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2022年5月15日日曜日

塹壕戦の再考:アルメニアの国産リモート・ウェポン・システム



著:スタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 少ない人口と限られた経済力は、アルメニアが軍事装備の陳腐化に対処し、全く新しい能力を自国の軍隊に導入するための創造的な解決策を考え出す必要に迫られていることを意味しています。

 この状況は長年を通じて非常に活発な研究開発プロジェクトの立ち上げに至りましたが、アルメニアの外ではメディアの注目をほとんど集めていません。

 資金不足のため、そのプロジェクトのほとんどが試作品の域を超えて進行することはありませんでしたが、範囲を限定した(つまり、必要とする財政的な関与が少ない)ものに関しては、通常はより多くの成功を収めました。

 これらの成功したプロジェクトの一つが、照準用スクリーンに接続されたサーマルサイトを用いて隠れながら射撃できるように改修された「PKT」機関銃です。この非常に興味深い装置は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアルメニア軍で使用されたことが初めて目撃され、同軍の陣地を制圧したアゼルバイジャン軍に鹵獲され、詳しく調査されました。[1] [2]

 見た目は粗雑ながらも、意図された役割において有用であるこのシステムは、アルメニアの軍事産業を象徴する適応性を示した明確な一例となっています。

         

 もちろん、第一次世界大戦時のソンムやヴェルダンの塹壕から出てきたものをそのまま現代に適応させたような装置だと言われても、私たちはそれを全く非難することはできません。

 1994年の停戦合意以来、厳しい膠着状態のさなかにあった境界線沿いのアルメニア軍の塹壕は、実際に第一次世界大戦の塹壕を連想させるものでした。アルメニアとアゼルバイジャンの両側が地雷や障害物が散らばった無人地帯の細いラインで隔てられていたのです。

 防御的な砦のネットワークは過去数十年間にわたって全く変化しておらず、大抵の場合、それらは現代的な防御施設というよりは一時的な戦闘用の陣地に似たようなものでした。

 これらの塹壕はあらゆる地上部隊が接近して最終的に制圧する際に立ちはだかる悪夢となる可能性がありますが、上空を旋回しながら自己が搭載する「MAM-L」誘導爆弾や地上の多連装ロケット砲による誘導ロケット弾の標的にする価値がある陣地を慎重に選択することができるアゼルバイジャンの「バイラクタルTB2」ドローンに直面した結果、防衛上の価値が全く無いことが判明しました。

 結果として、大部分の塹壕線や陣地は今まで近くに寄せ付けないはずだった敵が視界に入るずっと前に、この見えない相手に無力化されてしまったのです。

 それでも、小規模な無人戦闘航空機(UCAV)の飛行隊では限られた範囲しかカバーできなかったため、その代わりにいくつかの防衛ラインでは陣地が繰り返しアゼルバイジャン軍の集中砲撃を受け、続いて機械化部隊や歩兵の攻撃に直面しました。

 これらの攻撃は最終的にアルメニア兵を陣地から追い出すことに成功しましたが、ほかの陣地では数日または数週間にわたってアゼルバイジャン軍を抑えることに成功しました。ナゴルノ・カラバフの北部では特にそうであり、山岳地とアルメニア軍の激しい抵抗が、44日間戦争の全期間にわたってアゼルバイジャン軍の前進を阻んだのです。




 このシステムで使用されているのはPKT機関銃であり、これはソ連の戦車やAFVの同軸機銃として搭載するために特別に設計されたPK汎用機関銃の派生型です(そのため、PK-Tankという名前になっています)。

 (電磁式トリガーを用いることによって)最初から遠隔操作で発射できるように設計されていたことから、PKTをリモート・ウェポン・システムという新しい役割のために改造する必要はほとんどありませんでした。

 PKTが持つもう一つの利点は、250発という素晴らしい量の7.62×54mmR弾を収納できる弾倉(弾薬箱)のサイズにあります。追加の弾倉を陣地に持ち込む必要が生じる以前に長時間の連続射撃を可能にするため、予備の弾倉を入れる専用のラックが金属製銃架の右側に溶接されています。

 ちなみに、アルメニアはすでに大量のPKT機関銃を保有していたものの、どうやらすでに使用されていなかったようです。これらのPKTはかつて「BRDM-2」偵察車や「BTR-60」装甲兵員輸送車(APC)に搭載されていたものですが、これらのAFVの大部分が予備役に追いやられて最終的にはアルメニア軍によって退役させらたため、搭載されていた武器は保管状態に置かれました。

 ただし、アルメニア軍はこの潜在的に有用な武器を放置して朽ち果てさせるのではなく、相当な数のPKTをリモート・ウエポン・システム用の銃として採用しました。


 PKTはポールの上に設置された粗末な金属製の構造物に取り付けられており、使用時には機銃を塹壕のすぐ上まで持ち上げ、使用しないときや再装填する必要がある場合には塹壕内に降ろすことができます。

 機関銃手は、システムの左側に備えられたロシアの「インフラテック」社製「IT-615」サーマルサイトとリンクした目の前のモニターを通して狙いを定めます。そして、誰かが照準線上に入ると、機関銃手は武器システムの照準にも使用できる、2本あるハンドルのうち1本のトリガーを押してPKTを射撃します。[3] [4]

 サーマルサイト用のバッテリーと思しき物体が金属製銃架の左側に雑に取り付けられていますが、これは全てのシステムに備えられているわけではないようです。




 アルメニアによって開発された自動式の銃架は、PKT用のシステムだけではありません。 別のプロジェクトでは対地攻撃に転用した高射機関砲の自動化が提唱され、 実際に「ZPU-2」14.5mm高射機関砲をベースにした試作モデルが作られました(PKT機関銃と同様に、ZPU-2もアルメニアでは現役を退いていました)。

 装甲化された目標に対するシステムの攻撃力を高めるために、1門の「SPG-9」73mm 無反動砲(RCL)が副装備として追加されました。この組み合わせは戦車に至るまでのあらゆるAFVに対して致命的な打撃を与える可能性があり、歩兵を乗せたBMP歩兵戦闘車(IFV)がその最適な目標となると思われます。

 完全に遠隔操作され、サーマルサイトで照準を合わせるこのシステムで人の手を必要とするのは、SPG-9を撃つたびに砲弾を装填することと、ZPU-2が2つの大きな弾倉に収納された2400発の機関砲弾を撃ち尽くした後に弾薬を装填することだけでした。

 しかし、この一見して使えそうなシステムもほかの多くのアルメニア独自の軍事プロジェクトと同様に、予算不足がそれ以上の開発と最終的な軍隊への導入を妨げたようです。




 一方、PKT用システムのコンセプトをより発展させたものも開発されており、エレバンで開催された武器展示会「ArmHiTec 2018」で初めて公開されました。[5]

 この箱型システムの機銃手は地下のバンカーの安全な環境の中で座りながら射撃できるため、このタイプのPKTはようやく真の遠隔操作式機関銃と呼べるものとなりました。当然ながら、この時点でも予算不足がこの有望な兵器システムの導入を不可能にしたようです。

 このシステム唯一の真の欠点は、比較的小さな弾倉が空になった後に毎回手動で再装填する必要があることです。箱型システムの場所によっては、その行為が危険な試みになる可能性があります。継続しての使用でシステムへ装填するために、アルメニア兵が必然的に敵の視界に入る高い位置へ上る必要があるからです。

 使用されている弾倉には最大で150発の7.62mm弾が装弾されている可能性が高いですが、毎分750発という発射速度を考慮すると、怒りに任せて射撃するとすぐに弾切れになってしまうおそれがあります。



 アルメニアのPKTシステムは、最終的には(塹壕ではなく)空で決した戦争の流れを変えることはできませんでしたが、限られた手段に直面した中で費用対効果の高い創意工夫を具現化した一流の手本であり続けています。

 壊滅的な敗北後に自軍がボロボロになっているため、この国は2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で目の当たりにした新しいタイプの戦争と軍事バランスに適した武器を軍に提供するため、このような創意工夫に優れた装備を求める可能性があります。

 十分な資金が供給された場合、アルメニア独自の軍事産業は敵味方問わずに大きな驚きを与え、自国と軍隊を現在直面している不利な状況からゆっくりと回復し始めることができるでしょう。

[1] https://twitter.com/TvIctimai/status/1312037877174480897
[2] https://i.postimg.cc/VNmjFRSH/6jf.png
[3] https://twitter.com/Mukhtarr_MD/status/1357673286704988167
[4] https://twitter.com/neccamc1/status/1362011034891005953
[5] https://twitter.com/Mukhtarr_MD/status/1360539364506402816

※  当記事は、2021年3月2日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。意
  訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所が存在する可能性
    があります。



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2022年1月21日金曜日

勝利の記念碑:「バイラクタルTB2」の全戦果(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ in collaboration with ヤクブ・ヤノフスキ, ダン, COIN

 「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)は、現代の紛争の戦い方に関する概念を変えました。少なくとも3つの紛争で十分に試行された今となっては、この流れを元に戻すことはできません。

 比較的軽量で安価な無人機が最新の地対空ミサイル(SAM)や電子戦(EW)システムを回避するだけでなく積極的に捜索して破壊できた一方で、その見返りとして僅かしか損失を被らなかったという事実は世界中で注目を集めています。

 TB2が実戦に投入された結果は現状を驚くほどに覆し、多くの国が防空へのアプローチの再考を余儀なくされました。

 一部のオブザーバーたちは、おそらく装備が不足していたアルメニア軍をこき下ろすことによってTB2の並外れた有効性を軽視しようと試みました。 しかし、過去のシリアとリビア、そしてナゴルノ・カラバフでの戦闘で、TB2は現代諸国が有する統合防空システム(IADS)の多くを相手にできる能力を示しており、「アフトバザ-M」「レペレント-1」、そして「グローザ-S」のようなEWシステムを併用していた状況でも「ブーク-M2」「トール-M2」「S-300PS」「パーンツィリ-S1」といったSAMとの戦闘に勝利しています。

 最も先進的な国の空軍でさえ敵の空域で任務を遂行することを完全に拒否するように設計されたこれらのシステムに直面したTB2の偉業は、現代戦史における分岐点を記録しました。

 「バイラクタルTB2」の役割は単なるハンターキラーではなく、最終的には戦場を完全に支配する存在にすらなっていました。防空密度が最も高い地域の1つを飛行しながら、どんな地上目標がいる位置にも忍び寄ってそのあらゆる動きを追跡する能力があるTB2は、文字どおり地上目標の直上で旋回しながら、友軍のほかのアセットにその目標への攻撃を指示することができたのです。

 ロケトサン社の「TRLG-230」230mm誘導ロケット弾システムは、レーザー誘導キットを装着することでTB2が指示した目標を攻撃することが可能です。この能力は、TB2に自らが搭載する「MAM-L」「MAM-C」誘導爆弾を使い切った後でも、(友軍に標的をレーザー照射することを通じて)ほかの目撃を攻撃させることを可能にします。

 トルコにとって「バイラクタルTB2」の非常に効率的な使用は、新しい外交政策である「バイラクタル外交」を形づくるための、彼らの増大する外交上の発言力を押し上げることに役立っています。

 この新たな政策は、現代の紛争の特徴に比類なく適した新しいタイプの戦いを本質的に構成します。低い経済的・人道的なコストで政治的・軍事的な影響の最大化を追求した、規模が小さい介入を基本とする「バイラクタル外交」は、国家の運命を決めたと言えるほど効果的なものでした。TB2がなければ、国際的に承認されているリビア政府はリビア国民軍(LNA)に一掃されていたかもしれないし、ナゴルノ・カラバフの大半はいまだにアルメニアの支配下にあった可能性があるからです。


 これらの素晴らしい偉業の背後には、現代の戦争に革命を起こすだけでなく、国の考え方を変え、次世代に成功の足跡をたどる機会を提供しようと試みている企業があります。その試行の過程において「バイラクタル・テクノロジー」社は、高度な無人機を設計するためには、自身が無限の研究開発予算を持つ超大国である必要はないことを証明しました。

 現在、バイカル社は「クズルエルマ」無人戦闘機や「TB3」艦載型UCAVの開発を熱心に推し進めていますが、それはTB2が忘れられたことを意味していません。ほぼ毎日(ソフト等が)更新されていることは、TB2が自らに対抗するためのどんなシステムよりも優位にあることを保証しています。[1]

 2021年には、バイカル社の創業者であるオズデミル・バイラクタル氏「アクンジュ」プロジェクトの実行及び分析チームのリーダーであるタリク・ケゼキ氏が死去しました。

 彼らの死は残された人々に悲しみをもたらすでしょう。しかし、彼らのレガシーが新しい世代の人々の心の中で生き続けるだろうという確信に心の支えを見出すかもしれません。彼らの偉業に触発された人々は、いつか登場する無人機の設計を支える将来の技術者になることにとどまらず、別の技術や科学の分野でもトルコの発展に寄与することでしょう。

 この意味で、バイカル社は単に空だけでなく、海や地上でも国の運命を変えていくのです。


  1. 以下の一覧には、シリア、イラク、ナゴルノ・カラバフ、ウクライナなどで「バイラクタルTB2」によって撃破・破壊されたことが確認されている目標を掲載しています。
  2. この一覧には、画像や映像による視覚的な証拠に基づいて確認された、撃破・破壊された車両や装備のみを掲載しています
  3. ただし、地上で撮影された映像等のみで確認されたものも含まれています。これらのケースでは、武装したドローンに攻撃されたことが現地での目撃者によって報告されたことを根拠としています。したがって、実際に撃破された装備の数が、ここに記録されているよりも多いことは間違いないでしょう。
  4. 兵員、弾薬庫や軍事施設に対する戦果については、このリストに含まれていません。
  5. この一覧は、エビデンスとなる追加の映像等が入手可能になり次第に更新されます。
  6. 各装備名に続く数字をクリックすると、当該車両や装備の画像等が表示されます。
  7. 最終更新日:2023年7月13日(本国版の最終更新は2023年7月12日

旗と国・武装勢力の関係(追記:上の一覧に含まれていない はタジキスタン、 はアンサール はティグレ防衛軍を指す) 


戦車 (134)


装甲戦闘車両(54)


牽引砲 (148)


自走砲 (44)

多連装ロケット砲 (81)



対空砲 (10)
  •  1 ZU-23 23mm対空機関砲 : (1) (2)
  • 7 ZU-23 23mm対空機関砲(トラック搭載型): (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)
  • 1 61-K "M-1939" 37mm対空機関砲(トラック搭載型): (1)


自走対空砲 (9)
  • 1 ZSU-23-4 "シルカ" 23mm自走対空砲: (1)
  • 4 ZSU-23-4 "シルカ" 23mm自走対空砲: (1) (2) (3) (4)
  •  2 MT-LB 汎用軽装甲牽引車(「ZU-23」対空機関砲搭載型): (1) (2)
  • 2 ZU-23 23mm対空機関砲(トヨタ車搭載型): (1) (2)


地対空ミサイルシステム (49)


レーダー (9)
  • 2 P-18  "スプーン・レストD" : (1) (2)
  • 1 1S32  "パット・ハンド"  (2K11/SA-4  "クルーグ" 用): (1)
  • 1 1S91 "SURN"  (2K12/SA-6 "クーブ" 用): (1)
  • 1 5N63S "フラップ・リッド"  (S-300用): (1)
  • 1 ST86U/36D6  "ティン・シールド" (S-300用): (1)
  • 1 19J6 (S-300用): (1)
  • 1 SNR-125  "ロー・ブロー"  (S-125/SA-3用): (1)


電子妨害・攪乱または通信システム (3)
  • 1 R-330P "ピラミダ-I" : (1)
  • 1 R-330ZH "ジーテル" 電子戦システム: (1)
  • 1 形式不明の通信車両 (1)


航空機(7)


ヘリコプター(1)
  • 1 Mi-8 "ヒップ" 汎用ヘリコプター: (1)


艦艇 (9)
  •  3 「プロジェクト03160 "ラプター"」級高速戦闘艇: (1) (2) (3)
  • 1 「プロジェクト02510 "BK-16E"」級高速襲撃艇: (1)
  • 1 「プロジェクト11770 "セルナ"」級揚陸艇: (1)
  • 2 形式不明の哨戒艇: (1) (2)
  • 2 密輸用のボート: (1) (2)


軍用物資補給列車(2)
  •  2 燃料タンク車牽引編成: (1) (2)


トラックなどAFV以外の車両 (304)

''私たちは状況を見極め、私たち自身でその責務を果たしました。'' (オズデミル・バイラクタル:1949 - ∞)

[1] HALUK BAYRAKTAR İNGİLİZ DÜŞÜNCE KURULUŞU RUSI'NIN PANELİNDE KONUŞTU https://youtu.be/jKj-FOMQlNw?t=463

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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