2023年11月19日日曜日

目覚めつつある野心:マレーシアのドローン計画(保有機一覧)



著:シュタテイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo

 マレーシア政府は自国を東南アジアにおけるドローンの実験場に変えようとしており、すでに国際的な企業が配達やその他の独特なサービスを提供するための無人航空機(UAV)の設計と製造で競争を繰り広げています。[1]

 このような無人機に対する野心を考えると、2000年代初頭からいくつかの軍用レベルのドローンを考案してきた国産ドローン産業が存在するにもかかわらず、マレーシア政府が国軍向けのUAVの導入に全く投資していないことは非常に驚くべきことかもしません。

 国産軍用ドローンでは、最終的には2008年に「アルドラMk.1」の1機種のみがマレーシア軍への就役に至りました。このUAVは2009年に3機がタイへ輸出されたと報じられたにもかかわらず、マレーシア製UAVが海外での商業的成功を収めていることは知られていません。[2]

 この10年の間に「アルドラMk.1」が退役した後、現在のマレーシアはアメリカから寄贈された多数の「ボーイング・インシツ」社の「スキャンイーグル2」、スペインの「フルマーX」、そして僅かな数の市販の中国製VTOL型ドローンを運用してますが、東南アジアの平均よりも貧弱なレベルにとどまっています。[3]

 マレーシア軍で実際に運用されているのは「スキャンイーグル2」のみであり、「フルマーX」はマレーシア海上法令執行庁(沿岸警備隊)、中国製VTOL型ドローンは警察の航空隊で用いられています。このUAVの寄せ集めは、マレーシアが無人航空機の設計・製造で東南アジアの巨人となる極めてまれな好機にあった2000年代に想定されていた保有機の一覧とは全く異なった有様と言っても過言ではありません。
 
 2001年、「コンポジッツ・テクノロジー・リサーチ・マレーシア(CTRM)」社はオーストラリアの軽飛行機「イーグル150B」をベースにした「イーグルARV」有人・無人可変操縦機を発表しました。(このプロジェクトはイギリスの「BAEシステムズ」社と共同で立ちあげられました。)[4]

 航空監視と環境モニタリング用として、マレーシアが3機のドローンと地上管制ステーション1基で構成される1システムを購入したという報道もありますが、結局のところ「イーグルARV」は顧客を獲得することができなかったようです。

 UAVに対するマレーシア軍の関心の欠如は、それ以降にマレーシアで生み出されるほぼ全てのUAVの開発を妨げることになってしまいました。

王立マレーシア空軍の「F/A-18D 'ホーネット'」と並ぶ「イーグルARV」。胴体下部のFLIRターレットに注目。

 それに続く数年間でさらに数種類のマレーシア国産のUAVが日の目を見ることになりましたが、UAVの運用にほとんど価値を認めていなかった当時の政府や軍に直面した結果、いずれも国内での受注を得るには至りませんでした。

 実際、2009年にマレーシアの「サプラ・セキュアード・テクノロジー」社は、UAVの組み立てをマレーシアではなくオーストラリアで行うことを申し入れていました。国内での生産ラインの設置についてはマレーシア政府が実際にUAVの発注を開始した場合にのみ実行可能ということでしたが、それも実現することなく頓挫しました。[2]
 
 結果として「CTRM」社の「アルドラMk.1」はマレーシア軍が導入した唯一の国産ドローンとなってしまいましたが、限られた数の機体が実際に調達されたのか、それともメーカーからのリース品だったのかは不明のままです。

 「アルドラMk.1」はリースした「スキャンイーグル」とともに、2013年にボルネオ島サバ州における対テロ作戦で運用されたことが初めて確認されました。[5] 

 このUAV用に合成開口レーダー(SAR)も開発されましたが、マレーシアでの本格的な運用までには至らなかったようです。[6]
 
 この10年の変わり目の頃に「アルドラMk.1」が退役した後、王立マレーシア空軍(RMAF)は2020年5月に新たな戦術無人航空システム(TUAS)の入札を公示しました。現在、マレーシアの企業はこの入札に2種類のドローンを売り込んでいます。これらは、「CRTM」社(現「デフテック・アンマンドシステムズ」社)の「アルドラ・カマル」と、イタリアの「レオナルド」社と共同で開発した「デフテック・ワンサ」です。

 その一方で、王立マレーシア海軍(RMN) は2020年5月にアメリカから12機の「スキャンイーグル2」を寄贈されています。 [7] [8]

「デフテック・ワンサ」※機首の一部が取り外されている

 その10年前の2009年には、アラブ首長国連邦(UAE)の「アドコム・システムズ」社との共同で、マレーシアがこの地域で中高度・長時間耐久型(MALE)無人機を国内生産する最初の国になると公表されました。生産されることになったMALE型UAVは「ヤブホン-R」であり、現在は「ヤブホン-アルドラ」と呼称されています。

 約30時間の滞空時間を誇ることで、「ヤブホン-アルドラ」は自身をRMAFが今後必要とするMALE型UAVの最適な候補機として位置付けました。[9] 

 しかし、マレーシア軍からの具体的な関心が示されなかったことから、この有望な共同プロジェクトも実現することはありませんでした。



 2021年の時点で、マレーシアが必要とするMALE型UAVの要件に見合うシステムは依然として登場していません。 [10]

  最近、「デフテック」社は「トルコ航空宇宙産業(TAI)」と提携して「アンカー-S」をRMAFのUAV計画に売り込みをかけています。 [10] [11]

 伝えられるところによると、ほかにはアメリカの「MQ-9 "リーパー"」、ロシアの「オリオン-E」、中国の「翼竜II」「CH-4B」、フランスの「パトローラー-S」、イギリスの「ウォッチキーパーWK450」、イタリアの「ファルコ」も検討されているとのことです。[12] 

 「アンカ-S」の売り込みについては、長きにわたってRMAFの要求を満たす有望なシステムと考えられていたこともありますが、近年における「バイラクタルTB2」の台頭が入札への参加を確実にさせたのかもしれません。いかなるトルコ製の機種が選ばれたとしても結果的にマレーシアへ武装UAVをもたらすことになりますが、興味深いことに、武装はマレーシアのMALE型UAVの要件には含まれていないようです(編訳者注:2023年5月、マレーシア政府は「アンカ-S」3機を調達することを公表しました)。

デフテック社のUAVラインナップ(マルチローター型及びVTOL型UAVは商用の中国製)

 マレーシアによる今後のMALE型UAVシステムの導入は、そのような戦力を欲する同国軍の長年にわたるニーズがようやく満たされることを意味します。この国は近隣諸国の大部分がすでに数十年にわたって有している戦力を獲得する方向にゆっくりと歩みつつあるのです。

 将来的には、マレーシアは(「RQ-11 "レイヴン"」といった)小型戦術UAVの不足の対処にも取り組む可能性があります。これらのシステムを国内産業から調達するか海外から調達するかは不明ですが、(おそらく海外のUAVメーカーと共同という形になるでしょうが)マレーシアがようやく自国の技術基盤を活用するとなれば、大きな偉業が成し遂げられることは間違いないでしょう。


無人偵察機 - 運用中


VTOL型無人偵察機 - 運用中


無人標的機 - 運用中


無人戦闘航空
機 - 運用予定


国産固定翼型UAV (試作)


国産VTOL型UAV (試作)


無人偵察機 - 退役済み

マレーシア軍の「スキャンイーグル2」

[1] Malaysia moves to become a drone hub for Southeast Asia https://asia.nikkei.com/Economy/Malaysia-moves-to-become-a-drone-hub-for-Southeast-Asia
[2] Malaysia Delivery Three UAV to Thailand http://defense-studies.blogspot.com/2009/06/malaysia-delivery-three-uav-to-thailand.html
[3] Covid-19: Malaysia enlists UASs to enforce countermeasures https://www.janes.com/defence-news/news-detail/covid-19-malaysia-enlists-uass-to-enforce-countermeasures
[4] Group of Companies Unmanned Systems Technology Sdn Bhd (The UAS) https://www.ctrm.com.my/acomp4_a.php
[5] CAP55: RMAF Looking For Tactical UAS http://worldwardefence.blogspot.com/2020/06/cap55-rmaf-looking-for-tactical-uas.html
[6] A new unmanned aerial vehicle synthetic aperture radar for environmental monitoring https://www.researchgate.net/publication/273269922_A_new_unmanned_aerial_vehicle_synthetic_aperture_radar_for_environmental_monitoring
[7] Malaysia Confirms US Aid Package in Shape of Aerial Drones https://www.benarnews.org/english/news/malaysian/malaysia-china-06072019180647.html
[8] Royal Malaysian Navy took delivery of six ScanEagle UAV https://www.navalnews.com/naval-news/2020/05/royal-malaysian-navy-took-delivery-of-six-scaneagle-uav/
[9] Malaysian Firms Manufacture Flighty MALE http://www.satnews.com/story.php?number=406237562
[10] Turkish defense firm's UAV exports to Malaysia discussed at trade fair https://www.dailysabah.com/defense/2018/04/18/turkish-defense-firms-uav-exports-to-malaysia-discussed-at-trade-fair
[11] TUSAŞ Visits Malaysia to Promote ANKA UAV https://www.turdef.com/Article/tusas-visits-malaysia-to-promote-anka-uav/716 [12] More Details on LCA and UAV RFI https://www.malaysiandefence.com/more-details-on-lca-and-uav-rfi/
[13] ANKA'nın yeni adresi Malezya 
https://x.com/TUSAS_TR/status/1661703805203890176?s=20

※  この記事は2022年2月22日にOryx本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもので
 す。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があり
 ます。

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