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2023年7月1日土曜日

複雑な内戦の象徴:リビア内戦の両陣営で使われている謎の多連装ロケット砲


※  当記事は、2021年12月14日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。


著: ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo)

 2020年6月初旬、リビアの国民合意政府(GNA)に忠実な部隊が戦略上重要な都市であるタルフーナを占領し、リビア国民軍(LNA)が首都トリポリの攻略を目指して約14か月も展開してきた攻勢が正式に終了したことを世に知らしめました。[1]

 市内に散乱していた戦利品を取捨選択する過程で、GNAはこの時点で全く知られていなかった多くの多連装ロケット砲(MRL)に遭遇しました(下の画像)。

 タルフーナはリビア西部におけるLNAの大規模な補給地として機能しており、彼らがアラブ首長国連邦(UAE)からかなりの軍事支援を受けていたため、この地でも両者のつながりを簡単に構築することができました。それゆえに、謎のMRLについても起源を容易に特定することができたのです。[2]

 MRLのロケット弾ポッド自体は容易に特定することができました。それらはトルコのロケットサン社がUAEに納入した、巨大な「ジョバリア防衛システム(重多連装ロケット砲)」に搭載されているものと同じロケット弾ポッドだったからです。

 ただし、トラックとロケット弾ポッドを搭載する架台を特定することは、北朝鮮によるUAEへの武器輸出に関する予備知識がない限りは困難を極めます。実際、この架台については、1989年にUAEが購入した北朝鮮製240mm MRL「M-1989」で使用されていたものであることが容易に特定できました。[3]

 また、ロケット弾の発射機構を搭載していたトラックも注目に値するものでした。なぜならば、それは(「ACP90」とも呼ばれる)イタリアの「イヴェコ260/330.3」の装甲が強化された派生型だったからです。このトラックは北朝鮮で運用されていませんが、この事実は長くにわたって重火器を搭載するための適切な大型トラック産業を欠いていた同国が、外国から輸入した車両を活用することで(需要に)しばしば間に合わせていたことを意味します。

 このケースでは北朝鮮は専用のトラックを納入しなかったようであり、おそらくはUAE自身でMRLを搭載するのに適したプラットフォームの(それ専用に)改修を支援したものと考えられます。


 北朝鮮がどの程度のMRLをUAEに引き渡したのか、同様にUAEがそれをLNAに供与したのかが不明であることから、今でもUAE軍に多くの北朝鮮製MRLが存在する可能性があることは確実でしょう。

 しかし、今や北朝鮮の独特な240mmロケット弾をアメリカからの制裁を受けることなく入手できなくなったことは、おそらくUAEがどこかの時点で彼らから導入した全てのMRLをトルコ製122mmロケット弾を発射できるように改修し、その後にいくつかがリビアに輸送されてLNAで使用された可能性が高いことを意味しています。

 少なくとも2基のMRLは数個のロケット弾ポッドと一緒に、新しい所有者:LNAによってタルフーナで放棄されました。

LNAによって遺棄されたロケットサン社製122mmロケット弾ポッド(タルフーナにて)

 240mm MRLは北朝鮮で大量に導入され、後にイラン、ミャンマー、アンゴラへの輸出でも商業的な成功を収めました。

 北朝鮮に導入された時点では、これが既存のMRLの中で最も射程距離が長い重MRLであり、90kgの弾頭を最大で43km離れた目標に向けて発射することが可能でした。

 UAEが導入した派生型では、トラックは12本の発射管を備えています。つまり、4台のトラックからは目標に対して48発のロケット弾の集中砲火を浴びせることができることを意味しています。

UAE軍の演習でロケット弾を発射する北朝鮮製240mm MRL

 前述のとおり。素晴らしい能力があるにもかかわらず、UAEにおけるこのユニークな大口径MRLのキャリアが極めて短いものだったことが判明しています。

 UAEが同時期に調達した170mm自走砲「M-1989 "コクサン(または主体砲)"」と同様に、240mm MRLはすでに1990年代後半から2000年代前半の間に現役を退いて保管状態に入り、おそらく現在もUAEのどこかの倉庫で生き残っているものと思われます。[4]

 彼らの退役はUAEにおける大口径MRLの運用が(当面は)終了したことを意味していますが、それでもなお、ロケット弾で標的に徹底的な集中砲火を浴びせるという概念はUAE軍首脳部の心を響かせたことには違いありません。同国の新たなMRL戦力を導入する試みでは、トルコのロケットサン社と共同で世界最大のMRLシステムを設計することになりました。

 「ジョバリア重多連装ロケット砲」として知られているこのシステムは基本的に20発の122mmロケット弾入りロケット弾ポッドを12個を装備したものであり、合計で240発(300mmロケット弾の場合は16発)の122mmロケット弾を搭載する、搭載可能弾数の面では世界最大のMRLです(注:107mmまたは300mmロケット弾ポッドも搭載可能)。

 (状況証拠から察するに)UAEが調達したロケット弾ポッドの数は「ジョバリア」で使用するために必要な数をはるかに上回っていたことは間違いなく、それらが最終的に北朝鮮製MRLの再武装に使われたと推測できます。[5]
 UAEが供与したMRLがリビアにどの程度残っているかは不明ですが、依然として使用されっていることだけは確実です。なぜならば、タルフーナで少なくとも2基のMRLがGNA部隊に鹵獲された約1年半後にそのうちの1基がGNAの首都であるトリポリの近郊で再び目撃されたからです(下の画像)。[6]

 そこではトルコから供与された「T-122 "サカリヤ" 」MRL用のロケット弾ポッドを搭載して運用され続けていますが、皮肉なことに、「T-122」にはUAEのMRLを再武装させたロケットサン社製の同じ122mmロケット弾ポッドが使用されています(注:「ジョバリア」と「T-122」のロケット弾ポッドが共通しているということ)。[7]

 同型のロケット弾ポットがさまざまな経路を経て内戦の両陣営で使用されることになったという事実は、現代の地政学が気まぐれな性格を持っていることを証明しています(注: LNA側は「UAEが北朝鮮から調達したMRLにトルコ製ロケット弾ポッドを搭載、その後に供与されたものを使用」、GNA側は「LNAから鹵獲したものにトルコから供与されたロケット弾ポッドを使用」)

トリポリ近郊で目撃された北朝鮮MRL(「T-122」用ロケット弾ポッド搭載型)

 トルコ製のロケット弾ポッドを搭載した北朝鮮のMRLがリビアへ送られ、トルコが支援する部隊に対して使用されたという実に奇妙な話はこれで終わりです。

 しばらく外交的に対立関係にあったトルコとUAEは数十年にわたる文化・軍事・経済的な協力を継続し、関係の正常化と回復を図ろうとしているため、将来的にトルコ製兵器が北朝鮮製MRLの運用者に使用されることは起こりえないでしょう。

 2021年11月下旬、トルコのエルドアン大統領とUAEの事実上の統治者であるアブダビ首長国のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン皇太子がアンカラで会談し、両国は技術やエネルギー分野などへの数十億ドルの投資に関する協力覚書に調印しました。[8]

 おそらく遠くない将来にトルコの兵器産業は再びUAEの重要なサプライヤーとなり、UAEの北朝鮮製MRLのケースと同様に高度な兵器類を提供するようになるでしょう。



[1] Disaster at Tarhuna: When Haftar Lost Another Stronghold In Crushing Defeat To The GNA https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/disaster-at-tarhuna-how-haftar-blew-yet.html
[2] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html
[3] Inconvenient arms: North Korean weapons in the Middle East https://www.oryxspioenkop.com/2020/11/inconvenient-arms-north-korean-weapons.html
[4] Inconvenient arms: North Korean weapons in the Middle East https://www.oryxspioenkop.com/2020/11/inconvenient-arms-north-korean-weapons.html
[5] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[6] https://twitter.com/Oded121351/status/1427514232749404180
[7] https://twitter.com/Oded121351/status/1333049882299539460
[8] Turkey, UAE sign investment accords worth billions of dollars https://www.reuters.com/world/middle-east/turkey-hopes-uae-investment-deals-during-ankara-talks-2021-11-24/





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2023年4月4日火曜日

不都合な事実:アゼルバイジャンに武器を販売したイスラエルへのアメリカ連邦議会議員の姿勢

「ハロップ」の隣で撮影に応じるアゼルバイジャンのアリエフ大統領

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 イスラエルはアゼルバイジャンにとって武器・装備類の最大のサプライヤーであり、その規模は2016年から2020年までの期間におけるアゼルバイジャンの主要な武器輸入量の実に69%を占めています。[1] [2]

 この数字は2020年のナゴルノ・カラバフ戦争が終結後、さらに増加したと思われます。なぜならば、アゼルバイジャンがこの戦争でかなりの部分を消費してしまった備蓄分の弾薬を戦中と戦後に補充する必要があったからです。[3]

 トルコは頻繁にアゼルバイジャンに対する主要な軍需品の輸出国と思われていますが、2011年から2020年までのアゼルバイジャンの主要武器輸入量でトルコが占める割合は僅か2.9%でした。[4]

 アゼルバイジャンのアルメニアに対する目を見張るような勝利を確実にする上で決定的な役割を果たしたにもかかわらず、イスラエルによるアゼルバイジャンへの武器売却については、アメリカ議会上院にいる忠実なアルメニア支持者たちによって都合よく無視されてきたようです。

 これとは正反対に、アメリカ上院議員(ロバート・メネンデス氏)と下院議員(デイビッド・シシリーヌ氏、ガス・ビリラキス氏)は、トルコのアゼルバイジャンに対する軍事支援を積極的に批判しています。

 彼らの努力によって、トルコによる武装ドローンの輸出が武器輸出管理法(AECA)に違反しているかどうかを明らかにし、「危険で、不安定化要因であり、平和と人権にとっての脅威」であるかどうかも評価するために、同国はアメリカ政府による調査の対象となるでしょう。[5] [6] [7]

 なぜこれらの議員たちがナゴルノ・カラバフ掌握のためにアゼルバイジャン軍を支援したイスラエルの役割に対する調査の要求をしなかったのかという疑問については、おそらく、ビリラキス氏がアメリカ議会内のギリシャ・イスラエル同盟を創設した共同議長であり、シシリーニ氏のウェブサイトに掲載されている米・イスラエル関係に関するページが同国に対する氏の温かい感情を明確に表現しているという事実がその答えとなるでしょう。[8]

 そして、ロバート・メネンデス氏は「おそらく上院で最も熱心なイスラエル支持者である民主党議員」と呼ばれています。[9]

 (紛争の介入といった)暴力行為や武器輸出を独占している国は存在しないため、この問題からは政治的・(イスラエルへの)優遇措置的な匂いが感じられます。

 イスラエルによるアゼルバイジャンへの武器輸出には、徘徊兵器から長射程の「スパイク」対戦車ミサイル(ATGM)、ミサイルを搭載した哨戒艇(OPV)、さらには「LORA」弾道ミサイルまでのあらゆる武器が含まれています。[10]

 また、イスラエルはEU諸国から注文された兵器の荷受人として動くことで、OSCEからアゼルバイジャンに課せられた武器禁輸措置を回避するために同国を何度か手助けもしました。イスラエルが受け取った兵器は、後に外交特権の下で活動する「シルクウェイ・ウエスト航空(注:アゼルバイジャンの航空会社)」の「IL-76」や「ボーイング747」貨物機に積載されてアゼルバイジャンに空輸されたのです。[11]

 アゼルバイジャン軍において、UAVほどイスラエル製兵器の存在が明白になっている種類の兵器は無いでしょう。同国で運用されている20種類のUAVのうち、18種類(90%)がイスラエルのものであり、トルコ製は僅か2種類(10%)です。

 また、イスラエル製UAVの6種類は、弾頭を備えて標的に突入する徘徊兵器です。

 アゼルバイジャン国内(「アザド・システムズ」と呼ばれる合弁会社)で生産されているイスラエルのドローン5機種を別にしても、トルコの機種はアゼルバイジャンが保有するドローンの15%にしか過ぎません。

アゼルバイジャン陸軍で運用されている「LOLA」弾道ミサイル

  1. この一覧を作成した目的は、現時点でアゼルバイジャン軍が運用しているイスラエルの武器類をリスト化することにあります。
  2. 各武器類の名前をクリックすると、アゼルバイジャンで運用されている当該武器の画像を見ることができます。

小火器


装甲戦闘車両(AFV)


(対戦車) ミサイル


無人偵察機


徘徊兵器


自走砲


(無誘導型) 多連装ロケット砲


(誘導型) 多連装ロケット砲


弾道ミサイル
  • LORA [射程: 430km] [CEP: 10m]


地対空ミサイルシステム(SAM)


レーダー


艦艇

[1] Did Azerbaijan’s use of Israeli weapons make the war worse or better? https://www.jpost.com/international/did-azerbaijans-use-of-israeli-weapons-make-the-war-worse-or-better-662442
[2] Arms transfers to conflict zones: The case of Nagorno-Karabakh https://www.sipri.org/commentary/topical-backgrounder/2021/arms-transfers-conflict-zones-case-nagorno-karabakh
[3] Israel sending weapons to Azerbaijan as fight with Armenia rages on: Sources https://english.alarabiya.net/News/world/2020/10/01/Israel-sending-weapons-to-Azerbaijan-as-fight-with-Armenia-rages-on-Sources
[4] Arms transfers to conflict zones: The case of Nagorno-Karabakh https://www.sipri.org/commentary/topical-backgrounder/2021/arms-transfers-conflict-zones-case-nagorno-karabakh
[5] An Analyst’s Perspective: Cicilline and Bilirakis’ Turkish Drone Letter Rebuked https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/an-analysts-perspective-cicilline-and.html
[6] US Senators file amendments to hold Azerbaijan and Turkey accountable https://en.armradio.am/2021/11/04/us-senators-file-amendments-to-hold-azerbaijan-and-turkey-accountable/
[7] Top US senator introduces amendment to track US drone parts to Turkey https://www.middleeasteye.net/news/top-us-senator-introduces-legislation-track-us-drone-parts-turkey
[8] Foreign Affairs https://bilirakis.house.gov/issues/foreign-affairs
[9] Pro-Israel Senator Menendez Issues Rare Rebuke Over Gaza Media Offices Strike https://www.haaretz.com/us-news/.premium-pro-israel-senator-menendez-issues-rare-rebuke-over-gaza-media-offices-strike-1.9811952
[10] Azerbaijan’s Emerging Arsenal Of Deterrent https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/azerbaijans-emerging-arsenal-of.html
[11] Czech Weapons in Azerbaijan: How a Chassis Turned into a Howitzer https://www.investigace.eu/czech-weapons-in-azerbaijan-how-a-chassis-turned-into-a-howitzer/

  翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
    があります。



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