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2025年12月14日日曜日

藁にもすがる思い:ティグレ戦争中に確認されたエチオピアへの武器移転(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年1月に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります(本国版の記事はリンク切れ)。

 エチオピアとアラブ首長国連邦、イランとの間に設けられた輸送網により、エチオピアは2021年現在進行中の紛争でティグレ防衛軍(TDF)を打ち負かすために必要な武器を全て備えることができています。

 2022年1月までに合計約140便の飛行があったにもかかわらず、窮地に立たされているエチオピア国防軍(ENDF)にどのような種類の武器や装備が届けられたかについては、ほとんど知られていません。[1]

 これは、ENDF全体に(兵士が装備の写真を撮ることを禁止するような)強力な作戦保全(OPSEC)の規則が徹底されていることが原因というわけではないようです。そもそも、ティグレ戦争勃発前のエチオピアは適切なOPSECの遵守が緩く、私たちのようなアナリストが歓迎していた事実があります。

 現在進行中のティグレ戦争の流れを変えるため、エチオピアは乏しいリソースの大半を世界各国からの無人攻撃機(UCAV)の入手に費やしています。これには、2021年8月に少なくとも2機の「モハジェル-6」を引き渡したイラン、2021年9月に3機の「翼竜I」を納入した中国、2021年11月にハラールメダ空軍基地に少なくとも6機の「翼竜I」を配備したアラブ首長国連邦が含まれます。[2] [3] [4]

 また、UAEが引き渡した複数のVTOL型UCAVもエチオピアで使用され続けています。[5]

 ただし、ENDFに引き渡された陸戦兵器については全く判明していません。この国が当初から保有している装甲戦闘車両(AFV)と牽引砲のストックは、戦闘の損失とティグレ軍に奪われた約100台の戦車と約70門の火砲を補うには十分だったようです。[6]

 これとは対照的に、Eティグレ軍がティグライ地方の基地を制圧した際に、ENDFは大口径多連装砲(MRL)と誘導ロケット弾や弾道ミサイルシステムのほとんどを失っています(編訳者注:「M20」弾道ミサイルシステムは戦後に少なくとも1門残存していることが確認されている)。[7] [8]

 したがって、エチオピアの失われた戦力を埋め合わせるために、大口径ロケット砲などの装備を提供することは十分ありえることだと思われます(編訳者注:2023年に中国から23門の「PCL-181」155mm自走榴弾砲を導入したが、ロケット砲類については未確認)。

  • この一覧は、ティグレ戦争中におけるエチオピアに引き渡された武器を網羅することが狙いです。
  • 各装備名の前に付されている国旗は、生産国よりも引き渡した国を示しています。
  • 各装備名をクリックすると当該兵器の画像を見ることができます。

無人攻撃機 (UCAV)

ミサイル・誘導爆弾 (UCAV用)

車両

[1] Iran Is Still Resupplying The Ethiopian Military https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/iran-is-still-resupplying-ethiopian.html
[2] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[3] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[4] The UAE Joins The Tigray War: Emirati Wing Loong I UCAVs Deploy To Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/the-uae-joins-tigray-war-emirati-wing.html
[5] UAE Combat Drones Break Cover In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-combat-drones-break-cover-in.html
[6] The Tigray Defence Forces - Documenting Its Heavy Weaponry https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-tigray-defence-forces-documenting.html
[7] From Friend To Foe: Ethiopia’s Chinese AR2 MRLs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/from-friend-to-foe-ethiopias-chinese.html
[8] Go Ballistic: Tigray’s Forgotten Missile War With Ethiopia and Eritrea https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/go-ballistic-tigrays-forgotten-missile.html


 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)

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2025年10月17日金曜日

救世主となるか:ティグレ戦争に投入されたUAE空軍の武装ドローン

「翼竜-Ⅰ」UCAV(イメージ画像でティグレ戦争とは無関係)

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2021年11月に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです(本国版ではリンク切れ)。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 ここ数か月でエチオピア政府をめぐる情勢は驚くべき逆転劇を見せました。

 2021年10月初旬、エチオピア軍がティグライ人勢力に対して行った大規模な攻勢が壮大な失敗に終わった後、ティグレ防衛軍(TDF)は反攻を開始し、一時は首都アディスアベバの安全さえ脅かす事態に陥りました。ところが、高高度を飛行する(武装)無人機に対抗できる防空システムを全く保有していなかったTDFは、結果として衰えることなく続くドローン攻撃の圧力に屈し、2021年12月中旬にティグレ州の境界線まで撤退したのです。[1][2]

 エチオピアが保有する無人攻撃機(UCAV)については、少なくとも中国製「翼竜II」が9機、イラン製「モハジェル-6」が2機、そして多数製のUAE製VTOL型UCAVが確認されています。これらのUCAVを支援するため、2種類のイスラエル製の無人偵察機も運用されています。[3][4]

 エチオピアは2021年9月に中国から最初の3機の「翼竜-I」を受領し、その2か月後の11月にはUAEがさらに6機を配備しました。エチオピア側によるトルコ製UCAVの取得も報じられているが、未確認のままです(注:後日に「バイラクタルTB2」と「バイラクタル・アクンジュ」を導入した)。[5] [6]

 UAEによるエチオピア政府側へのUCAV配備については、2020年11月のティグレ戦争勃発当初から推測されてきました。[8]

 それにもかからず、2020年11月にティグレ州上空での作戦を遂行するため、複数のUAE軍の「翼竜」がエリトリアのアッサブ空軍基地から出撃したという繰り返し主張されている説は、いまだに証拠によって裏付けられたことがありません。ただし、そのような動きがなかったとは断言できません。ティグレの重装備に対する精密爆撃(弾道ミサイル発射機や大口径多連装ロケット砲など)が何度も行われましたが、その使用自体が彼らの動きを説明できるかもしれません。
 
 UAEが武装ドローンをエチオピアに送った最初の事例は、2021年夏に確認されました。当時、UAE製のVTOL型UCAVが、エチオピア・ティグレ州のマイチュー地区で運用されているのが確認されたのです。これらのUCAVは市販ドローンを改造したもので、120mm迫撃砲弾2発を搭載可能という特徴があります。ちなみに、以前にUAEがイエメンに投入したものと同型です。[9]

 しかし、無誘導の迫撃砲弾は「翼竜-I」や「モハジェル-6」が搭載する誘導弾に比べて精度が著しく低く、機動性を有する敵どころか静止目標に対しても限定的な効果しか及ぼさないことは言うまでもないでしょう。

 UAEによるアビー・アハメド政権への支援の質が大幅に向上したのが2021年11月のことで、この時点でUAEが少なくとも6機の「翼竜-Ⅰ」を自国の操縦要員と共にハラール・メダ空軍基地に配備しました。[6]

 エチオピア政府がティグレ人勢力の脅威に屈服する可能性があるとの情報が、UAE空軍のストックから「翼竜-Ⅰ」をエチオピアへ即時展開させた真の理由だった可能性があります。

2021年11月に撮影されたハラールメダ基地の「翼竜-Ⅰ」。画像はWim Zwijnenburgによるもの。

 急速に拡大するUCAV部隊の受け入れ体制を強化するため、エチオピア空軍は現在9機の「翼竜-Ⅰ」が配備されているハラールメダ空軍基地において、新たなインフラ整備を既に開始しています。[10]

 この整備では複数の格納庫が整備される予定であり、最終的にはハラールメダに配備されている武装ドローンの全機を収容する見込みです(注:2025年現在で新しい格納庫は滑走路東側に1棟建てられたのみである)。

 現時点の「翼竜-Ⅰ」は、基地内の格納庫や複数の強化シェルター(HAS)から運用されていると見られています。

最近の衛星画像が示すとおり、ハラールメダでは新たなインフラ建設が進んでいる。右下隅にある青い格納庫には一部の「翼竜-Ⅰ」が格納されているほか、右端には専用の地上管制局(GCS)が展開している。

 当初、エチオピア空軍は「翼竜-Ⅰ」を純粋な偵察任務に投入し、後に「TL-2」空対地ミサイル(AGM)を調達して武装ドローンとしての運用を可能にした一方で、UAE機は当初から相当量の空対地兵装を投下していました。[11]

 これらの誘導弾については、特に各「翼竜-Ⅰ」が「ブルーアロー7」を2発しか搭載できないことを考慮すると、戦場に分散したティグレ人戦闘員の集団に対しては効果が低いものの、TDFの急速に減少する火力支援アセットは、同軍の通常戦による戦闘遂行能力及び進行中の攻勢支援能力に重大な影響を与えたに違いありません。

 ドローン攻撃が与える心理的効果と、戦闘員が頭上を飛ぶ武装ドローンを目視しながらも攻撃目標にできなかった事実は、TDFが攻勢を放棄してティグレ州へ撤退する決断にも影響を与えたと思われます。


ドローン攻撃で撃破されたTDFの「T-72B1」。戦車に命中したミサイルが内部で大規模な爆発を引き起こし、砲塔を吹き飛ばしたようだ。

 UAE空軍の「翼竜-Ⅰ」6機がエチオピアに配備されて僅か1か月後、UAEはティグレ州アラマタ地区における民間インフラへの空爆を実施しました。この空爆では町の病院と市場が攻撃され、42名の民間人が死亡し、少なくとも150名が負傷したことが確認されています。[12][13][14]

 アラマタにおける被害地域を詳細に分析した結果、中国製「ブルーアロー7」AGMの残骸が発見されました。これはUAEの「翼竜-Ⅰ」に標準装備されているものです。この残骸は着弾後も充分に残存していたため、リビアで発見された同ミサイルの残骸と比較対照・特定することができました。最も識別しやすい部品は尾部にあるロケットモーター用の排気ノズルで、あらゆる衝撃に耐えて残存するケースが多いようです。アラマタにおけるこのAGMの残骸は、こちらで確認できます。[15]

アラマタで発見された「ブルーアロー7」AGMの排気ノズル(左)とリビアで発見された同AGMの残骸(右)。

アラマタで発見された「ブルーアロー7」AGMの残骸。挿入されている画像はリビアで回収された同ミサイルの残骸を示している。

[1] Ethiopia's Tigray crisis: Citizens urged to defend Addis Ababa against rebels https://www.bbc.com/news/world-africa-59134431
[2] Tigrayan Forces Retreat in Ethiopia https://www.crisisgroup.org/africa/horn-africa/ethiopia/horn-s3-episode-5
[3] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[4] The Israel Connection - Ethiopia’s Other UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/the-israel-connection-ethiopias-other.html
[4] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[5] The UAE Joins The Tigray War: Emirati Wing Loong I UCAVs Deploy To Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/the-uae-joins-tigray-war-emirati-wing.html
[7] Ethiopia-Turkey pact fuels speculation about drone use in Tigray war https://www.theguardian.com/world/2021/nov/04/ethiopia-turkey-pact-fuels-speculation-about-drone-use-in-tigray-war
[8] Are Emirati Armed Drones Supporting Ethiopia from an Eritrean Air Base? https://www.bellingcat.com/news/rest-of-world/2020/11/19/are-emirati-armed-drones-supporting-ethiopia-from-an-eritrean-air-base/
[9] UAE Combat Drones Break Cover In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-combat-drones-break-cover-in.html
[10] New Drone Infrastructure Emerges At Harar Meda Air Base https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/new-drone-infrastructure-emerges-at.html
[11] Ethiopia Acquires Chinese TL-2 Missiles For Its Wing Loong I UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/ethiopia-acquires-chinese-tl-2-missiles.html
[12] UAE Implicated In Lethal Drone Strikes In Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/uae-implicated-in-lethal-drone-strikes.html
[13] Daily Noon Briefing Highlights: Ethiopia https://www.unocha.org/story/daily-noon-briefing-highlights-ethiopia-34
[14] Ethiopia: Consecutive days airstrikes in Tigray’s Alamata kill 42 civilians, injure more than 150, cause massive destruction https://globenewsnet.com/news/ethiopia-consecutive-days-airstrikes-in-tigrays-alamata-kill-42-civilians-injure-more-than-150-cause-massive-destruction/
[15] ደብዳብ ድሮናትን ነፈርትን ከተማ ኣላማጣ https://youtu.be/CTgtrGqmXUg?t=204


 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)

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2023年10月28日土曜日

戦友から敵へ:エチオピアの中国製「AR2」多連装ロケット砲

 著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ編訳:Tarao Goo

 2010年代は、エチオピア国防軍(ENDF)にとって大きな変動の時期でした。 

 この10年以内に、冷戦時代の老朽化した兵器は徐々に退役し(場合によってはアップグレードされ)、より近代的な装備に置き換えられていったのです。これは単に旧式のシステムをそのまま代替する場合もありましたが、ENDFは大口径の多連装ロケット砲、誘導ロケット弾、短距離弾道ミサイル(SRBM)の導入を通じて全く新しい戦力を導入しようと試みました。

 新たに導入した兵器のいくつかは、ENDFの近代化への取り組みを誇示するために報道や武器展示会で大きく取り上げられるものもありましたが、強力な運用保全(OPSEC)規則に沿って、意図的にスポットライトから外された兵器もありました。おそらく、それらは無防備な敵に火力を解き放つことができるその日までサプライズとして秘匿されていたのかもしれません。

 その兵器の一つが「AR2」300mm 多連装ロケット砲(MRL)であり、その多くは2010年代後半にエチオピアが中国から購入したものです。

 「M20」SRBM・「A200」誘導ロケットシステムと共に「AR2」を導入したことは、ENDFに近隣諸国がかき集めることができた同種装備よりも明確な優位性をもたらしました。

 サハラ以南のアフリカで大口径MRLの導入が確認されている国は、多数の北朝鮮製「M-1989」240mm MRLを運用しているアンゴラ、現在イラン製システムと中国の「WS-1B」及び「WS-2」MRLを運用しているスーダン、そして「AR2」の競合システムで同様の300mmロケット弾を使用する「A100」MRLを調達したタンザニアだけです。

 2010年代にエチオピアに到着した後、「AR2」はエリトリアとの不安定な国境の近くにあるENDFの北部コマンドに配属されました。 

 当時はまだ予測できませんでしたが、これはエチオピアの最高司令部がすぐに後悔することになる決定でした。なぜならば、2020年11月にティグレ州で武力衝突が勃発すると、「AR2」はこの地域に点在するENDFの基地を制圧し始めた分離主義勢力の軍隊によって即座に鹵獲されてしまったからです。また、(おそらく彼ら自身がティグレ人であったと思われる)部隊の指揮官が、「AR2」とそれを運用する兵士を連れて直接分離主義勢力に直接加わった可能性もあります。

 経緯がどうであれ、結果的にティグレ防衛軍(TDF)は大口径のMRL、誘導ロケット弾、少なくとも射程距離が280kmもある弾道ミサイルを突如として掌握することに成功したのです。 

 「AR2」はすぐに元の持ち主に対して使用され、今やエチオピア軍は調達したばかりのシステムの破壊力を実感する側となってしまいました。

 この最初の衝撃を克服した後、ENDFは鹵獲されたシステムを発見・破壊するために貴重なリソースを割く必要があり、現在までに少なくとも1台の「AR2」と再装填用のロケット弾を積載した輸送車が後にティグレ中部のテケズで奪還・破壊されました。[1]

 残った別のシステムの運命については、現時点でも不明のままです。

 「AR2」は中国人民解放軍陸軍で大量に運用されている「PHL-03」MRLの輸出仕様です。
ソ連の「BM-30 "スメルチ"」の設計に基づいているため、「PHL-03」と「AR2」はロシアのものと同じ構成を維持しており、300mmロケット弾用の12本の発射管を万山(ワンシャン)製「WS2400」8x8重量級トラックに搭載しています。

 ただし、中国のロケット弾はソ連のものよりも射程距離が大幅に伸びており(130km対70km)、「AR2」にはGPS/北斗/グロナスを取り入れたデジタル式射撃統制システムも組み込まれています。ジャミングを受けない場合、このような誘導方式はMRLの命中精度を大幅に向上させることが可能なため、対砲兵戦や高価値の標的への攻撃に使用できる可能性をもたらすという点で本質的に新たなパラダイムを切り開きます。

 今までのところ、エチオピアとモロッコだけが「AR2」の輸出先として知られています。

 各発射機にロケット弾がない状態が長引かないように、「AR2」には12発の再装填用ロケット弾を積載した、専用の「8x8 WS2400」ベース及び「10x8(または10x10)WS2500」トランスポーターを伴っています。 

 「AR2」が現代のシステムに比べて大きな欠点となっているのは、単にロケット弾ポッド全体を一度に交換するのではなく、各発射管にロケット弾を一本ずつ装填しなければならないということです。これについては、前者の方が装填速度がはるかに速く、敵に次の斉射するまでの時間を短縮できるからです。


  全く皮肉なことに、ENDFが過去10年間に備蓄してきた高度な兵器の大半がかつての持ち主である自身に向けられているため、たとえ彼らがこの紛争で優位に立ったとしても、再び(鹵獲された兵器の)代替装備を探すことを余儀なくされるでしょう。

 その間にも、死傷者が積み重なり続けて北部の地域の大半が混乱状態にあるため、エチオピアは苦しみ続けています。

「AR2」の前で中国人インストラクターと一緒に並ぶエチオピアの乗員(エチオピアにて)

 [1] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1352325064973189123

※  当記事は、2021年9月3日に「Oryx」本国版に投稿されたものを翻訳したもので。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。 

2023年8月4日金曜日

エチオピアのイスラエル製小火器:「TAR-21 " タボール"」アサルトライフル


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

※  当記事は、2021年12月4日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意 
    訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 エチオピア国防軍(ENDF)は、ロシアやウクライナ、そして中国といった国々から調達した武器を主に運用しています。しかし、このエチオピアは時折、武器や装備の入手で他国に目を向けることがあります。これにはドイツ、UAE、イスラエルといった国々の武器メーカーも含まれており、その製品はENDFに広く導入されています。[2]
 
 そのような製品の1つが「IWI」製「TAR-21 "タボール" 」5.56mm口径ブルパップ式アサルトライフルであり、かなりの数が2000年代後半からエチオピアの治安組織の精鋭部隊で使用されています。

 イスラエルはアパルトヘイト体制下の南アフリカに核抑止力の確立すら援助するなど、終始にわたって強力な支援国でありましたが、同国はほかの多くのアフリカ諸国にとっても人気のある武器類の供給者であることが実証されています。

 エチオピアはハイレ・セラシエ1世が統治していた1950年代に初めてイスラエルとの軍事的な連携を構築し、1974年から1991年までエチオピアに存在した共産・社会主義政権下でもイスラエルとの軍事面での協力関係が続けられました。この時代、メンギスツ政権はアラブ諸国とイスラエルの双方と緊密な関係を保っていましたが、後者についてはほぼ秘匿されていました。

 エチオピアとイスラエルの協力な結びつきが軍備の引き渡しという形でも明らかとなったのは、つい最近になってからのことです。

 これには「エアロスター」「ワンダーB」無人航空機(UAV)が含まれており、どちらも今ではエチオピア北部で戦いを繰り広げているティグライの反乱軍に対してほぼ確実に実戦投入されています。[1]

 ENDFで運用されているもう1つのイスラエル製兵器は「サンダー」歩兵機動車(IMV)ですが、これまでのところティグレ戦争では公に目撃されたことはありません。

 エチオピア軍で運用されているイスラエル製の武器で最も知られているのが、「TAR-21」アサルトライフルであることに疑いの余地はありません。

 これは特に、共和国防衛隊の隊員が「TAR-21」を持ちながら自身の筋肉を誇示するポーズをとっている画像がソーシャルメディア上に多数存在していることから、同部隊で「TAR-21」とステロイドの両方が使用されていることが確認されたことによります(注:この文章には冗談も混じっていますが、実際に強烈な印象与えるためにイメージに残りやすい点も否定はできないでしょう)。

 同ライフルのそれほど仰々しくはない使い道として、エチオピア首相の身辺警護要員(PPD)による使用があります。

 エチオピアでは、共和国防衛隊とPPDの軍人が唯一の「TAR-21」ユーザーとなっています。
      

 「TAR-21」は、左右のどちらが利き腕の人でも操作しやすいように排莢口を左右に備えた現代的なアサルトライフルです。このライフルは市街地での運用を想定して設計されており、その要件が最終的にブルパップ式を採用することに至らせました。

 「TAR-21」は世界30カ国以上で使用されており、その確かな特性と高い品質が証明されています。

 より小さな派生型の「タボールX95」は、イスラエル国防軍(IDF)の新制式小銃として採用されています(最近、IDFが「タボール」を「M4」カービンに置き換えるという報道がありましたが、その話は否定されました)。

 エチオピアで使用されている「TAR-21」には2種類の照準器のどちらかが装備されているのが一般的ですが、極めてまれなケースとして40mm擲弾発射器を装備したものも確認されています。注意すべきことは、擲弾発射機は共和国防衛隊が使用する「TAR-21」の一部に装備されているだけで、PPDの軍人はこのような追加装備をほとんど必要としていないことでしょう(注:任務の特性上、擲弾発射機を装備するのは共和国防衛隊に限られるということ)。

 その代わり、アビー・アハメド首相のPPDによって装備されている「TAR-21」では、戦闘中により素早くリロードできるようにダクトテープで2つに連結された弾倉が装填されている場合が一般的なスタイルのようです(注:よく見るとダクトテープではなく、専用のクリップなどで連結されている可能性があります)。

メレス・ゼナウィ首相(当時)のPPDが「TAR-21」を装備している(2010年)

 共和国防衛隊やPPDに現代的な装備が支給されている間にも、エチオピア軍は1950年代製のライフルやヘルメットがまだ残っている可能性がある国中の武器庫を探し求めることを余儀なくされています。そのことを考慮すると、「TAR-21」のような新型の小火器が、まもなくエチオピアの紛争で疲弊した地域にもたどり着くことは考えられないことではないでしょう(注:ENDFが共和国防衛隊から「TAR-21」を譲渡されたり、新たに支給される可能性があるということ)。

 首都アディスアベバを防御する共和国防衛隊の部隊による使用が(ティグレ防衛軍の敗退で)回避されたため、もはやENDFはどんな装備も秘密にしたり、出し惜しみする余裕がなくなるかもしれません。このことは、近いうちに「TAR-21」がENDFの手によってティグレ防衛軍に対して使用される可能性があることを意味します。

 その戦場で「タボール」は、中国、UAE、イランから新たに引き渡されたされた兵器も含む、どんどん多様化するENDFの保有兵器群の仲間入りをすることになるでしょう。

 ※2021年11月に前線地域を視察したアビー・アハメド首相を護衛した共和国防衛隊の隊員が、「TAR-21」だけでなく「X95-SBR」を携行している姿が初めて確認されました。

[1] The Israel Connection - Ethiopia’s Other UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/the-israel-connection-ethiopias-other.html
[2] Israeli Arms In Ethiopia: The Thunder IMV https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/israeli-arms-in-ethiopia-thunder-imv.html


おすすめの記事

2022年12月29日木曜日

忘れられた戦争:ティグレ戦争で失われた航空機一覧 (2020-2021)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア政府と北部のティグレ州との間で勃発した戦争は、エチオピアを混乱に陥れています。この武力紛争は2020年11月から熾烈を極めており、数千人が死亡、数百万人が避難を強いられいる状況にあります。

 エチオピア政府とティグレ人民解放戦線(TPLF)との間で何ヶ月にわたる緊張関係が続いていた後に、情勢が激化して戦争となったのです。

 1974年から1991年までエチオピアに存在していた共産主義・社会主義政権を打倒した後、TPLFは30年近くにわたってエチオピアの権力の中心にいました。エチオピアの人口の約5%しか占めていないにもかかわらず、ティグレ人の役人は政府を支配することができました。

 2014年から2016年にかけて反政府デモが相次いだ後、2018年にアビー・アハメド首相率いる新政権が発足しましたが、アビー首相はTPLFの権力を抑制しようと改革を強行し、ティグレ人を大いに動揺させました。

 それに応えて、ティグレ州は独自の地方選挙を実施して緊張が高まり、緊張は敵意をむき出しにする段階まで高まりました。

 この政治危機は2020年11月にTPLFの部隊(TDF:ティグレ防衛軍)がティグレ州のエチオピア軍基地を攻撃したことで戦争に発展し、エチオピア陸軍はティグレ州への侵攻を開始しました。

 この地域の支配権を奪回した後、TDFはエチオピア軍をティグレ州の外へ追いやり、エチオピアへの攻勢を継続しています。

 エチオピア空軍(ETAF)は、MiG-23BN戦闘爆撃機やMi-35攻撃ヘリコプターによる近接航空支援任務と、輸送機やヘリコプターを用いた敵に包囲された地域への人員や装備の運搬など、紛争のあらゆる段階で活発的に行動する姿が見られています。

 また、隣国のエリトリア空軍もMiG-29戦闘機をこの紛争に投入したと頻繁に報じられていますが、これらの主張を裏付ける証拠は示されていません。

 その一方で、ティグレ軍は少なくとも3基のS-125/SA-3地対空ミサイル(SAM)陣地と一基のS-75/SA-2陣地、多数の9K310/SA-16「イグラ-1」MANPADS(携帯式地対空ミサイル)、12門を超えるZU-23 23mm対空機関砲を含む、航空機に対抗できるいくつかの対空兵器を保有しています。[1]

9K310「イグラ-1」MANPADSを構えているティグレの兵士。このMANPADSは最低でも2機のエチオピア軍機の撃墜に関わったものと考えられている。

ティグレ軍の手に落ちたS-125陣地

 ティグレ戦争は他の紛争と同様にプロパガンダが横行しており、ティグレ側から定期的に撃墜したという虚偽の戦果がリリースされています。

このような根拠のない主張が頻繁に投稿されています

 この一覧はティグレ戦争におけるエチオピア機の損失を視覚的に確認することを目的としており、新たな損失が発生し、確認された場合に更新されます。
 リストの最終更新日:2021年11月12日(Oryx英語版の元記事の最終更新日は2021年11月12日)


固定翼機(3)

ヘリコプター(2)


1x MiG-23BN(2020年11月29日, パイロットは脱出後に拘束)





1x MiG-23BN(2020年12月6日,ティグレ州のシレ《インダセラシエ》空港への緊急着陸を試みようとした際に滑走路の手前で墜落)





1x L-100-30(2921年6月23日,ティグレ州のギジェット近郊でMANPADSによって撃墜されたものと推測。この機はかつてエチオピア航空で使用されていたもの。 墜落時の映像はここで視聴可能





1x Mi-35(2021年4月20日, ティグレ州のアビー・アディ近郊でMANPADSによって撃墜されたものと推測)




1x Mi-35(2021年11月12日, アファール州近郊でMANPADSによって撃墜されたものと推測)
 




[1] The Tigray Defence Forces - Documenting Its Heavy Weaponry https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-tigray-defence-forces-documenting.html



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