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2021年7月16日金曜日

斬新な戦闘能力:ウクライナの「ヴィリハ」多連装ロケット砲


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ロシアによるクリミアの奪取とドンバス地域における武力紛争の勃発以来、ウクライナは数十年にわたって(満足な装備の更新なしに)放置されてきた自国の軍隊を補うために、野心的な再装備計画を立ち上げました。

 現在、ウクライナは旧式の装備を保管庫から出してオーバーホールやアップグレードすることに加えて、完全に斬新な戦闘能力も軍隊に導入し始めています。それらの中で注目すべき装備としては、国産の対艦巡航ミサイル「ネプチューン」や短距離弾道ミサイル「フリム(グロム)-2」、トルコの無人戦闘航空機(UCAV)「バイラクタルTB2」があります。

 その増大する戦闘能力をさらに引き上げるために、ウクライナはBM-30「スメルチ」300mm多連装ロケット砲(MRL)の改良に着手し、従来の無誘導型ロケット弾よりも精度だけでなく射程距離も大幅に向上した新型の誘導弾を使用できるようにしました。

 この新型は2018年に「ヴィリハ」MRLとして初めて公開され、その能力向上型の「ヴィリハ-M」は長年にわたってテストされた後の2021年に量産に入る予定です。[1] 

 この「ヴィリハ」は実績のあるBM-30と共通性があることを前提に開発されたため、ウクライナがこの新型弾を自国の軍隊に採用することには少しも問題ないと思われますし、ウクライナにとって、誘導ロケット弾の大量調達は比較的少ないコストでロシアに対する効果的な抑止力を構築することを可能にします。

 「ヴィリハ-M」は間違いなく短距離弾道弾(SRBM)とは異なるクラスの兵器ですが、ウクライナ唯一の地上発射型長距離ミサイルであるSRBM「トーチカU」に委ねられている任務の一部を引き継ぐ可能性があります。同じような射程距離でありながら弾頭数が12倍になり、弾頭の小型化(注:トーチカ-Uの半分の大きさ)という代償を払って命中精度を大幅に向上させた「ヴィリハ-M」は、ウクライナに火力と一般的な戦闘能力の面で大幅な能力向上をもたらしました。


 1990年代のユーゴスラビア紛争以降のヨーロッパにおける初の大規模な従来型の紛争として、東ウクライナでの戦争は戦闘状況下での多数の兵器システムや電子戦能力の巨大な潜在力を思い起こさせています。もちろん、MRLの破壊力もその例外ではありません。

 あえて言うならば、この紛争で導き出された結論はウクライナ軍を通じて世に広まっただけでなく、軍事予算を減少させた結果として(MRLを含む)いくつかの兵器システムを退役させた西側の軍隊にも警鐘を鳴らすものとなりました。

       

 ウクライナ以外では、中国、トルコ、イラン、北朝鮮などの国で長距離精密誘導ロケット弾の設計・製造にかなりの投資を行っており、そのうちのいくつかは「ヴィリハ」のようにソ連の300mm口径の無誘導ロケット弾をベースにしています。

 (射程距離70km、250kgの弾頭を持つ)既存の9M55ロケット弾をベースにした、(「R624」として知られている)改良型ロケット弾は新型の固体推進剤やGNSS支援慣性誘導装置、90個の小型誘導用スラスターを追加して、半数必中界(CEP)を約10mにまで大幅に縮小させました。[2]

 新開発した「R624M」シリーズを使用する「ヴィリハ-M」に限っては、改良によって射程距離の大幅な延長がもたらされました。

 射程距離を延長するために弾頭のサイズを犠牲にした結果として、「ヴィリハ-M」は170kgの弾頭で130kmまで射程を延長することができましたが、さらに改良された派生型の「ヴィリハ-M1」では、170kgの弾頭を装着した状態で154km、236kgの場合では121kmの最大射程距離を実現しています。そして、最新型の「ヴィリハ-M2」では200km程度の射程距離を持つと伝えられています。[2] しかし、射程距離の延長は全体的に終末段階の命中精度を低下させる一因となり、R624MではCEPが約30mに匹敵する可能性があります。

 旧式の推進剤を使用した場合と比較して、推力を約18%向上させた新しい推進剤を使用することによって、さらに航続距離を延長することが可能となります。新型の推進剤を使用すれば「R624」でも100km以上の飛行が可能となり、M・M1・M2の各型では射程距離が200kmに迫るか、場合によってはそれを超えるかもしれません。[3]
 
 ルーチ設計局による別のプロジェクトでは、「ヴィリハ」MRLを通常のロケット弾と最大射程距離100kmの新型地対空ミサイルの共用発射システムに変える必要があることから、このMRLシステムに関する技術革新はとてもここで止まりそうにありません。[4]


 発射直後は初速が遅いことから空力を用いた軌道修正が不可能なため、誘導が複雑になるなどの理由で、この新型ロケット弾の運用方法は明らかに型破りなものとなります。これらの影響を軽減するため、発射の初期段階にロケット弾の誘導装置の外周に配置された90個の小型ロケットスラスターのそれぞれが数秒間の指向性を持った推力をもたらします。

 これだけでもロケット弾に標的の付近へ向かわせるコースを設定するには十分でしょう:誘導の終末段階には胴体前部から空力ベーンが展開し、着弾する直前のコース修正を容易にします。

 多くの最新型のMRLと同様に、「ヴィリハ」MRLの誘導方式は慣性誘導とGNSS誘導の両方を利用することができます。後者は慣性誘導よりもはるかに小さいCEPを達成できる可能性がありますが、妨害に脆弱性が生じるかもしれません。そのためか、最近のモデルでは命中精度を向上させるためにTV誘導方式を使用しているものもあるようです。
 

 「R624(M)」誘導ロケット弾の大きな利点は、発射機に大規模な変更なしで既存のBM-30に容易に統合できることです。この特徴が「ヴィリハ(-M)」をアゼルバイジャン、アルジェリア、クウェート、トルクメニスタンといった「BM-30」を運用している国々にとって魅力的な選択肢とさせています。

 このロケット弾の供給に関して、2021年4月にルーチ設計局は外国との初の契約を結んだことを公表しました。ただし、取引先の国やその他の詳細については少しも報じられることはありませんでした。[5]


 別の可能性がある将来的な開発として関心を抱かせるものとしては、「R624(M)」ロケット弾を「バイラクタルTB2」UCAVがレーザーを照射した目標に命中させることができる精密誘導弾にするためのレーザー誘導キットの導入があります。この優れた打撃能力はすでにトルコとアゼルバイジャンで「TRLG-230」 MRLを通して実現されており、TB2とMRL双方の運用能力を大幅に向上させています。

 レーザー誘導キットをロケット弾に装着することでほかの誘導システムが不要になり、「ヴィリハ」をより電子戦への耐性を高くすると同時に命中率を非常に高精度なものにさせます。

 ウクライナでこのような(攻撃能力を実現させる)装備の開発がすでに進められているかどうかは不明ですが、現代の戦場におけるゲームチェンジャーになっているのは、まさにこの種の偵察・攻撃プラットフォームと精密誘導弾との相乗効果です。


 話題を防御面変えると、より優れた特徴を持つトラックの導入や既存の車両の防御力の向上が「ヴィリハ-M」の生存率を高めるためのシンプルな改良を示しています。
 
 TELに使用されるトラックについて、「ヴィリハ-M」はオリジナルの「MAZ-543」に代わって(「ネプチューン」沿岸防衛システム/対艦巡航ミサイルのTELとしても使用されている)「KrAZ-7634」を採用する可能性があります。この組み合わせは2019年2月にアブダビで開催されたIDEXで初めて公表され、同年の12月には(非装甲キャビン装甲に代わって)装甲キャビンを備えた新コンセプトが披露されました。

 新型トラックの継続的な導入は「ヴィリハ」自体の機動性も向上させ、射撃後の迅速な再配置が可能となって生存率が再び強化されるだけでなく、運用や配備の選択肢に関する柔軟性も高めています。



 「ヴィリハ-M」の射程距離が延長されたことは、近い将来にウクライナのMRL部隊の極めて重要なアセットが(ほぼ全ての)ロシアのMRLを壊滅的な精度を伴いながらアウトレンジする能力を持つ可能性があることを意味します。

 これはすでに前回の紛争で直面したロシアとの(砲兵戦力面での)均衡をかなり破っていますが、レーザー誘導方式を取り入れたヴィルカ・シリーズの開発の継続や最大70kmの範囲にある標的をピンポイント攻撃可能なトルコの「TRLG-230」を調達することを通じて、ウクライナはこのコンセプトをさらに改良することができます。

 トルコとウクライナの間では、特にこのような共同開発プログラムに取り組むことを目的としたいくつかの共同事業がすでに存在しています(最も注目するべきものとしては、ウクルスペツエクスポルト社とバイラクタルTB2の設計を手がけたバイカル・テクノロジー社によるブラックシー・シールドがあります)。

 この傾向はトルコのUAVや「TRLG-230」のようなシステムに関する設計・運用経験とウクライナの既存の軍産複合体を組み合わせることで、完全に斬新な戦闘能力の開発ができる可能性を示唆しています。

 稿されました。
※ 2023年3月12日、ウクライナ国家防衛産業複合体連合のイヴァン・ヴィンニク氏は、「ヴィリハ-M」の改良と今後の製造について公表しました。[6]

「TRLG-230」(2022年にウクライナへ供与されたことが判明)

[1] Ukraine to Start Serial Production of Vilkha-M MRL Systems https://dfnc.ru/en/world-news/ukraine-starts-serial-production-of-vilkha-m-mrl-systems-in-2021/
[2] Про забезпечення ЗСУ боєприпасами та створення їх запасів https://www.ukrmilitary.com/2020/07/boeprypasy.html
[3] Вільха (ракетний комплекс) https://uk.m.wikipedia.org/wiki/Вільха_(ракетний_комплекс)
[4] КБ «Луч» розробило новий ЗРК на основі ракети «Вільха» https://www.ukrmilitary.com/2020/03/air-defence.html
[5] «Вільха» йде на експорт: укладено перші контракти https://mil.in.ua/uk/news/vilha-jde-na-eksport-ukladeno-pershi-kontrakty/
[6] ウクライナのロケット弾「ヴィリハM」、反攻時に実戦試験へhttps://www.ukrinform.jp/rubric-defense/3681270-ukurainanoroketto-dan-vuiriha-fan-gong-shini-shi-zhan-shi-yanhe.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている
 箇所があります。