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2021年10月29日金曜日

火の洗礼:ウクライナの「バイラクタルTB2」が実戦デビューした



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2021年10月26日にアップロードされた動画は、武力紛争を観察する人々にとっては、あまりにも見慣れた光景:「バイラクタルTB2」が地上の無防備な敵を攻撃している状況を映し出しています。[1]

 TB2によって実施された過去のドローン攻撃との違いは、今回の攻撃がウクライナ東部で行われたことです。2019年にウクライナにTB2が引き渡されてされて以来、東部で最初に実施された攻撃です。

 ドローンの攻撃目標は特に目新しいものではありませんでした:分離主義勢力の部隊によって運用されている1門の「D-30」122mm榴弾砲です。この榴弾砲の破壊に成功したことで、ナゴルノ・カラバフ、シリアに続き、現在のウクライナでTB2によって破壊された「D-30」が56門となったことを記録しました。

 伝えられるところによれば、今回のドローン攻撃はその日の早い時点でドネツク州のHranitne村が「D-30榴弾砲」で砲撃されたことに対応したものでした。

 興味深いことに、TB2は陣地に配置された3門の「D-30」榴弾砲のうち1門しか攻撃していません。この事実ではっきりと判断できることは、ウクライナがこの地域にあるドネツク人民共和国(DNR)の砲兵部隊のストックを破壊・減少させるための本格的な試みを講じたというよりも、分離主義勢力の軍隊へミンスク合意に違反しないようになされた均衡を保った警告であるということです。

 同様に興味深いのはこの攻撃に使用された爆弾の種類であり、より一般的に使用されている「MAM-L」ではなく「MAM-C」だったたようです。「バイラクタルTB2」は最大で4発の「MAM-L」または「MAM-C」で武装可能です。

 これらの非常に機動性が高いスマート爆弾は、この地域の分離主義勢力が運用する防空システムの射程距離のはるか外側である15km以上離れた位置からピンポイントで目標に命中させることができます。

 「MAM」シリーズ誘導爆弾が誇る15km以上の射程距離は破壊した「D-30」榴弾砲のウクライナの最前線からの距離(13km)よりも上回っていたこともあり、この榴弾砲を攻撃するためにTB2は分離主義勢力が支配する空域に入ることを必要としませんでした。

「MAM-C」誘導爆弾が命中した直後の哀れな運命に遭った「D-30」榴弾砲

 ドローン攻撃は、DNRが現時点で支配している地域にある(ドイツの共産主義者エルンスト・テールマンにちなんでテルマノボと呼ばれていた) Boykivskeの集落付近で行われました。

 今回の空爆では、DNR側からTB2を撃墜しようとする試みは一切なかったようです。

 ウクライナ東部の分離主義勢力の軍隊はかなりの数の対空砲や地対空ミサイル(SAM)システム:特筆すべきものとしては9K35「ストレラ-10(NATOコード:SA-13)」を運用していますが、これらのほとんどは、高度約5kmの頭上を飛行する「バイラクタルTB2」のようなUCAVを標的とするための交戦能力が欠けてます。

 しかし、分離主義勢力の軍隊の防空戦力は短距離SAMシステムだけで構成されていると考えるのは誤りであり、現在、分離独立派が支配するウクライナ東部にはロシアの電子戦(EW)システムが多数配備されています。

 ただし、アルメニア軍で運用されていたロシアの最新鋭のEWシステムでさえ、ナゴルノ・カラバフ上空の「バイラクタルTB2」との戦闘で成功を収めなかったことを考えると、これらがTB2の運用に深刻な危険をもたらすことを示唆する理由はほとんどありません。

 将来的に状況がエスカレートした場合や、ウクライナが分離独立勢力の標的を攻撃するためにTB2を使い続けた場合、ロシア軍は独自のSAMシステムをこの地域に配備する可能性があります。実際、2014年の時点でロシアはすでに「パーンツィリ-S1」「トール-M1」と「ブーク-M1」をウクライナ東部に配備したことがあり、後者はSu-25攻撃機を含む数機のウクライナ空軍機を撃墜しました。

 ロシアの防空システムが東ウクライナに配備されたことについては、ロシアの「ブーク-M1」がマレーシア航空17便を撃墜し、乗客・乗員298名が死亡した結果をもたらした後で国際的な悪評を得ました。

今回のドローン攻撃はDNR支配領域の13km内側の地点で行われました [3]

 現在、ウクライナは空軍と海軍に均等に分けられた12機から構成される「バイラクタルTB2」飛行隊を運用しています。[4]

 2021年9月には、同国が今後の数年間でさらに24機のTB2を入手し、最終的には合計で54機を導入する予定であることが明らかになりました。[5]

 また、ウクライナは無人機自体を調達するだけでなく、国内に訓練・メンテナンスセンターを設立するための契約もバイカル・ディフェンス社と結びました。[6]

 TB2の導入は、1991年の創設以来でウクライナ軍にとって最も重要な新装備の追加であり、経済的かつ現実的な実戦能力をこの国にもたらすことは間違いありません。



 今回の空爆は、ウクライナが示す新たな規範の最初の兆候となる可能性があります。これは、将来的にDNRとルガンスク人民共和国(LPR)の目標への(報復的な)ドローン攻撃への下地作りをし、必要に応じてミンスク合意を「バイラクタルTB2」で遵守させるというものです。

 「バイラクタルTB2」が未だに真の脅威に満ちた環境に直面していないという主張もありますが、TB2のようなUCAVに対抗するために特別に設計された多数のSAMや電子戦システムの中で「トール-M2」「ブーク-M2」や「パーンツィリ-S1」を無力化した今までの経験は、リビアやナゴルノ・カラバフで記録された成功がいつの日かウクライナ東部でも繰り返される可能性があることを暗示しています。

 ウクライナの東部でほとんど休止状態にある紛争がエスカレートすることはその可能性からもかけ離れていますが、この国でのTB2の活躍はきっと並外れたものになるでしょう。

 将来的な武力侵攻の有無に関係なく、TB2はキル・リストに新たな刻みを加えることができるのです。



[1] Перше застосування "Bayraktar" на Донбасі проти артилерії найманців https://youtu.be/XEY4qPO1ffU
[2] https://twitter.com/oryxspioenkop/status/1453043861115256839
[3] https://twitter.com/rexiro3/status/1453042688140394507
[4] Black Sea Hunters: Bayraktar TB2s Join The Ukrainian Navy https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/black-sea-hunters-bayraktar-tb2s-in.html
[5] Ukraine to buy 24 more Turkish Bayraktar TB2 UCAVs https://www.dailysabah.com/business/defense/ukraine-to-buy-24-more-turkish-bayraktar-tb2-ucavs
[6] UAV magnate Baykar to build centers for Turkish drones in Ukraine https://www.dailysabah.com/business/defense/uav-magnate-baykar-to-build-centers-for-turkish-drones-in-ukraine

※  当記事は、2021年10月28日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿されたものを翻訳した
 記事です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている 
 箇所が存在する可能性があります。




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