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2022年2月11日金曜日

「大空の巨神」の復活なるか?:トルコが「An-225 "ムリヤ"」2番機の完成を提起した



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 近年にウクライナとトルコの間で協議されている航空宇宙関連の協力の中でも間違いなく最も興味を引くものは、世界最大の貨物機「An-225 "ムリヤ"」の2番機を完成させる可能性が含まれていることでしょう。

 「An-225」に対するトルコの関心については、2020年10月にウクライナのゼレンスキー大統領がアンカラを訪問した際、エルドアン大統領が同機を完成させるというアイデアを提起したことで初めて報じられました。[1]

 それ以降にこのプランに関する続報を全く聞きませんが、トルコの関与が最終的に2機目の「An-225」を完成・就役させるための刺激と資金をもたらす突破口となることを意味する可能性があります。

 外国のパートナーの協力を得て2機目の「An-225」を 完成させるというアイデアが最初に持ち上がったのは、中国が同機を商業衛星を軌道に乗せるために用いるプラットフォーム用に開発することに関心を示した2011年のことでした。[2] [3]

 このプロジェクトの第1段階ではウクライナのキエフ郊外にある「アントノフ」社の施設に保管されている2機目の機体を完成させ、第2段階では中国で「An-225」の生産を再開させることになっていました。しかし、高額なコストがこの野心的なアイデアの運命を決定づけて、最終的には密かに放棄されたようです。[4] [5]

 2021年、「オボロンプロム(アントノフ社の親会社)」社が、2番機の製造プロジェクトの始動を手助けしてくれる外国人投資家を依然として探し求めていることが公表されました。その際に「ウクルオボロンプロム」社のユーリー・フシェウCEOは、「現時点におけるウクライナの航空機開発については、いくつかの国と活発な協議を行っているところです」と述べています。

 多数あるウクライナ機のさらなる開発に関心を持つ国の1つがトルコであることは周知の事実であり、同国はこれまでに2種類の「アントノフ」製航空機:「An-178」「An-188」軍用輸送機に公然と興味を示してきました。[6] [7]

 最初に生産された「An-225(UR-82060)」は、1988年12月に「ブラン」宇宙往還機用の超重量級輸送機として初飛行しました(この際には「ブラン」を背部に搭載して飛行に挑みました)。「An-225」は2機が発注されたものの、ソ連崩壊前に1機しか完成しませんでした。

 今日、「An-225」は250トン近い貨物を輸送することができる、世界で最重量かつ(幅以外では)最大の航空機の座にとどまっています。

 完成した唯一の「ムリヤ」は、「An-124」を含む大型貨物機を運航するアントノフ航空によって運航されています。

「ブラン」を背負い式で搭載した「An-225」

 唯一完成した「An-225」は1991年のソ連崩壊時にウクライナ・ソビエト社会主義共和国内にあったため、新たに共和国として独立したウクライナの管轄下に入りましたが、1993年に(現在のロシアによる)「ブラン計画」が中止されたため、同機が「ブラン」を搭載するいう本来の用途をすぐに失ってしまったことは周知のとおりです。

 1994年、「An-225」1番機はキエフの「アントノフ航空機工場」に長期保管という事実上の放置状態に置かれ、2番機も機体の70%が完成した後に製造作業が突如として中断されてしまいました。[8]

 1990年代後半になると、「An-225」のような大型貨物機の需要が再び生じたことから、保管機は2001年に現役復帰に返り咲きました(注:残念ながら、2022年2月にロシア軍の攻撃で破壊されてしまいました)。[8]

 同時期に2機目を完成させる計画が浮上し始めて2006年に製造の再開が決定されましたが、2009年末になっても機体の製造は依然として再開しておらず、計画は放棄されたように思われました。[9]

 しかし、その後の2011年5月、「アントノフ」社のCEOは、「利害関係者が少なくとも3億ドル(約345億円)を用意したならば、2機目の『An-225』を3年以内に完成させることができる」旨を述べ、構想がいまだに生きていることを示しました。[9]

 2016年の時点で、中国航空工業公司はこれらの費用を負担する用意があったと言われていますが、その後に関心を失ったようです。[5]

 中国は長い間にわたってウクライナの航空産業が生み出した成果を享受してきました。

 1990年代にウクライナは2機の「Su-33」と1機の「Su-25UTG」艦載機を中国に売却し、中国の前者に対する詳細に及ぶ研究は結果的に「J-15」艦載機の誕生に至らせたことはよく知られています。[10]

 より最近の事例ですと、中国が巧妙な手口で世界最大の航空機・ヘリコプター用エンジン製造企業である「モトールシーチ」社の企業支配権の獲得を試みましたが、この買収劇は最終的にアメリカによる圧力を受けたウクライナ政府によって阻止されたことがありました。[11]



 2機目の「An-225」が完成した場合、同機が大型貨物の国際輸送で利益をもたらすことは確実でしょうが、完成させるために要する3億ドルの費用は決して事業面で真の利益を出させないことを意味する可能性があります。

 このリスクはアントノフの現CEOであるオレクサンドル・ドネツ氏によって認められ、2019年に「これは非常に高価なプロジェクトです。設計やエンジニアリング作業、新しい資機材の調達、そして機体の認証にかかる費用は数百億ドルにのぼるでしょう。このようなプロジェクトは航空宇宙プログラムでは有効かもしれませんが、民間航空輸送は別です。
」と述べています。 [12]

 このことは、なぜトルコが2機目の「An-225」の完成に関心を示したのかという疑問をもたらします。

トルコは同機を単に相当な利益を上げることを目的とした商業資産として運用するのではなく、(おそらくアントノフとの共同事業によって)国内外にトルコの力と威信を示すことを意図したステータスのシンボルとしての役目を務めることもあり得まると思われます。

 トルコは国際政治においてますます重要な当事者として浮上しており、積極的な国際的役割の請負とそれに伴う政治的な影響力を強めています。「An-225」は特大型の積載物や人道支援物資などを地球上のどこにでも届けることができるため、将来的には新興する大国としてのトルコの地位を再確認させる飛行機になるかもしれません。




 「An-225」級の大型機に関連する高いコストのおかげで、ウクライナは2機目の「ムリヤ」を完成させることを断念していました。

 「モトールシーチ事件」後に中国からの資本投資がなされる可能性が起こりえないものとなったため、「アントノフ」社は2番機の「ムリヤ」を完成させるために別のパートナーを探す必要があるでしょう。

 ここでトルコが登場するかもしれません。トルコは国際政治における急成長している新興国であり、困難なプロジェクトを実現させた確かな実績があります。

 「An-225」を運用することのメリットが最終的に完成に要するコストを上回るかどうかは、トルコ政府の判断次第です。ひょっとすると、「An-225」がトルコの大統領専用機と同じカラーリングを施され、世界中の各地で権力と影響力を誇示する使節、ステータスシンボルとしてその役割を果たす日がやってくるかもしれません。



[1] Turkey interested in completing An-225 Mriya – Dpty PM https://en.interfax.com.ua/news/general/698799.html
[2] Antonov Sells Dormant An-225 Heavylifter Program to China https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2016-09-06/antonov-sells-dormant-225-heavylifter-program-china
[3] Chinese aero group eyes world’s largest plane https://asiatimes.com/2019/07/chinese-aero-group-eyes-worlds-largest-plane/
[4] Ukraine mulling to complete the second Antonov An-225 Mriya https://www.aerotime.aero/27146-second-an225-potential
[5] UkrOboronProm seeks investments to complete second Mriya aircraft https://www.kyivpost.com/ukraine-politics/ukroboronprom-seeks-investments-to-complete-second-mriya-aircraft.html
[6] Ukraine: Aviation firm Antonov aims to work with Turkey https://www.aa.com.tr/en/economy/ukraine-aviation-firm-antonov-aims-to-work-with-turkey/1965437
[7] ANTONOV Presents its Advanced Programs in Turkey https://www.defenceturkey.com/en/content/antonov-presents-its-advanced-programs-in-turkey-3002
[8] UR-82060 https://avia-dejavu.net/UR-82060.htm
[9] Why Wasn’t The Second Antonov An-225 Finished? https://simpleflying.com/second-antonov-an-225-finished/
[10] Black Sea Hunters: Bayraktar TB2s Join The Ukrainian Navy https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/black-sea-hunters-bayraktar-tb2s-in.html
[11] Pandora Papers: How A U.S. Law Firm Attemped To Sell A Defence Giant To China https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/pandora-papers-how-us-law-firm-attemped.html
[12] Президент ГП "Антонов" Александр Донец: Мы должны вернуться к тому, что умеем делать очень хорошо – к грузовым, военным самолетам. Это у нас всегда получалось https://www.unian.net/economics/transport/10531239-prezident-gp-antonov-aleksandr-donec-my-dolzhny-vernutsya-k-tomu-chto-umeem-delat-ochen-horosho-k-gruzovym-voennym-samoletam-eto-u-nas-vsegda-poluchalos.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。



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2021年11月1日月曜日

イタリアの魅力:トルクメニスタンの「M-346」戦闘攻撃機


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ソ連崩壊から約30年が経過した今でも、多くの旧ソ連諸国の空軍の保有機は、彼らが引き継いだソ連時代の航空機で構成されていることが大きな特徴となっています。これは特に戦闘機に当てはまることであり、高額であることが、多くの国に現在運用中である旧世代機を代替するための新型戦闘機の導入を躊躇させています。

 その代わり、「MiG-29」や「Su-25」といった実績のある機種は単に飛行能力を維持させるためだけでなく、21世紀の戦争の時代に適切な機体であり続けるために何度もオーバーホールを受けています。ベラルーシやカザフスタンなどの国は、近年に「Yak-130」や「Su-30SM」の導入を通じてこの知見に異議を唱えようとしていますが、中央アジアの大部分ではジェット機の運用が徐々に減少しつつあります。

 トルクメニスタンはこの状況の注目すべき例外であり、新型ジェット機の導入や従来から運用している「MiG-29」や「Su-25」のアップグレードによって空軍を強化しています。その導入した新型機の1つが、これまでに世界中の9つの空軍から発注を受けているイタリアの「M-346」です。2020年5月、イタリア上院は、トルクメニスタンが2019年に4機の「M-346FA(戦闘攻撃機型)」と2機の「M-346FT(訓練機型)」を2億931万ユーロ(約388億円)で発注したことを明らかにしました。[1]

 トルクメニスタン向けの最初の「M-346」は、同国への納入直前の2021年7月にイタリアのレオナルド社の施設で目撃されています。[2]

 この機体は空対空ミサイル(AAM)のイナート弾(または模擬弾)を4発と外部燃料タンク(増槽)を2個搭載しており、トルクメニスタンでのデモフライトでもこの搭載スタイルが維持されていました。


 トルクメニスタンが「M-346」用に購入した実際の兵装は不明のままですが、同国の「A-29B」のために調達されたことが知られている兵装の種類を踏まえると、「M-346」用の精密誘導兵器は(まだ)購入されていない可能性があります。

 その代わり、無誘導爆弾、AAM、そして増槽がトルクメニスタンにおける「M-346」の(初期の)標準装備となるかもしれませんが、彼らの高度な兵装運用能力のために、将来のある時点で誘導式の空対地兵器が導入される見込みがあることはもっともらしいように思われます。その空対地兵器には「マルテ Mk2」対艦ミサイルや、トルコやイスラエルのさまざまな種類の精密誘導爆弾が含まれるかもしれません。
 
 GBU-12「ペイブウェイⅡ」のような西側諸国の兵装の供給を受けることも可能でしょうが、それは供給する国の意向に左右される可能性が高いと考えられます。


 「M-346」がトルクメニスタンに到着して間もなく、グルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)がその1機に搭乗してカスピ海上空でテスト飛行を実施しました(下の画像)。

 機体の迷彩パターンは洋上での運用を念頭に置いて特別にデザインされたものと思われますが、トルクメニスタン空軍の機体の大半は、その運用地域を少しも考慮していないように思われるカラフルな塗装を施されています。

 もちろん、レーダーが航空機を検知するための主要な手段となった現代では、迷彩パターンが持つ重要性はやや薄れています。



 この国の「M-346」はまだ衛星画像で撮影されていませんが、これらの機体は首都アシガバート直近にあるアク・テペ・ベズメイン基地か、マル市に隣接するマル空軍基地/国際空港またはマル-2空軍基地に駐留するものと予想されています。後者の基地には、すでにトルクメニスタンが最近導入した5機の「A-29B "スーパーツカノ"」が配備されています。

 「C-27J "スパルタンNG" 」は、すでに2機の「An-74TK-200」と1機の「An-26」が拠点にしているアク・テペ・ベズメイン基地に配備されることになりそうです。(トルクメニスタン航空は3機の「IL-76」を運航していますが)これらの機体は空軍で唯一の現役にある輸送機ですが、「C-27J」はターボプロップ輸送機としての役割で「An-26」を完全に置き換えることになるかもしれません。


 ソ連崩壊が今や過去のものとなって新たに必要とされるものが明白な新しい世界で、西側の現代的なテクノロジーが「M-346」、「C-27J」、「A-29B」の導入を通じてようやくトルクメニスタン空軍に届きました。

 トルクメニスタンは老朽化したソ連時代の「Mi-24P」攻撃ヘリコプターを代替するための新型無人戦闘航空機(UCAV)と新型攻撃ヘリコプターの導入に傾いているとみられていることから、さらなる新型機の導入とサプライズが待っていることは間違いないでしょう。

 これらを導入するためにこの国がもう一度西側のサプライヤーに目を向け、トルクメニスタン空軍をこの地域で最も近代的な空軍としての地位を確固たるものにすることを疑う余地はありません。

[1] Turkmenistan's air force operating new M-346FA, C-27J, and A-29 aircraft https://www.janes.com/defence-news/news-detail/turkmenistans-air-force-operating-new-m-346fa-c-27j-and-a-29-aircraft
[2] https://vk.com/milinfolive?w=wall-123538639_1936960

 のです。



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