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2024年4月27日土曜日

独創力の勝利:YPGのDIY式装甲兵員輸送車


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2019年9月16日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。 当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 クルド人民防衛隊(YPG)は、シリア北部における紛争地域の至る所で、大規模な数のDIY式装甲戦闘車両(AFV)と装甲を強化したバトル・モンスターを運用していることでよく知られています。

 過去数年間、幅広い種類のAFVや支援車両にこうした改修を施してきたYPGは、今ではこの記事で紹介する「BMB」と呼称される新型の装甲兵員輸送車(APC)を導入することで、自力で正真正銘の装甲車両を製造し始めています。

 この「BMB」が初めて一般の目に晒されたのは、2台がシリア北部でのイスラム国に対する戦勝記念閲兵式の準備中によろよろとカーミシュリーを通って会場へと向かった2019年3月のことでした。

 皮肉なことですが、2台という数はこれまでに製造された車両の傾向からそれほど離れていない可能性があることから、YPGのAFVプロジェクトがDIY的であることを示しています(注:既存の独自型AFVもワンオフ品的な要素が強かったため)。この理由と、公然と通常戦を展開できるテロ国家としてのイスラム国が敗北したため、「BMB」が実戦で活躍する機会は少しもありませんでした。

 カーミシュリーにおける午後の走行で性能があまり見栄えしないものだったことはさておき、このAFVがYPGの機甲戦力不足に対する効果的な解決策なのか、それとも設計図のままにしておくのが最適な答えだったのか、詳細に検証する必要があります。もちろん、YPGの限られた資源と技術力を考慮するのは当然のことではあるものの、YPGの敵が戦場でこうした問題に一種の共感を抱くとは到底考えられません。


 「BMB」自体の歴史と仕様について詳しく触れる前に、YPG(Yekîneyên Parastina Gel=人民防衛隊)の機甲戦力について熟考してみることは有意義なことです。

 シリア内戦に関与する主要な他の勢力と比較すると、(それ自体がシリア民主軍を構成する主要派閥である)YPGは歴史的に見て最も機甲戦力に乏しい勢力です。この戦力ギャップを補うため、YPGはトラクターやトラックをベースにしたDIY式装甲車両の製造に非常に積極的に取り組んだのでした。

 「本物の機甲戦力」について、YPGはシリア・アラブ陸軍(SyAA)が遺棄した装備やイスラム国から鹵獲したものに完全に依存しているのが現状です。「イスラム国」のような勢力がシリア軍の陣地から鹵獲した何百台もの戦車やその他のAFVを含む兵器群を収集することに成功した一方、YPGはシリア軍との直接的戦闘を避けることが常だったため、たいていはスクラップのようなAFVでカバーせざるを得ませんでした。

 こんな具合で、YPGは基地のあちこちに遺棄された「BTR-60」や「BRDM-2」といったAFVを複数台も手に入れたのです。しかし、現実的な代替案がないのであれば、これらの遺棄車両でさえ、YPGの下で新たな命を得るために修復されることになるのでした。

 その反対側に位置したのがイスラム国です。彼らはシリア国内だけで200台以上の戦車と約70台のBMPを鹵獲・運用していただけでなく、シリア軍に次いで2番目に多くのAFVを運用しており、その装備の量と質、そして採り入れた戦術において、多くの国家の軍隊ですら凌駕していたのです。

 イスラム国の台頭がシリアとイラクに与えた突如とした戦況の変化はこれに巻き込まれた人々には衝撃的なものであり、兵員や武器、そして(おそらくは)何よりも航空戦力の大量投入によってのみ抑え込むことができる代物でした。YPGがイスラム国に戦いを仕掛けることを可能にさせたのは後者であり、さらにシリア国内でアメリカ軍が運用する火砲や多連装ロケット砲(MRL)からの火力支援も受けました。

 機甲戦力や対戦車ミサイル(ATGM)に関しては全く運用されなかったこともあり、YPGはイスラム国の車両や陣地を破壊するために有志連合軍の航空戦力を頼りにすることが常でした。このことは、イスラム国が運用するAFVがYPG軍に深刻な損害を与える前に撃破されることが頻繁にあったことを意味する一方、有志連合軍機が投下した爆弾などによって大半のAFVが完全に消滅して、その鹵獲やYPG軍での再使用を妨げることも意味しました。


 さて、話題を今回のテーマの車両に戻しましょう。最も特徴なポイントは、「BMP-1」のトーションバー式サスペンションが再利用されている点であることは間違いありません。また、観察力の鋭い読者であれば、「BMB」に取り付けられているお馴染みの「BMP」シリーズの転輪とスプロケットにすでにお気づきのことでしょう。

 「BMP-1」の「UTD-20」エンジンや履帯、ステアリングヨーク(ハンドルとステアリングギヤボックスをつなぐ継手部品)、油圧ショックアブソーバーも「BMB」に搭載されたものの、サスペンションが短くなったため、「BMP-1」とは異なる取り付け方法が必要となりました。

 しかし、「BMP-1」との共通点はここまでです。後部のマッドガードや(燃料タンクを搭載している可能性がある)後部ドアは明らかに「BMP-1」からインスピレーションを得たものですが、上述の流用品以外の部分は独自製作した部品かヘッドライトのような既製品で構成されています。

 結果として出来上がった車両は、「BMP」と「BTR/BRDM」の融合体と言い表すのが一番合っているものでした。最も最終的な形態の「BMB」はユーゴスラビアの「M-60」APCやジョージアの「ラジカ」IFV(そして、いくつかの謎めいたイランのAPC)と明確な類似性を示していますが、YPGが「BMB」のどの部分もこれらの設計をダイレクトにベースにしていないことはほぼ確実であるものの、確かにその最終形態に影響を与えたようです。


 「BMB」の武装については、車内からライフルや軽機関銃を発射可能な銃眼5基に加え、1基の砲塔で構成されています。砲塔は「BTR-60」や「BRDM-2」に搭載されていたものを流用しているようですが、通常はこの砲塔に装備されている14.5mm機関砲を固定する銃架がありません。その代わり、「DShK」(または中国の派生型である「W85」)12.7mm重機関銃か「PK」7.62mm機関銃が、「BMB」の武装で最も可能性の高い候補にさせます(注:砲塔に火器を固定する架台が設けられていないため、上記の重火器を状況に応じて乗せ換えることが可能となるわけです)。

 しかし、下の画像で示唆されているように、「BMB」の一部は「SPG-9」73mm無反動砲(RCL)1門で武装されていた可能性があります。このRCL自体は「BMP-1」の主武装である「2A28 "グロム"」低圧砲と同一に近い派生型です。

 「BMB」が備える装甲の防御力については、小火器の銃弾や 小規模な砲弾・爆弾の破片から乗員を保護するには十分なものでしょう。重機関銃や対物ライフルが数多く登場する紛争では完全に不十分なように見えますが、より優れた「BMP-1」の装甲でさえ12.7mm弾や7.62mm徹甲弾に脆弱なことは過去の紛争で証明されています。

 したがって、乗員の保護力の向上に寄与する可能性が低いため、「BMB」の装甲を追加して得られるような利点は僅かしかありません(注:つまり増加装甲を施しても意味がないというわけです)。

 その代わり、「BMB」は敵からの砲撃を回避するために自身の速度とコンパクトさに依存しています。ただし、道路沿いに仕掛けられた即製爆発装置(IED)を避けるためのオフロード能力はこの車両の弱点です。


 いくつかの画像にはYPGのAFV工房で組み立て中の「BMB」が写っており、このプロジェクトが実際に独自性を有したものであることを明確に示しています。AFVの製造としては若干型破りな方法ですが、シリア内戦に関与しているYPG以外のどの勢力も独自の装軌式AFV製造に成功していないことに注目しなければいけません。

 シリア軍へのロシア製AFVの引渡しと敵対勢力によって鹵獲された数が膨大になったことで、彼らが独自にAFVを製造する必要性が低下したと主張する人もいるかもしれませんが、YPGには製造するための専門知識が実際にあることは明らかでしょう。



 BMP-1のサスペンションの使用はYPG用の装軌式 APCを組み立てるためにおそらく唯一実行しうる方法ですが、オリジナルのエンジンを残しつつサスペンションが大幅に短縮したことで車両の安定性が大きく損なわれています。2008年ロシア・ジョージア戦争をチェックした人ならば、BMPの上に乗ったロシア兵が加速中や減速中に飛び跳ねる映像を覚えていることでしょう。

 実際、閲兵式の映像でも目に付いたように「BMB」の安定性は非常に悪く、ブレーキや加速は乗員にとって不快なものとなるだけではありません。砲手や乗員の戦闘能力にも多大な悪影響を与える可能性があるのです。

 突き詰めると、これは「BMB」の役割を平凡な速力の優れた「戦場のタクシー」か軽装甲の移動式トーチカに格下げするものです。ちなみに、YPGが保有するアメリカから供与されたMRAPの大部分は「BMB」よりはるかに優れた性能を発揮できます。

前面装甲板上の牽引装置に注目

 「BMB」の派生型(下の画像)は先に紹介した個体と酷似していますが、いくつかの大きな違いがあります。最も注目すべき点は、転輪を僅か4個しか備えていることです。これは、共食い用の部品から作られたDIY式APCのコンセプトをさらに一歩進めたものと言えます。さらに、「BTR/BRDM」にインスパイアされた密閉式砲塔は、より大型の火砲を搭載可能なキューポラ付きの無蓋式に変更されました。
 
 この個体が存在する唯一の要因は「十分な数の転輪がなかった」可能性が高かったことが挙げられます。おそらく、製造に用いられた"ドナー"の「BMP-1」があまりにもひどく損傷していたために再利用できなかったのでしょう。

 当然ながら、オリジナルの個体を悩ませていた問題は小型版にも引き継がれ、結果としてさらに悪化する可能性は高くなると思われます。


 YPGのAFVの多くがシリア北部の乾燥した低木地帯に最適化された精巧な迷彩パターンを採用しているのに対し、「BMB」はシンプルな砂漠パターンを採用しています。

 イスラム国が通常戦を遂行可能な勢力として再浮上する可能性は極めて低いことを踏まえると、このプロジェクトは、イスラム国ではなくシリア軍との武力衝突に備えてYPGが保有するAFVのストックを拡大するために意図されたものと考えるのが妥当でしょう。

 下の画像の撮影時期は不明ですが、「BMB」の前面に設けられた2個のフックの一つはすでに破損しており、もう一つはひどく損傷しているように見えます。この結果の原因が何であれ、その "強度 "は牽引中の「BMB」の重量に耐えられず、実際に車体へ装備させるには無駄なものとなった可能性が高いと思われます。

 これは車両全体の品質が低レベルと言っているのではありませんが、 (YPGにとって特に痛手となるだろう)AFVの喪失と回収の成功との差で最終的に功を奏する可能性がある重要な部分に、細心の注意が払われていることがよく分かります(注:回収が考慮されていなかった場合、フックは装着されなかったでしょう)。

 注目すべき点は、「BMB」の運転手は車両を安定して走行させるのが非常に難しいということです。窓が小さく、運転席上のハッチを閉めた際に用いる視界確保用のペリスコープが設けられていないため、運転席の右側に大きな死角があることは言うまでもありません。

 また、別の個体に装備された前面装甲板上の牽引装置にも注目してください。これは他のどの車両にも取り付けられていないようです。

 「BMB」と車体と履帯の間に十分なスペースが設けられていませんが、これは小さな岩などが間に挟まってサスペンションを損傷したり履帯が転輪から外れる危険性があります。


 内部を撮影した画像はコンポーネントが粗雑に溶接された状況をはっきり示しており、この車両のDIY性を強調しています。運転手はエンジンの真左に座り、(部品取り用の「BMP-1」から引き継いだ)ステアリングヨークを使って「BMB」の不安定なパフォーマンス特性をコントロールする構造です。

 また、窓も銃眼も一直線上に位置していないように見えることにも注目です。これは非常にDIY的なものに見えるものの、特に問題はなさそうように見えます。

 内部の全体的な様相はベーシックと表現するにふさわしく、各種の装置や部品がただでさえ窮屈な車内のスペースをさらに狭くしています。

 確認された3台の「BMB」のうち少なくとも2台に砲塔が追加されたことより、歩兵輸送能力がさらに低下してしまいました。というのも、通常ならば乗員の1人が使うスペースを砲手(機銃手)が占領してしまうためです。結果として、兵員区画の大きさは4、5人の兵士が座るには十分だと思われますが、乗員の快適性を犠牲にすれば、この数を増やすことも可能でしょう。

 予想されていたとおり、「BMB」には「BMP-1」には存在する歩兵区画を縦に二分する主燃料タンクが設けられていません。つまり、モデルとなった車両と比較すると行動半径が著しく狭まっている可能性が高いと思われます。

 砲塔の軽または重機関銃に加えて、「BMB」の火力は5つの銃眼(基本型では左側面に3基、右側面に2基)によってさらに強化されています。この原始的な銃眼はハンドルで開閉可能であり、どうやら独自設計のようです。(左側面に3つ:うち1つは運転席用、右側面に2つ設け得られた)5つの防弾窓も車両に完備されています。



 「BMB」に設けられたもう一つの興味深い特徴は、車内全体に発泡体が入った内張が施されたことです。不安定な車両に乗車中のクルーに対する快適性を向上させることは確かであるものの、敵の射撃を受けた際に火災の危険が生じるリスクもあります。

 これらの画像が撮影された時点では(まだ)存在していませんが、兵員区画に取っ手やシートベルトを追加すれば、兵士が車内で跳ね回る事態を十分に防止できるでしょう。DIY式AFVにシートベルトを装備するのは珍しい選択のように思えるでしょうが、AFVにこうした安全装置を備えるするのはYPGが初めてではありません。実際、(イスラム国戦闘員である)アブ・ハジャールとその仲間たちが乗った装甲強化型「M1114 "ハンヴィー"」には、乗員の安全性を高めるために、このような安全装置がいくつか装備されていました


 「BMB」は確かに独自でAPCを製造するという興味深い試みではあるものの、その設計に内在する欠点は戦場に投入された際に大きな制限要因となる可能性が高いでしょう。

 しかしながら、乏しいAFVのストックを増やす機会が極めて少ないため、こうしたDIY式APCの製造はYPG自身のためにやらなければならないことです。したがって、「BMB」が将来のプロジェクトを立案するための貴重な経験を開発者たちに提供することは間違いありません。

 事実、このAPCの重要性はその性能にあるのではなく、むしろYPGによって(しかも)限られた資源で独自に製作された点にあります。YPGの独創性のおかげで、近い将来、シリア北部からさらに多くのDIY式兵器のプロジェクトが生まれることは確実でしょう。

この記事の終わりに、画像と追加情報を提供してくれたWoofers氏に感謝を申し上げます。


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2024年1月7日日曜日

クルドの機甲戦力:シリア北部におけるYPGの重装備(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 シリア北部でトルコ軍のパトロール部隊に対する多数の攻撃が発生し、トルコとYPG軍は戦争の瀬戸際に直面しています。(この記事の執筆時点における2021年10月に発生した)トルコ兵1名が死亡した最近の攻撃を受け、エルドアン大統領はシリア北部からYPGを一掃することを宣言しました。[1] 

 これに対して、シリア民主軍(SDF)を構成する主要な勢力でもあるYPG(Yekîneyên Parastina Gel:人民防衛隊)軍が取るべき選択肢は、自主的に国境地帯から離れるか、あるいは武器を取って自由シリア軍やトルコ軍と戦うの二択しかありません。後者の場合、YPGが有する機甲戦力は彼らの主要な火力支援プラットフォームとしての役割を担うことになるのは間違いないでしょう。

 当記事では、YPGが保有する戦車や重火器のリスト化し、機甲部隊がどのようにして形成されたのかを解説します。
 
 シリア内戦に関わるほかの主要な勢力と比べると、YPGは機甲戦力に最も恵まれていないのが特徴です。その結果として生じた戦力差を補うため、 YPGは(通常は)ブルドーザーや大型トラックをベースとしたDIY装甲車の製造に非常に積極的になりました。[2] 

 軽装甲車とDIYではない真の装甲戦闘車両(AFV)について、YPGは従来からイスラム国(IS)から鹵獲した車両、シリア軍(SyAA)が遺棄したAFVや彼らが身の安全と引き換えに引き渡した装備(例えば2014年にあったメナグ空軍基地からの撤退時)、アメリカから供与された装甲車に頼ってきました。
 
 ISのようなシリア内戦に関わった他勢力がシリア軍から鹵獲した数百台もの戦車やその他のAFVを含む兵器群を蓄えることができた一方で、YPGはシリア軍との戦闘を頻繁に避けていたため、大抵はスクラップで何とかするしかなかったのです。

 このような方法で、YPGは前所有者がシリア軍の基地に遺棄した「BTR-60」や「BRDM-2」といった数種類のAFVを手に入れてきました。

 文字通り代替手段がないため、これらの遺棄された(廃車と化した)AFVでさえもYPGによって別車両を製造するために活用されています。エンジンが修理ができなかった場合でも、「BTR-60」の車体をトラックの荷台と一体化させて即席のAFVとして使用したケースさえあるのです。
 
 YPGはこれと言った装甲戦力や重火器を全く保有していないため、ISの車両や陣地を撃破することについては、ほぼ有志連合軍の航空戦力だけに依存していました。これはISが運用するAFVがYPG部隊に深刻な損害を与える前に撃破されることが一般的だったことを意味していますが、有志連合軍機が投下した爆弾によってAFVの大部分が完全に消し去られていまい、結果的にYPGによる鹵獲や再使用が阻害されてしまったことも意味しています。


 シリア北部におけるISとの戦いでSDFを支援する一環で、YPGはアメリカから大量の歩兵機動車(IMV)と耐地雷・伏撃防護車両(MRAP)の供与を受け、滑稽なYPGの自家製AFVの一部をそれらに置き換えたように思われます。

 興味深いことに、ISが従来型の軍事力という面で敗北した後でもYPGは供与された車両の保有を許され続けています。しかし、供与された時点でさえも、それらが将来的にNATO加盟国(トルコ)に対して使用される可能性が極めて高いことは誰の目から見ても明らかだったことは言うまでもありません。

 「ハンヴィー」や「M1224 "マックスプロ"」、IAG「ガーディアン」の大規模な装甲車両群に加えて、アメリカが多数の「M2 "ブラッドレー"」歩兵戦闘車(IFV)をYPGに譲渡したという報告もなされています。

 これらの報告はSDFの旗を掲げた「M2」IFVが目撃されたことやYPGの戦闘員が同IFVと共に訓練している映像に端を発していると思われますが、現時点でそのような供与が実際に行われたことを示すエビデンスはありません。


 YPGの機甲戦力にとって最大の脅威となるのは、トルコ軍の「M60T」「レオパルト2A4」戦車よりも上空を飛ぶ「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)や「T129 "ATAK"」攻撃ヘリコプター、そして自由シリア軍が運用する対戦車ミサイル(ATGM)であることは間違いないでしょう。特に後者の3つの兵器は、2018年の「オリーブの枝作戦」アフリンにおけるYPGによる全機甲戦を迅速に終結させる要因となった前例があります。

 2020年2月の「春の盾作戦」でシリア軍所属の重機甲部隊が全滅したことは、頭上を飛び回る天敵が存在しないトルコの無人機の前では、もはや大規模な機甲戦が通用する戦い方ではなくなったことを証明しました。[3] 

 その代わり、YPGが前線に沿ってAFVを分散させ、戦闘しないときは頭上に潜む目を避けるために建物の中に隠しておくことが予想されます。YPGはドローンの脅威を抑えるためにこのような戦術を用いることに十分に慣れており、AFVが安全なガレージに隠れている様子が頻繁に確認されているので、この予想は当然なされるべき行動の範疇にあります。

 興味深いことに、おそらく故障したか、単に操縦手が間に合わなかったかために出発し損なったAFVが隠れ家で鹵獲されたケースが散見されました。[4] 

 仮にYPGのAFVが何とかしてアフリンの隠れ家から出てきたとしても、自身を撃破するために送られた複数の航空アセットに直面するため、彼らの運用期間は非常に短くなる傾向にあります。

 ほかの事例では、TB2が間に合わせの砲兵戦力として用いられた無反動砲搭載型イラン製「サフィール」ジープをガレージと化した隠れ家まで追跡し、その後に建物自体を攻撃してそこに隠されていたかもしれない別のAFVとその弾薬全体を破壊したことがありました。[5] 

アフリンでうまく隠されたYPGの「T-72」戦車。しかし、この戦車や別の戦車が隠れ家を離れると、ほとんど即座にドローンや攻撃ヘリ、そしてATGMで撃破されてしまう運命に見舞われました。

 トルコ軍にとって最も脅威となるのは、ほぼ間違いなくYPGが保有する大量のATGMでしょう。

 YPGはシリア軍からATGMをごく僅かしか鹵獲していないにもかかわらず、シリアの闇市場で入手したATGMの安定した供給を確保することに成功しました。これらには「9M113 "コンクールス2」や「9M115 "メチス-M"」のようなタイプだけでなく、「9M133 "コルネット"」やアメリカの「TOW」 といった高度なATGMも含まれています。

 ATGMは自由シリア軍やトルコ軍に対して頻繁に使用されていますが、YPGは将来的にトルコ軍のAFVや兵士の集結地点に対して使用するために相当な数のミサイルをストックしているものと思われます。

YPGの戦闘員によって操作されるアメリカ製「TOW」ATGM。本来、これらは自由シリア軍のとある部隊によって使用されるはずでしたが、野放しで拡散されたために一部がYPGやISの手に渡ってしまったのです。

  1. YPGによって運用されていることが確認されたAFVや重火器の詳細な一覧を以下で観ることができます。
  2. この一覧は、写真や映像によって証明可能なAFVと重火器だけを掲載しています。したがって、実際にYPGが運用するAFVなどは、ここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。 
  3. この一覧は、現在のYPGで運用されている装備全体を網羅することを目的としているため、すでに失われたAFVは掲載されていません。
  4. リスト化にあたっては、すでに破壊された車両や重複しての掲載を避けるために細心の注意が払われました。
  5. 迫撃砲や装甲化されたフロントローダー及びトラックはこの一覧には含まれません
  6. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、当該兵器類の画像を見ることができます。


戦車 (11)


シュトゥルムパンツァー こと 自家製AFV (10)


牽引砲 (少数)
多連装ロケット砲 (少数)


(自走式を含む) 火力支援用対空砲 (大量)


対戦車ミサイル (少数)


無人機(少数と思われる)


[1] Turkey vows to clear N Syria from YPG terrorists https://www.hurriyetdailynews.com/turkey-vows-to-clear-n-syria-from-ypg-terrorists-168602
[2] Monsters Of Desperation: The YPG’s Sturmpanzers https://www.oryxspioenkop.com/2020/08/belly-of-beast-ypg-monsters.html
[3] The Idlib Turkey Shoot: The Destruction and Capture of Vehicles and Equipment by Turkish and Rebel Forces https://www.oryxspioenkop.com/2020/02/the-idlib-turkey-shoot-destruction-and.html
[4] https://twitter.com/worldonalert/status/1183399659085144072
[5] How a Drone Hunted Three Kurdish Fighters in Syria | NYT Investigates https://youtu.be/V9z8FbJ589s

 より詳しくYPGの機甲戦力について詳しく知りたい方には、Ed Nash氏による素晴らしい本、 「Kurdish Armour Against ISIS YPG/SDF tanks, technicals and AFVs in the Syrian Civil War, 2014–19」をおすすめします。

この記事の作成にあたり、Calibre Obscura氏に感謝を申し上げます。

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。