2023年4月30日日曜日

トルコの建艦100年史:「アタック」級から「TF-2000」級まで


著:ステイン・ミッツアー  と ケマル

-主権は与えられるものではなく、自ら手に入れるものである(ムスタファ・ケマル・アタテュルク)-

 トルコ海軍は少なくとも4隻の「TF-2000」級防空駆逐艦を建造する予定です。2030年代を通じて就役したならば、この駆逐艦は地中海で最も高性能かつ重武装の艦艇となるでしょう。

 「TF-2000」には、国産の艦対空ミサイル(SAM)と「ゲズギン」対地巡航ミサイル(LACM)を装填する自前の垂直発射システム(VLS)や高エネルギーレーザー(HEL)を含む指向性エネルギー兵器といった、過去10年間にトルコが海軍システムの分野で成し遂げたほぼ全ての技術的成果を取り入れられることになっています。

 これらの能力によって、「TF-2000」は対地巡航ミサイルで1000km以上離れた高価値目標を攻撃したり、最大で64発もの150km以上の射程を誇るSAMと16発の220km以上の射程を有する対艦ミサイル(AShM)で接近阻止・領域拒否(A2/AD)ゾーンを設定し、搭載された高エネルギーレーザー兵器を用いることによって敵AShMから友軍艦艇の防御することが可能となるのです。

 また、「TF-2000」は最大で4隻のミサイル搭載型武装無人水上艇(AUSV)や「バイラクタルDİHA(VTOL)」無人航空機(UAV)、水中無人機(UUV)を含む無人システムの母艦としての機能も備えることが予定されています。[1]

 さらに、「TF-2000」が国産のレールガン「シャヒ-209」を運用する最初のトルコ海軍の艦となる可能性もあるようです。[2]

 就役後、この新型艦は「TCG アナドル」強襲揚陸艦や将来建造されるかもしれない空母を中心としたトルコの遠征打撃群に不可欠な地位を占めるでしょう。「TCG アナドル」の後には姉妹艦である「TCG トラキア」の建造が続きますが、エルドアン大統領はスペインと共同で設計される大型空母の建造もほのめかしています。 [3]

 これらの主力艦は、敵の航空機・艦船・潜水艦から守るために護衛艦を必要とします。つまり、2038年にこれらの全てが運用可能な状態になっていれば、「TF-2000」にとって自身に最適な役割が与えられることになるのです。

 2038年は、トルコ共和国が初の国産設計の軍艦を進水させてから100年という節目の年です。1938年3月23日、コジャエリ県ギョルジュクにある「ギョルジュク海軍造船所」が(1922年のオスマン帝国崩壊後の1923年10月に創設が宣言された)現在のトルコ共和国が建造した最初の軍艦として、歴史に名を残すことになる機雷敷設艦「アタック」を進水させました。

 「アタック」の進水は、1935年に新生の共和国が設計・建造した最初の民間船である油槽船「ギョルク」の進水から2年後の出来事でした。[4] [5]

進水直前の機雷敷設艦「アタック」

 大型航洋曳船の船体をベースにした機雷敷設艦「アタック」は、全長44メートル、幅8メートル、総排水量約500トンの艦艇でした。[6]

 この艦は13ノット(時速約20km/h)の最高速度を可能にする1025馬力のディーゼルエンジン1基を搭載しており、主武装は甲板後部に格納された40発の機雷ですが、就役以降のある時点で前部甲板に主砲が追加されたようです。[6]

 「アタック」は、その生涯の大半を通じて(おそらく第二次世界大戦中に塗装されたと思われる)見た者を混乱を生じさせる迷彩パターンが施されていました。

 トルコは第二次世界大戦のほぼ全体を通して中立を維持し、目立った動きは1945年2月にドイツと日本に対して宣戦布告を行った程度です(注:つまり、「アタック」が大々的に活躍することはなかったということ)。

現存する数少ない「アタック」の写真の1枚は、敵を攪乱するために迷彩パターンが施された船体を示している

 「アタック」の設計自体は特別なものではありませんでしたが、防衛上の需要の一部を国産化で賄おうとするトルコの野心を示したものであったことは間違いないでしょう。この国産艦が進水したのとほぼ同時期にトルコの航空機メーカーである「ヌリ・デミラーグ」は革新的な戦闘機「Nu.D.40」の設計を開始しましたが、残念なことに日の目を見ることはありませんでした。[7]

 実際、意欲的なトルコの実業家はすぐに防衛産業の成長と存続に必要な精度を提供することに気が進まない政府と直面することになったのです。

 1942年にイギリスの「ソーニクロフト」社が設計した「ボラ」級魚雷艇 (MTB)5隻が建造されたことを除けば、1940年代から1950年代にかけてトルコで艦艇の建造が行われることはありませんでした。[8]

 この間にトルコ海軍はアメリカから大量の艦艇を供与されたため、今後数十年にわたる自国での艦艇を建造するという将来的な見込みは実質的に絶望的なものと化したのです。

ちなみに、「アタック」級機雷敷設艦はこの時代でも運用が続けられ、後継となるイギリス製「シウリヒサル」級掃海艇2隻よりも長生きして1961年に廃船となりました。[9] [6]

これは「アタック」の進水を報じた1938年3月24日付の新聞のスクラップ記事の画像で、" 機雷敷設艦「アタック」が昨日の(軍事関係の)式典で海に浮かんだ "と書かれている

 トルコが再び海軍艦艇の建造を開始したのは1960年代後半になってからであり、その際に12隻の「AB-25」級哨戒艇が建造され、より野心的なプロジェクトは1967年に開始された2隻の「ベルク」級フリゲートの建造という形で実行に移されました。[10]

 「ベルク」級はアメリカ海軍の「クロード・ジョーンズ」級護衛駆逐艦をベースにトルコの要求に合うように若干の改良を加えたものであり、驚くべきことに1910年代以降のトルコで建造された最初の大型艦でした!これらの艦艇の建造は国産艦が実現する可能性を提示したものの、それ以上の「ベルク」級の発注がなされることはありませんでした。

 2000年代半ばから後半の間に、トルコの海軍関連の産業界は「MILGEM(国家艦艇)」プロジェクトという形で大規模な次世代艦の設計事業を次々と立ちあげ、これまでにいくつかのコルベットやフリゲートの設計案の誕生と建造がなされています。

フリゲート「ベルク(艦番号D358)

 「MILGEM」プロジェクトの最新バージョンとして登場した「TF-2000」級駆逐艦は、アメリカの「アーレイ・バーク」級駆逐艦と同等の能力を持つ艦となります。

 「TF-2000」級には、国産兵装が装備される予定です(以下のとおり)。
  1. 127mm砲 1門
  2. 「アトマジャ」対艦巡航ミサイル(射程220km) 16発
  3. 「シペル」艦対空ミサイル(射程150km以上)及びその他のSAM、「ゲズギン」対地巡航ミサイル(射程1000km以上)用のVLS 64セル
  4. 「オルカ」324mm短魚雷用発射管
  5. 「ギョクデニズ」35mm近接防御火器システム(アセルサン製)  2門
  6. 「ナザール」高エネルギーレーザー照射機(メテクサン製)   2門
  7. チャフ・デコイ散布システム
  8. 「UMTAS(ウムタス)」対戦車ミサイル(ATGM)用発射システム  2門
  9. リモート・ウエポン・システム 4門


 敵の探知とミサイルの誘導を可能にするため、この駆逐艦にはトルコで設計された広域をカバーできるレーダーとセンサー類も備えられます。

 このほかの「アーレイ・バーク級」駆逐艦との類似点としては、「S-70B "シーホーク"」対潜ヘリコプターを2機搭載できる充実した設備が存在することが挙げられます。[1]


 「千里の道も一歩から」という言葉があります。トルコは1930年代後半に早くもその第一歩を踏み出しましたが、その後の数十年間は国内の防衛産業が軽視された時期が続きました。過去20年間でトルコ政府はこの流れを驚くべきスピードで逆転させ、こんにち起きているこの種の現象としては間違いなく最速の自給自足を目指す旅に乗り出しているのです。

 トルコの防衛産業が、ほぼ全種類の艦船とそれに関連するレーダーやセンサー類を含む装備や兵装を生産できるようになる日はそう遠くないと思われます。

 「TF-2000」が就役するならば、それはトルコが歩んだ自給自足への道のりを示す証となり、「アタック」級機雷敷設艦の進水から100年を迎えるこの国の建艦史の復活にふさわしいものとなるに違いありません。

[1] IDEF 2021: Turkey Full Steam Ahead with TF-2000 Air Defense Destroyer Project https://www.navalnews.com/naval-news/2021/08/idef-2021-turkey-full-steam-ahead-with-tf-2000-air-defense-destroyer-project/
[2] Turkish indigenous rail gun “Şahi-209” to be integrated to naval assets https://www.navaltoday.com/2019/10/31/turkish-indigenous-rail-gun-sahi-209-to-be-integrated-to-naval-assets/
[3] Turkey’s defense industry rolls up sleeves for aircraft carrier https://www.dailysabah.com/business/defense/turkeys-defense-industry-rolls-up-sleeves-for-aircraft-carrier
[4] Cumhuriyetin İlk Yerli Gemisi: Gölcük Yağ Tankeri https://negatifsephiye.blogspot.com/2019/05/cumhuriyetin-ilk-yerli-gemisi-golcuk.html
[5] Cumhuriyet Tarihinde İnşa Edilen ilk Gemi https://www.denizbulten.com/yazar-cumhuriyet-tarihinde-insa-edilen-ilk-gemi-111.html
[6] ATAK http://www.navypedia.org/ships/turkey/tu_ms_atak.htm
[7] From Nu.D.40 to Bayraktar Akıncı: Demirağ’s Legacy https://www.oryxspioenkop.com/2021/05/from-nud40-to-bayraktar-akinci-demirags.html
[8] BORA http://www.navypedia.org/ships/turkey/tu_cf_bora.htm
[9] Sivrihisar http://www.navypedia.org/ships/turkey/tu_ms_sivrihisar.htm
[10] BERK frigates http://www.navypedia.org/ships/turkey/tu_es_berk.htm

※  当記事は、2022年1月16日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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