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2021年9月10日金曜日

ティグレ防衛軍:重装備の記録(一覧)



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア政府と北部のティグレ州との間で勃発した戦争は、エチオピアを混乱に陥れています。この武力紛争は2020年11月から熾烈を極めており、数千人が死亡、数百万人が避難を強いられいる状況にあります。

 エチオピア政府とティグレ人民解放戦線(TPLF)との間で何ヶ月にわたる緊張関係が続いていた後に、情勢が激化して戦争となったのです。

 1974年から1991年までエチオピアに存在していた共産主義・社会主義政権を打倒した後、TPLFは30年近くにわたってエチオピアの権力の中心にいました。エチオピアの人口の約5%しか占めていないにもかかわらず、ティグレ人の役人は政府を支配することができました。

 2014年から2016年にかけて反政府デモが相次いだ後、2018年にアビー・アハメド首相率いる新政権が発足しましたが、アビー首相はTPLFの権力を抑制しようと改革を強行し、ティグレ人を大いに動揺させました。

 それに応えて、ティグレ州は独自の地方選挙を実施して緊張が高まり、緊張は敵意をむき出しにする段階まで高まりました。

 この政治危機は2020年11月にTPLFの部隊がティグレ州のエチオピア軍基地を攻撃したことで、戦争に発展しました。

 おそらく一般的な予想に反して、ティグレの軍隊はかなり多くの戦車や大砲を運用しており、長距離誘導ロケット砲や弾道ミサイルも保有していました。そう、あなたが読んだとおり弾道ミサイルもあるのです。

 反乱軍によって弾道ミサイルが鹵獲されることは目新しいことではありませんが、彼らがそれを使用し始めることはあまり一般的ではありません。さらに稀なことはこれらが完全に別の国を対象として使用される場合ですが、それをまさにティグレ軍が行ったのです。

 弾道ミサイルはティグレ州にエリトリア軍が展開したことに対抗して発射されたと報じられており、ティグレ軍はエリトリアへの攻撃が差し迫っている可能性があると警告した数時間後に、その首都アスマラへ向けて少なくとも3発のミサイルを発射しました。[1]

 同じ頃、(名称がティグレ防衛軍:TDFとなった)ティグレ軍は、ティグレへのエチオピアによる空爆への報復として、バハルダールとゴンダールにあるエチオピア空軍基地に対しても中国製「M20」短距離弾道ミサイル(SRBM)を発射しました。[2]

 2021年9月の時点でTDFはエチオピアへの攻勢を押し続けており、地域をめぐる支配権が双方に行き交っているため、紛争の終わりは未だに見えてきません。

 明らかに自国の運命を変えようと試みて、エチオピアはイランから「モハジェル-6」無人戦闘航空機(UCAV)の調達を開始しました

 イラン、イスラエル中国製のUAV飛行隊が一見して阻止できないTDFの進撃を食い止めるのに十分かどうかは不確かであることから、軍事的な打開を確実なものとするため、近い将来にエチオピアがさらに無人機を導入する状況を目にするかもしれません。

エチオピア・TDFそれぞれの支配地域を示す紛争地域の地図は、ここで見ることができます。この地図は戦争の進行に合わせて更新されます。

        

  1. ティグレ防衛軍が運用していたことが確認された重装備の詳細な一覧は以下のとおりです。
  2. この一覧は入手可能な画像が追加されるに伴い、随時更新される予定です。
  3. この一覧には入手可能な画像や映像などの視覚的証拠で確認された装備だけを掲載しています。したがって、TDFが実際に鹵獲・運用している装備の量はここで紹介されているものよりも著しく多いはずです。
  4. ティグレ州はエチオピア軍が保有する重装備の大部分の本拠地となっており、その大半は2020年11月にティグレ軍の手に落ちましたが、大量の増備がエチオピア軍に奪回されたため、それらはこの一覧に加えることができませんでした。
  5. 全ての重装備が同時にTDFによって運用されているわけではなく、すでに戦闘で喪失したものもあります。
  6. 小火器や迫撃砲、トラックなどはこの一覧に含まれてはいません。
  7. 装備名の後に羅列してある数字をクリックすると、その装備の画像を見ることができます。
一覧の最終更新日:2021年11月19日(Oryx英語版での最終更新日は2021年11月17日)


戦車 (86)


弾道ミサイル発射機 (1)


ロケット砲・弾道ミサイル支援車両 (4)
  • 1 AR2 弾薬運搬装填車: (1)
  •  3 M20/A200 弾薬運搬装填車: (1) (2) (3)


携帯式地対空ミサイル (12)


対空砲 (27)


地対空ミサイルシステム (4陣地に13の発射機. 未使用)


レーダー (7)
  • 1 P-18「スプーン・レストD」: (1)
  • 2 ST86U/36D6「ティン・シールド」: (1) (2)
  • 1 SNR-75「ファン・ソング」 (S-75用): (1)
  • 3 SNR-125「ロー・ブロー」 (S-125用): (1) (2) (3)
 
[1] Ethiopia’s Tigray leader confirms firing missiles at Eritrea https://apnews.com/article/international-news-eritrea-ethiopia-asmara-kenya-33b9aea59b4c984562eaa86d8547c6dd
[2] Two missiles target Ethiopian airports as Tigray conflict widens https://edition.cnn.com/2020/11/14/africa/ethiopia-airport-tigray-intl/index.html

※  当記事は、2021年9月1日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳したも
 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が  
 あります


   
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2021年8月24日火曜日

イランの「モハジェル-6」UCAVがエチオピアで目撃された

この画像は「モハジェル-6」のイメージ画像です(エチオピアとは無関係です)

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア北部のティグレ地方で突然に激しく勃発した内戦は、この国を混乱に陥れています。北の隣国との数年にわたる不安定な平和の後、エチオピアは突如としてエリトリアとの通常戦に備えて備蓄していたものと同じ武装をした予期せぬ敵との戦争に直面したのです。

 ティグレ人民解放戦線(TPLF)着実に成長を遂げつつある一方で、政府軍はその動きをせき止めることができないことから、この国は今や自らの運命を変えるための何かを必死に探しています。そうすることで、彼らは最も盟友となる機会がありそうもなかった国からの支援を見つけ出しました。ごく最近、エチオピアはどうにかしてイランとの間で多数の「モハジェル-6」無人戦闘航空機(UCAV)の引き渡しを受けるという契約を迅速に結んだようです。

 この国はイスラエルと密接な関係を維持しており、イスラエルの兵器や訓練といったほかの軍事サービスを頻繁に輸入しているため、イランのUCAVが明らかにエチオピアへ納入されたことは非常に注目に値します。

 実際、エチオピアが保有する無人機については、以前はほぼ完全にエアロノーティクス「エアロスター」やブルーバード「ワンダーBミニ」 無人航空システム(UAS)といったイスラエル製のシステムで占められていました。[1]

 しかし、これらのUAVの現在の運用状況は不明であり、どれもが武装することができない機体であるという事実は、エチオピアがUCAVを入手するためにほかの供給源を探す原因となった可能性があります。

 一般的な予想に反して、この供給源はトルコや中国ではなくイランだったようです。

 見たところでは(「モハジェル-6」は)8月1日にエチオピア北東部のセマラ飛行場に到着し、それから2日以内にアビー・アハメド首相が同空港を訪問した際にUAVの地上管制ステーション(GCS)が撮影されました。[2] [3]

 衛星画像は少なくとも2機のUAVとそれに関連するGCSが引き渡されたことを明らかにしています。これらのシステムは大規模な調達をする前の評価用に導入した可能性があります。[4]

 あるいは、今までに確認された数の少なさは、納入が短期間で行われたことと、すぐに入手可能な「モハジェル-6」UAVの数が比較的少なかった結果だったかもしれません。もちろん、すでに多くのUAVが引き渡されている可能性は残っていますが、その場合は単に「モハジェル-6」が複数の基地に分散配置されているということでしょう。



 この問題となっているUAVの特定はいくらかの難題をもたらしました。

 当初の報告では、UAEが隣国のエリトリアに配備したものと同じ中国の「ハリアーホークII・エアスナイパー(鹞鹰II)」や「翼龍II」である可能性が提起されていましたが、衛星画像に写った機体の寸法や独特の形状からその可能性は大幅に狭まり、決定的に除外されました。しかし、地上から撮影された画像がまだ入手できないという事実と、考え得る(無人機の)供給源のマーケットが幅広く多様になっていることが問題を複雑にしました。

 衛星画像を通じてこのUAVが「モハジェル-6」が」その最有力候補であることが確認されましたが、機体より鮮明に撮影された専用のGCSがその特定に至る要因となりました。



 外面的には、この車両の構造は各部のレイアウトとアンテナの両方が他のイラン製GCSと明らかに一致しています(もし正確に一致していない場合は、イランのGCSが繰り返し改良を受けているためと推測されます)。

 GCSの機動性は、イランの定番である独特の塗装が施されたメルセデス・ベンツのトラックによって確保されており、それぞれ分離された管制室に至る2つのドアも(軍事ウォッチャーから見れば)おなじみの光景です。

 外観では、全てのイラン製GCSに備えられている特徴的な白いアンテナがおそらく最も重要なポイントでしょう。通信用のパラボラ・アンテナは新型のようです。




 内部を見ると、このGCSがイラン起源の車両であることがより明らかとなります。

 管制室にある画面の一つには無人機のFLIR(前方監視型赤外線装置)からの映像が表示されており、情報の表示方法やレイアウトは最新のイラン製UAVで知られているものとほぼ同じです。特に機体の向きを示す2つのインジケーター(矢印)は、紛れもなく一致しています。



 おまけに、室内の各液晶画面はイランで撮影された「モハジェル-6」のGCSの映像に写り込んだものと同じボタンとダイヤルが備えられたコントロールパネルに組み込まれています(注:よく見ると画像の右側には液晶画面が縦2列・横3列に配置されており、後者は「モハジェル-6」のGCSと特徴が概ね一致しています。※この映像の7秒あたりに注目)。

 下の画像ではコンピューター画面が厚い筐体に組み込まれているため、「モハジェル-6」のGCSとは少し違うように見えるかもしれませんが、実際には他のイラン製GCSは全く同じ筐体を備えています(注:下の画像内の赤い画像が「モハジェル-6」のGCS内ですが、画面を組み込んだ筐体の形状がエチオピアに引き渡されてものと異なっていますが、先述の映像のとおり、同一の筐体を使用したGCSも存在しているようです)。

 このコンピュータがWindows 7をOSにしているように見えるという驚くべき事実でさえ、イランに目を向けさせてくれる手がかりとなります。なぜならば、「モハジェル-4」のGCSのコンピューターが同様にWindows XPを使用していたことが知られているからです。[5]



 イランの技術的特徴と明らかに類似していることから、これまで供給源として提起されてきたさまざまな国は除外されていますが、イランの無人機技術の一部は中国の無人機から発展されたため、エチオピアに引き渡されたのが中国製無人機である可能性が残されていることに注意する必要がありました。

 (砂漠迷彩のメルセデス・トラックを含む) 多くの事実が別の答えを示していますが、おそらくこの選択肢が除外される最も決定的な理由は、知られている中国のGCSは実際には(各種設備が)エチオピアのGCSとは全く異なる配置となっており、問題となっているUAVの衛星画像の寸法と形状の両方に一致する中国の無人機が存在しないという事実です。

左がエチオピアのUAV、右が「モハジェル-6」の画像を重ねたもの。画像提供:Planet Labs

 「モハジェル-6」UCAV自体は「モハジェル」系UAVの最新型です。

 2017年に初公開されたこのUAVは、その1年後に量産を開始したと同時にイラン革命防衛隊の3つの部門で就役し、さらには数機がイラクの人民動員隊(PMF)に供与されました。[6]

 製造者であるコッズ航空産業社は「モハジェル-6」の航続距離は200kmであり、兵装に関しては最大で40kgのペイロード:「ガーエム-1」「ガーエム-5」「ガーエム-9」精密誘導爆弾(PGM)をそれぞれ2発から4発を搭載可能と主張しています。これらのPGMの軽量性が、このUAVの最大飛行高度約5,500mや12時間の滞空性能を実現させています。(注:軽いPGMの搭載は機体の性能に大きな悪影響を及ぼさないということ)。[7]

 また、「モハジェル-6」は標的探知・獲得と偵察用として、「EOAS-I-18A」FLIR装置を装備しています。[8]



 現在では、入手可能なUCAVプラットフォームが幅広く存在していることを考えると、「モハジェル-6」を選択したというエチオピアの決定は好奇心をそそるものがあります。

 運用可能な高度が低いために地上からの対空砲火に脆弱であり、FLIRの品質が低いことや「モハジェル-6」自体の戦闘における実績が皆無に近いという事実から、実戦では乏しい効果をもたらす可能性があります。さらには、これまでに把握されている生産数が少ないため、イランが悪化するエチオピアでの紛争の流れを変えるのに十分な量のUAVシステムを供給できるかどうかは現時点では不明です。

 このような欠点が無い競合する選択肢としては、トルコの「バイラクタルTB2」のようなUCAVシステムがあります。このUCAVはここ最近にあった複数の紛争:最も注目すべきものとして、2020年2月のシリアにおける「春の盾」作戦、リビアにおけるロシアとUAEが支援するリビア国民軍(LNA)との戦い、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争の際に流れを変えたことで知られています。

 もしセマラ飛行場で目撃された「モハジェル-6」が評価用に導入したことが判明した場合や、入手した数が実際に限られたものだったのであれば、このようなUCAVの導入は依然としてエチオピアが選択し得るオプションの一つとなっているでしょう。

特別協力: Wim Zwijnenburg.

[1] Ethiopia army buys UAVs from BlueBird https://bluebird-uav.com/ethiopia-army-buys-uavs-from-bluebird/
[2] https://twitter.com/FijianArmadillo/status/1423360509471039495
[3] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1422579094957477892/
[4] https://twitter.com/wammezz/status/1423055991231467540
[5] Look inside the control point of the Iranian drone Mohajer-4 https://en.topwar.ru/84078-punkt-upravleniya-iranskim-bespilotnikom-mohajer-4.html
[6] Iraqi militias parade Iranian UAV https://www.janes.com/defence-news/news-detail/iraqi-militias-parade-iranian-uav
[7] https://twitter.com/brokly990/status/1256994704568258562
[8] https://twitter.com/L4RB1/status/1192650551814742016

※  この翻訳元の記事は、2021年8月11日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
 により、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読ください。