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2021年7月9日金曜日

死に物狂いの怪物:YPGのシュトルム・パンツァー


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 おおよそ1918年頃から世界の大部分で歴史の片隅に追いやられていますが、YPGはいわゆる「シュトルム・パンツァー(突撃戦車)」:第二次世界大戦に登場した同名の戦車(注:ドイツ軍の「ブルムベア」)を思い起こさせる装甲強化型歩兵支援プラットフォームの積極的な運用者であり続けています。巨大で奇怪な見た目をしたこれらの車両は、シリア北部にあるYPGの支配地域から彼らを何度も追い払おうとしたイスラム国や自由シリア軍に対するYPGの抵抗を象徴し始めています。

 YPGの隊列にこのようなDIYの怪物たちが存在していることはよく知られていますが、運用されているシュトルム・パンツァーの種類を要約する試みはほとんど行われていません(結果として、この記事の完成が大幅に遅れてしまいました)。

 シリア内戦に関与した他の主要と比較すると、シリア民主軍(SDF)を構成する主要な勢力であるYPG(Yekîneyên Parastina Gel: 人民防衛隊)は装甲戦闘車両(AFV)をほとんど運用していません。結果として生じた戦力のギャップを補うために、YPGは(通常はクローラーローダー、ブルドーザーや大型トラックなどをベースにした)DIY装甲車の生産を積極的に始めました。

 最初のDIY装甲車は無限軌道の車体に箱状の構造物を搭載したもの –ほぼ移動式のトーチカのようなもの– で構成されていましたが、そのうちYPGはその設計にいくつかの進歩的な要素を取り入れていきました。最終的に完成した車両は数え切れないほど多くの点でその有効性が制限されていますが、実際には一定の状況で役立つことがあります。

 YPGの機甲戦に関する情報が明らかに著しく不足している結果として、シュトルム・パンツァーの戦闘効率についてはほとんど知られていません。前線から離れた位置にあるYPGの拠点で撮影されたプロパガンダ映像や写真には頻繁に登場しますが、作戦下でシュトルム・パンツァーが動いている映像はほとんど存在しないようです。2013年から2017年にかけてSDFに戦争をしかけたイスラム国(IS)でさえ、2015年にハサカ県でYPGの部隊が敗走した際に、損傷を受けて放棄された1台しか捕獲できなかったのです。


控えめな始まり

 初期のシュトルム・パンツァーは装輪式の車体をベースにしていることが多く、ダンプトラックがその理想的なベースであることが証明されています。
装輪式の車体は装軌式のものと比較すると未舗装地での機動性が低下することに関係があるかもしれませんが、装軌式ローダーは決してスピードを考慮して設計されていません。新たに追加された装甲版と相まった結果、装軌式大型モデルのいくつかは固い地表での走行のみに限定されているのが妥当なものと思われます。この状態は彼らの運用能力を深刻な制約にかけているため、オフロード性能の維持という面では装輪式のプラットフォームに優位性を与えています。

 下の画像は典型的に改造されたダンプトラックです。この車両には(敵の心に恐怖を植え付けるということを主張したい場合を別として)迷彩効果が皆無に近い、周りから目立つ豪華な塗装が施されています。無蓋式荷台には砂や建設廃材の代わりに、歩兵のシェルターとなり、両側に各3つある銃眼から彼らの小火器を射撃することができる装甲構造物が設置されています。また、荷台と同様に完全に金属板で覆われているキャビンの上部には、「DShK」12.7mm重機関銃(HMG)付きの装甲キューポラが設置されています。


 機動式バンカーのコンセプトは最初の装軌式シュトルム・パンツァーでも引き継がれました。明らかに第一次世界大戦のフランス戦線に展開したドイツの「A7V」重戦車を意図せずにオマージュしたこの車両は、前方に射撃可能な「KPV」14.5mm重機関銃に加えて、乗員が持つ小火器を外部に射撃できるようにした10個(!)もの銃眼を装備していました(下の画像)。

 これらの装備は車両にほぼ全方位射撃を可能にさせていますが、ここから射撃される小火器は、すでにシュトルム・パンツァーへのRPGの有効射撃圏内まで挑んできた敵に対してのみ有効です。軽装甲では小火器からの射撃や砲弾の破片しか防げないことから、RPGが命中した場合はほぼ確実に内部に壊滅的な損傷をもたらして乗員を殺傷してしまうため、結果としてシュトルム・パンツァーが沈黙してしまうことは避けられないでしょう。


 おそらくはまさにこの理由で、後に登場したシュトルムパンツァーはほとんどの場合はその前部に2基の砲塔を装備しており、より広い射撃範囲を実現させています。

 下の画像の車両はそのような設計思想をうまく実例で示しており、向かって左側の砲塔には「KPV」14.5mm重機関銃、その反対側の砲塔には12.7mm重機関銃を装備しているように見えます。さらに、(向かって左側の)砲塔の上部には、乗員が身を隠したまま別の武器を射撃できるようにするための防楯が装備されています。


 まるで過ぎ去った時代のような戦闘に入ると、3台のシュトルム・パンツァーが敵に接近するために前方へ「突撃」します(下の画像)。カメラに最も近い車両は上の画像と同じ個体のようであり、これはこれらの車両がプロパガンダ映像に頻繁に登場するにもかかわらず、こういった「モンスター」の生産は実際には極めて限られていたことを暗示しています。


 YPGの装甲車列は、後方に駐車している大型のシュトルム・パンツァーの尋常でない巨大さをはっきりと目立たせています(下の画像)。
隣に駐車されている汎用装甲車「MT-LB」のほぼ2倍の高さもあるシュトルム・パンツァーは、「MT-LB」や他の種類のAFVの能力を広げることはほとんどありません(注:シュトルム・パンツァーの存在がほかのAFVの助けになるようなことが無いということ)。

 必要に迫られて誕生したとはいえ、ほとんどのシュトルム・パンツァーの運用歴は驚くほど長く、YPG/SDFが耐地雷・伏撃防護車両(MRAP)といったより適切な代替装備を容易に入手できるようになった後も長く運用され続けています。


 2015年にテル・タミル近郊でISに捕獲されたシュトルム・パンツァー(下の画像)。驚くべきことに、これがこの種の車両の唯一の損失記録です。そうはいっても、シュトルム・パンツァーの低損失率はそれらが少数しか生産されていないことと、主に十分な歩兵からの支援を受けることができる掃討作戦で活用するという控え目な展開にとどめられていたことからも説明することができます。
 
 世間一般に信じられていることとは逆に、シュトルム・パンツァーはISやFSAとの激しい戦闘で重装甲の突破車両として使用されたことは一度もありませんでした。


 上の捕獲された車両は、その設計の固有の弱点:機動性の低さも目立たせています。
おそらく速度は10km/hをはるかに下回り、ほとんどが舗装された道路での移動に限られるため、敵の集中砲火を受けているシュトルム・パンツァーが(とりわけ危険な場所から抜け出して後方へ横切る必要がある場合は)成功裏に退却するのは困難を極めます。このような状況下では車両を完全に放棄することが最良の選択肢となる可能性があり、大きな後部ドアと側面の脱出用ハッチがそのための十分な機会をもたらします。


 一部のシュトルム・パンツァーは重装甲工兵車(AEV)として使用するために排土板を維持し続けており、瓦礫やその他の障害物を取り除いて友軍部隊が前進を続けられるようにしました。ちなみに、排土板は敵と正面で対峙した際の追加装甲としても機能します。

 下の車両は非武装でしたが(ただし、両側面に2つの銃眼を装備しています)、別の車両では発生し得る敵敗残兵から攻撃を払いのけるために機銃を装備した砲塔が搭載されていました。


 これらのAEV型シュトルム・パンツァーの1台は、2017年8月にラッカでISのクアッドコプター・ドローンから投下された簡易爆弾の直撃によって、装甲化された上部構造に詳細不明の損傷を受けました。面白いことに、この映像をリリースしたISのメディア部門はこの車両をBMP(歩兵戦闘車)と誤認しています(注:下の画像の字幕に注目してください)。


 大型の設計に加えてYPGはいくつかの小型モデルを組み立て、いくつかの設計を経た後で、最終的には最も高性能なシュトルム・パンツァーが作り上げられました(下の画像)。

 この高性能型はシリーズの最初の型とはほとんど関連性がなく、状況把握能力を向上させるためのカメラ・システムを搭載していますが、双連の機銃が正面に固定して装備されています。これは、標的に照準を合わせるために自らの車体そのものを動かさなければならないことを意味しており、結果的におそらくは命中精度がひどく不正確で扱いにくいものになっていると思われます(注:スウェーデンのStrv.103「Sタンク」と似たようなものと考えると理解しやすいかもしれません)。

 この車両に関するもう一つの興味深い特徴は、車体の左側に4発の無誘導ロケット弾発射管を備えた固定式発射機が取り付けられていることです。



 YPGのために、このコンセプトは短時間でより有用なデザインへと進化しました。このモデルは砲塔に「54式」12.7mmHMG(どこにでもあるソ連製「DShK」の中国版)を搭載し、合計で7つの銃眼を装備しています。弱点としては、車両のサイズが小さく、乗員がエンジンに近いところに配置されることから、シリアの高温で乾燥しがちな気候での運用は悪夢のような状態となる可能性があります。
 また、車体の右後方にある小さなドアにも注意してください。このドアは乗員が車内に出入りするための2つの出入り口のうちの1つです。



 (Soendilと名付けられた)この第2バージョンは明らかに上の車両と同じデザインを軸に組み立てられていますが、(機関銃手の防御力が低下する一方で状況認識能力が大きく向上する)オープントップ式の砲塔やその他の僅かな違いがあります(下の画像)。

 この車両は2016年にSDFがシリア北部をイスラム国の影響下から解放し始めた際に市街戦で監視任務と制圧射撃を実施した、戦闘中に目撃された数少ないシュトルム・パンツァーの1台でもあります。



 さらに同じデザインの別バージョンでは、北朝鮮の「323」APCを連装させる大型の砲塔を特徴としています(下の画像)。YPGによって製造された初期のDIY AFVでも見た目が同じような砲塔がすでに見られていたため、これに関する実際の原点は風変わりなものではありません。

 この新たな砲塔では搭載武装が1丁の機関銃ではなく2丁に増強されており、運用上の要件や持ち合わせの武器に応じて武装を入れ替えることができます。(下の)2枚目の画像では砲塔の武装が「KPV」14.5mmHMGと「PK」7.62mm汎用機関銃で構成されていますが、3枚目の画像の車両には2門のKPVが搭載されています。




 究極のシュトルム・パンツァーのデザインは、最も本格的なAFVに近いものになっています。「BMP-1」の砲塔と車体前面のボールマウント式銃架に「W85」12.7mmHMGを装備しており、ある程度の状況認識能力を維持しつつ十分な装甲と重武装の両方を備えています。

 また、車体全周には成形炸薬弾頭が直撃した際の効果を低減させるためにスラット・アーマーが追加されており、小火器や砲弾の破片以上のものからの防御を試みています。しかし、この追加装甲と車体との間隔の狭さは実際にその効果が発揮される可能性が低いことを示しています(注:スラット・アーマーが車体とほぼ密着しているため、成形炸薬弾頭の威力の低減に全く意味をなさないということです)。

 以前のモデルを上回る優れた火力と機動性は、このシュトルム・パンツァーが実際に火力支援車両としての価値がある可能性を意味しており、長年にわたる段階的な設計改善の恩恵がはっきりと示されています。

 アメリカから供与されたMRAPというより優れた代替手段がすぐに利用できるようになっても、完全に死に物狂いの中で生み出されたYPGのシュトルム・パンツァーは、終わりなきシリア内戦の信じられないほど過酷な状況で当初考えられたよりもはるかに長く運用されています。

 MRAPを使えるもかかわらずシュトルム・パンツァーを運用し続ける頑固さの理由は彼らのプロパガンダ的価値やYPGの技術陣の作業を維持しておく必要があるということにすぎませんが、信頼できるデータが無いため、私(著者)はYPGのシュトルム・パンツァーを健在させ続けているのは、彼らの純粋な反発の精神にあると信じることにします。

 ※  この記事は、2021年6月7日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。         


2020年11月29日日曜日

消耗との戦い: ダマスカスのAFV修理施設の中を覗いてみよう



著:ステイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo

この記事に掲載されている画像は、2017年1月にロシア人ジャーナリストがダマスカス郊外にある小さなAFV修理施設を訪れた際に撮影されたものです。
撮影時期は数年前のものですが – AFVのいくつかは戦闘による損傷で失われたであろう姿を撮影しています – それにもかかわらず、撮影された画像は私たちに小さなシリアの戦車工廠の内部作業に関する興味深い知見を与えてくれます。

紛争地における整備士の仕事は(通常ならば)比較的安全であることが保証されていますが、特にこの工場は、AFVの修理とジョバルからの反乱軍の侵入を阻止するための防御拠点の両方の役割を果たしているという点で、独特なものでした。事実、この施設は事実上の最前線からたった300メートル離れた場所(33°32'2"N 36°20'11"E) にあったのです!
施設で働く整備士にとっては幸いなことに、ジョバルの抵抗勢力の最後の孤立地帯が2018年3月に無力化されるまで、(施設が)彼らから奇襲を受けることはありませんでした。
その結果として、私たちがここで考察する画像は(まだ稼働している工廠を確認することができる)稀な例外となります(注:殆どは陥落した後に紹介されるため)。



下の画像では、悲惨なT-55(A)MVの残骸が大量のBMP-1用履帯の山の前で横たわっています。砲塔と車体にあるほぼ全てのコンタークト-1の爆発反応装甲(ERA)を含む、大半のコンポーネントが剥ぎ取られていることから、どうやらこのT-55は(おそらく戦闘中にある種の修復不可能な損傷を受けた後に、同じ型の戦車を運用し続けるための)ドナー車としての役目を終えたようです。
また、背景の屋根が崩れていることにも注目で、この施設の状態の悪さをはっきりと示しています。



綺麗な状態の3台のT-55Aが修理施設の外側で警備に就いています。これらの状態の良さは、先述のT-55やシリアで運用されている他のT-55と比較すると雲泥の差です。
これらの戦車は前線に向かう準備ができているように見えるかもしれませんが、衛星画像では同じ戦車が2015年から2018年初頭まで全く同じ場所に駐車されていたことを示していました。このことは、戦車が(反乱軍が維持している)ジョバルからの予想されうる攻撃から工廠とその周辺地域を防御することを任務とする常駐の部隊に所属していた可能性が高いことを示唆しています。


直近に着弾したロケット弾や砲弾の破片から保護するために、前照灯と赤外線サートライトと照準システムが全て土嚢でカバーされていることにも注目してください。背後の建物に見えるように、この施設は小火器や迫撃砲の攻撃を繰り返し受けているため、(もし何もしていなければ)戦車はカバーされていない電子/光学機器に深刻な損傷を受ける可能性があるのです。




次に私たちが見る2台のT-72は、彼らが果たす役割においてはそれほどの違いはありません。左は自力で動けないAFVを施設の至る所に引っ張っていく牽引車に改造されたT-72「ウラル」で、右は全てのコンタークト-1ERAを剥がされたシリア軍のT-72AVです。
このT-72AVは、(明らかにそれをより必要としている)前線で働く戦車のためにERAを取り外されて訓練部隊で運用されている可能性があります。



工廠の車両置き場は施設内の倉庫の一角で静かに埃を被っています。
(シリア軍が)老朽化したソ連製トラック群の大部分を放棄して、ロシアが供与したGAZやウラル、カマズ製トラックのみならず、より信頼性が高く燃費の良い市販車を使用することを選択したため、かつてシリア軍の車両置き場の主力を形成していたジル-131やジル-157、ウラル375のようなトラックは、今ではシリア各地にある基地の放棄された場所で朽ち果てています。



工廠のメイン・ホールでは、シリア軍のT-55(A)MVが徹底した整備を受けたエンジンを搭載されています。 興味深いことに、先に紹介した共食い整備に使用されたと思しきT-55(A)MVには少なくともERAの一部が残っていましたが、この戦車は完全に剥ぎ取られています。 
この姿は、同じ画像の左奥に見えるT-55(A)MVの砲塔とは著しく対照的です。そのT-55(A)MVでは、砲塔後部にERAを装着しているDIY的追加装甲の配置状況を見ることができます。

二枚目の画像の戦車後部にあるマーキングから、かつてはこの戦車が第5機械化師団に所属していたことを示していますが、 整備を必要として工廠に入った時には、実際には別の部隊で運用されていたとしても不自然なことではありません。




下の画像では1台のBMP-1がデポレベルの整備(分解やオーバーホールなどを含む高度な整備)を受けていますが、兵員席を撤去しても車内がいかに窮屈なのかがはっきりと分かります。このように内部空間が狭いため、BMP-1の設計者が燃料タンクをどこに配置するか巧妙な解決策を工面しなければならなかったのは、驚くようなことではないのかもしれません。
BMPの中に乗っていた歩兵にとっては残念なことに、燃料タンクは兵員席と後部ドアの間の区画に配置されました(注:後部ドアが副燃料タンクを兼ねている)。
歩兵を運ぶことができるAPCとIFVは需要が高く、BMP-1の頑丈さは長期間にわたる整備の怠慢や戦場での酷使を可能にしていますので、シリアで運用されているBMP-1のデポレベルの整備は珍しいものに違いありません。




下の画像では、(上の画像の車体から取り出したと思われる)T-55(A)MVの砲塔が内部の整備を受けています。
高度な火器管制システムを備え、一部には独自の赤外線映像装置も装備されていることから、T-55(A)MVはシリアで運用されている初期型のT-72(T-72 「ウラル」、T-72M、T-72M1)よりも強力な相手であると言えます。

また、この戦車は(少なくともより高度なT-72Bの派生型とT-90S(シリアのサービスで9M119 スヴィーリ/レフレークス GLATGMを装備している)が引き渡される2015年までは)9M117M砲発射式対戦車ミサイル(GLATGM)の搭載が確認された、シリアで運用されている唯一の戦車でもあります。

T-55(A)MVのもう一つの特徴は、砲塔、車体とサイドスカートの広範囲にわたってコンタークト-1 ERAが装着されていることです。運用中にある同型戦車の大半は現在でもその原型をとどめていますが、この戦車はERAを全て別のやり方で再装着されています。 このDIY的なERAの配置は確かにオリジナルのものよりも高水準ではないように見えますが、それはおそらくERAがもたらす防御力にあまり影響を与えることはないでしょう(注:配置が少し違ったとしても防御力に変化がないということ)。
この画像では、砲塔のすぐ後ろの壁にT-72の転輪が並べられていることにも注目です。



放棄された施設の一角ではタイヤとトラックのエンジンの山が埃を被っており、そのほとんどが二度と使用されないことを示唆しています(下の画像)。



下の画像では、ボロボロのT-72AVが(既に車体から脱落してしまっている)コンタークト-1ERA付きのサイドスカートを保持するために使用されていた部分に(整備兵の)注目を受けています。
酷使のため、多くのT-72AVはすぐにサイドスカートなしの状態になってしまいました(実際、これは共和国防衛隊の戦車兵が持つ一般的な不満の一つでした)。たいていはRPGの一撃でサイドスカートが脱落し、車体側面が(更なる)敵のRPG攻撃に対して危険なほどに晒されてしまったのです。
この戦車には砲塔の防御力の簡易的な向上策として、スラットアーマーとして機能すると同時にスペースに土嚢や他の物を入れて防御力をさらに高めることができる、溶接した金属棒で作られた鉄カゴを取り付けられています。



下の画像では、300馬力を誇るBMP-1のUTD-20エンジンが整備を受けています。
シリアの機甲部隊は 2012年以降の継続的な戦闘に従事しており、極めて重要な修理を受ける時間がほとんどないため、それが戦場での高い故障率をもたらしています。実際、車両や装備の定期的な整備はシリア内戦や大半の紛争において見過ごされてきた要素であることが証明されています。いかなる高度な装備にも当てはまりますが、コンポーネントは定期的に点検、テスト、修理または交換されなければなりません。
これらの事実を考慮すると、ロシアがT-62M(V)や BRM-1(K)のような旧式装備を供与したことは、戦闘効率を維持するために定期的な整備が必要な(しかもマンパワーも消耗する)より高度な装備を引き渡すよりは賢明なものといえます。



近い将来、ハマー県にあるシリア軍の主要な戦車・大砲の修理工場をカバーする記事を投稿する予定ですのでご期待ください!



全ての画像はスプートニクのMikhail Voskresensky氏のご厚意によって掲載されました。


 ※  この翻訳元の記事は、2020年11月23日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
   により、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。

2020年3月3日火曜日

トルコのイドリブ攻撃: トルコ軍と反政府軍によって破壊・捕獲されたシリア政府側の車両と装備(一覧)


著:ステイン・ミッツアー collaboration with キャリバー・オブスキュラ (編訳:Tarao Goo

 2020年2月27日の遅くに開始されたトルコ軍によるシリア軍と政府側民兵部隊の陣地に対する空爆と地上攻撃:「春の盾」作戦は、イドリブとアレッポの至る所で多数の標的を撃破しました。結果としてこの攻撃は前線に沿って展開していた政権軍を完全に崩壊させ、反政府軍が戦略的な町であるサラキブを再占領した後もさらに前進し続けることを可能にしました。
 この攻撃は33人のトルコ兵がシリア側による空爆で殺害された報復として開始されたものであり、トルコはシリアでの戦争で新しい段階に入ったため、現時点では(トルコの攻撃が内戦にもたらす)長期的な影響しか推測することができません。

 (挑発に対する)報復で全滅させるべくトルコ軍の陣地を故意に攻撃したことは(シリアの)政権が直面する状況に対処できているのか否かという問題を提起します。トルコの決意に直接挑戦を試みた政権(とロシアの)にもたらされた壊滅的な結果はシリア情勢を観察している人々だけでなく政権軍自体も驚かせたに違いありません。

 切迫した危険を完全に見誤ってトルコの報復攻撃を適切に予想することができなかったため、シリア軍は砲撃と無人機の攻撃に直面して完全に崩壊してしまいました。シリア空軍(SyAAF)とシリア防空軍(SyAADF)は(地上の政権軍を自由に攻撃している)トルコ軍の航空機や「バイラクタルTB2」を含む無人機を迎撃したり少なくとも攻撃を阻止するどころか、これまでにトルコ空軍機のシリア領空への侵入を阻止しようとすらしていません。

 確実に言えることはトルコの「新しい段階」が反政府軍にとってベストな時期に来なかったということです。なぜならばイドリブの反政府軍は至る所で守勢に立たされて敗北しており、イドリブはシリア政府・軍に敵対する勢力への最大の武器・弾薬の供給源から大部分が切り離されてしまったからです。

 過去にはシリア軍がアイヤッシュのような主要な武器貯蔵庫の守備や(敵に利用されることを防ぐために)保管武器の分配、少なくとも破壊処分をしなかったために、結果として反政府軍に対する車両や武器・弾薬の一見して無限の供給が確保されました。劣勢となった今日では、反政府軍は外国からの供与か闇市場で調達した少数の弾薬にほとんど依存しています。

 イドリブの反政府軍が戦車などの重装備をストックする唯一の方法は貧弱な防御ながらも過剰に保管された兵器がある政権軍の陣地を突破して奪取することだけしかありません。しかし、現在(2020年3月の時点)ではトルコの支援を受けた攻勢がサラキブ市に対して開始されています(注:奪取の道が開かれたということ)。

        

 破壊や捕獲された車両・兵器・弾薬の詳細なリストは下で見ることができます。
 また、無人機「バイラクタルTB2」によって破壊されたものにはその旨を明記しています。ただし、この作戦にはTAI「アンカ-S」も参加しているため、同機によると思われる戦果がある可能性も否定できません(判明した場合は訂正します)。

 このリストには画像や映像による証拠を提示できる、捕獲・破壊された装備を中心に掲載しています。したがって、トルコに破壊されたり、イドリブの反政府軍に捕獲された装備の量は間違いなくここに記録されているものよりは多いはずです。現時点ではこのリストに小火器と弾薬が含まれていませんがキャリバー・オブスキュラ氏によるリストが公開された後に追加されます。

 このリストは使用できる追加の資料があったり、正確な情報が確認された場合には更新されます。(装備名の後に列挙された数字をクリックすると捕獲・破壊された各車両の画像が表示されます。)

※最終更新日:2021年7月10日午後8時24分


戦車 (50, このうち破壊: 37,捕獲13)


歩兵戦闘車 (21, このうち破壊: 9,捕獲:12)


牽引・自走砲 (26, このうち破壊: 26)


多連装ロケット砲 :(12, このうち破壊:11,損傷:1)


迫撃砲 (3, このうち破壊: 1,捕獲:2)


対戦車ミサイル(37,このうち捕獲:37 ※このうち10は発射機または照準器)


(自走) 対空砲 (7, このうち破壊: 6,捕獲:1) 


対空ミサイルシステム (3, このうち破壊: 1)


レーダー(1,このうち破壊:1)


航空機とヘリコプター(8,このうち破壊:8)
  • 2 Su-24MK2 (2020年3月1日に撃墜)
  • 1 L-39 (2020年3月3日に撃墜)
  • 2 Mi-8/17 (それぞれ2月11日と同月14日に携帯式地対空ミサイルによって撃墜)
  • 3 MBB 223 「フラミンゴ」 (クワイリス基地のハンガー内にて被弾。 以前からスペアパーツ取り用として使われていたり放棄されていた可能性あり)


トラックや各種車両 (31, このうち破壊: 19,捕獲:12)

戦略的施設・拠点

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 Morant MathieuMENA_ConflictJakub JanovskyMonitoring 各氏の協力に感謝を申し上げます。

 ※  この翻訳元の記事は、2020年2月29日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
   により、本来のものと意味や言い回しが異なったり、割愛している箇所があります。
    正確な表現などについては、元記事をご一読願います。 

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