2022年9月25日日曜日

ファクトシート:ドイツによるウクライナへの軍事支援(一覧)


著:スタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

 世間の認識とは逆に、ドイツはロシア軍との戦いを支援するためにウクライナへ膨大な量の武器と装備を提供してきた国です。実際、ベルリンからの武器供給量は(アメリカとイギリスを除けば)どの国よりも多いのです。

 それにもかかわらず、ドイツはウクライナへの支援不足を批判されたり、モスクワとの関係を維持しようとする不運な試みに対して嘲笑さえされています。

 最終的に自らをウクライナの信頼できるパートナーと位置付けた一方で、対ウクライナ政策や他の外交政策における目標を説明するためのベルリンによる情報発信の手法は、対外的にみると大失敗以外の何物でもなかったと言えるでしょう。

 すでにウクライナに引き渡されたドイツによる物的支援には、「ゲパルト」対空自走砲30台、「M270」多連装ロケット砲システム(MLRS)3台、「PzH 2000」自走榴弾砲10門と誘導砲弾、携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)3200発、「パンツァーファウスト3」及び「RWG90 "マタドール"」携帯式対戦車無反動砲約1万発、車両数百台、弾薬約2200万発、さらにヘルメット2.8万個と「MiG-29」戦闘機のスペアパーツなど多数の装備品が含まれています。

 これらの供与の後には、さらに1ユニット分の「IRIS-T SLM」 地対空ミサイルシステム、20門のレーザー誘導式ロケット弾発射システム、43機の偵察用UAV、そして最大で20隻の無人艇がまもなく引き渡される予定です。

 また、ベルリンはウクライナの安全保障強化基金に少なくとも20億ユーロ(約2,800億円)を拠出し、この基金でウクライナ政府がドイツの武器製造・販売企業である「クラウス=マッファイ・ヴェクマン」社から新たに100台の「PzH 2000」を含む他国からの兵器を調達できるようにもしました。[1] [2]
 
 さらに、ドイツは「Ringtausch(循環的交換)」と呼ばれるプログラムで他国がウクライナに重火器を送るように仕向けようとも試みています。この政策は、各国が自国でストックしている戦車や歩兵戦闘車(IFV)をウクライナに供与する代わりに、ドイツ軍の同種兵器を無償で受け取ることができるという仕組みです。[3]

 当初は見込みのある構想でしたが、ほとんどの国がソ連時代の兵器をベルリンが現時点で提供可能(あるいは提供したい)ものより多くの最新兵器で置き換えることを望んでいるため、「Ringtausch」計画はほとんど期待に応えることができませんでした。

 チェコは数多くの「T-72」戦車やIFVをウクライナに供与した代わりに14台の「レオパルド2A4」と1台の「ビュッフェル」装甲回収車(ARV)を、スロバキアは30台の「BVP-1」IFVを供与する代わりに15台の「レオパルド2A4」と砲弾・訓練・兵站パッケージを受け取ることになっています。[4] [5]
 ギリシャは40台の「BMP-1A1」をウクライナへ供与する代わりに同数の「マルダー」IFVを受領しており、スロベニアは45台のMAN社製の8x8型軍用トラックを得る代わりに28台の「M-55S」戦車をウクライナへ送ることにもなっています。 

 厳しい批判は、ドイツが約束した一部の兵器の引き渡し時期、特に「M270」MLRS 3台の準備とそれらをウクライナへの移送に要する時間にも向けられています。実際、メディアや紛争を観察する人たちから嘲笑されることになったのは、まさしくベルリンが「MARS」を「MARS2」にするという高価な改修案を選んだからです。

 一方でフランスは「M270」を40台以上も保有していますが、ウクライナへの供与を決定しなかったため、結果としてドイツが受けたような世論の反発から免れることができました。[6]

 もう一つの過小評価されているドイツの支援は、医薬品や支援物資の提供です。これらはあまり注目されていないものの、戦いの最中にあるウクライナと兵士を維持するために非常に重要であることは言うまでもありません。

 今後の援助がどのようなもので構成されるかについては推測することしかできませんが、ドイツは国防省及び防衛企業「ラインメタル」社並びに「フレンスブルガー・ファールツォイクバウ・ゲゼルシャフト(FFG)」社が現在保管している(これまでにベルリンが供与を控えてきた)数百台の「レオパルト1A5」戦車、「マルダー1A3」IFVや「M113 "パンツァーメーザー"」自走迫撃砲を通じて、幅広い支援を更に大規模なものにできる可能性を秘めています。[7]

ウクライナで作戦に従事中のドイツが供与した「M270 "Mittleres Artillerieraketensystem (MARS) MLRS"」
  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際にドイツがウクライナに供与した、あるいは提供を約束した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
  2. この一覧は、主にドイツ連邦政府の発表した情報に基づいています。[7] 
  3. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されています)。
  4. 供与された月が不明な場合は2022年とのみ記載しています。
  5. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  6. ウクライナ軍向けの医療物資は本リストには含まれていませんが、ここでリストアップされています
  7. * はドイツ政府によって防衛関連企業からの購入されたものを表しています。
  8. ** はウクライナが購入したものを表しています。
  9. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。


供与済み

地対空ミサイルシステム(2個中隊分+発射機2, 1個中隊分+発射機2)

対空自走砲(46)
  •  46 ゲパルト* [2022年6月にウクライナ兵の訓練が開始、 7月以降(30台)と2023年2月(2台)と3月(2台)と7月(12台)に供与] 

多連装ロケット砲 (5)

レーザー誘導式ロケット弾発射機(20)
  •  20 70mmレーザー誘導式ロケット弾発射機(ピックアップトラック搭載型) [2022年12月]

自走砲(16)


戦車(65+)
  • T-72M1 [2022年] (「循環的交換政策」を通じて15台の「レオパルト2A4」戦車と1台の「ビュッフエル」戦闘工兵車との引き換えでチェコのストックから供与)
  • 28 M-55S' [供与済み] (「循環的交換政策」を通じて45台のMAN社製「8x8」型トラックとの引き換えでスロベニアのストックから供与)
  •  18 レオパルト2A6 [2023年3月]
  •  20 レオパルト1A5 [2023年7月と8月] (オランダ・デンマークと協力して供与)


歩兵戦闘車 (130)
  • 40 BMP-1A1 [2022年10月以降に供与] (「循環的交換政策」を通じて40台の「マルダー」歩兵戦闘車との引き換えでギリシャのストックから供与)
  • 30 BVP-1 [2022年11月] (「循環的交換政策」を通じて15台の「レオパルト2A4」戦車との引き換えでスロバキアのストックから供与)
  •  60 マルダー1A3 [2023年3月と9月]

装甲戦闘車両 (82)
  • 54 M113G3DK/G4DK [2022年7月と8月] (デンマークから引き取った「M113」装甲兵員輸送車をドイツの資金でオーバーホールしたもの)
  •  28 バンドヴァグン "BV 206S" * [2023年6月~8月]

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両(50)

携帯式地対空ミサイルシステム (3,200)

対戦車兵器 (約23,800)

対ドローン兵器・妨害システム (205)
  • 10 対ドローン銃* [2022年]
  •  57 対ドローンセンサー及び妨害装置*(40個の周波数帯域拡張装置を含む) [2022年/2023年]
  • 12 電子的対ドローン装置* [2022年]
  • 2 大型の対ドローン妨害システム* (「ハンヴィー」歩兵機動車搭載型) [2022年8月]
  • 1 通信走査/妨害システム*[2023年5月]
  • 10 通信妨害装置* [2022年8月と2023年7月]
  •  113 ドローン探知システム* [2022年12月,2023年2・3・6・8・9月]

レーダー (33)

機動式監視システム(6)

無人偵察機(216)

(無人) 艦艇 (10)
  •  10 無人水上艇* [2022年10月と11月]

無人車両(14)

工兵車両及び装備 (84)


車両(~1,187)


小火器 (820)

弾薬

  • 「IRIS-T SLM」SAMシステム用ミサイル* [2022年11月と12月,2023年1月と4月]
  • 164 「パトリオット」SAMシステム用ミサイル [2023年4月と8月]
  •  「M270 ''MARS'' 」用227mmロケット弾  [2022年7月と10月,2023年3月]
  • 86,122 「ゲパルト」対空自走砲用35mm機関砲弾 [2022年6月以降に供与]
  •  4,000 「ゲパルト」対空自走砲用35mm機関砲弾(訓練弾) [2022年8月]
  • 18,510 「PzH 2000」自走榴弾砲用155mm砲弾 [2022年6月以降に供与]
  • 17,000 「PzH 2000」自走榴弾砲用155mm発煙弾 [同上]
  •  1,000 「PzH 2000」自走榴弾砲用155mm照明弾[同上]
  • 「SMArt 155」 誘導砲弾(「PzH 2000」自走榴弾砲用 ) [同上]
  •  255+ 「ボルケーノ」誘導砲弾(「PzH 2000」自走榴弾砲用 ) [2023年3月と6月]
  •  134,592 40mm擲弾(自動擲弾銃用) [2022年9月と12月,2023年4月]
  • 105mm戦車砲弾(「レオパルト1A5」用) [2023年5月]
  • 120mm戦車砲弾(「レオパルト2A6」用) [2023年3月]
  • 20mm機関砲弾(「マルダー1A3」用) [同上]
  • 4,570万 小火器用弾薬(最低でも300万の5.56×45mm弾と500万の7.62×51mm弾を含む) [2022年と2023年]
  • 100,000 DM51/DM51A2 手榴弾 [2022年]
  • 3,000 DM72A1 (PzF 3-IT) 弾頭(「パンツァーファウスト3」用) [2022年]
  • 50 DM32「ブンカーファウスト」弾頭(「パンツァーファウスト3」用) [2022年]
  •  各種砲弾 [2022年3月と4月]
  •  5,300 装薬 [2022年]
  •  100km分 導爆線 [2022年] (450,000個の信管と共に供与)

被服・個人携行品
  • 28,000 ヘルメット[2022年]
  • 15パレット相当の軍服 (1,300着の防弾チョッキを含む ) [同上] ※パレットの規格は不明
  • 11,600 防寒服 [同上]
  • 80,000 防寒ズボン [同上]
  • 240,000 防寒帽 [同上]
  •  20,600 保護眼鏡 [2022年と2023年]
  • 1,453 双眼鏡 [同上]
  • 951 暗視装置 [2022年]

その他の物資や装備品
  •  MiG-29戦闘機用の予備部品 [2022年]
  • Mi-24攻撃ヘリ用の予備部品* [2022年11月]
  • 11 T-72戦車用マインプラウ [2023年7月]
  • レオパルト2A6戦車用の予備部品 [2023年3月]
  • マルダー1歩兵戦闘車用の予備部品 [同上]
  •  ヴェクターUAV用の予備部品 [2023年7月]
  • M2重機関銃用の予備部品 [2022年11月]
  • ヴィーゼント1装甲工兵戦車の予備部品 [2023年9月]
  • 10 レーザー指示器(「ボルケーノ」誘導砲弾用) [2023年7月]
  • 10 火器管制ユニット (「ボルケーノ」誘導砲弾用) [同上]
  • 38 レーザー測距儀 [同上]
  • 40 レーザー目標指示装置 [2022年11月,2023年1月]
  •  49 機動式アンテナマストシステム* [2023年1月~4月,7月,9月]
  • 1 アンテナ制御局 [2023年9月]
  • 17 衛星通信端末* [同上]
  •  5 橋梁(「ビーバー」架橋戦車用)[2023年6月~7月]
  • 10 コンテナ [2023年2月] ※コンテナの規格は不明
  •  16パレット相当の爆発物処理用資機材[2022年] ※パレットの規格は不明 
  •  1 高周波機器(電源装置?) [2022年8月]
  •  1 RFシステム(RF送受信機 または 電力・周波数変換機器?) [2022年]
  •  3,000 野戦電話 [同上] (5,000個のケーブルリールと共に供与)
  • 2 テント倉庫* [2023年3月]
  •  200 テント [同上]
  •  14,000 寝袋 [同上]
  • 1 機動式野戦病院* [2023年8月]
  • 2,735 発電機 [2022年と2023年]
  •  36,400 ウール製ブランケット [2022年12月]
  • 10 カモフラージュ・ネット(冬季仕様)[2023年2月]
  • 148 移動式暖房システム[2022年11月と12月]
  •  416,000 レーション (MRE) [2022年]
  •  軽油及びガソリン [2022年,継続中]
  •  10トン アドブルー [2022年]


供与予定

地対空ミサイルシステム(6個中隊分と発射機22基)

自走対空砲 (21台と2システム)

自走砲 (32)

戦車(115)

歩兵戦闘車 (40)

装甲兵員輸送車(26+)

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両(66+)

対ドローンシステム (80)
  •  80 ドローン探知システム* [予定] (40個の周波数帯域拡張装置を含む)


レーダー及び妨害装置(58)
無人偵察機 (482+)
  • 10 形式不明の無人艇* [予定]

工兵車両及び装備 (74
)

車両(720)

対戦車兵器 (18,000)
  •  18,000 携帯式対戦車兵器 [予定]

小火器(100)

弾薬
  • 「IRIS-T SLM」SAMシステム用ミサイル* [同上]
  •  「IRIS-T SLS」SAMシステム用ミサイル* [同上]
  •  25,500 155mm砲弾(「PzH 2000」自走榴弾砲用 ) [同上]
  •  「ボルケーノ」誘導砲弾(「PzH 2000」自走榴弾砲用 ) [同上]
  •  81,408 40mm擲弾(自動擲弾銃用) [同上]
  •  289,920 35mm機関砲弾(「ゲパルト」用) [同上]
  • 105mm戦車砲弾(「レオパルト1A5」用) [同上]
  • 20mm機関砲弾(「マルダー」用) [同上]
  •  970万 小火器用弾薬 [同上]
  • DM31 と/あるいは DM22 PARM 2 対戦車地雷 [同上]

その他の物資や装備品
  • 1 車両用除染システム [予定]
  •  1 機動式アンテナマストシステム* [同上]
  • 機動式野戦病院* [同上]
  • 26 可換荷積みシステム (トラック用) [同上]
  • 130 暖房システム [同上]
  • 50 屋外ヒーター [同上]
  • オイルヒーター [同上]
  • 防寒着 [同上]
  • 80,000 保護眼鏡 [同上]
  •  450+ 発電機 [同上]
  • 2,000 携帯式照明システム* [予定]
  •  レーション (MRE) [同上]

ウクライナ軍で運用中の「IRIS-T SLM」地対空ミサイルシステム(全8発中4発を搭載)


[1] Military support for Ukraine https://www.bundesregierung.de/breg-en/news/military-support-ukraine-2054992
[2] Germany approves sale of 100 howitzers to Ukraine - Spiegel https://www.reuters.com/world/europe/germany-approves-sale-100-howitzers-ukraine-spiegel-2022-07-27/
[3] Flawed But Commendable: Germany’s Ringtausch Programme https://www.oryxspioenkop.com/2022/09/flawed-but-commendable-germanys.html
[4] https://twitter.com/BMVg_Bundeswehr/status/1564254848308355073
[5] https://twitter.com/JaroNad/status/1562056296869797889
[6] Arms For Ukraine: French Weapons Deliveries To Kyiv https://www.oryxspioenkop.com/2022/07/arms-for-ukraine-french-weapon.html
[7] https://twitter.com/AlexLuck9/status/1514942347775471618
[8] Militärische Unterstützungsleistungen für die Ukraine https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/krieg-in-der-ukraine/lieferungen-ukraine-2054514
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
    ります。


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