著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo) ウクライナ東部での紛争地域で分離主義勢力である自称「ドネツク人民共和国(DNR)」の榴弾砲をウクライナがドローン攻撃をしたことは、いくつかの国にドンバス戦争における無人戦闘航空機(UCAV)の使用について懸念を表明させるまでに至りました。[1]
興味深いことに、懸念を表明したのはドイツやフランスであり、これらの国々にロシアは含まれていませんでした。[2] [3]
2021年10月26日に実施されたこの攻撃以来、ウクライナとロシアの緊張はここ数年で最も高くなっており、ウクライナとの国境付近に大規模なロシア軍部隊の増強が依然として継続中のため、全面戦争が差し迫っている可能性について懸念を引き起こしています。[4]
ウクライナは
「バイラクタルTB2」を用いて分離主義勢力の「D-30」榴弾砲を無力化したことで、彼らを支援するモスクワへ警鐘を鳴らしたようです。
ウクライナ東部の分離主義勢力は、現時点で高高度を飛行する「バイラクタルTB2」に効果的に対抗できる地対空ミサイル(SAM)システムを保有していません。
過去にロシアはウクライナ東部に
「トール-M1」、
「パーンツィリ-S1」、そして
「ブーク-M1」を配備することでDNRの防空戦力を増強したことがありますが、これが2014年7月のマレーシア航空17便の撃墜という悲劇につながったため、これらの配備を繰り返す決定が軽視されることはないでしょう。[5]
現代的なSAMを保有していない分離主義勢力の部隊については、その不足分以上のものをロシア軍が電子戦(EW)装備でカバーしており、
「クラスハ-2」や
「レペレント-1」を含む最先端のEWシステムをウクライナ東部に前身配置させています。[6]
ただし、これらのシステムはナゴルノ・カラバフにおける戦闘でTB2の運用を妨害できないことを実証したため、同様にこれらがウクライナのいかなる地域を飛ぶTB2に深刻な危険をもたらすことを示唆する理由はほとんどありません。[7] [8]
このことは、ウクライナによるTB2の使用が、全面戦争へと激化させる材料となるロシアの防空システムや戦闘機の大規模な投入によってしか阻止できないというきっかけとなる可能性を暗示しています。
また、これはドンバス戦争におけるTB2の投入が、基本的にロシアによる紛争の深刻な激化という脅威の下での報復攻撃に制限されることも意味しています。この点を考慮すると、ウクライナによるTB2の使用が、実はロシア・ウクライナ間の戦争を安定化させる要素となる可能性があると主張することができます。
榴弾砲への空爆では人命の損失をもたらさず、ウクライナ軍との砲撃戦に発展する事態を防ぎました。さらに、この空爆は分離主義勢力に対して、今後のいかなる挑発も「バイラクタルTB2」を再度使用する可能性があるという警告として機能し、今後の武力挑発の制限に大きく貢献してくれるかもしれません。
ドローン攻撃による武力挑発に対する警告は、TB2のオペレーターが陣地に配備された3門の榴弾砲のうち1門だけを攻撃したという事実からも証明されています。この判断は、明らかに分離主義勢力に砲撃を中止させるための相応の警告と考えられます(注:警告でなければ、ウクライナは1門ではなく3門全部を破壊したでしょう)。
ロシアとの全面戦争が始まることで引き起こされる人道面での大惨事は、ウクライナ側にTB2を(現時点では明らかに検討から外されている)分離主義勢力が支配する地域の奪還や保有する大砲を破壊するための試みといった報復攻撃以上での使用を思いとどまらせるには十分でしょう。
ロシアは「このような武器(TB2など)がウクライナ軍に引き渡されることで、交戦ラインの状況が不安定になる可能性がある」旨を主張しています。[9]
その一方で、トルコは、ウクライナの「バイラクタルTB2」がどのように使われようと責任を負わないという立場をとっています。
ウクライナへのTB2納入に関するロシアの非難に対して、トルコのメヴリュット・チャヴシュオール外務大臣は「もし、とある国家が我々から(兵器を)購入すれば、それはもはやトルコの製品ではありません。それはトルコで製造されたかもしれませんが、ウクライナに属しています。トルコはこれ(使用)について非難することはできないのです」と反論しています。[10]
トルコ南東部のクルド労働者党(PKK)部隊に使用されることを懸念したアメリカや欧州から武器調達を頻繁に阻止されてきたトルコが、他国に自国製兵器を配備できる・できないといった制限を課す可能性は低いと思われます。
ロシアは歴史的に地域の不安定な状況を防ぐことに少しも配慮を示したことがありません。実際、ロシアはキプロス(注:キプロス共和国)に
「S-300PMU-1」地対空ミサイル(SAM)システムを装備させようとした1990年代後半に、このキプロスにおけるS-300危機の中心にありました。
トルコが「S-300」を引き渡さないよう嘆願したにもかかわらず、ロシアはキプロスへの売却については何ら干渉を受けることなく進めると繰り返し主張し、キプロスとトルコの間の緊張状態を戦争に差し迫った段階にまで高めてしまったのです(注:キプロス島は国際的に承認された「キプロス共和国」とトルコが支援する「北キプロス・トルコ共和国」の南北に分断されており、武力衝突が頻繁に繰り返されています)。[11]
ロシアは「S-300」の引き渡しが地域のバランスを大幅に激変させるというトルコの懸念には屈服する意思が全く無いことを示し、最終的にキプロスが島へ「S-300」の配備に反対する決定をしてこの危機が回避されたのでした。
それから約20年後の2018年、ロシアはイスラエルから「このような兵器の引き渡しは脆弱な地域をさらに不安定にする可能性がある」旨の抗議を受けたにもかかわらず、キプロスと同じ状況下でシリアに「S-300」を引き渡しました。[12]
2019年以降、ウクライナは空軍と海軍航空隊に少なくとも12機の「バイラクタルTB2」を配備していますが、2021年9月には、今後数年で24機のTB2を追加購入する計画であることを明らかにしました。[13][14]
ウクライナは、有人戦闘機にかかるコストのほんの一部しかかからないUAVに自国軍の近代化を大きく委ねています。空軍の老朽化した作戦機を代替して現実的な抑止力を構築するには、武装したドローンの導入が唯一の現実的な方法と思われ、将来的には「バイラクタルTB2」の追加購入や新型の
「アクンジュ」を導入することが予想されます。トルコは、まさにこの点でウクライナを支援する意向があるようです。
今や差し迫った戦争の話題でもちきりですが、ウクライナ東部での紛争は平和的な手段のみによって現実的に対処できると考えます。しかし、より長期的な平和をもたらす紛争が実際に解決されるにはまだ何年も先のことになる可能性が高く、その間も挑発行為が間違いなく続くでしょう。
ウクライナによるドローン攻撃の脅威は、分離主義勢力に大砲の使用を含む今後のいかなる武力挑発の実行を思いとどまらせる可能性がある一方で、東部の国境沿いに展開するロシア軍の存在は、ウクライナにTB2を用いた独自の挑発行為を行わせないようにする強い抑止力として機能しています。
ウクライナとロシアは、本質的にウクライナ東部の状況に関して膠着状態にあります。
ここ最近の緊張の高まりは戦争の脅威の激化に大いに貢献しており、平和的解決に向けた交渉をより興味深いものにしています。
一部のアナリストや世界中の紛争ウォッチャーはウクライナ東部でナゴルノ・カラバフのシナリオが繰り返されることを想定しているかもしれませんが、ウクライナを飛ぶ「バイラクタルTB2」の存在は予想とは反対に平和の維持に大きく貢献する可能性があるのです。
[1] Перше застосування "Bayraktar" на Донбасі проти артилерії найманців
https://youtu.be/XEY4qPO1ffU[2] Ukraine Angers Russia by Buying Turkish Drones and Wants To Get Its Hands On More
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-12-03/ukraine-buys-more-armed-drones-from-turkey-than-disclosed-and-angers-russia[3] Ukraine - Q&A - (28 Oct. 2021)
https://www.diplomatie.gouv.fr/en/country-files/ukraine/news/article/ukraine-q-a-28-oct-2021[4] Baptism By Fire - Ukraine’s Bayraktar TB2 See First Use
https://www.oryxspioenkop.com/2021/10/baptism-by-fire-ukraines-bayraktar-tb2.html[5] Tor series surface-to-air missile systems in Ukraine
https://armamentresearch.com/torsam-ukraine/[6] Latest from the OSCE Special Monitoring Mission to Ukraine (SMM), based on information received as of 19:30, 10 August 2018
https://www.osce.org/special-monitoring-mission-to-ukraine/390236[7] Aftermath: Lessons Of The Nagorno-Karabakh War Are Paraded Through The Streets Of Baku
https://www.oryxspioenkop.com/2021/01/aftermath-lessons-of-nagorno-karabakh.html[8] Russian Electronic Warfare Systems Cannot Beat Bayraktar UAVs: Baykar
https://www.defenseworld.net/news/29086/Russian_Electronic_Warfare_Systems_Cannot_Beat_Bayraktar_UAVs__Baykar#.YMfJ-kxcKUl[9] Turkish strike drone deliveries to Ukraine may destabilize Donbass situation — Kremlin
https://tass.com/world/1354633 [10] Turkey Says Cannot Be Blamed for Ukraine’s Drone Use
https://www.thedefensepost.com/2021/11/01/turkey-ukraine-drone-use/[11] Cyprus bows to pressure and drops missile plan
https://www.theguardian.com/world/1998/dec/30/cyprus[12] Three Russian S-300PM battalion sets delivered to Syria free of charge — source
https://tass.com/defense/1025020[13] Black Sea Hunters: Bayraktar TB2s Join The Ukrainian Navy
https://www.oryxspioenkop.com/2021/08/black-sea-hunters-bayraktar-tb2s-in.html[14] Ukraine to buy 24 more Turkish Bayraktar TB2 UCAVs
https://www.dailysabah.com/business/defense/ukraine-to-buy-24-more-turkish-bayraktar-tb2-ucavs
ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
があります。
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