2021年10月22日金曜日

カラバフの覇者:「バイラクタルTB2」



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ in collaboration with Jakub Janovsky, Dan, COIN(編訳:Tarao Goo

Şimşek gibi atıldık bir semte yedi koldan - 稲妻のごとく、我々は七方向から攻撃した(ヤフヤー・ケマル・ベヤトル著「アキンジラー」から)

 今や「四十四日間戦争」として知られている悪しき戦いが勃発してから1年が経過しました。このコーカサスでの戦闘の結果は現状を驚くほどに覆し、当然ながら世界中のアナリストや歴史マニアの注目を集めてきた戦史における重要な分岐点を記録したと言っても過言ではないでしょう。

 短くも熾烈を極めた戦いの過程で、一握りのアゼルバイジャンの「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)がアルメニア軍の基盤を実質的に破壊し、これまでに(92台のT-72戦車を含む)126台の装甲戦闘車両(AFV)、147門の大砲、60門の多連装ロケット発射機(MRL)、22基の地対空ミサイルシステム(SAM)、6基のレーダーシステム、186台の車両など、合計で549の地上目標の破壊が確認されています。

 さまざまな要因の組み合わせがアゼルバイジャン軍の圧倒的な大成功を実現させた究極的な原因ですが、この新たに導入されたテクノロジーの一部が一連の戦いの中核であったことを否定できません。

 両国間の武力衝突が停止してからの数ヶ月で、一部のオブザーバーたちはおそらく装備が不足していたアルメニア軍の不備によってTB2の並外れた有効性を釈明しようと試みました。

 しかし、過去のシリアとリビア、そしてナゴルノ・カラバフでの戦闘で、TB2は現代諸国が集めた統合防空システム(IADS)の多くを相手にできる能力を示しており、「アフトバザ-M」「レペレント-1」「ボリソグレブスク-2」、そして「グローザ-S」のような電子戦(EW)システムを併用した場合でさえも、「S-300PS」「ブク-M2」「トール-M2」「パーンツィリ-S1」といったSAMとの戦闘に勝利しています。

 最も先進的な国の空軍でさえ敵の空域で任務を遂行することを完全に拒否するように設計されたこれらのシステムに直面したTB2の性能は、(SAMやEWシステムの)オペレーターだけでなく、製造したロシア企業にも衝撃を与えたに違いありません。

 比較的軽量で安価な無人機が先述のような防空システムを回避するだけでなく積極的に捜索して破壊できた一方で、その見返りとして僅かしか損失を被らなかったという事実は戦争を遂行する面での新たな方法を示しており、少なくとも3つの紛争で十分に試行された今となっては、流れを元に戻すことはできません。



 「バイラクタルTB2」はナゴルノ・カラバフ戦争で戦車の隊列やSAM陣地を攻撃しただけでなく、2020年10月にアゼルバイジャンの都市ギャンジャとバルダを攻撃し、それぞれ26人と27人の民間人を死に至らせたアルメニア軍のR-17「スカッド-B」弾道ミサイル発射機とBM-30「スメルチ」MRLの発見、追跡、破壊にも成功しました。

 TB2はSIGINTか(車両などの目標に対して75kmの探知距離を持つ)長射程のEO/IRセンサーを通じて「スカッド-B」を検知すると、直ちに徘徊兵器をその展開位置に誘導しました。その結果、少なくとも2基の「スカッド-B」の移動式発射機(TEL)が破壊され、アゼルバイジャンの都市への弾道ミサイル攻撃の脅威が減りました。

 特に注目すべきは、TB2がこれらの任務を遂行するためにナゴルノ・カラバフの空域に入る必要すらなしに,味方の領域の安全な距離から標的を観測していたという事実です。

アルメニアの国境を僅かに越えてミサイルの発射準備をしている「スカッド-B」。彼らの知らないうちに、自らがアゼルバイジャンの領空を飛行する「バイラクタルTB2」によって監視されていました。

 別の注目すべきケースとして、バルダへのロケット弾攻撃をもたらした2基のBM-30「スメルチ」重MRLの破壊があります。BM-30はナゴルノ・カルバフの奥深くにある準備された拠点に静かに配置され、河川敷から近くの平原まで自走し、再装填のために戻る前にそこで破壊的なロケット弾を発射しました。

 10月30日には、これらの重MRLの1つが致命的な斉射後に発見されました。TB2はこれを即座に攻撃するのではなく、そのまま拠点に戻るBM-30を追跡したところ、そこで別のBM-30と再装填車(または弾薬)を発見したのです。

 その直後にこれらは攻撃され、2基の発射機が破壊されてバルダに住むより多くの民間人の命を守った可能性をもたらすという結果に終わりました。



 振り返ってみると、TB2の役割は単なるハンターキラーではなく、最終的には戦場を完全に支配する存在ですらありました。

 世界で最も防空密度の濃い地域の1つを飛行しながら、どんな地上目標がいる位置にも忍び寄ってそのあらゆる動きを追跡する能力があるTB2は、文字どおり、地上目標の直上で円を描きながら、友軍のほかのアセットにその目標への攻撃を指示することができました。

 戦争中におけるTB2の風評は、(10月19日に発生した)墜落がまるで戦争での主要な戦いで勝利を収めたかのようにアルメニアによって扱われるようになり、
その墜落を祝うために国際的なジャーナリスト向けの記者会見が開かれるほどでした。

 この無人機から発見されたいくつかのコンポーネントに基づいて、海外に在住しているアルメニアの移民は「バイラクタルTB2」に使用されている部品の供給を停止させるべく、国際的な企業に圧力をかけるためにあらゆる努力を払いました。

 アルメニアがトルコに(アゼルバイジャンへの)代替品を引き渡すことを生じさせるのに十分な数のTB2を撃墜することができなかったため、この動きがナゴルノ・カルバフにおける戦争の行方に何の影響も与えなかったこと(さらに「バイカル・テクノロジー」社のような企業が持っていそうなスペアパーツのストックを無視していることも)を別としても、同じ分野の幅広い製品の納入をいとわない、数多くの企業がまだあります。

 結局、アルメニアの移民がTB2に焦点を合わせたことは、最終的に彼らの目標とは逆効果で終わったしまったとさえ主張できたかもしれません。なぜならば、TB2の背後にある設計思想と安価で入手しやすいという理由でいくつかの外国製コンポーネントが主に使用されていることを全く理解できなかった彼らの抗議は少ししか達成できなかったようであり、トルコは防衛製品のさらにいくつかの分野で自給自足できるようにするために、国産の代替部品の研究と生産を加速させたからです。

 カナダのWESCAM社がTB2の目であった(現在はアセルサン社の「CATS」FLIRがこれを代替している)前方監視型赤外線装置(FLIRシステム)の納入を禁止されたことは、この戦略によって生じたおそらく最も重要な不売措置でしたが、これも道徳的な観点からするとかなり疑わしいものが感じられます。

 このようなシステムの販売停止はムスリムであるシリアやリビアの兵士が標的となった紛争では一度も検討されなかったことですが、アルメニアのキリスト教人口はより共感できる集合点だったようです。

 同様に、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアルメニアの敗北をもたらした中でも重要な役割を果たした、最近納入されたばかりのイスラエル製無人機や弾道ミサイルなどの兵器が使用されたことについて、なぜアルメニアの移民たちが一度も調査を求めなかったのかと問う人もいるかもしれません。武器売買の倫理は明らかにケースバイケースで検討されており、客観的な視点よりも地政学的に都合の良い立場が優先されています。

 アルメニアのニコル・パシニャン首相はアルツァフ軍による「1ダース以上」にも及ぶTB2の撃墜を熱心に主張しましたが、実際には2機だけが戦争中に喪失したことが確認されています(1機は墜落、もう1機はおそらく撃墜されたと推測されています)。[1]

 しかし、たとえアルメニア軍が1ダース以上のTB2の撃墜に成功したとしても、これらの兵器システムは容易に入れ替え可能なため、戦争の結果に影響を与えることはなかったでしょう(注:比較的低コストかつ予備機の補充が容易なので、いくら撃墜してもきりが無いということ)。

 歴史上、これまで1つの兵器システムだけで勝利した戦争はありませんでしたが、「バイラクタルTB2」が戦争中のアゼルバイジャンで最も重要なアセットであり、それなしで際だった勝利が得られなかったことを疑う余地はありません。



  1. ナゴルノ・カラバフ上空を飛ぶ「バイラクタルTB2」によって撃破・破壊されたことが確認されている549の地上目標については、下のリストに表示しています。
  2.  このリストには、画像や映像による視覚的な証拠に基づいて確認された、撃破・破壊された車両や装備のみを掲載しています。したがって、実際に撃破された装備の数が、ここに記録されているよりも多いことは間違いないでしょう。
  3. 兵員、弾薬庫や軍事施設に対する戦果については、このリストに含まれていません。
  4. 各装備名に続く数字をクリックすると、それぞれの破壊された車両や装備の画像が表示されます。

戦車 (92)


歩兵戦闘車 (14)


牽引砲 (130)


自走砲(17)


多連装ロケット砲 (60)


弾道ミサイル (2)
  • 1 ZSU-23-4「シルカ」23mm自走対空砲: (1)


地対空ミサイルシステム (24)


レーダー (6)
  • 2 P-18「スプーン・レストD」: (1) (2)
  • 1 1S32 「パット・ハンド」 (2K11/SA-4 「クルーグ」用): (1)
  • 1 1S91 SURN (2K12/SA-6「クーブ」用): (1)
  • 1 ST86U/36D6「ティン・シールド」(S-300用): (1)
  • 1 19J6 (S-300用): (1)


電子妨害・攪乱システム (1)
  • 1 R-330P「Piramida-I」: (1)


その他の車両(187)
 記事です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている 

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