2022年9月22日木曜日

名誉ある地位を占めるために:日本によるウクライナへの軍事支援(一覧)

ウクライナで用いられている防弾チョッキ3型(改)[提供:とあるウクライナの予備兵 via 爆戦氏]
 
著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ  in cooperation with Tarao Goo(編訳:Tarao Goo

 日本は伝統的に世界で最も厳しい軍備輸出政策を維持しており、(例外はあるものの)この国の防衛企業や公的機関は他国への軍備の輸出のみならず寄贈さえも妨げてきました(それでも近年は規制緩和や政策・指針の変更により輸出活動は活発し始めています)。

 ウクライナへの軍事支援を妨げる事態を回避するために、日本政府が防衛装備の移転に関する独自のガイドラインに変更を加えたという事実は極めて例外的なものと言わざるを得ないでしょう。

 結果的に非殺傷型の装備の供与にとどまりましたが、戦乱の最中にあるウクライナへ軍需品を供給するという動きは第二次世界大戦後における日本の現代史では前例がありません(注:ベトナム戦争頃まで、日本は砲弾を含めた弾薬類及び被服などを含む備品を主にアメリカ軍経由で法に明記されていない紛争当事国に供給した事例はあります。しかし、今回のようにダイレクトに供給したことは初めてです)。

 軍事支援として、これまでに小型偵察用無人機40機、ヘルメット6900個、防弾チョッキ1900着などが提供されています。[1][2]

 2月24日にロシアが侵攻したウクライナに対する日本の支援の動きは、早くも2月25日にウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相から岸信夫防衛大臣(当時)宛の書簡から始まりました。[3]

 書簡の中で、レズニコフ国防相はロシアからの侵攻の阻止を支援して欲しいと日本から「武器」を含む軍備の提供を要請しました。これを受けた岸防衛大臣は、日本が厳格な輸出規制に縛られながらも自国ができることを探すよう防衛省の各部署に指示したとのことです。[3] 

 こうして、1960〜70年代に定められた厳しいガイドラインの限度内でどのような種類の装備品を送ることができるのかを選定するという、日本政府にとって大変な挑戦が始まったのです。
 
 まず、防衛省は自衛隊の不用装備品を開発途上国に譲渡できると定めた自衛隊法第116条の3第1項に着目しました。[3][4]

 実際、2017年と2018年に海上自衛隊の「TC-90」練習機5機と関連装備及び退役した「UH-1」ヘリコプターの部品をフィリピンに譲渡したという事例があったため、当然ながら今回も検討の対象となったのです。[5][6][7]

 しかし、当該条文は武器と弾薬の譲渡について明確に除外していることから、2月25日の書簡でレズニコフ国防相が求めた装備(対戦車兵器や対空ミサイルシステム、弾薬など)の大部分を供給することは不可能でした。

 もう一つの障害となっていたのは、「紛争当事国」への(非殺傷型を含む)軍備の移転を禁止していることが明記されている、1967年に定められた「武器輸出三原則(注:現在の「防衛装備移転三原則」)というガイドラインの存在でした。[8]

 この原則で定義する「紛争当事国」とは、「武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国」を指します。

 ただし、「紛争当事国」と定義された具体的な国は朝鮮戦争時の北朝鮮と湾岸戦争のイラクだけしか存在しません。つまり、皮肉にも日本のガイドラインでウクライナは「紛争当事国」ではないため、日本は非殺傷型の防衛装備を供与する選択肢に進むことができたのです。[3]

 しかし、その後に防衛省は、軍用ヘルメットや防弾チョッキが輸出貿易管理令で定める防衛装備品に含まれることも供与を妨げる要因と判明しました。

 さらに、「日本と安全保障面での協力関係がある国に対する救難、輸送、警戒、監視及び掃海に係る協力に関する防衛装備の海外移転」のみ限定する三原則上の「運用指針」にも直面することになりました。なぜならば、ウクライナは該当国ではないからです。つまり、非殺傷型の防衛装備さえも供与できないということを意味します。[3][8]

 これらの厳格な規制を回避するため、日本政府は自衛隊が用いている「88式鉄帽」について、民間市場でも同等のものが購入できることから、実質的には規制に該当する「軍用ヘルメット」ではないと宣言したのです – これが独創的な解釈と言えることは確かでしょう。[1] 

 ウクライナに対するヘルメットや防弾チョッキなどの非殺傷型の装備品を供与する上で生じる問題を解決するため、日本政府は「運用指針」そのものに変更を加えました。[9]

 防衛装備移転三原則の運用指針に定める「防衛装備の海外移転を認め得る案件」に、「国際法違反の侵略を受けているウクライナに対して自衛隊法第116条の3の規定に基づき防衛大臣が譲渡する装備品等に含まれる防衛装備の海外移転」が追加されたのです。[9]

 つまり、日本政府はウクライナがロシアの侵略によって存続が脅かされている極めて特殊な状況下にある国であると認識し、自衛隊が有する装備を提供することはやむを得ないものと判断したことを内外に明言したことになります。

 この興味深くも、非常に骨の折れる官僚的な駆け引きの後、「88式鉄帽」6900個と「防弾チョッキ3型」1900着は、その他の衣服や人道支援物資と共に航空自衛隊の「KC-767」と「C-2」輸送機やアメリカ空軍の「C-17」輸送機でウクライナの隣国であるポーランドへ空輸されました。[10][11][12]

 (武士の格好で著名な)セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ特命全権大使は「KC-767」が欧州に向けて飛び立った翌日の3月9日に岸信夫防衛大臣と会談し、装備品の供与に対する日本政府への謝意を延べると共に小火器用の照準器や軍用ナイフなどの供与の要望も表明しました。[12]

 日本の国是や緊迫する東アジア情勢を鑑みると、現実的にそのような装備品を供与することは不可能に近いでしょう(イタリアとエストニアは陸上自衛隊で運用している「FH-70」155mm榴弾砲をウクライナに供与したので、日本もその気になれば供与することもできないわけではないでしょうが、それを検討する場合には高度な政治判断が求められることは避けられません。また、自衛隊に行き渡っていない新型の装備を外国に優先して供与することに異論があることも考慮しておく必要があります。そして、対中国における日本の防衛装備の充実化の必要性を踏まえると対外供与自体に余裕があるかも疑わしいと思われます)。

 ロシア・ウクライナ戦争は半年を過ぎた今でも日本はウクライナへの軍事支援を続けており、8月以降も偵察用のドローン10機などが供与される予定です。[14] 

 ロシアが不法占拠し続けている北方領土の返還を含む日本との平和条約締結交渉を一方的に(事実上)打ち切ったことは火に油を注ぐだけで、ウクライナに対する日本の支持は強いものであり続けることでしょう(注:かつてウクライナが中国に空母「ワリヤーグ」のスクラップや「Su-33」艦上戦闘機の試作機、「ズーブル」級エアクッション艇を販売したことでウクライナに良い印象を持たない人々も多くいますが、現ゼレンスキー政権では中国による主要なエンジンメーカーである「モトールシーチ」社買収計画を阻止したことは評価するべきではないでしょうか)。

 ロシアに対して課された制裁ネットワークへの参加や、2014年以降に提供された約20億ドル(約2,850億円)に加えて緊急人道支援として3億ドル(約427億円)を提供したことは、日本が今次戦争において明確な姿勢をとることを恐れておらず、ウクライナへの支援を実現するためには自国の厳格な規制を回避するために何でもすることも示しています。[3]

ウクライナへ空輸される支援物資(2022年3月)

  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際に日本がウクライナに供与した、あるいは提供を約束した非殺傷型の防衛装備品等の追跡調査を試みたものです。
  2. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されています)。
  3. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  4. 各装備品類の名称をクリックすると、当該装備品類の画像などを見ることができます。


無人偵察機


車両


個人装備


その他の装備品類
  • 通信機器 [2022年3月]
  • 衛星電話 [同上]
  • 双眼鏡 [2022年3月以降に供与]
  • 240 テント [2022年3月]
  •  発電機 [同上]
  • 50 カメラ [同上]
  • 照明器具 [同上]
  • 衛生資材 [同上]
  • 110,000 非常用糧食 [同上]

ウクライナへの支援物資を積み込んで欧州へ向けて出発する「C-2」輸送機に航空自衛隊員たちが手を振って別れを告げている

[1] https://www.sankei.com/article/20220324-JK3DVENX2NNZJKHGICL5QXKBZQ/
[2] https://www.asahi.com/articles/ASQ4M4S0QQ4HUTIL044.html
[3] https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/79571.html
[4] https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000165#Mp-At_116_3
[5] https://mainichi.jp/english/articles/20220509/p2a/00m/0na/011000c
[6] https://www.afpbb.com/articles/-/3168792
[7] https://jp.reuters.com/article/sdf-ph-idJPKBN1AQ118
[8] https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/nsp/page1w_000097.html
[9] https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000767.html 
[10] https://www.mod.go.jp/j/press/news/2022/03/08b.html
[11] https://www.mod.go.jp/j/press/news/2022/03/10c.html
[12] https://www.mod.go.jp/j/press/news/2022/03/16e.html
[13] https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220309-OYT1T50358/
[14] https://www.mod.go.jp/j/press/news/2022/08/04a.html   
[15] https://www.jiji.com/jc/article?k=2022031500337&g=pol  
[16] https://www.mod.go.jp/j/press/news/2022/04/19d.html   

※  当記事は、2022年9月8日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ      ります。また、編訳者の意向で大幅に加筆修正を加えたり、画像を差し替えています。


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1 件のコメント:

  1. 素晴らしい翻訳。大変な労力がかかったことと拝察します。

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