいました。[3] 

 事実上、アル・ワティーヤは2019年の夏から「バイラクタルTB2」によってロックダウンされていたのです。

 貨物機が地上で積載物を降ろすことが危険となったことは、最終的にLNAに物資のほとんどを陸路での輸送を余儀なくさせ、トリポリの部隊に物資を供給し続けることが極めて困難なものとなってしまいました。

 

 LNAにとってさらに悪いことに、「バイラクタルTB2」がリビア西部を通ってトリポリに向かう補給部隊の車列に放たれ、「パーンツィリS-1」に護衛されていても、彼らが頭上を飛ぶTB2の格好の餌食になったことが実証されました。

 実際、単に「パーンツィリS-1」が存在するだけで補給部隊が標的となる可能性が高まったように思われます。この防空システムは頭上の敵機(TB2)と交戦することは不可能同然であることに加え、GNAにその位置を特定するのに十分な通信・電波信号の情報をもたらしたからです。 

 ほかのケースでは、移動中に補給部隊の車列を護衛していた兵士がセルフィーしていたこともありましたが、これも作戦上の安全性に有益だったはずがなかったことは言うまでもないでしょう。[4]

 地上では、トルコはトリポリのGNA部隊を再編して同市の郊外を効果的に防衛できるようにし、最終的にはLNAに戦いを仕掛けることを可能にしました。

 UAEができなかったことですが、トルコは単に武器や装備を提供するだけでなく現地部隊の訓練も開始しました。この方法はかなりの効果をもたらし、今では対戦車ミサイル(ATGM)や対物ライフルで武装し、支援射撃や無人機の支援を受けたGNA軍は、今や通り道を敢然とLNAのキルゾーンに変えることができるようになりました。

 ハリーファ・ハフタル将軍たちが実際に敗北を喫したのは2020年6月でしたが、2019年5月にトルコの最初の支援が到着した時点で彼の運命が決したと言えます。

2020年7月、アル・ジュフラ空軍基地上空で「バイラクタルTB2」から投下された「MAM」誘導爆弾の直撃を受けた2機の「IL-76」貨物機の残骸。

 TB2によるドローン攻撃は、2019年から2020年半ばまで、LNA軍に大きな被害を加え続けました。

 同期間に、トルコ海軍の「G」級フリゲートもリビア領海内に展開していました。「G」級フリゲートが装備している「SM-1MR」艦対空ミサイルの射程距離の長さは、「ACV-30 "コルクート "」35mm自走対空砲(SPAAG)の配備と同様に、地上のGNA部隊にさらなる「防空の傘」を提供しました。

 「バイラクタルTB2」は対空砲が届かない高さを飛行するだけでこのような兵器からの攻撃を避けることができますが、「翼竜II」といった中国製UCAVはTB2よりもはるかに低い高度で運用されています(注:実用最大高度が低いためにトルコが配備した防空システムの有効射程から逃れられないということ)。

 「MIM-23 "ホーク "」SAM部隊と「GDF-003B」35mm 高射機関砲の配備と相まって、リビア西部における  UAEによる「翼竜Ⅰ」及び「翼竜Ⅱ」ドローンの運用が効果的に封じ込められました。

 2020年4月末頃にGNAがLNAをトリポリ直近から押し返すことに成功したことで、リビア西部からの混乱した撤退をもたらし、トリポリを占領して自称リビア大統領に就任するというハフタル将軍の長年の夢が絶たれたのです。

  それからまもなくして、 GNA軍は5月18日にアル・ワティーヤ基地を占領しました。[3]

 1か月も経たないうちの2020年6月5日、戦略的要衝に位置する(LNAの巨大な補給基地として機能していた)タルフーナの都市が占領され、リビア国民軍(LNA)が首都トリポリの攻略を目指して約14カ月も展開してきた攻勢が正式に終了したことを世に知らしめました。[5]

 1年足らずで「バイラクタルTB2」はLNA軍を追い出した一方で14機が撃墜されましたが、厳しい戦局を変えるにしては小さな代償で済んだと言えます。

 トルコにとって非常に効果的なドローンの使用は、全く新しい外交政策である「バイラクタル外交」を形づくるために、彼らの増大する外交発言力をさらに押し上げています。

 低い経済的・人道的なコストで政治的・軍事的な影響の最大化を追求した、規模が小さい介入を基本とする「バイラクタル外交」は、本質的に現代の紛争の特徴に比類なく適した新しいタイプの戦い方を構成しています。 

 それを担う無人機(TB2)は比較的安価なものですが、「バイラクタル外交」は実際には国家の運命を決めたと言えるほど効果的なものでした。なぜならば、「バイラクタルTB2」がなければ GNAはリビアで全滅していた可能性が十分にあり得たからです(注:仮にバイラクタル外交がリビアやナゴルノ・カラバフのように国家の運命を左右したとしても、この外交で使われるTB2は安価で発展性がある無人機であり、決して驚異的な武器ではありません)。



  1. リビアで「バイラクタルTB2」の手で破壊されたことが確認された目標の一覧は、以下のとおりです。
  2. このリストには、画像または動画による視覚的証拠で確認された、破壊された車両及び装備だけが掲載されています。
  3. 場合によっては、地上で撮影された映像だけで判定されている兵器類も掲載されています。 ただし、それらは武装ドローンの使用が現地の目撃者によって報告されているため、無根拠なものではありません。
  4. おそらく、その運用にできる限り注目されないようにするためか、TB2がリビアを空爆した映像は今までにほとんど公開されていません。
  5. したがって、TB2によって破壊された兵器などの数は、ここに記録されているよりもかなり多いと予想されます。
  6. この一覧は、より多くの映像等が入手可能になり次第、更新されます。
  7. 各装備名に続く数字をクリックすると、それぞれの破壊された車両や装備の画像が表示されます。
上の国籍マークが以下の一覧に示された破壊された兵器の運用主体です

                 
戦車(1)


装甲戦闘車両 (2)
  • 1 「アル・マレード」装甲兵員輸送車: (1)
  • 1 MSPV「パンテーラT6」 装甲兵員輸送車: (1)


多連装ロケット砲:MRL (6)


地対空ミサイルシステム (11)
  • 2 「2K12/SA-6 "クーブ "」: (1) (2)
  • 1 「パーンツィリ-S1」: (1)
  • 7 「パーンツィリ-S1」: (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)
  • 1 「パーンツィリ-S1」: (1)


航空機 (6)


各種車両 (44)

[1] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html
[2] https://twitter.com/Archer83Able/status/1263253266416230400
[3] Al-Watiya - From A Libyan Super Base To Turkish Air Base https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/al-watiya-airbase-capture.html
[4] https://twitter.com/Acemal71/status/1261714776612356096
[5] Disaster at Tarhuna: When Haftar Lost Another Stronghold In Crushing Defeat To The GNA https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/disaster-at-tarhuna-how-haftar-blew-yet.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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