2022年12月11日日曜日

プレミア価格の対潜哨戒機:ギリシャが「MQ-9B "シーガーディアン"」UAVを調達する


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 政府が引き起こした債務危機のために長年にわたって装備の新規調達を延期せざるを得なかったギリシャ空軍は、ここ近年で相次ぐ新たな装備の導入という恩恵を受けています。

 2018年、「ロッキード・マーティン」社はギリシャが運用している84機の「F-16C/D(ブロック52+)」を最新の「F-16V(ブロック70/72) "バイパー"」規格にアップグレードする契約を結び、その2年後には、ギリシャ政府によるフランスから18機の「ダッソー」製「ラファール」戦闘機を「SCALP」巡航ミサイルと「AM39 "エグゾゼ"」対艦ミサイルから成る高度な兵装パッケージとセットした発注が続きました(2021年にさらに6機が発注)。[1]

 そして2022年6月、ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は政府が2020年代後半に納入予定となっている「F-35」20機の購入要請をアメリカに打診したことを公表するまでに至りました。[2]

 ギリシャ空軍の復活はそれらだけにとどまらず、10機の「M-346」新型ジェット練習機の調達や、28機を運用中の「AH-64A/D」攻撃ヘリコプターを射程25kmの「スパイク-NLOS」対戦車ミサイル(ATGM)を発射できるように改修することも現在進められています。[3] 

 さらに、ギリシャはイスラエルの防衛企業「IAI」から(2020年代半ばのリース期間終了後に購入するオプション付きで)「ヘロンTP」無人航空機(UAV)の海上監視型を4機リースし、念願の中高度長時間滞空(MALE)型UAVの獲得を目指していました 。ところが、その後の2022年7月上旬に、ギリシャがアメリカから洋上監視に特化された「MQ-9B "シーガーディアン"」3機を4億ドル(約547億円)という驚異的な価格で調達することが発表されたのでした。[4][5]

 こうした新兵器の導入案は、近年エーゲ海におけるギリシャの島々の非軍事化を要求している隣国:トルコとの緊張が高まる中で、ギリシャ軍の能力をさらに増強することを目的とした大規模な調達計画の一部です。[6] 

 「シーガーディアン」はギリシャ軍に斬新な戦力をもたらすことになりますが、その価格は機体に付随する高度なレーダーやセンサーシステムを考慮しても法外なものと言わざるを得ません。価格の急騰が実際に搭載されているセンサー群に原因があることを示す証拠として、2015年にオランダが「MQ-9(ブロック5)」を3億3900万ドル(約464億円)で発注したことが挙げられます。[7]

 オランダへの売却案には無人戦闘航空機(UCAV)4機、地上管制ステーション4基、エンジン6基、「ゼネラルアトミクス」社製の海上広域捜索機能を備えた「リンクス」合成開口レーダー、照準システムなどが含まれていたものの、兵装は別とされました。この契約は結果として2020年まで延期され、今度は「リンクス」合成開口レーダーなしで、それを含む場合よりも2億1600万ドル(約295億円)も安い僅か1億2300万ドル(約168億円)で締結されたのです! [7]

 さらに比較すると、イギリスは2020年7月に「MQ-9B "スカイガーディアン"」3機と地上管制ステーション3基を総額で8200万ドル(約112億円)で調達しています。[8]


 「MQ-9B "シーガーディアン"」は定評のある「MQ-9B "リーパー"」UCAVの海上監視型で、もともと(最終的に「ノースロップ・グラマン」社の「RQ-4N/MQ-4C」が選ばれた)アメリカ海軍の広域海洋監視(BAMS)計画のために売り込んだコンセプトから生まれました。

 艦艇を含む水上目標や潜望鏡を探知可能な合成開口レーダーと対潜戦(ASW)用のソノブイ・ポッドを搭載できることが「シーガーディアン」最大のセールスポイントです。

 また、対潜魚雷や自衛用の「AIM-9 "サイドワインダー"」空対空ミサイル(AAM)の搭載及び運用能力の付与を含む将来的な改良だけにとどまらず、今では空母から運用するために翼を折りたたたみ式にしたタイプさえも検討されており、システムの将来性が拡大しつつあります。
 
「シーガーディアン」は、ギリシャが保有している「P-3B "オライオン"」洋上哨戒機や「AB-212」及び「S-70/B-6 "エジエンホーク"」対潜ヘリコプターで構成されているASW飛行隊を補完することになるでしょう。

 トルコの潜水艦の戦力が向上していることを踏まえ、ギリシャはASW用アセットの追加導入に大規模な投資を行い続けてきました。2016年にギリシャ海軍は5機の「P-3B "オライオン"」のオーバーホールと改修をする契約を結んでおり、2023年に完了する予定です。[9] 

 その3年後、海軍は旧式化した「AB-212」を更新するために7機の「MH-60R "シーホーク"」を調達する契約も交わされましたが、どうやら「MR-60R」導入の必要性が極めて高かったらしく、当初はアメリカ海軍向けであった機体がそのままギリシャに引き渡されました。[10]

ギリシャ海軍に引き渡された最初の「MH-60R」(2021年12月)

 プラットフォーム機としての洋上監視能力を披露するため、メーカーの「GA-ASI(ゼネラルアトミクス・エアロノーティカルシステムズ)」は2019年12月にギリシャのラリサ空軍基地から「MQ-9 "ガーディアン"」を用いた一連の実証飛行を終えています。[11] 

 この飛行はギリシャ空軍と沿岸警備隊によって後援されたものであり、NATO諸国の軍人や議員たちの前で披露されました。[11] 

 現状を踏まえると、これらの実証飛行で示した性能は、その驚異的な高価格を大目に見るようにギリシャに納得させるには十分なほど見応えのあるものだったようです。 


 多種多様なセンサーシステムの搭載やソノブイの運用能力を持つ「シーガーディアン」は近い将来に対潜魚雷や「サイドワインダー」AAMを搭載することが可能となりますが、UCAVではないことから地上目標に対する使用には向いていません。

 その代わり、UCAVとしての任務については「MQ-9B(ブロック5)」または(イギリスで「プロテクター」という名称が付与された)「MQ-9B "スカイガーディアン"」によって遂行されることになっています。同機は最大で18発のMBDA「ブリムストーン2」空対地ミサイル、または12発の同ミサイルと2発の「ペイブウェイ IV」GPS/INS/レーザー誘導爆弾(各230kg)を搭載可能という素晴らしい兵装のペイロードを有した機体です。

 ただし、近い将来にギリシャがこのUCAVや他機種を導入するかどうかはまだ分かっていません。

「GA-ASI」社の「MQ-9 "ガーディアン"」実証機とギリシャ空軍の「F-16C(ブロック52+)」

 3機の「MQ-9B "シーガーディアン"」の導入は、ギリシャ軍にとって新しい時代を形成する最も重要な指標の1つとなることは言うまでもありません。

 高度なセンサーシステムを用いることによって遠く離れた場所にいる敵の位置を特定したり、エーゲ海における濁った海域に潜む潜水艦の探知など、この新型機は国土の広さの割に他国よりも多くの海岸線を持つギリシャに長年欠けていた力をもたらすることになるでしょう。

 ASWという任務上、確かに「シーガーディアン」は敵からの攻撃に対して脆弱です。しかし、いかなるASW機も該当すると特徴のため、致命的な弱点ではありませんし、この機体が装備している強力なセンサー群と見事な(無人)飛行特性は多く存在するほかの選択肢よりも適していると主張することができます。

 ただし、ギリシャ軍が老朽化した装備の近代化と更新の困難に直面している現在、こうした斬新な戦力の導入が多額の代償を伴うことは否定できません(注:つまり「シーガーディアン」などの導入でほかの装備の更新などに遅れが生じるデメリットがもたらされるということ)。


[1] MBDA awarded two contracts by Greece for naval and aircraft weaponry https://www.mbda-systems.com/press-releases/mbda-awarded-two-contracts-by-greece-for-naval-and-aircraft-weaponry/
[2] Greece formally requests to buy F-35 fighter jets from US https://apnews.com/article/nato-middle-east-turkey-e984784e39df527ba58731b51092995b
[3] Σοκ στην Άγκυρα: Έρχονται και «κλειδώνουν» το Αιγαίο τα «φονικά» Ισραηλινά SPIKE NLOS - Εφιάλτης για την Τουρκία - Ανίκητη «ασπίδα» σε Έβρο και νησιά https://newpost.gr/amyna/615c7dcc8fd4386408a451f8/sok-stin-agkyra-erhontai-kai-kleidonoyn-to-aigaio-ta-fonika-israilina-spike-nlos-efialtis-gia-tin-toyrkia-anikiti-aspida-se-evro-kai-nisia
[4] Greek armed forces to get new missiles, upgrade systems https://www.ekathimerini.com/news/1169287/greek-armed-forces-to-get-new-missiles-upgrade-systems/
[5] Greece to purchase SeaGuardian MQ-9B UAV amid tensions with Turkey https://www.navyrecognition.com/index.php/naval-news/naval-news-archive/2022/july/11887-greece-to-purchase-seaguardian-mq-9b-uav-amid-tensions-with-turkey.html
[6] Stop militarising Aegean islands, Turkey’s Erdogan tells Greece https://www.aljazeera.com/news/2022/6/9/stop-demilitarising-aegean-islands-turkeys-erdogan-tells-greece
[7] General Atomics awarded $123 million Netherlands MQ-9 Reaper drone contract https://www.thedefensepost.com/2019/03/22/netherlands-general-atomics-mq-9-reaper-drone-123-million/
[8] UK signs for first three Protector UAVs https://www.janes.com/defence-news/industry-headlines/latest/uk-signs-for-first-three-protector-uavs
[9] Greece Takes Delivery of First Upgraded P-3B Orion https://dsm.forecastinternational.com/wordpress/2019/05/20/greece-takes-delivery-of-first-upgraded-p-3b-orion/
[10] First MH-60R for Greece https://www.scramble.nl/military-news/first-mh-60r-for-greece
[11] GA-ASI Concludes Successful Series of MQ-9 Demonstrations in Greece https://www.ga.com/ga-asi-concludes-successful-series-of-mq-9-demonstrations-in-greece

※  当記事は、2022年8月19日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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