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2023年12月10日日曜日

南シナ海に響く咆吼:インドネシアの「CH-4B」UCAV


著:シュタイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 インドネシア空軍は現在、自国領を守り、ますます自己顕示欲を強める中国に対抗するための質的な戦力の構築を目的とした再装備計画を推進しています。この計画には多目的戦闘機、空中給油機、新型攻撃ヘリコプターなどの導入も含まれていますが、インドネシア軍が無人戦闘航空機(UCAV)の導入・開発にも投資していることに注目すべきでしょう。

 UCAVについて、同国は今までに中国から6機の「CH-4B」を調達したことに加え、国産の「エラン・ヒタム(黒鷲)」の設計・開発プロジェクトも進めています。[1]

 UCAVの運用に対するインドネシアの関心が生じたのは2010年代半ばと考えられており、最終的に2017年に中国から4機の「翼竜Ⅰ」の発注に至らせました。[2]

 しかし、この契約はインドネシア企業が関与していないとの批判を受けた後の2018年初頭に突如としてキャンセルされ、2018年11月に調達事業を再スタートすることを余儀なくされたのです。

これを受けて、「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「PTDI(PT ディルガンタラ・インドネシア)」と提携して「アンカ-S」を提案しましたが、最終的に「中国航天科技集団(CASC)」の「CH-4B」が勝者に選ばれて6機が発注されました。この取引にオフセット契約やインドネシア企業への技術移転も含まれているのか、仮に含まれているとすればどの程度なのかは不明です(注:2023年8月、インドネシアは12機の「アンカ-S」を導入することを公表しました)。[3]

 最初の2機は実証飛行のために2019年8月にインドネシアに到着し、同年10月の国軍記念日に実施された軍事パレードで一般公開されました。[4] [5]

 「CH-4B」は2019年9月に東ジャワで行われた陸海空軍の合同軍事演習で運用デビューを果たし、その際に偵察ミッションをこなしたり、「AR-1」空対地ミサイルを地上の模擬標的に向けて発射しました。[6]

 この演習以降におけるUCAVの運用は、主に戦闘ドクトリンの確立とオペレーターの訓練に向けられていたようです。[7]

 2021年8月、「CH-4B」はインドネシア当局によって正式に軍用の耐空証明を取得しました。[7]


 インドネシアの「CH-4B」は、西カリマンタン州ポンティアナック近郊にあるスパディオ空軍基地に拠点を置く第51飛行隊に所属しています。

 同飛行隊は2013年に導入された4機のイスラエル製「エアロスター」UASも運用している無人機部隊です。[8]

 インドネシアの「CH-4B」には、1,500kmを超える距離での運用を可能にさせる衛星通信装置(SATCOM)が装備されています。約1,500kmの航続距離があるため、(SATCOMを使用した場合の)「CH-4B」は西カリマンタン州の基地からインドネシアを形成する群島の大部分をカバーすることができます。

 スパディオ基地は、南シナ海に位置するインドネシアのリアウ諸島から数百キロメートル離れた場所にあります。現在、リアウ諸島の周辺地域はインドネシアと南シナ海にある他国の島の(一方的な)領有も主張している中国との間で領有権をめぐる論争が繰り広げられています。


 2021年8月には、胴体下部に詳細不明のセンサーポッドを搭載した1機の「CH-4B」が目撃されました。[9]

 このポッドの正確な用途はまだ不明ですが、現時点では通信中継ポッドまたは通信情報収集(COMINT)ポッドのいずれかと考えられています。

 この目撃時には、機体に「03」というシリアルナンバーが追加されていることや、大きな「TNI AUインドネシア国軍-空軍)」の文字が消されて非常に小さなマークに置き換えられていることも明らかとなりました(注:空軍の表記は胴体側面の後部に移動しており、文字も小さくなっています)。

 尾翼のインドネシア国旗はカラーのままですが、インドネシア空軍のラウンデル(国籍マーク)はより小型の低視認性タイプに変更されました。しかし、翼の下面に施されたラウンデルは従来のサイズを維持しているようです。


 さまざまなセンサーポッドや専用の電子情報収集(ELINT)またはCOMINTポッドを搭載することに加えて、インドネシアの「CH-4B」は主翼下に設けられた4基のハードポイントに数種類の兵装を装備することが可能です。

 これまでのところ、TNI-AUが「CH-4B」用に中国製「AR-1」及び「AR-2」空対地ミサイルを調達したことが確認されています。[10]

 これらのミサイルの射程距離は最大で8kmであり、「AR-1」は10kg弾頭を、「AR-2」は5kg弾頭を備えています。[11] [12]  

 「AR-1」は「CH-4B」の標準的な兵装であり、このUCAVを運用する全ての国が導入しています。「AR-2」は「AR-1」の軽量版であり、2連装または4連装発射機に装備できます。「CH-4B」の場合はハードポイントが4基あることを踏まえると、最大で16発の「AR-2」を搭載可能ということになります。

「CH-5」UCAVに搭載された「AR-1」(右)と「AR-2」(左)空対地ミサイル

 「CH-4B」の運用で得られた経験は、いつの日か、インドネシアに領域主権全体を防護・哨戒するための十分な力をもたらす、より大規模なUCAV飛行隊の導入に至らせるかもしれません。

 インドネシアでは現在、国産の中高度・長時間滞空(MALE)型UCAVプロジェクトを進めているほか、トルコ製UAVの導入にも関心を示していることから、この飛行隊がより多くの中国製ドローンで構成されることになるかどうかは定かではありません(注:2022年9月、国産の「エラン・ヒタム」UCAV計画はUCAVという軍事用途から地上監視・気象観測・マッピング・森林火災との監視といった非軍事的用途に用いる計画に変更された旨のコメントがなされました。つまり、インドネシアの実用的な国産UCAV計画は事実上頓挫してしまったようです)。[13]

 しかし、新型のUCAVは有人機が有する戦闘効力をますます再現することができるため、UCAVが将来のインドネシア軍で重要な役割を果たすことだけは確実でしょう。

国産の「エラン・ヒタム」UCAV

[1] An Eagle Takes Shape – Indonesia’s Elang Hitam MALE UCAV https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/an-eagle-takes-shape-indonesias-elang.html
[2] Indonesia acquires four Wing Loong I UAVs from China http://www.janes.com/article/78147/indonesia-acquires-four-wing-loong-i-uavs-from-china
[3] Turkish Aerospace Industries Offering Anka UAV to Indonesia http://aviationweek.com/awindefense/turkish-aerospace-offering-anka-uav-indonesia
[4] https://twitter.com/towersight/status/1171500495917088773
[5] Upacara Peringatan Ke-74 Hari Tentara Nasional Indonesia Tahun 2019 https://youtu.be/egYMHb8sDCk
[6] Indonesia tests CH-4B Cai Hong UCAV in latest combined military exercises https://www.asiapacificdefensejournal.com/2019/09/indonesia-tests-ch-4b-cai-hong-ucav-in.html
[7] Indonesian Air Force's fleet of CH-4 UAVs granted airworthiness approval https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesian-air-forces-fleet-of-ch-4-uavs-granted-airworthiness-approval
[8] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[9] https://twitter.com/RupprechtDeino/status/1432933641483608065
[10] Indonesian Air Force Receives First Batch of AR-2 Missiles for Its CH-4 UCAVs https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indonesia-receives-first-batch-of-chinese-made-ar-2-missiles-for-its-ch-4-uavs
[11] AR-1 https://www.globalsecurity.org/military/world/china/ar-1.htm
[12] AR-2 https://www.globalsecurity.org/military/world/china/ar-2.htm
[13] Endonezya Ankara Büyükelçisi Dr. Lalu Muhammad Iqbal: Türkiye ile Endonezya arasındaki savunma iş birliği artacak https://www.savunmatr.com/ozel-haber/endonezya-ankara-buyukelcisi-dr-lalu-muhammad-iqbal-turkiye-ile-h15336.html

※  この翻訳元の記事は、2022年1月14日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を 
  翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所      があります。



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2023年11月23日木曜日

新たなる抑止力: パキスタンの「ファター」多連装ロケット砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

2021年8月24日、パキスタンは新たに開発された「ファター-1」誘導式多連装ロケット砲(MRL)の発射実験に成功しました。[1]

 今回の試射(映像)は、2021年1月に実施された弾体の飛行試験の成功に続くものですが、現実的な状況下でその機能と精度を証明した今回の射撃は、このシステムが量産されてパキスタン軍に仲間入りする前の最終テストだったのかもしれません。

 「ファター-1」はこの種の兵器では初めてパキスタン軍に採用されたものであり、同軍の精密打撃能力を大幅に向上させるでしょう。これはパキスタン軍自身によっても再確認されており、「この兵器システムは、パキスタン陸軍に敵領土の奥深くにある目標との正確な交戦能力を与えるだろう」と言及されています。[2]

 「ファター-1」は140kmの射程距離で約30~50mのCEP(半数必中界)と推測されているため、誘導方式には慣性誘導とGPS誘導を採用している可能性があります。

 パキスタンと中国の緊密な軍事関係を考慮すると、このMRLの設計が中国由来と考えるのも無理はありません。それにもかかわらず、ロケット弾用のキャニスターと140kmという射程距離は現時点で市場に存在しているか開発中である既知の中国製システムとは一致していないことから、「ファター-1」はパキスタンの技術者によって(おそらく中国の協力を得て)開発された、「A-100」無誘導ロケット砲の発展型である可能性が十分に考えられます。

 パキスタンは通常または核弾頭を搭載できる弾道ミサイルや巡航ミサイルを数多く開発・導入してきましたが、「ファター-1」の開発は同国陸軍の通常戦力を強化するための理にかなった次の措置と言えます。敵の部隊や基地に集中砲火を浴びせるための無誘導型MRLシステムが大量に運用されている一方で、指揮所や要塞化された陣地のようなより小さな標的を狙うには、まったく異なるアプローチが必要となるからです。

 「ファター-1」の140kmという射程距離は、世界中で運用されている(大抵は最低でも200km以上の射程距離がある)同世代のMRLシステムをはるかに下回っていますが、それでもインドの誘導型MRLシステムの射程距離をはるかに上回っています。

 インド陸軍が現在運用している「ピナカ」MRLは、最大で75kmの射程距離を持つ誘導ロケット弾を発射する能力があります。このMRLでは最大射程距離が95km以上に達する発展型が開発中とも言われていますが、それでも「ファター-1」の射程距離には全く及びません。[3][4]

 一旦就役すれば、「ファター-1」はパキスタン陸軍の作戦上の柔軟性を高めることに貢献するでしょう。同国陸軍では大量の大口径の無誘導型MRLと短距離弾道ミサイル(SRBM)が運用されていますが、「ファター-1」は能力的に両システムの中間に位置しています。

 これまでパキスタン軍は長距離に位置する小さな標的を攻撃するために無誘導ロケット弾の一斉射撃や巡航ミサイル、そして弾道ミサイルに完全に依存していました。しかし、この方法では得られる効果が少なく、同時に非経済的であることを想像するのは難しいことではないでしょう。

パキスタンの「A-100」MRL。「ファター-1」には誘導装置が組み込まれているため、無誘導のMRLシステムよりもはるかに高い命中精度をもたらします。

「ハトフ-2(アブダリ)」のような戦術兵器システム・短距離弾道ミサイルは「ファター-1」に比べて弾頭重量が大きいものの、命中精度が低いのが特徴です。この2つのシステムがパキスタン陸軍に存在することで、作戦上の柔軟性が大幅に向上します。

 将来的に開発が見込まれるものとしては、「ファター」のロケット弾をU(C)AVが照準した標的に命中させることできる精密誘導弾に変えるためのレーザー誘導キットを導入することが考えられます。この種のキットはすでにトルコとアゼルバイジャンの「TRG-230」MRLに導入されており、UAVとMRLの両方の能力を大幅に向上させています。

 まさにこの種の(UAVによる)偵察と精密誘導弾の相乗効果がナゴルノ・カラバフ戦争でゲームチェンジャーとなったことを証明しており、アゼルバイジャン軍はアルメニアの標的に何が直撃するのか気づかれることなく攻撃することができたのです。


 「ファター-1」の導入は、パキスタンの従来型ロケット砲部隊の一部がすぐにインドの全MRLを高精度でアウトレンジできるようになることを意味します。このことは、この地域における通常戦力のバランスをすでにパキスタンの有利になるように著しく覆していますが、パキスタンは「ファター」シリーズの開発の継続を通じてその射程距離を伸ばすことでその地位をさらに固めることができるでしょう。

 実際、パキスタンでは少なくとも200km以上の射程距離を備えている可能性がある、新システムの開発がすでに本格化している兆候がいくつか存在しているようです。

 編訳者注:2023年7月下旬にイスタンブールで開催された武器展示会「IDEX2023」で、出展したメーカーのGIDS社が「ファター-1」と「ファター-2」を展示しました。前者については上述のスペックどおりですが、後者については詳細不明です。[5]


特別協力: ファルーク・バヒー氏

[1] https://twitter.com/OfficialDGISPR/status/1430132439859580929
[2] Pakistan conducts successful test of 'indigenously developed' Fatah-1 guided MLRS: ISPR https://www.dawn.com/news/1642376
[3] No request for the development of Extended range Pinaka MRLs https://idrw.org/no-request-for-the-development-of-extended-range-pinaka-mrls-sources/
[4] India tests enhanced version of rocket used by Pinaka MRL
[5]IDEF 2023: GIDS Pakistan Presents Various Equipment Including FATAH Guided Multi Launch Rocket System
https://www.armyrecognition.com/defense_news_august_2023_global_security_army_industry/idef_2023_gids_pakistan_presents_various_equipment_including_fatah_guided_multi_launch_rocket_system.html

※  当記事は、2021年9月8日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ 
    ります。



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2023年11月19日日曜日

目覚めつつある野心:マレーシアのドローン計画(保有機一覧)



著:シュタテイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo

 マレーシア政府は自国を東南アジアにおけるドローンの実験場に変えようとしており、すでに国際的な企業が配達やその他の独特なサービスを提供するための無人航空機(UAV)の設計と製造で競争を繰り広げています。[1]

 このような無人機に対する野心を考えると、2000年代初頭からいくつかの軍用レベルのドローンを考案してきた国産ドローン産業が存在するにもかかわらず、マレーシア政府が国軍向けのUAVの導入に全く投資していないことは非常に驚くべきことかもしません。

 国産軍用ドローンでは、最終的には2008年に「アルドラMk.1」の1機種のみがマレーシア軍への就役に至りました。このUAVは2009年に3機がタイへ輸出されたと報じられたにもかかわらず、マレーシア製UAVが海外での商業的成功を収めていることは知られていません。[2]

 この10年の間に「アルドラMk.1」が退役した後、現在のマレーシアはアメリカから寄贈された多数の「ボーイング・インシツ」社の「スキャンイーグル2」、スペインの「フルマーX」、そして僅かな数の市販の中国製VTOL型ドローンを運用してますが、東南アジアの平均よりも貧弱なレベルにとどまっています。[3]

 マレーシア軍で実際に運用されているのは「スキャンイーグル2」のみであり、「フルマーX」はマレーシア海上法令執行庁(沿岸警備隊)、中国製VTOL型ドローンは警察の航空隊で用いられています。このUAVの寄せ集めは、マレーシアが無人航空機の設計・製造で東南アジアの巨人となる極めてまれな好機にあった2000年代に想定されていた保有機の一覧とは全く異なった有様と言っても過言ではありません。
 
 2001年、「コンポジッツ・テクノロジー・リサーチ・マレーシア(CTRM)」社はオーストラリアの軽飛行機「イーグル150B」をベースにした「イーグルARV」有人・無人可変操縦機を発表しました。(このプロジェクトはイギリスの「BAEシステムズ」社と共同で立ちあげられました。)[4]

 航空監視と環境モニタリング用として、マレーシアが3機のドローンと地上管制ステーション1基で構成される1システムを購入したという報道もありますが、結局のところ「イーグルARV」は顧客を獲得することができなかったようです。

 UAVに対するマレーシア軍の関心の欠如は、それ以降にマレーシアで生み出されるほぼ全てのUAVの開発を妨げることになってしまいました。

王立マレーシア空軍の「F/A-18D 'ホーネット'」と並ぶ「イーグルARV」。胴体下部のFLIRターレットに注目。

 それに続く数年間でさらに数種類のマレーシア国産のUAVが日の目を見ることになりましたが、UAVの運用にほとんど価値を認めていなかった当時の政府や軍に直面した結果、いずれも国内での受注を得るには至りませんでした。

 実際、2009年にマレーシアの「サプラ・セキュアード・テクノロジー」社は、UAVの組み立てをマレーシアではなくオーストラリアで行うことを申し入れていました。国内での生産ラインの設置についてはマレーシア政府が実際にUAVの発注を開始した場合にのみ実行可能ということでしたが、それも実現することなく頓挫しました。[2]
 
 結果として「CTRM」社の「アルドラMk.1」はマレーシア軍が導入した唯一の国産ドローンとなってしまいましたが、限られた数の機体が実際に調達されたのか、それともメーカーからのリース品だったのかは不明のままです。

 「アルドラMk.1」はリースした「スキャンイーグル」とともに、2013年にボルネオ島サバ州における対テロ作戦で運用されたことが初めて確認されました。[5] 

 このUAV用に合成開口レーダー(SAR)も開発されましたが、マレーシアでの本格的な運用までには至らなかったようです。[6]
 
 この10年の変わり目の頃に「アルドラMk.1」が退役した後、王立マレーシア空軍(RMAF)は2020年5月に新たな戦術無人航空システム(TUAS)の入札を公示しました。現在、マレーシアの企業はこの入札に2種類のドローンを売り込んでいます。これらは、「CRTM」社(現「デフテック・アンマンドシステムズ」社)の「アルドラ・カマル」と、イタリアの「レオナルド」社と共同で開発した「デフテック・ワンサ」です。

 その一方で、王立マレーシア海軍(RMN) は2020年5月にアメリカから12機の「スキャンイーグル2」を寄贈されています。 [7] [8]

「デフテック・ワンサ」※機首の一部が取り外されている

 その10年前の2009年には、アラブ首長国連邦(UAE)の「アドコム・システムズ」社との共同で、マレーシアがこの地域で中高度・長時間耐久型(MALE)無人機を国内生産する最初の国になると公表されました。生産されることになったMALE型UAVは「ヤブホン-R」であり、現在は「ヤブホン-アルドラ」と呼称されています。

 約30時間の滞空時間を誇ることで、「ヤブホン-アルドラ」は自身をRMAFが今後必要とするMALE型UAVの最適な候補機として位置付けました。[9] 

 しかし、マレーシア軍からの具体的な関心が示されなかったことから、この有望な共同プロジェクトも実現することはありませんでした。



 2021年の時点で、マレーシアが必要とするMALE型UAVの要件に見合うシステムは依然として登場していません。 [10]

  最近、「デフテック」社は「トルコ航空宇宙産業(TAI)」と提携して「アンカー-S」をRMAFのUAV計画に売り込みをかけています。 [10] [11]

 伝えられるところによると、ほかにはアメリカの「MQ-9 "リーパー"」、ロシアの「オリオン-E」、中国の「翼竜II」「CH-4B」、フランスの「パトローラー-S」、イギリスの「ウォッチキーパーWK450」、イタリアの「ファルコ」も検討されているとのことです。[12] 

 「アンカ-S」の売り込みについては、長きにわたってRMAFの要求を満たす有望なシステムと考えられていたこともありますが、近年における「バイラクタルTB2」の台頭が入札への参加を確実にさせたのかもしれません。いかなるトルコ製の機種が選ばれたとしても結果的にマレーシアへ武装UAVをもたらすことになりますが、興味深いことに、武装はマレーシアのMALE型UAVの要件には含まれていないようです(編訳者注:2023年5月、マレーシア政府は「アンカ-S」3機を調達することを公表しました)。

デフテック社のUAVラインナップ(マルチローター型及びVTOL型UAVは商用の中国製)

 マレーシアによる今後のMALE型UAVシステムの導入は、そのような戦力を欲する同国軍の長年にわたるニーズがようやく満たされることを意味します。この国は近隣諸国の大部分がすでに数十年にわたって有している戦力を獲得する方向にゆっくりと歩みつつあるのです。

 将来的には、マレーシアは(「RQ-11 "レイヴン"」といった)小型戦術UAVの不足の対処にも取り組む可能性があります。これらのシステムを国内産業から調達するか海外から調達するかは不明ですが、(おそらく海外のUAVメーカーと共同という形になるでしょうが)マレーシアがようやく自国の技術基盤を活用するとなれば、大きな偉業が成し遂げられることは間違いないでしょう。


無人偵察機 - 運用中


VTOL型無人偵察機 - 運用中


無人標的機 - 運用中


無人戦闘航空
機 - 運用予定


国産固定翼型UAV (試作)


国産VTOL型UAV (試作)


無人偵察機 - 退役済み

マレーシア軍の「スキャンイーグル2」

[1] Malaysia moves to become a drone hub for Southeast Asia https://asia.nikkei.com/Economy/Malaysia-moves-to-become-a-drone-hub-for-Southeast-Asia
[2] Malaysia Delivery Three UAV to Thailand http://defense-studies.blogspot.com/2009/06/malaysia-delivery-three-uav-to-thailand.html
[3] Covid-19: Malaysia enlists UASs to enforce countermeasures https://www.janes.com/defence-news/news-detail/covid-19-malaysia-enlists-uass-to-enforce-countermeasures
[4] Group of Companies Unmanned Systems Technology Sdn Bhd (The UAS) https://www.ctrm.com.my/acomp4_a.php
[5] CAP55: RMAF Looking For Tactical UAS http://worldwardefence.blogspot.com/2020/06/cap55-rmaf-looking-for-tactical-uas.html
[6] A new unmanned aerial vehicle synthetic aperture radar for environmental monitoring https://www.researchgate.net/publication/273269922_A_new_unmanned_aerial_vehicle_synthetic_aperture_radar_for_environmental_monitoring
[7] Malaysia Confirms US Aid Package in Shape of Aerial Drones https://www.benarnews.org/english/news/malaysian/malaysia-china-06072019180647.html
[8] Royal Malaysian Navy took delivery of six ScanEagle UAV https://www.navalnews.com/naval-news/2020/05/royal-malaysian-navy-took-delivery-of-six-scaneagle-uav/
[9] Malaysian Firms Manufacture Flighty MALE http://www.satnews.com/story.php?number=406237562
[10] Turkish defense firm's UAV exports to Malaysia discussed at trade fair https://www.dailysabah.com/defense/2018/04/18/turkish-defense-firms-uav-exports-to-malaysia-discussed-at-trade-fair
[11] TUSAŞ Visits Malaysia to Promote ANKA UAV https://www.turdef.com/Article/tusas-visits-malaysia-to-promote-anka-uav/716 [12] More Details on LCA and UAV RFI https://www.malaysiandefence.com/more-details-on-lca-and-uav-rfi/
[13] ANKA'nın yeni adresi Malezya 
https://x.com/TUSAS_TR/status/1661703805203890176?s=20

※  この記事は2022年2月22日にOryx本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもので
 す。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があり
 ます。