2024年1月3日水曜日

忘却の彼方にある戦力:ベラルーシの重火器・軍用車両(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ベラルーシがロシア・ウクライナ戦争が参戦する可能性については、何度も憶測がなされてきました。

 ロシアが自国からウクライナへ侵攻することを認めたほか、国内に展開したロシアの弾道ミサイルがウクライナ国内の目標に向けて発射することも許可している時点で、すでにベラルーシは参戦していると主張している人たちもいます。とはいえ、ベラルーシが戦争に直接参加することは最終的には現体制の終焉を招く連鎖反応を引き起こすことがほぼ確実視されているため、ルカシェンコ大統領はウクライナ戦争に対する自国の関与拡大(兵力の提供など)を阻止するために全力を尽くすと思われます。

 戦争の話題ばかりが飛び交っているものの、ベラルーシ軍自体の状態に関する情報が外には全く出ていません。

 2014年のロシアによるクリミア占領とドンバス戦争以前のウクライナと同様に、ベラルーシ軍は相当な規模縮小と更新なしで旧式装備が退役したことによって戦闘能力が徐々に低下しています。しかし、ウクライナ軍は少なくとも次第に老朽化していく戦力の改修プロジェクトを実行するのに十分な資金を確保することができたものの、ベラルーシは現有兵器を忘却の彼方へと追いやらないようにするための実質的な予算を全く計上することができなかったのです。

 ベラルーシ軍が保有する兵器類にまん延した陳腐化に対処するため、ベラルーシの防衛企業は数多くの近代化プログラムを提案していますが、資金不足のおかげでベラルーシ自身が導入したものはほとんどありませんでした。僅かしか使えない予算の大部分は戦闘機や防空システムの調達に充てられており、その大部分もロシアから友好価格で導入されています。

 陸軍はロシアから25台の「T-72B3 "2016年型"」戦車と約65台の「BTR-82A」歩兵戦闘車(IFV)を受領したほか、中国からは2012年から22台の「EQ2058」と数量不明の「CS/VN3」歩兵機動車(IMV)を寄贈されています。また、中国は2015年にベラルーシ陸軍で運用が開始された「ポロネズ」誘導式多連装ロケット砲/単距離弾道ミサイルシステムに関する技術の提供国です。

 しっかりした基盤を持つ自国の防衛産業の製品も陸軍に導入されています。(「BRDM-2」の現代版である)「ケイマン」偵察車と「ボラット-1」IFVはいずれも就役し、ロシアの「ティーグル-M」IMVは「リス-PM」としてベラルーシで生産が始まり、少数がベラルーシ軍で運用されています。

 また、「BTR-70」装甲兵員輸送車(APC)の多くが「BTR-70MB1」規格にアップグレードされています。その後、これらのBTRは以前から運用されていた「BMD-1」 IFVや「BTR-D」 APCに代わって、ベラルーシの空挺旅団や空中強襲旅団で就役しました。

  1. 以下に列挙した一覧では、ベラルーシが保有しているAFVなどを掲載しています。
  2. この一覧は、現時点でベラルーシ軍で運用されているあらゆるAFVなどをすることを試みて作成されたものです。
  3. この一覧に掲載されているものは、画像などの視覚的なエビデンスに基づいて確認されたものだけに限定されています。
  4. ベラルーシ軍で運用されていない同国製の兵器や、トラック及びジープ類はこの一覧には含まれていません。
  5. 各兵器類の名称をクリックすると、ベラルーシで運用されている当該兵器類などの画像を見ることができます。

戦車

装甲戦闘車両

歩兵戦闘車

装甲兵員輸送車

歩兵機動車

指揮通信車両類

工兵・支援車両

砲兵支援車両または装備類

自走式対戦車ミサイルシステム

多連装ロケット砲

誘導式多連装ロケット砲
  • ポロネズ [射程距離: 200km] [CEP: 30m] (中国の「A200」誘導式ロケット砲をベラルーシで生産したもの)
  • ポロネズ-M [射程距離: 290km] [CEP: 45m] (同上)

短距離弾道ミサイル

対空機関砲

移動式地対空ミサイルシステム

電子戦システム


無人偵察機

2024年1月1日月曜日

女王陛下とNATOのために:近年におけるデンマークの軍備調達計画(一覧)


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)


 EU加盟国内で最大規模の軍隊をもたらすことになるポーランドの防衛費増額には、(少なくとも私たちの記事を通じて)多くの注目が寄せられています。[1]

 ほかのNATO加盟国もこの動きに追随しようと試みており、ルーマニアでは小規模ながらポーランドの事例と同様の野心的な再軍備計画に着手しています。これらの国々による計画上の数値を合算した場合、結果的に数千台の戦車と歩兵戦闘車(IFV)、1000門以上の自走砲(SPG)と多連装ロケット砲(MRL)が調達されることになるでしょう。.

 このような目覚ましい数字を目にすると、デンマーク、バルト三国、オランダのような小国が自国軍の大幅な近代化と能力の拡張に取り組んでいることを非常に見落とされがちとなるかもしれません。

 この中で、特にデンマークは軍備の導入プロセスを迅速化を追求しており、ヨーロッパの防衛事業として以前では考えられなかったようなペースに加速しています。(特にポーランドのような国と比較した場合)導入した兵器システムの数は決して劇的なものではありませんが、それらはそれ自体でNATOの安全保障にとって不可欠なものであり続けることに疑いを向ける余地はありません。 

 近年におけるデンマークの兵器調達事業については、完全に新しい能力を導入する一方で、冷戦終結以降に失われた能力を取り戻すことも含まれています。後者に該当するのは潜水艦(2004年)、MRL(2004年)、地対空ミサイルシステム(2005年)、戦術無人航空機(2006年)などです。

 新規に買収する兵器類の費用を捻出するためにデンマークは防衛予算を大幅に引き上げました。その規模は防衛支出を増額すべく祝日を廃止したほどにもなります。[2] [3]

 人口600万人弱のデンマーク軍は比較的小規模な軍隊です。ただし、(いずれもデンマーク王国の自治領である)フェロー諸島とグリーンランドの防衛も担う海洋国家として、同国は5隻のフリゲートと8隻の哨戒艦(OPV)からなる大規模な海軍を保有しています。

 海軍とは対照的に、デンマーク空軍における将来の戦闘機部隊は僅か27機の「F-35」戦闘機で構成される予定となっています。

 陸軍は4,000人以上の兵力を誇る1個機械化旅団を有しており、NATOの枠組みの下で緊急展開が可能です。なお、この部隊については最大4,000人の予備兵力で増強を図ることが可能となっています。さらに、必要性が生じた場合には、徴兵と志願兵という形で最大2万人の兵力を動員することができます。[4]
 
 1個機械化旅団の献身は(少なくとも武力紛争の初期段階では)それほど大したものではないと思えるかもしれません。しかし、デンマーク陸軍第1旅団は、ヨーロッパ各地の旅団よりも著しく完成されたものとなっています。

 最近、デンマークは軍の規模を拡大するのではなく、イスラエル製の「PULS」MRLや地上配備型防空システム、電子戦システムを導入して第1旅団の戦力を増強することを選択しました。

 これらのシステムは、44台の「レオパルド2A7DK」戦車、44台の「CV9035DK」IFV、300台以上の「ピラーニャV」装甲兵員輸送車、(ウクライナに寄贈された19門の「カエサル 8x8」の後継品として2023年に購入された)19門の「ATMOS 2000」自走榴弾砲で構成される部隊をカバーすることになるでしょう。

 同旅団が完全に作戦へ投入されていない場合、他のNATO軍部隊の火力を増強するために残存部隊を個別に展開させることもできます。

  デンマークによる将来的な調達には、追加の「F-35」とともに、「AGM-158B JASSM-ER」空中発射巡航ミサイル(ALCM)や「AGM-88G AARGM-ER」対レーダーミサイル(ARM)といったスタンドオフ兵器が含まれる可能性があります。

 海軍については、「イーヴァ・ヴィトフェルト」級フリゲートの兵装が「BGM-109トマホーク」巡航ミサイルの装備によって強化されるかもしれません。これは、新たな兵装を装備させることで既存の兵器システムの能力を大幅に向上させようとしているオランダの取り組みを反映たものと言えます。

 陸軍では、「ATMOS」SPGと「PULS」MRL用の精密誘導弾を(追加的に)調達することも考えられます。特にMRLは、互換性のある全ての長距離精密誘導ロケット弾という形で恩恵を与えられることになるでしょう。[5] 

 今後、デンマークの防衛力をさらに強化するためにどのような手段が講じられるにせよ、この王国がNATO加盟国としての責任から逃れるつもりはないと決心していることは確実です。

  1.   以下に列挙した一覧は、デンマーク陸海空軍によって(将来的に)調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、指揮車両、トラック、レーダー、(海軍以外の)弾薬は掲載されていません。
  3. 適切と判断された場合には、各装備の分野ごとに「将来的な保有数」を示しています。この数字は、すでに運用されている同種装備と将来に調達される装備の両方を含めたものです。
  4. この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です


陸軍 - Hæren

歩兵戦闘車 (将来的な数量: 44)
  •  44 「CV90」の改修(新照準装置及び兵器システムの装備) [2020年代半ばに改修予定]

装甲兵員輸送車 (将来的な数量: 330+)

自走砲・多連装ロケット砲 (将来的な数量: 19 SPG, 8 MRL, 15 SPM)

防空システム

装甲工兵車両


無人航空機
  • 小型無人偵察機の導入計画 [2020年代半ば以降に就役予定]


空軍 - Flyvevåbnet

戦闘機 (Future Quantity: 27+)
  • 27 ロッキード・マーチン「F-35A」 [納入中]
  • 追加の「F-35A」 [調達を検討]

無人航空機
  • 長距離無人偵察機の導入計画 [2020年代半ばから後半に就役予定]

初等練習機



海軍 - Søværnet

水上艦
  • 4 フリゲートまたはコルベットの導入計画 [2020年代後半 または 2030年代前半に就役予定] (「テティス」級哨戒艦の後継)

その他の艦艇
  • 1 新型観測船・潜水作業支援船(海軍の潜水任務用) [2029年 または 2030年 に就役予定]
  •  小型無人艇(USV)の導入計画(水上艦搭載用) [2020年代半ばから後半に就役予定]

艦載兵装
  • 50 レイセオン「SM-2 ブロックIIIA」長距離艦対空ミサイル(「イーヴァ・ヴィトフェルト」級フリゲート用) [2021年以降に納入]
  •  レイセオン「SM-6」長距離艦対空ミサイル(「イーヴァ・ヴィトフェルト」級フリゲート用) [導入を検討]
 当記事は、2023年6月7日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。


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