著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ
一般的に「台湾」と呼称される中華民国は、研究開発と生産能力を保護するために国内の兵器産業へ数十億ドル規模の投資を続けています。
台湾はすでに大概の兵器システムの設計と生産を自前で行っているか、あるいはそのような能力を確立する方向に順調に進んでいるものの、この国は最大の武器・兵器供給国であるアメリカから依然として定期的に調達をしていることは言うまでもないでしょう。
最近にアメリカから調達した兵器には、108台の「M1A2T」戦車、29台の「M142 "HIMARS"」高機動ロケット砲システム 、84台の「ATACMS」 戦術地対地ミサイルシステムと864発のミサイル、そして「ハープーン」沿岸防衛システムなどが含まれています(後者の2つは、台湾で設計された同等のシステムと一緒に運用される予定です)。[1] [2]
2022年8月下旬に、台湾は4機の「MQ-9B "シーガーディアン"」を5億5500万ドル(約834億円)という驚異的な費用で調達する別の契約をアメリカと結びました。[3]
導入に要する総コストは最終的に約7億ドル(約1052億円)となる見込みであり、機体分を除いたコストは台湾で必要なインフラの整備や「MQ-9B」用の地上管制ステーションを収容する施設の新設、支援機材や訓練に費やされます。[3]
台湾による「MQ-9B "シーガーディアン"」の購入は、ギリシャが同様に4億ドル(約600億円)という巨額の費用をかけて3機を購入した僅か2か月後のことでした。[4]
台湾は現時点で独自の中高度長時間滞空(MALE)型 UAV計画も進めており、その最新版である「騰雲二型(クラウドライダー2)」は2019年に公開され、当記事が執筆されている2022年10月現在は運用デビュー前の試験が実施されています。
「クラウドライダー2」と「MQ-9B "シーガーディアン"」のレイアウトは似ていますが、完全に別のクラスの機体です。前者は「MQ-9B "リーパー"」無人戦闘航空機(UCAV)に相当するものですが、後者は「リーパー」をヨーロッパのNATO諸国の要求に合うように設計された「MQ-9B "スカイガーディアン"」の洋上監視/対潜水艦戦(ASW)型なのです。
もともと(最終的に「ノースロップ・グラマン」社の「RQ-4N/MQ-4C」が選ばれた)アメリカ海軍の広域海洋監視(BAMS)計画ために売り込んだコンセプトから誕生した「シーガーディアン」最大のセールスポイントは、艦艇を含む水上目標や潜望鏡を探知可能な合成開口レーダーと対潜戦(ASW)用のソノブイ・ポッドを搭載できることにあります。
「シーガーディアン」の将来的な改良としては対潜魚雷や自衛用の「AIM-9 "サイドワインダー"」空対空ミサイル(AAM)の搭載及び運用能力の付与を含む将来的な改良のみならず、今では空母や強襲揚陸艦から運用するために翼を折りたたたみ式にしたタイプさえも検討されています。
国家中山科学研究院(NCSIST)の「騰雲二型(クラウドライダー2)」無人(戦闘)航空機 |
現在、中華民国海軍は最近に納入された12機の「P-3C」哨戒機(MPA)と24機程度の「S-70C(M)-1/2 "サンダーホーク"」及びヒューズ「500MD/ASW "ディフェンダー"」対潜ヘリコプターを運用しており、これらの航空アセットは、「康定」級、「濟陽」級(旧「ノックス」級)と(「オリバー・ハザード・ペリー」級がベースの)「成功」級から成るフリゲート艦隊と共に、急速に近代化と拡大しつつある中国海軍潜水艦部隊に対抗する任務を負っています。
中国の潜水艦による脅威は年々増大しており、(最新型の)攻撃型及び弾道ミサイル潜水艦が台湾周辺における海域への展開が次第に増えていいます。
確かに多くの人は台湾への直接的な侵攻を最大の脅威とみなしていますが、空軍と海軍による封鎖は台湾を外界から遮断し、中国兵が本島に上陸せずとも台湾政府に将来の国家地位に関する北京の要求を受け入れるよう圧力をかける可能性は高いでしょう。
その結果として、中華民国は長期にわたる海軍への投資を行っています:8隻の国産潜水艦の建造に加え、今後の10年で老朽化した(1971年に1番艦がアメリカ海軍に就役した)「成功」級フリゲートを置き換える新型の対潜・防空フリゲートを建造する予定です。
興味深いことに、予算不足と台湾の実際の防衛上の需要に合致しているか否かをめぐる(台湾に非対称戦能力への投資を迫っている)アメリカとの意見の不一致が原因で、11.5億ドル(約1,730億円)で12機の「MH-60R」対潜ヘリコプターを購入する計画は2022年5月にキャンセルされました。[5] [6]
したがって、最終的に約7.1億ドルの費用をかけて4機の「シーガーディアン」無人偵察機を調達することが台湾の防衛上の需要に沿ったものであるかどうかについて言及されることなくアメリカに承認されたことには、確かに好奇心をそそらされます。
いずれにせよ、「シーガーディアン」の高度なセンサーシステムと40時間以上を誇る滞空時間が台湾の洋上監視とASW能力を強化することは間違いありません。
中国海軍潜水艦部隊の脅威は、台湾に本島から遠く離れた海域で行動できる適切なASW戦力の獲得に大きなリソースを向けることを余儀なくさせています。
先述のとおり、2022年5月に「MH-60R」12機の調達がキャンセルされたものの、「シーガーディアン」4機に関する取引は前進する見通しです。
当然ながら、この新しい戦力には法外と呼べるほどのコストを要することになりますが、私たちが実際にその価値があるのか否かを決して知ることがないことを願うばかりです(注:中国の侵攻で価値が試されることがないように祈るということ)。
[1] Taiwan to buy 18 more HIMARS from US amid Ukrainian wins https://www.taiwannews.com.tw/en/news/4643514
[2] Taiwan Unveils Two-Phase Anti-Ship Missile Deployment Plan https://www.thedefensepost.com/2022/04/22/taiwan-anti-ship-missile-deployment-plan/
[3] Taiwan Signs $555M Deal With US to Buy Four Sea Guardian Drones https://www.thedefensepost.com/2022/09/08/taiwan-deal-sea-guardian-drones/
[4] ASW At A Premium: Greece Purchases MQ-9B SeaGuardian UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2022/08/asw-at-premium-greece-purchases-mq-9b.html
[5] MH-60R chopper purchase likely to be canceled due to price https://focustaiwan.tw/politics/202205050009
[6] MH-60R反潛直升機太貴採購喊停!海軍尋找替代方案 https://www.nownews.com/news/5846978
※ 当記事は、2022年10月11日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した