ラベル 弾道ミサイル の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 弾道ミサイル の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2023年7月17日月曜日

海に潜む脅威:フーシ派の海軍(一覧)


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ※  当記事は、2023年1月2日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳
  などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります

  イエメンの反政府勢力であるフーシ派は、多くの大国の戦力を上回る軍備の構築にこぎ着けました。イランが開発した幅広い種類の徘徊兵器や弾道ミサイルを運用していることに加えて、フーシ派は多数の小型艇や水上即席爆発装置(WBIED)、対艦巡行ミサイル(AShM)、機雷、さらには対艦弾道ミサイル(ASBM)さえも保有していることを踏まえると、決して言い過ぎではないでしょう。

 フーシ派の海軍は長年にわたって全く注目されてきませんでしたが、イエメン内戦で強い影響を与えたことは間違いありません。その特筆すべき偉業としては、2016年のAShMによる「HSV-2 "スゥイフト"」の撃破2017年のサウジアラビアのフリゲート「アル・マディーナ」に対するWBIED攻撃の成功、同年のUAEの機雷敷設艦の撃沈、そして2020年と2022年のサウジ上陸船2隻の損傷拿捕が挙げられます。[1]

 そもそもフーシ派がイエメン海軍から継承したものが全く無いことを考えれば、こうした偉業は間違いなくさらに驚異的なものと言えます。

 2015年の港湾都市であるアデンを掌握するための戦いでミサイル搭載艦艇を含めたイエメン海軍が有する戦力のほとんどが破壊され、生き残ったのは、僅かな数の小さな哨戒艇や上陸用舟艇、そして「Mi-14」と「Ka-28」対潜ヘリコプター程度でした。しかし、これらの大半は同年にサウジアラビア主導のイエメン介入時の空爆で破壊されたため、フーシ派の下での活動はごく短期間で終わってしまったのです。

 このようにして、フーシ派には陸上に保管された(発射装置なしの)AShMと小型の哨戒艇の寄せ集めが残される結果となりました。

 これらの残存戦力は、国産の小型艇やその他の艦艇と共にフーシ派の下で新たな「イエメン海軍」の中核を形成することになるのです(注:フーシ派は「イエメン政府」を自称しており、傘下の武装勢力も「イエメン軍」としています。国際的に承認されたイエメン政府・軍との混同を避けるため、この記事では基本的に「フーシ派の海軍」と表記しています)。[2]

 イランはすでに2015年にイエメンがフーシ派に乗っ取られた直後から彼ら(つまりはイラン)が紅海沿岸と沖における有志連合軍の海上輸送を阻止できるように自称「海軍」の戦力をさらに強化しようと試みて、新たなAShMを提供すると共に発射後に容易に秘匿できるトラックをベースとした発射機を製造しました。

 また、イランはエリトリア沖に情報船「サビズ」を停泊させ(通常の貨物船を装う)、そこからフーシ派に連合軍の船の動きに関する情報を提供していたことも報告されています。[3]

 「サビズ」は2021年4月にイスラエルの機雷で損傷するまでこの役割を果たし、その後に「ベーシャド」と呼ばれる別の船に交代しました。「サビズ」と同様に、「ベーシャド」も本来の目的を秘匿するために貨物船をベースにした船です。[4] [5]

 一方のイエメンでは、フーシ派が2010年代初頭にUAEからイエメン沿岸警備隊に寄贈された全長10メートルの哨戒艇を(おそらくイラン人技術者の協力を得て)WBIEDに改造することに成功しました。それらのうちの1つは、2017年にサウジアラビアのフリゲート「アル・マディーナ」を攻撃するために使用されました。その後、「トゥーファン-1」・「トゥーファン-2」・「トゥーファン-3」という3種類のWBIEDが建造されています。

 約15種類もの機雷についても製造が開始されており、これらは紅海での敷設が増加しているものの、まだ(軍用艦艇に対する)戦果を収めていません。[6]

 ほぼ間違いなく最も重要な支援は、イランが射程120kmの「ヌール」及び射程200kmの「カデル」AShM、射程300kmの「ハリージェ・ファールス」 対艦弾道ミサイル(ASBM)、「ファジル-4CL」及び「アル・バフル・アル・アフマル」対艦ロケット弾を供与したことでしょう。これらは2022年にフーシ派のパレードで公開され、彼らの対艦能力が大幅に向上したことが示されました。

 イランが開発した最新型ロケット弾とミサイルを代表するこれらの兵器は、長射程・低コスト・高機動性を兼ね備えているほかに多岐にわたる種類の誘導方式に対応していることから、フーシ派の海軍にとって最適な兵器となっているのです。

イラン製「ハリージェ・ファールス "アーシフ"」ASBM(2022年9月にサヌアで実施された閲兵式にて)

 現時点でフーシ派のASBMの威力が試されたことはありませんが、フーシ派の海軍はすでにAShMを使用して注目すべき戦果を収めています。

 2016年10月1日に、陸上から発射した1発の「C-801/C-802」 AShMでUAE企業が運用中の双胴高速輸送船「HSV-2 "スウィフト"」の攻撃に成功しました。「スウィフト」はミサイルが命中後もなんとか浮いていたものの、損傷があまりにも激しかったために廃船にせざるを得なくなりました。

 この海域における船舶の航行が妨害されないようにするため、アメリカ海軍は後で駆逐艦2隻とドック型輸送揚陸艦を紅海に派遣しました。これらの艦艇は後で2発のAShMに攻撃されましたが、どちらも迎撃や何等かの原因で到達前に着水したために被害は報告されていません。[7]

 一連の攻撃はイエメン周辺の海域における艦艇を脅かすフーシ派の能力がまだ限定的であることを示しましたが、それ以降の脅威は著しく進化しています。現在のフーシ派は撃ち込まれた際の迎撃と広範囲をカバーすることが困難な数種類の対艦弾道ミサイルと対艦ロケット弾を装備していることから、次にあるかもしれないUAE・サウジアラビア・アメリカ海軍との武力衝突では、今までとは全く異なる結果がもたらされる可能性があるのです。

 また、フーシ派はペルシャ湾における近年のイランの戦術を模倣し、紅海の商船に対する徘徊兵器の使用も示唆しています。[8]

 国際社会の話題からほとんど消え去ったためか、イエメン内戦は今や停滞気味にあると考えられがちなようです。しかし、フーシ派の戦力が成長するにつれて、その動態が進化し続けていることを無視することはできません。彼らを過小評価するならば、そう遠くないうちに話題不足どころか内戦の停滞さえも過去の出来事となる時代が再来するでしょう。

フーシ派の「C-801/802」AShMの直撃を受けた後の「HSV-2 "スウィフト"」(2016年)

  1. この一覧の目的は現時点でフーシ派が保有しているや艦艇、WBIED、対艦ミサイル、そして機雷を包括的に網羅することにあります。
  2. 小型艇や民間船はこの一覧から除外されています。 
  3. 外国起源の兵器でアポストロフィーで囲まれた名前は、基本的にフーシ派で用いられている名称です(ただし、イエメン国旗のものは除外します)。
  4. 各兵器の名称に続く角括弧の数字は、イエメンでの存在が判明した年を示しています(ただし、2014/2015年のフーシ派によるイエメン制圧後に納入・製造された兵器が対象です)。
  5. 各兵器名をクリックするとフーシ派で使用されている姿の画像を見ることができます。

高速哨戒艇

水上即席爆発装置 (WBIED)

対艦弾道ミサイル・ロケット弾(ASBM)

対艦巡行ミサイル(AShM)

機雷
特別協力:ジョシュア・クーンツ(敬称略)

[1] The minelayer was later raised and presumably repaired.
[2] Which is known as the Yemeni Navy and Coastal Defence Forces. The maritime element of the the Saudi-backed government is known as the Yemeni Coast Guard (which also existed prior to the 2014/2015 Houthi takeover in Yemen.
[3] Saviz http://www.hisutton.com/Saviz.html
[4] Israel informed US it attacked Iran’s Saviz ship in Red Sea as retaliation: NYT https://english.alarabiya.net/News/middle-east/2021/04/07/Israel-informed-US-it-attacked-Iran-s-Saviz-ship-in-Red-Sea-as-retaliation-NYT
[5] Iran replaces stricken Red Sea spy ship with new focus on oil tankers https://almashareq.com/en_GB/articles/cnmi_am/features/2021/08/19/feature-01
[6] Houthi Rebels Unveil Host of Weaponry, Compounding Drone and Missile Threat https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/houthi-rebels-unveil-host-of-weaponry.html
[7] USS Mason Fired 3 Missiles to Defend From Yemen Cruise Missiles Attack https://news.usni.org/2016/10/11/uss-mason-fired-3-missiles-to-defend-from-yemen-cruise-missiles-attack
[8] https://twitter.com/JoshuaKoontz__/status/1583526237237956608

2023年4月4日火曜日

不都合な事実:アゼルバイジャンに武器を販売したイスラエルへのアメリカ連邦議会議員の姿勢

「ハロップ」の隣で撮影に応じるアゼルバイジャンのアリエフ大統領

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 イスラエルはアゼルバイジャンにとって武器・装備類の最大のサプライヤーであり、その規模は2016年から2020年までの期間におけるアゼルバイジャンの主要な武器輸入量の実に69%を占めています。[1] [2]

 この数字は2020年のナゴルノ・カラバフ戦争が終結後、さらに増加したと思われます。なぜならば、アゼルバイジャンがこの戦争でかなりの部分を消費してしまった備蓄分の弾薬を戦中と戦後に補充する必要があったからです。[3]

 トルコは頻繁にアゼルバイジャンに対する主要な軍需品の輸出国と思われていますが、2011年から2020年までのアゼルバイジャンの主要武器輸入量でトルコが占める割合は僅か2.9%でした。[4]

 アゼルバイジャンのアルメニアに対する目を見張るような勝利を確実にする上で決定的な役割を果たしたにもかかわらず、イスラエルによるアゼルバイジャンへの武器売却については、アメリカ議会上院にいる忠実なアルメニア支持者たちによって都合よく無視されてきたようです。

 これとは正反対に、アメリカ上院議員(ロバート・メネンデス氏)と下院議員(デイビッド・シシリーヌ氏、ガス・ビリラキス氏)は、トルコのアゼルバイジャンに対する軍事支援を積極的に批判しています。

 彼らの努力によって、トルコによる武装ドローンの輸出が武器輸出管理法(AECA)に違反しているかどうかを明らかにし、「危険で、不安定化要因であり、平和と人権にとっての脅威」であるかどうかも評価するために、同国はアメリカ政府による調査の対象となるでしょう。[5] [6] [7]

 なぜこれらの議員たちがナゴルノ・カラバフ掌握のためにアゼルバイジャン軍を支援したイスラエルの役割に対する調査の要求をしなかったのかという疑問については、おそらく、ビリラキス氏がアメリカ議会内のギリシャ・イスラエル同盟を創設した共同議長であり、シシリーニ氏のウェブサイトに掲載されている米・イスラエル関係に関するページが同国に対する氏の温かい感情を明確に表現しているという事実がその答えとなるでしょう。[8]

 そして、ロバート・メネンデス氏は「おそらく上院で最も熱心なイスラエル支持者である民主党議員」と呼ばれています。[9]

 (紛争の介入といった)暴力行為や武器輸出を独占している国は存在しないため、この問題からは政治的・(イスラエルへの)優遇措置的な匂いが感じられます。

 イスラエルによるアゼルバイジャンへの武器輸出には、徘徊兵器から長射程の「スパイク」対戦車ミサイル(ATGM)、ミサイルを搭載した哨戒艇(OPV)、さらには「LORA」弾道ミサイルまでのあらゆる武器が含まれています。[10]

 また、イスラエルはEU諸国から注文された兵器の荷受人として動くことで、OSCEからアゼルバイジャンに課せられた武器禁輸措置を回避するために同国を何度か手助けもしました。イスラエルが受け取った兵器は、後に外交特権の下で活動する「シルクウェイ・ウエスト航空(注:アゼルバイジャンの航空会社)」の「IL-76」や「ボーイング747」貨物機に積載されてアゼルバイジャンに空輸されたのです。[11]

 アゼルバイジャン軍において、UAVほどイスラエル製兵器の存在が明白になっている種類の兵器は無いでしょう。同国で運用されている20種類のUAVのうち、18種類(90%)がイスラエルのものであり、トルコ製は僅か2種類(10%)です。

 また、イスラエル製UAVの6種類は、弾頭を備えて標的に突入する徘徊兵器です。

 アゼルバイジャン国内(「アザド・システムズ」と呼ばれる合弁会社)で生産されているイスラエルのドローン5機種を別にしても、トルコの機種はアゼルバイジャンが保有するドローンの15%にしか過ぎません。

アゼルバイジャン陸軍で運用されている「LOLA」弾道ミサイル

  1. この一覧を作成した目的は、現時点でアゼルバイジャン軍が運用しているイスラエルの武器類をリスト化することにあります。
  2. 各武器類の名前をクリックすると、アゼルバイジャンで運用されている当該武器の画像を見ることができます。

小火器


装甲戦闘車両(AFV)


(対戦車) ミサイル


無人偵察機


徘徊兵器


自走砲


(無誘導型) 多連装ロケット砲


(誘導型) 多連装ロケット砲


弾道ミサイル
  • LORA [射程: 430km] [CEP: 10m]


地対空ミサイルシステム(SAM)


レーダー


艦艇

[1] Did Azerbaijan’s use of Israeli weapons make the war worse or better? https://www.jpost.com/international/did-azerbaijans-use-of-israeli-weapons-make-the-war-worse-or-better-662442
[2] Arms transfers to conflict zones: The case of Nagorno-Karabakh https://www.sipri.org/commentary/topical-backgrounder/2021/arms-transfers-conflict-zones-case-nagorno-karabakh
[3] Israel sending weapons to Azerbaijan as fight with Armenia rages on: Sources https://english.alarabiya.net/News/world/2020/10/01/Israel-sending-weapons-to-Azerbaijan-as-fight-with-Armenia-rages-on-Sources
[4] Arms transfers to conflict zones: The case of Nagorno-Karabakh https://www.sipri.org/commentary/topical-backgrounder/2021/arms-transfers-conflict-zones-case-nagorno-karabakh
[5] An Analyst’s Perspective: Cicilline and Bilirakis’ Turkish Drone Letter Rebuked https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/an-analysts-perspective-cicilline-and.html
[6] US Senators file amendments to hold Azerbaijan and Turkey accountable https://en.armradio.am/2021/11/04/us-senators-file-amendments-to-hold-azerbaijan-and-turkey-accountable/
[7] Top US senator introduces amendment to track US drone parts to Turkey https://www.middleeasteye.net/news/top-us-senator-introduces-legislation-track-us-drone-parts-turkey
[8] Foreign Affairs https://bilirakis.house.gov/issues/foreign-affairs
[9] Pro-Israel Senator Menendez Issues Rare Rebuke Over Gaza Media Offices Strike https://www.haaretz.com/us-news/.premium-pro-israel-senator-menendez-issues-rare-rebuke-over-gaza-media-offices-strike-1.9811952
[10] Azerbaijan’s Emerging Arsenal Of Deterrent https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/azerbaijans-emerging-arsenal-of.html
[11] Czech Weapons in Azerbaijan: How a Chassis Turned into a Howitzer https://www.investigace.eu/czech-weapons-in-azerbaijan-how-a-chassis-turned-into-a-howitzer/

  翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
    があります。



おすすめの記事