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2023年10月28日土曜日

戦友から敵へ:エチオピアの中国製「AR2」多連装ロケット砲

 著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ編訳:Tarao Goo

 2010年代は、エチオピア国防軍(ENDF)にとって大きな変動の時期でした。 

 この10年以内に、冷戦時代の老朽化した兵器は徐々に退役し(場合によってはアップグレードされ)、より近代的な装備に置き換えられていったのです。これは単に旧式のシステムをそのまま代替する場合もありましたが、ENDFは大口径の多連装ロケット砲、誘導ロケット弾、短距離弾道ミサイル(SRBM)の導入を通じて全く新しい戦力を導入しようと試みました。

 新たに導入した兵器のいくつかは、ENDFの近代化への取り組みを誇示するために報道や武器展示会で大きく取り上げられるものもありましたが、強力な運用保全(OPSEC)規則に沿って、意図的にスポットライトから外された兵器もありました。おそらく、それらは無防備な敵に火力を解き放つことができるその日までサプライズとして秘匿されていたのかもしれません。

 その兵器の一つが「AR2」300mm 多連装ロケット砲(MRL)であり、その多くは2010年代後半にエチオピアが中国から購入したものです。

 「M20」SRBM・「A200」誘導ロケットシステムと共に「AR2」を導入したことは、ENDFに近隣諸国がかき集めることができた同種装備よりも明確な優位性をもたらしました。

 サハラ以南のアフリカで大口径MRLの導入が確認されている国は、多数の北朝鮮製「M-1989」240mm MRLを運用しているアンゴラ、現在イラン製システムと中国の「WS-1B」及び「WS-2」MRLを運用しているスーダン、そして「AR2」の競合システムで同様の300mmロケット弾を使用する「A100」MRLを調達したタンザニアだけです。

 2010年代にエチオピアに到着した後、「AR2」はエリトリアとの不安定な国境の近くにあるENDFの北部コマンドに配属されました。 

 当時はまだ予測できませんでしたが、これはエチオピアの最高司令部がすぐに後悔することになる決定でした。なぜならば、2020年11月にティグレ州で武力衝突が勃発すると、「AR2」はこの地域に点在するENDFの基地を制圧し始めた分離主義勢力の軍隊によって即座に鹵獲されてしまったからです。また、(おそらく彼ら自身がティグレ人であったと思われる)部隊の指揮官が、「AR2」とそれを運用する兵士を連れて直接分離主義勢力に直接加わった可能性もあります。

 経緯がどうであれ、結果的にティグレ防衛軍(TDF)は大口径のMRL、誘導ロケット弾、少なくとも射程距離が280kmもある弾道ミサイルを突如として掌握することに成功したのです。 

 「AR2」はすぐに元の持ち主に対して使用され、今やエチオピア軍は調達したばかりのシステムの破壊力を実感する側となってしまいました。

 この最初の衝撃を克服した後、ENDFは鹵獲されたシステムを発見・破壊するために貴重なリソースを割く必要があり、現在までに少なくとも1台の「AR2」と再装填用のロケット弾を積載した輸送車が後にティグレ中部のテケズで奪還・破壊されました。[1]

 残った別のシステムの運命については、現時点でも不明のままです。

 「AR2」は中国人民解放軍陸軍で大量に運用されている「PHL-03」MRLの輸出仕様です。
ソ連の「BM-30 "スメルチ"」の設計に基づいているため、「PHL-03」と「AR2」はロシアのものと同じ構成を維持しており、300mmロケット弾用の12本の発射管を万山(ワンシャン)製「WS2400」8x8重量級トラックに搭載しています。

 ただし、中国のロケット弾はソ連のものよりも射程距離が大幅に伸びており(130km対70km)、「AR2」にはGPS/北斗/グロナスを取り入れたデジタル式射撃統制システムも組み込まれています。ジャミングを受けない場合、このような誘導方式はMRLの命中精度を大幅に向上させることが可能なため、対砲兵戦や高価値の標的への攻撃に使用できる可能性をもたらすという点で本質的に新たなパラダイムを切り開きます。

 今までのところ、エチオピアとモロッコだけが「AR2」の輸出先として知られています。

 各発射機にロケット弾がない状態が長引かないように、「AR2」には12発の再装填用ロケット弾を積載した、専用の「8x8 WS2400」ベース及び「10x8(または10x10)WS2500」トランスポーターを伴っています。 

 「AR2」が現代のシステムに比べて大きな欠点となっているのは、単にロケット弾ポッド全体を一度に交換するのではなく、各発射管にロケット弾を一本ずつ装填しなければならないということです。これについては、前者の方が装填速度がはるかに速く、敵に次の斉射するまでの時間を短縮できるからです。


  全く皮肉なことに、ENDFが過去10年間に備蓄してきた高度な兵器の大半がかつての持ち主である自身に向けられているため、たとえ彼らがこの紛争で優位に立ったとしても、再び(鹵獲された兵器の)代替装備を探すことを余儀なくされるでしょう。

 その間にも、死傷者が積み重なり続けて北部の地域の大半が混乱状態にあるため、エチオピアは苦しみ続けています。

「AR2」の前で中国人インストラクターと一緒に並ぶエチオピアの乗員(エチオピアにて)

 [1] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1352325064973189123

※  当記事は、2021年9月3日に「Oryx」本国版に投稿されたものを翻訳したもので。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。 

2022年1月15日土曜日

ティグレ戦争:イラン製「モハジェル-6」UCAVがハラールメダ空軍基地に配備された(短編ニュース記事)

ハラールメダ空軍基地の「モハジェル-6」(PAX For Peace ・Wim Zwijnenburg からの引用)

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2021年12月上旬の衛星画像から、エチオピア空軍(ETAF)がエチオピアの首都アディスアベバ近郊にあるハラールメダ空軍基地に「モハジェル-6」無人戦闘航空機(UCAV)を配備していることが判明しました。[1]

 ETAFは8月上旬にイランから2機の「モハジェル-6」を調達し、続いてエチオピア北東部のセマラ空港に配備したことが知られていましたが、今回ハラールメダで目撃された「モハジェル-6」が8月に引き渡された2機のうちの1機なのか、それとも現在も続いているイランからの貨物便で(最近に)届けられた新納機なのかは不明です。[2][3]

 後者は、イランの影響力と周辺地域への武器輸出を制限しようと試みているアメリカを大いに怒らせることになるでしょう。ニューヨーク・タイムズの調査によると、すでにアディスアベバのアメリカ政府関係者はエチオピアのアビー・アハメド首相にイランからの支援と同国への貨物便について非公開で抗議し、打ち切るよう促しているとのことです。[4]

 「モハジェル-6」はエチオピア側の大きな期待を胸に受けて導入されたものの、2021年8月に引き渡されてからほぼ同時にこの国における運用キャリアを一度は終えてしまったようです。なぜならば、導入された2機は制御システムの問題で実際にエチオピア上空での飛行することが阻害されたため、すぐに駐機(放置)状態にされてしまったからです。[5]

 この失態は間違いなくETAFを大いに幻滅させたことでしょう。次に彼らのUCAVの導入が確認されたのは、中国から「翼竜Ⅰ」が届けられた2021年9月中旬のことでした。[6]

 「モハジェル-6」が抱える問題がやっと解決されたと思われるには2021年10月下旬までの時間がかかったようです。つまり、エチオピアに到着してから約2ヶ月半も後になってのことだったのです!

 2021年11月初旬にかけて、2機の「モハジェル-6」がセマラ空港の滑走路や駐機場で定期的に確認されており、この状況は、今やこれらがティグレの軍隊に対して定期的な飛行任務を実施するようになったことを示しています。 [7]

イランにおける「モハジェル-6」UCAV(エチオピアとは無関係の画像です)

ヘッダー画像は、PAX For Peace の Wim Zwijnenburg(敬称略)から引用したものです。  

[1] https://twitter.com/wammezz/status/1477399049342967810
[2] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[3] Iran Is Still Resupplying The Ethiopian Military https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/iran-is-still-resupplying-ethiopian.html
[4] Foreign Drones Tip the Balance in Ethiopia’s Civil War https://www.nytimes.com/2021/12/20/world/africa/drones-ethiopia-war-turkey-emirates.html
[5] Unfit For Service: Ethiopia’s Troublesome Iranian Mohajer-6 UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/unfit-for-service-ethiopias-troublesome.html
[6] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[7] Ethiopia now confirmed to fly Chinese armed drones https://paxforpeace.nl/news/blogs/ethiopia-now-confirmed-to-fly-chinese-armed-drones

※  この翻訳元の記事は、2022年1月2日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事
  翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
    があります。



2021年12月19日日曜日

破滅した抑止力: ティグレ最後の弾道ミサイル装備


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 ティグレによるエチオピア・エリトリアとのミサイル戦争は、非国家主体が短距離弾道ミサイル(SRBM)と長距離誘導ロケット弾を鹵獲し、それを用いてエチオピアと全く別の国:エリトリアの首都を攻撃したという珍しい出来事でした。[1]

 現代史の中でも注目すべき出来事であったにもかかわらず、このミサイル戦争は国際的なメディアから全く注目されていませんでした。

 この攻撃を受けてすぐに、エチオピアとエリトリアの軍隊は自走式発射機とミサイルを迅速に破壊・奪還したらしいので、ティグレによるミサイル攻撃の脅威度は低下しました。

 ティグレ防衛軍(TDF)は、2020年11月にティグレ州にあるエチオピア国防軍(ENDF)の基地を制圧した後にENDFの弾道ミサイル・誘導ロケット弾発射システムを鹵獲・掌握しました。このシステムに関する十分な数の運用要員がティグレ側に離反したことが、ティグレ側の軍隊が発射機を元の所有者:ENDFに対して使用し始める機会を与えたようです。

 そして実際、ティグレ軍はそれをすぐに文字通り実施し、エチオピアの2つの空軍基地に弾道ミサイルを発射し、さらに3発をエリトリアがティグレ戦争に介入した報復として同国の首都に撃ち込みました。[2]

 最近公開されたティグレのミュージック・ビデオは、TDFの弾道ミサイル・誘導ロケット砲部隊の一部がこの中国製の発射装置と関連装備を発見して無力化するという、エチオピアとエリトリアによる大規模な取り組みから回避できたことを示しています。[3]

 2021年10月21日に公開されたこの動画では、迷彩服を着たティグレの若者たちがラップを披露している背景として1台の再装填車が映し出されています。

 この動画が撮影された正確な日付を独自に検証することはできませんが、同じ動画には今年8月下旬に鹵獲されたT-72UA1戦車が登場していることから、少なくとも2020年12月にほかの発射システムと再装填車が捕獲・破壊された後に撮影された動画であることだけは間違いありません。[4]

 しかし、公開された動画からは「M20」SRBMや「A200」誘導ロケット弾が存在した形跡を見つけることができませんでした。専用の輸送起立発射機(TEL)がなければ、再装填車は実質的に何の役にも立ちません。

エチオピア軍が奪還した直後に撮影された「A200」誘導ロケット弾8発を搭載したTEL

 「A200」誘導ロケット弾を8発か「M20」弾道ミサイルを2発搭載するこのトラックの後部にはクレーンが備えられているため、発射システムに次の射撃任務を開始することを可能にする迅速な装填能力を有しています。この再装填車の存在は、(弾薬を補充するための場所に戻る必要が生じる前の段階における)攻撃準備ができた発射機と合計して、各部隊の火力を「A200」ロケット弾16発か「M20」弾道ミサイル4発と実質的に2倍にさせる効果があります。


 2020年12月には、エチオピア軍がティグレ州にあるミサイル基地の1つを奪回しており、ここではいくつかの「M20」SBRMと、少なくとも4個の「A200」のキャニスターが発見されました。[1]

 持ち出すのに十分な時間や適した装備が無かったことから、ティグレ軍がこの地域から追い出された際に置き去りにされたものと思われます。また、この基地が奪回された時点までに全弾が発射し尽くされていなかったという事実は、その地域における全てのTELがすでに失われていたという可能性も示しています。


 「M20」SRBMと「A200」誘導ロケット弾発射システム用の再装填車も、少なくとも1台がこの基地でエチオピア軍に奪還されました(下の画像)。


 また、別の再装填車もティグレ軍が慌てて放棄したのとほぼ同時に奪還されました(下の画像)。

 面白いことに、「A200」ロケット弾キャニスターのうち少なくとも3つは空であり、どうやら発射機から撃ち出された後に再装填車に積み戻されたように見えます。これは、決して(キャニスターの投棄による)環境破壊からこの地域を守ろうとしたのではなく、ティグレ軍によってこのシステムが使用された痕跡を隠そうと試みたのかもしれません。


 ティグレのヒップホップの舞台として使われている「M20」/「A200」用再装填車は、かつてエチオピア軍が誇った強大な弾道ミサイル・誘導ロケット砲部隊構成した装備で最後に残されたものかもしれません。

 今や本来の用途で役に立たなくなってしまったこの車両は、こういったより穏やかな役割での新たな使い道を見いだされたようです。

 TDFの抑止力は失われたかもしれませんが、最終的に彼らを打倒することを目的とした最近のENDFの攻勢に対するTDFの強い抵抗は、彼らが過小評価されるべき存在ではないことを示しています。そして、ティグレ戦争が予測不可能な形で展開し続けていく中で、彼らがさらなるサプライズを用意していることは間違いないでしょう。

特別協力: Saba Tsen'at Mah'derom.

[1] Go Ballistic: Tigray’s Forgotten Missile War With Ethiopia and Eritrea https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/go-ballistic-tigrays-forgotten-missile.html
[2] Ethiopia’s Tigray leader confirms firing missiles at Eritrea https://apnews.com/article/international-news-eritrea-ethiopia-asmara-kenya-33b9aea59b4c984562eaa86d8547c6dd
[3] Yaru Makaveli x Narry x Yada sads x Ruta x Frew x danay x donat - CYPHER WEYN 2 / Tigray Music https://youtu.be/0LPa4xIuBXo
[4] The Tigray Defence Forces - Documenting Its Heavy Weaponry https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-tigray-defence-forces-documenting.html

  事です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇
    所が存在する可能性があります。



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2021年12月14日火曜日

メイド・イン・チャイナ: エチオピアの中国製小型UAV飛行隊



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピアがイスラエルイランから調達した多数のUAVを運用していることに加えて、近年では少なくとももう1つの国が同国に無人機(UAV)を納入しています。その国はもちろん中国のことであり、簡単に入手できる安価な中国製UAVがアフリカの大部分を征服しています。

 興味深いことに、アフリカに普及したこれらの無人機は、そのほとんどが軍用に特別に設計されたものではなく、軍民を問わない幅広い分野での用途に使用される商用モデルで占められていました。

 とは言え、中国製の「翼竜Ⅱ」無人戦闘機(UCAV)がティグレ戦争でエチオピア軍に代わって作戦を遂行したことについては、以前から多くの人から推測されていました。「アラブ首長国連邦が隣国エリトリアのアッサブ空軍基地から運用していた」や「エチオピアが入手して運用していた」などと推測されていますが、ティグレ戦争に中国のUCAVが関与していたことを示す証拠は今のところありません(注:2021年12月現在、エチオピア空軍が「翼竜Ⅰ」UCAVを導入し、UAE軍も同機種をエチオピア国内に配備していることが確認されました。)[1]

 エチオピアで使用されている中国製無人機の実際の保有状況は多くの異なる会社から調達した市販のモデルで構成されているため、僅かに壮観さに欠けるというよりも明らかにパッとしないものかもしれません。

 これらの無人機はエチオピア国防軍(ENDF)に就役するのではなく、実際にはエチオピア連邦警察(EPF)がその受取人だったようです。軍用の仲間と比較すれば間違いなく人目を引くものではありませんが、警察によって中型サイズのUAVが運用されることは注目すべきものであり、それがアフリカの部隊で行われた場合はよりいっそうその度合いが高いものとなります。

 エチオピアに無人機が納入される前に、同国の警察官は2018年後半に北京の航空学校で中国公安部によって企画された無人機操縦訓練課程に参加しました。参加者は無人機の操作やメンテナンスの方法を学ぶことに加え、訓練プログラムの一環として、救助、火災、偵察などの各想定に沿った無人機のデモンストレーションも見学しました。[2]

「ZT-3V VTOL」UASを説明する中国人の教官

 エチオピアの警察官が無人機用のインフラが全く整えられていない山間部で遭遇するであろう運用シナリオに対応するため、EPFが導入した機種は全てが垂直離着陸(VTOL)型です。飛行中の効率を高めるために、少なくとも2つのモデルは、垂直離陸した後に水平飛行モードへ切り替えることができます。[3]

 いくつかの小型VTOLタイプも購入されましたが、その後のエチオピア警察での運用については全く知られていません。

 おそらくティグレ戦争の初期段階で投入するのに適した無人機が不足していたため、2020年11月に数機の無人機がエチオピア空軍に譲渡されました。興味深いことに、ENDFはこのシステムを黙って受け入れて就役させるのではなく、これらを(中国の市販モデルではなく)独自に設計した無人機として報道陣の前で発表しました。[4]

 このようなチープなプロパガンダの背後にある正確な理由は不明ですが、政権が作り出したストーリーを疑う理由がほとんどない国内の視聴者を対象にしてエチオピアの軍事力を確信させるために用いた可能性があります。



 「国産モデル」や単なる中国の市販品にかかわらず、この種のドローンの大きな欠点はカメラの品質です。これは、軍用品の数分の1の価格であることから予想されるものであり、警察での使用にはほとんど問題はなかったのでしょうが、ENDFでの使用には支障をきたす可能性が高いと思われます。

 事実上、これらの機体は低高度の運用で(軍用モデルより)より狭い範囲しかカバーすることができないため、TPLF(ティグレ人民解放戦線)部隊からの砲火にさらされることになります。



 ティグレ上空で活動している中国の武装ドローンの存在は一部の人々の争点となっていますが、現実にはエチオピアの無人機飛行隊を構成する数種類の市販モデルが使われているだけなので、その実態は大きく異なっています。

 今やUCAVが決定的な役割を果たす可能性のある紛争に巻き込まれたエチオピアが、より攻撃的な用途のUAVを再び中国に求めることも考えられないことではありません。

 エチオピアの内戦の現状を考えると、新型UCAVを迅速に就役させるため、その入札がすでに進行中でも不思議ではないでしょう(注:最終的に空軍は「翼竜Ⅰ」を導入しました)。



[1] Are Emirati Armed Drones Supporting Ethiopia from an Eritrean Air Base? https://www.bellingcat.com/news/rest-of-world/2020/11/19/are-emirati-armed-drones-supporting-ethiopia-from-an-eritrean-air-base/
[2] Ethiopian police officers attend drone piloting training program in Beijing http://www.xinhuanet.com/english/2018-11/14/c_137606105_3.htm
[3] https://twitter.com/FeWoessner/status/1332068349598191616
[4] Chief Commander of the Ethiopian Air Force, Maj. Gen. Yilma Merda.#Ethiopia #Tigray(Courtesy of EBC) https://youtu.be/leUr8ZECQd0

 ※  この翻訳元の記事は、2021年6月19日に本家Oryxブログ投稿された記事を翻訳した
   ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なってい 
       る箇所があります。



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2021年11月30日火曜日

ティグレ戦争:エチオピアにおけるUAEの戦闘ドローンが正体を現した



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア政府のためにUAEの無人戦闘航空機(UCAV)が投入されているという情報については、2020年11月に反政府勢力であるティグレ州との武力衝突が始まって以来ずっと推測されてきました。

 多少の中国製「翼竜」UCAVがティグレ上空での戦闘任務に当たるためにエリトリアのアッサブ空軍基地から出撃していると頻繁に主張されていますが、2020年当時でも現在でもそのような実戦投入が確かな証拠によって裏付けされたことは一度もありません。

 しかし、紛争勃発から約1年が過ぎた頃になった今、ティグレ防衛軍(TDF)との戦いを支援するため、UAEの戦闘ドローンが実際にエチオピア軍(ENDF)に引き渡されたことを示す証拠がついに明らかとなりました。[1]

 ただし、この引き渡されたUCAVは以前からティグレ上空で活動していると主張されてきた「翼竜」ではなく、2発の120mm迫撃砲弾を搭載できる大型の垂直離着陸(VTOL)型機でした。

 これらの無誘導の迫撃砲弾は「翼竜」や他の中国製UCAVが搭載している誘導兵器に比べて命中精度が著しく低いため、固定化した防御線ではなく機動力と奇襲攻撃を力とする敵に対してはあまり役に立ちません。都市部ではその有効性がさらに低下することを踏まえると、巻き添え被害を避けるために民間人がいる地域にこれらのUCAVを投入しないように、その操縦員に大きな自制を余儀なくさせるでしょう。

 アラブ首長国連邦(UAE)は、アビー・アハメド首相率いるエチオピア政府の強固な支援者であることが証明されています。

 これまでのところ、この支援が具体的にどのようなものだったかについては、依然として議論の対象になっています。分かっているのは、大型の「IL-76」輸送機がUAEとエチオピア最大の空軍基地であるハラールメダの間を頻繁に往来していることです。[1]

 貨物の内容に関しては現時点で推測の域を出ませんが、それらにティグレ州での使用を目的とした軍用品が含まれていたことは、ほぼ間違いありません。

 これまでのUAEによるエチオピアへの武器輸送には、数多くの現代的なデザインの小火器を製造しているカラカル社製の銃火器が大量に含まれていたことが知られています。[2]

 エチオピアでも使用されているイスラエル製の「TAR-21」アサルトライフルと同様に、UAEから供給された武器は共和国防衛隊だけに支給されました。最近では、共和国防衛隊はエチオピアのよく訓練された部隊の1つとして、ティグレ戦争に積極的に加わるレベルまで任務が拡大しているようです。

       

 伝えられるところによれば、UAEが引き渡した戦闘ドローンの画像は、約4ヶ月前(2021年6月頃)にティグレ州のマイチュー地区で撮影されました。[3]

 (戦争の間にティグレ防衛軍と変身した)ティグレ軍が、この地域からエチオピア政府軍を追い出そうと何度にもわたる攻勢をかけた後、マイチューは今やティグレの確固たる支配下にあります。

 このドローンシステム自体はエチオピア軍のオペレーターと一緒に退却した可能性があります。現時点で彼らの航続距離はマイチュー周辺のティグレ軍を再び攻撃して苦しめるには不十分なものとなってしまいました。



 このUCAVのベースとなった正確なドローンの形式はまだ不明のままですが、イエメンでフーシ派に撃墜された2機のUCAVとデザインが同一です(下の2枚の画像)。当然のことながら、これらのUCAVは撃墜された当時、UAEの支援を受けた部隊によって運用されていました。

 地上に落下した後に撮影されたドローンの画像は、これが2発の迫撃砲弾を搭載するように改造された(もともと中国製と思われる)市販の大型VTOL機であることを明らかにしています。




 重い120mm迫撃砲弾を搭載するため、ドローンの両側面には飛行する際に砲弾を格納する2本の大きなチューブが取り付けられています。操縦員が適切な標的を発見した後、これらの迫撃砲弾は遠隔操作で投下され、実質的に無誘導爆弾のごとく標的に向かって急速に落下していく仕組みです。

 当然ながら、これは低高度から投下した場合でも非常に不正確な照準方法であり、ドローンの有効性を静止した標的や大規模な歩兵の集団への攻撃に限定させるものです。ただし、それらのようなシンプルな標的でも攻撃のために必要な精度を得るためには、低高度から砲弾を投下させる必要があります。

 この手法はUCAVを地上からの攻撃を受けやすくさせますが、エチオピアで撃墜されたと報じられたドローンはまだありません(下の画像はイエメンで撃墜された機体です)。



 アメリカからの政治的手段で紛争を解決するようにと強まる圧力に直面しているにもかかわらず、日常的にエチオピアにやって来るUAEの貨物便を見ると、その同盟国がエチオピアを見捨てようとしていないことは明らかです(余談ですが、政治的手法による解決というオプションについては、エチオピアとティグレの両陣営の双方が検討する意思を持っているようです)。

 興味深いことに、エチオピア政府の支援者には互いに対立する国も含まれています。実際、互いに敵対しているUAEとイランはエチオピアにUCAVやその他の武器を供給しているのです。

 これらがエチオピアへの武器の最後の引き渡しでないことだけは確実でしょう。決して確定的なものではありませんが、中国やトルコ製ドローンの配備についても何度も伝えられているため、この戦争には継続的な観察を要します(注:後に空軍が「翼竜Ⅰ」UCAVを導入したことが明らかとなりました)。



[1] https://twitter.com/Gerjon_/status/1435329547722018817
[2] Emirati Small Arms in Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/emirati-small-arms-in-ethiopia.html
[3] https://twitter.com/wammezz/status/1445034651085639688

特別協力: Wim ZwijnenburgVleckie(敬称略)

※  当記事は、2021年10月5日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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メイド・イン・チャイナ:エチオピアの中国製小型UAV飛行隊(同上)

2021年11月6日土曜日

Tankovy Busters:エチオピアにおけるSu-25TK攻撃機

 

著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 Su-25は、MANPADS(携帯型地対空ミサイル)や対空砲からの凄まじい攻撃に耐えながら幅広い種類の兵装を搭載する能力がある、頑丈な近接航空支援機としての名声を得ています。この機種は当初から限られた誘導兵器の運用を念頭に置いて設計されていましたが、ソ連の設計者が対戦車攻撃専用のSu-25Tを開発することで、やがてこの能力は拡大されていきました。

 当時としては多数の非常に高度な機能を備えていたものの、ソ連末期の登場は最終的にこの派生型の就役を妨げてしまいました。後にロシアは試作型のSu-25Tをチェチェン紛争に投入して一定の成果を上げましたが、最も興味深い実戦投入は北コーカサスの空ではなく、サハラ以南のアフリカの太陽の下で行われました。

 僅か2機のSu-25Tがエチオピアに輸出されたことは、今日でも多くの熟練した軍事アナリストに全く知られていないままです。この記事は事実関係を明らかにし、Su-25を無名の墓からサルベージすることを試みました。今回は、エチオピアのとらえどころのないSu-25TK「Tankovy Busters」の物語を紹介します。

 Su-25TKの歴史や仕様について詳しく説明する前に、エチオピアがSu-25TKの導入を決定した背景を考察することは読者に慧眼な見識をもたらしてくれます。

 エチオピアは1990年代を通じてエリトリアとの間で数々の武力衝突や国境での小競り合いをしていましたが、未解決の国境紛争は1998年5月から2000年6月にかけて続いたエチオピア・エリトリア国境紛争を引き起こしました。

 エチオピア空軍(ETAF)はエリトリア軍のMiG-29をSu-27で迎撃したり、MiG-21bisやMiG-23BN戦闘爆撃機でエリトリア軍の陣地を空爆するなどして、この紛争に著しく関わりました。後者はKh-23M空対地ミサイルの使用が可能でしたが、ETAFは必要としている戦局の打開を可能とするため、より高度な兵器を探し求めていました。
 

 興味深いことに、エチオピアはウクライナやロシアから比較的低コストで入手可能で、かつ幅広い種類の誘導兵器を搭載できるMiG-27やSu-24を選ぶのではなく、ロシア空軍でストックされていた2機のSu-25T(シリアルナンバー:「2252」と不明)と2機のSu-25UB練習機(製シリアルナンバー:「2201」と「2202」)を調達しました。

 1999年の後半に発注されたこの中古機は、クビンカの第121航空機修理工場で整備された後、2000年1月にエチオピアに到着しました。これに伴って、これらの2機には新たに「Su-25TK(Tankovy Kommercheskiy)」という輸出用の名称が付与されました。

 実験的な機体であるSu-25Tは、エチオピアが指揮所や補給拠点といった高価値目標に対する夜間での精密打撃を実施できる能力を得るために導入されました。 そして、これらの機体は元MiG-23BNのパイロットたちが配属されている第4飛行中隊(または第4飛行小隊)に就役し、真っ先に先述の高価値目標に対する精密爆撃に従事しました。[1] [2]

 戦争における短い運用に続いて1機のSu-25Tが事故に巻き込まれて用廃となった後、残存する3機は僅か1年の運用から退いて、保管状態にされました。[1] [2] これは、Su-25Tの特殊なシステム維持に関連する多額のコストが生じたことと、1機がすぐに失われたことが同じくらい関係していた可能性があります。



 Su-25Tは完全に新造の機体を設計するのではなく、ベースとして復座型であるSu-25UBの機体を用いています。

 以前に後部座席が占めていたスペースは追加のアヴィオニクスを備え付けるために活用され、機首は「プリチャル」レーザー測距/目標指示装置を装備した「シクヴァル」電子光学照準システムを搭載するために拡大されました (「シクヴァル」はKa-50攻撃ヘリコプターにも搭載されています)。

 また、この機体には夜間作戦用として、「マーキュリー」航法ポッドを胴体の下に取り付けることが可能です。その夜間作戦能力がSu-25TKで当てにされていることは、ヘッダー画像で見られる独特なマーキング:「獲物を求めて戦場を観察する2つの全てを見通す眼」で目にすることができます。

 Su-25Tの最も素晴らしい特徴は、間違いなくその兵装にあります。

 胴体の下部に搭載された2連装の30mm機関砲に加えて、Su-25Tは対戦車任務用に16発の9K121/AT-16「ヴィクール」レーザー誘導式対戦車ミサイルを発射する能力を備えています。残念ながら「ヴィクール」がエチオピアに納入されたかどうかは不明ですが、入手可能な証拠は、「KAB-500Kr」テレビ誘導式爆弾、「Kh-29T」同誘導式対地ミサイル、「Kh-25ML」レーザー誘導式対地ミサイルに加えて、重量級の「S-25」無誘導ロケット弾、「KMGU」クラスター爆弾、各種の無誘導爆弾、そして「B-8」ロケット弾ポッドといった無誘導兵器が、エチオピアで運用されたSu-25TKの主要な兵装だったことを示唆しています。

   

 約10年間もビショフツでの保管状態が長引いた後、そのどこかの時点で彼らの再稼働が決定されました。

 これらの機体が現役にあったのは約1年のみだったため、それに続くオーバホール作業はDAVI(デジェン航空産業)の経験豊富な技術者でも困難だったことが判明したに違いありません。また、この時点でSu-25を整備していた数人の技術者はすでに引退して、再稼働に必要な(使える)専門知識がさらに少なくなっていた可能性があります。メンテナンスや修理に使用できるスペアパーツや専門知識が限られているため、Su-25TKに搭載されたシクヴァル照準システムといった特殊なシステムが特に悩みの種だったはずです。                                          

 それでも、2013年には復活したSu-25が初めて目撃され、3機全てががビショフツのエプロンに姿を見せました。

 その後、通常は1機だけがエプロンにいる様子が見えていましたが、2020年以降は衛星画像上で3機が一緒にいる姿が定期的に目撃されるようになりました。



 現在、エチオピアは着実に成長を遂げつつあるTPLF:ティグレ人民解放戦線(TDF:ティグレ防衛軍)との戦争に直面しており、これまでに政府軍はその進撃を阻止できていないため、この国は今や自らの運命を変えるための何かを必死に探しています

 現在、エチオピアで運用されている作戦機の中で精密誘導弾を使用可能な唯一の機種として知られているSu-25T(及びSu-25UB)は、すでに戦争に投入されていることが予想できます。その用途としては、例えば、TDFがエチオピア軍から鹵獲し、エチオピア空軍のMiG-23BN飛行隊の本拠地であるバハルダール空軍基地を攻撃した誘導ロケット弾・弾道ミサイルシステムを無力化することが挙げられます。

 不思議なことに、現在までの時点で、彼らの姿は前線に近い空軍基地を撮影した衛星画像では見えません。それでも、空軍のSu-27でさえ無誘導爆弾を搭載している様子が見られたので、Su-25がティグレ戦争で戦闘デビューは(分離した地域でまだ投入されていないのであれば)遅かれ早かれ実現するかもしれません。

3機のSu-25TKがビショフツ基地で多数のSu-27と一緒に駐機しています。

 事故に遭った1機の運命は、長きにわたって保管状態にあった仲間よりも華やかなものではありませんでした。

 2000年5月の事故から間もなくして、損傷した機体はビショフツ空軍基地の静かな片隅に引き下がり、その後はスペアパーツの供給源として使用されて今日でもその役割を続けているものと思われます。

 隣接するエプロンは空軍のグローブ「G120TP」練習機が使用しているため、機体が投棄された場所はこの上なく象徴的な場所でした。部品と尊厳を奪われたこの機体は、新たな役割として、将来のキャリアで直面するであろう危険をパイロット志望者たちに気付かせるという目的を見つけました。

  
 

 おそらくアフリカの空を優美に飾った最も興味深い航空機の1つだったものの、エチオピアのSu-25Tは購入に要したのとほぼ同じくらいの素早さでで退役してしまいました。引き渡されてすぐに1機が修復不可能なほどに損傷してSu-25TK飛行隊を実質的に半減させた事実が、おそらくはその不名誉なキャリアを短くするのに貢献したかもしれません。

 その後の退役でエチオピア空軍による誘導兵器を用いた作戦が終了したことを示しましたが、それはSu-25TKの再生だけでなく、現在も続いているティグレ戦争中にイランから「モハジェル-6」を入手した後で復活したことでしょう。

 ただし、この限定的な精密誘導能力の再導入が戦争の流れを変えるのに十分かどうかは不明ですが、その可能性はありそうにないようです。 

 したがって、「モハジェル-6」の調達後すぐにUCAVのさらなる入手が続く可能性があります。ただし、これらは20年前に導入したSu-25Tとは異なって安価で実用的であり、実験的な性質はより少ないものになりそうです。

 UCAVの普及は今日における戦争の単純な性質ですが、エチオピアの「Tankovy Busters」の武勇伝がすぐに忘れ去られないことを願っています。

[1] African MiGs Volume 1: Angola to Ivory Coast https://www.harpia-publishing.com/galleries/AfrM1/index.html
[2] Ethiopian-Eritrean Wars: Volume 2 Eritrean War of Independence 1988-1991 & Badme War 1998-2001 https://www.helion.co.uk/military-history-books/ethiopian-eritrean-wars-volume-2-eritrean-war-of-independence-1988-1991-and-badme-war-1998-2001.php?sid=7291642fc0c8fa0eb0c12b7d97c4502b

※  当記事は、2021年8月26日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所    があります。




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2021年11月2日火曜日

弾道を描け:忘れ去られたティグレの対エチオピア・エリトリア 「ミサイル戦争」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ティグレ戦争の序盤である2020年11月、中国製の「M20」短距離弾道ミサイル(SRBM)がエチオピア北西部にあるバハルダール空軍基地のエプロンに着弾した際に、エチオピア国防軍(ENDF)が受けた衝撃は計り知れないものだったに違いありません。

 ティグレ防衛軍(TDF)がいくつかの弾道ミサイルシステムを鹵獲した後にバハルダールを標的にしたことは遅かれ早かれ発生する流れでしたが、ミサイルが着弾した際に示したとてつもない命中精度は基地の人々を驚かせたはずです。

 ほぼ同じ頃に、約450km離れたエリトリアの首都アスマラを何度かの大きな爆音と衝撃が揺り動かしました。この都市もバハルダールと同様にティグレ軍によるミサイル攻撃を受けたのです。

 エチオピアとエリトリアがどのようにして弾道ミサイル攻撃を受けたのかが、この記事のテーマとなります。

 軍事力を大幅に増強して長年の宿敵であるエリトリアに対して決定的な優位性を得ることを目指し、おそらくはスーダンやエジプトに対する抑止力も確立しようと試みていそうなエチオピアは、この地域の軍事バランスを最終的に自国に好都合なものに変えることを追い求めて、2010年代に野心的な軍の再装備プログラムに着手しました。

 その爆買いの中心となったのは、これまでエチオピアではまだ導入されていなかった分野の戦力: 短距離弾道ミサイルと長距離誘導ロケット弾でした。エチオピアと中国の温かい軍事的な関係を考慮すれば、エチオピアがそのような戦力の入手先として中国に目を向けたことは少しも驚くことではありません。

 中国はこのような兵器をエチオピアに提供する意思がある数少ない国の1つであることに加えて、短距離弾道ミサイル(SRBM)と誘導ロケット弾発射システムを1つのモジュールにまとめた2種類のシステムを製造しています。

 それらの1種(SRBMの「BP-12A」と誘導ロケット弾発射システムの「SY-400」を使用したもの)はすでにカタールによって導入されており、同国ではこれまでにこのシステムに関連する「BP-12A」だけが公開されています。

 それに直に競合するシステムは、「M20」SRBMと「A200」誘導ロケット弾発射システムを使用しており、(「ポロネーズ」の名で)ベラルーシとアゼルバイジャンに、そしてエチオピアに採用されています。ベラルーシはロケット弾の生産ラインを設立しており、「A300」の改良型が「ポロネーズM」として公開されています。

 これまでのところ、エチオピアだけが「M20」SRBMの運用者であることが確認されており、アゼルバイジャンは誘導ロケット弾発射システムを入手したのみで、ベラルーシはミサイルを公開したものの、まだ現役として採用されていない点が注目されます(注:「ポロネーズM」は2019年に受領が開始されたと報じられています)。

        

 「M20」SRBMは、現在のアフリカ大陸で運用されている弾道ミサイルの中では最も現代的ものです。このSRBMは400kgのHE弾頭を搭載して少なくとも280km以上の距離まで飛ばすことができるため、敵の基地や兵力の集結地点を狙うのに完璧に適しています。また、慣性誘導だけでなく「北斗」を用いた衛星誘導方式も組み込んでいる「M20」は、約30mの半数必中界(CEP)も誇ります。[1]

 「A200」誘導ロケット弾発射システムも同様にGPS誘導と慣性誘導方式を併用しているため、CEPは約30~50メートルであり、150kgの弾頭を200km先まで飛ばすことが可能です。[2]


 2020年11月にティグレ軍がENDFの北部コマンドへの強襲を開始すると、彼らは即座にエチオピア軍が持つ弾道ミサイル・誘導ロケット砲部隊の全体を掌握しました。その運用要員の多くがティグレ側に離反したようで、それがティグレ軍にこのシステムを元の所有者に対して使用を開始する機会を与えたようです。そして実際、ティグレ軍はそれをすぐに文字通り実施し、エチオピアの2つの空軍基地に弾道ミサイルを発射して、さらに3発をティグレ戦争に介入した報復としてエリトリアの首都に撃ち込みました。[3]

 これらの弾道ミサイル・ロケット弾攻撃のほとんどは発射映像や攻撃を受けた標的の画像が見当たらないために独自に検証することはできませんが、相当にきちんと記録されていた攻撃として2020年11月のバハルダール空軍基地への攻撃があります。[4]

 この攻撃が物的損害をもたらしたのかは不明ですが、エチオピア空軍は弾道ミサイル攻撃を予期して、すでに航空機を近くの対爆シェルター(HAS)に移動させていた可能性があります。確かなことは、「M20」の400kgの弾頭が、通常はエプロンに位置しているMiG-23BN戦闘爆撃機のかなりの部分を破壊した可能性があるということです。

2020年12月2日に撮影された、バハルダール空軍基地で「M20」弾道ミサイルが着弾した状況。

攻撃を受ける数か月前に撮影された、攻撃されたエプロンに展開している8機のMiG-23 (少なくとも別に2機がハンガー内にいます)。

 エチオピアにとって不幸なことに、国軍はティグレ軍によって鹵獲された後の発射機を発見・無力化に使える兵器システムを全く保有していませんでした。

 とはいえ、ティグレに配備された8x8の大型移動式発射機(TEL)と再装填車にとって最大の脅威は、上空で待ち伏せしている飛行機や武装ドローンではなく狭い道路や通路であり、すぐに少なくとも1台のTELを使い物にならなくさせました。

 どうやらティグレ防衛軍は重量級トラックを回収できる資機材を保有していなかったらしく、この車両は8発の「A200」誘導ロケット弾と一緒にその場に放置されてしまいました。



 その少し前の2020年12月には、エチオピア軍がティグレ州にあるミサイル基地の1つを奪回しており、ここではいくつかの「M20」SBRMと、少なくとも4個の空となった「A200」のキャニスターが発見されました。[5]

 持ち出すのに十分な時間や適した装備が無かったため、ティグレ軍がこの地域から追い出された際に置き去りにされたものと思われます。

 基地が奪回された時点までに全弾が発射し尽くされていなかったという事実は、その地域における全てのTELがすでに失われていたという可能性も示しています。



 また、TELと同じ車体をベースにした再装填車も、少なくとも1台が奪還されました。

 「A200」誘導ロケット弾を8発か「M20」弾道ミサイルを2発搭載するこのトラックの後部にはクレーンが備えられているため、発射システムに次の射撃任務を開始することを可能にする迅速な装填能力を有しています。

 この再装填車の存在は、(弾薬を補充するための場所に戻る必要が生じる前の段階における)攻撃準備ができた発射機と合計して、各部隊の火力を「A200」ロケット弾16発か「M20」弾道ミサイル4発と実質的に2倍にさせます。



 2台目の再装填車は、ティグレ軍が慌てて放棄したのとほぼ同時に奪還されました。

 面白いことに、「A200」ロケット弾キャニスターのうち少なくとも3つは空であり、どうやら発射機から撃ち出された後に再装填車に積み戻されたように見えます。これは、決して(キャニスターの投棄による)環境破壊からこの地域を守ろうとしたのではなく、ティグレ軍によってこのシステムが使用された痕跡を隠そうと試みたのかもしれません。

 もちろん、この努力は後に無駄であることがわかりました。ティグレ軍が弾薬と一緒に車両も放棄してしまったからです。

 エチオピアの新たな内戦における過酷な状況下では、高度な装備を維持することが困難なことから、残りの発射機や再装填車も、この時点で同様の運命にさらされた可能性が高いとみられています。

 ティグレ戦争の結果、エチオピアはサハラ以南のアフリカで最強の誘導ロケット弾と弾道ミサイル部隊を持つ国からボロボロで機能しない抑止力の残骸を持つ国となってしまいました。かつてはエチオピア軍の誇りだったこれらのアセットについて、おそらく紛争が猛威を振るっている間か武力衝突が終結した直後に、この国は再導入を追い求める可能性があるでしょう。

 トルコから「バイラクタルTB2」を購入する可能性があるという噂を考慮すると、エチオピアはTB2との相乗効果によって威力が増加する別のトルコ製システムにも目を向けたくなるかもしれません。そのようなシステムには「TRLG-230」「T-300」 MRL、「ボラ」戦術弾道ミサイルが含まれており、特に前者はTB2との協力で得られたメリットが十分に証明されています。

[1] 国产A200远程制导火箭武器射程200公里火力猛 http://mil.news.sina.com.cn/2010-11-19/1424619881.html
[2] Multiple launch rocket systems “Polonez”/missile system “Polonez-M” https://ztem.by/en/catalog/mlrs/
[3] Ethiopia’s Tigray leader confirms firing missiles at Eritrea https://apnews.com/article/international-news-eritrea-ethiopia-asmara-kenya-33b9aea59b4c984562eaa86d8547c6dd
[4] https://twitter.com/wammezz/status/1339370865096572930
[5] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1343979723207049217

※  当記事は、2021年9月15日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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