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2024年3月31日日曜日

大いなる破壊者:イスラミック・ステートのリジッドダンプトラック転用型VBIED


著 シュタイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2015年8月21日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 車両運搬式即席爆発装置/自動車爆弾(VBIED)は、過去2年間で、シリアとイラクのイスラム国戦闘員によって知られるようになりました。このコンセプトについては、イスラム国が両国の戦場で、より防御力が高く、さらに大型のものを絶え間なく製作と投入し続けることによって完成させたと言えるかもしれません。ラジコンの自動車から爆薬を満載した戦車や自走砲に至るまで、イスラム国はVBIEDであらゆることをやってきたのです。

 イスラム国の部隊が用いるVBIEDは、一般的な軍隊における砲爆撃やロケット弾攻撃とほぼ同じような働きをします。あらゆる部隊の集結地点や基地に致命的な打撃を与える可能性を秘めている点を別にすると、VBIEDは爆発後にまだ生き残っている敵を恐怖に陥れて士気を低下させる心理兵器としての役割も果たす兵器なのです。

 また、十分に防御された基地を攻撃する場合において、イスラム国は最後の一撃を加える前にVBIEDを多用する傾向があります。

 ダマスカスとホムスのT4空軍基地の中間に位置する(イスラム国が支配下に置いた)アル・カリヤタインから上がってきた画像は、彼らが巨大なダンプトラックをVBIEDとして使用し始めたことを示しています。


 運転手と前輪を保護するためか、ダンプトラックにはスラット装甲と装甲板で構成される非常に初歩的なDIY装甲が追加されていました。

 このような重量級の車両で良好な状況認識力を確保するためにダンプトラックの窓は極めて大きいことから、ただでさえ巨大な車両の運転手は機銃掃射にさらされてしまうことは明らかです。そこで、運転手を守るべく、運転席の前には小さな窓付きの装甲板が装備されたほか、その正面にはスラット装甲も取り付けられています。

 2015年5月下旬のイスラム国によるシリア中部への攻勢を細かく観察していた人であれば、巨大なVBIEDの正体が彼らに制圧されたクナイフィス燐鉱山で鹵獲されたダンプトラックだとすぐに気づくでしょう。イスラム国の戦闘員が鉱山を制圧した時点で、クナイフィスには約12台のリジットダンプトラックがあったことから、今後しばらくの間はVBIEDに転用するためのより多くの大型車両が安定的に供給されることになったわけです。

 下の画像では、鉱山に並べられたベラルーシのベラーズ社製リジットダンプトラックを見ることができます。


 先に紹介した個体は、クナイフィスから車で僅か50kmのアル・カリヤタインの北東に位置するアル・マフラク検問所の攻撃に投入されました。

 この巨大なリジッドダンプトラックは一見すると「無事に」目的地に到着して検問所で起爆したようですが、その戦果は今も(そして今後も)不明のままとなることは間違いありません(爆発の模様は下の画像で見ることができます)。

 ダンプトラックに備えられた巨大なバスケットは、無限と思える量の爆薬を目標に向かって運ぶことを可能にしてくれます。問題といえば、クナイフィスとアル・カリヤタイン近郊に配置されているイスラム国の戦闘員たちが、最低でも1個のバスケットを満杯にするほどの十分な武器をかき集めることができるのかということでしょうか。


 鹵獲された約10台のリジッドダンプトラックの約半数がまだ運用可能な状態であることに加えて、シリア中央部には多数の標的が残っていることから、この先も広大なシリアの砂漠を進む巨大な怪物の姿をもっと目にする機会があるかもしれません。

 この車両には無限とも思えるような量の爆薬を輸送する能力があることを説明しましたが、その巨大なサイズを考慮すると、十分に防御された検問所へ攻撃を仕掛けた場合は彼らの射撃訓練の的で終わる可能性が高いと思われます。


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2023年10月4日水曜日

現代の戦時急造兵器:シリアの「シャムス」多連装ロケット砲

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 シリア・アラブ陸軍の機甲師団は、追加装甲でアップグレードされた数種類の戦車やほかの装甲戦闘車両(AFV)を運用していることでよく知られています。

 さまざまなAFVや支援車両に施した後、第1機甲師団(第1AD)は2016年に新型の多連装ロケット砲(MRL)を導入することで、その保有兵器のストックをもう一度拡充しました。このMRLは、アラビア語で太陽を意味する「シャムス」として広く知られています。そのニックネームは、ロシア軍がシリアに展開していた際に配備されたTOS-1A 「Solntsepyok」が「太陽」と呼ばれていたことに由来すると考えられています。

 この車両は、ダマスカスの戦域全体でAFVに施された高度で専門的なアップグレードの傾向を引き継いでいます。

 このようなアップグレードされた車両の最初のものは2014年末に登場し、この時には少なくとも2台の装甲が強化された(イタリアのTURMS-T火器管制システムを装備した)T-72M1が、ジョバルに配備された直後に破壊された姿が公開されました。しかし、この事態が第4ADに計画の推進を阻むことはなく、その後の数年間で数種類の装甲強化型AFVが戦場で目撃されるようになったのです。

 「シャムス」は、2発か5発の大口径ロケット弾を発射する機構とGAZ製SadkoトラックまたはBMP-1歩兵戦闘車(IFV)の車体を組み合わせた自走式MRLシステムです。

 このMRLに使用するロケット弾は標準的なロケット弾により大きな弾頭を組み合わせた評判の高い「ボルケーノ」型であり、2013年のアル・クサイルでの戦いの際に、直撃すれば住宅区画を完全に破壊できる威力があることで広く知られるようになりました。 

 シリアの軍需産業は同時期にこの「ボルケーノ」を大量生産し始め、即座にシリアにおけるほぼ全ての戦線で使用され始めました。

 BMP-1をベースにした「シャムス」はかなりの数の画像が撮影されていますが、実際に改修されたBMPはたった1台だけしかありません。よりすぐに使用できるプラットフォームとしてGAZ製「Sadko」トラックがあり、数台が自走発射機として改修されました。 

 このGAZ製「Sodko」をベースにしたものには2種類のモデルが存在します。1つは発射機を搭載するために特別に改修されたもので、もう1つは無改造のトラックの後部に発射機を搭載したものです。

それ以外の車両は改修されなかったと考えられており、「シャムス」はその後すぐに、より多用途性がある「ゴラン」MRLに取って代わられました。

 BMPとGAZ製「Sadko」をベースにした「シャムス」はその両方が、スラットアーマーを装備した「T-72 TURMS-T」ロシアから供与されたBTR-70M装甲兵員輸送車(APC)を含む、いくつかの注目すべきAFVを運用している第1師団に所属しています。



 シリアでは現在3種類の「ボルケーノ」が生産されていると考えられており、さらにそれぞれいくつかの派生型に分かれています。

 最も広く使用されている「ボルケーノ」用ロケット弾は107mmと122mm弾をベースにしたものですが、220mm弾ベースのものも存在します。シリアでは107mmと122mm(グラート)ロケット弾が非常に一般的なものであることに加えて、220mmロケット弾もシリア国内で製造されていることが知られているため、これらのロケット弾を「ボルケーノ」に改造することは比較的容易です。

 「シャムス」は2種類の122mmロケット弾をベースにした「ボルケーノ」を使用しており、どちらも大重量の300mm弾頭を備えています。「シャムス」MRLから「ボルケーノ」が発射される様子はここで観ることができます

 興味深いことに、「シャムス」で使用されている2種類の「ボルケーノ」の1つには、通常の弾頭より強力な爆発力をもたらすために空気中の酸素を利用し、閉じ込められた空間での使用に最適なサーモバリック弾頭(350kgというとてつもない重量だと伝えられています)を搭載していると評されています 。[1]

 もう1種類は250kgの通常弾頭(元の122mmロケット弾では約65kg)を使用したもので、装備されている短いロケットブースターによってサーモバリック弾頭型と識別することが可能です。「ボルケーノ」の射程距離はサーモバリック型では3.4キロメートル、従来型では1.5キロメートルとのことです。


 「シャムス」は戦時下に適応した完璧なケースであり、(改修されなければ)平凡だったAFVを現在の戦場で遭遇するタイプの戦闘に完全に適応した、強力なプラットフォームに変えました。

 シリア軍がこういった効果的な戦力増強をさらに行うかどうかはその意欲とリソース次第ですが、そのような試みにおける柔軟性が軍事プランに反映されるのであれば、その決定は最終的にシリア軍の再建に大きな影響を与える可能性があるでしょう。

  [1] @WithinSyria氏との個人的な会話

特別協力: Morant Mathieu(敬称略)

※  当記事は、2021年10月3日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも      のです。意訳などにより、僅かに意味や言い回しを変更した箇所があります。

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2017年6月30日金曜日

再武装が進むシリア軍:ロシアが供与したBMP-2と2S9が到着した


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 今年初めにT-62MBMP-1をシリア軍に初めて引き渡した後にシリアから出てきた新たな画像は、より多くの種類のAFVが最近になってロシアの「シリア急行」に積載されてシリアへ送られたことを明らかにしました。今ではこれらの新たな供与は、ホムス東部でシリア軍のイスラミック・ステート(IS)に対する大躍進をもたらしています。新たに引き渡されたAFVはISへの反撃のために最終的に同地に配備される可能性が高いでしょう。

 大量の武器や車両の引渡しは、現在シリア各地で活動している多くの民兵組織のいくつかを編入した統一軍を創設する計画を含むシリア軍(SAA:Syrian Arab Army)の事実上の再建の一環です。このプロセスを背後で支える原動力は新たに設立された第5軍団であり、同軍団は過去6年の間にSAAの役割を奪ってきた、前述の民兵組織の増大する力に対抗する役割を果たします。

 SAAの復権におけるロシアの役割に従って、この新生の軍隊への訓練と装備を担当するのもまたロシアです。これによって、シリアはすぐに追加のT-72T-90、さらにはBMP-3でさえ受け取るものと思わせましたが(これらの全てが現時点におけるSAAの機甲戦力を構成するAFVより高度なものです)、今までの供与ではそのほとんどがロシア軍で既に運用されていない、もはや必要とされていない旧式の兵器でした。

 それにもかかわらず、これらの供与された車両と兵器の多くは、シリアの一部を支配するべく戦う多数の勢力に対する今日の作戦行動においてSAAにとって理想的に適合しています。小火器や大量のウラルGAZKamAZUAZのトラックとジープの供与に加えて、今までのところ、T-62MとBMP-1(P)、 M-1938(M-30)122mm榴弾砲がもたらされており、現在ではBMP-2歩兵戦闘車と2S9 120mm自走迫撃砲も加わりました。

 第5軍団に対する以前の供与では、BMP-1や第二次世界大戦時のM-30 122mm榴弾砲のような高度ではない装備だったことから、BMP-2と2S9といった装備の供与は関心を引きます。より高度な装備がシリアに到着しているという最近の事実は、ロシアが再軍備計画を成功と判断している証拠かもしれません。また、内戦がシリア政府に有利に展開し続けるにつれて、より高度な装備の供与を潜在的に強化する可能性もあるでしょう。


 内戦の画像や映像においてBMP-2の存在が相対的に稀にもかかわらず、シリアの戦場では間違いなく見知らぬAFVではありません。実際、シリアは80年代後半に導入した約100台にわたるBMP-2の残存車両を継続して運用しており、そのほとんどがダマスカス周辺で作戦を展開する共和国防衛隊に配備されています。

 1980年代から既に運用中のBMP-2に加え、タドムル近郊の作戦に参加するため、2015年に少数のBMP-2がT-72BとBMP-1と共にロシアから供与されました。これらのBMP-2のうち少なくとも1台、おそらくは2台がその後にタドムル付近で破壊されたようです。

 現在供与されている車両は、ダークグリーンの迷彩塗装によって既にシリアで運用されているBMP-2(注:デザートイエロー色)と簡単に識別することができますが、何よりもBMP-2 1984年型とそれ以降の派生型のみに存在する、砲塔に装備された対放射線防護用装甲がある点で可能です。シリアが80年代後半に受領したBMP-2は旧式の1980年型であり、そのような対放射線防護用装甲および他の漸進的な改良が欠けています。

 BMP-2は、1970年代に導入されて以来、SAAの主力IFVとして役立ってきたBMP-1の能力を大幅に向上させたものです。本来、ヨーロッパの平野で使用するために設計されたBMP-1の武装は、歩兵を支援するためには不十分であることだけでなく、重装甲のAFVを相手にする能力がないことがすぐにわかりました。さらに、BMP-1の薄い装甲や主砲が仰角をとれない点と移動中に正確に発射できない点が、同車を今日の紛争での使用においては痛ましいほど時代遅れなものにしています。

 BMP-1から学んだ教訓の多くを取り入れて、BMP-2はこれらの深刻な欠点のいくつかを取り除きました。最も明白なのは、2A28 73mm低圧砲を歩兵の支援と仰角を高くとることができるおかげで高所にある敵の位置を抑えることに非常に適した、速射可能な 2A42 30mm機関砲へ交換した点です。BMP-2には、BMP-1の扱いにくく、使用されることがほとんどなかった9M14 マリュートカとは対照的に、9M113コンクールス対戦車ミサイル(ATGM)の発射機が装備されています。


 2S9の供与も、以前にこの車両が、今まで自走迫撃砲を運用していなかったSAAに就役したことが無かったために注目に値します。2S9は、通常の砲弾では約8キロメートルの距離を、ロケット補助推進弾では12キロ以上の距離に砲弾を投射することができる後装式の2A60 120mm迫撃砲を装備しています。この自走砲のために誘導砲弾も開発されたものの、シリアに配備されている可能性は低いでしょう。

 SAAは砲撃支援のために数種類の牽引式野戦砲に加えて、2S1 122mm自走榴弾砲とBM-21 122mmMRLを大量に運用し続けていますが、2S9は仰角を高くとることができるため、現時点で政権軍がホムス東部で直面している山や尾根で防備を固めるISの陣地への攻撃には最適です。

 すぐに2S9が空中投下可能だということに気付く人もいるでしょうが、このような方法でデリゾールに送られる可能性はほとんどありません。2S9がSAAで運用に入るその種(自走迫撃砲)の最初のタイプであるため、おそらく乗員は最初にこの車両で訓練しなければならないでしょう。(注:完熟訓練)。もちろん、BMP-2も同様といえます(より少ない訓練で済むでしょうが)。結果として、彼らが最前線に姿を見せるまでにはある程度時間がかかるかもしれません。

 現在、政府軍が主にISに対して大躍進しているため、ロシアはシリア政府への支援を熱心に維持し続けると思われ、これまでに果てしなく続くように思われた紛争の中で投資をさらに強化していくでしょう。シリアにとって、これらの車両が現実に供与されることはそれが意味する傾向よりもはるかに重要の度合いが低い可能性があります(注:たとえ何であろうとロシアがシリアを支援することを意味しているため、その「流れ」はこうしたAFVの供与自体よりもさらに重要ということ)。

 基本的にSAAのストックを無限に補給することができ、経済的苦難にもかかわらず、SAAをまとまりのある軍隊としての回帰をもたらすため必要とされる金額を支払う意思がある同盟国のおかげで、SAAの最終的な勝利は将来の紛争の推移において全く予期しない紆余曲折をはばむものと思われます。  

 いかなる場合でも、現在の情勢の進展はシリアで争っている軍隊や勢力の間に戦略的均衡に作用することが確実であり、シリア内戦の最終的な結果に広範囲にわたって影響をもたらす可能性があるのです。

特別協力: Wael Al Hussaini(注:元記事への協力であり、本件編訳とは無関係です)。

 ※ この翻訳元の記事は、2017年6月15日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。  
       正確な表現などについては、元記事をご一読願います。  

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2017年2月22日水曜日

備蓄品からの補充:ロシアから供与されたT-62MとBMP-1がシリアに到着した


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 シリア軍への新しいAFVの供与に関する多くの噂に続いて、シリアから流出したいくらかの画像はそのような引渡しが実際に行われたことを明らかにしました。これらの新しく引き渡されたAFVは、 現在、T4空軍基地~タドムル(パルミラ)間でIS(イスラミック・ステート)との厳しい戦闘に従事しているシリア陸軍第5軍団へ配備されることになっています。
事実、現在ここで行われている戦闘を報じる画像やビデオで、既にこれらの車輌がISへの反撃の役割を果たしている状況が確認されているのです。

 多くの人々は2015年後半にシリア軍部隊にこれらの車輌の小数の引き渡しに続いて、より多くのT-72やT-90でさえ供与されることを期待していましたが、現時点における第5軍団の中核はT-62MやBMP-1(P)といった戦闘で実績のあるAFVで占められているように見えます。
確かに、他のシリアの戦場で用いられているT-72やBMP-2の派生型よりは旧式であるものの、これらのAFVの供与はひどく枯渇したシリア軍の車廠への追加としては依然として歓迎されているようです。

 実際、T-62MはT-90戦車シリーズに見られる「シュトーラ」のようなアクティブ防護システムには恵まれていませんが、シリアにおいて今も疲弊した機甲部隊の大半を占め続けるT-55やT-62の初期派生型よりは大幅に改善されています。

 引き渡されたBMP-1及びBMP-1Pは僅かな攻撃力と防御力しか提供しないものの、特にこれらの車輌を運用した経験がある乗員にとっては習得と維持が容易という事実があることから、第5軍団では十分に役立つ可能性があります。 


 第5軍団はシリア・アラブ陸軍(以下、SyAAと記載)に新しく設立された部隊であり、過去数年間にSyAAの役割を大規模に引き継いだ、勢力を増す様々な民兵組織に対するカウンターウェイトとしての役割を果たすものです。シリアの体制を存続させるためには SyAAの部分的な解体とそれに続く民兵組織の増加が必要でしたが、それが将来的に手に負えない状況に陥る可能性があるという幾多の大きな問題を引き起こしました。第5軍団の設立は、これらの問題の少なくとも一部を解決することをねらいとしているようです。

 ロシアは民兵をシリアの最高司令部の指揮下で独立した部隊として存続させるのではなく、政権に圧力をかけて多くの民兵の指揮及び統制をSyAAに戻すことによって、同軍の事実上の再建を図るけん引役であるように思われます。自身の影響範囲内でシリアを維持するというイランの目標はいくつかの民兵組織の設立で成立しましたが、その多くは結局のところ外国の組織であり、ロシアはそのかわりに統一された軍の創設によって現政権の存続を可能にさせる安定した状況を作り出そうと試みています。

 このような統一された軍の欠如が、タブカへの攻勢の失敗と2度目のタドムル(注意:パルミラ)の喪失を最近の例として、過去数年に渡る政権側の敗北の大半で苦痛を伴いながら明確にされてきました。

 ロシアがシリアに介入した直後に、第5軍団の創設と同様のプロジェクトが開始され、NDF(注:アサド政権の民兵組織)の一部を含むいくつかの民兵組織が第4軍団に合併するように求められました。 かつてNDFが政権の主要な部隊としてSyAAの大部分と置き換えられたとき、NDFは近隣の警戒から、他の場所への攻勢の引き受けとシリアの至る所にある町やガス田、戦略的な軍用施設の警戒にまで任務を拡大しました。したがって、上記の構想はNDFが地方の防衛専用の戦力に残って、これらの任務がSyAAに戻されることを要求したのです。しかしながら、今までのところ、このプロセスは全く成功していないように思われます。

 ほとんど独占的に徴兵された人員から構成されるシリア軍の他の部隊とは対照的に、第5軍団は以前はスクーア・アル・サハラ(砂漠の鷹)のような民兵組織にしか見られなかった給与と手当を提供することによって、多数の男性を引き付けることを期待しています(注:第5軍団は志願制) 。さらに兵士の数の増強を図るため、以前に徴兵を免除されていたり対象とならなかったシリア人男性達は、軍役から除外される厳しい規則があるために第5軍団に入る可能性が高いでしょう。


 現在、ほぼ6年にわたる長い内戦が、かつてシリアの機甲部隊に大きな被害をもたらし、特にロケット推進擲弾(RPG)と対戦車ミサイル(ATGM)の広範囲への拡散による多大な損失に苦しんでいます。その上、戦車を脆弱な固定のトーチカとして役目を担わせるという、ほとんどの政権側の部隊によって採用された貧弱な戦術のために、その価値を効果的に退化させられてしまいました。

 利用可能なAFVの量が今日の作戦に対してはまだ十分あるように思われるが、その数は完全に新しい戦闘団(第5軍団)に装備させるにはあまりにも不足しすぎています。第5軍団の新設というロシアの役割に合わせて、この新しい軍団の装備を担当するのも同じロシアです。これによって、新しい軍団には広範囲にわたる近代的なロシア製兵器が装備されるという見方もありますが、ロシアはこれまでのところ、ロシア軍自身でもはや運用されていない旧式兵器を供与することを約束してきたのです。

 それにもかかわらず、供与された兵器と車輌はSyAAと第5軍団にとって理想的に適していました。小型の武器や大量のウラル、GAZ、カマズ、UAZのトラックとジープの引渡しに加えて、第5軍団への供与品には今までのところT-62M、BMP-1P、BMP-1、M-1938(M-30)122mm榴弾砲が含まれていました。
 
 T-62Mは既にシリアで使用されているものよりも現代的なモデルで、ロシアが提供したものは1970年代の間に近代化されたバッチであり、オンロード及びオフロードにおける機動性の向上を考慮してオリジナルのゴム縁付き転輪を交換しています。

 これらがシリアで出現する前に、既にシリアへの輸送のために港へ向かう少数のT-62Mがロシア国内で目撃されています。これらの戦車はその後、大多数の車輌や装備が既に到着しているタルトゥス港行きの 「シリア急行」に搭載されて出荷されました。そして、T-62MとBMP-1はシリア中央部のISに対する戦闘に加わっている第5軍団の一部を含む新しい部隊への配分をタルトゥスで待つ姿が目撃されました。


 T-62は1980年代初頭にはより近代的な西側の戦車に性能を大きく上回られていたことを受け、いくつかの同戦車の派生型をアップグレードすることを目的とした近代化プログラムの産物がT-62Mです。このプログラムは、 火力、防御、機動性の分野におけるT-62の欠点を対処することを目的とし、それまで期待されていた値より低かった能力を大幅に向上させました。また、この改修は同時期に実施されたT-55及びT-55AをT-55Mに近代化する改修と並行して行われました。

 装甲の強化は、 BDD「ブローヴィ」増加装甲を砲塔前面と車体上部及び底部の避弾経始上に装着すること、ゴム製のサイドスカートや砲塔への対放射線防護用の内張り、それに対戦車地雷に対する底面の装甲強化によって達成されました。結果として増加した重量については、新型のV-55Uディーゼルエンジンによって補われました。

 強力な115mm砲の全潜在能力を活用するために、KTDレーザー測距器と関連機器から構成される 「ヴォルナ」射撃管制装置が搭載されました。この戦車もまた、シリアの T-55(A)MVで使用されている9M117 (9K116-1)「バスチオン」ATGMとほとんど同一の砲発射式ATGM9M117 (9K116-2)「シェクスナ」を発射する能力を得ました。このために、砲手と戦車長の両方が新たな照準システムを得たことから、夜間戦闘時の有効性を大幅に向上しました。この全てに加えて、この戦車には新しいスタビライザー、115mm砲用のサーマルスリーブ、新型の無線機が搭載され、砲塔の右側面には発煙弾発射機が装備されました。

 その年式にもかかわらず、T-62Mは、ソ連のアフガニスタン侵攻中に同国の山岳地で大いに使用され、コーカサスにおける数十年間の対テロ作戦の後、ロシア軍からやっと退役したばかりであす。T-62Mは現在でも他のいくつかの国、特にキューバで運用され続けており、皮肉なことに「キューバ革命軍」の最も現代的な戦車としその任務を果たしています。


 T-62の1967年型及び1972年型のようないくつかの派生型は統一的にT-62Mへ改修されましたが、 1967年式がDShK12.7mm重機関銃を装備していないことにより、双方とも未だ容易に識別することができます。興味深いことに、シリアは1967年式及び1972年式をT-62Mに改修したものを受取ったようです。後者(1970年式改修型)は今までシリア中央部から出てきている映像でより大々的に取り上げられており、 死傷者は報告されていないものの、ISが放つATGMの初めての餌食となってしまいました。

 供与されたほとんどの戦車には、シリアへの出荷前にロシアで描かれた「H22-0-0」という鉄道輸送用マーカーをまだ見ることができます。これらの表示を消さないことは今回の状況には全く重要性を持たない一方で、ウクライナに配備された戦車にも同様のマーカーが残っているため、ウクライナ東部における戦争へのロシアの関与を確認するために再度用いられるでしょう。


 たとえ旧式だとしても、これらのAFVの大量供与はシリアの戦闘車両群を壊滅させた蔓延する消耗の趨勢を逆転する可能性があります。おそらく最も重要なことは、自身の経済的苦境やシリアが破綻している事実にもかかわらず、ロシアが大量の軍用装備で同盟国を支援する能力があり、それを全くいとわないままであることを示している点でしょう。

 今回の新構想(注:大量供与)は本質的に組織化された形でのSyAAの再建を意味しており、シリア内戦の将来の展開に大規模な影響を及ぼすことは確実です。

 ※ この翻訳元の記事は、2017年2月18日に投稿されたものです。
    当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
    正確な表現などについては、元記事をご一読願います。