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2023年1月1日日曜日

少なすぎるし、遅すぎる:ロシアのUCAV(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 ロシアが無人戦闘航空機(UCAV)の開発・生産で顕著な遅れをとっていることは否定できません。そのため、同国はイスラエルのIAI社からライセンスを得て生産された「サーチャー」のコピーである「フォルポスト」UAVを武装化したり、クロンシュタット社の「オリオン」として知られる国産UCAVの開発などの後れを挽回するための試みを図っています。

  また、数種類のより高度なUCAVの開発も進行中であり、これにはスホーイ社の「オホートニク-B」、クロンシュタット社の「シリウス」と「グロム」プロジェクトが含まれています。

  ロシアが国際的な制裁の重圧に屈服しつつある今、これらのシステムの将来は特定の重要技術にアクセスできないために既に疑問視されていますが、今後は一層その傾向が強まるでしょう。

 このまま国産UCAVの開発が継続されるかにかかわらず、世界的なドローン革命の恩恵を受けると言う面でロシアが波に乗り遅れたことは間違いありません。さらに追い打ちをかけるように、ロシアは最近になってウクライナ侵攻における作戦上の需要を満たすため、「モハジェル-6」UCAVと「シャヘド-131/136」徘徊兵器の購入でイランに頼らざるを得ない状況に陥っているのです。
 
 おそらくは投入可能な数が限られていること、ウクライナの防空作戦による損耗と効果的な運用の失敗、そして単にロシア自身によるUCAVの運用経験が少ないことから、「フォルポスト-R」と「オリオン」が今次戦争に与える影響は現時点で無視できる程度しかありません。

(1機の「モハジェル-6」と)少なくとも1機の「オリオン」の損失が確認された時点のウクライナで、戦車3台、AFV3台、牽引砲2門、車両7台だけがロシアの「フォルポスト-R」と「オリオン」によって空爆を受けたことが視覚的に確認されています。[1] [2] 

 ロシアのUCAV開発・生産が遅すぎて今次戦争や国際的な無人機市場に大きな影響を与えることができなかったとしても、 ウクライナでの実戦投入で得た有意義な経験はロシアがより高額な有人機の代わりにより多くのUCAVを導入するように方向付けるかもしれません。
 
 これまで、ロシアは2000年代にソコル「トリビュート・バルク」ミグ「スカート」プロジェクトを通じてUCAVを導入しようと試みましたが、資金不足で失敗に終わりました。しかし 、ロシアは2010年代前半に大型UAVやUCAVの開発に高い意欲を持って復帰して、AWACS型UAV(クロンシュタット「ヘリオス-RLD ''オリオン2'' 」)や空母搭載空中給油ドローン(ミグ「艦載型多用途UAV」)が開発中と言われています。

 これらや他のUAVプロジェクトが成功裏に終了する可能性は極めて低く、世界の競合相手に比べた場合にほとんどの分野における進歩が期待外れのものとなっているのが実情です。

 クロンシュタット「シリウス」と「グロム」は各々が「バイラクタル・アクンジュ」「クズルエルマ」に似たミッションプロファイルを有しているものの、ハイテク産業基盤や使用に適した精密誘導爆弾(PGM)、そして主要なコンポーネントの製造または輸入する能力の欠如、低劣な飛行特性やペイロード、一般にこのようなUCAVの大量生産の経験不足は、 仮にこれらの製品が相当数生産されたとしても、ほぼ確実にライバルよりも劣った能力を持つであろうことを意味しています。

「KAB-20」PGMを搭載した「フォルポスト-R」

 将来的に登場が見込まれる各種のUCAVに同調するべく、新世代の兵装が機体の特性を最大限に活用できるように開発されています。

 ロシアは(モックアップを含む)UCAVを膨大な種類の誘導爆弾や空対地ミサイルともに展示していますが、その多くはまだ開発段階にあり、国産できない一部の重要部品が制裁対象となる可能性が高いため、実際の導入については不確かな状況に直面しています。

 2018年に「オリオン」が運用試験のためにシリアに送られた際に「OFAB-100-120」無誘導爆弾を搭載している姿さえ見られましたが、これはUCAVとしては呆れるほど非効率なミッションであることは確実と言えるでしょう。[1] 

 それにもかかわらず、ロシア最大のUCAVとロイヤルウィングマン(のモックアップ)でさえ「(O)FAB」系無誘導爆弾や「RBK-500U」クラスター爆弾と一緒に展示されていることから、こうした無誘導爆弾の搭載が実際に意図された能力であることを示しています。

 これはUCAV以外の現代的なロシアの作戦機とその運用を反映したものであり、低コストと膨大な数を容易に入手できるという事実のために、ロシアは他のどの国の空軍よりもはるかに多くの無誘導爆弾に依存し続けているのです。

 その後のロシアの無人機用兵装群については、(かなり現実離れなシナリオを想定した演習でヘリコプターUAVに対して使用されたことで悪名高い「Kh-BPLA」として知られる空中発射型「コルネット」対戦車ミサイルや「KAB-20」PGMを含む数種類の他のタイプの兵装で拡大されつつあるようです。[2] 

 「KAB-20」は無人機にとってより現実的な兵装の1つですが、これまでのところ、アメリカの「AGM-114 "ヘルファイア"」やトルコの「MAM-L」のような同世代の西側諸国の誘導兵器の精度を達成するまでには至っていないことが映像で示されています。

 ウクライナの戦場での一例を挙げると、「フォルポスト-R」によって投下された「KAB-20」が標的にしていた静止状態の「BMP-2」を僅かに外した結果、撃破ではなく一定の損傷を与えるだけにとどまったという事例がありました。[3] 

  1. この一覧の目的は、ロシアにおける現在及び将来の無人戦闘航空機(UCAV)とその兵装を包括的に網羅することにあります。
  2. 簡素化と不必要な混乱を避けるため、この一覧にはロシアの防衛産業に関連する無人機、または少なくとも何らかの形で実用化される可能性がある軍用レベルのUAVのみを掲載しています。
  3. 括弧内は当該機体が初飛行した年を示しています。
  4. この一覧には武装クワッドコプターとヘリコプター型UCAVは含まれていません。
  5. 名称をクリックすると当該UCAVや兵装の画像を見ることができます。

無人戦闘航空機 - 運用中


無人戦闘航空機 - 近年に初飛行した試作機


無人戦闘航空機 - 開発初期段階のもの

[1] Nascent Capabilities: Russian Armed Drones Over Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/nascent-capabilities-russian-armed.html
[2] List Of Aircraft Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/03/list-of-aircraft-losses-during-2022.html

※  当記事は、2022年10月13日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳
  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
  箇所があります。


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2022年6月18日土曜日

拒否権の勝利:イスラエルがウクライナへの(武器)援助を阻止


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

   「象が鼠の尻尾を踏んでいるときに中立だと言っても、鼠はあなたを決して中立と思 
  わないでしょう(デズモンド・ムピロ・ツツ、南アフリカ)」

 ウクライナ全土に及ぶロシアの激しい攻勢の阻止を手助けするため、西側諸国はウクライナ軍に膨大な軍事装備や弾薬を供与するべく奔走しています。

 供与される兵器システムの多くは比較的使いやすい上に西側諸国のストック品から容易に入手可能ですが、一方でより複雑な兵器もあり、ウクライナの軍人がそれを使いこなすために数週間の訓練が必要なケースもあります。これにはオランダとドイツから供与された「PzH 2000」自走榴弾砲(SPG)だけでなく、イギリスとドイツ、そしてアメリカから供与された「M270」や「HIMARS」多連装ロケット砲システム(MRL)といったものも含まれまれていることは周知のとおりです。[1] [2]

 多くの国がウクライナの窮状を支援するための呼びかけ以上のことをした一方で、 ロシアとの関係を壊さないために軍事支援という手段をほとんどせずに人道支援にとどめることを好む国もあります。

 そのような国のリストにドイツが含まれていると思われがちですが、オーラフ・ショルツ首相はすでに送られた大量の対戦車兵器などに加えて最新型の地対空ミサイル(SAM)と長距離MRLを供与することを発表しました。したがって、ドイツは今や他国による支援の大部分を凌駕する側となったのです。[2] 

 これらのシステムの供与については期待外れなほどに時間をかけて行われることが判明したものの、ドイツはオランダが5台以上の高度なドイツ製「PzH 2000」を供与するといった他国の支援も認めるだけではなく、自身も7台を供与しています。[1] 

 ドイツとは際立って対照的に、イスラエルとスイスはウクライナへの軍事装備の供与を差し控えるのみならず、他国が軍事援助として自国製兵器をウクライナへ送ることも積極的に阻止しています。イスラエルやスイスのような武器生産国は、彼らから武器を調達する国に対してエンドユーザーに関する厳しい制限を課すことが常であり、購入した武器や装備を第三者へ売却や寄贈する前に許可を得ることを義務付けているのです。

 ただし、この政策は前述の国々独特のものではありません。最近の例として、ドイツによる榴弾砲をめぐる失敗が挙げられます。

 エストニアが2000年代後半にフィンランドから入手した「D-30」榴弾砲9門をウクライナに供与しようとした際には、ドイツ政府の許可を得るなければなりませんでした。そもそもこの「D-30」自体が旧東ドイツからドイツが受け継ぎ、フィンランドに供給していたものだったためです。

 ウクライナに危険が迫っているにもかかわらず、ドイツはロシアを刺激してはいけないという無駄なことに尽力していたため、2月下旬まで供与の許可を出すことを拒否する自体が続きました。[3]

ドイツ軍の「スパイク-LR」ATGM。ドイツ政府は少なくとも2022年3月初頭からこうした高度なATGMをウクライナへ供与する許可を求めていますが、今のところ実現していません。

 その一方でイスラエルは、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争の前後や戦争中におけるアゼルバイジャンのような紛争当事国に「スパイク」対戦車ミサイル(ATGM)から徘徊兵器、さらには弾道ミサイルまで何でも供給することについて、ほとんど躊躇していなかったように見えます。

 実際、アゼルバイジャンの勝利はトルコ製の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)の活躍だけに起因があるとされることが多いですが、この戦争では(徘徊兵器を含む)イスラエル製の武器もTB2とほぼ同等の重要な役割を果たしました。

 現時点でアゼルバイジャンが運用している21種類のUAVのうち19種類以上がイスラエル製(90%)であり、トルコ製はたった2種類(14%)にすぎません。[4] [5] [6]
 
 2014年にウクライナが同様にイスラエル製UAVを導入しようと試みた際、イスラエル政府はロシアの圧力を受け、結果的に同国の「エアロノーティクス」社はウクライナとの取引の中止を余儀なくされてしまいました。[7]

 その僅か数年前の2009年には、イスラエルの「IAI」社がロシアに多数の「サーチャーII」無人偵察機を供給し、「フォルポスト」という名称でそれらの組み立てと最終的な製造ライセンスをロシア側に与えました。そして、ロシア空軍は後日にこれらの大部分を武装ドローンに改造し、ウクライナ侵攻作戦で投入したことが知られています。[8] 

 ウクライナからしてみれば、イスラエルの無人機を調達できない一方でイスラエルが設計した無人機が投下した爆弾を受ける側となっているわけですから、ひどく腹立たしい状態にあることには間違いないでしょう。

今やウクライナ軍への攻撃に使用されるイスラエル起源の「フォルポスト-R」UCAV

 2014年にウクライナへの無人偵察機の販売を拒絶をしたことは、同年からイスラエルがウクライナに事実上の武器禁輸を課したことの始まりを示しました。

 その年以来、イスラエルは自国製兵器の納入に関する全てのウクライナからの要請を断ってきました。これにはウクライナのゼレンスキー大統領がロシアのウクライナ侵攻の前後で繰り返し求めていた、「スパイク」ATGMと「アイアンドーム」防空システムが含まれています。[7] [9]

 ロシアがウクライナに侵攻した後の今でさえ、ポーランド・イタリア・ドイツ・アメリカがウクライナ軍にイスラエル製の「スパイク」ATGMを供与することに関する許可を求めた場合も、イスラエル政府から否定的な反応が返ってくることが十分に予想されます。

 伝えられているところによれば、イスラエルが供与の承諾をしたがらない理由は、そのような動きがロシアとの関係に悪影響を及ぼすことに対する懸念にあるとのことです。具体的には、イスラエルは自国製兵器によってロシア兵が殺害されることがシリアにおける同国の安全保障上の利益をロシアが害することに至る可能性を懸念しているのです。[10]

 また、イスラエルは仲介役として行動できるようにするべく今次戦争では中立を保つことを望んでいるようです。[11]

 ただし、ロシアはイスラエルによる挑発を避けるための慎重な取り組みを手本にすることにはほとんど関心がないようであり、外相のセルゲイ・ラブロフが「ヒトラーはユダヤ系である」旨を主張してイスラエルで激しい反発を引き起こしてたことは記憶に新しいでしょう。[12] 

 自国の戦略について、イスラエルの政策立案者は間違いなく入念に計画されたものを考え出したとみなしていますが、武器供与禁止策もある程度はロシアに対する恐怖に基づいた政策でもあると理解するにはそれほど困難なことではありません。

 皮肉なことに、複数回の和平交渉を主催し、仲介役として主導的な役割を担ってきたのはトルコです。イスラエルと同様にトルコもロシアとの強固な関係の維持に向けて多大な努力を払っている一方で、同国はすでにロシアの支援を受けている組織や支援の拡大が予想される組織からの内外の脅威に直面しています。

 それにもかかわらず、トルコはウクライナへの関与に熱心であり、ロシアからの侵略の脅威が国全体に強く迫ってきたマイダン革命後の年月を通じてウクライナとの友好を強固なものにしてきたのです。

 トルコによるウクライナへの軍事援助はどの国よりも最も価値のあるものと言えます。トルコが納入したUCAVはロシア国内の目標に対する攻撃に使われ、ロシア海軍の艦艇を沈め、黒海艦隊の旗艦である「モスクワ」の撃沈を支援したことまであるのです 。[13] [14]

ウクライナ上空で撃墜されたロシアの「フォルポスト」無人偵察機から見つかったイスラエル製部品(3月11日)

 イスラエルによるウクライナへの軍事援助の拒絶や他国による自国製兵器を用いた軍事援助も許可しないことは、イスラエルが自国への侵略に直面した際に西側諸国の多くが味方に付き、補給を維持するために大規模な航空輸送を実施し、イスラエル兵のために献血運動を行ったという歴史的な援助とは明らかに著しく相反したものであると言えます。 

 もちろん、イスラエルが西側諸国の人々からこれほど強い支持と共感を期待できる時代はとっくに過ぎ去っています。そして、世界はイスラエルの怠惰とウクライナへの支援に対する意図的な妨害行為を忘れることはあり得ないでしょう。
 
 ラトビアのアルティス・パブリクス副首相兼国防大臣は、ウクライナにおける情勢があるにもかかわらずイスラエルが自国製兵器のエンドユーザーに関する制限を厳守していることについて、将来的に同国の兵器システムの調達に悪影響が及ぶであろうことをすでに認めています。

 このようなラトビアの反応は、ウクライナの窮状には同情していても、生存をかけた重大な闘いにおいてウクライナを少しも助けることにはならないことは言うまでもないでしょう。[15]



2022年2月以前にイスラエルによって阻止されたウクライナへの武器供与または販売


2022年2月以降にイスラエルによって阻止されたウクライナへの武器供与

[1] Beyond The Call - Dutch Arms Deliveries To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/beyond-call-dutch-arms-deliveries-to.html
[2] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[3] Germany to send Ukraine weapons in historic shift on military aid https://www.politico.eu/article/ukraine-war-russia-germany-still-blocking-arms-supplies/
[4] Convenient Ignorance: The U.S. Senate’s Approach To Israeli Arms Sales To Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/convenient-ignorance-us-senates.html
[5] American Duplicity: Who In Washington Is Targeting Turkey’s Drone Programme? And Why? https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/american-duplicity-who-in-washington-is.html
[6] Azerbaijan’s Emerging Arsenal Of Deterrent https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/azerbaijans-emerging-arsenal-of.html
[7] Israel treads a narrow tightrope, says no to Spike for Ukraine https://www.shephardmedia.com/news/landwarfareintl/israel-treads-a-narrow-tightrope-says-no-to-spike/
[8] Nascent Capabilities: Russian Armed Drones Over Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/nascent-capabilities-russian-armed.html
[9] The Problems with a Ukrainian ‘Iron Dome’ https://www.nationalreview.com/the-morning-jolt/the-problems-with-a-ukrainian-iron-dome/
[10] Israel refused US request to transfer anti-tank missiles to Ukraine — report https://www.timesofisrael.com/israel-refused-us-request-to-transfer-anti-tank-missiles-to-ukraine-report/
[11] Why Israel Refused to Help Ukraine Defend Itself From Russian Missiles https://theintercept.com/2022/03/23/ukraine-russia-peace-negotiations-israel/
[12] Israel outrage at Sergei Lavrov's claim that Hitler was part Jewish https://www.bbc.com/news/world-middle-east-61296682
[13] Defending Ukraine - Listing Russian Military Equipment Destroyed By Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/defending-ukraine-listing-russian-army.html
[14] Neptune’s Wrath: The Flagship Moskva’s Demise https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/neptunes-wrath-flagship-moskvas-demise.html
[15] https://twitter.com/Pabriks/status/1532034118061522945

 ※  この記事は、2022年6月10日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。



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2022年4月9日土曜日

芽生えたばかりの戦力: ウクライナに投入されるロシアの無人攻撃機


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 アメリカや中国、トルコの最新鋭無人戦闘航空機(UCAV)がすでに世界中で多数の国や紛争で投入されているの一方で、ロシアはその開発と生産で著しく遅れをとっています。

 それどころか、戦場の上空を飛び回りながら攻撃任務をこなす「Ka-52」「Mi-28(N)」のような(有人)攻撃ヘリコプターを好む彼らは、UCAVによって念入りに実施される偵察・攻撃任務を軽視し、より攻撃的な捜索・急襲任務を行うドクトリンに忠実に守っているのです。

 しかしながら、現代における新たな紛争が起きるたびにUCAVのメリットがより詳細に示されているように思われていることから、ロシアでもUCAVへの投資を選択することが次第に増えてきています。
 
 ロシアが他国に追いつくための試みには、IAI社の「サーチャー」をライセンス生産したイスラエル起源の「フォルポスト」無人偵察機を武装化が含まれています。その結果として誕生した「フォルポスト-R」は当初からUCAVとして設計されたわけではないものの、ほぼ全てがロシア製で、軽攻撃任務の遂行が可能な無人機となりました。

 同様に、ロシアの「クロンシュタット」社によって生産されている国産の偵察・監視用無人機「クロンシュタット・オリオン」も複数の武装型が開発されており、徐々に運用が始められています。

 また、「スホーイ」の野心的な「オホートニク-B」、「クロンシュタット」社の「ヘリオス」こと「オリオン-2」、 ​「シリウス」「グロム」プロジェクトを含む、より高度なUCAVの開発も進行の途上にあります。

 こうしたシステムの将来性については、慢性的な資金不足と特定の重要技術へのアクセス不足のためにすでにいくつかの疑問が生じていますが、ロシアが経済制裁を受け、西側諸国との全面的な経済戦争になりつつある今、その疑問はさらに高まっていくでしょう。

 このまま国産UAVの開発が進むのかはさておき、ロシアが自国に利益を与えてくれる世界的なドローン革命の流れに乗り遅れたことは確かなことであり、見込みのある輸出顧客の大部分は、すでに中国やアメリカ、トルコ、イスラエルの競争相手によって需要が急速に満たされてしまいました。

 一般的には、新世代のUCAVの開発に伴い、その効果を最大限に発揮させるための新世代の兵装が必要とされます。(武器展示会などで)「オリオン」はさまざまな誘導爆弾や対戦車ミサイル(ATGM)の豊富な兵装と一緒に展示されているものの、その多くはまだ開発段階にあることのに加えて、いくつかの国産化できない重要なコンポーネントが制裁対象に該当する可能性があるため、それらが本当に導入されるか不透明な状況にあります。

 2018年に「オリオン」がシリアに送られて運用試験を実施した際には、武装型UAVとしては極めて型破りで、明らかに有効性に欠けたミッションプロファイルである「OFAB-100-120」無誘導爆弾を投下した状況さえ確認されました[1]。

 その後、同機用の暫定的な搭載兵装は、(起こりそうにもないシナリオを想定した演習でヘリコプター型UAVに対して使用されたことで悪名高い)「コルネット」ATGMの空中発射型や「KAB-20」誘導爆弾を含むいくつかの誘導兵器で拡張されています。[2] 

 これらの兵装は、「オリオン」が持つ3つのハードポイントだけでなく、2つのハードポイントを備える「フォルポスト-R」にも搭載することが可能です。

 「KAB-20」は前述の無人機にとってより現実的な兵装の1つではあるものの、今のところトルコの「MAM-L」のような誘導爆弾の精度には程遠いことが映像で示されています。

 具体的な事例を挙げると、対ウクライナ戦争で「フォルポスト-R」が投下した「KAB-20」が静止状態にあったウクライナ軍の「BMP-2」から外れてしまい、結果として同車の「撃破」ではなく「損傷」を与えるだけで終わったということがありました。[3]

「クロンシュタット」製「オリオン」が投下した「KAB-20」誘導爆弾がウクライナ軍の牽引砲に命中した瞬間

 おそらく、利用できる数が限られていることや、ウクライナの防空網による損失や効果的な運用の拒絶(注:4月9日までに少なくとも1機の「オリオン」UCAVの損失が目視で確認されています)、単純にロシアが持つUCAVの使用経験が乏しいことから、これまでの戦争や武力衝突における「フォルポストR」と「オリオン」が与えた影響は無視できる程度にとどまっているようです。[4] 

 しかし、「オルラン-10」のような小型の非武装型の無人機は、UCAVより大きな成功を収めており、ロシア軍で大量に使用されています。

 UCAVの開発が遅れすぎて国際的な無人機市場に大きなインパクトを与えなかったとしても、その運用で得られた有意義な経験は、今後のロシアに高価な有人機の代わりにUCAVを大量に導入させるように促すかもしれません。

 2022年のロシアによるウクライナ侵攻において双方の軍がUCAVを実戦投入したことは、これらのシステムが単に高強度紛争での運用が可能になっただけでなく、実際には今やどの側でも投入できる最も高性能なアセットの1つであるという事実を改めて強調しています。

 確かに、UCAVは「Mi-28」や「Ka-52」のような攻撃ヘリコプターよりも脆弱ではありません。ヘリの場合は、撃墜されれば2人のパイロットを死に至らせる可能性があることに加え、一般にATGMを発射するためには所定の位置でホバリングしなければならず、簡単に標的にされてしまうからです。[5]


 結局のところ、UCAVは攻撃ヘリコプターと同じ能力を低コストで提供したり、危険に晒されるリスクを低減するだけでなく、その運用上における任務を拡大するという大きな可能性も秘めているのです。

 その具体的な一例として、ウクライナは「バイラクタルTB2」UCAVを敵防空網破壊(DEAD)任務もに投入して多大な成果を上げていることが挙げられます。それによってTB2は地上戦力やほかの航空戦力の存続に貢献しています。[6] 

 DEADのような任務はロシアの新興UCAV部隊の手の届かない高さにとどまっているように見えますが、彼らの運用経験が増えるにつれて、最終的にはロシア空軍のアセットが担当している別の任務もUCAVが引き受けることになるかもしれません。

  1. ウクライナ上空でロシアのUCAVによって攻撃されたことが視覚的に確認された車両や装備類の一覧は、下で見ることができます。
  2. この一覧は、攻撃の追加映像が入手可能になり次第、更新されます。
  3. 人員や建物への攻撃については、この一覧には含まれていません。
  4. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、ロシアのUCAVによって攻撃された当該兵器類の画像を見ることができます。

戦車(1)


装甲戦闘車両 (3)


歩兵戦闘車 (1)


牽引砲 (2)


トラック、ジープ、各種車両 (8)

「KAB-20」誘導爆弾を投下する「フォルポスト-R」(2021年9月に実施された演習「ザーパト2021」にて)

[1] Russia Provides A Glimpse Of Its Orion Drone Executing Combat Trials In Syria https://www.thedrive.com/the-war-zone/39381/russia-provides-a-glimpse-of-its-orion-drone-executing-combat-trials-in-syria
[2] https://twitter.com/RALee85/status/1472242280199249923
[3] https://twitter.com/Kyruer/status/1505509964189769733
[4] https://twitter.com/UAWeapons/status/1512566406050631684
[5] https://twitter.com/kemal_115/status/1511294420171304964
[6] Defending Ukraine - Listing Russian Army Equipment Destroyed By Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/defending-ukraine-listing-russian-army.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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