ラベル 東南アジア の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 東南アジア の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2026年9月7日月曜日

成功への道?:インドネシアの旅客機プロジェクトとトルコ


著:シュタイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年2月10日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。また、情勢が変化しており記事と実際の状況が噛み合わないものにもなっていますが、その点はあくまでも当時の考察としてご承知ください

 航空分野におけるトルコの野心は、ステルス戦闘機「TF-X(カーン)」、高等ジェット練習機「ヒュルジェット」、そして「T625 「ギョクベイ」ヘリコプターといった先進的な航空機の開発に繋がっています。

 無人戦闘航空機(UCAV)の設計と製造においても同様に大きな進展が見られ、中でも特に注目されるのが「バイラクタル・アクンジュ」とMIUSこと「バイラクタル・クズルエルマ」戦闘機です。(たいていは短期間で行われている)こうした機体の研究開発・生産は驚くべきものであり、政府から支援を受けつつも細かく干渉されることなく、意欲的なエンジニアのチームがどのような成果を上げられるかを明確に示しています

 トルコの航空分野における野心は、軍用機の開発だけに留まっていません。2015年、同国はアメリカに拠点を置くシエラ・ネバダ・コーポレーションと協力し、「TRジェット」計画を立ち上げたことは皆さんの記憶に新しいのではないでしょうか。このプロジェクトからは、4種類の旅客機が誕生する予定でした。まずは短距離用の32席を備えたジェット機(「TRJ328」)とターボプロップ機(「TR328」)、そして中距離用の最大70席を誇るジェット機(「TRJ628」)とターボプロップ機(「TR628」)です。TRジェットについては、「TRJ328」を500機から1,000機販売することを目標としており、「TRJ628」についても同程度の販売数が見込まれていたようです。[1]

 これらの数値は非常に楽観的なものであり、結局のところ、トルコ政府にさらなる投資を説得するには不十分だったこともあり、この計画は2017年に中止になってしまいました。[1]

 これにより、トルコにおける民間航空産業の確立に向けた短期的な見通しに終止符が打たれたとはいえ、民間航空機の設計・生産に関するアンカラの遠大な野心そのものが終わりを告げたわけではありません。当時の報道によると、トルコは民間航空機製造分野へ参入する計画を継続はするものの、他国との別の投資案件を検討する形で進める見通しだったようです。その国の一つがウクライナであり、トルコは同国と旅客機の開発の可能性について、特に2015年と2020年に、度々協議を行ってきました(編訳者注:ご存じのとおり、ロシア・ウクライナ戦争の影響もあってこちらの投資案件は目に見えるような形での進行は見られない)。[2] [3]

 インドネシアは、トルコが航空宇宙分野で緊密な協力関係を築いてきたもう一つの国です。現在、PTディルガンタラ・インドネシア(PTDI)は19人乗りの「N219」と54人乗りの「N245」というターボプロップ旅客機の開発を進めています。トルコ航空宇宙産業(TUSAŞ)はすでに両機種の開発に関与しており、この協力をさらに深めることは、トルコとインドネシアの双方にとって大きな利益をもたらす可能性があります。[4]

 この記事では、「N219」及び「N245」プロジェクトへの関与を強化することで、トルコが国内の旅客機開発への意欲を再燃させようとしている背景について考察していきます。

 「N245」と特により小型の「N219」は、一見するとトルコが以前抱いていたジェット旅客機開発の野心から後退したように思えるかもしれませんが、両機種とも「TRジェット」に比べて財務リスクが低く、アフリカ、東南アジア、南米といったビジネスチャンスに富む海外市場で成功する可能性が高いと評価できます。

 トルコの民間ジェット機開発への野心は、アントノフ社との提携により、「An-178」及び「An-188」貨物機の共同開発・生産を通じて、いつでも復活させることが可能です。その可能性については、以前の記事で取り上げたとおりです。[5]

「N245」の素晴らしいイメージ図

 「N-219」と「N245」について詳しく説明する前に、これまでの航空分野におけるインドネシアの取り組みを振り返っておくことは理解する上で非常に重要です。1976年、インドネシアはスペインのCASA社から「C-212」輸送機の生産ライセンスを取得し、その後、「CN-235」輸送機の開発にも着手しました。

 「CN-235」は50席を備えた旅客機としても販売されたものの、その想定顧客を惹きつけることはできませんでした。それでも、IPTN(現PTDI)はこれに挫けず、「N250」と名付けられたターボプロップ式地域間輸送用旅客機の開発プログラムを推進したのです。最初の試作機は1995年に初飛行を行い、続いて1年後に乗客定員70名のロングバージョンが開発されました。[6]

 このプロジェクトは極めて有望視されていたものの、1997年のアジア通貨危機を受けて「N250」プロジェクトに関する全作業が中断され、設計の初期段階に入ったばかりだったIPTNの「N2130」ジェット旅客機計画も頓挫してしまったのです。

 2014年、インドネシアのジョコ・ウィドドは大統領就任するとすぐに、民間航空機の設計開発分野におけるインドネシアの取り組みを強化しようと模索しました。 [7]

 当初は、「N250」の改良型を開発することでプロジェクトを再開する方針だったようですが、その後、当時すでに進行中だった「N219」多目的機プロジェクトと、「CN-235」をベースにした座席数50のターボプロップ旅客機「N245」に注力することが決定されました。これらの設計に続き、「N270」と呼ばれる胴体延長型が開発される可能性があり、こちらは70名以上の乗客を収容できるようになる見込みとなっています。[8]

 ほぼ同時期に、インドネシア元大統領でありIPTNのCEOでもあったバハルディン・ユスフ・ハビビは、「N250」計画を「RegioProp R-80」という新名称で再始動させようとしたようですが、これは密かに断念されたようです。

1997年アジア通貨危機の犠牲者:「N-250」

 「N219」は、(最大積載時において)最大890km離れた目的地まで乗客や貨物を輸送するために設計された、19人乗りの双発多目的機です。[9]

 この航空機は、遠隔地の整備が不十分な滑走路からの運用を想定して設計されており、アフリカ、南米、インドネシアで想定される運用環境に最適と言えます。大型の側面貨物ドアとモジュール式貨物システムにより、同機は最大積載量2,300kgの旅客輸送か貨物輸送、あるいは旅客と貨物の混載任務に合わせて簡単に構成を変更することができるという特徴があります。[9]

 この飛行機は、「DHC-6  "ツイン・オッター"」「セスナ 408  "スカイクーリエ"」、そして将来登場するデサエル「ATL-100」の主要な競合機です。現在、チェコスロバキアのLet「L-410」、中国のハルビン「Y-12」、あるいは「セスナ208」を運航している航空会社にとって、現在試作の最終段階にある「N219」は特に注目すべき機体となることでしょう。これらの機種は、未舗装の滑走路でも運用できること、整備が容易であること、そして導入・運用コストが低いことが「N219」と共通している上にアフリカや南米全域で今でもよく見かけるからです。

 「N219」の価格は約600万ドル(6.9億円)となる見込みで、これに対し、「セスナ408」の貨物機型は685万ドル(7.8億円)、旅客機型は740万ドル(8.5億円)となっています。[10] [11]

 その性能と低価格な導入コストのおかげで、「N219」はすでにナイジェリア、中国、メキシコから関心を集めており、インドネシアの航空会社約10社が、計150機ほどの「N219」について取引意向書に署名しています。[12]

 これらはまだ確定注文には至っていないものの(「N219」の開発が完了すれば注文が入る可能性が高いでしょうが)、同機に対するビジネス上での関心の高さがはっきりと示されています。旅客機や貨物機としての運用に加え、通常の「N219」は兵員輸送や医療搬送(MEDEVAC)、空中監視、捜索救難活動(SAR)、スカイダイビング、その他の(軍事)用途にも活用可能ですが、なんと観光フライトに特化したフロート装備の水陸両用型も構想されています。[13]

 ただし、「N219」がトルコの航空会社から関心を集める可能性は低いでしょう。と言うのも、彼らが現在運航している国内線のいずれの便に就航させるには、機体があまりにも小さすぎるからです。この機種はトルコ国内の新規かつ小規模な路線に就航できる可能性はあるものの、そうした便が採算に合い、十分な需要が見込めるかどうかは疑問が残ります。

 現在運用中の機体を置き換えるため、トルコ陸軍や国家憲兵隊が少数の「N219」に関心を示している可能性はあるものの、トルコが「N219」プロジェクトに参加する目的は小型多目的機の国内需要を満たすことではなく、同機を輸出面で成功させるために必要な技術と専門知識を提供することにあるようです。

「N-219」の乗客用キャビン

「N-219」の貨物積載仕様(イメージ図)

 「N219」とは異なり、「N245」は新規に設計された機体ではなく、「CN-235」輸送機を全面的に改良し、新型エンジンやT字尾翼、ウィングレットを装備したものです。[14]

 また、この機種は54人乗りの旅客機という新たな役割に合わせて、貨物用後部ランプの撤去など、いくつかの変更がなされています。「CN-235」の設計改良に長年の経験を反映させた「N245」は、1980年代に航空会社向けに売り込まれた「CN-235」の旅客型とは全く異なる機体です。そもそも、後者は本質的に旅客輸送用に改造された貨物機にすぎませんでした。

 前述の改良が航空会社に「N245」の導入を納得させるのに十分かどうかは、同機の価格と運用コスト次第となるでしょう。また、同機は「ATR-72」や「ダッシュ8」といったライバルとの激しい競争に直面する可能性は避けられません。N245が市場に投入される頃には、このセグメントには、中国の西安「MA700」やロシアのイリューシン「Il-114-300」といった他の機種も加わることになるはずです。それでもなお、インドネシア市場での実績は、これらの航空機にとって初期段階から一定規模の経済をもたらし、最終的には世界市場における競争力を高めることになるのではないでしょうか。

 「N219」と同様に、「N245」もトルコの世界的な影響力を活用して、世界中の顧客、とりわけインドネシア独力では参入が難しいアフリカや南米の市場を開拓できる可能性が否定できません。

 現時点における「N245」プロジェクトは設計の最終段階にあり、今後数年のうちに試作機が製造される見込みです(編訳者注:このプロジェクトは2021年を最後に続報が途絶えていることから、事実上頓挫したものと思われる)。

 「N245」という名称は、インドネシアが独立を宣言した1945年に由来しています。ただし、インドネシアがオランダの植民地支配から正式に独立を達成するには1949年12月にまでかかりました。

 「N245」はトルコの航空会社からも関心を得られるかもしれません。この10年間で、トルコ全土に数多くの空港が建設され、これまでバスや遅い列車に頼っていた都市や地域へのアクセスが大幅に改善されました。ターキッシュ・エアラインズは現在、150~185席のエアバス「A319」、「A320」、「A321」、そして「ボーイング737」ジェット旅客機を用いており、これらの空港の多くを結んでいます。

 より安価な選択肢として、ターボプロップ機の「N-245」が挙げられます。この機体なら、最大54人の乗客を、1100km圏内の人気のない空港まで運ぶことが可能であり、「ターキッシュ・エアラインズ・リージョナル」という新ブランドの下で運航されることになるかもしれません。


 「TRジェット」も「N245」と同様にプロジェクトの進行を早めるため、既存の設計を最大限に活用することを模索しました。実際、「TR328」及び「TRJ328」は、それぞれドイツの「Do 328」と「Do 328JET」を改良した機種です。[15]

 PTDIの機種についても同じように名称を変更するはずなので、「N219」は「TR-219」に、「N245」は「TR-245」となるでしょう。

 トルコが国際情勢において果たす影響力が、同機の商業的成功に重要な要因となり得ると言えるのでないでしょうか。また、原産国(トルコまたはトゥルキエ)を明確に示す名称は、間違いなく有利に働くと考えられます。これらの航空機に対する強力な政治的な後ろ盾も、輸出販売を促進する重要な要因となるはずです。

テクノフェスト2021でムスタファ・バランク産業技術相とPTDIのエルフィエン・ゴエントロCEO(当時)が会話している様子 [16]

 2017年7月、PTDIはTUSAŞと「N245」及び「N219」の開発で協力する契約を締結したことを初めて発表しました。この契約に基づいて、両社が「N245」を共同で開発・生産・販売することになったのです。[17]

 TUSAŞは、「N245」を軍用輸送機からコスト効率に優れた民間旅客機へと改修する支援を実施するとのことです。2021年の報道によると、また、同社は「N219」の将来的な生産にも携わることになり、ハヴェルサンと「N219」シミュレーターの共同開発に関する基本合意書(MoU)を締結したとも伝えられています。[18] [19] [20]

 トルコ国内に「N219」や「N245」の組立ラインを設立する計画があるかどうかは不明ですが、国内の民間航空産業の確立や、トルコがこれら両機種を自国製として位置付ける上で、極めて重要となる可能性があります。


 トルコが「TRジェット」プロジェクトを通じて国産旅客機の製造を目指した取り組みは2017年に終止符が打たれたものの、同国が民間航空機の設計・製造という野心を復活させるための選択肢は依然として複数存在しています。当ブログでは、トルコがウクライナの航空プロジェクトに参画し、緊密に協力する可能性についてすでに取り上げています。

 規模は多少控えめかもしれませんが、ターボプロップ機の「N219」と「N245」も同様に成功を収める可能性があるでしょう。

 トルコの技術力と世界的な影響力にインドネシアの設計開発が融合すれば、両国が単独では成し得なかった「世界的な航空事業の成功」という成果をもたらす、まさにゴールデンコンビとなる可能性を秘めています。


 編訳者による追記:「N245」については2026年時点で続報が皆無である。プロジェクトが水面下で継続中か頓挫したものと思われる。「N219」については見込みより時期が遅れてはいるものの、今年後半にはインドネシア陸軍への最初の納入が行われる予定だ。また、PTDIはシンガポール国防省からも受注を見込んでいるとのことであり、少なからず一定の需要と納入は確約されている。
 なお、TUSAŞを含むトルコの関与については、絶望的となったと断言しても過言でもない状況となった。というのも、PTDIが2026年に入ってギリシャのSCYTALYSと覚書を締結したからだ。この覚書にはミッション統合管理システム(MIMS Airborne)をPTDI社のN219およびCN235航空機に統合することが含まれているとのことだ。ギリシャとトルコは宿敵同士であり、トルコが敵に塩を送るようなことは到底考えられない。

[1] Turkey terminates local jet program worth billions https://www.defensenews.com/air/2017/10/27/turkey-terminates-local-jet-program-worth-billions/
[2] Turkey to produce regional passenger aircraft with Ukraine https://www.dailysabah.com/business/2015/01/13/turkey-to-produce-regional-passenger-aircraft-with-ukraine
[3] Ukraine: Aviation firm Antonov aims to work with Turkey https://www.aa.com.tr/en/economy/ukraine-aviation-firm-antonov-aims-to-work-with-turkey/1965437
[4] Indonesian and Turkish aviation firms agree to collaborate on N245 commuter aircraft https://quwa.org/2017/07/11/indonesias-ptdi-turkish-aerospace-industries-will-collaborate-ptdis-cn-235-based-n245-commuter-aircraft/
[5] Untapped Potential: Turkey And Ukraine Join Forces To Develop Antonov Aircraft https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/untapped-potential-turkey-and-ukraine.html
[6] N250 Take Off https://youtu.be/uzt59BM7FXk
[7] Jokowi Hopes for Solution to Transportation Problems https://en.tempo.co/read/657847/jokowi-hopes-for-solution-to-transportation-problems
[8] Setelah N219, PT DI dan Lapan bakal bikin N245 dan N270 https://www.merdeka.com/uang/setelah-n219-pt-di-dan-lapan-bakal-bikin-n245-dan-n270.html
[9] N219 Nurtanio https://www.indonesian-aerospace.com/aircraft/detail/11_n219+nurtanio
[10] Aceh Government Purchases N219 Airplane, This Is The Price https://www.indonesian-aerospace.com/news/detail/878_aceh+government+purchases+n219+airplane%2C+this+is+the+price
[11] "Purchase planning handbook - turboprops table" https://infogram.com/bca-table-turboprops-1hxr4zx0x1eko6y?live
[12] Nigeria and Indonesia cement defence ties https://www.defenceweb.co.za/aerospace/aerospace-aerospace/nigeria-and-indonesia-cement-defence-ties/
[13] LAPAN and PTDI Develop Amphibious N219 Aircraft https://www.indonesian-aerospace.com/news/detail/908_lapan+and+ptdi+develop+amphibious+n219+aircraft
[14] https://i.postimg.cc/3wNnptRv/68.jpg
[15] Turkey terminates local jet program worth billions https://www.defensenews.com/air/2017/10/27/turkey-terminates-local-jet-program-worth-billions/
[16] https://twitter.com/officialptdi/status/1440520973275451403
[17] Indonesian and Turkish aviation firms agree to collaborate on N245 commuter aircraft https://quwa.org/2017/07/11/indonesias-ptdi-turkish-aerospace-industries-will-collaborate-ptdis-cn-235-based-n245-commuter-aircraft/
[18] Teknofest 2021: Indonesia strengthens aerospace cooperation with Turkey https://www.aa.com.tr/en/science-technology/teknofest-2021-indonesia-strengthens-aerospace-cooperation-with-turkey/2371374
[29] https://twitter.com/officialptdi/status/1440521718888497159
[20] PT Dirgantara Indonesia, Turkish Havelsan to develop simulator for N219 aircraft https://www.janes.com/defence-news/news-detail/pt-dirgantara-indonesia-turkish-havelsan-to-develop-simulator-for-n219-aircraft



 お知らせ2025年7月に上記本の改訂・分冊版である「The Armed Forces of North Korea Volume 1: Part 1: Korean People's Army Ground Forces Organisation, Strategy and Infantry」が発売されました。残りの巻も完成次第発売される予定です(記載情報は2025年現在のものにアップデート済み)。
 お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。 
 
お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
 お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました

おすすめの記事

2025年2月18日火曜日

時の試練に耐えて:ベトナムのアメリカ製艦艇


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事は、2023年1月11日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 共産主義国となったベトナムで運用されたアメリカ製装備の話題は、軍事愛好家やアナリストを魅了してきました。ただし、その魅力の割には、1975年の南ベトナム崩壊後の統一ベトナムで使用され続けた装備について書かれたものは意外とありません。まれにこの話題が取り上げられることがあるものの、そのほとんどは、「F-5E」や「C-130」、そして「UH-1」といった鹵獲機の運用についてのものです。北ベトナムは南ベトナム空軍から1,100機以上の飛行機とヘリコプターを鹵獲したと推定されています。同様に、相当数の装甲戦闘車両(AFV)が北ベトナムの手に渡り、その一部は今日でもベトナム人民軍の戦力をを支えているのです。

 これとは正反対に、勝者である北側に鹵獲された艦艇はごく少数でした。というのも、1975年4月30日に北ベトナム軍の戦車がサイゴンの大統領官邸の門を突き破る直前、ベトナム協和国海軍(RVNN)のほぼ全ての艦艇がフィリピンに向けて出航し、その大部分がフィリピン海軍に接収されてしまったからです。結果として、整備中の艦艇やフィリピンまでの航海に適していない小型艇だけが北ベトナムに鹵獲されました。彼らはそれまで海軍そのものを十分に組織できてていなかったため、これらの艦艇をベトナム人民海軍(VPN)に積極的に迎え入れたのでした。

 編入された艦艇には、河川哨戒艇(PBR)高速哨戒艇(PCF)突撃支援哨戒艇(ASPB)、そして河川機動母艦といった南ベトナムの河川機動部隊のほぼ全体が含まれていました(基本的に小型のために退避できなかったのです)。社会主義ベトナムはこれらの艦艇の一部をさらに数年間運用しましたが、最終的には大部分を廃棄処分としました。ただし、一部のPCFは今でもその姿を見ることができます。もちろん、メコンデルタでベトコンと戦うという本来の目的は、南ベトナムの敗北と共に失われています。北ベトナムは、南の海兵師団が保有していた「LVTP-5/LVTH-6」水陸両用装甲兵員輸送車も引継いだものの、これもすぐに廃棄処分となりました

 上述のとおりRVNNの主力艦艇は一部を除いてフィリピンに向けて脱出しましたが、それでも北ベトナムは南ベトナム最後の港を制圧した際に、「エドサル」級護衛駆逐艦「チャン・カイン・ズー(HQ-4)」、「バーネガット」級フリゲート「ファン・グー・ラオ(HQ-15)」、アドミラブル級掃海艇「キーホア(HQ-09)」と「ハホイ(HQ-13)」に出くわしました。さらに3隻の戦車揚陸艦(LST)、3隻の中型揚陸艦(LSM)、13隻の汎用揚陸艇(LCU)、そして最大で25隻の「ポイント」級カッターも発見され、後に北ベトナムによって使用されました。南ベトナム軍によって無力化された艦艇はごく僅かであり、鹵獲された艦艇の大半については特に修理を要せずに自軍に編入できたとのことです。

1978年、カンボジア侵攻で旧南ベトナム軍の中型揚陸艦(LSM)から上陸するベトナム軍の「BTR-50」APC:艦首の40mm連装機関砲に注目

 ベトナム海軍に編入された最大の艦艇は「エドサル」級護衛駆逐艦「チャン・カイン・ズー(HQ-4)」であり、サイゴンで整備中に鹵獲されたものです。 同艦は「T.03」という名で再就役し、後に「ダイ・キー (HQ-03)」に変更されました。[1] 

 もともと、この駆逐艦は「フォースター」として1944年にアメリカ海軍に就役し、第二次世界大戦中は大西洋と地中海で護衛任務に就いていた艦です。後にアメリカ沿岸警備隊に移管され、1960年代にベトナム海域に派遣されました。そして、1971年になって姉妹艦の「キャンプ(1975年にフィリピンに脱出)」と共に南ベトナムへ供与され、最終的に社会主義ベトナムの手に落ちたのでした。

 「ダイ・キー(HQ-03)」は1970年代(あるいは1960年代)の基準からすると決して近代的なものではなかったものの、それでも2011年まではベトナムが運用していた艦艇としては最大の艦でした。ベトナム展開時における武装は対潜護衛艦、後に沿岸警備艦としての任務に対応したものとなっており、レーダー誘導式の76mm単装砲2門(ヘッダー画像にあるのは艦首の1門)、エリコン製20mm対空機関砲(AA)が数門、そして533mm魚雷発射管で構成されていました。[1] 

 当初、VPNはこの武装の状態を維持していましたが、後日には主に (第二次世界大戦時には砲が備えられていた)空き砲座を活用して武装を強化していきました。この武装強化には前部の76mm砲の交換が含まれており、おそらくはソ連製と思しき大口径の対戦車砲または高射砲に換装されています。また、(大戦中に76mm砲、後にヘッジホッグ対潜迫撃砲が搭載された)第2砲座にも、前部と同じ単装砲が搭載されました。中央の533mm魚雷発射管は撤去されて「V-11」37mm連装対空機関砲が両舷側に各1門ずつ搭載されたほか、後部には(76mm砲が残されたものの)詳細不明の単装砲が追加されました。

 対空防御については、4門の「ZPU-4」14.5mm対空機関砲(両舷に2門ずつ)が追加されたことで一層強化されています。

 この武装が施された「ダイ・キー(HQ-03)」は、クメール・ルージュ海軍の妨害から(旧南ベトナム軍所属艦艇が主体の)上陸船団を保護するために1978年のカンボジア侵攻に投入されました。ちなみに、南ベトナムはすでに1974年の西沙諸島沖海戦で同艦を投入しましたが、中国が決定的な勝利を収めて終結しました。それ以来、彼らが同諸島を支配していることは既知のとおりです。スペアパーツの入手が不可能になったことから、1978年の戦争後に「ダイ・キー(HQ-03)」が出港したのは1982年の一度だけです。この艦は1990年代後半まで訓練用のハルク(船舶型訓練機材)として生き残りましたが、最終的に解体されて生涯を終えました。[2]



 「バーネガット」級フリゲート「ファン・グー・ラオ(HQ-15)」、「アドミラブル」級掃海艇「キーホア(HQ-09)」と「ハホイ(HQ-13)」は、艦番号をそれぞれ(HQ-01)、(HQ-05)、(HQ-07)に変更されてVPNに引継がれました。もともと、「バーネガット」級は第二次世界大戦中に水上機母艦として建造された後、フリゲートに分類され沿岸警備隊に移管された艦です。1971年と1972年に合計7隻が南ベトナム海軍に譲渡されました。正式な分類上はフリゲートですが、武装は前部に搭載された38口径5インチ砲(127mm両用砲)1門のみです。1974年の西沙諸島沖海戦における中国はこの弱点を巧みに利用し、標的とならないように常に2隻の「バーネガット」級の背後に回り込んだことが知られています。

 この戦いでの「バーネガット」の活躍に不安を感じたせいか、北ベトナムは編入後すぐに「2M3」25mm機関砲と「V-11」37mm機関砲を装備しました。「ファン・グー・ラオ(HQ-15)」は、後部甲板に「P-15 "テルミート"」対艦巡航ミサイル(AShM)用の発射機2基との「9K32 "ストレラ-2"」MANPADS用の四連装発射機2基を装備していたと伝えられることがありますが、これらの記述を裏付ける証拠画像は現時点でありません。[3] 

 この艦の経歴については、1990年代か2000年代初頭の時点で解体されたという以外は分かっていません。「アドミラブル」級の2隻も同様で、判明している情報からすると、1980年代か1990年代初頭まで哨戒艇として運用されていたようです。[4]

「バーネガット」級フリゲート「ファン・グー・ラオ」:統一ベトナム時代に撮影された数少ない写真の一枚だ

「アドミラブル」級掃海艇「ハホイ(HQ-07)」:艦橋前の「V-11」37mm砲と救命艇のすぐ後方にある2門のボフォース40mm機関砲に注目

 それまで大型の揚陸艦を保有していなかったVPNにとって、3隻の戦車揚陸艦(LST)と3隻の中型揚陸艦(LSM)、そして13隻の汎用揚陸艇(LCU)の鹵獲は、戦力を増強する上で最も重要なアセットとなったことは間違いないでしょう。LSTは「PT-76」水陸両用戦車や海軍歩兵が使用する「BTR-50」APCを最大20両搭載することを可能にしただけでなく、その大きさゆえに自身を沿岸哨戒艇や砲艦として活用させることすらできたからです。[5] [6] [7]

 これらのLSTは1978年のカンボジア侵攻で社会主義ベトナム時代のキャリアを平凡にスタートさせた後、2隻が1988年の中国とのスプラトリー諸島海戦に投入されました。1974年の西沙諸島沖海戦と同様に、この時の中国が勝利を収めて島の支配権を掌握したことは言うまでもありません。この戦いで、「HQ-505」は中国側の優勢な火力に対抗するべく果敢に立ち向かった後に激しい損傷を受け、ベトナムのカムランに曳航される途中で沈没しました。[8]

 生き残った2隻のLSTは1979年と1980年にソ連から導入した2隻のポーランド製「ポルノクニーB」級中型揚陸艦が就役したにもかかわらず運用が続けられ、現在でも1隻が現役です。 また、LSMとLCUは1980年代後半に退役して解体処分となりましたが、後者の1隻は今でも使用され続けています。

LST「ヴンタウ(HQ-503)」:この艦は2016年に72年の生涯を閉じた

ベトナム軍のLSTの甲板上に駐機している「Ka-25」対潜ヘリコプターと「ポルノクニーB」級中型揚陸艦(左奥):両艦はどちらも今日まで運用され続けている

 艦艇そのものだけでなく、それらに装備されていたアメリカ製の兵装も時代を乗り越えてきました。

 驚異的な耐久力があるにもかかわらず、1隻を除く全てのLSTと数隻のPCFが退役した後の現在でもアメリカ製兵装を装備している艦艇の数は確実に減少しつつあります。唯一生き残っているLSTには依然として2連装のボフォース40mm機関砲とエリコン20mm機関砲が装備されており、PCFには後部甲板に12.7mm重機関銃と81mm迫撃砲を備えた銃架が1門だけ装備されています。

「チェン・チン・ユー(HQ-501)」の艦首に装備されている40mm機関砲と20mm機関砲(各二連装):艦尾にも20mm機関砲が装備されている

PCFの後部甲板に搭載された81mm迫撃砲と12.7mm重機関銃(HMG)の火力プラットフォーム:この艦では「M2」50口径HMGが「NSV」に換装されているが、オリジナルのままの個体もある[9]

 アメリカ、南ベトナム、そして統一ベトナム海軍で80年もの長きにわたって使用され、ボロボロに錆びついたこれらの艦艇は、今日でもベトナム人民海軍で重要な役割を果たしていることは間違いないでしょう。今のところ、こうした懐かしさを感じさせる兵器は何とか持ちこたえていることを踏まえると、残存するアメリカ製の装備は今後数十年にわたってベトナム人の手で使用されるかもしれません(編訳者注:AFVや小火器の場合も同様と言える)。

 南ベトナムから鹵獲した最後の大型艦の生涯がまもなく終焉を迎えようとしていますが、 ベトナムにおけるアメリカ製艦艇の物語はそこで終わりません。というのも、この国は2017年と2021年に2隻の「ハミルトン」級カッターを導入したからです。予想以上に長い時の試練に耐える ことができたベトナムにおけるアメリカ製兵器は、両国間が敵対関係にあった日々より長く続いています。

VPNで現存する唯一の汎用揚陸艇(HQ-556)

ベトナムが保有する最後のアメリカ製LST「チェン・チン・ユー(HQ-501)」:甲板に「Mi-17」ヘリコプターが着陸しようとしている

[1] USS Forster (DE 334) http://www.navsource.org/archives/06/334.htm
[2] DAI KY Frigate (1944/1975) https://www.navypedia.org/ships/vietnam/vie_es_dai_ky.htm
[3] PHAM NGŨ LAÕ Frigate (1943/1975) https://www.navypedia.org/ships/vietnam/vie_es_pham_ngu_lao.htm
[4] KỲ HÒA patrol ships (1944/1975) https://www.navypedia.org/ships/vietnam/vie_es_ky_hoa.htm
[5] TRẦN KHÁNH DƯ tank landing ships (1944/1975) https://www.navypedia.org/ships/vietnam/vie_ls_tran_khanh_du.htm
[6] NINH GIANG medium landing ships (1944/1975) https://www.navypedia.org/ships/vietnam/vie_ls_ninh_giang.htm
[7] LCU1466 small landing ships (1953-1954/1975) https://www.navypedia.org/ships/vietnam/vie_ls_lcu1466.htm
[8] Vietnamese soldiers remember 1988 Spratlys battle against Chinese http://www.thanhniennews.com/politics/vietnamese-soldiers-remember-1988-spratlys-battle-against-chinese-60161.html

2024年8月25日日曜日

かつての夢をもう一度:タイの「DTI-1」多連装ロケット砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事は2023年1月13日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事であり、意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 1990年代半ばから後半は、タイ王国軍にとって「黄金の10年」を迎えようとしていた時期でした。18機の「F-16A」戦闘機の導入はタイ空軍をこの地域における軍事航空分野の先頭へと押し出し、陸軍は「M60A3」戦車「M109A5」155mm自走榴弾砲が追加されることによって増強されたのです。

 この黄金期で最もその恩恵を受けたのはタイ海軍であり、東南アジア初にして唯一の空母である「チャクリ・ナルエベト」を導入するに至ったことはよく知られています。6機の「AV-8S "マタドール"」艦上攻撃機と4機の「S-70B "シーホーク"」対潜ヘリコプターを搭載したこの空母は、18機の「A-7E "コルセア"」攻撃機と3機の「P-3T」対潜哨戒機、そして中国から調達した新型補給艦と6隻のフリゲートとともに、タイ海軍を今後数年間にわたってこの地域で最強の海軍に変えるはずでした。

 しかし、1997年のアジア通貨危機によって生じた大規模な通貨下落はタイが新たに導入した戦力に近隣諸国が対抗できる状態でなくなったことを意味したほか、タイ自身も財源不足で新たな装備の維持や更新に苦労することにさせてしまったのです。こうした状況のため、納入から2年後の時点で、9機の「AV-8S」のうち稼働状態にあったのは僅か1機だけとなってしまいました。
 
 程なくして「マタドール」は後継機を待つ余裕もないまま退役することを余儀なくされ、「チャクリ・ナルベト」は専用の艦載機を持たない空母となりました(この悲惨な状況は今日まで続いています)。「A-7E」や「P-3T」も同じ運命を辿り、誰もが認める地域大国になろうというタイの挑戦は長く続くことなく終わりを迎えたのでした。

 ここ最近になって、タイは近隣諸国を凌駕するような戦力の拡大を図るために必要な財源を得ましたが、他の分野では単に地域内のライバルに追いついたにすぎません。実際、タイは1930年代に東南アジアで初めて潜水艦を運用した後、中国から「S26T」級攻撃型潜水艦1隻という形で潜水艦戦力を(再)導入する(東南アジアで)ほぼ最後の国なのです。[1]

 タイ軍で著しく発展の歩みを見せたものには長距離砲兵戦力があります。これは2011年にタイの国防技術研究所(DTI)と中国との間で、大口径ロケット砲の研究と(最終的には)国内でライセンス生産を実施する契約を締結したことによる賜物です。[2]

 この締結の対象は「WS-1B(最大射程:180km)」「WS-32(最大射程:140km)」の2種類であり、タイではそれぞれが「DTI-1」と「DTI-1G(注:Gは誘導を意味する)」と命名されました。また、DTIは中国の122mmロケット砲の生産とさらなる開発に関するライセンス契約も締結し、これは「DTI-2」としてトラック「85式装甲兵員輸送車」に搭載されています

 フランスの「カエサル」155mm自走榴弾砲と一緒に、ローカライズされた(タイでは「M758」ATMGと呼称されている)イスラエルの「ATMOS 2000」自走榴弾砲と「スピアー」120mm迫撃砲の調達、そして中国の「BL904A」対砲探知レーダーの導入によって、タイは今後数年間にわたって地域における砲兵戦力の優位を確保できるでしょう。[3] [4] [5]

「DTI-1」を搭載する「6x6」型ボルボ製トラックには、小火器の射撃や砲弾の破片から乗員を保護する装甲キャビンが設けられている

 「DTI-1(WS-1B)」は1990年台初頭に登場した「WS-1」をベースに開発された302mm戦術ロケット砲システムです。各ロケット弾には4つの固定翼があり、150kgの弾頭を最大180km圏内の標的に投射することができます。「WS-1B」は中国人民解放軍地上軍(PLAGF)に対して最初の実演が行われたものの、彼らはこのシステムに関心を示すことはありませんでした。

 同システムが最初に成功したのは1996年のことでした。このとき、トルコがアメリカから「MGM-140 "ATACMS"」の生産ライセンスの売却を拒否された後に「WS-1B」を「TRG-300 "カシルガ"」としてライセンス生産する協定を締結したのです。

 ちなみに、「WS-1B」は2000年代により高性能な「WS-2」と共にスーダンにも輸出されました。

 その後、トルコの「ロケットサン」社はGPS/INS誘導を備えた「WS-1B(ブロックII及びブロックIII)」を開発しましたが、その代償として(ブロックIIIでは)射程距離と弾頭重量が犠牲となりました。[6]

 150kmの射程を誇るタイの「DTI-1G」には、中国の北斗衛星測位システムとリンクした誘導装置がインテグレートされており、これによって同システムは最大140kmの射程距離で40m未満の半数必中界(CEP)の実現が可能となっています。[8]

 「DTI-1G」の発射機には、アメリカの「MIM-104 "パトリオット" 」地対空ミサイルシステムのものに酷似した計4本の箱型キャニスターが縦横2列に搭載されています。これとは対照的に、「DTI-1」のロケット弾は蓋が備えられていない4本の巨大な発射管に格納されています。

 当初、タイは「DTI-1G」を6基(1個大隊分)と「DTI-1」を2基製造する予定だったものの、計画の遅延でDTIは結局は3基の「DTI-1G」を製造しただけであり、今は最終的にタイ陸軍が相当な数を導入することになるだろう新型モジュラー式発射機の開発完了を待っています。[8]

タイ独自の「DTI-1」移動式発射機 

提示されたタイの「DTI-1G」大隊の編成図

 「DTI-1」と「DTI-1G」の発射機は、どちらも市販のトラックに搭載されています。

 当初、「DTI-1」と専用の移動式再装填システムは非装甲のボルボ「6x6」型をベースにしていたものの、後に前者は小火器の射撃や砲弾の破片から乗員を守るためにキャビンが装甲化されました。

 「DTI-1G」用の車体は「8x8」大型トラックのイヴェコ製「トラッカー440」をベースにしたものですが、当初から装甲キャビンが設けられています。ただし、「DTI-1」と「DTI-1G」用の再装填車両はいずれも装甲キャビンが設けられていません。

 2022年、DTIは122mm無誘導ロケット弾と「DTI-1(G)」の両方の発射が可能な「タトラ815-7」をベースにした新たな「6x6」型移動式発射機を披露しました。[9]



 この国が最後に武器を取ったのは2008年の国境におけるカンボジアとの小規模な武力衝突であり、その後、この問題は国際司法裁判所を通じて解決されました。

 しかし、カンボジアとの間には未解決の国境紛争がいくらか残っており、両国が満足できる完全な国境の画定は未だに行われていません。再発する可能性は極めて低いものの、次にあるかもしれないカンボジアとの武力紛争は、新型ロケット砲が投入される可能性が最も高いシナリオです。

 カンボジア軍は大量の122mm多連装ロケット砲(MRL)を保有しているほか、近年には中国から「AR2」 300mm MRLを6基導入しました。[12]

 130km超の射程距離を誇る「AR2」はタイの「DTI-1」とほぼ同じ射程距離16発の300mmロケット弾を発射できる上に、はるかに重い弾頭を搭載しています(280kg vs 150kg)。こうした能力の向上は、新千年紀の軍事的な様相を変えたロケット砲の進歩を示す実例と言えるでしょう。

カンボジア軍の「AR2」300mm MRL

 タイはアメリカ製兵器の古くからの顧客であるにもかかわらず、防衛上の必要性から次第に中国へ目を向けるようになってきており、近年に導入された中国製兵器には、「VT4」戦車と「VN16」水陸両用戦車、「VN1」歩兵戦闘車、「S-26T」攻撃型潜水艦、「071E」級揚陸艦、そして「CY-9」及び「BZK005」MALE型U(C)AVが含まれています。

 中国との協力は、これまでタイに自国軍用の「DTI-1/1G」誘導式MRLを含む多くの高度な兵器システムを同時にライセンス生産することを可能にさせました。こうした契約は他国との間では実現不可能だったでしょう。

 中国の寛大さが、かつて抱かれていた東南アジアの"虎"になるというタイの野望の少なくとも一部を復活させ、その地位を維持するという、今度こそより現実的な見通しを可能にしたことは言うまでもありません。

「DTI-1(G)」及び122mmロケット弾の双方を発射可能な新型のモジュラー式移動発射機

[1] History of Royal Thai Submarines in World War Two http://www.combinedfleet.com/Royal%20Thai%20Submarines.htm
[2] Army of Thailand could purchase WS-1B and WS-32 MLRS rocket launcher systems from China https://www.armyrecognition.com/march_2014_global_defense_security_news_uk/army_of_thailand_could_purchase_ws-1b_and_ws-32_mlrs_rocket_launcher_systems_from_china_3103145.html
[3] Thailand inducts Chinese artillery radar https://www.shephardmedia.com/news/digital-battlespace/thailand-inducts-chinese-radar/
[4] Thailand Unveils New 155 mm Truck Mounted Howitzer https://defence-blog.com/thailand-unveils-new-155-mm-truck-mounted-howitzer/
[5] Royal Thai Army Producing Its Artillery https://www.asianmilitaryreview.com/2022/10/royal-thai-army-producing-its-artillery/
[6] TRG-300 GUIDED MISSILE https://www.roketsan.com.tr/uploads/docs/kataloglar/ENG/1628728014_trg-300.pdf
[7] WS-32 https://www.cndefense.com/tgaws/WS-32.html
[8] สทป. ดำเนินการทดสอบสมรรถนะและทดสอบทางยุทธวิธีต้นแบบรถฐานยิงจรวดหลายลำกล้องอเนกประสงค์ ณ สนามทดสอบ ศป. จ.ลพบุรี https://www.facebook.com/dtithailand/posts/pfbid022
[9] https://twitter.com/BuschModelar/status/1530870779977646083



おすすめの記事

2024年7月26日金曜日

トルコからの新しい風:バングラデシュ軍の「TRG-300」多連装ロケット砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2022年10月19日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 バングラデシュは1億6,800万人以上の人口を誇る世界で8番目に人口の多い国であることは見過ごされがちと言っても過言ではありません 。この国の軍隊は225,000人もの兵力を有しており、彼らは世界各地で平和維持活動にも頻繁に派遣されるものの、長射程の兵器や現代的な戦闘機が著しく不足しています。

 2009年に始動した軍の近代化・戦力向上事業「Forces Goal 2030」は、隣国のミャンマーがすでに軍事力の大幅な飛躍的発展を遂げつつあることから、こうした新しい戦力の導入を目指したものです。

 「Forces Goal 2030」の一環として、バングラデシュ陸軍は、「WS-22」122mm多連装ロケット砲49基、セルビア製「ノーラ"B-52"」152mm自走榴弾砲(SPG)36台、中国製「SLC-2」対砲レーダー、標的獲得用としてスロベニア製「C4EYE」戦術偵察UAV36機の購入を通じて砲兵戦力の火力向上に重点を置いています。

 2021年、バングラデシュはこれまでの中で最も強力な兵器システムである最大射程約120kmの「TRG-300 "カスルガ(別名:タイガー)"」MRLを受領しました。ちなみに、「WS-22」MRLの射程は約45kmです。

 合計で18基の「TRG-300」MRLは、ダッカ近郊のシャバール駐屯地を拠点とするバングラデシュ陸軍の第51MRLS連隊に配備されました。同連隊は「WS-22」122mm MRLも運用しており、こちらは40発の122mmロケット弾を発射可能な状態であるほかに、さらに40発の予備弾をトラックに搭載していることが特徴です。「WS-22」用122mmロケット弾は慣性誘導を採用しているため、半数必中界(CEP)が約30mと通常の「グラート」122mm MRLが使用するロケット弾より精度が高いものとなっています。

 (厳密な起源は中国にありますが)トルコの「TRG-300」は4発の300mmロケット弾を120km(105kg弾頭)または90km(190kg弾頭)先まで発射することが可能で、そのCEPは10m未満です。

 「TRG-300」は、この国がトルコから調達した初の軍用装備ではありません。現在、バングラデシュ陸軍は2000年代から2010年代にかけて導入した「オトカ」社の「コブラI」及び「コブラII」歩兵機動車(IMV)を運用しています(これらは数多くの平和維持活動に投入されてきました)。

 また、バングラデシュでは、救急搬送車としてルーマニア・トルコが共同開発した「RN-94」APCも9台を運用しています。[1]

 現時点で「STM」社の案がバングラデシュの将来フリゲート計画における最有力候補となっていることを考慮すると、バングラデシュへの武器や装備の供給元としてトルコのシェアは拡大する傾向にあるようです。

 実際、バングラデシュがトルコの「バイラクタルTB2」UCAVや「ヒサール-O」地対空ミサイルシステムにも関心を寄せていると云われていることが、その傾向を裏付けしています。[2] [3]

トルコのエミネ・エルドアン大統領夫人が「ロケットサン」社を訪問した際に「TRG-300」を視察した:後ろに「ボラ」弾道ミサイルシステムの試作型があることに注目

 バングラデシュは、「TRG-300」の搭載車両としてロシアの「カマズ-65224」6×6型トラックを採用しています。

 「TRG-300」の自走発射機はモジュール式であることから、ロケット弾ポッドや発射管を交換するだけで同じ発射機で122mmや230mmの(誘導式を含む)ロケット弾の発射に使用することも可能です。これによって、このシステムの運用に関する柔軟性が大幅に向上する効果がもたらされます。また、「TRLG-122/230」誘導式ロケット弾は、レーザー目標指示装置を搭載したUAVが指定した目標に命中させることが可能という利点も有しています。

 つまり、ドローンとの相乗効果が「TRG-300」によって既に与えられている能力を大幅に拡大してくれるだけではなく、このMRLは新たな自走発射機の調達を必要とせずにバングラデシュの戦力をさらに向上させる費用対効果の優れた兵器システムとなり得るのです。

 バングラデシュ以外の「TRG-300」運用国としては、トルコとアゼルバイジャン、そしてUAEが確認されています。アゼルバイジャンとUAEは武力紛争で同MRLを投入しており、前者は2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で「TRG-230」誘導式MRLと共にアルメニアの強固に防御された陣地や敵陣奥深くにいる標的に対して使用し、後者はサウジアラビア主導のイエメン介入時に展開させました。

 アゼルバイジャンの「TRG-300」は搭載車両としてバングラデシュと同じようにロシア製「カマズ-63502」8×8型トラックを採用しています。しかし、UAEは「TRG-300」を最大で16発も搭載できる巨大な「ジョバリア」MRLシステムにインテグレートするという、全く別の手法を選択したことは特筆に値するとしか言いようがありません。

国内に到着した直後に撮影されたバングラデシュ軍の「TRG-300」MRL

 「TRG-300」の導入は、バングラデシュが軍の長距離砲兵戦力を構築するための第一歩を踏み出したことを象徴しています。

「TRLG-122」や「TRLG-230」用の発射機を追加調達することなく使用可能にしている 「TRG-300」のモジュラー方式が自身を予算内で実現可能な範囲を多様化する最適な選択肢にさせていることを見過ごすわけにはいきません。

 軍事作戦中におけるUAVとの潜在的な相乗効果は、十分い機能する軍隊にとって最も重要である偵察能力を導入することができると同時に、低コストで誘導式MRLが持つ能力をさらに引き出すことができる可能性を秘めています。

 もし、2個目の「TRG-300」連隊(18基分)創設という不確かな噂が本当ならば、「Forces Goal 2030」達成に関するバングラデシュ軍の見通しは急速に良い方向へ向かってることになることは確かだと言えるでしょう。

バングラデシュが調達したのと同じ6x6型モジュラー式自走発射機に「TRLG-122(左)」と「TRLG-230(右)」ロケット弾ポッドが搭載されている

[1] APCs For Export: The Nurol Ejder 6x6 In Georgia https://www.oryxspioenkop.com/2021/04/the-nurol-ejder-6x6-turkeys-first.html
[2] Bangladesh to buy Turkey's Bayraktar TB2 combat drone https://www.middleeasteye.net/news/bayraktar-bangladesh-buy-drones
[3] Bangladeş'in Hisar-O+ ile ilgilendiği iddia edildi https://www.savunmatr.com/savunma-sanayii/banglades-in-hisar-o-ile-ilgilendigi-iddia-edildi-h15926.html

2023年12月10日日曜日

南シナ海に響く咆吼:インドネシアの「CH-4B」UCAV


著:シュタイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 インドネシア空軍は現在、自国領を守り、ますます自己顕示欲を強める中国に対抗するための質的な戦力の構築を目的とした再装備計画を推進しています。この計画には多目的戦闘機、空中給油機、新型攻撃ヘリコプターなどの導入も含まれていますが、インドネシア軍が無人戦闘航空機(UCAV)の導入・開発にも投資していることに注目すべきでしょう。

 UCAVについて、同国は今までに中国から6機の「CH-4B」を調達したことに加え、国産の「エラン・ヒタム(黒鷲)」の設計・開発プロジェクトも進めています。[1]

 UCAVの運用に対するインドネシアの関心が生じたのは2010年代半ばと考えられており、最終的に2017年に中国から4機の「翼竜Ⅰ」の発注に至らせました。[2]

 しかし、この契約はインドネシア企業が関与していないとの批判を受けた後の2018年初頭に突如としてキャンセルされ、2018年11月に調達事業を再スタートすることを余儀なくされたのです。

これを受けて、「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「PTDI(PT ディルガンタラ・インドネシア)」と提携して「アンカ-S」を提案しましたが、最終的に「中国航天科技集団(CASC)」の「CH-4B」が勝者に選ばれて6機が発注されました。この取引にオフセット契約やインドネシア企業への技術移転も含まれているのか、仮に含まれているとすればどの程度なのかは不明です(注:2023年8月、インドネシアは12機の「アンカ-S」を導入することを公表しました)。[3]

 最初の2機は実証飛行のために2019年8月にインドネシアに到着し、同年10月の国軍記念日に実施された軍事パレードで一般公開されました。[4] [5]

 「CH-4B」は2019年9月に東ジャワで行われた陸海空軍の合同軍事演習で運用デビューを果たし、その際に偵察ミッションをこなしたり、「AR-1」空対地ミサイルを地上の模擬標的に向けて発射しました。[6]

 この演習以降におけるUCAVの運用は、主に戦闘ドクトリンの確立とオペレーターの訓練に向けられていたようです。[7]

 2021年8月、「CH-4B」はインドネシア当局によって正式に軍用の耐空証明を取得しました。[7]


 インドネシアの「CH-4B」は、西カリマンタン州ポンティアナック近郊にあるスパディオ空軍基地に拠点を置く第51飛行隊に所属しています。

 同飛行隊は2013年に導入された4機のイスラエル製「エアロスター」UASも運用している無人機部隊です。[8]

 インドネシアの「CH-4B」には、1,500kmを超える距離での運用を可能にさせる衛星通信装置(SATCOM)が装備されています。約1,500kmの航続距離があるため、(SATCOMを使用した場合の)「CH-4B」は西カリマンタン州の基地からインドネシアを形成する群島の大部分をカバーすることができます。

 スパディオ基地は、南シナ海に位置するインドネシアのリアウ諸島から数百キロメートル離れた場所にあります。現在、リアウ諸島の周辺地域はインドネシアと南シナ海にある他国の島の(一方的な)領有も主張している中国との間で領有権をめぐる論争が繰り広げられています。


 2021年8月には、胴体下部に詳細不明のセンサーポッドを搭載した1機の「CH-4B」が目撃されました。[9]

 このポッドの正確な用途はまだ不明ですが、現時点では通信中継ポッドまたは通信情報収集(COMINT)ポッドのいずれかと考えられています。

 この目撃時には、機体に「03」というシリアルナンバーが追加されていることや、大きな「TNI AUインドネシア国軍-空軍)」の文字が消されて非常に小さなマークに置き換えられていることも明らかとなりました(注:空軍の表記は胴体側面の後部に移動しており、文字も小さくなっています)。

 尾翼のインドネシア国旗はカラーのままですが、インドネシア空軍のラウンデル(国籍マーク)はより小型の低視認性タイプに変更されました。しかし、翼の下面に施されたラウンデルは従来のサイズを維持しているようです。


 さまざまなセンサーポッドや専用の電子情報収集(ELINT)またはCOMINTポッドを搭載することに加えて、インドネシアの「CH-4B」は主翼下に設けられた4基のハードポイントに数種類の兵装を装備することが可能です。

 これまでのところ、TNI-AUが「CH-4B」用に中国製「AR-1」及び「AR-2」空対地ミサイルを調達したことが確認されています。[10]

 これらのミサイルの射程距離は最大で8kmであり、「AR-1」は10kg弾頭を、「AR-2」は5kg弾頭を備えています。[11] [12]  

 「AR-1」は「CH-4B」の標準的な兵装であり、このUCAVを運用する全ての国が導入しています。「AR-2」は「AR-1」の軽量版であり、2連装または4連装発射機に装備できます。「CH-4B」の場合はハードポイントが4基あることを踏まえると、最大で16発の「AR-2」を搭載可能ということになります。

「CH-5」UCAVに搭載された「AR-1」(右)と「AR-2」(左)空対地ミサイル

 「CH-4B」の運用で得られた経験は、いつの日か、インドネシアに領域主権全体を防護・哨戒するための十分な力をもたらす、より大規模なUCAV飛行隊の導入に至らせるかもしれません。

 インドネシアでは現在、国産の中高度・長時間滞空(MALE)型UCAVプロジェクトを進めているほか、トルコ製UAVの導入にも関心を示していることから、この飛行隊がより多くの中国製ドローンで構成されることになるかどうかは定かではありません(注:2022年9月、国産の「エラン・ヒタム」UCAV計画はUCAVという軍事用途から地上監視・気象観測・マッピング・森林火災との監視といった非軍事的用途に用いる計画に変更された旨のコメントがなされました。つまり、インドネシアの実用的な国産UCAV計画は事実上頓挫してしまったようです)。[13]

 しかし、新型のUCAVは有人機が有する戦闘効力をますます再現することができるため、UCAVが将来のインドネシア軍で重要な役割を果たすことだけは確実でしょう。

国産の「エラン・ヒタム」UCAV

[1] An Eagle Takes Shape – Indonesia’s Elang Hitam MALE UCAV https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/an-eagle-takes-shape-indonesias-elang.html
[2] Indonesia acquires four Wing Loong I UAVs from China http://www.janes.com/article/78147/indonesia-acquires-four-wing-loong-i-uavs-from-china
[3] Turkish Aerospace Industries Offering Anka UAV to Indonesia http://aviationweek.com/awindefense/turkish-aerospace-offering-anka-uav-indonesia
[4] https://twitter.com/towersight/status/1171500495917088773
[5] Upacara Peringatan Ke-74 Hari Tentara Nasional Indonesia Tahun 2019 https://youtu.be/egYMHb8sDCk
[6] Indonesia tests CH-4B Cai Hong UCAV in latest combined military exercises https://www.asiapacificdefensejournal.com/2019/09/indonesia-tests-ch-4b-cai-hong-ucav-in.html
[7] Indonesian Air Force's fleet of CH-4 UAVs granted airworthiness approval https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesian-air-forces-fleet-of-ch-4-uavs-granted-airworthiness-approval
[8] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[9] https://twitter.com/RupprechtDeino/status/1432933641483608065
[10] Indonesian Air Force Receives First Batch of AR-2 Missiles for Its CH-4 UCAVs https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesia-receives-first-batch-of-chinese-made-ar-2-missiles-for-its-ch-4-uavs
[11] AR-1 https://www.globalsecurity.org/military/world/china/ar-1.htm
[12] AR-2 https://www.globalsecurity.org/military/world/china/ar-2.htm
[13] Endonezya Ankara Büyükelçisi Dr. Lalu Muhammad Iqbal: Türkiye ile Endonezya arasındaki savunma iş birliği artacak https://www.savunmatr.com/ozel-haber/endonezya-ankara-buyukelcisi-dr-lalu-muhammad-iqbal-turkiye-ile-h15336.html

※  この翻訳元の記事は、2022年1月14日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を 
  翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所      があります。



おすすめの記事

2023年11月23日木曜日

新たなる抑止力: パキスタンの「ファター」多連装ロケット砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事は、2021年9月8日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもので す。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 2021年8月24日、パキスタンは新たに開発された「ファター1」誘導式多連装ロケット砲(MRL)の発射実験に成功しました。[1]

 今回の試射(映像)は、2021年1月に実施された弾体の飛行試験の成功に続くものですが、現実的な状況下でその機能と精度を証明した今回の射撃は、このシステムが量産されてパキスタン軍に仲間入りする前の最終テストだったのかもしれません。

 「ファター1」はこの種の兵器では初めてパキスタン軍に採用されたものであり、同軍の精密打撃能力を大幅に向上させるでしょう。これはパキスタン軍自身によっても再確認されており、「この兵器システムは、パキスタン陸軍に敵領土の奥深くにある目標との正確な交戦能力を与えるだろう」と言及されています。[2]

 「ファター1」は140kmの射程距離で約30~50mのCEP(半数必中界)と推測されているため、誘導方式には慣性誘導とGPS誘導を採用している可能性があります。

 パキスタンと中国の緊密な軍事関係を考慮すると、このMRLの設計が中国由来と考えるのも無理はありません。それにもかかわらず、ロケット弾用のキャニスターと140kmという射程距離は現時点で市場に存在しているか開発中である既知の中国製システムとは一致していないことから、「ファター-1」はパキスタンの技術者によって(おそらく中国の協力を得て)開発された、「A-100」無誘導ロケット砲の発展型である可能性が十分に考えられます。

 パキスタンは通常または核弾頭を搭載できる弾道ミサイルや巡航ミサイルを数多く開発・導入してきましたが、「ファター1」の開発は同国陸軍の通常戦力を強化するための理にかなった次の措置と言えます。敵の部隊や基地に集中砲火を浴びせるための無誘導型MRLシステムが大量に運用されている一方で、指揮所や要塞化された陣地のようなより小さな標的を狙うには、まったく異なるアプローチが必要となるからです。

 「ファター1」の140kmという射程距離は、世界中で運用されている(大抵は最低でも200km以上の射程距離がある)同世代のMRLシステムをはるかに下回っていますが、それでもインドの誘導型MRLシステムの射程距離をはるかに上回っています。

 インド陸軍が現在運用している「ピナカ」MRLは、最大で75kmの射程距離を持つ誘導ロケット弾を発射する能力があります。このMRLでは最大射程距離が95km以上に達する発展型が開発中とも言われていますが、それでも「ファター1」の射程距離には全く及びません。[3][4]

 一旦就役すれば、「ファター1」はパキスタン陸軍の作戦上の柔軟性を高めることに貢献するでしょう。同国陸軍では大量の大口径の無誘導型MRLと短距離弾道ミサイル(SRBM)が運用されていますが、「ファター1」は能力的に両システムの中間に位置しています。

 これまでパキスタン軍は長距離に位置する小さな標的を攻撃するために無誘導ロケット弾の一斉射撃や巡航ミサイル、そして弾道ミサイルに完全に依存していました。しかし、この方法では得られる効果が少なく、同時に非経済的であることを想像するのは難しいことではないでしょう。

パキスタンの「A-100」MRL。「ファター1」には誘導装置が組み込まれているため、無誘導のMRLシステムよりもはるかに高い命中精度をもたらします。

「ハトフ-2(アブダリ)」のような戦術兵器システム・短距離弾道ミサイルは「ファター1」に比べて弾頭重量が大きいものの、命中精度が低いのが特徴です。この2つのシステムがパキスタン陸軍に存在することで、作戦上の柔軟性が大幅に向上します。

 将来的に開発が見込まれるものとしては、「ファター」のロケット弾をU(C)AVが照準した標的に命中させることできる精密誘導弾に変えるためのレーザー誘導キットを導入することが考えられます。この種のキットはすでにトルコとアゼルバイジャンの「TRG-230」MRLに導入されており、UAVとMRLの両方の能力を大幅に向上させています。

 まさにこの種の(UAVによる)偵察と精密誘導弾の相乗効果がナゴルノ・カラバフ戦争でゲームチェンジャーとなったことを証明しており、アゼルバイジャン軍はアルメニアの標的に何が直撃するのか気づかれることなく攻撃することができたのです。


 「ファター1」の導入は、パキスタンの従来型ロケット砲部隊の一部がすぐにインドの全MRLを高精度でアウトレンジできるようになることを意味します。このことは、この地域における通常戦力のバランスをすでにパキスタンの有利になるように著しく覆していますが、パキスタンは「ファター」シリーズの開発の継続を通じてその射程距離を伸ばすことでその地位をさらに固めることができるでしょう。

 実際、パキスタンでは少なくとも200km以上の射程距離を備えている可能性がある、新システムの開発がすでに本格化している兆候がいくつか存在しているようです。

 編訳者注:2023年7月下旬にイスタンブールで開催された武器展示会「IDEX2023」で、出展したメーカーのGIDS社が「ファター1」と「ファター2」を展示しました。前者については上述のスペックどおりですが、後者については詳細不明です。[5]


特別協力: ファルーク・バヒー(敬称略)

[1] https://twitter.com/OfficialDGISPR/status/1430132439859580929
[2] Pakistan conducts successful test of 'indigenously developed' Fatah-1 guided MLRS: ISPR https://www.dawn.com/news/1642376
[3] No request for the development of Extended range Pinaka MRLs https://idrw.org/no-request-for-the-development-of-extended-range-pinaka-mrls-sources/
[4] India tests enhanced version of rocket used by Pinaka MRL
[5]IDEF 2023: GIDS Pakistan Presents Various Equipment Including FATAH Guided Multi Launch Rocket System