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2024年7月13日土曜日

伝説的な駆逐艦:ポーランド海軍の「ORP ワルシャワ」


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2022年11月3日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 ポーランド海軍が1970年から2003年の間に2隻のミサイル駆逐艦を運用していたことは全く知られていません。それらは1970年代や1980年代の基準から見ても決して近代的な艦船とは言えなかったものの、冷戦期の大半においてバルト海でソ連が運用していなかった、地対艦ミサイル(SAM)で武装した数少ない艦艇でした。

 2003年の「プロジェクト61MP級」駆逐艦「ORP ワルシャワ」の退役でポーランド海軍による73年にわたる駆逐艦の運用に終止符が打たれたわけですが、その33年前の1970年に、ソ連から「プロジェクト56AE級(NATO呼称:コトリン級)」駆逐艦1隻を引き渡されたことでポーランド海軍の新たな伝説が幕開けたのです。

 この国の海軍は「スプラヴェドリーヴイ」の名称で同艦を十数年間運用していたソ連海軍から中古で入手したことで、ソ連海軍と西ドイツ海軍に次いでSAMで武装した艦を運用する3番目のバルト海沿岸の海軍となったのでした。というのも、(陸上型「S-125」の艦載版である)「M-1 "ヴォルナ"」SAMシステムを中核兵装とする「ORP ワルシャワI」は、1986年の退役までポーランド海軍に防空能力を提供し続けたのです。
 
 この艦が退役する時点には、すでにソ連との間で後継艦に関する交渉が始まっていました。ただし、ポーランド海軍が「ORP ワルシャワI」の後継艦としてリースした「プロジェクト61MP(NATO呼称:改カシン)級」大型対潜艦の「ORP ワルシャワII」を正式に導入するまでには、それからさらに2年の歳月を要したのです。

 1969年に「スメールイ」としてソ連海軍に就役していた「ORP ワルシャワII」は、ポーランド海軍で初の真の多目的水上戦闘艦です。2連装の「AK-726」76mm砲、2基の「M-1 "ヴォルナ"」SAM発射機、4基の「P-15」対艦巡航ミサイル(AShM)、4基の「AK-630」30mm CIWSに加えて、533mm魚雷と2基の「RBU-6000」対潜ロケット砲を搭載した「ORP ワルシャワII」は、どの方向から見ても恐ろしい姿をしていました。


  対照的に、「ORP ワルシャワⅠ」は確かに控えめなに見えると言えるかもしれません。本来は対潜艦として設計された艦でしたが、 ソ連海軍は1960年代を通して7隻の「コトリン級」にSAMを搭載するための改修を施しました。そして、さらに1隻が改修されてポーランドに売却されました。これが(輸出された唯一の「プロジェクト56」級駆逐艦:「プロジェクト56AEである)「ORP ワルシャワⅠ」になったというわけです。

 ポーランドでは、「ワルシャワⅠ」は2隻の「プロジェクト30bis(スコーリイ)」級駆逐艦の「ヴィヘル」と「グロム」、そして第二次世界大戦前にイギリスで建造されて1967年に事故に遭って動けなくなっていた「ブウィスカヴィーツァ」の後継艦となりました。その後、「ブウィスカヴィーツァ」は浮き(対空)砲台に格下げとなり、進水から40年後の1976年に正式に退役しました。同年には記念艦となり、現在もその役割を忠実に果たし続けています。

在りし日の「ORP ワルシャワⅠ」

記念館となった「ORP ブウィスカヴィーツァ」

 「ORP ブウィスカヴィーツァ」がいまだに100mmと37mmの対空砲を装備していたのに対し、その後継である「ORPワルシャワI」は、「M-1 "ヴォルナ"」SAMシステムという形でポーランド海軍に初の艦対空ミサイル能力をもたらしました。

 「M-1」は、レール式ミサイル発射機1基で2発の「V-600/601」ミサイルを射程15km以内の空中目標に(緊急時には艦船にも)発射することが可能です。このSAMの開発は陸上配備型(最終的には世界のどこでも見られるようになった「S-125」)の開発と共に1956年に開始されたことが知られています。

 一度に交戦できる目標は1つ(発射機を2基装備した艦の場合は2つ)だけなので、それ以上の目撃が存在した場合のシステムの有効性は大幅に低下する弱点があります。発射機は最大32発の再装填が可能であり、数回の改良事業のおかげで「V-601(M)」ミサイルを使用した場合におけるシステムの最大有効射程は最終的に22kmまで延長されました。 

「ORP ワルシャワI」は本来の役割であるASW(対潜)戦に沿って、2基の「RBU-2500」対潜ロケット砲と533mm五連装魚雷発射管、そして艦首に配置された二連装の「SM-2-1」130mm両用砲と(艦橋前の)「SM-20-ZiF」四連装45mm対空機関砲から構成される防御兵装一式を装備していた一方で、ソ連の姉妹艦にはあった「AK-230」30mm対空機関砲は装備されていませんでした。

 16 年という長い就役期間(1970 年~1986 年)中に「ORP ワルシャワI」 は合計で(ポーランド海軍が購入したミサイルの半分以上である)28 発の「V-601」 SAMを発射したほか、ソ連やフィンランド、スウェーデン、デンマーク、イギリス、そしてフランスに寄港する活躍を見せました。[1]

「ORP ワルシャワⅡ」から発射された直後の「V-601M」SAM

 「ORP ワルシャワⅡ」 は、2基目の「M-1 "ヴォルナ"」SAM発射機、4基の「P-15」AShM発射機、近接防御兵装(CIWS)、威力が向上した対潜装備、ヘリコプター搭載能力を導入することで、先代が持っていた1950年代当時の性能が大幅に拡充されました。

 リースが終了した後の「ワルシャワII」はソ連時代に生じたロシアの負債を清算する名目で1993年にポーランドに永久譲渡され、同年から2年にわたるオーバーホールを受けて、ソ連の航海レーダーをポーランド製に交換するなどの改良も行われています。旧式化した兵装システムの換装や(ヘリ甲板に露天で駐機されていた)「W-3」ヘリコプター用の格納庫の新設が検討されましたが、慢性的な資金不足のために大規模な近代化が実施されることはありませんでした。

敵機やAShMがミサイル防衛の外壁を突破する(可能性が高い)場合、両舷に2基ずつ装備された「AK-630」CIWSと2門の「AK-276」76mm砲で近接防御が実施されることになる

 財源不足のために、冷戦終結以降の「ORP ワルシャワII」は散発的にしか海に出ませんでした。かつて同艦を導入した理由であった兵器システム自体が、今では維持するのが困難でコストを要するものとなっていたのです。1990年代から2000年代初頭にかけてバルト海で実施された全ての主要な国際演習の中で、同艦が参加したのは1999年の1回だけでした。

 この駆逐艦については、海外への売却を保留したまま2003年12月1日に正式に退役となったわけですが、どこの国も購入の関心を示さなかったことから、予備役として保管された後にスクラップとして売却されて2005年にグダニスク造船所で解体されてしまいました。

  ちなみに。ポーランド海軍時代の「ORP ワルシャワⅡ」は48発の「V-601」SAMと8発の「P-15」AShMの発射を記録しました。[1]

解体中の「ORP ワルシャワⅡ」

 1950年代後半に設計された艦にもかかわらず、「ORP ワルシャワⅡ」の姉妹艦たちは今でも現役で運用されています。1980年代前半から後半にかけて5隻の「改カシン」級を引き渡されたインド海軍では、生き残った3隻が大幅に改修を施されて今日でも任務を続けているのです。

 インドでは「ラージプート級」と呼称される「改カシン級」については、先述のとおり、残りの3隻を21世紀の戦争に適応させるために多大なリソースを投入しています。このうちの2隻は、8発の「ブラモス」AShMを装備するためにアップグレードされました。これは従来から搭載されていた4基の「P-15 "スティックス"」用の発射機を置き換えるものです。艦尾の「M-1 "ヴォルナ"」SAM発射機は、2隻ではイスラエルの「バラク1」SAM用VLS(8セル)2基、もう1隻では国産の 「VL-SRSAM」用VLS(16セル)に換装されました。そのうちの1隻(「INSラナ」)は、「ダヌシュ」艦上発射型短距離弾道ミサイルの試験艦としても使用されたことが知られています。 

 「ラージプート級」の推進機を国産のガスタービンエンジンに換装する計画を踏まえると、これらの艦は今後何年にもわたって運用され続けることになるでしょう。

「ORP ワルシャワII」:ソ連が設計した艦艇はスッキリとしたラインで特に有名というわけではない

 「ORP ワルシャワⅠ」も「ORP ワルシャワⅡ」もポーランド海軍に就役した時点では特に現代的な艦艇ではなかったものの、それでも1970年から2003年までバルト海の海洋権益を護り続けた、ポーランド海軍の歴史における興味深く重要な一章を象徴していると言えます。

 ソ連以外のワルシャワ条約加盟国が運用したどの艦艇よりも大型で高性能な「ワルシャワ」は、駆逐艦クラスの艦艇を運用したいというポーランドの願望を体現した艦であり、1930年代に確立された伝統を引き継ぐ存在でした。


 最終的に、「ORP ワルシャワⅡ」はアメリカ海軍から中古で入手した2隻の「オリバー・ハザード・ペリー級」フリゲートに更新されました。これらのフリゲートは小型であったにもかかわらず、ポーランド海軍は(外見上の迫力は劣るも)より高性能なプラットフォームを手に入れたと言って差し支えないでしょう。

  「オリバー・ハザード・ペリー級」は、ポーランド海軍がこれまで運用してきた中で最も高性能な艦艇になるであろう国産の「ミェチニク級」フリゲート3隻に更新される予定です。 彼女たちはもはや真の駆逐艦と呼べる存在ではなくなっているものの、この野心的な後継者たちは、誇り高き伝統の旗手として誰もが認める存在となるでしょう。

近い将来に姿を現す「ミェチニク級」フリゲート

画像の出典: Stowarzyszenie Entuzjastów ORP Ślązak i Sympatyków Marynarki Wojennej.
[1] Robert Rochowicz. Dzieje niszczyciela ORP Warszawa. ''Morze, Statki i Okręty''. Nr specjalny 1/2015, 2015. Warszawa.

2023年12月20日水曜日

「マーチン139」から「クズルエルマ」まで」 :トルコ軍爆撃機の85年


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 「İstikbal göklerdedir. Göklerini koruyamayan uluslar, yarınlarından asla emin olamazlar - 未来は空にあります。自分の空を守れない国々は、決して自身の未来を確信できないからです。(ムスタファ・ケマル・アタテュルク)」

 2022年12月14日、「バイラクタル・クズルエルマ」無人戦闘攻撃機がテキルダー・チョルル・アタチュルク空港で初フライトを実施しました。偶然にも、この85年前にはアメリカから購入した20機のマーチン「139WT」爆撃機の1号機がトルコ空軍に就役するために同じ空港に着陸しています。

 1937年にチョルルでアメリカから初の本格的な爆撃機が納入されてから85年後に同じ場所で初の国産無人戦闘機の試験飛行を行うまでに至ったトルコは、軍事大国として飛躍的な発展を遂げています。

 85年前と根本的に異なるもう一つの状況としては、トルコがアメリカから軍用機を調達する能力(というよりは能力の欠如)が挙げられます。何年にもわたって多くの西側諸国から事実上の武器禁輸措置を受けているトルコは、2019年にはロシアから「S-400」地対空ミサイルシステムの調達を決定したことを受け、F-35の国際共同プログラムからも追放されてしまったのです。

 トルコ空軍は旧式化した「F-4E "ターミネーター2020"」の後継機として最大100機の「F-35A」を、トルコ海軍は「TCG アナドル」強襲揚陸艦で使用するための「F-35B」の導入を計画していました。

 トルコのF-35国際共同プログラムからの除名と「F-16V」の調達に行き詰まっている状況は、2020年代から2030年代初頭にかけて(少なくともその10年の間に「TF-X」ステルス戦闘機が導入されるまで)トルコ空軍は自身の戦闘機よりはるかに最新で高性能な戦闘機を保有するギリシャ空軍に対抗せざるを得ないことを意味しています。

 しかし、このような環境下であるからこそトルコの兵器産業は栄えてきたことを見落としてはならないでしょう:つまり、今が全ての状況がトルコにとって不利になり、赤字を埋め合わせるために創意工夫が必要とされるというわけです。

 「バイラクタルTB2」「アクンジュ」の開発後、メーカーである「バイカル・テクノロジー」社は 「クズルエルマ」無人戦闘機を開発することを通じてトルコの航空戦力不足の解消に取り組もうとしています。

 同社は、「AI-25TLT」エンジンを1基搭載した亜音速型の「クズルエルマ-A1」と2種類の遷音速型:同エンジンを2基搭載した「クズルエルマ-A2」と「AI-322TF」を1基搭載した「クズルエルマ-B1」を製造する計画です。超音速型の「クズルエルマ-B2」は2基の「AI-322TF」が搭載されることになるでしょう。

 「クズルエルマ」は「バイラクタルTB3」と共に「アナドル」からの運用が可能であり、これまで艦載機として検討されていた「F-35B」を代替するシステムにもなり得ます。

 この新型無人機がその真価を発揮する前には何度かの反復作業を経る必要がありますが、その回を重ねるごとに、この新型UCAVが従来の航空アセットの能力を次第に再現していくことは間違いありません。少なくとも、ロシアから「S-400」の購入を決めた結果として、トルコが「F-35」国際共同プログラムから外されたことによるギャップを部分的に埋め合わせることができるでしょう。その真価には、射程275km以上の巡航ミサイルと(100km離れた目標を攻撃可能な)目視外射程空対空ミサイル(BVRAAM)の発射能力も含まれます。
 
「バイラクタル・クズルエルマ-A1」試作初号機

 1930年代のトルコは、現在と全く異なる安全保障上の問題に直面していました。つまり、拡張政策を唱えるファシスト・イタリアの台頭です。

 地中海で急速に近代化が進むイタリアの脅威に対抗するには十分な装備をもってなかったトルコ軍は、将来の脅威に対処できる現実的な抑止力を構築すべく、自国に航空機の販売を望んでいる意思があると確認されたあらゆる国から運用機を調達し始めたのです。

 その結果、トルコ空軍はポーランドからPZL「P.24」戦闘機を66機、アメリカからマーチン「139WT」爆撃機20機の導入を通じて増強されました。こうした軍用機の調達は(トルコ空軍に対する)ここ数年で最初の設備投資であり、最終的には、ヨーロッパで新たな世界大戦が近づくことが予想される情勢下で、より大規模な航空機の発注へと道を開けるものとなったのです。

 その数年前に、ムスタファ・ケマル・アタテュルク大統領がトルコ空軍に初めての爆撃機を調達するよう命じたため、慎重な検討を重ねた結果としてアメリカのマーチン「B-10」が選定されました。これを受けてトルコの代表団が現地へ派遣され、マーチン「139WT」と呼称されるようになったエンジンを改良したモデルを20機調達するに至りました。 [1]

 1937年9月に納入されたマーチン「139WT」は、チョルル基地を拠点とする第9航空大隊(Tayyare Taburu)の第55・56飛行隊(Tayyare Bölüğü)に配備されました。同爆撃機は引き渡されてから僅か2年で時代遅れと化したものの、第二次世界大戦中には黒海上空の偵察任務で広く活用されました。

 1944年にイギリス製ブリストル「ブレニム」及び「ボーフォート」に置き換えられた後のマーチン「139WT」は、1946年まで第二線機として活躍し続けたことが記録されています(その時点でも、残存する16機のうち12機が依然として稼働状態にありました)。[1]

テキルダー・チョルル・アタチュルクに並ぶマーチン「139WT」

 航空機の設計における進歩(とりわけエンジン開発の発展)のおかげで戦闘機や爆撃機のペイロードは機体のサイズ以上に大きな割合で増加してきましたが、このことはマーチン「139WT」や「クズルエルマ」の場合でも変わりません。

 1930年代のマーチン「139WT」は機内の爆弾倉に搭載可能な爆弾のペイロードが1,025kgである一方、「クズルエルマ-A1」は1,500kgで、さらに「クズルエルマ-B2」では推定3,000kgのペイロードを搭載可能となっているのです。

 搭載する兵装自体も、無誘導爆弾から巡航ミサイルやBVRAAMへと大きな進化を遂げています。
 

マーチン「139WT」が僅か1,025kgしか爆弾を搭載できない一方、「クズルエルマ-B2」はその3倍近い積載量を有することになるだろう

 1世紀近くにも及ぶ技術革新がもたらした違いこそあるにもかかわらず、現代のトルコ製UAVは、この国が爆撃機を運用し始めた際の機体が有していた一部のDNAを継承しています。

 「バイラクタル・アクンジュ」はマーティン「139WT」と同様に2基のエンジンを持つプロペラ機で、エンジンはより効率の良いターボプロップ式ですが、最高出力はほぼ同一です。また、外形寸法においても両機は驚くほど似ていますが、前者はその流線形の機体を活用して最大1,350kgという見事なペイロードも誇っているのです。
 


 マーチン「139WT」と「クズルエルマ」は、過去80年間で航空機の設計及び性能がどれだけ進化してきたかだけでなく、軍備の調達面でトルコが1930年代から2010年代までずっと他国に頼っていたのが2020年代にはほぼ全てを国内産業から調達を目指すことで、トルコがどのようにして安全保障上の課題を対処から発展してきたのかについて興味深い考察を可能にします。

 その目標の実現に向けたトルコの発展は猛烈なスピードで前進していますが、その流れは当然のことでしょう。なぜならば、トルコは世界中の国々と同様に、現代において次の言葉の重要性をますます悟っているためです:「...自分の空を守れない国々は、決して自身の未来を確信できないからです。」


[1] Martin 139-WT (B-10) http://www.tayyareci.com/digerucaklar/turkiye/1923ve50/martin139wt.asp

注:当記事は2023年1月7日に本国版「Oryx」(英語)に投稿されたものを翻訳した記事であり、意訳などで僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。


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2023年2月10日金曜日

21世紀の軍事大国へ:近年におけるポーランドの兵器調達リスト



著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

 2022年のロシアによるウクライナ侵攻に直面したNATO諸国は、さらなる兵器の導入を通じた防衛態勢の強化に奔走しています。

 現代ヨーロッパ史上で前代未聞の軍備の大量調達に乗り出しているポーランドほど、この傾向に該当する国はないでしょう。ポーランドの場合は、これまでに韓国から「K2」戦車 1,000台、「K9」自走榴弾砲672台、「K239」多連装ロケット砲288台、アメリカから「M1 "エイブラムス"」戦車366台、「AH-64E "アパッチ・ガーディアン"」攻撃ヘリコプター92機の調達またはその計画が含まれています。

 その一方で、同国内の防衛企業は無人機や自走式対戦車ミサイルシステムといったシステムに加えて、約1,500台の歩兵戦闘車と数百台の自走砲をポーランド軍に供給する予定です。

 どうやら、ポーランドは従来からの武器供給源であるドイツから兵器を調達するのではなく、新たなサプライヤーとして韓国とアメリカを見出したようです。

 ウクライナへの軍事支援におけるドイツの対応の遅さと、ドイツが始めた「循環的交換」政策の下でウクライナに戦車を供給したことに対するポーランドへの補償の速度(またはその欠如)に対して、この国は一層苛立ちを強めています。[1]

 そもそも、ドイツの兵器メーカーにはポーランドからの発注を全て履行する能力がないのが実態であり、ポーランドが韓国を選んだ理由は好き嫌いの話だけではなく、単に妥当な期間内に発注した装備を受け取ることも必要だったからです。

 韓国を武器と装備の主要な供給国に選んだことについては、アメリカにおける兵器の生産ラインに過度な負担をかけないとする付加的なメリットもあります。もしそうでなければ、ポーランドによる膨大な発注の時点で生産ラインが辛うじて対処できるレベルになっていたため、ほかのNATO諸国や台湾は装備を受け取るため時期に悩むことになっていたかもしれません。

 韓国との協力で得られるもう一つのメリットは、韓国が将来の「K3」戦車と「K9A3」自走榴弾砲のプログラムにポーランドを含めたことが挙げられます。これについては、ポーランドの実績が考慮されて将来的に同国内でも生産される可能性があることを示唆しています。[2]

 ほかのNATO諸国による防衛力強化の試みを把握することは私たちに洞察に満ちた視点を与え、ポーランドの兵器発注の規模を大局的に俯瞰することに役立つでしょう。(Oryxの母国である)オランダは予算削減のため2004年に24門の「M270  "MRLS"」多連装ロケット砲(MRL)を退役させて売却したものの、2014年から2015年におけるドンバス戦争でMRLの圧倒的な使用例を目撃した後、この失った戦力の再導入を試みています。ただ、資金不足で調達の決定を下すのに2022年までかかってしまったため、2023年にようやく発注がなされるよう見通しです。

 しかし、ポーランドが韓国から288門の「K239」 MRLを発注したの一方で、オランダが18門以上のMRLを獲得する見込みはありません。同様に、ポーランドでは将来的約1,500台の戦車が運用されることと比較してみると、オランダ陸軍は現在運用中の18台を超える戦車の追加導入計画を(論理的に)つぶしてしまいました。

 ポーランドによる度重なる投資の結果は、最終的に同国軍をヨーロッパのどの陸軍よりも量と質の双方で優れた軍隊に変えることでしょう。実際、1,500台という現用戦車の数は、ドイツ・フランス・イギリスが運用する戦車の合計の2倍以上であるどころか、ヨーロッパの全NATO加盟国が配備している戦車の合計台数よりも多いのです。この大規模な基幹戦力を補完するために今後も兵器の導入が確実に続くことは、 ポーランドを21世紀の軍事大国の一つに浮上させる土台作りとなると言っても過言ではありません。

 新装備の継続的な流入はポーランドにソ連時代の兵器をますます退役させることを許すのみならず、それらをウクライナに譲渡することも可能にさせてくれます。このことはポーランドとNATO諸国の防衛を担保するだけでなく、この国がこの先何年にも渡って自由の武器庫としての地位を維持することを意味するのです。

  1. 以下に列挙した一覧は、ポーランド陸海空軍によって調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、指揮車両、トラック、レーダー、弾薬は掲載されていません。
  3. この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です。

陸軍 - Wojska Lądowe

戦車 (将来的な総数:最大で1,500)
  • 180 K2 [2022年から2025年にかけて引き渡し] (後日に「K2PL」規格に改修予定) 
  • 820 K2PL [2026年以降にポーランドで生産予定]
  • 116 M1A1 SA [2023] (後日に「SEPv3」規格に改修予定)
  • 28 M1A2 SEPv2 [2020] (訓練用のリース車両)
  • 250 M1A2 SEPv3 [2025年から2026年にかけて引き渡し] (この導入契約には26台の「M88A2」装甲回収車と17台の 「M1110」 架橋戦車も含まれている)

歩兵戦闘車  (将来的な総数:1,430+)

その他のAFV 

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両

火砲類及び多連装ロケット砲  (将来的な総数:自走砲=360[オプションで+460], MRL=383[オプションで+200], 自走迫撃砲=215)
防空システム

ヘリコプター

無人航空機



空軍 - Siły Powietrzne

戦闘機 (将来的な総数:124+)

無人戦闘航空機(UCAV)

早期警戒管制機

空中給油機

輸送機
  • 3 C-130H「ハーキュリーズ」 [2024年後半までに引き渡し予定] (2機の「C-130E」の代替及び運用中である2機の「C-130H」を補完するもの)
  •  5 新輸送機 [2032年以降に引き渡し予定]

高等練習機
ヘリコプター

偵察衛星


海軍- Marynarka Wojenna

フリゲート (将来的な総数:3)

潜水艦 (将来的な総数:3)
  •  「オルカ」計画 [大幅に遅延した潜水艦3隻の導入計画] (辛うじて運用中の「キロ」級潜水艦を代替予定)

掃海艇 (将来的な総数:6)
  • 3 「コモラン-2」級 [2020年代後半と2030年代前半に引き渡し予定] (すでに運用中または建造中の同型艦3隻を補完するもの)

情報収集艦 (将来的な総数:2)

ヘリコプター  (将来的な総数:12[オプションで+4])

[1] Flawed But Commendable: Germany’s Ringtausch Programme https://www.oryxspioenkop.com/2022/09/flawed-but-commendable-germanys.html
[2] Poland’s massive tank, artillery and jet deal with S. Korea comes in shadow of Ukraine war https://breakingdefense.com/2022/07/polands-massive-tank-artillery-and-jet-deal-with-s-korea-comes-in-shadow-of-ukraine-war/

※  当記事は、2022年11月10日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
  箇所があります。



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