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2023年5月17日水曜日

中国海軍の新たな宿敵:台湾が「MQ-9B "シーガーディアン"」導入へ


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 一般的に「台湾」と呼称される中華民国は、研究開発と生産能力を保護するために国内の兵器産業へ数十億ドル規模の投資を続けています。

 台湾はすでに大概の兵器システムの設計と生産を自前で行っているか、あるいはそのような能力を確立する方向に順調に進んでいるものの、この国は最大の武器・兵器供給国であるアメリカから依然として定期的に調達をしていることは言うまでもないでしょう。

 最近にアメリカから調達した兵器には、108台の「M1A2T」戦車、29台の「M142 "HIMARS"」高機動ロケット砲システム 、84台の「ATACMS」 戦術地対地ミサイルシステムと864発のミサイル、そして「ハープーン」沿岸防衛システムなどが含まれています(後者の2つは、台湾で設計された同等のシステムと一緒に運用される予定です)。[1] [2]

 2022年8月下旬に、台湾は4機の「MQ-9B "シーガーディアン"」を5億5500万ドル(約834億円)という驚異的な費用で調達する別の契約をアメリカと結びました。[3]

 導入に要する総コストは最終的に約7億ドル(約1052億円)となる見込みであり、機体分を除いたコストは台湾で必要なインフラの整備や「MQ-9B」用の地上管制ステーションを収容する施設の新設、支援機材や訓練に費やされます。[3]

 台湾による「MQ-9B "シーガーディアン"」の購入は、ギリシャが同様に4億ドル(約600億円)という巨額の費用をかけて3機を購入した僅か2か月後のことでした。[4]
 
 台湾は現時点で独自の中高度長時間滞空(MALE)型 UAV計画も進めており、その最新版である「騰雲二型(クラウドライダー2)」は2019年に公開され、当記事が執筆されている2022年10月現在は運用デビュー前の試験が実施されています。

 「クラウドライダー2」と「MQ-9B "シーガーディアン"」のレイアウトは似ていますが、完全に別のクラスの機体です。前者は「MQ-9B "リーパー"」無人戦闘航空機(UCAV)に相当するものですが、後者は「リーパー」をヨーロッパのNATO諸国の要求に合うように設計された「MQ-9B "スカイガーディアン"」の洋上監視/対潜水艦戦(ASW)型なのです。

 もともと(最終的に「ノースロップ・グラマン」社の「RQ-4N/MQ-4C」が選ばれた)アメリカ海軍の広域海洋監視(BAMS)計画ために売り込んだコンセプトから誕生した「シーガーディアン」最大のセールスポイントは、艦艇を含む水上目標や潜望鏡を探知可能な合成開口レーダーと対潜戦(ASW)用のソノブイ・ポッドを搭載できることにあります。

 「シーガーディアン」の将来的な改良としては対潜魚雷や自衛用の「AIM-9 "サイドワインダー"」空対空ミサイル(AAM)の搭載及び運用能力の付与を含む将来的な改良のみならず、今では空母や強襲揚陸艦から運用するために翼を折りたたたみ式にしたタイプさえも検討されています。

国家中山科学研究院(NCSIST)の「騰雲二型(クラウドライダー2)」無人(戦闘)航空機

 現在、中華民国海軍は最近に納入された12機の「P-3C」哨戒機(MPA)と24機程度の「S-70C(M)-1/2 "サンダーホーク"」及びヒューズ「500MD/ASW "ディフェンダー"」対潜ヘリコプターを運用しており、これらの航空アセットは、「康定」級「濟陽」級(旧「ノックス」級)と(「オリバー・ハザード・ペリー」級がベースの)「成功」級から成るフリゲート艦隊と共に、急速に近代化と拡大しつつある中国海軍潜水艦部隊に対抗する任務を負っています。

 中国の潜水艦による脅威は年々増大しており、(最新型の)攻撃型及び弾道ミサイル潜水艦が台湾周辺における海域への展開が次第に増えていいます。
 
 確かに多くの人は台湾への直接的な侵攻を最大の脅威とみなしていますが、空軍と海軍による封鎖は台湾を外界から遮断し、中国兵が本島に上陸せずとも台湾政府に将来の国家地位に関する北京の要求を受け入れるよう圧力をかける可能性は高いでしょう。

 その結果として、中華民国は長期にわたる海軍への投資を行っています:8隻の国産潜水艦の建造に加え、今後の10年で老朽化した(1971年に1番艦がアメリカ海軍に就役した)「成功」級フリゲートを置き換える新型の対潜・防空フリゲートを建造する予定です。

 興味深いことに、予算不足と台湾の実際の防衛上の需要に合致しているか否かをめぐる(台湾に非対称戦能力への投資を迫っている)アメリカとの意見の不一致が原因で、11.5億ドル(約1,730億円)で12機の「MH-60R」対潜ヘリコプターを購入する計画は2022年5月にキャンセルされました。[5] [6]

 したがって、最終的に約7.1億ドルの費用をかけて4機の「シーガーディアン」無人偵察機を調達することが台湾の防衛上の需要に沿ったものであるかどうかについて言及されることなくアメリカに承認されたことには、確かに好奇心をそそらされます。

 いずれにせよ、「シーガーディアン」の高度なセンサーシステムと40時間以上を誇る滞空時間が台湾の洋上監視とASW能力を強化することは間違いありません。



 中国海軍潜水艦部隊の脅威は、台湾に本島から遠く離れた海域で行動できる適切なASW戦力の獲得に大きなリソースを向けることを余儀なくさせています。

 先述のとおり、2022年5月に「MH-60R」12機の調達がキャンセルされたものの、「シーガーディアン」4機に関する取引は前進する見通しです。

 当然ながら、この新しい戦力には法外と呼べるほどのコストを要することになりますが、私たちが実際にその価値があるのか否かを決して知ることがないことを願うばかりです(注:中国の侵攻で価値が試されることがないように祈るということ)。

[1] Taiwan to buy 18 more HIMARS from US amid Ukrainian wins https://www.taiwannews.com.tw/en/news/4643514
[2] Taiwan Unveils Two-Phase Anti-Ship Missile Deployment Plan https://www.thedefensepost.com/2022/04/22/taiwan-anti-ship-missile-deployment-plan/
[3] Taiwan Signs $555M Deal With US to Buy Four Sea Guardian Drones https://www.thedefensepost.com/2022/09/08/taiwan-deal-sea-guardian-drones/
[4] ASW At A Premium: Greece Purchases MQ-9B SeaGuardian UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2022/08/asw-at-premium-greece-purchases-mq-9b.html
[5] MH-60R chopper purchase likely to be canceled due to price https://focustaiwan.tw/politics/202205050009
[6] MH-60R反潛直升機太貴採購喊停!海軍尋找替代方案 https://www.nownews.com/news/5846978

※  当記事は、2022年10月11日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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2022年12月11日日曜日

プレミア価格の対潜哨戒機:ギリシャが「MQ-9B "シーガーディアン"」UAVを調達する


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 政府が引き起こした債務危機のために長年にわたって装備の新規調達を延期せざるを得なかったギリシャ空軍は、ここ近年で相次ぐ新たな装備の導入という恩恵を受けています。

 2018年、「ロッキード・マーティン」社はギリシャが運用している84機の「F-16C/D(ブロック52+)」を最新の「F-16V(ブロック70/72) "バイパー"」規格にアップグレードする契約を結び、その2年後には、ギリシャ政府によるフランスから18機の「ダッソー」製「ラファール」戦闘機を「SCALP」巡航ミサイルと「AM39 "エグゾゼ"」対艦ミサイルから成る高度な兵装パッケージとセットした発注が続きました(2021年にさらに6機が発注)。[1]

 そして2022年6月、ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は政府が2020年代後半に納入予定となっている「F-35」20機の購入要請をアメリカに打診したことを公表するまでに至りました。[2]

 ギリシャ空軍の復活はそれらだけにとどまらず、10機の「M-346」新型ジェット練習機の調達や、28機を運用中の「AH-64A/D」攻撃ヘリコプターを射程25kmの「スパイク-NLOS」対戦車ミサイル(ATGM)を発射できるように改修することも現在進められています。[3] 

 さらに、ギリシャはイスラエルの防衛企業「IAI」から(2020年代半ばのリース期間終了後に購入するオプション付きで)「ヘロンTP」無人航空機(UAV)の海上監視型を4機リースし、念願の中高度長時間滞空(MALE)型UAVの獲得を目指していました 。ところが、その後の2022年7月上旬に、ギリシャがアメリカから洋上監視に特化された「MQ-9B "シーガーディアン"」3機を4億ドル(約547億円)という驚異的な価格で調達することが発表されたのでした。[4][5]

 こうした新兵器の導入案は、近年エーゲ海におけるギリシャの島々の非軍事化を要求している隣国:トルコとの緊張が高まる中で、ギリシャ軍の能力をさらに増強することを目的とした大規模な調達計画の一部です。[6] 

 「シーガーディアン」はギリシャ軍に斬新な戦力をもたらすことになりますが、その価格は機体に付随する高度なレーダーやセンサーシステムを考慮しても法外なものと言わざるを得ません。価格の急騰が実際に搭載されているセンサー群に原因があることを示す証拠として、2015年にオランダが「MQ-9(ブロック5)」を3億3900万ドル(約464億円)で発注したことが挙げられます。[7]

 オランダへの売却案には無人戦闘航空機(UCAV)4機、地上管制ステーション4基、エンジン6基、「ゼネラルアトミクス」社製の海上広域捜索機能を備えた「リンクス」合成開口レーダー、照準システムなどが含まれていたものの、兵装は別とされました。この契約は結果として2020年まで延期され、今度は「リンクス」合成開口レーダーなしで、それを含む場合よりも2億1600万ドル(約295億円)も安い僅か1億2300万ドル(約168億円)で締結されたのです! [7]

 さらに比較すると、イギリスは2020年7月に「MQ-9B "スカイガーディアン"」3機と地上管制ステーション3基を総額で8200万ドル(約112億円)で調達しています。[8]


 「MQ-9B "シーガーディアン"」は定評のある「MQ-9B "リーパー"」UCAVの海上監視型で、もともと(最終的に「ノースロップ・グラマン」社の「RQ-4N/MQ-4C」が選ばれた)アメリカ海軍の広域海洋監視(BAMS)計画のために売り込んだコンセプトから生まれました。

 艦艇を含む水上目標や潜望鏡を探知可能な合成開口レーダーと対潜戦(ASW)用のソノブイ・ポッドを搭載できることが「シーガーディアン」最大のセールスポイントです。

 また、対潜魚雷や自衛用の「AIM-9 "サイドワインダー"」空対空ミサイル(AAM)の搭載及び運用能力の付与を含む将来的な改良だけにとどまらず、今では空母から運用するために翼を折りたたたみ式にしたタイプさえも検討されており、システムの将来性が拡大しつつあります。
 
「シーガーディアン」は、ギリシャが保有している「P-3B "オライオン"」洋上哨戒機や「AB-212」及び「S-70/B-6 "エジエンホーク"」対潜ヘリコプターで構成されているASW飛行隊を補完することになるでしょう。

 トルコの潜水艦の戦力が向上していることを踏まえ、ギリシャはASW用アセットの追加導入に大規模な投資を行い続けてきました。2016年にギリシャ海軍は5機の「P-3B "オライオン"」のオーバーホールと改修をする契約を結んでおり、2023年に完了する予定です。[9] 

 その3年後、海軍は旧式化した「AB-212」を更新するために7機の「MH-60R "シーホーク"」を調達する契約も交わされましたが、どうやら「MR-60R」導入の必要性が極めて高かったらしく、当初はアメリカ海軍向けであった機体がそのままギリシャに引き渡されました。[10]

ギリシャ海軍に引き渡された最初の「MH-60R」(2021年12月)

 プラットフォーム機としての洋上監視能力を披露するため、メーカーの「GA-ASI(ゼネラルアトミクス・エアロノーティカルシステムズ)」は2019年12月にギリシャのラリサ空軍基地から「MQ-9 "ガーディアン"」を用いた一連の実証飛行を終えています。[11] 

 この飛行はギリシャ空軍と沿岸警備隊によって後援されたものであり、NATO諸国の軍人や議員たちの前で披露されました。[11] 

 現状を踏まえると、これらの実証飛行で示した性能は、その驚異的な高価格を大目に見るようにギリシャに納得させるには十分なほど見応えのあるものだったようです。 


 多種多様なセンサーシステムの搭載やソノブイの運用能力を持つ「シーガーディアン」は近い将来に対潜魚雷や「サイドワインダー」AAMを搭載することが可能となりますが、UCAVではないことから地上目標に対する使用には向いていません。

 その代わり、UCAVとしての任務については「MQ-9B(ブロック5)」または(イギリスで「プロテクター」という名称が付与された)「MQ-9B "スカイガーディアン"」によって遂行されることになっています。同機は最大で18発のMBDA「ブリムストーン2」空対地ミサイル、または12発の同ミサイルと2発の「ペイブウェイ IV」GPS/INS/レーザー誘導爆弾(各230kg)を搭載可能という素晴らしい兵装のペイロードを有した機体です。

 ただし、近い将来にギリシャがこのUCAVや他機種を導入するかどうかはまだ分かっていません。

「GA-ASI」社の「MQ-9 "ガーディアン"」実証機とギリシャ空軍の「F-16C(ブロック52+)」

 3機の「MQ-9B "シーガーディアン"」の導入は、ギリシャ軍にとって新しい時代を形成する最も重要な指標の1つとなることは言うまでもありません。

 高度なセンサーシステムを用いることによって遠く離れた場所にいる敵の位置を特定したり、エーゲ海における濁った海域に潜む潜水艦の探知など、この新型機は国土の広さの割に他国よりも多くの海岸線を持つギリシャに長年欠けていた力をもたらすることになるでしょう。

 ASWという任務上、確かに「シーガーディアン」は敵からの攻撃に対して脆弱です。しかし、いかなるASW機も該当すると特徴のため、致命的な弱点ではありませんし、この機体が装備している強力なセンサー群と見事な(無人)飛行特性は多く存在するほかの選択肢よりも適していると主張することができます。

 ただし、ギリシャ軍が老朽化した装備の近代化と更新の困難に直面している現在、こうした斬新な戦力の導入が多額の代償を伴うことは否定できません(注:つまり「シーガーディアン」などの導入でほかの装備の更新などに遅れが生じるデメリットがもたらされるということ)。


[1] MBDA awarded two contracts by Greece for naval and aircraft weaponry https://www.mbda-systems.com/press-releases/mbda-awarded-two-contracts-by-greece-for-naval-and-aircraft-weaponry/
[2] Greece formally requests to buy F-35 fighter jets from US https://apnews.com/article/nato-middle-east-turkey-e984784e39df527ba58731b51092995b
[3] Σοκ στην Άγκυρα: Έρχονται και «κλειδώνουν» το Αιγαίο τα «φονικά» Ισραηλινά SPIKE NLOS - Εφιάλτης για την Τουρκία - Ανίκητη «ασπίδα» σε Έβρο και νησιά https://newpost.gr/amyna/615c7dcc8fd4386408a451f8/sok-stin-agkyra-erhontai-kai-kleidonoyn-to-aigaio-ta-fonika-israilina-spike-nlos-efialtis-gia-tin-toyrkia-anikiti-aspida-se-evro-kai-nisia
[4] Greek armed forces to get new missiles, upgrade systems https://www.ekathimerini.com/news/1169287/greek-armed-forces-to-get-new-missiles-upgrade-systems/
[5] Greece to purchase SeaGuardian MQ-9B UAV amid tensions with Turkey https://www.navyrecognition.com/index.php/naval-news/naval-news-archive/2022/july/11887-greece-to-purchase-seaguardian-mq-9b-uav-amid-tensions-with-turkey.html
[6] Stop militarising Aegean islands, Turkey’s Erdogan tells Greece https://www.aljazeera.com/news/2022/6/9/stop-demilitarising-aegean-islands-turkeys-erdogan-tells-greece
[7] General Atomics awarded $123 million Netherlands MQ-9 Reaper drone contract https://www.thedefensepost.com/2019/03/22/netherlands-general-atomics-mq-9-reaper-drone-123-million/
[8] UK signs for first three Protector UAVs https://www.janes.com/defence-news/industry-headlines/latest/uk-signs-for-first-three-protector-uavs
[9] Greece Takes Delivery of First Upgraded P-3B Orion https://dsm.forecastinternational.com/wordpress/2019/05/20/greece-takes-delivery-of-first-upgraded-p-3b-orion/
[10] First MH-60R for Greece https://www.scramble.nl/military-news/first-mh-60r-for-greece
[11] GA-ASI Concludes Successful Series of MQ-9 Demonstrations in Greece https://www.ga.com/ga-asi-concludes-successful-series-of-mq-9-demonstrations-in-greece

※  当記事は、2022年8月19日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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