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2021年11月9日火曜日

民兵のUCAV:イラクにおける「モハジェル-6」無人攻撃機



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 今世紀に入ってから無人戦闘航空機(UCAV)の拡散が加速しており、多くの国がすでに武装したドローンを保有しているか、あるいは現時点で導入しようとしています。

 しかし、まして一般的ではないのは、非国家主体によるUCAVの導入です。興味深いことに、これはまさにイラクで起こりました。同国の人民動員隊(PMU)がイランからいくつかの「モハジェル-6」UCAVを入手することに成功したのです。イラクでの「モハジェル-6」の公開は、(8月上旬に私たちOryxが最初に報じた)エチオピアへ同機種が引き渡される数ヶ月前のことでした。

 現在、イラク政府が自身で運用できるUCAVを持っていないことを考えると、PMUによる「モハジェル-6」の導入は極めて異例のことです。

 イラクは2015年に中国から約20機の「CH-4B」を購入しましたが、そのうち8機は僅か数年の間に墜落し、残りの12機はスペアパーツと中国航空工業集団 (AVIC)によるアフターサポートが明らかに不足しているおかげで、現在は格納庫で放置されています。[1] [2]

 明らかに、イラクの軍隊は非国家主体が武装無人機の戦力で自身を追い越すためのハードルを低く設定しました。 世界で最も強力な民兵組織のホスト国であることから、PMUへのUCAVの供給はイラク政府の不満ながらの承諾を得て行われた可能性があります(注:PMUは隣国イランの大きな影響を受けているシーア派の武装組織であり、イラク国内でも主要な存在となっているため、PMU関連の要求についてイラク政府が横に首を振りにくいという背景があります)。

 そうしている間に、PMUは、戦車、大砲、無人機や携帯式地対空ミサイル(MANPADS)を装備した通常型の軍隊に成長しました。これらの兵器システムの大部分はイランから供給されたものであり、これはPMUがいくつかの分野の戦力でイラク軍を追い越すことを可能にしました。

 PMUに就役した「モハジェル-6」の存在は、2021年6月26日のPMU設立7周年を記念して行われた閲兵式で初めて明らかにされました。当初は歩兵部隊として設立されたものの、PMUは今や数種類のUAVを引き渡されている組織となりました。

 興味深いことに、おそらく望まぬ国際的な注目を避けるためか、PMUは公開された閲兵式の映像にそれらを映していません(注:現地で撮影された画像によって、この閲兵式に「モハジェル-6」が登場したことが発覚しました)。[3]

 この閲兵式で登場した「モハジェル-6」には通常は最大で4発まで搭載できる「ガーエム」シリーズに似た小型爆弾が2発搭載されていました。


 イラクのPMUは、イエメンのフーシ派だけでなくレバノンのヒズボラにも供給されている「サマド」(下の画像)を含む、さらに数種類のUAVを運用しており、同機はイラン国内での使用に加えて、イランの部隊によってシリア上空で使用されている姿が目撃されています。

 あえて言うならば、中東におけるイラン製UAVの拡散は、これらの国の政府のコントロールを明らかに回避して行われていると思われます。現在、イエメンではこれと言った政府による統制はほとんど行われていませんが、レバノンとイラクの政府は、イランが支援する民兵がドローンの戦力で彼らを即座に追い抜いてしまった様子を悲痛な面持ちで眺めているのかもしれません。



 間違いなく「モハジェル-6」と同様に興味深いのは、PMUの仲間入りをしたと思しき小型の徘徊兵器の存在です。イラクでは、現在も依然として駐留している米軍や、最近ではイラク・クルド人自治区のエルビル市にある米領事館への攻撃で徘徊兵器が使用されています。[4]

 このタイプ(下の画像)は初めて目撃されたものであり、イランで知られているものと関連付けさせることはできませんが、公正な立場で言うならば、これがイランに起源があることについては疑う余地が全くありません。



 「アラブの春」後の世界ではかつてないほどに民兵が強力な役割を果たしており、今や一部の民兵組織が徘徊兵器やU(C)AV飛行隊をどうにかして運用さえしていることは驚くべき事実です。

 しかし、これまでのところ、PMUの「モハジェル-6」は全く使用されていないようであり、同機が2021年末までにイラクから米軍が撤退するまでに国内に残っている同軍に対して投入されることは起こりそうにありません。[5]

 これらの民兵が保有する戦闘用ドローンの明らかな存在理由の1つとしては、将来的に「イスラム国」が復活した場合や、PMUに脅威をもたらす可能性がある別の勢力に対して使用することが考えられます:問題の民兵組織がUCAVを保有しているにもかかわらず、彼らが拠点にしている国がそれらを保有していないことは特に注目に値します。

 しかし、イラク軍は確実に自分たちでこの戦力の再建しようと試みるでしょう。「CH-4B」での嫌な経験のおかげで、イラクはこのような戦力を共に獲得するために、(購入先について)全く異なる国を視野に入れることになるかもしれません。

 その明らかな候補者はトルコであり、同国の「バイラクタルTB2」は、すでにイラク北部に拠点を持つクルド労働者党(PKK)部隊に対して重要な役割を果たしている姿が見られています – 素晴らしい稼働率を備えたTB2は、イラク空軍にとって歓迎すべき変化となるに違いないでしょう。

 実際、8月下旬に「トルコとの間で非公開の数のTB2を購入することで合意に達した」という、イラクのジュマ・イナド国防相による発言の一部が引用・報道されました(注:2021年11月9日現在の時点で、この続報はありません)。[6]



[1] OPERATION INHERENT RESOLVE LEAD INSPECTOR GENERAL REPORT TO THE UNITED STATES CONGRESS https://media.defense.gov/2021/May/04/2002633829/-1/-1/1/LEAD%20INSPECTOR%20GENERAL%20FOR%20OPERATION%20INHERENT%20RESOLVE.PDF
[2] Iraq’s Air Force Is At A Crossroads https://www.forbes.com/sites/pauliddon/2021/05/11/iraqs-air-force-is-at-a-crossroads
[3] Iraqi militias parade Iranian UAV https://www.janes.com/defence-news/news-detail/iraqi-militias-parade-iranian-uav
[4] Iraq: explosive drones target area near US consulate in Erbil https://www.thenationalnews.com/mena/iraq/iraq-explosive-drones-target-area-near-us-consulate-in-erbil-1.1249277
[5] Biden announces end of combat mission in Iraq as he shifts US foreign policy focus https://edition.cnn.com/2021/07/26/politics/joe-biden-iraq/index.html
[6] https://twitter.com/AlexLuck9/status/1432250165474181121

※ この記事は2021年8月30日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳したも
 のです。



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2020年1月29日水曜日

書評:「中東におけるMiG-23(著者:トム・クーパー)」


著:ステイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)

 多くの軍事愛好家は興味を持ったあらゆる(過去や現在の軍事情報を扱った)本を自身の増殖し続けるコレクションに追加するため、地元のマーケットや書店巡りに多くの時間を費やしています。それでも、主に第二次世界大戦後の軍事を扱ったヘリオン&カンパニー社の@ウォーシリーズ(アフリカアジア中東南アメリカヨーロッパの地域ごとに分割してシリーズ化したもの)については人々に全く知られていません。

 私たちOryxが執筆した北朝鮮の軍隊に関する本も4冊のうち3冊(0巻:5軍総合、1巻:陸軍・特殊作戦軍、2巻:空軍・海軍・戦略軍、3巻:対外工作・インテリジェンス)はアジア@ウォー・シリーズに含まれますので、私たちの関心は明らかにほかのシリーズにも惹かれます(注:私たちの本は2020年9月25日に発売され、日本語版も2021年9月3日に発売されました)。

 この新しいコーナーでは、私たちのお気に入りの@ウォー・シリーズの書籍をその知名度を上げることを目的で何冊か取り上げます。もちろん、自分たちの本に関する過剰な宣伝もここで取り扱うでしょう。この書評のコンセプトは本の全体を最初から最後まで説明するよりも人々に好奇心を生じさせてさらに読むことを促すことにあるため、私は常に簡潔でネタバレなしでレビューを心がけます。

 さて、私たちの書評は「中東におけるMiG-23(著者:トム・クーパー、出版:英ヘリオン&カンパニー)」から始まります。

  • タイトル: 「中東におけるMiG-23:アルジェリア、エジプト、イラク、リビア、シリアにおけるミコヤン・グレビッチ MiG-23の運用 1973-2018(原題:MiG-23 Flogger in the Middle East, Mikoyan i Gurevich MiG-23 in Service in Algeria, Egypt, Iraq, Libya and Syria, 1973-2018)」
  • 出版日: 2018年1月
  • 製本形式: ペーパーバック(ソフトカバー)
  • サイズ: A4
  • ページ数: 72
  • 写真: 91点のモノクロ写真と3点のカラー写真 
  • アートワーク(イラスト): 20点
  • 英語を母国語としない読者向けのテキストの理解度: 優良

 レビューを始める前に@ウォー・シリーズの要旨を説明しなくてはなりません。このシリーズはアフリカ@ウォー・シリーズによって設定されたパターンにしたがって、アジア、アフリカ、中東、南アメリカにヨーロッパと範囲を拡大していきました。これらの大陸における軍事力と武力紛争に関する一連の綿密な研究を読者に提供します。

 冊子が出るごとに、@ウォー・シリーズは第二次世界大戦前後の南アメリカにおける忘れられた戦争からシリア内戦やイエメン内戦といった現在の紛争に至るまで読者に必要な最新情報(――そしてもちろんすぐに、あなたが知りたいと思っていた朝鮮人民軍についてのすべても)を提供するレベルまで本当に素晴らしく成長しました。


 ヘリオン&カンパニー社の@ウォー・シリーズの哲学は至ってシンプルです:歴史家とアナリストに手を差し伸べ、(いくつかの場合、そうしなければ彼らのコンピューター内だけに留まっていたであろう)彼らの研究データを印刷して持ち込むことを依頼することによって専門知識の普及に努めることです(注:@ウォー・シリーズが紹介しない限り、これらの研究成果は決して世間で共有されなかっただろうということ)。

 世界の片隅における、忘れられた武力紛争に関する研究は殆どの出版社によって無視される傾向にありました。仮に本が出されたとしても十分な利益をもたらさないことが不安視されていたからです。@ウォー・シリーズはこの常識に挑戦しています。

 通常、このシリーズの本は4万字以上の文字(注:文章などの量が多い場合は分冊化される傾向にあります)と素晴らしいカラーのイラストと今まで公開されていなかった写真(注:大半はモノクロ写真)から構成されており、A4サイズの本にきちんと詰め込まれていてます。これらはいかなるオンライン上でできたことよりも徹底して題材に精通するための情報に簡単にアクセスできる方法を提供してくれます。

 このブログの忠実な読者の圧倒的大部分は特に装備や戦闘に関する情報に興味を持っているため、あなたは軍隊の組織構造、装備、能力、戦術や作戦に焦点を当てた@ウォー・シリーズに納得できるはずです。各本は飛行機や車両、艦船や兵士などのカラー・イラストによって詳細に説明がなされています。


 それでは本題に戻りますが、あなたなら中東でのMiG-23をどのように紹介しますか?
 過去と現在における中東と北アフリカにあるいくつかの空軍の主力を形成した飛行機について、あなたはどこから解説を始めますか?アルジェリアからですか?エジプト?それともイラクですか?トム・クーパーは最終的MiG-23に至るソビエトの最高司令部が定めた要件とその設計理念がすぐに運用者となるであろう中東と北アフリカの運用者のもとと必ずしも一致していなかった理由から始めます。ここで設計された理由などを理解することができます。 

 MiG-23はイラン・イラク戦争ではイラク側で大量に使用されましたが、ほかにもイスラエルといった宿敵との対峙やリビア機が米海軍とにらみ合っていたので、中東における同機の歴史は1970年代半ばまで遡ります。より最近では、リビアやシリアでの内戦に投入され、今日まで散発的に使用されています。

 戦歴を考察してみると、中東各国の空軍で運用されたMiG-23の派生型はひどいMiG-23MSから非常に好評だったMiG-23ML(D)や間違いなくシリーズの中で最も威勢のよいMiG-23BNまでカバーしていました。リビア、イラク、シリアは冷戦中に輸出されたほぼ全てのMiG-23の派生型の受領者だったため、(各国の運用状況は)初期から後期型のフロッガーの戦歴と特徴を比較することに役立ちます。

 MiG-23の新しい派生型は様々な能力を向上させる方策の中でレーダーとアヴィオニクスの改良を得ていますが、(近隣諸国との絶え間ない紛争に携わっている)中東の運用者は頻繁にその新しい派生型を最初に戦闘でテストしました。 現在では北朝鮮が世界で最も多くのMiG-23を保有している運用者なので、それらを発見することは今日でも非常に重要です!

 この本はイラクとシリアによる(非常に成功したり、失敗した)MiG-23近代化計画についても取り上げています。例えば、フランス製エグゾゼ空対艦ミサイルとフロッガーの組み合わせや1990年代に多国籍軍がイラク上空に設けた飛行禁止空域やその付近で行われた空中戦でアメリカ製AIM-120アムラームの命中を防いだ、フランス製ミラージュF1や保管されていたSu-22が装備していた機器で改良を受けたMiG-23MLなどです。

 中東と北アフリカで使用されているMiG-23の詳細と戦歴は一気にいくつかのニッチな題材になんとか軽く触れることができると主張する人がいるかもしれません。しかし、トムはそれらと何が起こっているのか理解するのに十分な(バックグラウンドにある)情報を脱線しすぎず、目の前にあるテーマから逸脱せずに結びつける上で素晴らしい仕事をしました。

 結果として得られる本文はあなたにシリア内戦におけるMiG-23に関する知識を与えるだけでなく、SyAAF(シリア空軍)の全体に対する独自の見識を提供します。これは一石二鳥です!

 さらに本文は各国の迷彩パターンで塗装されたMiG-23各型を紹介する20点の美しいアートワークによって補強されています。眺めるだけで楽しませてくれることは別として、これらのアートワークは必ずしもソビエト製RBK・FAB爆弾だけで構成されていなかった彼らの装備について興味深い詳細情報を明らかにできます。あなたはアルジェリアのMiG-23BNが(アメリカで設計されて)南アフリカで製造されたMk.81 とMk.82爆弾を装備していたことをご存じでしたか?ご存じない?私も全く知りませんでした。


 本文の中で言及・説明されている戦術や場所はイラストと地図によって上手に下支えされています。シリア内戦における戦域を反映したシリアの地図はありませんが、現在ほぼ全ての携帯電話にインストールされているグーグルマップの存在を踏まえると、それはたいした問題にはならないでしょう。


 全体から見ると、「中東におけるMiG-23」は(そのテーマに関して)非常に完成された本になっていますが、豊富で有益な内容を快適に読める方法で読者に提供することを成し遂げています – この種の本にとって賞賛に値する偉業です。
 将来はこういった本がさらに多く出版されるできたらと願うばかりですが、@ウォー・シリーズで出版される本の数は年々増加していますので、それはきっと実現するはずです!

 この本は ヘリオン社のウェブサイトにて約2,040円(£16.95 )で注文することができます。気をつけて欲しいのは、あなたがヘリオン社から本を直接購入することは他のオンライン・ストアで購入するよりも多くのお金が著者と出版社の手に渡ることを意味することです。それは著者の仕事をさらにサポートして、結果的により多くの本がリリースされる可能性を増やすことになります(注:通販サイトを介して購入した場合、ヘリオン社に行き渡る利益が直接購入するよりも少なくなるとのことです)。

 ※  当記事は、2020年1月24日に本国版Oryx(英語)に投稿されたものを翻訳したもの
  です。意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なったり、割愛している箇所
  があります。
    

2019年9月21日土曜日

オリックスのハンドブック:イランの無人機(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 イラン・イスラム共和国は世界でもいち早く無人戦闘航空機(UCAV)を運用し始めた国の一つであり、1980年から1988年まで続いたイラン・イラク戦争の時点でUCAVを投入しました。

 最初の無人兵器は最大で6発の「RPG-7」用擲弾を発射可能な無線操縦式の「モハジェル-1」でしたが、イランの無人兵器は今やアメリカの「RQ-170 "センチネル"」のコピーやPGM(精密誘導爆弾)を搭載した(ステルス)UCAV、高精度を誇る徘徊兵器までに拡大しています。これらのタイプの無人機は既存の航空戦力をますます効果的に代替するための土台となるものであり、こうした事実はイラン製無人機の顧客が増加しつつあることからも見過ごされることはないでしょう。
 
  1.  このリストの目的は、イランが現時点で保有している無人機(UAV)とその武装を総合的に網羅・可視化することにあります。
  2. リストの簡素化と不必要な混乱を避けるため、当リストにはイランの防衛産業に関係がある軍用無人機か、少なくとも何らかの形で実用化される見込みのある軍用グレードのUAVのみを掲載しています。
  3. アポストロフィ内の部分の名前は、他の呼称名や非公式の名称です。
  4. 各無人機で疑わしい性能が存在する場合には、名称の後に 「~とされる」と追記しています。
  5. 名称は可能な限り日本語化しますが、やや不明な場合は英字と併記します(読み方不明のは英字のまま記載)。
  6. 各無人機の名前をクリックすると当該無人機の画像を見ることができます。


無人偵察機(現用機)

無人偵察機(試作


無人戦闘航空機(現用機)


無人戦闘航空機(試作)



(徘徊兵器を含む)自爆突入型無人機(現用)


(徘徊兵器を含む)自爆突入型無人機(試作)


無人標的機



垂直離着陸型無人航空機


イランに鹵獲・回収された外国製無人機


※ この記事は2021年10月22日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳した 
 ものです。