ラベル 国産 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 国産 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2024年9月7日土曜日

盛況な産業基盤に支えられて:セルビアの無人機飛行隊(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2022年1Ⅰ月6日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した ものであり、意訳などで僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 セルビアの兵器産業は盛況であり、小火器から高度な誘導兵器まで、セルビア軍用のみならずUAE・キプロス・トルクメニスタン・バングラデシュなど多くの海外顧客向けにも開発・生産されています。

 その中には、すでにセルビア陸軍でも少数が運用されている数多くの無人航空機も含まれるようになりました。また、「ペガズ011」無人戦闘航空機(UCAV)、「ガヴラン145」徘徊兵器、「X-01 "Strsljen"」ヘリコプター型UCAVといった、より意欲的なシステムの開発も進行中です。

 それにもかかわらず、セルビア軍で運用された初のUCAVは中国製となってしまいました。2020年に6機の「CH-92A」を導入した取引には、中国で国産の「ペガズ011」のさらなる開発と試験を実施するための支援も含まれているとのことです。[1]

 セルビア空軍にUCAVの運用経験を提供するために導入されたと思われるほかに「FT-8C」空対地ミサイル(AGM)用のハードポイントを2つだけしか装備していないことから、「CH-92A」はセルビアが大型のUCAVを獲得するための通過点に過ぎないことは確実でしょう。

 当初、セルビアは中国の「翼竜Ⅰ」に関心を示したと噂されていたものの、後にトルコの「バイラクタルTB2」を調達する意向が明らかとなりました。[2]セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領さえも自国がTB2の購入待ちの行列に加わったと報告し、2023年の納入開始を希望しています。ただし、セルビアが最終的に「バイラクタルTB2」を導入できるかは疑わしいようです。[3]

 現在は「セルビア・トルコ間の黄金時代」を迎えていますが、セルビアがTB2を導入した場合、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、特にセルビアが今でも領土と主張しているコソボといった近隣諸国とトルコの関係や販売の見通しを悪化させることになりかねません。こうした懸念が存在する限り、TB2を導入する可能性は厳しいと言えるでしょう。

セルビア空軍の中国製「CH-92A」UCAV

 セルビアでは、「CH-92A」UCAVと共にイスラエルの「オービター1」や国産の「ヴラバツ」無人偵察機も運用されており、この2機種は第72特殊作戦旅団と第63空挺旅団で使用されています。

 「ブラバツ」は情報収集・監視・偵察(ISR)任務用に、機首の下に小型の電子光学センサーを搭載していますが、2022年には6発の「M22」40mm無誘導爆弾(擲弾)を搭載した「ブラバツ」のUCAV型も公開されました。ただし、これが軍に採用されるどうかは現時点で不明です。[4]

国産の「ヴラバツ」無人偵察機は6発の40mm擲弾で武装可能

 セルビアにおける武装ドローンの開発で、さらに大胆な試みと言えるものが「シーラ750C」 UCAVでしょう。「シーラ750C」軽飛行機の無人機バージョンであるこの新型機は、高価なUCAVに代わる低コストの代替策として開発されました。

 警戒監視任務向けに最適化されたこのUCAVは、胴体下部から突き出ているスタブ・ウィングに二つの兵装用パイロンを装着することが可能で、これには「BR-7-57」57mmロケット弾ポッド2基か、射程が約10kmある「RALAS」空対地ミサイル2発を搭載することができます。

 残念ながら、この「シーラ750C」UCAVは2015年のプロジェクト発表から一度も顧客を得ることができませんでした(注:「ユーゴインポート」社のウェブカタログには今でも掲載され続けているため、売り込み自体を断念したわけではありません)。

「シーラ750C」 UCAV

 より一般的なドローンとしては、13kgの弾頭を145km圏内に飛ばすことができる(徘徊モードでは50km)徘徊兵器「ガヴラン(レイヴン)」という形で開発が進められています。

 当初の設計では、見た目は徘徊兵器に転用した無人偵察機そのものであり、普通の滑走路からの離陸を可能にする三輪式の降着装置さえ備えていましたが、今では地上のキャニスターから射出されるコンパクトなモデルに進化しました。

 専用のキャニスターは18発か27発用の箱型発射機を備えたトラックかトレーラーに搭載されます。

徘徊兵器「ガヴラン145」

 1995年、セルビアの領空は「MQ-1 "プレデター"」の実戦デビューが果たされた舞台でした。それからの約30年でセルビアは高度な無人機を独自に設計・生産・調達するまでに至っています。

 トルコからの「バイラクタルTB2」の導入は政治的な理由で実現しそうにありませんが、「ペガズ011」のさらなる開発を進めるほかに中国から「翼竜I」あるいは「CH-95」などのUCAVを追加調達することで、セルビアが求めるUCAVの要件をほぼ満たすことができるでしょう。

 その他の見込まれる展開には無人偵察機や徘徊兵器の導入も挙げられますが、これはセルビア国内に確立された無人機産業のおかげで現地調達が可能という利点があるためです。

  1. 各機及び兵装の名前をクリックすると、セルビアにおける当該装備の画像を見ることができます。


無人偵察機 - 運用中

無人偵察機 - 試作 / 未採用

無人戦闘航空機 - 運用中

無人戦闘航空機 - 試作

徘徊兵器 - 試作 / 未採用

[1] https://twitter.com/200_zoka/status/1395129230506217475
[2] Erdoğan promised Serbia Turkish Bayraktar TB2 drones: Vucic https://www.dailysabah.com/business/defense/erdogan-promised-serbia-turkish-bayraktar-tb2-drones-vucic
[3] Serbia Joins ‘Queue’ for Turkish Bayraktar Drones https://www.thedefensepost.com/2022/09/09/serbia-queue-turkish-bayraktar-drones/
[4] Serbian MoD develops armed version of Vrabac small UAV https://www.janes.com/defence-news/news-detail/serbian-mod-develops-armed-version-of-vrabac-small-uav


おすすめの記事

2024年5月25日土曜日

空のように高い野望:アルメニアの無人機計画(一覧)


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事は、2023年1月4日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 アゼルバイジャンが無人航空機(UAV)の導入に大規模な投資を行っていたことを考えると、アルメニアが初歩的な無人機による偵察能力しか持たず、ほぼ無人攻撃能力なしで2020年のナゴルノ・カラバフ戦争に挑んだことは意外だったかもしれません。[1]

 2020年7月に起こったアゼルバイジャンとの武力衝突の際に、アルメニア国防省は国産の徘徊兵器を使用してアゼルバイジャンの戦車3台を撃破したと自慢していましたが、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争は(こうした熱心な主張があるにもかかわらず)当時のアルメニア軍にそのような戦力が本当に存在しないことを示してしまいました。[2]

 しかし、これは国内で入手可能なものが不足していたことが原因ではないと確実に言えるでしょう。なぜなら、アルメニアの防衛企業は過去4年間だけで23種類もの徘徊兵器を設計していたからです!同様に多数の無人偵察機も日の目を見ており、数多くの設計案が試作段階まで到達することに成功していました。

 ところが、アルメニア国防省はこうした無人兵器やその他の有望な国産兵器には投資するどころか、ロシアから4機の「Su-30SM」多目的戦闘機を調達するために僅かしか使えない予算を投じることを選んでしまったのです。[3] このことは、2020年の戦争でUAVが不足し、専用の兵装を購入する予算が無いために4機の「Su-30SM」を実戦に投入できなかったという悲惨な結果だけを残しました。

 アルメニアで実際に運用されたUAVの大部分が初歩的な性能しか備えていなかったようです。それらの中で最も多かったのはロシアのAFM製「プテロ-E5」をコピーした「X-55」であり、この機体は搭載されたGPS受信機を用いてウェイポイントを基準にあらかじめプログラミングされたルートを飛行し、一定の間隔で写真を撮影するという機能を有しています。これで撮影された画像は飛行後に人力で回収され、商業衛星の画像に匹敵する品質の最新情報を提供しますが、限界があることは言うまでもありません。

 「クルンク」のような高性能な機種は、2020年の戦争に影響を及ぼすには数があまりにも少なすぎました。このようなアルメニアの深刻な偵察能力の不足を補完するため、ロシアは2020年の戦争中に多数の「オルラン-10」を引き渡しました。[4] また、ロシア製のUAV「グリフォン-12」も軍で運用されています。

 さらに、ロシアはアルメニアの無人偵察機「UL-300 (ザラ"421-16E")」 と「UL-350 (スーパーカム"S350")」 の背後にある技術の供給源でもあり、後者はアルメニア陸軍で運用されていることが確認されています。[5]

 2020年後半に引き渡された「オルラン-10」は、「ダヴァロ・ディフェンス・システムズ」によって開発された新しい無人偵察機のベースとしても活用されています。[6]

 ロシアからのUAVの納入とそれに伴う技術移転は、アルメニアが比較的短期間で無人機による偵察能力を向上させることに役立ったものの、アルメニアの無人機メーカーと彼らが手掛けた国産機は再び隅に追いやられてしまいました。

 イスラエルの無人機が切れ目なく続いてアルメニア領内に不時着したおかげで、アルメニアの無人機メーカーはそれらの機能を模倣しようと試みたため、この国独自の無人機はますますイスラエル起源の技術をベースに設計されるようになっています。アルメニアのUAVメーカーである「ダヴァロ」社の取締役は、2020年にイスラエル製のUAVが研究のために自社に移管されていることを認めました。[6]

 そして、「UAVLAB」社の工場を撮影した画像はイスラエル製の「スカイストライカー」が分解されていることを明らかにしたほか、同社の「UL-450」「オービター3」をベースに設計されていることは見抜くには僅かな分析能力も必要としないでしょう。「ダヴァロ」社は次に「ハロップ」「DEV-3」徘徊兵器(LM)のベースとして活用し、同時にトルコの「STM」社の「カルグ」LMもコピーしています
 
「DEV-3」はイスラエルのIAI製「ハロップ」をベースに開発されたか、少なくともインスパイアを得ている徘徊兵器である:左下はより小型の「DEV-1」

「フレーシュ-7」 徘徊兵器:イスラエルの「ヒーロ-30」にインスパイアを受けたと思われるが、直にベースにして開発されたわけではないようだ

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で無人戦闘航空機(UCAV)が主導的な役割を果たした姿を痛いほど直に目にしたアルメニアが、それ以降に同様のアセットを導入しようと試みたのは理にかなっているとしか言いようがありません。

 アルメニアが隣国のイランから武装ドローンの導入を模索しているという報道がなされましたが、アルメニア国防省はそれどころか国産システムの導入を検討しているようです。[7]

 最近、「ダヴァロ」社は最大で4発の「SMA A5」または「AGB-003」誘導爆弾を搭載できるUCAV「アラレズ」を開発しています。この「アラレズ」計画はまだ開発の初期段階にあることから、運用可能なシステムが誕生するのは数年先になるでしょう。
 
2022年3月に初披露された「アラレズ」UCAV(試作機):主翼下の「SMA A5」誘導爆弾に注目

 アルメニアで開発された無人機は見応えはありますが、それをさらに発展させ、いつか大量生産に入るための国防省からの(財政的な)支援がないことを考えると、なおさらそう思います(注:国防省の支援を受けないメーカーは国からの制約を受けない独創的な開発が可能である一方、資金難に苦しむことに変わりがない現状を皮肉ったもの)。

 2020年夏にはLMの量産が開始されるとの報道があったにもかかわらず、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争ではアルメニアのLMによる攻撃はたった2回しか記録されていません。[8] [9] [10]

 とはいえ、アルメニアが軍事的な優位性を向上しつつあるアゼルバイジャンに対抗するために活用するべく、自国で開発された無人機に大きな期待をかけていることは極めて明白です。

 アルメニアの主要な無人機メーカーである「ダヴァロ」社は、ロシアの「STC:特別技術センター("オルラン-10"の製造者)」と「クロンシュタット("オリオン" UCAVの製造者)」社、そして2022年にはUAEの「エッジ」グループと協力協定を締結しました。同協定は、アルメニアの無人機分野におけるイノベーション率をさらに高めることに役立つ可能性を秘めているため、今後の展開にも目を離すことはできません。  

  1. 以下の一覧の目的は、アルメニアの無人航空機(UAV)及び無人戦闘航空機(UCAV)及びその兵装、徘徊兵器を包括的に網羅することにあります。
  2. アポストロフィー内の部分は、他の呼称や非公式な呼称です。
  3. 一覧の合理化と不必要な混乱を避けるため、ここには軍用レベルの無人機のみを掲載しています。
  4. 各機種及び兵装に続く角括弧内の年は、当該装備が最初に目撃または報じられた年を意味しています。
  5. 各機種及び兵装の名前をクリックすると、アルメニアにおける当該装備の画像を見ることができます。

無人偵察機 - 運用中

無人偵察機 - 試作/ 未採用

無人戦闘航空機 - 試作 / 未採用


徘徊兵器 - 運用中


徘徊兵器 - 試作 / 未採用


訓練用無人機など - 試作


[1] Death From Above - Azerbaijan’s Killer Drone Arsenal https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/death-from-above-azerbaijans-killer.html
[2] https://twitter.com/ShStepanyan/status/1284549170892877831
[3] Knights Of Yerevan - Armenia’s Su-30 Flankers https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/knights-of-yerevan-armenias-su-30sm.html
[4] https://twitter.com/Zinvor/status/1324073095490142209
[5] https://twitter.com/wwwmodgovaz/status/1574760539758202880
[6] https://twitter.com/ralee85/status/1284954167795159040
[7] Armenia Wants Iranian Drones, Says Top Iranian Military Official https://hetq.am/en/article/149460
[8] Artsakh to mass produce combat drones, trials successfully completed https://en.armradio.am/2020/05/20/artsakh-to-mass-produce-combat-drones-trials-successfully-completed/
[9] https://twitter.com/Karabakh_MoD/status/1320408314807812100
[10] https://twitter.com/Danspiun/status/1470844958085197832
[11] Davaro News https://davaro.am/News