2023年1月6日金曜日

内なる軍隊:チェチェンの治安部隊と軍用車両(一覧)


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 チェチェンの軍隊はロシア軍にとって不可欠な存在です。この組織は2022年のロシア・ウクライナ戦争で一般的に「前線の火消し部隊(Fuerwehr Der Front)」と称されて攻撃を主導し、ロシアの防衛線の穴を塞ぐ役割を果たしています。しかし、戦闘での手柄を撮影してTikTokにアップロードするという一部のチェチェン兵の傾向は、この軍隊に「TikTok旅団」というあまり好ましくない称号をもたらしてしまいました。

 実際のところ、チェチェンの部隊はロシア軍が持つ似たような部隊の大部分よりもうまくやっているように見えます。

 チェチェン共和国が保有する部隊は(ロシア)国家親衛軍の一部です。つまり、同部隊は国内の脅威と戦うための装備をして訓練されていますが、その大半はウクライナでの従来型の戦争を行うために投入されています。

  今日のチェチェン治安部隊(CSF)は、親ロシア派の分離主義指導者で後に大統領となったアフマド・カディロフに忠実な民兵組織を継承したものですが、彼は2004年に暗殺されたため、息子のラムザン・カディロフがその後を継ぎました。ちなみに、CSFはカディロフの権力闘争で殺害されたヤマダエフ兄弟が率いた(現在は解散した)「ヴォストーク大隊」「ザーパド大隊」とは何の関係もありません。

 2006年、カディロフに忠実なチェチェン民兵のほとんどが第141特殊自動車化連隊として内務省に編入され、後にロシア国家親衛軍に移管されました。

 俗に言う「カディロフツィ」は、ラムザン・カディロフ首長率いるチェチェン人部隊を指す言葉です – 名目上はロシア国家親衛軍の指揮下にありますが。

 チェチェン共和国はラムザン・カディロフによって統治されています。彼は頻繁に軍備の視察や写真撮影を行っており、グロズヌイにおける戦勝記念閲兵式でその様子を携帯電話で撮影している姿も見られました。[1]

 ロシアにある別の共和国と比較すると、カディロフの支配下にあるチェチェンは高度な自治権を確立しており、事実上の独自の軍隊を持つ唯一の共和国となっています。

 ロシア国内の敵と戦うという本来の目的に従って、CSFは戦車・大砲・防空システム・航空戦力などの重装備を運用していません(ただし、少なくとも3機のオートジャイロが使用されています)。
 
 CSFは2016年12月以降にシリア各地へ投入されているほか、大規模な集会やグロズヌイでの戦勝記念閲兵式で頻繁に自らの装備を披露しています。[2] [3] [4]

 現在のチェチェンの治安部隊は、アフマド・ハジ・カディロフ名称第141特殊自動車化連隊「北(セーヴェル)」、第249独立特殊自動車化大隊「南(ユーク)」、「アフマト」緊急対応特殊課(SOBR)、「アフマト・グロズヌイ」特別任務機動隊(OMON)、アフマト・アブドゥルハミドヴィッチ・カディロフ名称特別任務民警連隊(PPSN)、制服警官隊で構成されています。

 ウクライナにおけるロシアの戦いを支えるため、2022年6月にはラムザン・カディロフによって「セーヴェル・アフマト(北)」、「ユーグ・アフマト(南)」、「ザーパド・アフマト(西)」、「ヴォストーク・アフマト(東)」の4大隊を追加編成することが発表されました 。[5]

 チェチェン共和国における大部分の部隊の名前の由来となっているカディロフ前大統領は、「アフマト・シラ(意味:アフマトの力)」という鬨の声でもその名を覚えられています。

チェチェン共和国で開発・製造された「チャボルツ-M6」軽攻撃車両(LSV)

 CSFは一般的に国家親衛軍が利用できる最新の装備を運用しており、これには大量のMRAPや歩兵機動車(IMV)、装甲兵員輸送車(APC)だけではなく、歩兵戦闘車も含まれています。

 また、彼らはロシアの他の部隊では運用されていない幅広い種類の車両も入手しています。それらには、少数のカザフスタン製「アルラン」 MRAP(注:南アフリカで設計された「マローダー」の現地生産型)、ヨルダンの「スタリオン II」IMV、イスラエルの「ジバール Mk.2」軽攻撃車両(LSV)などが該当します。

 さらに、CSFはウクライナで鹵獲したいくつかの装甲戦闘車両(AFV)さえも運用しています。これらには、少なくとも3台の「BTR-3」IFV、数台の「ヴァルタ」MRAP、そして数十台の KrAZ「コブラ」や「ノヴァター」、「M1151 “ハンヴィー”」が含まれています。
 
 また、チェチェンの自動車メーカーである「チェチェンアフト」は、CSF向けに「チャボルツ-M3」及び「チャボルツ-M6」LSVを製造しています。このLSVは主にチェチェンの部隊に配備されていますが、一部は別の国家親衛軍部隊にも配備されているようです。[6]

 また、カディロフはCSFがチェチェンで「ブラート"6x6"」 APCを組み立てることに関心を寄せていると公表したものの、ロシア製の試作型がチェチェン側の要求に沿うように多少変更された程度であり、実際の組み立てや 生産は開始されなかったと考えられています。[7]

 CSFは、ボンネットの先端に狼の頭の装飾を付けた「ボルツ」と呼ばれる特別仕様のイヴェコ「LMV」 をいくらか受領しています。

 2022年7月、チェチェンはロシアのレムディーゼル「Z-STS 6x6」APC初の運用者となり、アフマト・カディロフに敬意を表したメーカーによって「アフマト」と命名されました。この月に「アフマト」の第一陣である20台がチェチェンに供給された後にウクライナに送られ、そこでチェチェン部隊で活躍している「アルラン」や「タイフーン」、「パトロール」MRAPの仲間に加わりました。[8]

 「Z-STS "アフマト"」はウクライナでの運用を念頭に置いて特別に開発されたAPCであり、「カマズ-5350 6x6」トラックの車体をベースにしたものです。最初の開発構想からCSFへの最初の納入まで僅か4か月という「アフマト」の開発速度には目を見張るものがあります。[9]

 これらのAPCは、ほかの最新型の(ロシア製)AFVと一緒に、当面の間はチェチェン治安部隊のAFV部隊の主力として活躍し続けることになるでしょう。

チェチェンSOBRで使用されている「BMP-1P」はCSFで運用されている唯一の装軌車両である:「アフマト・カディロフ」の肖像付きの旗に注目

  1. この一覧は現在のチェチェン治安部隊で運用されている全AFVを網羅することを試みたものです。
  2. この一覧は利用できる画像などの視覚的証拠に基づいて確認された車両だけを掲載しています。
  3. AFVの運用者が判明している場合は、名称の後に括弧書きで表示しています(СОБР = SOBR, ОМОН = OMON, ППСН = PPSN, ЮГ =「北」連隊, СЕВЕР =「南」大隊)。
  4. 車両の名前をクリックすると、チェチェンで運用されている当該車両の画像を見ることができます。

歩兵戦闘車 (IFV)
  • BMP-1P [СОБР]
  • BTR-82A [СОБР]
  • BTR-3 [СОБР] (ウクライナで鹵獲され、チェチェンに持ち帰られる)

装甲戦闘車両(AFV)

装甲兵員輸送車 (APC)

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両

歩兵機動車 (IMV)

軽攻撃車両 (LSV)

装甲強化型車両

(武装) ピックアップ・トラック

トラック


[1] Grozny Chechnya Victory Day Parade 2017 https://youtu.be/rSk2otJK1Z8?t=1827
[2] A War Within a War: Chechnya’s Expanding Role in Syria https://deeply.thenewhumanitarian.org/syria/articles/2017/11/30/a-war-within-a-war-chechnyas-expanding-role-in-syria
[3] Grozny Chechnya Victory Day Parade 2017 https://youtu.be/rSk2otJK1Z8
[4] В Грозном состоялся грандиозный военный парад, посвященный 77-й годовщине Победы в Великой https://youtu.be/g6Gn3L_vU04
[5] https://t.me/RKadyrov_95/2438
[6] Кадыров испытал чеченский броневик "Болат" https://quto.ru/journal/autorambler/kadyrov-ispytal-chechenskiy-bronevik-bolat-06-11-2019.htm
[7] https://twitter.com/RALee85/status/1108154327074590720
[8] Armoured vehicles captured from the Ukrainian army by Chechen fighters. https://youtu.be/ivkJ7wfWcqY
[9] Russia has developed an armored car "Akhmat" inspired by the special operation https://vpk.name/en/613450_russia-has-developed-an-armored-car-akhmat-inspired-by-the-special-operation.html



※  当記事は、2022年11月23日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳
  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
  箇所があります。


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