2023年3月7日火曜日

戦いでの消耗:まだ失われていないウクライナ軍の兵器類(全一覧)


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ

 当記事は、2023年3月3日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 2023年2月は、ウクライナ自身の存亡をかけた壮絶な戦いが始まってから丸1年が経過したことを示す時期でした。彼らは北・南・東から包囲してくる侵略者に屈服するどころか、自らに不利な状況にある紛争で主導権を握ることに成功したことは言うまでもないでしょう。

 ただし、この1年という時間は、残忍性と必然的な損失という点において第二次世界大戦以降の武力衝突を凌ぎ始めつつある時期でもあることを見落としてはいけません。これらの損失はロシア側に偏っていますが、ウクライナ側の消耗も前代未聞であり、今や友好国からの物的支援なしに戦いを続けることは不可能となっています。

 西側諸国からの新たな兵器が仲間入りする中で、当記事の一覧では、戦場で使用されていることが判明している重火器・装備のうち、撃破と鹵獲が確認されていないものを示すことにしました。

 ロシア側の一覧とは対照的に、ウクライナ側のものは時間が経つにつれて減少するのではなく、むしろ増えていくと思われます。

  1. 当然ながら、ウクライナが開発したり、あるいは友好国が引き渡しを約束した全ての兵器や装備類が(さまざまな要因で)実際に運用されているわけでもありません。したがって、管理を容易にするため、当一覧にはウクライナ軍によって使用が確認されている兵器類のみを掲載しています。
  2. ただし、特定の兵器については作戦での投入が見込まれたり、あるいは逆に含めることが非現実でないという理由のため、ケースバイケースで含めたり省略したりする場合があります。
  3. 小型の爆発物処理(EOD)UGV、民生用UAV、輸送機、訓練機、艦艇、(装甲)トラックは含まれていません。
  4. この一覧については、視覚的証拠に基づいて撃破または鹵獲が初めて確認された兵器が出た場合は更新されます。
  5. 各兵器名をクリックすると、当該兵器の画像が表示されます。
  6. 各兵器の名前にある国旗は、当該兵器の製造国またはウクライナへ供与した国を示しています(状況によってどちらが適切か判別して表示しています)。
  7. ウクライナで損失が確認されていないロシア軍の兵器類一覧はこちらで読むことができます

戦車


装甲戦闘車両


無人車両


歩兵戦闘車


装甲兵員輸送車


MRAP:耐地雷・伏撃防護車両


歩兵機動車


指揮通信車両
  • 9S457 (「S-300V」用) (2022年の戦争勃発以前からウクライナ軍で運用されているもの)
  • LPG WDSz (「AHS "クラブ"」用) [2022年6月に受領]


工兵・戦闘支援装備


砲兵支援車両または装備類


牽引砲


自走砲



多連装ロケット砲(MRL)

地対地ミサイルシステム


短距離弾道ミサイル(SRBM)
  • OTR-21 "トーチカ" (2022年の戦争勃発以前からウクライナ軍で運用されているもの)


沿岸防衛システム


対空砲


地対空ミサイルシステム


レーダー


ヘリコプター


無人航空機

2023年3月4日土曜日

稀な理想主義の具現化:「バイカル・テクノロジー」によるウクライナ支援(一覧)


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

Святість життя полягає в робленні добра людям - 生命の尊厳とは、人々を助けることにある (フルィホーリイ・スコヴォロダ)

 ロシアがウクライナに侵略したことを受けて、多くの国と民間企業がウクライナを支援する行動を起こしています。

 このうちの後者については、「スペースX」社による「スターリンク」衛星インターネットシステムの無償提供、「フィリップ・モリス・インターナショナル」社によるウクライナ軍に対するタバコ50万箱の寄贈、「ウィズ・エア」社による東欧にいるウクライナ難民への無料航空券10万枚の提供など、ウクライナの独立を維持するために無数の取り組みがなされてきました。[1] [2] [3]

 世界中の防衛企業もウクライナ軍に多大な貢献をしており、その大部分は軍装品・弾薬・小型無人機・武器の寄贈を通じて行われてきました。[4]

 こうした支援の殺到は戦史上前例がないものであり、まさに消滅の危機にある欧州の一国を支援する(官民を問わない)西側の決意がいかにロシアの誤算であったかを示していると言えるでしょう。

 この決意はEU加盟国にとどまらず、トルコもウクライナに対する軍事支援の重要な供給者となっています。同国の支援で特筆すべきものとしては、アメリカの「HIMARS」がウクライナに到着する前に「TRLG-230」誘導式多連装ロケット砲(MRL)を提供していたこと挙げられます。[5]

 また、トルコは、ロシア国内にある標的に対して使用しないという明確な条件なしにウクライナへ武器を提供した唯一の(NATO加盟)国であり、ウクライナはこの寛大さを喜んで活用したのでした。[5]

 トルコ政府によるウクライナへの(軍事)支援は相当なものですが、トルコの無人機メーカーである「バイカル・テクノロジー(以降、バイカルテックと表記)」社も軍事支援で極めて重要な役割を果たしました。2022年2月24日以降、「バイカルテック」は20機以上の「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)、30機の「バイラクタル・ミニ」無人偵察機、電子戦装置、そしてトラック12台分の人道支援物資をウクライナに寄贈しています。[5] [6]

 これらの提供に加えて「バイカルテック」はさらに15機のTB2を半額で販売し、リトアニア、ウクライナ、そしてポーランドがクラウドファンディングで集めた5機分のTB2を寄付するという決定をしたことで、本来支払われるはずだった3,200万ドル(約42.2億円)をウクライナの人道・復興プロジェクトに転用することができるようにしました。

 「バイカルテック」による寄贈や割引の総額について現時点では推測することしかできませんが(著者の知識に基づく推測では1億ドル:約132億円に近い)、いくつかの西側諸国がウクライナに提供した軍事支援額よりも多いのはほぼ間違いないでしょう。

 「バイカル・テクノロジー」社がこのような人目を集める姿勢を取ることになった動機を知らない人々のために説明すると、特に同社のハルク・バイラクタルCEOとセルチュク・バイラクタルCTO(最高技術責任者)はウクライナの支持者であることを積極的に表明しており、同社にとって「お金は優先ではない」とし、ロシアへドローンを供給することをあり得ないことだとしています。[7]

 弱肉強食の世界にある防衛企業、特に競争の激しいUAV市場でこのような発言がなされたことは前代未聞です。

「バイラクタル・ミニ」無人偵察機:30機がウクライナへ寄贈された

 2019年以降に「バイラクタルTB2」UCAVをウクライナへ供給していることに加え、「バイカルテック」とウクライナは2021年9月に「バイラクタル」の製造工場をウクライナに設立する契約を結び、さらなる協力関係の構築を目指しています。[8]

 ロシア・ウクライナ戦争が近いうちに終結する兆しを見せていないという事実にもかかわらず、ハルクCEOはウクライナの製造工場は2年後に完成すると見積もっており、次のように述べました:「私たちの計画は前進しています。そして、私たちは実際に建設を進めていくでしょう。工場を2年以内に完成させたいと考えています」。[9]

 そのほかにも、同社によってウクライナとの強い結びつきを明確に示す数多くの取り組みが立ち上げられています。特に注目するべきものとして、「バイカルテック」は「サングル」IIR誘導式携帯型対空ミサイルシステム(MANPADS) をTB2にインテグレートすることを通じて、イラン製徘徊兵器という脅威と戦うウクライナを支援しようと試みているのです。[10]

 2022年3月以降、「バイカルテック」はトラック12台分の人道支援物資をウクライナに送りました。[6]

 また、2022年8月には、140人のウクライナの子供たちが同社の費用でイスタンブールで1週間のサマーキャンプに参加できるようにしたり、(イスタンブールにもある)工場の見学さえしてもらいました。[10]

 さらに、2022年には30人のウクライナの大学生が「バイカルテック」から奨学金を支給されており、2023年にはさらに30人の学生が同じ栄誉を受ける予定です。
 

将来的にウクライナで設立される「バイカルテック」の工場(イメージ図)

 防衛企業が世界の諸問題に対して理想主義的なスタンスをとることは一般的に知られておらず、過剰な貪欲さと政府を腐敗させる傾向があるという典型的なイメージが連想されがちです。「バイカルテック」がこうしたネガティブな評価から脱却したことは歓迎すべき変化であり、比較的低い露出度にもかかわらず取り組みを継続していることは称賛に値すると言えるでしょう。

 懐疑的な人々はウクライナに「バイラクタルTB2」を寄贈すれば2倍のPR効果が得られるからだろうと常に否定的な見方をするかもしれませんが、(それが正しければ)トラック12台分の人道支援やウクライナの子供たちに対するサマーキャンプの組織、イスタンブールのウクライナ難民への経済支援はしないでしょうし、(商業面で)犠牲の大きい製品の割引や関連機器の寄贈も行わないはずです。

 このような支援が他の追随を許さないほど広範かつ大量に行われていることは、今や純粋な動機が無用な負担とみなされることがあまりにも多いこの世界では稀なこれらの決定に、極めて誠実な理想主義的な一面が含まれていることを疑う余地はありません。


  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻開始以降に「バイカルテック」が実施したウクライナへの支援を追跡調査を試みたものです。
  2. この一覧は、さらなる支援の表明や判明した場合に更新されます。

無人戦闘航空機 (UCAV)
  • 30+ バイラクタルTB2 [2022年3月以降に引き渡し] (半分は「バイカルテック」による寄贈で、残りの半分は半額で販売)
  • 5 バイラクタルTB2 [2022年6月以降に引き渡し] (リトアニア、ウクライナ、そしてポーランド国民によって調達資金がクラウドファインディングされたものだが、これを受けた「バイカルテック」で無償供与することを決め、集まった3,200万ドルを人道支援などに転用)

無人偵察機

電子戦装備
  • 航空機用電子戦装置 (「バイラクタルTB2」用) [2022年夏に引き渡し] (「バイカルテック」による寄贈)

地上管制ステーション
  • ''いくつかの'' 地上管制ステーション(「バイラクタルTB2」用) [2022年中に引き渡し] (「バイカルテック」による寄贈)

人道支援

助成
  • トルコにいる30人のウクライナ人大学生に対する奨学金(4年分) [2022年に実施]
  •  同上 [2023年に実施]
  •  ウクライナでの無人機製造工場の設立 [2023年 または 2024年]


[1] Elon Musk’s SpaceX sent thousands of Starlink satellite internet dishes to Ukraine, company’s president says https://www.cnbc.com/2022/03/22/elon-musk-spacex-thousands-of-starlink-satellite-dishes-sent-to-ukraine.html
[2] Philip Morris handing over 500,000 packs of cigarettes to Ukrainian army – MP Hetmantsev https://en.interfax.com.ua/news/general/804866.html
[3] WIZZ AIR SUPPORTS UKRAINIAN REFUGEES: 100,000 FREE SEATS FROM NEIGHBOURING COUNTRIES IN MARCH https://wizzair.com/en-gb/information-and-services/about-us/news/2022/03/02/wizz-air-supports-ukrainian-refugees-100-000-free-seats-from-neighbouring-countries-in-march
[4] List of foreign aid to Ukraine during the Russo-Ukrainian War https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_foreign_aid_to_Ukraine_during_the_Russo-Ukrainian_War
[5] The Stalwart Ally: Türkiye’s Arms Deliveries To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/11/the-stalwart-ally-turkiyes-arms.html
[6] https://twitter.com/BaykarTech/status/1587116030844862465
[7] https://twitter.com/defenceu/status/1563234161871441921
[8] Ukraine to produce Turkish armed drones: Minister https://english.alarabiya.net/News/world/2021/10/07/Ukraine-to-produce-Turkish-armed-drones-Minister
[9] Turkey's Baykar to complete plant in Ukraine in two years -CEO https://baykartech.com/en/press/turkeys-baykar-to-complete-plant-in-ukraine-in-two-years-ceo/
[10] Turkish drone maker Baykar to counter 'kamikaze' threat in Ukraine https://baykartech.com/en/press/turkish-drone-maker-baykar-to-counter-kamikaze-threat-in-ukraine/

※  当記事は、2022年12月24日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも
  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が 
  あります。