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2023年7月15日土曜日

繰り返される商業的成功:トルクメニスタンが徘徊兵器「スカイストライカー」を導入した


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 トルクメニスタンはイスラエル製武器と装備類を大規模に導入した国であり、現在までにそれらには「TAR-21」アサルトライフルや数種類の歩兵機動車といったものが含まれています。

 おそらくほとんど知られていないのは、トルクメニスタンがイスラエル製UAVも保有していることでしょう。2021年までの同国におけるイスラエル製UAV飛行隊については、エルビット「スカイラーク」エアロノーティクス・ディフェンス「オービター2B」といったよく知られた偵察任務専用の機体で構成されていました。これらは2010年代初頭に入手したものであり、ソ連時代から受け継いだターゲット・ドローンではないトルクメニスタン初のUAVとなりました。

 イスラエルはいかなる種類の無人戦闘航空機(UCAV)の輸出をしていないことから、トルクメニスタンは武装ドローンを得るべく中国から「CH-3A」と「WJ-600A/D」を、後にトルコから「バイラクタルTB2」の調達を開始しました。[1] [2]

 同様に、この国はイスラエルの「エアロスター」、IAI「ヘロン」や「ヘルメス450」を調達するのではなく、3機のセレックスES「ファルコXN」無人偵察機を導入するためにイタリアに目を向けました。[3]

 これらの機体の導入で、一度はより多くの新型イスラエル製UAVがトルクメニスタン軍での運用に就く機会を失ったように考えられました。

 しかし、2021年9月に実施されたトルクメニスタン独立30周年記念の軍事パレードでは、自国の保有兵器に新しい兵器システム「徘徊兵器」が加わったことが明らかにされたのです。つまり、新カテゴリーの兵器の購入するために、トルクメニスタンは再びイスラエル製UAVの系譜に求めたということになります。

 新規導入した徘徊兵器は実績のある「スカイストライカー」であり、この調達はトルクメニスタンに既存の無人攻撃能力を大幅に拡張させることを可能にします。

 これらを調達する決定が、ナゴルノ・カラバフ上空における非常に効果的な使用を目撃してからなされたという可能性は信じがたい話ではないようです。

 ナゴルノ・カラバフで、アゼルバイジャンはSTM「カルグ」、エアロノーティクス・ディフェンス「オービター1K(とアゼルバイジャン生産型の「Zarba-K)」、IAI「ハロップ」そしてエルビット「スカイストライカー」を投入しました。トルコの「カルグ」以外はイスラエルによって設計・製造されたものです。そえゆえに、世界中に無数の競合相手が出現しているにもかかわらず、イスラエルは徘徊兵器のマーケット・リーダーであり続けています。

 イスラエルは新型の徘徊兵器を導入し続けている一方で、(スカイストライカーなどの)既存のシステムの改良もしていることを考えると、イスラエルが近い将来にその地位を失う可能性は極めて低いと思われます。



 「スカイストライカー」は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争やそれ以前にあった小競り合いでアゼルバイジャンがアルメニア側に対して実戦投入され、多大な効果を発揮しました。

 アゼルバイジャンはスカイストライカーの初期型(下の画像)及びトルクメニスタンも採用した最新型を運用しています。

 1機100万ドル(約1.1億円)と云われるIAI「ハロップ」と比較すると、 「スカイストライカー」は価格が大幅に低いものとなっています。「ハロップ」用の移動式発射システムは合計9機を搭載可能で価格は900万ドル(約10億円)ですが、これは「バイラクタルTB2」UCAV2機分の輸出価格とほぼ同じなのです!この価格で「ハロップ」は1,000kmの射程距離と23kgの弾頭を誇るのに対し、「スカイストライカー」は射程距離が約100kmで、ほとんどの目標を一撃で破壊することに十分な5kgまたは10kgの弾頭を搭載しています。[4][5] [6]

 目標地点に到達すると、この徘徊兵器は5kg弾頭を搭載している場合は最大で2時間、10kg弾頭の場合は最大で1時間は標的を捜索するために滞空することが可能であるほか、仮に標的を発見できなかった場合、「スカイストライカー」は基地に戻して回収することが可能というメリットを持っています。[5]

 巡航中と滞空中の「スカイストライカー」は自律航法を用いますが、標的をロックする際にはジンバル式2重赤外線シーカーに切り替わります。この徘徊兵器が目標に向かって最後の急降下をする間の速度は時速555km以上にも達しますが、最大40ノット(74.08km/h)の風にも精度を僅かに低下させるだけのレベルで耐えることができるため大きな問題とはなりません。[5]

牽引式発射機に搭載されたアゼルバイジャンの「スカイストライカー(初期型)」

 「スカイストライカー」の導入は、間違いなくトルクメニスタンの無人攻撃能力を大きく向上させます。

 この国による徘徊兵器「スカイストライカー」と「バイラクタルTB2」UCAVの調達は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアルメニア軍に対して激しい戦闘を経験したアゼルバイジャンが保有する無人兵器の構成を模倣したようです。

 世界中のどこの国でもこの戦争の成功を再現することに熱心であり、モロッコはトルコの「バイラクタルTB2」UCAVとイスラエルの(「スカイストライカー」と思しき)詳細不明の徘徊兵器を入手しました。

  これらの国々は将来における無人機戦のパイオニアであり、より多くの国が確実に彼らの例に倣うことでしょう。


[1] Turkmenistan’s Freak UCAV: The WJ-600A/D https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkmenistans-freak-ucav-wj-600ad.html
[2] Turkmenistan Parades Newly-Acquired Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/turkmenistan-parades-newly-acquired.html
[3] Nurmagomedov’s Birds Of Prey: The Italian Falco XN UAV In Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/nurmagomedovs-birds-of-prey-italian.html
[4] Harop Loitering Munitions UCAV System https://www.airforce-technology.com/projects/haroploiteringmuniti/
[5] SkyStrikerTactical loitering munitions for covert and precise airstrikes https://elbitsystems.com/media/SkyStriker.pdf
[6] Army buys 'Skystrikers' to carry out Balakot-type missions: How these drones act as force multipliers https://www.timesnownews.com/india/article/army-buys-skystrikers-to-carry-out-balakot-type-missions-how-these-drones-act-as-force-multipliers/807739

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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2023年4月4日火曜日

不都合な事実:アゼルバイジャンに武器を販売したイスラエルへのアメリカ連邦議会議員の姿勢

「ハロップ」の隣で撮影に応じるアゼルバイジャンのアリエフ大統領

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 イスラエルはアゼルバイジャンにとって武器・装備類の最大のサプライヤーであり、その規模は2016年から2020年までの期間におけるアゼルバイジャンの主要な武器輸入量の実に69%を占めています。[1] [2]

 この数字は2020年のナゴルノ・カラバフ戦争が終結後、さらに増加したと思われます。なぜならば、アゼルバイジャンがこの戦争でかなりの部分を消費してしまった備蓄分の弾薬を戦中と戦後に補充する必要があったからです。[3]

 トルコは頻繁にアゼルバイジャンに対する主要な軍需品の輸出国と思われていますが、2011年から2020年までのアゼルバイジャンの主要武器輸入量でトルコが占める割合は僅か2.9%でした。[4]

 アゼルバイジャンのアルメニアに対する目を見張るような勝利を確実にする上で決定的な役割を果たしたにもかかわらず、イスラエルによるアゼルバイジャンへの武器売却については、アメリカ議会上院にいる忠実なアルメニア支持者たちによって都合よく無視されてきたようです。

 これとは正反対に、アメリカ上院議員(ロバート・メネンデス氏)と下院議員(デイビッド・シシリーヌ氏、ガス・ビリラキス氏)は、トルコのアゼルバイジャンに対する軍事支援を積極的に批判しています。

 彼らの努力によって、トルコによる武装ドローンの輸出が武器輸出管理法(AECA)に違反しているかどうかを明らかにし、「危険で、不安定化要因であり、平和と人権にとっての脅威」であるかどうかも評価するために、同国はアメリカ政府による調査の対象となるでしょう。[5] [6] [7]

 なぜこれらの議員たちがナゴルノ・カラバフ掌握のためにアゼルバイジャン軍を支援したイスラエルの役割に対する調査の要求をしなかったのかという疑問については、おそらく、ビリラキス氏がアメリカ議会内のギリシャ・イスラエル同盟を創設した共同議長であり、シシリーニ氏のウェブサイトに掲載されている米・イスラエル関係に関するページが同国に対する氏の温かい感情を明確に表現しているという事実がその答えとなるでしょう。[8]

 そして、ロバート・メネンデス氏は「おそらく上院で最も熱心なイスラエル支持者である民主党議員」と呼ばれています。[9]

 (紛争の介入といった)暴力行為や武器輸出を独占している国は存在しないため、この問題からは政治的・(イスラエルへの)優遇措置的な匂いが感じられます。

 イスラエルによるアゼルバイジャンへの武器輸出には、徘徊兵器から長射程の「スパイク」対戦車ミサイル(ATGM)、ミサイルを搭載した哨戒艇(OPV)、さらには「LORA」弾道ミサイルまでのあらゆる武器が含まれています。[10]

 また、イスラエルはEU諸国から注文された兵器の荷受人として動くことで、OSCEからアゼルバイジャンに課せられた武器禁輸措置を回避するために同国を何度か手助けもしました。イスラエルが受け取った兵器は、後に外交特権の下で活動する「シルクウェイ・ウエスト航空(注:アゼルバイジャンの航空会社)」の「IL-76」や「ボーイング747」貨物機に積載されてアゼルバイジャンに空輸されたのです。[11]

 アゼルバイジャン軍において、UAVほどイスラエル製兵器の存在が明白になっている種類の兵器は無いでしょう。同国で運用されている20種類のUAVのうち、18種類(90%)がイスラエルのものであり、トルコ製は僅か2種類(10%)です。

 また、イスラエル製UAVの6種類は、弾頭を備えて標的に突入する徘徊兵器です。

 アゼルバイジャン国内(「アザド・システムズ」と呼ばれる合弁会社)で生産されているイスラエルのドローン5機種を別にしても、トルコの機種はアゼルバイジャンが保有するドローンの15%にしか過ぎません。

アゼルバイジャン陸軍で運用されている「LOLA」弾道ミサイル

  1. この一覧を作成した目的は、現時点でアゼルバイジャン軍が運用しているイスラエルの武器類をリスト化することにあります。
  2. 各武器類の名前をクリックすると、アゼルバイジャンで運用されている当該武器の画像を見ることができます。

小火器


装甲戦闘車両(AFV)


(対戦車) ミサイル


無人偵察機


徘徊兵器


自走砲


(無誘導型) 多連装ロケット砲


(誘導型) 多連装ロケット砲


弾道ミサイル
  • LORA [射程: 430km] [CEP: 10m]


地対空ミサイルシステム(SAM)


レーダー


艦艇

[1] Did Azerbaijan’s use of Israeli weapons make the war worse or better? https://www.jpost.com/international/did-azerbaijans-use-of-israeli-weapons-make-the-war-worse-or-better-662442
[2] Arms transfers to conflict zones: The case of Nagorno-Karabakh https://www.sipri.org/commentary/topical-backgrounder/2021/arms-transfers-conflict-zones-case-nagorno-karabakh
[3] Israel sending weapons to Azerbaijan as fight with Armenia rages on: Sources https://english.alarabiya.net/News/world/2020/10/01/Israel-sending-weapons-to-Azerbaijan-as-fight-with-Armenia-rages-on-Sources
[4] Arms transfers to conflict zones: The case of Nagorno-Karabakh https://www.sipri.org/commentary/topical-backgrounder/2021/arms-transfers-conflict-zones-case-nagorno-karabakh
[5] An Analyst’s Perspective: Cicilline and Bilirakis’ Turkish Drone Letter Rebuked https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/an-analysts-perspective-cicilline-and.html
[6] US Senators file amendments to hold Azerbaijan and Turkey accountable https://en.armradio.am/2021/11/04/us-senators-file-amendments-to-hold-azerbaijan-and-turkey-accountable/
[7] Top US senator introduces amendment to track US drone parts to Turkey https://www.middleeasteye.net/news/top-us-senator-introduces-legislation-track-us-drone-parts-turkey
[8] Foreign Affairs https://bilirakis.house.gov/issues/foreign-affairs
[9] Pro-Israel Senator Menendez Issues Rare Rebuke Over Gaza Media Offices Strike https://www.haaretz.com/us-news/.premium-pro-israel-senator-menendez-issues-rare-rebuke-over-gaza-media-offices-strike-1.9811952
[10] Azerbaijan’s Emerging Arsenal Of Deterrent https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/azerbaijans-emerging-arsenal-of.html
[11] Czech Weapons in Azerbaijan: How a Chassis Turned into a Howitzer https://www.investigace.eu/czech-weapons-in-azerbaijan-how-a-chassis-turned-into-a-howitzer/

  翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
    があります。



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