著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
EU加盟国内で最大規模の軍隊をもたらすことになるポーランドの防衛費増額には、(少なくとも私たちの記事を通じて)多くの注目が寄せられています。[1]
ほかのNATO加盟国もこの動きに追随しようと試みており、ルーマニアでは小規模ながらポーランドの事例と同様の野心的な再軍備計画に着手しています。これらの国々による計画上の数値を合算した場合、結果的に数千台の戦車と歩兵戦闘車(IFV)、1000門以上の自走砲(SPG)と多連装ロケット砲(MRL)が調達されることになるでしょう。.
このような目覚ましい数字を目にすると、デンマーク、バルト三国、オランダのような小国が自国軍の大幅な近代化と能力の拡張に取り組んでいることを非常に見落とされがちとなるかもしれません。
この中で、特にデンマークは軍備の導入プロセスを迅速化を追求しており、ヨーロッパの防衛事業として以前では考えられなかったようなペースに加速しています。(特にポーランドのような国と比較した場合)導入した兵器システムの数は決して劇的なものではありませんが、それらはそれ自体でNATOの安全保障にとって不可欠なものであり続けることに疑いを向ける余地はありません。
近年におけるデンマークの兵器調達事業については、完全に新しい能力を導入する一方で、冷戦終結以降に失われた能力を取り戻すことも含まれています。後者に該当するのは潜水艦(2004年)、MRL(2004年)、地対空ミサイルシステム(2005年)、戦術無人航空機(2006年)などです。
新規に買収する兵器類の費用を捻出するためにデンマークは防衛予算を大幅に引き上げました。その規模は防衛支出を増額すべく祝日を廃止したほどにもなります。[2] [3]
人口600万人弱のデンマーク軍は比較的小規模な軍隊です。ただし、(いずれもデンマーク王国の自治領である)フェロー諸島とグリーンランドの防衛も担う海洋国家として、同国は5隻のフリゲートと8隻の哨戒艦(OPV)からなる大規模な海軍を保有しています。
海軍とは対照的に、デンマーク空軍における将来の戦闘機部隊は僅か27機の「F-35」戦闘機で構成される予定となっています。
陸軍は4,000人以上の兵力を誇る1個機械化旅団を有しており、NATOの枠組みの下で緊急展開が可能です。なお、この部隊については最大4,000人の予備兵力で増強を図ることが可能となっています。さらに、必要性が生じた場合には、徴兵と志願兵という形で最大2万人の兵力を動員することができます。[4]
1個機械化旅団の献身は(少なくとも武力紛争の初期段階では)それほど大したものではないと思えるかもしれません。しかし、デンマーク陸軍第1旅団は、ヨーロッパ各地の旅団よりも著しく完成されたものとなっています。
最近、デンマークは軍の規模を拡大するのではなく、イスラエル製の「PULS」MRLや地上配備型防空システム、電子戦システムを導入して第1旅団の戦力を増強することを選択しました。
これらのシステムは、44台の「レオパルド2A7DK」戦車、44台の「CV9035DK」IFV、300台以上の「ピラーニャV」装甲兵員輸送車、(ウクライナに寄贈された19門の「カエサル 8x8」の後継品として2023年に購入された)19門の「ATMOS 2000」自走榴弾砲で構成される部隊をカバーすることになるでしょう。
同旅団が完全に作戦へ投入されていない場合、他のNATO軍部隊の火力を増強するために残存部隊を個別に展開させることもできます。
デンマークによる将来的な調達には、追加の「F-35」とともに、「AGM-158B JASSM-ER」空中発射巡航ミサイル(ALCM)や「AGM-88G AARGM-ER」対レーダーミサイル(ARM)といったスタンドオフ兵器が含まれる可能性があります。
海軍については、「イーヴァ・ヴィトフェルト」級フリゲートの兵装が「BGM-109トマホーク」巡航ミサイルの装備によって強化されるかもしれません。これは、新たな兵装を装備させることで既存の兵器システムの能力を大幅に向上させようとしているオランダの取り組みを反映たものと言えます。
陸軍では、「ATMOS」SPGと「PULS」MRL用の精密誘導弾を(追加的に)調達することも考えられます。特にMRLは、互換性のある全ての長距離精密誘導ロケット弾という形で恩恵を与えられることになるでしょう。[5]
今後、デンマークの防衛力をさらに強化するためにどのような手段が講じられるにせよ、この王国がNATO加盟国としての責任から逃れるつもりはないと決心していることは確実です。
- 以下に列挙した一覧は、デンマーク陸海空軍によって(将来的に)調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
- この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、指揮車両、トラック、レーダー、(海軍以外の)弾薬は掲載されていません。
- 適切と判断された場合には、各装備の分野ごとに「将来的な保有数」を示しています。この数字は、すでに運用されている同種装備と将来に調達される装備の両方を含めたものです。
- この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です
陸軍 - Hæren
歩兵戦闘車 (将来的な数量: 44)
- 44 「CV90」の改修(新照準装置及び兵器システムの装備) [2020年代半ばに改修予定]
装甲兵員輸送車 (将来的な数量: 330+)
- 330+ モワク「ピラーニャV」 (複数の派生型を含む:「スパイク-LR2」ATGMを装備可能) [2023年に納入完了予定]
自走砲・多連装ロケット砲 (将来的な数量: 19 SPG, 8 MRL, 15 SPM)
- 6 エルビット「カルドム10」120mm自走迫撃砲(SPM) (オプション) (すでに運用されている15台の同SPMを補完可能)
- 19 ソルタム「ATMOS 2000」155mmトラック搭載指揮砲兵システム [納入中]
- 8 エルビット「PULS」多連装ロケット砲 [同上]
防空システム
- ラインメタル「スカイレンジャー30」短距離自走防空システム (「ピラーニャVが車体) [2020年代半ばから後半に納入予定]
- 中・長距離地対空ミサイルシステム (SAM)の導入計画 [2020年代半ば以降に就役予定]
- 17 ベルゲパンツァー BPz3 "ビュッフェル" 装甲回収車 [2020年代半ばから後半の間に納入予定]
- 6 AEV 3 "コディアック" 戦闘工兵車 [同上]
- 7 パンツァーシュネルブリュッケ "レグアン" 架橋戦車 [同上]
無人航空機
- 小型無人偵察機の導入計画 [2020年代半ば以降に就役予定]
空軍 - Flyvevåbnet
戦闘機 (Future Quantity: 27+)
無人航空機
初等練習機
海軍 - Søværnet
水上艦
その他の艦艇
戦闘機 (Future Quantity: 27+)
- 27 ロッキード・マーチン「F-35A」 [納入中]
- 追加の「F-35A」 [調達を検討]
無人航空機
- 長距離無人偵察機の導入計画 [2020年代半ばから後半に就役予定]
初等練習機
- 27 サーブ「T-17 "サポーター"」初等練習機の改修 [2020年代半ばに改修予定]
海軍 - Søværnet
水上艦
- 4 フリゲートまたはコルベットの導入計画 [2020年代後半 または 2030年代前半に就役予定] (「テティス」級哨戒艦の後継)
その他の艦艇
- 1 新型観測船・潜水作業支援船(海軍の潜水任務用) [2029年 または 2030年 に就役予定]
- 小型無人艇(USV)の導入計画(水上艦搭載用) [2020年代半ばから後半に就役予定]
艦載兵装
- 50 レイセオン「SM-2 ブロックIIIA」長距離艦対空ミサイル(「イーヴァ・ヴィトフェルト」級フリゲート用) [2021年以降に納入]
- レイセオン「SM-6」長距離艦対空ミサイル(「イーヴァ・ヴィトフェルト」級フリゲート用) [導入を検討]
[1] A 21st Century Powerhouse: Listing Poland’s Recent Arms Acquisitions https://www.oryxspioenkop.com/2022/11/a-21st-century-powerhouse-listing.html
[2] Denmark plans defence spend of $21 billion over next decade https://www.reuters.com/world/europe/denmark-plans-defence-investment-21-bln-over-next-decade-2023-05-30/
[3] Denmark scraps public holiday to boost defence budget https://www.bbc.com/news/world-europe-64802462
[4] Defence Agreement 2018 - 2023 https://www.fmn.dk/globalassets/fmn/dokumenter/forlig/-danish-defence-agreement-2018-2023-pdfa-2018.pdf
[5] https://twitter.com/nicholadrummond/status/1663524334013431813
当記事は、2023年6月7日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。
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