ラベル 国産 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 国産 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2024年2月12日月曜日

忘れ去られた原点:トルコの 「ジェマル・トゥラル」装甲兵員輸送車

撮影:アルペル・アカクラタ氏

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ  in collaboration with アルペル・アカクラタ(編訳:Tarao Goo)

 近年のトルコの兵器産業は、さまざまな種類の装輪式や装軌式のAPC(装甲兵員輸送車)を国内外の顧客に売り込んでおり、その多くに遠隔操作式銃架(RWS)や電気式・ハイブリッド式を取り入れた駆動系などが備えられています。

 トルコ産のAPCがジョージア、バーレーン、フィリピン、オマーン、UAE、マレーシアで商業的成功を収めているのは、その高度な機能と実証済みの品質のおかげであることに疑う余地はありません。

 以前、私たちはこのブログでトルコ初(文字どおり国産)のAPCであり、ジョージアに採用された「ヌロル・マキナ」社「エジデル 6x6」を紹介しました。この「エジデル 6x6」自体は立派なAPCですが、厳密に言うと実際にはトルコで誕生した最初のAPCではありません。

 1960年代、トルコは少数の「M24 "チャーフィー"」軽戦車をAPCに改造することに着手しました。

 結果として完成した車両はその設計を命じたジェマル・トゥラル少将(後に大将に昇進)にちなんで命名され、「ジェネラル・ジェマル・トゥラル」APCと呼ばれました。数年以上にわたって運用されたとは考えにくい短命な運用歴の結果として、このAPCはトルコ国外ではほとんど知られていません。

 その捉えどころのなさはさておき、このAPCは何もせずにいれば単に旧式化していたであろう戦車を有益な新しい別種のAFVに転換するという興味深い試みそのものでしょう。

 トルコ軍は1950年代前半にアメリカから約250台の「M24 "チャーフィー"」軽戦車を購入したと伝えられています。[1]

 いくつかの国はさらに数十年にわたって現役の戦車として運用し続けましたが、トルコへのアメリカ製AFVの安定供給は「M24」を徐々に減らして長期保管状態にさせ、「M48 "パットン"」といった(少なくとも当時としては)最新の主力戦車に置き換えていくことを可能にさせました。

 その後、余剰となった一部の「M24」をAPCに転用することが決定されました。

 1960年代のトルコは大量のアメリカ製「M59」APCを運用しており、さらに多くの後継車両である「M113」APCの引き渡しさえも受けている過程にありました。[2]

 「第3のAPC」を導入するという決定は不思議に感じますが、より多くのAPCの確保という実際の運用上からの必要性があったというよりは、むしろ国産AFVの設計に関する経験を積む機会という動機づけられたのかもしれません。

 ちなみに、ノルウェーとチリによってアップグレードされた「M24」は1990年代まで現役を続け、ウルグアイはなんと2019年に最後の「M24」を退役させたばかりなのです! [3]

 APCに改造するために、「M24」から砲塔とその内部にある75mm砲が撤去され、車体後部に装甲キャビンが追加されました。結果として設けられた兵員用区画は、10人の兵員と2人の乗員の合計で12人が乗車するには十分な大きさだったと云われています。

 追加された箱型の装甲キャビンには、前方に「M2HB」12.7mm重機関銃をピントルマウントに装備した機関銃手用の席、そして後部に2つのハッチが設けられており、歩兵はそこから(1つか2つのハッチを通じて)降車する仕組みとなっていました。

 これらの改造によって本来の性能がどの程度変化したのかは不明ですが、M24本来の航続距離160km、速度56km/hについては、軽量化のおかげで向上したか、そうでなくとも維持されたと思われます。

 副武装として「M24」戦車時代から車体前方に装備されていた「M1919」7.62mm機関銃1丁はそのまま残されていたことから、「M2HB」重機関銃1門しかを装備していなかった「M113」よりも「ジェマル・トゥラル」の方が実は武装面で優れていたことになります。

 新たにサイドスカートや泥よけが装備されたことは、このAPCが本格的なAFVを製造するための真剣な取り組みでなかったとしても、それに劣らない設計がなされていたことを示しています。

 残念ながら、「ジェラル・トゥマル」APCの運用歴は極めて短いものであり、すでに70年代初頭には退役しています。もちろん、たくさんの使える「M113」があるので、この判断はむしろ当然なものでした。なぜならば、複数の同カテゴリーのAFVを同時に運用した場合、兵站、保守、運用が複雑になってしまうからです。

 幸いなことに、スクラップ処分から逃れた1台の「ジェラル・トゥマル」APCは今でもアンカラ近郊のエティメスグット戦車博物館に保存されています。


 このAPCの名前の由来となったジェマル・トゥラル少将は、1966年から1969年までトルコ軍の司令官を務めました。トルコ軍における機械化用兵の偉大な提唱者とも云われるジェラル・トゥマル少将は、トルコでのAFVの生産や改修に個人的な関心を寄せていたに違いありません。[4]

 トゥラル氏は政治でのキャリアを試みる前の1969年に退官しました。その後、1976年に駐韓国大使、1981年に駐パキスタン大使を務め、同年にイスタンブールでこの世を去りました。

複数の「M113」の前で行進している「ジェラル・トゥマル」APC。さらに後方の「M48 "パットン"」戦車と集合住宅に掲げられたムスタファ・ケマル・アタテュルクの肖像画にも注目。

 前述のとおり、1台の「ジェラル・トゥマル」APCがアンカラ近郊のエティメスグット戦車博物館で生き残っています。ここでは、訪問者にこれまでに大いに見落とされてきた過去に試みられたトルコの防衛プロジェクトを思い出させてくれますが、それらは今や非常に成功を収めているトルコの防衛産業が誕生する先駆けとなる存在でもあることを見落としてはならないでしょう。

 トルコのAPCやほかのAFVの設計がようやく軌道に乗るまでに、そこから数十年を要したことは周知のとおりです。これらのAFVは今やトルコのみならず多数の外国で運用されており、ジェマル・トゥラル氏が残念ながら夢にも思わなかったであろうキャリアを歩み始めています。

バーレーン陸軍で運用されているトルコの「オトカ」社製「アルマ 6x6」APC

[1] Based on data obtained by Alper Akkurt.
[2] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[3] M24 Chaffee in Uruguayan service https://tanks-encyclopedia.com/m24ur/
[4] Turkish APC based on the M24 tank https://www.secretprojects.co.uk/threads/turkish-apc-based-on-the-m24-tank.4591/

この記事の作成にあたり、 Arda Mevlutoglu氏と Secret Projects氏に感謝を申し上げます。

2024年1月31日水曜日

ビジョン2030:国産UCAVの開発を推進するサウジアラビア(一覧など)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 無人戦闘航空機(UCAV)の調達に関して、サウジアラビア(KSA)は中国にその大半を依存してきました。このことは、KSAが2010年代半ばから後半にかけて「翼竜Ⅰ」や「翼竜Ⅱ」、「CH-4B」を大量に導入したことに表れています。

 これらの中国製UCAVは、2015年3月のサウジアラビア主導のイエメン介入開始以来、すでにイエメン上空に投入されている数種類の南アフリカやイタリア、ドイツ製無人偵察機を補完するものでした。[1] 

 2019年になると、サウジアラビアはトルコの「レンタテク」社製「カライェル-SU」UCAVを導入し、保有するドローン兵器群をさらに増強しました。この同型機は「ハブーブ」のという名前で近いうちにKSA国内で生産される予定です。[2] 

 サウジアラビアは「ビジョン2030」の一環として2030年までに防衛支出額の少なくとも50%を現地調達に充てることを目指しており、防衛企業が兵器類の現地生産ラインを構築するための刺激材料となっています。
 
 現在、サウジアラビアは海外の企業や科学者たちと協力して、さらに数種類のUCAVを開発しています。それらの最初の1機である「サクル-1」は、南アフリカの「デネル・ダイナミクス」社によって開発された「バトルゥール」中高度長時間滞空(MALE)型UAVの設計をベースにしています。より小型の「スカイガード」は、2017年に初めて発表された国産機です。

 「サムーン」と呼称される7つのハードポイントを持つ大型の双発機のほかに、サウジアラビアは中国と契約を結んで、双発または三発機の「TB001」重UCAVを「アル・イカーブ-1」及び「アル・イカーブ-2」として開発しています。[3] [4]

 ちなみにウクライナとUAVを共同設計・生産する計画もありましたが、ウクライナ戦争のせいでキャンセルされたようです。[5]
 
 中国の「腾盾」が開発した巨大な「TB001」は、主翼下部に設けられた4つのハードポイントに、さまざまな誘導爆弾や空対地ミサイル(AGM)、対艦ミサイル、巡航ミサイルで武装することが可能となっています。

 「アル・イカーブ-1」は三基のエンジンを備えた異例の三発機であることが特徴であり、「アル・イカーブ-2」はその双発機型です。

 「TB001」については2019年に契約が発表されたものの、その開発は長引いており、 サウジアラビアが自国の防衛面での需要を満たすために、このプロジェクトを依然として積極的に推進しているかどうかは今でも不明のままとなっています。

提案されている双胴機「アル・イカーブ-1/2(TB001)」:2019年に契約が締結されたものの、同機をめぐるプログラムの現状は不明のままです

 国産機を開発している間に、サウジアラビアと「中国航空宇宙科学技術公司(CASC)」がKSA国内に生産ラインと地区整備センターを設立して、最終的に今後10年間で約300機もの「CH-4B」を大量生産する可能性についての関する報道が2017年から飛び交っています(現在の統計を前提とした場合、これが実現するとKSAが世界最大のUCAV運用国となるでしょう)。[6]

 なお、このような合意が成立したのか、または計画されたのかすら不明であり、この記事を執筆している2022年9月時点では実現されていないようです。

 おそらくは中国製UCAVの稼働率や運用実績が乏しいためか、サウジアラビアはすでに少なくとも2017年からUCAVの調達先としてトルコに目を向けるようになっています。

 当初は「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「アンカ」UCAVに関心を寄せていましたが、最終的にKSAは2010年代後半に「ヴェステル(注:軍事部門はその後「レンタテク」に社名を変更)」社と数量不明の「カライェル-SU」について契約を結びました。[7] [2] 

 これらはほぼ即座にイエメンでの作戦に投入され、現時点で4機が失われたことが視覚的に確認されました。[1]

 「イントラ・ディフェンス・テクノロジーズ」社による「カライェル-SU」の国内生産はCOVID-19の影響を受けて1年半遅れたものの、2022年半ばに開始される予定です。[4] 
国内生産は「レンタテク」が重要なコンポーネントを供給し、サウジアラビアで組み立てられる方式となっています。[2]

サウジアラビアにおける「カライェル-SU "ハブーブ"」:同機は「MAM-C/L」やほかの小型爆弾を搭載可能なハードポイントを4つ備えています

 「カライェル-SU」の国内生産は、「サクル-1」プロジェクトにとって"とどめの一撃"となるかもしれません。

 少なくとも2012年からアメリカに拠点を置く「UAVOS」社と「キング・アブドルアジーズ科学技術都市(KACST)」で共同開発が進められてきた「サクル-1」は数多くの修正がなされ、2020年に公開された最新型の「サクル-1C」までプロジェクトが進んでいます。

 しかし、これらはどれも実用化されておらず、より小型の「サクル-2」と「サクル-4」も実機の生産までには至っていません。[8] 

 最大で48時間という目を見張るような滞空時間を誇りますが、「サクル-1」は兵装搭載用のハードポイントを2つしか備えていないため、UCAVとしての有用性は著しく制限されたものとなります(注:「CH-4B」や「TB2」のハードポイントは4つ)。

 「イントラ」社が現在開発中である「サムーン」が「サクル-1」の代わりにサウジアラビア初の量産型国産UCAV となるのか、あるいは(既存のサウジアラビアの防衛プロジェクトの大部分と同様に)開発サイクルの長期化や内部からの反対、最終的に中止という事態に直面することになるのかは、まだ分かりません。[9] 

 中国製ドローンの高い消耗率と、(おそらく)基本的な整備上の問題にさえ悩まされていることから、サウジアラビア当局が最近公表した高い人気と実績を誇る「バイラクタルTB2」「アクンジュ」の導入へ関心を示したことについては、一部の人が予想したほどあり得ない動きではないのです。[10]

 これらはサウジアラビアで開発されたものではありませんが、無人機技術への協力、そしておそらくKSAでの「バイカル・テクノロジー」社製品の生産は、同国の新興UAV産業を実質的に有効なレベルまで引き上げるのに役立つ可能性がある貴重な知見をもたらすことになるでしょう(注:2023年8月、サウジアラビア軍事産業:SAMIは「バイカル・テクノロジー」と「アクンジュ」の70パーセントを現地生産する契約を結びました)。

南アフリカの「バトルゥール」MALE型UAVをベースに開発された「サクル-1」

今後登場する「サムーン(1/2サイズのモデル」:このモックアップの主翼に中国製の「ブルーアロー7」と「TL-2」対地攻撃ミサイルが搭載されていることに注目


※ 各UCAVの名称をクリックすると当該機体の画像が表示されます(括弧内の年はプロ
 ジェクトの公表または始動日を指します)。


無人戦闘航空機 - 生産中
  • ハブーブ [2018年 または 2019年] (「イントラ・ディフェンス・テクノロジーズ」)

無人戦闘航空機 - 生産予定
  •  アクンジュ [時期未定] (「バイカル・テクノロジー」)

無人戦闘航空機 - 開発中

[1] List Of Coalition UAV Losses During The Yemeni Civil War https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/coalition-uav-losses-during-yemeni.html
[2] Saudi Arabia’s Intra Pushes Ahead with Drone Programs https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2022-03-14/saudi-arabias-intra-pushes-ahead-drone-programs
[3] Sino-Saudi heavy unmanned aerial vehicle https://vpk.name/en/487652_sino-saudi-heavy-unmanned-aerial-vehicle.html
[4] https://twitter.com/inter_marium/status/1099657284911841280
[5] It is possible that this joint venture had already effectively ended before the Russian invasion of Ukraine in February 2022.
[6] Saudi Arabia https://drones.rusi.org/countries/saudi-arabia/
[7] Saudis in talks with TAI to buy six Anka turkish drones https://www.defensenews.com/digital-show-dailies/2017/11/17/saudis-in-talks-with-tai-to-buy-six-anka-turkish-drones/
[8] https://i.postimg.cc/W4My3cMX/18933-2.jpg
[9] Intra’s Samoom: the future Saudi Armed Forces MALE unmanned air system https://www.edrmagazine.eu/intras-samoom-the-future-saudi-armed-forces-male-unmanned-air-system
[10] Saudi GAMI, Baykar and Bayraktar drones https://www.tacticalreport.com/news/article/59638-saudi-gami-baykar-and-bayraktar-drones

 当記事は、2022年9月13日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

2024年1月13日土曜日

南アジアの稲妻:パキスタンのUAV飛行隊(一覧)


著:ファルーク・バヒー in collaboration with シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 パキスタンは1990年代後半から豊富なUAVの運用国であり続けています。

 2004年、パキスタン空軍(PAF)は「SATUMA( 偵察及び標的用無人航空機)」社「ジャスース(スパイ)Ⅱ"ブラボー+"」 を導入したことで、空軍がパキスタン軍内で最初にUAVの運用をした軍種となりました。

 PAFに続いて、パキスタン陸軍(PA)はすぐに「グローバル・インダストリアル&ディフェンス・ソリューションズ(GIDS)」社によって設計・開発された「ウカブ(鷲)P1」UAVを導入し、2007年には運用試験を始め、翌2008年に正式な運用に入りました。

 「GIDS」社は「ウカブP2」として知られている「ウカブP1」のさらなる能力向上型を開発し、同機は2010年にパキスタン海軍(PN)に採用されました。

 情報が極めて少ないパキスタンにおけるドイツ製「ルナ」UAVの物語は、2000年代にPAが主要戦術UAVとして「EMT(現ラインメタル)」社製「ルナX-2000」を調達した時点から始まりました。

 PNもこの機種に好印象を持ったようで、2010年ごろから独自の「ルナX-2000」採用計画に着手しましたが、この計画は(おそらく資金不足が原因で)先送りされたようで、その代わりに臨時の措置として国産の「ウカブP2」が採用されました。

 「ウカブP2」が現役から退いた2017年に、PNはついに「X-2000」より長い航続距離と能力が向上した高性能型である「ルナNG」を導入しました。

 まだ「ウカブP2」がPNで現役にあった2016年、長い滑走路なしで離陸可能な戦術UAVの需要は結果としてPNにアメリカから「スキャンイーグル」を導入するに至らせました。

 なぜならば、PNは2008年にオーストリアの「シーベル」社製「カムコプター S-100」のトライアルを実施したことがあったものの制式採用せず、海上での運用に適した無人機システムを長く探し求めていたからです。

 「ボーイング・インシツ」社製「スキャンイーグル」はカタパルトで射出され、スカイフック・システムで回収される仕組みとなっています。これらのシステムのコンパクトなサイズは、「スキャンイーグル」を海軍艦艇のヘリ甲板から運用させることを容易なものにさせていることを意味しています。


 パキスタンは国内に配備されたアメリカ軍の「MQ-1 "プレデター"」無人戦闘航空機(UCAV)によって、武装ドローンの破壊的な能力をダイレクトに目の当たりにしました。

 このUCAVの配備とその後の実戦投入は、PAに強烈な印象を与えたに違いなく、すぐにアメリカから武装ドローンの購入を試みました。特に意外なことでもないでしょうが、この努力が無駄に終わったことは今では周知のとおりです。

 アメリカからUCAVの導入を断られたPAは東の隣国に目を向け、中国製「CH-3A」UCAVの生産ライセンスを取得し、国内で生産された同機種は「ブラク(稲妻)」と呼称されるようになりました。より高性能な無人プラットフォームが登場しているにもかかわらず、「ブラク」は現在でもPAとPAFで現役の座に残り続けています。

 「ブラク」の設計からインスピレーションを受けて、「GIDS」社が設計した改良型が「シャパル-1」です。この無人機システムは情報収集・警戒監視・偵察(ISR)用として、2021年にPAFに採用されました。

 ただし、「シャパル-1」は2021年の共和制記念日における軍事パレードで初めて一般公開された、「シャパル-2」ISR用UAVに取って代わられることになるでしょう。

 この新型機については、その後の2021年半ばに実施されたPAFの演習に参加する姿が目撃されため、すでに運用段階に入ったことが確認されています。「シャパル-2」は主にISRの用途で使用されるものの、最近に発表された武装型はPAFで運用されている「ブラク」を補完したり、その後継機となる可能性が高いと思われます。

武装型「シャパル-2」は2発の誘導爆弾などが搭載可能

中国からの買い物

 2021年、PAは「ブラク」飛行隊を中国製の「CH-4B」UCAVで補完しました。

 その一方、PAFは2016年に「翼竜Ⅰ」UCAVの運用試験を行っていたことが知られていますが、その1機が墜落したことでメディアの注目を集めました。[2]

 しかし、PAFはさらなる「翼竜Ⅰ」を発注することはせずに代わりとして、より優れた打撃能力をもたらす、より重い「翼竜Ⅱ」UCAVを選択しました。その後、2021年にPAFの基地で最初の同型機が目撃されました。[1]

 PNは陸軍の先例に倣って「CH-4B」の採用に落ち着いたようで、大量の同型機が2021年後半にPNに引き渡されました。[1]

 PAFは、自軍で装備するための高高度長時間滞空(HALE)型UAV計画を推めていることが判明しています。

 PAFの傘下にある「パキスタン航空工業複合体(PAC)」は、「CH-4」や「翼竜Ⅰ」級の国産軽量中高度・長時間滞空(MALE)型UAVを開発していることが知られており、2021年に政府やPAFの関係者がPACを訪問した際にその1機が目撃されています。[3]

 国立工学科学委員会(NESCOM)は、2021年にトルコ航空宇宙産業(TAI)と国内で「アンカ-S」UCAVの部品を製造する契約に調印しました。[4]

 また、国境警備で運用している既存の僅かなUAV飛行隊を補完するために、パキスタン内務省(MOI)も新しいUAVを購入することを望んでいますが、現時点ではどうなるか不透明です。

パキスタン陸軍 (PA)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機
  • CASC「CH-4B」 [2021] (少なくとも5機を導入しているが、追加発注がある模様)


パキスタン空軍(PAF)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機


パキスタン海軍(PN)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機

  • CASC「CH-4B」 [2021] (少なくとも4機が導入されたが、未確認)


[1] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[2] https://twitter.com/KhalilDewan/status/1465475715567169538
[3] Lifting The Veil - Pakistan’s Chinese UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/lifting-veil-pakistans-chinese-ucavs.html

※  この翻訳元の記事は、2022年1月5日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。



おすすめの記事

2023年12月6日水曜日

着実に積み重なるイノベーション:トルコ製の航空機搭載用ミサイル・爆弾類(全一覧)


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 トルコが世界的なドローン大国に台頭したことは今では多くの人々に知られていますが、この国のドローンに搭載される精密誘導兵器が、それを搭載するドローンとまさに同じくらい急速に導入されていることは全く知られていません。

 こうしている間にも膨張していくトルコ製の誘導兵器群は、数種類の無人戦闘航空機(UCAV)や戦闘機での使用が想定されたもので構成されており、後者には近いうちに登場する「ヒュルジェット」練習機と「TF-X(カーン)」ステルス戦闘機も含まれています。

 これらの兵装の全てがNATO規格に適合していることは、各国はトルコ製の兵装を自国の機体に容易にインテグレートすることができることを意味しています。それを踏まえると、この利点がまさに輸出面での商業的な成功を保証してくれるかもしれません。

 トルコ製の航空機搭載用の兵装には、現時点までに空中発射レーザーシステムから巡航ミサイル、さらには「METE」レーザー誘導式超小型ミサイルまでのあらゆるものが含まれています。[1]

 より一般的な兵装としては、「LGK」、「HGK」、そして「KGK」といった精密誘導爆弾のシリーズがあり、これらはトルコで製造された「Mark-82」、「Mark-83」、「 Mark-84」無誘導爆弾と同様に国内で開発された誘導キットを融合させたものです。

 防衛分野におけるほぼ自給自足の達成に向けてトルコが試みた結果は、同じ企業内で開発されたものでさえ兵装ごとに設定された目標領域で著しい重複が生じ、同じ任務に対処できる豊富な兵装群をもたらしました。

 産業面での自給自足を達成しようというトルコの決心で見落とされがちな要素として、この国がとあるシステムのみならず、それに関連するかもしれない全てを生産する意図があることが挙げられます。この戦略は防衛産業を超えて広がっており、自動車産業や鉄道といった別の分野でも大規模な投資が行われています。結果として、これまでに他国の鉄道を建設することができていたトルコが、近いうちにその上を運行する列車も納入できるようになるのです。

 この戦略は、最終的にはより多くの発注がトルコ企業へ与えられることを確かなものとし、将来的にトルコに莫大な利益をもたらすことは間違いないでしょう。

注意点
  1. このリストに掲載している兵装のいくつかについては、本稿執筆時点でも開発と(機体との)インテグレートの試験が継続しています。したがって、このリストは将来的なものを含めた兵装の概観と見るべきでしょう。
  2. 列挙している兵装については、基本的に①開発企業、②名前、③最大射程距離、④搭載機、⑤誘導方式、⑥その他参考事項の順に表記しています(種類によっては順番が入れ替わっていたり、省略しているものもあります)。
  3. いくつかの兵装の実際の射程距離について、UAVが投下する場合は高高度を飛行するジェット機よりも射程距離が短くなるものがあります。
  4. トルコの「F-4E-2020 "ターミネーター"」戦闘攻撃機はそう遠くない将来に退役する予定であることから、このリストには同機を各兵装を搭載可能な機体として表記していません。とはいえ、「F-16」で使用可能な兵装については、通常は「F-4E-2020」でも使用できます。
  5. リストに表示されている兵装名をクリックすると、当該兵装備の画像を見ることができます。
  6. 開発企業・メーカーは略称などがされていますが、制式名称は以下のとおりです。
      ・TÜBİTAK SAGE(トルコ科学技術研究会議・防衛産業研究開発機関)
      ・TAI(トルコ航空宇宙産業)
      ・STM(防衛技術エンジニアリング      
      ・MKE(機械及び化学工業株式会社)

空対空ミサイル(AAM)


対レーダーミサイル (ARM)
  •  ロケットサン 「アクババ」 (「アクンジュ」,「TF-X」,「F-16」用 ) [開発中]


空中発射レーザー

 
巡航ミサイル
  •  TÜBİTAK SAGE「SOM(ソム)-A」 [275+km] (GPS/INS誘導方式) [静止目標用・破片効果弾頭装備型] (「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「TF-X」,「F-16」用 )
  •  TÜBİTAK SAGE「SOM-B1」 [275+km] (GPS/INS/赤外線画像誘導方式) [静止目標用・破片効果弾頭装備型] (同上)
  •  TÜBİTAK SAGE「SOM-B2」 [275+km] (GPS/INS/赤外線画像誘導方式) [耐爆目標用・タンデム弾頭装備型] (同上 )
  •  TÜBİTAK SAGE「SOM-C1」 [275+km] (GPS/INS/赤外線画像誘導方式+データリンク) [移動目標用・破片効果弾頭装備型]  (同上) [開発中]
  •  TÜBİTAK SAGE「SOM-C2」 [275+km] (同上) [移動型耐爆目標用・タンデム弾頭装備型] (同上)  [開発中]
  •  TÜBİTAK SAGE 「SOM-J」 [275+km] (同上) [対艦用・半徹甲弾頭装備型]  (同上)
  •  ロケットサン「チャクル-CR」 [150km] (GPS/INS/赤外線画像/アクティブ・レーダー誘導方式+データリンク) [地上目標用・HE/サーモバリック弾頭装備型] (開発中)
  •  ロケットサン「チャクル-AS」 [150km] (同上) [対艦用・半徹甲弾頭装備型] (開発中)
  •  ロケットサン「チャクル-LIR」 [150km] (同上) [電子戦装置搭載型] (開発中)
  •  ロケットサン「チャクル-SW」 [150km] (GPS/INS/赤外線画像/アクティブ・レーダー誘導/スウォーム・センサー誘導方式+データリンク) [対艦用・半徹甲弾頭装備型] (開発中)
  •  ロケットサン「アトマジャ」 [220km] (GPS/INS/赤外線画像/アクティブ・レーダー誘導方式+データリンク) [対艦用・半徹甲弾頭装備型] (開発中)
  • バイカル「ケマンケシュ」 [200km] (開発中)


徘徊兵器


精密誘導爆弾
  •  TÜBİTAK SAGE「トガン」 (トルコ製81mm迫撃砲弾にGPS/INS誘導キットを組み込んだもの)[固定翼型及びVTOL型UCAV用]
  •  TÜBİTAK SAGE「ボゾク」 [9km] (GPS/INS/レーザー誘導方式)[UCAV用]
  •  TÜBİTAK SAGE「カユ 30」 [25km] (同上)[UCAV用]
  •  TÜBİTAK SAGE「カユ 50」 [25km] (同上)[UCAV用]
  •  ロケットサン「MAM(マム)-C」 [15+km] (同上)[UCAV用]
  •  ロケットサン「MAM-L」 [15+km] (同上)[UCAV用]
  • ロケットサン「MAM-L +」 [25+km] (赤外線画像誘導方式+データリンク)[UCAV用]
  •  アセルサン「LGK-82」 [12+km] (トルコ製「Mk.82」爆弾にレーザー誘導キットを組み込んだもの) [「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「アクスングル」,「ヒュルジェット」,「TF-X」,「F-16」用]
  •  アセルサン「LGK-84」 [12+km] (トルコ製「Mk.84」爆弾にレーザー誘導キットを組み込んだもの) [「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「TF-X」,「F-16」用]
  •  ロケットサン「テベル-81」 [28km] (トルコ製「Mk.81」爆弾にGPS/INS/レーザー誘導キットを組み込んだもの) [「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「アクスングル」,「ヒュルジェット」,「TF-X」,「F-16」用]
  •  ロケットサン「テベル-82」 [28km] (トルコ製「Mk.82」爆弾にGPS/INS/レーザー誘導キットを組み込んだもの) [同上]
  •  ロケットサン「ラチン」 [28km] (トルコ製「Mk.82」爆弾にGPS/INS/赤外線画像+データリンク誘導キットを組み込んだもの) [同上]
  •  TÜBİTAK SAGE「ギョズデ」[28km] (トルコ製「Mk.82」爆弾にGPS/INS/レーザー誘導キットを組み込んだもの) [同上]
  •  TÜBİTAK SAGE「ギョクチェ」 [28km] (トルコ製「Mk.83」爆弾にGPS/INS/レーザー誘導キットを組み込んだもの) [同上]
  •  TÜBİTAK SAGE「HGK-82」 [28km] (トルコ製「Mk.82」爆弾にGPS/INS誘導キットを組み込んだもの) [「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「アクスングル」,「ヒュルクス」,「ヒュルジェット」,「TF-X」,「F-16」用]
  •  TÜBİTAK SAGE「HGK-83」 [28km] (トルコ製「Mk.83」爆弾にGPS/INS誘導キットを組み込んだもの) [「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「アクスングル」,「ヒュルジェット」,「TF-X」,「F-16」用]
  •  TÜBİTAK SAGE「HGK-84」 [28km] (トルコ製「Mk.84」爆弾にGPS/INS誘導キットを組み込んだもの)[「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「TF-X」,「F-16」用]
  •  TÜBİTAK SAGE「LHGK-84」 [28km] (トルコ製「Mk.84」爆弾にGPS/INS/レーザー誘導キットを組み込んだもの)[「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「TF-X」,「F-16」用]
  •  ロケットサン「MAM-T」 [30+km] (GPS/INS/レーザー誘導方式)[「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「アクスングル」,「TB3」,「ヒュルジェット」,「F-16」用]
  •  TÜBİTAK SAGE「クズガン-SS」 [40+km] (INS/GPS/レーザー/赤外線画像/CCD/ミリ波レーダー誘導方式+データリンク) [「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「アクスングル」,「ヒュルジェット」,「TF-X」,「F-16」用]
  •  アセルサン「ミンボ」小直径爆弾 [100km] (GPS/INS誘導方式) [同上]
  •  アセルサン「赤外線誘導式小直径爆弾」 [100km] (赤外線画像誘導方式) [同上]
  •  TÜBİTAK SAGE「KGK-82」 [110km] (トルコ製「Mk.82」爆弾にGPS/INS誘導キットと折りたたみ式翼を備えた射程延長キットを組み込んだもの) [「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「アクスングル」,「ヒュルクス」,「ヒュルジェット」,「TF-X」,「F-16」用]
  •  TÜBİTAK SAGE「KGK-シィーハ-82」 [110km] (トルコ製「Mk.82」爆弾にGPS/INS/レーザー誘導キットと折りたたみ式翼を備えた射程延長キットを組み込んだもの) (UCAV用に設計されたもので、開発中)[「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「アクスングル」用]
  •  TÜBİTAK SAGE「KGK-83」 [110km] (トルコ製「Mk.83」爆弾にGPS/INS誘導キットと折りたたみ式翼を備えた射程延長キットを組み込んだもの) [「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「アクスングル」,「ヒュルジェット」,「TF-X」,「F-16」用]


精密誘導爆型地中貫通爆弾
  •  TÜBİTAK SAGE「サルト-82」 [28km] (トルコ製「Mk.82」地中貫通爆弾にGPS/INS誘導キットを装着したもの)[「クズルエルマ」,「アクンジュ」,「アクスングル」,「ヒュルジェット」,「TF-X」,「F-16」用]
  •  TÜBİTAK SAGE「サルブ-83」 [28km] (トルコ製「Mk.83」地中貫通爆弾にGPS/INS誘導キットを装着したもの)[同上]
  •  TÜBİTAK SAGE「サルブ-83T」 [28km] (トルコ製「Mk.82」サーモバリック地中貫通爆弾にレーザー誘導キットを装着したもの)[同上]
  •  TÜBİTAK SAGE「NEB-84」 [28km] (トルコ製「Mk.84」地中貫通爆弾にGPS/INS誘導キットを装着したもの)[同上]
  •  TÜBİTAK SAGE「NEB-84T」 [28km] (トルコ製「Mk.84」サーモバリック地中貫通爆弾にGPS/INS誘導キットを装着したもの)[同上]


空対地ミサイル


汎用爆弾(無誘導爆弾)




[1] https://twitter.com/SavunmaTR/status/1441380967742988296

特別協力:SR_71 と TurkishWarNews(敬称略) 

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


おすすめの記事