2022年12月8日木曜日

レッドスター・ライジング:ベトナムの武装ドローン・プロジェクト



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ベトナムは、第二次世界大戦時代のソ連製小銃から1960年代のアメリカ製主力戦車までのあらゆる兵器を装備した大規模な予備軍によって迅速に動員できる、主にソ連時代の兵器を装備した巨大な軍事機構を守備することによって、その安全保証上の要求に対応しようと務めてきました。

 ベトナム人民軍(VPA)における現代的な装備は比較的不足していますが、その代わりにベトナムは既存の兵器をアップグレードして21世紀の戦闘に適切なものにすることを好んでいるようです。その代表的な例が「T-54M3」戦車へのアップグレード計画でしょう。

 この独特な手法は、ベトナムのような大規模な軍隊で一般的に見られる種類の装備類が不足していたり、比較的後れて導入されていることを意味しています。

 過去10年間、南シナ海で強引さを強める中国に対する抑止力を高めるために、ベトナムは自国の資金の大部分を防空、沿岸防衛システム(CDS)、そして海軍力の近代化・拡大に投じてきました。

 この観点から見ると、無人戦闘航空機(UCAV)の導入がベトナムの最優先事項でないことはほぼ間違いないでしょう。しかし、別の視点からアプローチしてみると、ベトナムが手ごろな価格のUCAVを導入する理由は確かに生じ得ます。

 ベトナム人民空軍(VPAF)は専用の対地攻撃機をほとんど保有しておらず、将来に中国と武力衝突が発生した場合は「Su-27」や「Su-30」飛行隊が数において優勢な中国の飛行隊と戦うことになり、それは地上部隊への近接航空支援に用いることが可能なアセットがほぼ皆無になることを意味しています。

 ちなみに、ベトナム軍の「Mi-24A」攻撃ヘリコプターは、2000年代後半に後継機が存在しない状態で最後の1機が退役してしまいました。

 ベトナムが無人攻撃機の導入を前進させる可能性があるという具体的な兆候が最初に表面化したのは、2020年9月のVPA第11回党大会(注:ベトナム共産党第11回大会とは別)の記念展示会で、双胴機型UCAVのモックアップが登場したときのことでした。[1]

 ベトナム製UAVの大半を担当している「ベトテル・グループ」系企業が設計・開発したと考えられているこのUCAVは、主翼の下に2発の空対地ミサイル(AGM)のモックアップを搭載していました。このドローンやこれまでのUAVプロジェクトがどこまで進んだのかについては、このほかには全く知られていません。


 現段階ではまだモックアップですが、展示された機体のデザインはトルコ航空宇宙産業(TAI)の「アンカ」UCAVと類似しています。もちろん、トルコとの軍事協力が行われている情報が皆無であることから、このような類似性は純粋な偶然である可能性が極めて高いでしょう。

 設計面でさらに興味深いものとしては、機首上部にある衛星通信(SATCOM)アンテナ収容用の盛り上がった部分と胴体下の合成開口レーダー(SAR)用と思しき突出部があり、このUCAVが情報・監視・偵察(ISR)任務を負うように設計されていることを示唆しています。



 この新型UCAVはベトナムで誕生した最初の大型UAVではありません。なぜならば、2015年の時点でに(当時では)最大級のUAVを発表したことがあったからです。[2] [3]

 この「HS-6L」と命名された全幅22mの中高度・長時間滞空型(MALE)UAVは、ベラルーシと共同開発されたものと考えられています。2016年には非武装型の飛行試験が実施されることになっていましたが、2015年にこのプロジェクトが公開されて以来、何の音沙汰もありません。「HS-6L」については、南シナ海の広範囲な部分をパトロールするのに理想的な約4,000kmの航続距離と35時間の滞空時間を誇ると主張されていました。[2]

 その後のベトナムの動向を踏まえると、国産MALE型UAVに対する関心については、どうやら外国製UAVの導入を優先することに取って代わられたようです。

 2018年6月に、2つのイスラエル企業:「エアロノーティクス」「イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)」がベトナムが求める大型UAVの必要条件を満たす機種を売り込んでいたことが公表され、続く同年12月には、ベトナムが1億6,000万ドル(約182億円)で3機のIAI「ヘロン」の調達する契約を締結したと報じられました。[4][5]

 しかし、最終的にこの契約は実現しませんでした。このことは、ベトナム側が依然としてMALE型UAVの導入について躊躇していることを示唆しています。

ベトナム科学技術院とベラルーシで共同開発された「HS-6L」UAV

 実現したのは、「ベトテル」社による「エアロノーティクス」製「オービター3」のライセンス生産でした。2017年、同社はすでに「オービター3」に酷似した新型UAV「VT-スイフト」を公開しています。[6]

 ベトナムはすでに「オービター2」を運用しており、2015年に関連する技術移転と共に「オービター3」の導入に関心を表明していたのです。[7] [8]

 「VT-スイフト」は搭載されたGPS装置を用いて複数の通過地点に基づいて予めプログラムされたルートを飛行し、機首のEOセンサーを使用して偵察や砲撃目標の指示を行う能力を有しています。

イスラエルの「オービター3」のライセンス生産モデルの派生型である「VT-スイフト」

 ベトナムは独自の方法で防衛面での需要に対応し続けるでしょうから、もしかすると同国がUCAVを導入する状況を目にする日がいつかは来るかもしれません。

 ベトナムは偵察手段や「Su-30」といったジェット戦闘機を代替する安価な攻撃機としてのUAVのベストな使用法や、これらを自国の防衛戦略にいかにして上手に取り入れるかを見出すことに尽力していることは確かです。

 近年におけるベトナムの防衛産業がUCAVと専用の兵装を開発する能力を有しているかは不明ですが、技術移転や外国機の製造ライセンスを獲得することによって数年以内にそうした能力を勝ち取り、武装ドローン運用国のリストに新たに自国を加える可能性があります。

※ この記事の作成にあたり、 Lee Ann Quann氏と0bserver4氏に感謝を申し上げます。

[1] https://twitter.com/AnnQuann/status/1309425978892939264
[2] https://twitter.com/0bserver4/status/1484551453620715520
[3] Vietnam Reveals New Drone for Patrolling the South China Sea https://thediplomat.com/2015/12/vietnam-reveals-new-drone-for-patrolling-the-south-china-sea/
[4] UAV tầm xa Việt Nam: Giao hội ý tưởng và công nghệ Đông-Tây https://soha.vn/quan-su/uav-tam-xa-viet-nam-giao-hoi-y-tuong-va-cong-nghe-dong-tay-2015121411442494.htm
[5] Drone race underway in Vietnam https://www.intelligenceonline.com/cor- porate-intelligence/2018/06/27/drone-race-underway-in-vietnam,108314927-art
[6] A New Vietnam-Israel Drone Deal? https://thediplomat.com/2018/12/a-new-vietnam-israel-drone-deal/
[7] VT-Swift http://www.vtx.vn/content/vt-swift-1
[8] Vietnam ups interest in unmanned Orbiter 3 https://www.flightglobal.com/military-uavs/vietnam-ups-interest-in-unmanned-orbiter-3/116093.article
[9] A Perspective on Vietnam http://drones.cnas.org/reports/a-perspective-on-vietnam/

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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