著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo) シリア北部でトルコ軍のパトロール部隊に対する多数の攻撃が発生し、トルコと
YPG軍は戦争の瀬戸際に直面しています。
(この記事の執筆時点における2021年10月に発生した)トルコ兵1名が死亡した最近の攻撃を受け、エルドアン大統領はシリア北部からYPGを一掃することを宣言しました。[1]
当記事では、YPGが保有する戦車や重火器のリスト化し、機甲部隊がどのようにして形成されたのかを解説します。
シリア内戦に関わるほかの主要な勢力と比べると、YPGは機甲戦力に最も恵まれていないのが特徴です。その結果として生じた戦力差を補うため、 YPGは(通常は)ブルドーザーや大型トラックをベースとしたDIY装甲車の製造に非常に積極的になりました。[2]
軽装甲車とDIYではない真の装甲戦闘車両(AFV)について、YPGは従来からイスラム国(IS)から鹵獲した車両、シリア軍(SyAA)が遺棄したAFVや彼らが身の安全と引き換えに引き渡した装備(例えば2014年にあったメナグ空軍基地からの撤退時)、アメリカから供与された装甲車に頼ってきました。
ISのようなシリア内戦に関わった他勢力がシリア軍から鹵獲した数百台もの戦車やその他のAFVを含む兵器群を蓄えることができた一方で、YPGはシリア軍との戦闘を頻繁に避けていたため、大抵はスクラップで何とかするしかなかったのです。
このような方法で、YPGは前所有者がシリア軍の基地に遺棄した「BTR-60」や「BRDM-2」といった数種類のAFVを手に入れてきました。
YPGはこれと言った装甲戦力や重火器を全く保有していないため、ISの車両や陣地を撃破することについては、ほぼ有志連合軍の航空戦力だけに依存していました。これはISが運用するAFVがYPG部隊に深刻な損害を与える前に撃破されることが一般的だったことを意味していますが、有志連合軍機が投下した爆弾によってAFVの大部分が完全に消し去られていまい、結果的にYPGによる鹵獲や再使用が阻害されてしまったことも意味しています。
シリア北部におけるISとの戦いでSDFを支援する一環で、YPGはアメリカから大量の歩兵機動車(IMV)と耐地雷・伏撃防護車両(MRAP)の供与を受け、滑稽なYPGの自家製AFVの一部をそれらに置き換えたように思われます。
興味深いことに、ISが従来型の軍事力という面で敗北した後でもYPGは供与された車両の保有を許され続けています。しかし、供与された時点でさえも、それらが将来的にNATO加盟国(トルコ)に対して使用される可能性が極めて高いことは誰の目から見ても明らかだったことは言うまでもありません。
「ハンヴィー」や「M1224 "マックスプロ"」、IAG「ガーディアン」の大規模な装甲車両群に加えて、アメリカが多数の「M2 "ブラッドレー"」歩兵戦闘車(IFV)をYPGに譲渡したという報告もなされています。
これらの報告は
SDFの旗を掲げた「M2」IFVが目撃されたことやYPGの戦闘員が同IFVと共に訓練している映像に端を発していると思われますが、現時点でそのような供与が実際に行われたことを示すエビデンスはありません。
2020年2月の
「春の盾作戦」でシリア軍所属の重機甲部隊が全滅したことは、頭上を飛び回る天敵が存在しないトルコの無人機の前では、もはや大規模な機甲戦が通用する戦い方ではなくなったことを証明しました。[3]
その代わり、YPGが前線に沿ってAFVを分散させ、戦闘しないときは頭上に潜む目を避けるために建物の中に隠しておくことが予想されます。YPGはドローンの脅威を抑えるためにこのような戦術を用いることに十分に慣れており、AFVが安全なガレージに隠れている様子が頻繁に確認されているので、この予想は当然なされるべき行動の範疇にあります。
興味深いことに、おそらく故障したか、単に操縦手が間に合わなかったかために出発し損なったAFVが隠れ家で鹵獲されたケースが散見されました。[4]
仮にYPGのAFVが何とかしてアフリンの隠れ家から出てきたとしても、自身を撃破するために送られた複数の航空アセットに直面するため、彼らの運用期間は非常に短くなる傾向にあります。
ほかの事例では、TB2が間に合わせの砲兵戦力として用いられた無反動砲搭載型イラン製
「サフィール」ジープをガレージと化した隠れ家まで追跡し、その後に建物自体を攻撃してそこに隠されていたかもしれない別のAFVとその弾薬全体を破壊したことがありました。[5]
トルコ軍にとって最も脅威となるのは、ほぼ間違いなくYPGが保有する大量のATGMでしょう。
YPGはシリア軍からATGMをごく僅かしか鹵獲していないにもかかわらず、シリアの闇市場で入手したATGMの安定した供給を確保することに成功しました。これらには「9M113 "コンクールス2」や「9M115 "メチス-M"」のようなタイプだけでなく、「9M133 "コルネット"」やアメリカの「TOW」 といった高度なATGMも含まれています。
ATGMは自由シリア軍やトルコ軍に対して頻繁に使用されていますが、YPGは将来的にトルコ軍のAFVや兵士の集結地点に対して使用するために相当な数のミサイルをストックしているものと思われます。
- YPGによって運用されていることが確認されたAFVや重火器の詳細な一覧を以下で観ることができます。
- この一覧は、写真や映像によって証明可能なAFVと重火器だけを掲載しています。したがって、実際にYPGが運用するAFVなどは、ここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。
- この一覧は、現在のYPGで運用されている装備全体を網羅することを目的としているため、すでに失われたAFVは掲載されていません。
- リスト化にあたっては、すでに破壊された車両や重複しての掲載を避けるために細心の注意が払われました。
- 迫撃砲や装甲化されたフロントローダー及びトラックはこの一覧には含まれません
- 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、当該兵器類の画像を見ることができます。
戦車 (11)- 8 T-55A: (1) (2, 防楯と収納箱を追加) (3, 防楯と収納箱を追加) (4, スラットアーマーを追加) (5, スラットアーマーを追加) (6, 北朝鮮のレーザー測距機付きで防楯を追加) (7, 北朝鮮のレーザー測距機付き) (8, 北朝鮮のレーザー測距機付き)
- 1 T-62 "1967年型": (1, サイドスカートと防楯を追加)
- 2 T-62 "1972年型": (1, サイドスカートを追加) (2, 2016年に自由シリア軍から鹵獲、その後の運命は不明)
装甲戦闘車両 (21)- 7 MT-LB 汎用軽装甲牽引車: (1, スラットアーマーと12.7mm重機関銃塔を追加) (2, 12.7mm重機関銃塔を追加) (3, 12.7mm重機関銃塔を追加) (4, イラクでイスラム国から鹵獲されてシリアへ移送されたもの) (5, イラクの詳細不明の勢力から受け継いだもの) (6, イラクの詳細不明の勢力から受け継いだもの) (7, イラクの詳細不明の勢力から受け継いだもの。「ZU-23」23mm機関砲塔を追加)
- 1 2S1 "グヴォズカ" : (1, 122mm榴弾砲が撤去されて「ZU-23」機関砲か銃機関銃を装備)
- 5 BRDM-2 偵察車: (1, 増加装甲と23mm機関砲で強化) (2, 増加装甲で強化) (3, 増加装甲で強化) (4, 増加装甲と新重機関銃塔で強化) (5, 新しいエンジンと銃塔、車体で強化)
- 3 M1117 装甲警戒車: (1, オープントップ型銃塔を装備し、車体側面の装甲が強化。 イラクの詳細不明の勢力から受け継いだもの) (2, イラクでイスラム国から鹵獲されてシリアへ移送されたもの) (3, イラクでイスラム国から鹵獲されてシリアへ移送されたもの)
- 4 T-55ベースの火力支援車両: (1, 12.7mm重機関銃塔を装備) (2, 12.7mm重機関銃塔を装備) (3, 双連の「KPV」14.5mm機関砲塔を装備) (4, 「BMP-1」の73mm 砲塔を装備)
- 1 GAZ-3308ベースのガントラック: (1, 双連の「KPV」14.5mm機関砲塔を装備)
シュトゥルムパンツァー こと 自家製AFV (10)- 10 "シュトゥルムパンツァー": (1, 「BMP-1」の73mm 砲塔を装備) (2, 大型砲塔を装備) (3, 大型砲塔を装備) (4, オープントップ型銃塔を装備) (5, 小型銃塔を装備) (6, 2門の重機関銃と4発の無誘導ロケット弾を装備) (7, ドーザーブレードを装備) (8, 重機関銃塔を装備) (9, 重機関銃塔を装備) (10, 重機関銃塔を装備)
歩兵戦闘車 (11)多連装ロケット砲 (少数)
無人機(少数と思われる)
この記事の作成にあたり、
Calibre Obscura氏に感謝を申し上げます。
ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
があります。