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2025年10月17日金曜日

救世主となるか:ティグレ戦争に投入されたUAE空軍の武装ドローン

「翼竜-Ⅰ」UCAV(イメージ画像でティグレ戦争とは無関係)

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2021年11月に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです(本国版ではリンク切れ)。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 ここ数か月でエチオピア政府をめぐる情勢は驚くべき逆転劇を見せました。

 2021年10月初旬、エチオピア軍がティグライ人勢力に対して行った大規模な攻勢が壮大な失敗に終わった後、ティグレ防衛軍(TDF)は反攻を開始し、一時は首都アディスアベバの安全さえ脅かす事態に陥りました。ところが、高高度を飛行する(武装)無人機に対抗できる防空システムを全く保有していなかったTDFは、結果として衰えることなく続くドローン攻撃の圧力に屈し、2021年12月中旬にティグレ州の境界線まで撤退したのです。[1][2]

 エチオピアが保有する無人攻撃機(UCAV)については、少なくとも中国製「翼竜II」が9機、イラン製「モハジェル-6」が2機、そして多数製のUAE製VTOL型UCAVが確認されています。これらのUCAVを支援するため、2種類のイスラエル製の無人偵察機も運用されています。[3][4]

 エチオピアは2021年9月に中国から最初の3機の「翼竜-I」を受領し、その2か月後の11月にはUAEがさらに6機を配備しました。エチオピア側によるトルコ製UCAVの取得も報じられているが、未確認のままです(注:後日に「バイラクタルTB2」と「バイラクタル・アクンジュ」を導入した)。[5] [6]

 UAEによるエチオピア政府側へのUCAV配備については、2020年11月のティグレ戦争勃発当初から推測されてきました。[8]

 それにもかからず、2020年11月にティグレ州上空での作戦を遂行するため、複数のUAE軍の「翼竜」がエリトリアのアッサブ空軍基地から出撃したという繰り返し主張されている説は、いまだに証拠によって裏付けられたことがありません。ただし、そのような動きがなかったとは断言できません。ティグレの重装備に対する精密爆撃(弾道ミサイル発射機や大口径多連装ロケット砲など)が何度も行われましたが、その使用自体が彼らの動きを説明できるかもしれません。
 
 UAEが武装ドローンをエチオピアに送った最初の事例は、2021年夏に確認されました。当時、UAE製のVTOL型UCAVが、エチオピア・ティグレ州のマイチュー地区で運用されているのが確認されたのです。これらのUCAVは市販ドローンを改造したもので、120mm迫撃砲弾2発を搭載可能という特徴があります。ちなみに、以前にUAEがイエメンに投入したものと同型です。[9]

 しかし、無誘導の迫撃砲弾は「翼竜-I」や「モハジェル-6」が搭載する誘導弾に比べて精度が著しく低く、機動性を有する敵どころか静止目標に対しても限定的な効果しか及ぼさないことは言うまでもないでしょう。

 UAEによるアビー・アハメド政権への支援の質が大幅に向上したのが2021年11月のことで、この時点でUAEが少なくとも6機の「翼竜-Ⅰ」を自国の操縦要員と共にハラール・メダ空軍基地に配備しました。[6]

 エチオピア政府がティグレ人勢力の脅威に屈服する可能性があるとの情報が、UAE空軍のストックから「翼竜-Ⅰ」をエチオピアへ即時展開させた真の理由だった可能性があります。

2021年11月に撮影されたハラールメダ基地の「翼竜-Ⅰ」。画像はWim Zwijnenburgによるもの。

 急速に拡大するUCAV部隊の受け入れ体制を強化するため、エチオピア空軍は現在9機の「翼竜-Ⅰ」が配備されているハラールメダ空軍基地において、新たなインフラ整備を既に開始しています。[10]

 この整備では複数の格納庫が整備される予定であり、最終的にはハラールメダに配備されている武装ドローンの全機を収容する見込みです(注:2025年現在で新しい格納庫は滑走路東側に1棟建てられたのみである)。

 現時点の「翼竜-Ⅰ」は、基地内の格納庫や複数の強化シェルター(HAS)から運用されていると見られています。

最近の衛星画像が示すとおり、ハラールメダでは新たなインフラ建設が進んでいる。右下隅にある青い格納庫には一部の「翼竜-Ⅰ」が格納されているほか、右端には専用の地上管制局(GCS)が展開している。

 当初、エチオピア空軍は「翼竜-Ⅰ」を純粋な偵察任務に投入し、後に「TL-2」空対地ミサイル(AGM)を調達して武装ドローンとしての運用を可能にした一方で、UAE機は当初から相当量の空対地兵装を投下していました。[11]

 これらの誘導弾については、特に各「翼竜-Ⅰ」が「ブルーアロー7」を2発しか搭載できないことを考慮すると、戦場に分散したティグレ人戦闘員の集団に対しては効果が低いものの、TDFの急速に減少する火力支援アセットは、同軍の通常戦による戦闘遂行能力及び進行中の攻勢支援能力に重大な影響を与えたに違いありません。

 ドローン攻撃が与える心理的効果と、戦闘員が頭上を飛ぶ武装ドローンを目視しながらも攻撃目標にできなかった事実は、TDFが攻勢を放棄してティグレ州へ撤退する決断にも影響を与えたと思われます。


ドローン攻撃で撃破されたTDFの「T-72B1」。戦車に命中したミサイルが内部で大規模な爆発を引き起こし、砲塔を吹き飛ばしたようだ。

 UAE空軍の「翼竜-Ⅰ」6機がエチオピアに配備されて僅か1か月後、UAEはティグレ州アラマタ地区における民間インフラへの空爆を実施しました。この空爆では町の病院と市場が攻撃され、42名の民間人が死亡し、少なくとも150名が負傷したことが確認されています。[12][13][14]

 アラマタにおける被害地域を詳細に分析した結果、中国製「ブルーアロー7」AGMの残骸が発見されました。これはUAEの「翼竜-Ⅰ」に標準装備されているものです。この残骸は着弾後も充分に残存していたため、リビアで発見された同ミサイルの残骸と比較対照・特定することができました。最も識別しやすい部品は尾部にあるロケットモーター用の排気ノズルで、あらゆる衝撃に耐えて残存するケースが多いようです。アラマタにおけるこのAGMの残骸は、こちらで確認できます。[15]

アラマタで発見された「ブルーアロー7」AGMの排気ノズル(左)とリビアで発見された同AGMの残骸(右)。

アラマタで発見された「ブルーアロー7」AGMの残骸。挿入されている画像はリビアで回収された同ミサイルの残骸を示している。

[1] Ethiopia's Tigray crisis: Citizens urged to defend Addis Ababa against rebels https://www.bbc.com/news/world-africa-59134431
[2] Tigrayan Forces Retreat in Ethiopia https://www.crisisgroup.org/africa/horn-africa/ethiopia/horn-s3-episode-5
[3] Iranian Mohajer-6 Drones Spotted In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/iranian-mohajer-6-drones-spotted-in.html
[4] The Israel Connection - Ethiopia’s Other UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/the-israel-connection-ethiopias-other.html
[4] Wing Loong Is Over Ethiopia: Chinese UCAVs Join The Battle For Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/wing-loong-is-over-ethiopia-chinese.html
[5] The UAE Joins The Tigray War: Emirati Wing Loong I UCAVs Deploy To Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/the-uae-joins-tigray-war-emirati-wing.html
[7] Ethiopia-Turkey pact fuels speculation about drone use in Tigray war https://www.theguardian.com/world/2021/nov/04/ethiopia-turkey-pact-fuels-speculation-about-drone-use-in-tigray-war
[8] Are Emirati Armed Drones Supporting Ethiopia from an Eritrean Air Base? https://www.bellingcat.com/news/rest-of-world/2020/11/19/are-emirati-armed-drones-supporting-ethiopia-from-an-eritrean-air-base/
[9] UAE Combat Drones Break Cover In Ethiopia https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/uae-combat-drones-break-cover-in.html
[10] New Drone Infrastructure Emerges At Harar Meda Air Base https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/new-drone-infrastructure-emerges-at.html
[11] Ethiopia Acquires Chinese TL-2 Missiles For Its Wing Loong I UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/ethiopia-acquires-chinese-tl-2-missiles.html
[12] UAE Implicated In Lethal Drone Strikes In Tigray https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/uae-implicated-in-lethal-drone-strikes.html
[13] Daily Noon Briefing Highlights: Ethiopia https://www.unocha.org/story/daily-noon-briefing-highlights-ethiopia-34
[14] Ethiopia: Consecutive days airstrikes in Tigray’s Alamata kill 42 civilians, injure more than 150, cause massive destruction https://globenewsnet.com/news/ethiopia-consecutive-days-airstrikes-in-tigrays-alamata-kill-42-civilians-injure-more-than-150-cause-massive-destruction/
[15] ደብዳብ ድሮናትን ነፈርትን ከተማ ኣላማጣ https://youtu.be/CTgtrGqmXUg?t=204


 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)

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2023年10月28日土曜日

戦友から敵へ:エチオピアの中国製「AR2」多連装ロケット砲

 著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ編訳:Tarao Goo

 2010年代は、エチオピア国防軍(ENDF)にとって大きな変動の時期でした。 

 この10年以内に、冷戦時代の老朽化した兵器は徐々に退役し(場合によってはアップグレードされ)、より近代的な装備に置き換えられていったのです。これは単に旧式のシステムをそのまま代替する場合もありましたが、ENDFは大口径の多連装ロケット砲、誘導ロケット弾、短距離弾道ミサイル(SRBM)の導入を通じて全く新しい戦力を導入しようと試みました。

 新たに導入した兵器のいくつかは、ENDFの近代化への取り組みを誇示するために報道や武器展示会で大きく取り上げられるものもありましたが、強力な運用保全(OPSEC)規則に沿って、意図的にスポットライトから外された兵器もありました。おそらく、それらは無防備な敵に火力を解き放つことができるその日までサプライズとして秘匿されていたのかもしれません。

 その兵器の一つが「AR2」300mm 多連装ロケット砲(MRL)であり、その多くは2010年代後半にエチオピアが中国から購入したものです。

 「M20」SRBM・「A200」誘導ロケットシステムと共に「AR2」を導入したことは、ENDFに近隣諸国がかき集めることができた同種装備よりも明確な優位性をもたらしました。

 サハラ以南のアフリカで大口径MRLの導入が確認されている国は、多数の北朝鮮製「M-1989」240mm MRLを運用しているアンゴラ、現在イラン製システムと中国の「WS-1B」及び「WS-2」MRLを運用しているスーダン、そして「AR2」の競合システムで同様の300mmロケット弾を使用する「A100」MRLを調達したタンザニアだけです。

 2010年代にエチオピアに到着した後、「AR2」はエリトリアとの不安定な国境の近くにあるENDFの北部コマンドに配属されました。 

 当時はまだ予測できませんでしたが、これはエチオピアの最高司令部がすぐに後悔することになる決定でした。なぜならば、2020年11月にティグレ州で武力衝突が勃発すると、「AR2」はこの地域に点在するENDFの基地を制圧し始めた分離主義勢力の軍隊によって即座に鹵獲されてしまったからです。また、(おそらく彼ら自身がティグレ人であったと思われる)部隊の指揮官が、「AR2」とそれを運用する兵士を連れて直接分離主義勢力に直接加わった可能性もあります。

 経緯がどうであれ、結果的にティグレ防衛軍(TDF)は大口径のMRL、誘導ロケット弾、少なくとも射程距離が280kmもある弾道ミサイルを突如として掌握することに成功したのです。 

 「AR2」はすぐに元の持ち主に対して使用され、今やエチオピア軍は調達したばかりのシステムの破壊力を実感する側となってしまいました。

 この最初の衝撃を克服した後、ENDFは鹵獲されたシステムを発見・破壊するために貴重なリソースを割く必要があり、現在までに少なくとも1台の「AR2」と再装填用のロケット弾を積載した輸送車が後にティグレ中部のテケズで奪還・破壊されました。[1]

 残った別のシステムの運命については、現時点でも不明のままです。

 「AR2」は中国人民解放軍陸軍で大量に運用されている「PHL-03」MRLの輸出仕様です。
ソ連の「BM-30 "スメルチ"」の設計に基づいているため、「PHL-03」と「AR2」はロシアのものと同じ構成を維持しており、300mmロケット弾用の12本の発射管を万山(ワンシャン)製「WS2400」8x8重量級トラックに搭載しています。

 ただし、中国のロケット弾はソ連のものよりも射程距離が大幅に伸びており(130km対70km)、「AR2」にはGPS/北斗/グロナスを取り入れたデジタル式射撃統制システムも組み込まれています。ジャミングを受けない場合、このような誘導方式はMRLの命中精度を大幅に向上させることが可能なため、対砲兵戦や高価値の標的への攻撃に使用できる可能性をもたらすという点で本質的に新たなパラダイムを切り開きます。

 今までのところ、エチオピアとモロッコだけが「AR2」の輸出先として知られています。

 各発射機にロケット弾がない状態が長引かないように、「AR2」には12発の再装填用ロケット弾を積載した、専用の「8x8 WS2400」ベース及び「10x8(または10x10)WS2500」トランスポーターを伴っています。 

 「AR2」が現代のシステムに比べて大きな欠点となっているのは、単にロケット弾ポッド全体を一度に交換するのではなく、各発射管にロケット弾を一本ずつ装填しなければならないということです。これについては、前者の方が装填速度がはるかに速く、敵に次の斉射するまでの時間を短縮できるからです。


  全く皮肉なことに、ENDFが過去10年間に備蓄してきた高度な兵器の大半がかつての持ち主である自身に向けられているため、たとえ彼らがこの紛争で優位に立ったとしても、再び(鹵獲された兵器の)代替装備を探すことを余儀なくされるでしょう。

 その間にも、死傷者が積み重なり続けて北部の地域の大半が混乱状態にあるため、エチオピアは苦しみ続けています。

「AR2」の前で中国人インストラクターと一緒に並ぶエチオピアの乗員(エチオピアにて)

 [1] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1352325064973189123

※  当記事は、2021年9月3日に「Oryx」本国版に投稿されたものを翻訳したもので。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。 

2023年8月4日金曜日

エチオピアのイスラエル製小火器:「TAR-21 " タボール"」アサルトライフル


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

※  当記事は、2021年12月4日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意 
    訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 エチオピア国防軍(ENDF)は、ロシアやウクライナ、そして中国といった国々から調達した武器を主に運用しています。しかし、このエチオピアは時折、武器や装備の入手で他国に目を向けることがあります。これにはドイツ、UAE、イスラエルといった国々の武器メーカーも含まれており、その製品はENDFに広く導入されています。[2]
 
 そのような製品の1つが「IWI」製「TAR-21 "タボール" 」5.56mm口径ブルパップ式アサルトライフルであり、かなりの数が2000年代後半からエチオピアの治安組織の精鋭部隊で使用されています。

 イスラエルはアパルトヘイト体制下の南アフリカに核抑止力の確立すら援助するなど、終始にわたって強力な支援国でありましたが、同国はほかの多くのアフリカ諸国にとっても人気のある武器類の供給者であることが実証されています。

 エチオピアはハイレ・セラシエ1世が統治していた1950年代に初めてイスラエルとの軍事的な連携を構築し、1974年から1991年までエチオピアに存在した共産・社会主義政権下でもイスラエルとの軍事面での協力関係が続けられました。この時代、メンギスツ政権はアラブ諸国とイスラエルの双方と緊密な関係を保っていましたが、後者についてはほぼ秘匿されていました。

 エチオピアとイスラエルの協力な結びつきが軍備の引き渡しという形でも明らかとなったのは、つい最近になってからのことです。

 これには「エアロスター」「ワンダーB」無人航空機(UAV)が含まれており、どちらも今ではエチオピア北部で戦いを繰り広げているティグライの反乱軍に対してほぼ確実に実戦投入されています。[1]

 ENDFで運用されているもう1つのイスラエル製兵器は「サンダー」歩兵機動車(IMV)ですが、これまでのところティグレ戦争では公に目撃されたことはありません。

 エチオピア軍で運用されているイスラエル製の武器で最も知られているのが、「TAR-21」アサルトライフルであることに疑いの余地はありません。

 これは特に、共和国防衛隊の隊員が「TAR-21」を持ちながら自身の筋肉を誇示するポーズをとっている画像がソーシャルメディア上に多数存在していることから、同部隊で「TAR-21」とステロイドの両方が使用されていることが確認されたことによります(注:この文章には冗談も混じっていますが、実際に強烈な印象与えるためにイメージに残りやすい点も否定はできないでしょう)。

 同ライフルのそれほど仰々しくはない使い道として、エチオピア首相の身辺警護要員(PPD)による使用があります。

 エチオピアでは、共和国防衛隊とPPDの軍人が唯一の「TAR-21」ユーザーとなっています。
      

 「TAR-21」は、左右のどちらが利き腕の人でも操作しやすいように排莢口を左右に備えた現代的なアサルトライフルです。このライフルは市街地での運用を想定して設計されており、その要件が最終的にブルパップ式を採用することに至らせました。

 「TAR-21」は世界30カ国以上で使用されており、その確かな特性と高い品質が証明されています。

 より小さな派生型の「タボールX95」は、イスラエル国防軍(IDF)の新制式小銃として採用されています(最近、IDFが「タボール」を「M4」カービンに置き換えるという報道がありましたが、その話は否定されました)。

 エチオピアで使用されている「TAR-21」には2種類の照準器のどちらかが装備されているのが一般的ですが、極めてまれなケースとして40mm擲弾発射器を装備したものも確認されています。注意すべきことは、擲弾発射機は共和国防衛隊が使用する「TAR-21」の一部に装備されているだけで、PPDの軍人はこのような追加装備をほとんど必要としていないことでしょう(注:任務の特性上、擲弾発射機を装備するのは共和国防衛隊に限られるということ)。

 その代わり、アビー・アハメド首相のPPDによって装備されている「TAR-21」では、戦闘中により素早くリロードできるようにダクトテープで2つに連結された弾倉が装填されている場合が一般的なスタイルのようです(注:よく見るとダクトテープではなく、専用のクリップなどで連結されている可能性があります)。

メレス・ゼナウィ首相(当時)のPPDが「TAR-21」を装備している(2010年)

 共和国防衛隊やPPDに現代的な装備が支給されている間にも、エチオピア軍は1950年代製のライフルやヘルメットがまだ残っている可能性がある国中の武器庫を探し求めることを余儀なくされています。そのことを考慮すると、「TAR-21」のような新型の小火器が、まもなくエチオピアの紛争で疲弊した地域にもたどり着くことは考えられないことではないでしょう(注:ENDFが共和国防衛隊から「TAR-21」を譲渡されたり、新たに支給される可能性があるということ)。

 首都アディスアベバを防御する共和国防衛隊の部隊による使用が(ティグレ防衛軍の敗退で)回避されたため、もはやENDFはどんな装備も秘密にしたり、出し惜しみする余裕がなくなるかもしれません。このことは、近いうちに「TAR-21」がENDFの手によってティグレ防衛軍に対して使用される可能性があることを意味します。

 その戦場で「タボール」は、中国、UAE、イランから新たに引き渡されたされた兵器も含む、どんどん多様化するENDFの保有兵器群の仲間入りをすることになるでしょう。

 ※2021年11月に前線地域を視察したアビー・アハメド首相を護衛した共和国防衛隊の隊員が、「TAR-21」だけでなく「X95-SBR」を携行している姿が初めて確認されました。

[1] The Israel Connection - Ethiopia’s Other UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/the-israel-connection-ethiopias-other.html
[2] Israeli Arms In Ethiopia: The Thunder IMV https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/israeli-arms-in-ethiopia-thunder-imv.html


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2022年12月29日木曜日

忘れられた戦争:ティグレ戦争で失われた航空機一覧 (2020-2021)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 エチオピア政府と北部のティグレ州との間で勃発した戦争は、エチオピアを混乱に陥れています。この武力紛争は2020年11月から熾烈を極めており、数千人が死亡、数百万人が避難を強いられいる状況にあります。

 エチオピア政府とティグレ人民解放戦線(TPLF)との間で何ヶ月にわたる緊張関係が続いていた後に、情勢が激化して戦争となったのです。

 1974年から1991年までエチオピアに存在していた共産主義・社会主義政権を打倒した後、TPLFは30年近くにわたってエチオピアの権力の中心にいました。エチオピアの人口の約5%しか占めていないにもかかわらず、ティグレ人の役人は政府を支配することができました。

 2014年から2016年にかけて反政府デモが相次いだ後、2018年にアビー・アハメド首相率いる新政権が発足しましたが、アビー首相はTPLFの権力を抑制しようと改革を強行し、ティグレ人を大いに動揺させました。

 それに応えて、ティグレ州は独自の地方選挙を実施して緊張が高まり、緊張は敵意をむき出しにする段階まで高まりました。

 この政治危機は2020年11月にTPLFの部隊(TDF:ティグレ防衛軍)がティグレ州のエチオピア軍基地を攻撃したことで戦争に発展し、エチオピア陸軍はティグレ州への侵攻を開始しました。

 この地域の支配権を奪回した後、TDFはエチオピア軍をティグレ州の外へ追いやり、エチオピアへの攻勢を継続しています。

 エチオピア空軍(ETAF)は、MiG-23BN戦闘爆撃機やMi-35攻撃ヘリコプターによる近接航空支援任務と、輸送機やヘリコプターを用いた敵に包囲された地域への人員や装備の運搬など、紛争のあらゆる段階で活発的に行動する姿が見られています。

 また、隣国のエリトリア空軍もMiG-29戦闘機をこの紛争に投入したと頻繁に報じられていますが、これらの主張を裏付ける証拠は示されていません。

 その一方で、ティグレ軍は少なくとも3基のS-125/SA-3地対空ミサイル(SAM)陣地と一基のS-75/SA-2陣地、多数の9K310/SA-16「イグラ-1」MANPADS(携帯式地対空ミサイル)、12門を超えるZU-23 23mm対空機関砲を含む、航空機に対抗できるいくつかの対空兵器を保有しています。[1]

9K310「イグラ-1」MANPADSを構えているティグレの兵士。このMANPADSは最低でも2機のエチオピア軍機の撃墜に関わったものと考えられている。

ティグレ軍の手に落ちたS-125陣地

 ティグレ戦争は他の紛争と同様にプロパガンダが横行しており、ティグレ側から定期的に撃墜したという虚偽の戦果がリリースされています。

このような根拠のない主張が頻繁に投稿されています

 この一覧はティグレ戦争におけるエチオピア機の損失を視覚的に確認することを目的としており、新たな損失が発生し、確認された場合に更新されます。
 リストの最終更新日:2021年11月12日(Oryx英語版の元記事の最終更新日は2021年11月12日)


固定翼機(3)

ヘリコプター(2)


1x MiG-23BN(2020年11月29日, パイロットは脱出後に拘束)





1x MiG-23BN(2020年12月6日,ティグレ州のシレ《インダセラシエ》空港への緊急着陸を試みようとした際に滑走路の手前で墜落)





1x L-100-30(2921年6月23日,ティグレ州のギジェット近郊でMANPADSによって撃墜されたものと推測。この機はかつてエチオピア航空で使用されていたもの。 墜落時の映像はここで視聴可能





1x Mi-35(2021年4月20日, ティグレ州のアビー・アディ近郊でMANPADSによって撃墜されたものと推測)




1x Mi-35(2021年11月12日, アファール州近郊でMANPADSによって撃墜されたものと推測)
 




[1] The Tigray Defence Forces - Documenting Its Heavy Weaponry https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-tigray-defence-forces-documenting.html



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2022年7月16日土曜日

土壌流出との戦い:エチオピアにおけるドイツ製ドローン



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2020年11月のティグレ戦争開戦前の時点でエチオピアが最後に入手した(無人)航空機は、紛争の初期段階で投入されたと頻繁に報じられた「翼竜Ⅱ」 UCAVではありません。

 エチオピアが戦前の最後に入手した無人機は、2020年10月にドイツ政府から贈呈品として受け取った1機の「クァンタム・システムズ」社製「トリニティF9」eVTOL-UAS(電動垂直離着陸型無人機システム)でした。[1]

 このドローンは天然資源の保護の分野で支援するためにエチオピア農業自然資源省に寄贈された3機のうちの第1陣となるはずでしたが、2020年11月のティグレ戦争が勃発した後にドイツが残りの2機の供給を停止したため、結果的にF9は1機しか引き渡されませんでした[2]。

 もちろん、ドイツ政府が2020年10月に84,000ユーロ(約1,100万円)相当の「トリニティF9」3機をエチオピアに寄贈する計画を立てた時点で、これらが最終的に軍事転用されることを全く想定していなかった可能性があります。なぜならば、軍事目的で使用されることを防ぐため、寄贈された1機のF9の航続距離は約5kmから1km未満に制限されていたからです。[2]

 1kmという航続距離は農業部門などの(当初から目的とされた)民生用途には十分なものですが、現在敵の支配下にある地域のマッピングといった軍事作戦での使用では全く役に立ちません。

 「トリニティF9」で(オプションで)利用可能なカメラは空中から地表の画像データと地理情報を収集するための理想的なツールとなっています。これらのオプションは、F9を近年にエチオピアが直面している最大の自然災害の1つである土壌流出のイメージングに最適なシステムにもさせてくれます。

 F9がエチオピアに引き渡された後、ティグレ州から離れた場所にあるソマリ州にて同国の農業機関と共同でドローンを使用する許可がようやく与えられたのは、2021年10月になってからのことでした。[2]

      

 おそらくティグレ戦争の初期段階で使用するのに適したドローンが不足していため、エチオピア空軍は他の政府部門から、当初から民生用途で使用するために導入されたいくつかの「民生用ドローン」を譲り受けて配備したようです。そのうちの3種類:「ZT-3V」「HW-V230」DJI「マヴィック2」は、エチオピア連邦警察(EPF)から譲り受けました。[3]

 興味深いことに、エチオピア国防軍(ENDF)はこのシステムを黙って受け入れて就役させるのではなく、これらを(中国の市販モデルではなく)独自に設計した無人機として報道陣の前で発表しました。[4]



 一撃離脱戦法と待ち伏せ攻撃に優れている歩兵中心の敵部隊に直面したENDFは、当記事の執筆時点(2021年10月)でエチオピア北部の山間部におけるティグレ軍との戦いにおいて重大な困難に遭っています。

 「トリニティF9」の設計・製造者である「クァンタム・システムズ」社は自社製品を主に民間市場向けに販売していますが、オランダ陸軍は現在(F9の後継モデルである)「トリニティF90+」UASをパスファインダー(降下誘導)部隊で使用するためのトライアルを実施しています。

オランダ陸軍で評価試験を受ける「トリニティF90+」UAS

 現在、UAVが決定的な役割を果たしている紛争で戦っているエチオピア空軍が軍事攻勢の前に地形をマッピングするなどの軍事目的のために、「トリニティF9」と同様の機能をもたらす無人プラットフォームに強い関心を持っていることは考えられません。短い航続距離と滞空性能を踏まえると、そのような用途におけるこれらのドローンの有効性が極めて限定されたものになる可能性が高いからです。

[1] Germany donates unmanned aerial vehicles (drones) to Ethiopia https://www.fanabc.com/english/germany-donates-unmanned-aerial-vehicles-drones-to-ethiopia/
[2] https://twitter.com/mupper2/status/1445887012079210496
[3] Made In China: Ethiopia’s Fleet Of Chinese UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/made-in-china-ethiopias-fleet-of.html
[4] Chief Commander of the Ethiopian Air Force, Maj. Gen. Yilma Merda.#Ethiopia #Tigray(Courtesy of EBC) https://youtu.be/leUr8ZECQd0

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2022年7月1日金曜日

再び前線へ:エチオピアにおける「2S19 "ムスタ-S"」自走榴弾砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ編訳:Tarao Goo

 この記事は2021年9月20日にOryx本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 エチオピア軍は、(この国で輸出されていなければ)輸出市場では全く成功していない多数のロシア製兵器を運用しており、これらの1つであるSu-25TK「Tankovy Buster」については、すでに当ブログの記事で紹介しています

 そして、もう1つの兵器は「2S19 "ムスタ-S"」自走榴弾砲(SPG)であり、約12台がエチオピア国防軍(ENDF)で運用されています。エチオピア北部のティグレ州における武力衝突の勃発を受けて、今やこの自走榴弾砲もティグレ防衛軍(TDF)に対抗するために展開した多くの兵器の間にいます。

 エチオピアが「2S19 "ムスタ-S"」最初の輸出先となったのは1999年のことであり、彼らは少なくとも12台を入手しました。「Su-25TK」と同様に、エチオピアの「ムスタ-S」は、1998年5月から2000年6月まで猛威を振るったエリトリア・エチオピア戦争の際に戦時緊急調達として導入されたものです。エチオピアへの納入を早めるために、「2S19」はロシア軍のストックから直接調達されました(注:新規製造品ではないということ)。

 このほぼ同時期に、エリトリアも最初の自走砲を導入しました。エチオピアに続くことを追い求める中で、エリトリアは当時で入手可能な最も高度な自走砲を購入するのではなく、ブルガリアから中古の「2S1 "グヴォズジーカ"」122mm自走榴弾砲の購入で落ち着かせる必要がありました。[1]

 これらは最大射程距離である15kmまでの目標だけを攻撃することが可能ですが、「2S19」の25kmと比較した場合は不十分な距離でした。そうは言っても、「2S19」も「Su-25TK」も最終的にはエチオピアが期待していた軍事的な突破口をもたらすことがなかったことが今では明らかとなっています。

 エチオピアに納入された当時、「2S19」はアフリカ大陸で使用されている最も現代的な自走砲であり、就役後は以前にENDFで使用されていた北朝鮮製の自走砲よりも大幅な戦力向上をもたらしました。これらは「D-30」122mm榴弾砲を(APCをベースとした)装軌式の車体に搭載したものですが、機動性と弾薬の収納量が増加したことを除くと、牽引式の「D-30」榴弾砲から能力が少しも改善されていませんでした。

エリトリア・エチオピア戦争でエチオピア軍で使用されている北朝鮮製「M-1977」122mm自走榴弾砲。これらの自走砲は後に退役してスクラップとなりました。

「ATS-59」砲兵トラクターの車体に「M-46」130mmを搭載したもの。運用している北朝鮮の自走砲を補完するためにこのようなDIY兵器がいくつか生産され、エリトリア軍に対して急いで使用されました。

 北朝鮮の自走砲や「BM-21 "グラート"」122mm MRLと共にエリトリア兵の集結地点を叩くなどして激しい戦闘を展開したエリトリア・エチオピア戦争後、「2S19」については、2020年11月にティグレ人がアディスアベバの中央政府に対して反旗を翻した際に再び戦闘に加わった様子が見られました。

 ティグレ州の各地にある基地を占領したティグレ防衛軍は、大口径のMRL誘導ロケット弾・弾道ミサイルシステムさえも含む重火器で自らを素早く武装させました。

 これを受けて、中央政府はこの反乱を鎮圧するためにENDFを投入しました。これには「2S19」も含まれており、輸送トラックに搭載されて前線を移動する姿が何度か目撃されています。

 航空機の整備やオーバーホールだけでなく、パイロットの訓練もほぼ完全に自給自足しているエチオピア空軍とは異なり、陸軍は(「2S19」について)未だにある程度はロシア人のインストラクターに依存しているようです。エチオピアにおける彼らの存在が、エチオピア人乗員の訓練または装備のメンテナンス、あるいはその両方に関係しているのかは不明です(おそらく後者の可能性があると思われます)。

 ロシアの軍事インストラクターはアフリカの至る場所で活動しており、彼らがカメラに向かってポーズをとるのが好きなことが、アフリカの軍隊で使用されているロシア製装備の画像がネット上に流出する原因であることは珍しくありません。

 1990年代後半にロシアから少なくとも12台の「2S19 "ムスタ-S"」を調達したことが、エチオピア軍による最後の自走砲の導入として知られています。

 エチオピアの砲兵装備は、より多くの「2S19」に投資するのではなく中国から多数の兵器システムを導入することを通じて、これまでで最大となる戦力の押し上げを経験しました。現在までのところ、これらには「AH-1」155mm牽引式榴弾砲、「AR2」300mm多連装ロケット砲(MRL)「A200」300mm誘導ロケット弾発射システム、さらには「M20」短距離弾道ミサイル(SRBM)も含まれています。

 砲兵戦力をさらに向上させるため、エチオピアは国内の兵器産業に対してすでに運用しているいくつかのシステムの機能改善を求め、「D-30」122mm榴弾砲をトラックに搭載した、安価ながらも機動性の高い自走榴弾砲を開発しました(下の画像)。

 また、老朽化した「グラード」122mm MRLも、発射機を新しいトラックに搭載することによって新たな命が吹き込まれました(下の画像の左側)。

 さらに別のプロジェクトでは、「ビショフツ・オートモティブ・インダストリー」が一部の「BMP-1」歩兵戦闘車(IFV)を迫撃砲牽引車(注:自走迫撃砲である可能性もあります)に改修するというものもありました(下の画像)。

 これらのプロジェクトのどれもが試作の域を超えて進行したのかどうかは不明であり、それぞれが僅かなサンプルの生産だけでストップしている可能性は十分にあります。


 2S19は世界のこの地域では異色の軍用装備の一部であり、これからもそうであり続けます。

 エチオピアが宿敵のエリトリアよりも優位に立つことを可能にさせる現代的な装備を必死に探していた時期に導入された「ムスタ-S」は、別の敵との別の戦いに参加するために十分な期間の現役を務めてきました。

 20年後のティグレ戦争で、エチオピアは自身が当時と驚くほど似たような状況に直面していることに気づきました。ただし、今回は紛争で必要とする装備を求める相手がロシアではなくイランとなり、そこから「モハジェル-6」UCAVを入手しました

 しかし、この調達が戦争の新しい装備に対する渇望を満たすかどうかはまだ不明であり、「ムスタ-S」も、自身がすぐに(新しく導入された)さまざまな外国産の兵器と一緒に並ぶことに気付くかもしれません(注:この戦争で新装備がどんどん追加調達される可能性があるということ)。

追記:ティグレ戦争終結後、エチオピア軍の演習で複数の「2S19」が登場しました。2023年には中国から32台の「PLC-181」装輪式155mm自走砲を導入するなどの動きがあるものの、「2S19」は今後も貴重な砲兵戦力として運用され続けると思われます。

2023年の時点で全車両が砂漠迷彩風の塗装を施された

[1] Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php